「どうする? 日本の医療」

どうする? 日本の医療

2009年10月6日(火)

「たらい回し」は医師のせい?

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2次救急医療機関はここ5年で78施設減少

 需要が拡大する一方で、救急医療を担う医療機関の数は、全体としては減少しています。

 2008年の3次救急(救命救急)医療機関の数は208施設で2002年より38施設増えていますが、2次救急(入院を要する救急)医療機関は3175施設で、2002年比で78施設も減っています。

救急医療体制の整備状況
出展:厚生労働省・社会保障審議会医療保険部会 2009年7月15日資料

 2次救急医療機関の減少は、2004年の新臨床研修制度の導入をきっかけに深刻化した医師の不足・偏在(関連記事:「医師は増員すべき?」)の影響が大きいと考えられます。

意外! 救急医療が最も崩壊しているのは東京

 需給のギャップの大きさは、救急現場での滞在時間や、医療機関に受け入れの照会を行った回数にも表れています。

 「平成20年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果」を見ると、「現場に30分以上滞在した」事案は、重症以上傷病者搬送事案で1万6980人。これは、当該事案全体の4.1%に当たります。産科・周産期傷病者搬送事案では6.3%、小児傷病者搬送事案では1.8%です。また、医療機関への受け入れ照会を4回以上行った比率は、重症以上傷病者搬送事案は3.6%、産科・周産期傷病者搬送事案では4.6%、小児傷病者搬送事案では2.8%となっています。

 受け入れ照会数のデータを見て驚くのは、その地域差です。照会数が突出して多いのは何と東京都で、照会数が4回以上の事案は3999件(搬送数全体の9.4%)に上ります。ちなみに2位以下は、埼玉県(1796件:同8.7%)、神奈川県(1082件:同4.1%)、千葉県(1024件:同6.2%)と続き、首都圏1都3県がトップ4を占めています。また、照会回数が21回以上の事案は全国で77件あったのですが、そのうち56件は東京都です。

 首都圏で救急医療が危機に直面しているのはなぜでしょうか? 「地方に比べれば都市部は救急病院が多く、断りやすい」「都市部の方が、軽症でも安易に救急車を使う人が多い」など様々な理由が語られますが、大きな原因の1つは、人口当たりの医師数と病床数にあると考えられます。

 2006年の「医師・歯科医師・薬剤師調査」を見ると、人口10万人当たりの医師数は、東京は全都道府県中で3位(265.5人)でかなり多いものの、神奈川県は41位(172.1人)、千葉県は45位(153.5人)で、埼玉県に至っては最下位(135.5人)です。ちなみに、都市別に見た場合も、さいたま市が145.2人で横浜市が170.2人。全国平均の206.3人に比べると、かなり少ないのです。

 また、人口10万人当たりの一般病床数を都道府県別に見た場合、最も少ないのが埼玉県で、以下、神奈川県、千葉県と続きます(2007年「医療施設(動態)調査・病院報告」)。東京は下から10番目なのですが、ワースト3の3県からの搬送例が相応の数に上り、救急患者の受け入れに支障が出ていると考えられます。

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著者プロフィール

木村 憲洋(きむら・のりひろ)

木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科で講師、日本医科大学で非常勤講師を務める。1971年生まれ。武蔵工業大学工学部機械工学科卒。国立医療・病院管理研究所病院管理専攻科・研究科修了。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程、神尾記念病院などを経て現職。


このコラムについて

どうする? 日本の医療

医療崩壊が叫ばれる昨今。これまでの日本の医療政策は、主に、厚生労働省と日本医師会の間の駆け引きが軸になっており、医療を受ける国民は、蚊帳の外に置かれてきた。「日経メディカルオンライン」と「日経ビジネスオンライン」では、医療関係者と国民が日本の医療について議論して、知識を共有できる場を提供する。

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ご意見

  • >「たらい回し」は医師のせい?という問いかけは、本来YesかNoかの2択で答えるような質問ではない。医師だけのせいかといえば否だが、だからと言って医師の責を問わなくて良いかといえばそれもまた否。2009年10月6日
  • 医療業界の実態を端的に指摘したいい記事でした。もともと問題は別のところにあるのを、マスコミがヒステリックに騒いで医療機関を悪者にしたのが一番の問題ですね。真面目な医師ほど各種報道でやる気を失っているのが現状です。きちんと背景を取材して報道する記事が一般紙では少ないように思います。2009年10月6日
  • 地方分権や非「色付き補助金」を叫ぶ首長がTVでは目立ちますが、既に分権されているジャンルや(名目使用目的はあるが)使用目的が限定されていない補助金の使用例を見れば、文字通り各自治体でバラバラです(私見で最悪だと思っているのは、学校図書館の書籍購入費です。文科省は書籍代として補助金を出しているつもりでも、非色付きなので複数の県でゼロ執行同然(他事業に使いきった)が実態です。)。地方公共病院も分権されて(法律上は、運営も維持も解体も自治体の自由。)います。これを「地域色」と言って良いのなら、市民病院を廃止して首長が選挙に負けたような他県からの急患を受け入れるのはいかがなものでしょうか。「たらい回し」の真犯人は旧自民党政権だと私は思います。2009年10月6日
  • 患者さんの回転を早くし、且つ常に満床にしておかない医療機関は赤字になり倒産するように厚生労働省が締め上げています。また十分な医療体制(現実にはあり得ない)が整っていないのに、救急患者を受け入れた場合に、不幸にも結果が悪ければ医療機関が億単位の賠償金を支払うように、裁判所が判決を出しています。他の救急患者さんの緊急手術をしている最中に他の患者さんの受け入れを断れば、マスコミに袋叩きにされます。そんな所で自分の健康と家庭を犠牲に働いている医師は、やはり某元総理のように常識がないのかもしれません。2009年10月6日
  • 質問の「医師」って誰?消防からのTELで受入を断った医師?それとも救急病院の勤務医全体?救急病院の院長?開業医?それとも全ての医師?曖昧な質問じゃ答えようがないよね。2009年10月6日
  • 結局、「保育所待機児童」といい「救急医療機関」といい需要の増加に自治体の対応がついていっていないのでしょう。そして、その現象がもっとも顕著に出ているのが、「東京」である戸言うことでしょう。待機児童にしても発生しているのは、大都市圏が殆ど。そして、救急医療にしても「救急指定病院がたくさんあるから、ウチが断っても何とかなるだろう」と思えるのは、田舎の病院の無いところではなく、たくさんの救急指定病院のあるところではないですか。東京はオリンピック招致に150億円も費やしたそうですが、そんなことにお金をかけるより保育所や救急病院にお金をかけるべきでは在りませんか。そして、救急車をタクシー代わりに使うような横着者は、拒否して変えるように対応し、その対応を組織として守ってやることを考えない限りこのような不届き者は増えつづけるでしょう。根絶するには役所の幹部が腹をくくって対応するしかないのです。2009年10月6日
  • この記事は、具体的なデータに基づいて、よく分かるように問題点を説明してくれている。病院のベッドと看護師の比率のルールなど、柔軟な運用が望まれる。救急の患者を受け入れた実績も、考慮して、病院によっては緩和して、インセンティブとなるようなことはできないのでしょうか?また、救急車をタクシー代わりに使う人へのペナルティも請求するなども考えられないでしょうか?2009年10月6日
  • 医療現場の実態が良くわかった。大きな社会問題になっているのに、解決策が国の政策として出てこないのは何故だろうか? 世論を大きく盛り上げ政策に結び付くように、マスコミ関係者が活躍することを望みます。2009年10月6日
  • 医師自体の問題も少しはあろうが、主原因は、医療行政の劣化に他ならないと思います。特に、現場を知らず計算だけの官僚が自分自身の利益しか考えずに、決めているのでは?2009年10月6日
  • 皆保険による、平等な治療に対する技術料の低さや戦後の自由主義(自己責任のない)による自己主義や身勝手なクレーマー、かかりつけ医もなく検診もいっさいせずに突然押し寄せる患者さん、すぐなんとかせよと迫るパワークレーマー等々現場が疲弊してしまう。2009年10月6日
  • 医療に関連する諸制度が、構造的に歪んでしまっているのではないでしょうか?厚労省を始め関連業界のしがらみの中で制度疲労の根本課題にメスが入れられていない。 おかしなしがらみから開放された「純粋な国家プロジェクト」を設置して、制度の再構築が必要なのではないでしょうか?今将に民主党政権が掲げている「ムダ」の発掘と仕組みの修正と「必要とする分野への重点支援」の観点から総合的に、深掘りした検討・研究・議論が早急に必要と思います。 (全くの門外漢ですが、一庶民の意見です)2009年10月6日
  • 医療は労働集約的サービスですが、病床が多く医療従事者が少ない日本の医療では病床当り職員数の少なさで生産性が低く、寝かせきりにしてしまうことで入院の長期化、社会的入院が増えます。病床当り職員数は公立病院で80名から120名、高い生産性を望むのであれば100床当り200名以上必要になります。1日ベッド単価は8万円でトントンになります。報酬の引き上げ、自己負担増加が必要です。文献としては下記があります。社会的入院の研究 高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか 印南一路 東洋経済新報社 20092009年10月6日
  • 日本文化が原因2009年10月6日
  • マスメディアは攻撃しやすい対象を攻撃します。匿名特定個人より医師を、民間人より公務員を、公務員より政治家を、政治家より政治全体を、といった具合に。たらい回しにされた「患者」にいかなる非があったか、「医療機関」としてどのような非があるのか、「政治」のどこに非があるのかを徹底的に検証する必要があると思います。(「行政」の不作為を批判する方が大勢いらっしゃいますが、正確には「政治」の不作為です。行政は法律と予算の裏づけのない施策は実行不可能なのですから。)2009年10月6日
  • 国の医療報酬の政策で、常にベッドを満床状態にしないと赤字になってしまうような経営状況を強いられ。 昼働いた医師が、そのまま夜間の医療に当たり(今の医療現場では、医師の「交代制」なんて不可能)。 「コンビニ患者」「診療費不払い患者」「野良妊婦」「モンスター患者」によって、限られた時間・金銭・設備・人員・体力・気力を無駄に割かれ。 「医療の限界」と「医療ミス」を混同したような「トンデモ判決」によって、正当であった医療行為が「してはいけないこと」とされ、それが医療従事者を縛り。 そんな中、病院のキャパシティを越えた患者が入ってきて、受け入れることが出来ないと、マスコミに「受け入れ拒否」と書かれ、医療事情を知らない国民に「てめえらの血は何色だ」だとか「人命より金儲けのほうが大事なんだろ」などと罵られ…。 キャパシティを越えた状態なのに無理をして受け入れ、その結果として患者が亡くなった場合「医療ミスだ」「人殺し」と罵られ、医師が逮捕されたり、多額の賠償金を請求されたり…。 これじゃ日本の医療が崩壊するのも当たり前ですね。2009年10月6日
  • ●患者を受け入れない救急など潰してしまえ!↓●実際に病院が救急を撤退する、もしくは病院自体が倒産する↓●その病院が受け入れていた、もしくは受け入れるはずだった患者が他の病院に流れ込む↓●その病院がキャパシティオーバーで受け入れ不能に↓●患者を受け入れない救急など潰して(以下延々とループ)…。……。………。10リットルまでの水しか入らないバケツには、11リットルの水は入りきれません。1リットルの水がこぼれてしまった事で、周囲の人間が「なんだこのクソバケツ!」と足蹴にしたら、バケツが凹んで、10リットル入れられたはずの物が、9リットルまでしか入らなくなりました。…っていうのが、今の日本の医療崩壊(ていうか、医療に無理解な人間による医療破壊)の現状。教訓とかそういう以前の問題。2009年10月6日

日経メディカルオンラインのアンケート結果

ご意見

  • 「医師(個人)のせい」とは思いませんが、「医師《会》のせい」とは思います。受診を希望する患者さん、入院を必要する患者さんの人数に比べて病院の数と病床数が圧倒的に足らないのが、いわゆるたらい回し問題の根源であり、救急医療を担うべき総合病院の開設に反対し続け、個人開業医の既得権益に固執しているのが医師会だからです。2009年10月6日
  • 弱者救済的観点から、医師を強者(悪者)決めつけ、適切な医師数の問題はじめ、現代医療の問題点を直視分析して報道してこなかったマスコミの責任も大きい。たらいまわしはずっとあったこと。政治とマスコミが悪い(国民の責任でもある)。2009年10月6日
  • 医療に於ける需給関係が破綻しているにも関わらず、お人好しな一部医師が「ヒューマニズム」に基づき患者を受け入れ「甘え」させてきたツケが出ている意味において、医師の責任は大きいと考える。 2009年10月6日
  • 昨今の救急医療不安は、医師のせいではなくて、報道のせいでしょう。彼らの業界は、最も自己反省しない業界ですしね。 そもそも、ある一定の割合で対応不能な救急事例は、昭和時代から存在していたのです。それをことさらに騒ぎ出した報道の「負」の影響はあまりにも大きいと思います。その最初のスイッチが、大淀にほかなりません。 報道業界は、その後も大淀と似たような報道姿勢を繰り返し、多くの医師の心を折り続けました。それが、さらに救急医療提供の能力を落としていくことにつながるわけです。 ぜひ、続編として、「昨今の救急医療不安は救急医療不安は、報道のせい? Yes No」というアンケート企画をお願いします。2009年10月6日
  • 医師個人、病院単体の問題ではないと思います。 医療システム、社会の問題だと思います。2009年10月6日

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