新型の豚インフルエンザの国内での流行がピークに近づき、肺炎を併発した高齢者らが重症化するのを防ぐ「肺炎球菌ワクチン」に注文が殺到、ほぼ品切れの状態となっている。知名度が低く、これまで医療機関が接種を呼びかけても反応は鈍かったが、新型インフルへの不安が需要をかき立てた形だ。
国立感染症研究所によると、肺炎球菌はごくありふれた細菌で、健常者が体内に取り込んでも症状は出ない。だが、インフルエンザなどで抵抗力が低下した高齢者や乳幼児の場合は、肺炎を起こしやすくなる。肺炎の原因の3割が肺炎球菌とみられる。
成人向けワクチンの国内唯一の販売元の万有製薬(東京)によると、ワクチンはすべて親会社の米製薬大手メルクから輸入。08年の国内供給量は約27万人分で、季節性インフルワクチンの推定使用量(07年度約2260万本)に比べ圧倒的に少なかった。
ところが、8月に国内で新型インフル感染者が肺炎で死亡したことが確認されると、医療機関からにわかに注文が殺到。8月の出荷は前年同月比10倍に。大阪市都島区のしゃくど循環器・内科では入荷が止まった9月以降、患者から求められても接種できない状態が続いている。赤土(しゃくど)正洋院長は「急激な需要増に対応出来ないのは分かるけれど……」と戸惑いを隠さない。
大阪大医学部の朝野和典教授(感染制御学)によると、肺炎球菌ワクチンの接種は欧米を中心に広く実施されているが、日本では行政などが必要性を丁寧に説明してこなかったため、あまり知られていなかったという。
朝野教授は「本当に必要なワクチンが常に供給される体制をつくることが重要。そうでないと同じ問題を何度も起こすことになる」と話す。
ワクチンは10月に入り一部の医療機関に再び入荷しつつあるという。(浅見和生)