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社説

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鳩山献金疑惑―捜査を待たず自ら説明を

 鳩山首相の資金管理団体の政治資金収支報告書に、故人や実際には献金していない人からの献金が記載されていた問題で、東京地検特捜部が関係者からの参考人聴取などに動き始めた。

 この問題では、東京都内の団体が7月に、鳩山氏と資金管理団体の会計実務担当者ら3人を虚偽記載など政治資金規正法違反容疑で告発している。総選挙が終わり、新政権が軌道に乗ったこの時期に、本格的な捜査に乗り出したということだろう。

 首相は6月の記者会見で、05〜08年の4年間に計192件、2177万8千円の虚偽記載があったことを認め、報告書を修正した。会計実務を任された公設秘書が、個人献金を多く集めたように見せかけるため独断で行ったとして、この秘書を解任した。

 しかし、この説明には疑問が残る。首相は個人献金の目標額などはなかったと説明している。個人献金を多く見せかけるといっても、もともと他の政治家と比べて鳩山氏の個人献金の額は突出して多く、なぜさらに多くする必要があったのか。

 寄付者の名前を記載する義務のない年間5万円以下の献金にも、同じような不正がなかったか。首相側は調査を続ける考えを示したが、3カ月以上たった今も新たな報告はない。

 首相の政治資金をめぐっては最近も、関連する政治団体が首相の母が所有する北海道室蘭市内のビルを、相場の5分の1以下と言われる月10万円の賃料で借りていたことが明らかになった。相場との差額は「寄付」にあたり、収支報告書に記載する義務があるが、首相は「適正な賃料だ」との立場を崩していない。

 鳩山家は政界でも有数の資産家である。虚偽献金の原資は本人のお金とされるが、ファミリーの資金が使われたことはなかったのか。影響力の行使を期待しての企業・団体からのヤミ献金と性格が違うのは確かだが、虚偽記載は明らかな違法行為だ。

 ファミリーの財布と政治資金が「どんぶり勘定」のようになっているとすれば、あまりにいい加減な経理処理であり、首相になるほどの政治家としては、だらしないというよりない。

 今月下旬にも始まる臨時国会では、自民党など野党の厳しい追及が予想される。新しい政治への期待を背負った新政権にとって、この問題がノドに刺さったとげであり続けるのは好ましくない。

 首相はきのう、記者団に「捜査に影響がある発言は避けなければならない」と語ったが、捜査を理由に口をつぐむのではなく、積極的に説明責任を果たすべきだ。一方、東京地検特捜部には、相手が首相であっても適正かつ公正な捜査を尽くし、国民の納得できる結論を出してもらいたい。

EU新条約―大欧州への新たなうねり

 欧州で、地域統合を深化させる新たなうねりが起きようとしている。

 欧州連合(EU)の基本ルールを定めるリスボン条約をめぐってアイルランドで2度目の国民投票が行われ、7割近くが批准に賛成した。

 昨年6月の投票では批准反対が半数を超え、条約の成立が危ぶまれていた。これで、死に体だった条約は息を吹き返した。「アイルランドと欧州にとって良い日だ」とカウエン首相が笑顔を見せたのも無理はない。

 新条約は「EUの顔」となる大統領や外相を創設するほか、全会一致を原則としてきた政策決定で多数決を拡充する。機構を強化し、意思決定の速度を上げることで、多極化が進む世界での発言力を強めようという狙いだ。

 地球温暖化や通商や農業、人権や製品の安全ルールづくりなど、EUはすでに多くの分野で世界に影響力を発揮している。それでも域内を「一つの声」にまとめる過程で加盟27カ国間の利害調整に手間取ることもあった。

 チェコとポーランドも近く批准手続きを終え、条約は発効する見込みだ。そうなれば国際社会でのEUの存在感がさらに高まるのは間違いない。欧州各国では早くも、大統領や外相の選考レースが熱を帯びてきた。

 国民投票のやり直しは、統合を前進させるための高いハードルだった。

 昨年の国民投票でアイルランドの有権者の多くをとらえたのは「欧州統合にのみ込まれて独自性が失われかねない」との主張だった。しかしその後、世界経済不況がこの国も襲い、失業率は13%近くまではね上がった。

 欧州の貧困国だったアイルランドは、EUへの経済統合をバネに高成長を遂げた。好況の時は忘れがちだったこのことを多くの人々が思い出し、EUという大樹に寄り集まるのが得策だと感じたのだろう。軍事的中立やカトリック国としての妊娠中絶禁止政策を尊重するというEUの決定も安心感を高めたに違いない。

 4年前、フランス、オランダの国民はEU憲法条約を投票で否決した。EUは葬り去られた条約の骨格を残し、改めてリスボン条約を示した。

 政治指導層の主導で進む欧州統合は、ときに草の根の人々の反発を招く。それでも粘り強く国民の合意を得る努力を重ねながら、着実に統合を進めていくのが「EU流」である。

 その先に見えているのは「大欧州」の姿だ。経済危機にあえぐアイスランドが7月にEU加盟を申し込んだ。加盟を望む国は旧ユーゴスラビアの国々やトルコなど10カ国近くに及ぶ。

 欧州統合は、民族や歴史、文化、宗教が異なる国々をまとめる壮大な取り組みだ。その行方は、将来の東アジア共同体をめぐる論議にも影響しよう。目が離せない。

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