2009年10月6日 2時30分 更新:10月6日 3時7分
米政府系住宅金融機関2社が経営危機を迎えていた08年8月下旬、日本政府が外貨準備を使って両社の支援を検討していたことが5日、関係者への取材で分かった。入札不調に終わる懸念があった2社の社債数兆円を、日本政府が買い支える計画だった。世界的な金融危機に陥る瀬戸際とはいえ、公的資金で外国の金融機関を救おうとしたことは極めて異例で、経済的に密接不可分な日米関係の特殊性を明らかにする事実といえる。
金融機関2社は、社債で調達した資金で金融機関から住宅ローンを買い取り、証券化商品に組み替えて投資家に販売しているフレディマックとファニーメイ。両社が発行した住宅ローン担保証券の残高は約6兆ドル(約540兆円)と米国の住宅ローン残高の半分を占め、世界の金融機関も広く保有していた。両社が経営破綻(はたん)すれば、日本を含めた世界の金融システムに深刻な影響を与えることは確実だった。
両社の経営危機は08年7月に表面化。米政府は7月中旬に最大4000億ドル(36兆円)規模の出資枠の設定などの救済案を発表したが、市場は沈静化しなかった。両社は9月上旬に合計で200億ドル(約1.8兆円)規模の社債借り換えを控えていたが、信用不安から社債の買い手が現れない可能性が高く、資金繰り破綻の懸念があった。
日本政府では、限られた財務省幹部が米財務省と緊密な連携をとりながら、外貨準備から数兆円を拠出して両社の社債を購入する救済策「レスキュー・オペレーション(救済作戦)」という名の計画を立案。通常は非公表の外貨準備の運用内容をあえて公表し、日本の支援姿勢を打ち出して両社の経営に対する不安をぬぐい去ることも検討した。
しかし当時の伊吹文明財務相が慎重論を主張し、9月1日の福田康夫内閣の退陣表明で政府が機能不全に陥ったため、実現しなかったという。米政府は9月7日、公的資金を投入して両社を国有化し救済したが、同月15日には米リーマン・ブラザーズが破綻し、結局、金融危機の深刻化は防げなかった。
伊吹元財務相は毎日新聞の取材に「大臣決裁の段階にはなかった。しかし、米国の経済危機が目前に迫る中、日本の外貨準備で損失が出かねない資産を購入すべきでないという当たり前の判断だ」と述べた。【斉藤望】
【ことば】外貨準備
為替介入に備えて通貨当局が保有する外貨や金。資金は国債の一種「政府短期証券」を発行して調達しているため、運用損や為替差損が出れば税金で穴埋めする必要がある。日本の外貨準備残高は8月末で1兆423億ドル(約93.5兆円)で、円高により6月末時点で20兆円規模の為替差損がある。日本の外貨準備は87年に西ドイツ(当時)を抜いて世界一になったが、06年に中国に抜かれた。