◆【NHKの偏向番組を批判する [台湾歌壇代表 蔡 焜燦] 】
李登輝元総統に代表される台湾の日本語世代の中でも、自ら「愛日家」と称して憚らないのが蔡焜燦(さい・こんさん)氏だ。司馬遼太郎氏が『台湾紀行』を執筆するにあたって台湾を案内し、司馬氏がその教養の深さに驚き「老台北」と尊称していた方だ。
子供のころ日本人として受けた教育が宝だとして、台湾と日本「二つの祖国の弥栄」を祈って上梓した『台湾人と日本精神』は名著として名高い。
現在、『台湾万葉集』を編んだ孤蓬万里こと呉建堂氏が設立した「台湾歌壇」の代表をつとめる。近々、日本李登輝友の会の台湾側カウンターである台湾李登輝之友会の会長に就任する予定だ。
去る7月15日、NHK「JAPANデビュー」問題では、台湾歌壇の有志60名とともにNHKに対して抗議と訂正を要求する書面を送達している。また、昭和史研究所の中村粲(なかむら・あきら)代表が「正論」7月号の「NHKウォッチング」でこのNHK問題を論じた際、その中に収録したのが蔡氏の「NHKの偏向番組を批判する」だ。
このたび「榕樹文化」(第27号)の巻頭言として掲載されたので本会HPにてご紹介したい。
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<巻頭言> NHKの偏向番組を批判する
蔡 焜燦 【「榕樹文化」第27号(2010年新年号)】
■台湾人の心を踏みにじった
NHKスペシャル番組「JAPANデビュー」を観て私はあまりの偏向番組報道ぶりにNHKに対する憐れみを覚えるほどだった。
NHKの背後に、台湾を併呑しようと企む独裁国家の影がはっきりと見えたからである。「台湾は紛れもなく世界一の親日国家である」。この事実は、当事者である台湾および日本の国民だけではなく、アジア諸国の人々の共通認識である。ところが番組では、その台湾が、北朝鮮や中国に比肩する「反日国家」として描かれていた。
番組に登場した台湾人年配者は、私も知る人だが、彼らは決して「反日」などではない。問題は番組の編集だ。NHKの番組制作者は、ある特定の結論を導き出すために、番組制作に都合のよい部分だけを切り貼りするなどしたことは間違いない。いずれにせよ、このような極端な偏向番組は、これまでのNHKの番組の中で最悪といってよかろう。
我々台湾人は日本語放送といえば、NHKしか観ることが出来ないのだから、その失望感は筆舌に尽くせぬものがある。つまりNHKは、日本にひとかたならない思いと憧れを持ち続ける我々台湾人の心を踏みにじり、そして傷つけたのだ。番組制作に都合のよい断片的な歴史だけを繋ぎ合せて、日本統治時代を全面否定することは偏向ではなく、むしろ捏造である。
■台湾人が称える後藤の偉業伝えず
たとえば第4代総督児玉源太郎の右腕であった民政長官の後藤新平に関する箇所には驚嘆し、そしで憤りを覚えた。医学博士でもあった後藤新平は、道路・鉄道・水道などのインフラ整備をはじめ、台湾の衛生環境と医療の改善という大事業を成し遂げた偉人である。驚くなかれ、後藤新平は、東京よりも早く台北に下水道設備を完備するなどして、それまで疫病の地として知られていた台湾から疫病を一掃したのである。そのおかげで台湾民衆は安心して暮らせるようになり、なにより台湾の経済発展の基礎が作られたのである。今日の台湾の経済発展と繁栄は、すべて日本統治時代にその基礎があることは、すべての台湾人が認識していることなのだ。否、たとえそれが日本の国益のためであったにせよ、台湾民衆はこのことで多大の恩恵を受けたわけであり、それを「侵略」とか「弾圧」といって非難する台湾人など誰一人いない。
その他にも、後藤新平は、当時台湾で蔓延していた清朝時代からの悪弊であるアヘン吸引を医師としての知識を生かして見事に消滅させている。後藤新平は、中毒や常習者にのみアヘンを販売し、自然減を図った。そして結果として人口の6%にも上ったアヘン患者を1941年には、人口の0.1%にまで激減させたのである。悪習といえども他民族の習慣を、強引な手法ではなく時間をかけて撤廃していったのである。実はこうした「生物学の原理」に基づく台湾統治を喩えたのが、「ヒラメの目を鯛に付け替えることはできない」という言葉であり、NHK番組のなかで使われているような差別的な意味合いはない。
さらに後藤新平は、同じ岩手県出身の新渡戸稲造を台湾に呼び寄せ、サトウキビの品種改良を行うなどして製糖業を殖産した。これによって台湾経済は成長してゆき、戦後も1960年代まではこの製糖産業が台湾経済を支え続けたのである。台湾人はそうした歴史の事実を忘れることはない。
だからこそ1999年5月22日には、台湾人の手によって後藤新平と新渡戸稲造の偉業を称える国際シンポジウムが台南で開催されたのである。本来、NHKはこうした事実もしっかりと伝えるべきであった。
■引揚げ日本人に何故取材しないのか
NHKはこの番組を制作するに当って、何故終戦と同時に台湾から引揚げた日本人にインタビューしなかったのか。
たしかに私が学生の頃には、台湾生まれの目本人学生から「チャンコロ」といって馬鹿にされたこともある。しかしながら戦後、そんな連中とも、いまでは「貴様と俺」の関係で仲良くしている。当時の差別が許せないほどのものであったなら、そんな付き合いなどできるはずがない。つまり、日本人から受けた差別というものは、そもそも忘却の彼方に忘れ去られた差別であって、執拗に恨み続けるようなものではないのだ。一方、台湾から引揚げた日本人は、台湾を第二の故郷と考え、往来する人が多い。それは彼らが、戦前から知り合いの台湾人と温かい交流を続けている証左であろう。NHKは、何故そうした人々の話に耳を傾けようとしないのか不思議でならない。
■NHKの背後にいるのは「誰」なのか
台湾人の日本に対する恨みは、戦前の日本および日本人に対してではない。戦後、日本は共産党独裁国家の中国と国交を結んだが、そのとき、かつて半世紀も歴史を共にした世界一の親日国家・台湾をあっさりと切り捨てたことを恨んでいるのだ。ところが、そうした台湾人の恨み節はあの番組にはまったく描かれていないではないか。
日本を代表する放送局NHKに言いたい。あなた方の政治的意図のために台湾人を利用するのは止めていただきたい。加えて、あのような見苦しい捏造・偏向番組を称賛する台湾人は誰もおりません。あのような歪な番組を観て喜ぶのは、日本を意のままに操ろうと企み、台湾を併呑しようと考える共産主義独裁国家だけでしょう。
諸君の背後にはいったい「誰」がいるのですか?