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- 状態:終了
- 回答数:128 / 130件
- 回答ポイント:3427ポイント
- 登録:2009-01-08 07:18:24
- 終了:2009-01-12 23:01:51
- カテゴリー:芸術・文化・歴史 書籍・音楽・映画
それは観察者の3次元局所座標系でZ軸マイナス方向に、1基準単位時間あたり凡そ10基準単位距離/1基準単位時間、つまり慣例的な重力加速度単位で言えば1ぐらいの加速度によって位置エネルギーを急激に運動エネルギーへ転換しながら相対的に移動している。このままではあと2基準単位も経過しないうちに原点付近を通過するだろう。
観測によればそれは観察者に近似した形態を有しており、観測者の知識範囲から判断すれば同一カテゴリに属する近縁存在なのであろうと推測できる。ただしいくつかの点で差異があり、このことは単に個体間の誤差を示すものではなく種としての構造に起因する仕様差であろうと思われた。
平たく言うと──僕めがけて女の子が「落下」してきたわけだ。
10sぐらいかけて1G加速を続けた50kgぐらいの物体を受け止められる奴なんてこの世には多分いないし、10sぐらいかけて1G加速を続けた後で60kgかそこらの物体に衝突して無事で済む奴もまた多分いない。いや10sどころの話ではない、一体女の子がいつから1G加速を続けていたのか皆目見当も付かないのだから。
そんなわけで僕は回避を試み……るべきだったのだけれど、如何せんこちらも長いこと定常加速を続けてきた後だったものだから、今更全出力を使って軌道を逸らそうとしたって衝突を免れそうにない。諦めて肢を投げ出した状態のまま前方を直視する。向こうも同じ結論に至ったのか、同じ姿勢を取っている。
偶然にも僕らの軌道は完全に一致していたらしい。ただベクトルが逆だった以外は。恒星間航行の常として極限まで光速に近いところまで加速していた僕らは要するに、光速の2倍近い相対速度で真正面から衝突したことになる。まあ絶対不変の高速度に相対速度もなにもないような気もするけど、ともあれ局所的にはそんなことになってしまったわけで。瞬間、光が生まれた。
──それでどうなったかって?
詳しい理屈はよく解らないんだけど、極度の「圧縮」で互いの空間は一度ひっくり返ってしまったらしい。光速を「越える」とそんなことがあるとか何とか聞いたことはあるような気もするけど、まさか相対速度でもそうなるとは思わなかった。
空間が反転した状態というのはなんというか、負の数みたいなもので、それがふたつ合わさったから僕らはまた正の状態に戻った……んだけど、すべての発生順序が絶妙に組み合わさっちゃった結果として、僕と彼女は結ばれた。いや文字通り、離れられなくなっちゃったんだ。
順を追って説明しよう。まず局所空間内で相対的に光速を越えてしまったことによる空間反転が発生、僕と彼女はそれぞれ空間的に裏返った。その状態で衝突したんだけど、空間が途中で裏返っているもんだから互いの運動エネルギーは前に進むベクトルと後に引っ張るベクトルが釣り合ったような状態になって、結果として慣性もなく瞬間停止してしまった。そして速度が戻ったので空間が元に戻る。
半分裏返した袋の口を突き合わせた状態で袋を戻すことを考えてみて欲しい。袋に袋がすっぽり被さるだろ?まあ袋だとどっちかの袋がどっちかの袋に被さるだけなんだけど、3次元空間そのもので生じた現象だけに問題はもっと高次のハナシになっちゃうらしい。つまり互いが互いに被さった状態で座標が一致してしまった僕らは腹が背に、背が腹に重なってしまったわけだ。ええと、抱き合った状態で体が文字通り一つになっちゃったような状態を想像して頂くと理解が早いかと思う。
そんなわけで、それ以来僕らはずっと一緒にいる。
幸いというべきかなんなのか、僕らの体は丁度下方中央より後ろあたりに接合器官が位置するもんだから、つまりその、こんな状態でもどうにかなっちゃうんだコレが。別性者が始終くっついてれば、そんな関係になっちゃうのはもう必然みたいなもので。
で状況的に他にすることもないし、避妊のしようもないから前駆体も増える。面白いことに、空間重合体である僕/彼女の前駆体は何故か全員♂/♀の組で空間重合してた。有性生殖してたつもりだったんだけど実際には無性生殖だったのか。
前駆体の群れは本能に従って展開した磁場で希薄な分子を捕食しつつ加速して散った。いつかこの子らと衝突する存在がいたら、一体空間の重合はどんな風にもつれるんだろう。
ところであの時の衝突で生じたエネルギーなんだけど、正確に言えば打ち消し合ってなくなったわけじゃなく、別の空間というか別の次元へ放出されたような形なんだそうだ。質量を考えると結構なエネルギー量だったから、ひょっとしたらどこかに別の宇宙が生じてるのかも知れない。
もし君の世界の創世神が両性の両面八肢だったりしたら、それは僕らの仕業かもしれない。まあ見る者のいない「神」の姿が伝えられる筈もないと思うけど。
いるか賞及び 200 ポイントを差し上げます。おめでとうございます。
それは通学途中、突然だった。
夜更かしが祟った寝坊で遅刻しない様、全力疾走で走り、角を曲がった僕は彼女を眼にした。
マンガのベタベタな演出にあるように食パンをくわえて走っていたりはしなかったよ。
でも、かといって、その手のモノでよくある風景で無くはなかった。
所謂「落ちモノ」って奴さ。
いきなり、その娘が空から降って来たんだ。
最初は何が起きたのか解らなかったよ。
彼女は僕が走って行こうとしていた誰も見当たらない通学路を10数メーター上から、軽やかにゆっくりと降りて来た。
不思議と違和感より別の感情が優先した。
綺麗だった。
というか、やや幼さを残した感じで可愛かった。
その後に僕は「え?でも、何で・・・」という感じで立ち尽した。
僕が見守る中、彼女は地上に向かい更に緩やかに下降していった。
ワイヤーを使った手品?
だってあんな高さへ人間はジャンプは出来ない事はおろか、ゆっくり下りてくる真似は自然にできよう筈は・・・あ、「どっきり」って奴だ!
心の中で合理的結論を自分なりに出した僕は、逆にその状況を楽しもうと、彼女の方に近づいていった。
だが、違った。
僕が見る限りでは、彼女は少なくとも肉眼で見える方法ではぶら下げられたり、下から支えられたりはしていなかった。
しかも、むしろ地面から1メーター程度の個所で浮き沈みを繰り返している。
思わず近づいてしげしげと確認を僕はした。
彼女は目を閉じていた。
寝てる?死んでる?
耳をすますと柔らかな息づかいが聞こえた。
女の子をこんなに近くでシミジミ観察したり、息づかいを聞いたりなんて経験は僕には初めてだった。
なんだろう。急に照れくさくなった。多分、顔は真っ赤になっていたに違いない。
「ふあ~」
「!」
彼女が開口一番発したあくび。
声は穏やかなトーンで、これも可愛かった。
彼女は中空に浮きながら、「う~~ん」と伸びをすると、上半身のみ縦に起こした。
僕の方を見て「おはよう」と、さわやかな笑顔で言った。
呆然とする僕をよそに、寝ぼけ眼で「・・・あれ。ここ。どこ。」と言い出す。
その後、彼女は左手首の内側を返して見た。
穏やかな感じが一変して驚愕の表情になると
「げ!こんな時間! 遅刻だ~~~!」と大声をあげた。
そういうと。
そういうと彼女は去っていった。
空へ。
凄い速度で上昇して、あっというまに見えなくなった。
それっきりだった。
世の中そんなもんさ。
カワイイ女の子とすれ違う事はたまにはあれど、
その先に進展するなんてことは更に滅多にないものさ。
その方が空から女の子が降ってくる事に比べれば、至極普通の展開さ。
そして多分、彼女と同じく、僕は遅刻した。
第一発見者は僕だった。
空は厭らしいほどに透き通った冬の青で、高校受験の勉強で憂鬱な僕はこのマンションの 7階の窓からただ何となく外を眺めていたんだ。
何か大きなものが、窓という画面に映るこの情景を、一瞬だけ遮った。
でもそのときは、起こった出来事を正視する気にはなれなかった。きっと目の錯覚だ。僕の彼女に対する想いが、僕の視界を歪ませたのだと。
10階に住む、否、住んでいた竹下洋子とは、クラスメートだった。幼なじみ、と言えるほどの仲ではなかった。異性に対する警戒心の薄い幼児の頃でさえ、一緒に遊ぶどころか、会話することも少なかった。僕が片思いに浸るようになったのは、去年の夏頃からだったろうか。水泳の授業中、プールサイドの片隅で、制服姿のまま、体育座りに長いスカートで足下を隠しつつ、その膝小僧に肘を当て、頬杖をついてうつむく彼女の白い頬に思いを馳せたのを、今でも覚えている。
パトカーのサイレンが鳴り響き、すぐ下まで来て止まった。最悪の事態を、確信せざるを得なかった。
僕はカーテンを閉め、机に向かい、過去問題集のテキストをひたすら見つめた。そうだ今は勉強しなくちゃ僕は受験生だ。シャーペンを握る手が震えている。だからこのとき have は過去分詞だからようするにええっと。体が硬直してペンがノートを走ろうとしない。
「ちょっとしんちゃん、飛び降りたのって 10階のたけ」
「やめてよ! 聞きたくない。」
突然扉を開けて話しかけてきた母さんを、机に向かったまま振り向きもせずに叫んだ。頭を抱えたまま机に両肘をついた。体の震えが止まらない。
しばらくの間があって、「…うん、ごめん」、と曖昧な返事をしながら、母さんは扉を閉めた。
何でだ。何で。何でこんなことに……。
(続きは気が向いたときに)
「いやー、こないだ急に空から女の子が降ってきてビックリしたんだよ。え?妄想だろって?いやいやこの欠けた歯ぁ見てくれよ、ぶつかった時に詰め物してたところが欠けちゃってサー飯食うときに食いモン詰まって大変なのよ、ってそういう話じゃなくて俺が空見ながらボォっと歩いてたらその女の子が急に現れてサーここが大事なんだけど急にね、パッと出てきたのよパッと。で、ドンって俺の頭に降ってきたもんだからこっちも避ける暇もなくてサー思いっきり頭だか顔だかにぶつかって驚いたのなんのって。いや怒ろうかと思ったんだよこっちも。でもサー、その女の子がかわいくってサー顔真っ赤になって『すすすすすいません大丈夫ですか!!』なんて謝ってきちゃうもんだから俺も思わずニヤニヤしていやいやいいよー大した怪我じゃないしねーなんて言っちゃったらその子がやわらかい手で俺の手をギュっと握って『ありがとうございます。ほんとすいませんでした急にぶつかってしまって。でも良かったです、あなたみたいな優しい人で。』なんて返されてますますホッテントリに舞い上がっちゃってデロンデレンとしてたら急にその子がキッと真面目な顔になって『この世界を、世界を救わなくちゃいけないんです!』って言ったかと思ったら目の前から急にパッと消えたのよいやもう驚いたのなんのって。もしかしたら今までのが全部幻覚か寝ぼけてたんじゃないかと思ってほっぺたつねったら欠けた歯がポロッと出てきたんでやっぱこれってマボロシなんかじゃないよねーとか俺はもしかして異世界の少女にあったりなんかしてたりしてとか何だかラノベっぽい展開だよねーなんて余韻に浸って今に至るわけ。そうそう、それと目の前いっぱいに広がるイチゴのパンツ。」
ある日、某県某所に女の子が降ってきた
「おいあれは何だ!」
一人の若者が声を上げた。
沢山の見物人が見守る中。
多くの若者がこぞって声を上げる
「目がー目がー」
「いや、まだ落ちてきてもないから!」
「オクレ兄さん!!」
「なんでやねん!」
「恐怖の大王だ!!」
「なっなんだってー!」
「10年前の話ですから!」
「いやいや、女の子で(むぐぅ)」
「おい!そいつを黙らせろ!」
「ばか!まだまだボケられるはずだ」
「そうだおれたちはまだまだやれるはずだ!あきらめたらそこで終了なんだ!!」
「堕ちてくるのにどんだけかかっとるんや。日が暮れてしまうで」
「もう暮れてますから!」
・・・・・
降ってくる女の子は死んだふりをしました
6 回答者:g616blackheart 2009-01-08 16:47:48 満足! 5ポイント
企画主催者の企画理由が「だって、思いついたから」とのことでしたので、こちらもこの企画を見てから最初に思いついたイメージを短時間で文章化してみることにしました。
http://d.hatena.ne.jp/g616blackheart/20090108/1231398885
作業時間は構想1分、執筆15分、校正5分ほどです。
本当に「要約」してしまうと別の話になってしまうのが難点ですが、内容の根幹に絡むのであくまでも表向きは「空から女の子が降ってくる」話ということで。
(叙述トリックであることをあらすじで明かす叙述トリックミステリはよっぽどの歴史的名作以外は、基本的に駄作ですし……という言い訳)
7 回答者:nisemono_san 2009-01-08 19:54:47 満足! 73ポイント
『空から降ってきた有名な女の子の後ろには無名の女の子達がたくさんいる』
世間一般の方々が勘違いしていることの一つに、「空から降ってくる女の子」は稀に見る現象である、ということだ。しかし、実際はそうではない。政府の出した白書によれば、空から降ってくる女の子は、少なく見積もっても年間五千人は存在しているわけで、非公式のも含めれば、年間三万人にまで膨れ上がることは間違いない。それほどまでに、「空から降ってくる女の子」はこの日本に存在している。
そしてその一部は「空から降ってきた」という付加価値において、少年とハラハラする冒険を巡ったり、あるいは主人公に恋をしたり、というわかりやすい物語の原動力となる。だが、それは辛うじて主人公の性格がありえないほど聖人君子であったり、あるいは少女の顔がありえないほどかわいかったり、などの偶然の重なりであるわけである。一例を出すならば、秋葉原に存在しているアイドル見習いの子達だって、半数は「空から降ってきた女の子」なのである。それほどまでに、この競争率は高い。僕の知り合いにも、元「空から降ってきた女の子」で、今は小さな芸能事務所をやっている女の子を知っている。
この世は、「空から降ってきた女の子」のためにも、「空から降られてきた男の子」のためにも都合よくはできていない。
さて、僕の場合も、空から女の子が降ってくることが多々ある。その場合、だいたいは住居が決まらないのであり、取り合えず一般的な社会生活を営むために、住所とか住む場所は自分のところを使っていいよ、ということになる。すると、段々と増えてきて、何時の間にか六畳一間に四人ほどが同居することになってしまい、もう寝るところもないので、大きな部屋に住む必要があるかなあ、とか愚痴っていると「最近、メイド喫茶で働き出したから家賃を少し振り込んでもいいよ」ということになったりする。でも正直引越しは面倒くさいな、と思う。
正直なところ、もう女の子は空から降ってほしくはないな、と思う。でも意外にこういうときに限って女の子というのは空から降ってくる。目の前には五人目の女の子。不安そうな目で僕を上目遣いに見ている。
やぱり引越ししなきゃいけないのかなぁ。
「空から女の子が降ってくる」という前提を最初に否定した点を評価します。
8 回答者:tokoroten999 2009-01-08 20:46:09 満足! 64ポイント
長いお別れ
H2Aが空から降ってきて、2週間が経つ。
寒い冬の季節だった。
僕が肉体労働のバイトを終えて家に帰ると、H2Aはテレビの前のこたつからダッシュで僕のところにやってきた。
「おかえりー」
H2Aは僕がスーパーで買った半額のり弁当を手に取ると、来たのと同じスピードでテレビの前のこたつへと帰ってゆく。
H2Aはのり弁当を嬉々として食べ始めた。
僕はH2Aの横に座り、同じく半額弁当を食べ始める。
国産ロケットであるH2A6号機の打ち上げが失敗したのは二週間前。固体ロケットブースタの分離がうまくできなかったのだ。ロケットの大部分は太平洋上に落下したが、メイン制御システムだけは懸命な捜索にもかかわらず発見されていなかった。
その『H2Aメイン制御システム』が目の前にいる水色のワンピースを着ているおさげの女の子だ。背中にはデジタル数字ディスプレイを背負っており、そこには『6』という数字が表示されていた。
H2Aは僕の家に来てから死ぬほど自堕落な生活を送っていた。一日中こたつに入ってワイドショーやアニメの再放送を見て、僕が帰ってくると一緒にスーパーの半額弁当を食べる。たまに僕のパソコンを立ち上げネットを巡回し、H2Aロケットの打ち上げ失敗を批判している掲示板に反論を書きこんだりしていた。
「ごちそうさま」
H2Aはのり弁当を食べ終えた。食べ終えるとテレビのクイズ番組やドラマに集中する。それがいつものH2Aの行動パターンだ。
だが、今日はいつもと違った。
H2Aは僕をじっと見つめている。
そして、H2Aは口を開いた。
「私って、お前にとって迷惑か?」
「迷惑じゃないよ」
「そうか」
H2Aは言った。
「じゃあ、私がいなくなったら、寂しいか?」
H2Aが真剣な面持ちで僕を見ている。
僕は箸をテーブルに置いて、言った。
「寂しいよ」
僕は答えた。
「でもH2Aがこのまま、失敗作だってみんなに思われているほうがもっと寂しいし、悲しい」
「……そうか」
次の日、僕とH2Aは電車とバスを乗り継ぎ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究所へと向かった。
電車に乗っているとき、H2Aが僕の手をぎゅっと握ってきた。H2Aの手は温かかった。暖房が効きすぎの車内は暑くて手が汗ばんでしまったけれど、僕もH2Aも手を離さなかった。
山中にあるJAXAの研究所の建物が遠くに見える位置まで辿りついた時には、夕方になっていた。
H2Aは僕から手を離した。
「ここでお別れだ」
僕は黙って背中を向けた。もちろん、泣き顔を見られたくなかったせいだ。なにか気の効いたことを言ってあげたかったけれど、胸が詰まって、うまく声がでなかった。
「……私はキカイだからな。キカイは寂しがったり泣いたりしないのだ。そうなのだ」
H2Aはそう言った。
「10進数で100数えるまで振り向くんじゃないぞ」
いーち、にーい、さーん、というH2Aの声が段々遠ざかっていく。
H2Aの声は100を待たずに聞こえなくなった。
H2Aの声が聞こえなくなっても、しばらくの間、僕はその場にいた。
あれから5年。
H2Aロケットの打ち上げは紆余曲折をへて14回を数える。今度、15回目の打ち上げが行われる。H2Aが背負っていたデジタル数字ディスプレイも今では二桁表示になっているだろう。
目を閉じると、今でも半額弁当を食べているH2Aの姿が目に浮かぶ。時折、無性にH2Aに会いたくなるときがある。あの時のように、空からH2Aが降ってこないかと思うときがある。
でも、あの日のH2Aとの別れは『長いお別れ』だったのだ。
この先、空からH2Aが空から降ってくることはないし、僕がH2Aと会うことも二度とない。
あの別れは、そういう別れだったのだ。
ついカッとなって勢い書いた文字数を気にしない勇気。
竜巻と海砂利
「博士、これは酷いですね」と助手が荒野を指しながら言った。
「うむ、ダムも高速道路も滅茶苦茶に破壊されているな」と博士は腕組みをしながら頷いた。
「これほどの被害が出る竜巻って……。いったい地球はどうなってしまったのでしょう?」
時は2009年1月12日、地球規模の環境破壊が進み世界各地で異常気象が発生していた。ここ瀬戸内海沿岸地方では連日のように竜巻が発生し、都市も農村も無惨な有様と成り果てていた。
「確かに、これは並外れた竜巻の仕業だ。だが、もう一つ要因がある」
「どういうことでしょう?」
「海砂利だよ。この辺りでは前世紀の高度経済成長期にコンクリートの骨材として塩分を多く含む海砂利を多用したのだ。それから半世紀を経てコンクリートが劣化したところに運悪く竜巻が襲ったのだ」
博士はしゃがみ込んでコンクリートの破片を手に取った。
「見なさい、小魚の骨が入っている」
「あ、ほんとうですね。これは何ですか?」
「イカナゴだよ。イカナゴは海の砂の中で眠る習性があるんだ。それが採取されて何十年もの間ダムの擁壁に塗り込められていたのだ」
「ああ……」と助手は溜息を漏らした。「小さな魚たちの怨念が結集して巨大な竜巻になったということですか。自然を軽視した人類は今その罰を受けているのですね」
二人が人類の暗い末路を想いつつ無言で佇んでいると、俄に空が昏くなり細かな砂のようなものが降ってきた。それは先ほど竜巻に巻き上げられたコンクリート構造物のなれの果ての姿だった。その中にはイカナゴの骨も幾分か含まれていたに違いない。
「ところで君、イカナゴがコウナゴとも呼ばれることを知っているかね?」と博士は助手に声を掛けた。何でもいいから話しかけて沈黙を破りたい気分だったのだろう。
「ええ知っていますよ」と助手は答える。「確か、漢字で『小さな女の子』と書くのですよね」
その間も空からは小女子がしんしんと降り続いている。もはや、焼き殺しておいしくいただいちゃうことのできない小女子が。
地面に、ぽっかりと穴が空いていた。
人間がつぶれたカエルの姿勢で壁に激突すると空きがちな形。そういった手合いの穴がアスファルトに白く書かれた「止まれ」の止の字を撃ち抜いていた。広がった五本の指まできっちり抜かれている。
穴の形状を眺めると、おさげが頭の両脇に一本ずつ飛び出ていた。自分と比べると穴は一回り小柄で、腰は細く足は華奢だ。状況証拠が示したがっている事実は分からないでもない。
穴のエッジは綺麗に立っている。雑煮のニンジンみたいだ。
「おーい、聞こえるかー」
真っ暗な底に向けて俺は呼びかけた。ワンワンと響くだけで、こだまは返らない。彼女が吸音素材でできているのでもなければ、きっと音速以上で落ち続けているのだろう。
地球の直径は1万3千キロメートル弱。
100時間もあれば反対側に抜けるだろうか。
「そんな馬鹿なこと」
あるわけないだろう、と鼻をすすりながら、それこそアスファルトみたいな色の夜空をなんとなく仰いだ。真上に浮かぶ月に向かって、足下からもの凄い勢いで何かが打ち上げられていった。
空から女の子は降ってこない。
どれほど僕が強く願ったところでただの一人として満足に降ってこない。願い方が悪いのだろうか。けれどなんとかして降ってきてもらわないと困る。昼夜問わず僕らは召還の儀式を行い続けた。村の男たちは乾いていたから、多少のことではへこたれなかった。僕だってそうだ。岩戸に隠れた神さまを賑やかして誘き出そうとするように、連日祭りが続いていた。そのうち一人、また一人と倒れていき、賑やかだった祭りも段々と静かになっていった。年老いた男から倒れていったし、若すぎる男も次いで倒れていった。盛りの男たちは屍に目もくれずに踊り続けていた。僕らは汗も出ないほど乾いていた。気が狂ってしまいそうだった。もう気が狂っていたのかもしれない。そうだ僕らは狂っていた。そのうち幻影が見え始めてきた。それが生き残った男たちを食らう罠だった。幻は女の姿をしていた。その女たちは空から降ってくるのではなく、土から出来上がった連中だった。どろどろと湿ったその姿は僕たちを魅了した。盛っていた男たちが一人、また一人と陥落していった。賑やかしはすっかりそうとは呼べないものになっていたけれど、そんなことを気にする人物はもはやどこにもいなかった。湿った汚泥とまぐわっているつもりの男たちはじきにそれが乾いてかさついていることに気づいたが、その頃にはもう遅かった。わき目も振らず踊り続けるものたちは残りわずかだった。女が尽きたとき、祖先は火をたきその周りで踊り、そうして女の補充をしたという。伝承は嘘だったのだろうか。乾ききった僕たちは倒れる寸前、空から降ってくるものがあることに気づいた。雨ではなかった。せめて水なら喉も潤っただろうに。大気圏で燃え尽きた女たちの残骸が、消し炭として空から墜ちてきていたということに、僕らは死ぬまで気づかない。
14 回答者:mind_of_siva 2009-01-08 23:02:16 満足! 6ポイント
それは前触れもなく突然やって来たモノではなかった。
雷雲と共に落ちてきた白い者達は、未だ暖かいアスファルトに音もなく
重ねゆく間もなく消えて行く。
ランドセルの中のエネルギゲインは十分だが、モニタに映る景色は体の芯からの寒さを覚えさせる。
お気楽な司令室の豚共は早めの休暇で、今頃、暖かい暖炉の前で丸々と太ったトリ達を切り裂いているだろう。
んな事は今はどうでもいい!
なんとしても今を生き伸びないと、来年に待っているオレのソレを味わう事が出来ない!!
残り数機と言われていた濃緑の巨兵たちだったが、今、母艦から送られて来るレーダに映る敵機の数は・・・
こんなに居るとは聞いていない!
外人部隊がやる事なんて、未開の前線か、長くて地味な敗残兵の掃討くらい。
二つを選ぶなら、後者の方が圧倒的に楽だというから、クリスマスを跨ぐこの作戦に参加したのに・・・
っつ!!!?、来たか!
敵もある程度は用意していた様だ。
苦し紛れの攻撃とはいえ、これだけ数が居ると洒落にならない。
ルビコンやらコンペイトウやら、宇宙(そら)ではだいぶ優勢らしいが、今はただ目の前の戦場にに身を投じるだけだ!!!
つい、勢いで書いた。
誰かがやるならおれがやってしまった。
15 回答者:sudenitukawareteimasu 2009-01-08 23:09:09 満足! 15ポイント
カーテンを開けると雲が空一面を覆っている。
僕はTVをつけて天気予報を見ることにした。
「千葉県北西部地方の今日のお天気です。」
「今日は終日どんよりとした曇り空となるでしょう。」
「すでに一部の地域では女の子が降り始めています、外出の際にはパンを咥えてお出かけください。」
「今日は女の子かぁ・・・」
僕は念のためいつもより10分遅く家を出ることにした。
奇遇ですね、と声をかけると
彼女はあ、というような顔をして
「私ずっと一人だと思っていたんです、だって」
と声を張り上げてきた。
もっと静かな場所なら、と考えたけど、よく考えれば時間は腐るほどある。
もしかしたら次の瞬間に死ぬのかもしれないけど、そんなことは今までの日常でも同じことだ。
僕はゆっくりと体勢を整えると彼女に近づけるよう両手を羽根のように広げた。
それからの数日間は実に充実していた。
食事はたまに降ってくる?/落ちてくる?もので事足りたけど、
僕も彼女もいい加減寒さに耐え切れなかった。
付き合い始めの高校生のように抱き合い暖をとると、自然に話ははずんだ。
身の上話から、僕たちがこうして落ちていることへの考察、
語りだせばきりがなかったし、目を閉じれば次の瞬間地面にたたきつけられるかと思うと
ろくな睡眠は取れなかったから。
「どうせ落ちるなら、誰もいない山奥か海の上に落ちないと。誰かを巻き添えにしてしまうかも」
正直僕はこんな自分の境遇にいい加減腹が立っていたから派手に繁華街にでも落ちて大勢を道連れにしてやりたい気分だったが、
そんなことを言えば彼女は不機嫌になるだろうし黙っていた。
彼女はそんな僕の心を見透かしたように
「ダメだよ、もし危なくなったらあなたを蹴り飛ばしてでも離れるんだから」
「もしそうなったら、僕は君を精一杯上に放り投げる。そうすれば、もしかしたら」
彼女はゆっくりと微笑むと涙目の僕をありがとう、と言いながら抱きしめてくれた。
その日は久しぶりにゆっくりと眠れたような気がする。
空から降ってくる女の子を拾った思い出は、子供なら誰にでもあると思う。
子供の頃住んでいた家の近くには、夏になると空から降ってくる女の子を一杯見つけられる場所があって、同じ年頃の近所の子供たちと競争で拾ったものだ。
拾い集めること自体が楽しかったから、拾ってもどうするということはなくて、すぐに捨ててしまっていたけれど。
小学校で、空きビンの「タイムカプセル」に「宝物」を入れて埋める遊びが流行った。
まず、上野の科学博物館で買ってもらった三葉虫の化石を入れた。あの頃はこれが一番の宝物だった。コスモスの当たりを引いて手に入れたミニチュアのモデルガン。
外国のコインを入れると財宝のように思えた。いきおいでギザ10も入れたかもしれない。シールやカードも何か入れたはずだ。そして一緒に空から降ってくる女の子も入れた。
21世紀になったら掘り起こすはずだったっけ。
その「タイムカプセル」は、すぐに掘り返してしまったけれど、空から降ってくる女の子がどうなったかについての記憶は無い。
大人になってからは、空から降ってくる女の子を探すこともなかったのだけれど、たまに通りがかかる道沿いのアパートに、空から降ってくる女の子が引っかかっているのに気づいた。
雨どいを壁に留める金具、あれに引っ掛かっていたようなのだが、そこは雨や風の死角になっているのか、ずっと落ちずにいる。
通りがかるたび、空から降ってくる女の子が引っ掛かっているその場所が気になっていたのだけれど、今年に入ってから見てみると、空から降ってくる女の子は、もう見あたらなかった。
空から降ってくる女の子が引っ掛かっているのに気付いて、誰かがおろしたのかもしれないけれど、ずっと誰の気にも留められずにいたのだから、ふとした拍子で自然に落ちて、風でまた空に飛ばされていったのかもしれない。
18 回答者:assad_babyl 2009-01-08 23:57:27 満足! 7ポイント
文化祭直前。校舎の中庭側の一面で、外側から垂れ幕に手を加えていた。
美術部の活動の一環で作成したものの一つだが、実際に下げてみてから不満を覚えた先輩が「今すぐに修正したい」と言い出したのが原因だ。
本当なら、垂れ幕を回収してから修正作業に入らなければいけないのだが、「今すぐ」というのは比喩でも何でもないらしく、さらに言えば部内での先輩の発言力は絶大だった。
そんなこんなで、現状の危険行為が教師陣に見つからないよう、俺が見張っている最中に、その先輩がどこにいるかと言えば。
「上見るなよ」
「分かってますよ。というかだったら何で俺が下なんですか」
「じゃあお前に出来るんかよ」
「スミマセン。無理です」
技術力の差は理解しております、ハイ。…あれ?元々は先輩がワガママ言ったことが発端なのに、何で俺が謝ってるの?
学生生活の理不尽はなるべく意識しないように、俺は周囲に注意を払った。教師の姿はなし。ちらほら見える生徒も、こちらを気にしている様子はない。
それでも油断は出来ないため、一刻も早く終わらせて下さいと先輩に進言し続けた。口を開くとコワイので念波で。
そうでなくても、縁から乗り出した俺が、屋上の手すりを滑車にして先輩を持ち上げている現状は怪しい。怪しすぎる。そもそも先輩はこの縄をどこから調達してきたのだろう?謎だ。
「あっ…」
「何ですか?手でも滑らせ…」
縄のあそびが急に緩んだかと思うと、頭上から降ってくるものがあった。絵の具、筆、どう見ても画材だ!先輩との約束を破って見上げた頭上には、一面の青を背景に、急激に近付く背中があった。この瞬間、今年一番血の気が引いたことは間違いない。
奇跡的にその尻、もとい背中を受け止めることと、一瞬後に手すりと壁を掴むことを同時にこなせた自分を褒めてやりたい。しかし問題はそこからも山積みだった。堪えろ手すり、堪えろ俺の腕、堪えろ俺の全身の筋肉!衝撃で息が詰まり、呼吸も満足に操れなかった。
「ごめーん。手じゃなくて足滑らしちゃった」
「…いいから!可愛らしく照れてみせるのはいいから、早く!飛行石使え!」
「リテ・ラストバタリオン、何だっけ?」
「あー!あー!!」
「分かってる分かってるって。いや、もうちょっと、んー、届かん」
手すりに手を伸ばそうとするたびに、空振りした先輩の背が俺の胸に戻ってくる。先輩の肩までのクセっ毛が、俺の眼前の空気をかき回す。何だこの酸っぱい体勢。
「だから、もっと、しっかり、巻きましょう、って!」
「だって、お腹苦しいの嫌じゃん。何?私重い?」
「違う違う違う違います!あえて言うなら、その、柔らかくてマズイ…」
「…え?何々?今の何?」
にんまりと底意地の悪い笑みを浮かべながら、横目に覗いてくる。
神様。女性に対して、こんなにも暴力的な衝動に駆られたことは未だかつてありません。
堪えられないと主張する俺の胸で、先輩は含み笑いを始めた。何を言っても耳を貸そうとしない。
文化系の肉体が分解しそうな痛みを主張しだしてきた頃に、先輩のその小さな頭の向こうに何か見えた。目をこらした俺は、驚愕に目を見開いた。
「先輩!空から女の子が!」
「はァ?」
要約すると「空から女の子が降ってくる」話になるよう、頑張りました。
19 回答者:nayusawamura 2009-01-09 00:00:02 満足! 39ポイント
傘を開くと、ぼんっ、と音が立った。
さっき美術館で買ったマグリット柄の傘だ。彼の絵が一面にプリントされている。普通の町歩きでは、少々、派手だが、上野の山を歩く類の人間なら、かえって粋と見てくれるだろう。
今日のラッキー・カラーは青、時により白。だからこの傘を選んだ。真っ青な空に、白い雲、その下に描かれた夜の町並みのお陰で、空の明るさが一層、目立つ。
さて、雨はまだ遠い。
雨は降りそうにないものの、あいにくの曇り空だからこそ、この世で最も大きな幸運の青にありつけず、こうして空の傘などを差しているのだ。曇りなら白の方はどうかと言うと、これまたあいにく、今日の雲は明らかにオレンジだった。どういう按配でこう言う色が出来上がるのか知らないが、得体の知れない何かに意地悪をされているのではないかとすら思う。
今日の私は、どうあってもラッキーでなくてはいけない。何か不運な出来事がこの身に起こって足止めを食わされてしまいでもしたら、せっかくの決心も揺らいでしまうだろう。
西洋美術館の角を曲がって科学博物館へ向かう道を歩く。傘を持たない方の手に抱えているのは、実はキャンバスである。専用のバッグに包んでいるが、画学生やら、日曜画家やらが多いので、そう言う姿はこの辺りでは珍しい事ではない。歩いているうちに、ぼんっ、ぼんっ、と傘に大きなものが当たる音がした。雨にしては衝撃も音も大きい。もしかして雹か? と思って、傘の外へ目を向けると、なんと、女の子だった。
赤、白、黄色、水色、紫、色とりどりの女の子が降ってくる。それもどうやら、オレンジ色をした空からだ。色とりどり、と言ったのは服の事で、ワンピースやドレス、Tシャツ、水着と言った服の種類によって、色が決まっているらしい。結構な速度で降ってくるので細かくは分からないが、みんな穏やかに笑っている気がした。
木々の植わってる部分は土ではあるが、道はアスファルトだ。そんな上空から落ちて来て痛くないのだろうか、と思ううちに、落ちてくる速度が上がった。
本当はさっさと待ち合わせの場所にまで行かなくてはいないのに、つい、私は立ち止まる。
「やぁ、本降りになってきた」
植え込みの前に建てられたダンボール・ハウスの中、古いものらしい文庫本を手にしたホームレスが言った。
ざぁざぁと女の子は降ってくる。それで地面まで落ちた女の子はどうしているのかと言うと、自然、積み重なっていっているのだった。
少しすると、ぽよん、ぽよよん、と音がしはじめた。何かと思ったら、積みあがった女の子たちが弾けて行っている音だった。重みに耐えられなくなったのだろう。下の方から弾けて行く。女の子の身体は柔らかいと良く言われるが、こんな、ぽよん、ぽよよん、などと言う音を立てて弾けるぐらいだから、なるほど、本当なのだろう。
「あんた、その脇の荷物、返した方がいいね」
さっきのホームレスが私に言った。
「返す? なんのことです?」
私が言うと、ホームレスは肩をすくめる。
「俺も昔、同じ事やろうとしたよ。だから、この有様さ。あの美術館の絵には手を出しちゃいけねェんだ」
言葉を失う。
ホームレスは困ったような笑みで、私の傘を指差す。
私は頭上を見上げる。クモの脚のように広がった骨に支えられた空の裏側がある。空の描かれた傘の裏だ。
落ちてくる女の子たちの幾つも尻が見える。水着、セーラー服、キャミソール、夜会ドレス、さまざまな色の、さまざまな尻だ。ぼんぽん音を立てて私の傘に当たっては、その青空の中へ吸い込まれていく。
ほんのちょっとの間、それに気をとられていると、私の周りに女の子の垣根が出来た。女の子を吸い取る傘を差している限り、私が生き埋めになることはないので、女の子で組み上げられた井戸の中に私が傘を差して立つような格好になっていった。
むっちりした白い脚が何本かにゅるっと伸びてきて、私が抱えていたキャンバスを奪っていった。
「あっ」
と声を出してしまった。億万長者への道が、閉ざされてしまったのである。
ただ、これで、名画泥棒にならずに済んだとも言える。
今日のラッキー・カラーは青、時々、白。
これがラッキーなのかどうか、良く分からないが、今、私の方を見て、幾つもの女の子たちが微笑んでくれているのは確かだった。
あんまりモテない半生だったから、いっそ大悪党になってやろうと決心したのだ。微笑んでくれる女の子がこんなに沢山いるなら、悪事を働く理由なんか、少しもない。
晴天と曇天の中間の様な煮え切らない空の下を歩きながら、私は目に留まった小石を蹴飛ばした。石は上手い具合に宙を舞って、茂みを越えて池に落ちる。
昔から早起きは苦手だったが、どうもここ何日かはよく眠れない夜が続いていた。日の昇りきらない内から散歩をした事などここ数年来なかった事だ。今年還暦を迎えた両親でさえまだ布団に包まっている筈だった。
遊歩道を外れ池の辺に立つと、寒さに体が軋むのを感じながら私は座り込んだ。昔からここは私が物思いにふける時の指定席だ。膝を抱え込み、ふう、と溜息をつく。
もう一月も前の事だった。古い友人と飲み明かして二日酔いに苦しみながら自宅を目指す途中、突然彼女が降ってきたのだ。
はじめ、私は隕石だか人工衛星だかが落ちたのかと思った。何しろ凄い轟音だったし、舞い上がる砂埃に苦しみながら垣間見えたそれは、ゴツゴツして岩の様なものだったからだ。
そして実際、彼女は岩だった。全体的に赤黒く、表面が凸凹で光沢を放っていたそれは、砂埃が消えると、硬直する私に向かって唐突に声をあげた。ひどくイントネーションが崩れていたのではじめは解からなかったが、確かにそれは日本語で、彼女はこう言ったのだ。
――あたしと結婚して欲しい。
意味がわからないのを通り越して、私は笑った。今思えばなんて馬鹿な事をしたのだろうと後悔するが、笑ってしまったものは仕方がない。
だってそうでしょう、と、私は空に向かって弁解する。空から降ってきた隕石の様な岩が、日本語を話し、私に求婚した。それだけでも十分すぎるほど驚愕に値する。心臓発作でも起こしておかしくないはずなのに、その上、あの言葉から推察するにあの岩は女性だった。
私はひとしきり笑った後で言ったのだ。私に同性愛の趣味は無いよ、と。あるいは、笑った事よりこちらの方がまずかったのかもしれない。その直後に赤黒かった彼女はその赤さを更に増しながら、相変わらずのイントネーションで私に怒鳴った。
――あたしは三親を振り切ってこの星の、あなたを求めて降りてきたのよ!結婚してくれなくちゃ困る!
切実に訴えている事は私にもわかった。けれどもその時には、滑稽で現実味の失せた夢としか感じられなかったのだ。
そうだ、これは夢ね。
私は人生で初めてその台詞を呟いた。これが決定的だったのか、彼女の表面は見る間に鮮烈な赤に塗り変わり、悲痛な叫びをあげ、そして爆発した。落下してきた時とは対照的に、何の音も立てずその岩は四散し、私を避ける様にして周囲に小さな破片として散らばった。
信じられない事だったが、彼女は自殺したのだ。幾許かの後、私はそれに思い至って涙を流した。彼女は明らかに命を懸けて私を求めたのだ。そしてあろう事か私はそれを真剣に受けるでも断るでもなく笑い、そしてただ逃避した。
どんなに辛かった事だろう。自殺という行為に求められるエネルギーを思うと、自分がどれだけ彼女を傷付けたのかを思い知る。
思えば、まだ彼女の名前さえ聞いていなかったのだ。私は一体いつからこんなに薄情な生物になっていたのだろう。一月経った今でも、彼女が死んだ時のあの静けさと、どういう訳か私を避けて飛び散った彼女の姿を思うと体が震えた。そしてふと気付いた。
私はもう、三十年前、自分が両親と共にこの星に降り立った時の恐怖を思い出せない。
僕はビルの窓から呆けたように外を眺めていた。仕事場で大恥をかかされた上に首になってしまったのだ。
上司を殺害して俺もしぬかぁなどと不適切な考えをめぐらせていると、突然目の前を黒い大きな影が目の前を上から下へ通り過ぎていった。
僕は反射的に窓をあけ、落下していく物体を確かめた。
落下していく物体は人間だった。
風圧に揺らめく長い黒髪。透き通る白い肌。女の子だった。
物凄い速度で落下していく彼女は、器用にも足から落ちていき、顔は天に向けその視線は少しもぶれることがなかった。
冷徹で生気を感じさせないその美しくも脆弱な視線。僕の視線は彼女の視線に完全に取り込まれてしまっていた。
一目惚れという奴なのだろうか。気がついたときには僕はもう地を蹴り窓から飛び出していった。
---------------------------------------------
あれからもう20年が経った。
20年前、僕は何とか彼女に追いつき彼女を抱きとめたのだ。
そのときの彼女の驚いたような安らいだような顔は今でも脳裏にちらついてはニヤニヤしてしまう。
まあ、僕が彼女の心を開いていった過程についてはここでは語るまい。どうでもいいことだ。
今では2歳になる娘もいる。それもどうでもいいこと。
大事なことはまだ僕たちが落ち続けているということだ。
高度に発達した人間の建築技術はビルを際限なく上へ上へと成長させてきた。
僕がビルの中にいた時だって、もう誰もビルの高さなんて考えたことがなかったし、「階」なんて概念もほとんど消えうせていた。
だから僕にも彼女にも何年後、何ヵ月後、はたまた何分後に地面に衝突するか分からない。
でも幸いにして、眼下には薄い靄が張っていて地面が確認できないので、衝突まではしばらく時間があるように思える。
一度は捨てた人生だ。衝突するまでの間(もしくは落ちながら死んでしまうかもしれない)の幸せな時間を楽しもうと思う。
妻は「娘には出会いがなくてかわいそうだ」と言っているが、もしかすると妻似の娘には私のように追っかけてくる男が現れるかもしれないし。
「カンカンカンカンカンカンカン・・・・」
二台の電車が通り過ぎ、やっと遮断機が上がり始めた。やれやれと思いながら
歩き始めようとした私は、はっとして足を止めた。
目の前に立っていた少女が遮断機を両手で掴み、遮断機ともに天に向かって上がっていくのだ。
少女は、どこにそんな筋力を持っているのか、その細い体を遮断機に垂直に保ったまま、上へ上へと昇っていく。
18歳くらいだろうか?華奢な身体つき、漆黒の長髪、そしてなにより目を引くのはその服装である。
白地のTシャツの胸には大きな赤い円。
「まるで、あれは・・・」
そのとき、先ほど警報を鳴らしていたスピーカーから聞き覚えのある音楽が流れ始める。
君が代――日本国国家である。
私はようやく理解した。これは国旗掲揚式だ。
この感動的なまでの愛国的活動に、私の心は打ち震えた。隣では老婆が涙を流している。
「苔のー蒸―すーまーでー」
君が代の終わりとともに遮断機はその角度を90度に傾け、少女の身体は地面と平行となった。
私は無意識のうちに敬礼している自分に気づいた。
少女が、国旗が、頂上に上がって30秒ほど立ったころだろうか、少女の細い腕が小刻みに震えだし、彼女はついに力果てた。
遮断機の上から真っ直ぐに落ちてくる少女を私は優しく受け止めた。
私はこの美しい日のことを、そして私がこの美しい国に在るということに改めて気づかせてくれた少女を、
生涯忘れないだろうと思う。
(了)
空想癖が強く、愚痴は多いくせ理想主義者で、地に足のついていない奴、よく言えば思春期らしい奴で、彼の発言といえば、こんなものばかりだ。
「貧富の差がなくなればいいのに」
「人を褒める文化ができればいいのに」
「空から女の子が降ってくればいいのに」
ろくに努力もしない奴にこんな話を聞かされるこちらは、たまったものではない。
「空から女の子が降ってこないのは努力が足らないから」
嫌味のひとつも言いたくなる。彼は、反論だけは立派だ。
「おい、純粋にファンタジーを楽しんでる人にケチつけるのは慎め。それに、降って来る女の子を地上で受け止めた男キャラは……努力したってわけじゃねえ! 努力で済むならファンタジーはいらねえ!」
「アンタが言うな」
私も、フィクションを楽しむ気持ちにケチをつけるほど野暮ではない。けれど、怠惰を正当化するために作品を利用するような態度は許せない。
「じゃあ、女の子を空から降らせてみる」
こんなやりとりから四日。彼が話しかけてきた。
「こないだの発言、撤回する。努力すれば、女の子は降ってくると思う」
「何のことだっけ?」
彼は、本気で女の子を空から降らせるつもりだという。私も、挑発した人間として一応の責任をとるつもりで、話を聞く。
彼なりの勝算を、彼は語りだす。
アメリカは、空気砲でカボチャを一マイル飛ばすコンテストが開かれているということ。
廃材を利用した装置でコンテストに挑戦し、善戦した人々もいるということ。
人の渡れる橋を、ダンボールで造ってしまった建築家がいること。
災害現場で飛び降りた人を受け止めるために消防隊の使う、トランポリンのこと。
ダンボールと、大径のパイプは、調達したとのことだ。あちこち歩き回り、ゴミを漁り、廃パイプをわけてもらうために業者と交渉したという話も、大げさな苦労話として聞かせてくれた。
五ヶ月ほど。
ついに彼は「女の子を射出する装置」を完成させたらしい。掃除機のようなものがたくさん繋がったダンボールの塊から、まっすぐにパイプが伸びている。横に、小さなトランポリンが立てかけてある。
「これなら、努力を認めてくれるよな?」
「努力賞がもらえるのは小学生までだよ、まだ女の子は降ってきていないじゃない」
「降ってくれる女の子がいない」
「だれかに頼めば?」
「女の子にわざわざ話しかけろと? 俺が? 明らかに地味な俺にどうしろと」
「地味でもさ、人に頭を下げて物を頼むとか、女の子に好かれる方法を考えるとか、そういう努力をしている人も居るよ」
「俺のところに、降ってきてくれないか」
文字通り、頭を下げやがった。頼まれた以上、挑発した人間として、責任をとろうと思った。
「わかった」
承諾を伝え、脚立を昇った。
「あ、一応、足から入って」
「わかった」
「あ、一応、向こう向いてるから大丈夫」
硬めのマットレスの上に肩をすぼめて立つ格好となった。上を見上げれば、真っ青な空が、真ん丸に切り取られている。
「トランポリンはちゃんと用意した。ケガはさせない。じゃあ、行くよ!」
両足を押し上げるマットレスが加速してゆくとき、気づいてしまった。
「建物の上とかから飛び降りれば、わざわざ空気砲なんて造ることないんじゃ?」
どうでもよかった。
無造作に放り上げられた体が地上に引き戻される瞬間、ごっついダンボールの塊の隣、トランポリンの上に立った少年は強く両手を差し伸ばしていた。
空から降ってきた少女に、なりたいと思った。
「空から女の子が降ってきたんだ」
少年がみんなにそう言うと、全員が少年のことを嗤った。
空なんてあるわけないだろ、と。
だけど、彼は見た。開くときは世界が終る時と言われてきた岩戸が開いて、わずかな隙間から青一色の世界を確かに見た。そしてその隙間から女の子がゆっくりと落ちてきたのを。
あるいは、女の子が持っている火がなくても光る板や、女の子が着てる縫い目のないつるつるした服を見れば、彼らも空の存在を信じるのかもしれない。しかし、光る板は取り上げられ荒っぽく扱われて戻ってくるころには壊されているだろうし、女の子も同じようなことになるのは目に見えていた。
少年が担いでいる袋には盗んだ食料が入っている。もう戻れない。少年はネズミを捕まえるのは得意だ。食料を持たせる自信ならある。
「ネズミは見たことある?」
少年が訊くと、女の子は少しの間考え込んだ。
「遊園地、で握手してくれる人ですか」
ユーエンチ、が何かは知らないが、女の子が住んでいる世界のことなのだろうと少年は思った。おそらくは様々な色に溢れる夢のような世界なのだろう。
「違うよ。食べ物だよ」
少年が苦笑すると、女の子は心底驚いたようだった。
「食べたらビリっと痺れたりしませんか?」
神妙な顔で尋ねる女の子に「大丈夫、一番おいしい食べ物だから」と少年が笑っても、まだ女の子は小首を傾げていた。ここでは彼女が知らないことが多過ぎる。自分がしっかりしなくては、と少年は気を引き締めた。
「行こう」
この先はあの世につながっているというなだらかな上り坂だ。迷路のようになっていて、帰ってきた者はいない。でも二人で行くのなら、この道はきっと空に続いている。
空から女の子が落ちてきた。
太陽の隣から現れ、雲をすり抜け、カラスに激突し、電線を真っ二つにして、父親の車(ローン残り15年)のボンネットに落ちてきた。
落ちてきたときはぐしゃっという音がしたような気がする。ちょうど私は居間で昼寝をしていたのだ。大きい音がしたので何かと思って外に出てみると、女の子の背骨が綺麗に真っ二つに割れた状態で、父親の車(ローン残り15年)の上に血まみれで落ちていた。
みたところ、致命傷は父親の車(ローン残り15年)のボンネットへの追突らしい。ただ、彼女の近くに電線がだらりと垂れていることから考えると、電線への落下での感電死の可能性も高そうだ。
私はその空から落ちてきたらしい女の子をみたが、内臓がえぐりだされていて、顔からも涙、唾液、鼻水、何かよく分からない体液など、いろんなものがでていた。ちょうど、女の子の下にカラスもいたので、女の子の周りにはカラスの黒い羽が散乱していた。
これがもしライトノベルだったら、「空から落ちてきた美少女は黒い羽をまとって、天使か、もしくは悪魔のようであった」とでも表現するのかもしれないが、現実にみてみるとただの気持ち悪いものである。よくよくみると、下腹部の辺りが黄色く染まっている。先ほどからの臭いはそれだったのか。
とてもじゃないがこの異臭には耐えられそうもない。大きな音に誘われてご近所さんが集まりだしてはいるんだが、強烈な臭いに近寄る人はあまり多くない。
誰が呼んだのか、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。空から女の子が落ちてきたなんてファンタジーを信じるのは勝手だが、本当にやるのは止めにしてほしい。この滅茶苦茶になった車のローンを誰が払うと思っているのだ。
統計学者は悩んでいた。今彼が対峙しているのは、とある島国の年齢別人口統計のグラフである。
年齢別人口はその国の経済発展を推し量る上での指標となりえる。発展途上国では、多産多死ゆえにピラミッド型の分布を示すが、先進国ならば少子高齢化が進むため壷型の分布を示すようになる。
その島国は、発展に発展を重ねた挙句の果てに、無理がたたってセコンドにタオルを投げられるほどの先進国であった。よって、全体としては壷型を描くことが容易に想像できる。60歳代には人口の極端な増減がみられるが、それはこの国がかつて経験した戦争の爪跡であり、また復興の勲章でもある。
しかし、ならば今自分の目の前にある「これ」は、全体何の証なのだろうか? それが統計学者に突きつけられた難問(チャレンジ)であった。
男性の人口分布に何ら異常はない。しかし女性の、13歳から17歳あたりにかけての人口が、奇妙に膨れ上がっている。この年代の女性のみが突出しているのは明らかに異常である。男女産み分けは不可能ではないが、ここまで極端な差が生じるほど行われているとは考え難い。男子に対して非人道的な「間引き」が実行されているという話も聞かない。
調査を進めるうち、さらに奇妙な現象が発見された。10年前のグラフにもまったく同じ傾向が見出されたのである――13歳から17歳の女性が突出して多かったのだ! すなわちこれは、特定世代の女性が特異的に多人数だったのではなく、特定「年代」の女性が特異的に多人数になっているという、きわめて奇態な現象だったのである。
この数百万人にのぼる13歳から17歳の女の子たちは、「女の赤ん坊」として生まれ、成長して「女の子」になり、やがて「女の人」ないし「女」になっていくという、人類女性のライフコースをまったく辿っていない。彼女たちは「女の子」としてこの国の上に現れ、「女の子」を離れぬままに去ってゆくのだ。
これは一体、何を意味しているのだろうか?
統計学者は考えに考え、やがておもむろにペンを取った。
「某島国における13歳から17歳前後の女性人口の特異的突出は、
『空から女の子が降ってくる』としか言いようがない」
1
0と1でできたボトルにお友だち募集中と書いた便箋を入れて海に流したらさっそく数十枚の返事がきて、写真をアップロードしろだの声を圧縮して送れだの死ねだの言いたい放題書かれていたのですべてゴミ箱に入れようとしたところでふと目に飛び込んでくる手書きフォント。
よろしくねー。リリカ。
月ドメイン。
最近のはてなボトル、やるー。
2
384,000,000メートル。地球から月までの距離。
300,000,000メートル。電波が一秒で進む距離。
地球と月で通信をしようと思ったら、往復2.6秒の遅れが発生する。コンマ秒の遅延でユーザが離れていく検索会社にとって、月にサーバを置いておくことは月からの利用者を確保するために不可欠な処置だった。真っ先に動いたのがスピード狂揃いのトップカンパニーで、それ以来Googleループと呼ばれる惑星衛星間の電波閉ループが、検索サーバをミラーリングするために日夜稼働している。Yahooループ、Amazonループ、Packemonループ。今や地球と月は巨大ないくつものリングで接続されている。
3
僕とリリカのループも、スカイプの細い細い千切れそうなチャンネルで形成される。「今度さー」とリリカが言ってから1.3秒後に僕が「何?」と言ったのとリリカの言葉の続きがぶつかって「地球にね、え?」という感じになる。
1.3秒。
「ごめん、今度なに?」
1.3秒。
「今度地球に遊びに行くんだ」
1.3秒。
「えっ、マジで?」なんか間抜けなタイミングの僕の驚愕。
……。
「ね、会おうよ」
……。
「……」通信遅延に動揺を溶かしてリリカに悟られないように呼吸を落ち着ける。どんだけ金持ちなんだリリカ。惑星衛星間移動は大分安くなってきたとはいえ、まだ海外旅行の10倍はかかる。
「だめ?」
――リリカに会える。
「いや、いいよ」「やっぱだめ、え?」やっぱりぶつかる僕たち。
遠い。
「いいよ、会おうぜ。空港で待ってる」
やっぱり地球と月は遠い。
「ほんとー? やった、うれしー」
1.3秒前のリリカの声を聞きながら、僕は夜空に浮かんだ月の住人の姿を想像する。
4
当日の朝、僕が起きるとリリカはもうこっちに向かっていて、3時間前のメールが受信トレイに入っている。
Return-Path: rilika1014@skywave.moon-jp
Date: Sun, 09 Jan 2050 10:28:53 +0900
From: "Rilika"
To: "J.T"
Subject: そろそろ行くねーvv
Message-ID: <003f02d3fa42$3da6e532$a517db7f@1ba736d>
X-Mailer: Microsoft Outlook Express 23.00.4200.0000
まだOE使ってんのかよ。かぐや姫にはお似合いの古文書ソフトだな。頭の中で悪態をつく僕の口元はにやけていて、道行く人という人にキモいと思われながら空港に向かう。
知ったことではない。
リリカが空から降ってくる。
今日は、リリカが空から降ってくる日なのだ。
「目標、接近中! 至急応援を頼む!」
無駄だ。
そう頭で理解していながらも、思考と肉体が剥離したかのように身体が勝手に動いていた。
「ちっ、まずい――!」
応援の要請にやはり反応はなく。
小隊はすでに俺のチームを残し壊滅していた。
「迎撃用意!」
絶望する胸中で臓腑が冷え、震える。
それとは裏腹に、肉体は訓練された通り機械的に動く。接近する目標に照準を合わせながら前屈、いつでも動けるように運動エネルギーを内側に溜め込む。
微笑。
目標は笑っていた。
「距離八〇〇、七五〇、七〇〇・・・・・・!」
俺はひたすら距離を数えた。
何のために? 最期の時を迎えるためのカウントダウン? それとも。
「・・・・・・こんなことに、なるなんて」
彼女は呟いた。
超高速で接近する目標を見据えながら、無感情に言葉を吐いた。無様にも最後まで戦う振りをする俺とは違い、彼女は現実を素直に受け入れていた。
「集中しろ! 死にたいのか!?」
「あなたはあの娘を・・・・・・殺せる?」
彼女は怒鳴る俺になど目もくれず、目標を見つめながら問うた。
殺す。
そう考えたとき、何かが音を立てて崩れた。
進学のお祝いで買ったパソコン、喜んでたっけ。運動会の二人三脚、ゴール直前で転んだな。食事のときいつも見てたお笑い番組、俺も好きだったよ。入学式に遅刻して恥ずかしかったな。初めてパパって呼んでくれたときもそうだった。
俺が知っている、その笑顔だった。
「できるわけないだろ」
目標はもう、すぐそこまで迫って来ていた。
マザーコンピューターの暴走だかバイオハザードだか金融危機だか何だか知らないが、世界はある日突然、未曾有の恐慌に陥った。
人類絶滅の危機に対する特効薬として処方されたのは、忘れ去られていた人類の進化。
発育過程にある若年だけに発露したそれは、今までになかった力だった。車を片手で持ち上げ、心臓を撃たれても死なず、病気にもならない。そして、空を飛ぶ。
それだけならどんなに良かったことか。しかし、現実は冷酷だ。彼らは超人的な力を手に入れた代わりに凶暴性が異常に増し殺人マシンになった――いや。進化できなかった旧人類だけを抹殺し始めた。彼らにとって唯一の危険因子と言える劣等遺伝子を根絶するためだろうか。
まるで中学二年生辺りが考えたような陳腐な話だが、しかしそれがいま、目前に迫って来ている。
幼さの抜けない丸い輪郭に、この世で一番美しい微笑みを乗せるそれは、赤く燃え上がる空から死というプレゼントを持って、降ってきた。
「お父さん、お母さん。ただいま」
俺の娘だ。
父の仕事の関係で、東京より覇手那島に越してきたのは、私が小学三年生のこと。
人口が千人ほどしか居ないこの小さな島において、東京から人が来たという知らせはたちまち島じゅうに広まり、転校先の小学校でも私は一躍有名となった。
同級生はみんな東京のことを聞きたがるので、私はその度に都会のデパートや遊園地のことなど、色んな話をしてあげた。
少し鼻が高い気分だった。
でもそんな中にアイツはいた。名前を玄太という。
クラスの中でもガキ大将的存在であった彼は、人気者であった私のことが気に入らないのか、いつも私のことをいじめてきた。
でも当時の私は負けん気が強かったので、決して人前で泣いたりはしなかった。
ある日、私は母に買ってもらった、お気に入りの白いワンピースを着ていた。
でも学校が終わって帰ろうとしていたところ、事件は起こった。
校舎の入り口で待ち伏せしていた玄太に突き飛ばされて、私は泥だまりに突っ込んだのだ。
「やーい」と罵る玄太。ついに頭にきた。
私は涙をこらえながら、その場から逃げる玄太を必死で追いかけた。
島の南に広がるさとうきび畑を越え、南国の林を潜り抜ける。
突然、目の前に空が広がった。
そこは島の最南端で、とがった崖が海に突き出している、島の子供たちにとってお気に入りの場所だった。
玄太は私を一瞥した後、一瞬のうちに私の視界から消えた。
私は崖の下を覗き込んだ。海面まで十メートル以上はあろうかというその先で、玄太が岩に腰かけてアッカンベーをしている。
悔しかった。その気持ちが私を動かした。
擦り切れたワンピースの先を両手で持ち上げて、そのまま私は空に身を翻した。
そこから先は恐怖であまり覚えていない。
気がついたら玄太と一緒に崖の下の岩場にいた。私は玄太に助けられたのだ。
「東京もんの癖に、お前なかなかやるなあ」
そんなこと言われても、私はちっとも嬉しくない。
ボロボロになったワンピースを見て、きっと母は私を叱り飛ばすだろう。
でも何故か誇らしげな気持ちであったことは、今でもよく覚えている。
SF・ラノベ系が多いみたいなので、敢えて。
約850字くらいです。
みなさんこんにちは。こんにちはじゃないですね、はじめましてですね。年もあけて新春だなんていってるけどどこが春なものか、ちっともあったかくないじゃないか、なんてことを毎年言っています。みなさんは風邪など引いてないですか。あれ?風邪って「引く」で正しいの?「牽く」じゃないよね?「弾く」のも違うよね。
一応自己紹介をしようかと思ったんですけど、別にこれからも長く続く仲でもないし、やめにしておきます。
あー、この文面からはわかんないと思うけど、私今落下中なの。すごいね、よく映画とかで死ぬ瞬間にすごく話が長い奴とかあるけど、あれホントなのかも。すごく長く時間を感じる。そりゃミュージカルなんかでも死ぬ前に歌うわ。踊るわ。
何で落ちてるかの説明はしようかな。自殺だって思われたら嫌だし。自殺じゃないんですよ。本当に。ただちょっと、パラシュートが開かないだけ。どうしても飛行機から降りなくちゃいけなくて。
パラシュートが開かないってわかった最初の頃はあわてたけど、途中であきらめた。冗談交じりに両手を羽ばたいてみたりしたけど、自分でバカらしくなったし。
いま頭が下になってるんだけど、地面なんか見れないね。怖いとかじゃなくて、風圧で眼が痛い。ゴーグルつけて来ればよかった。取りに戻れないかな。
ああそろそろ地面が近づいてきたよ。みんな話聞いてくれてありがとう。もしも東京都恵馬区の人がいたら、第三中のウシジマ モモコは飛行機から落ちて死んだって伝えてください。
あ、そういえばなんで飛行機から飛び降りることになったかの説明してなかったですね。ほら、タレントの和田アk
31 回答者:Hamachiya2 2009-01-09 03:03:44 満足! 500ポイント
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文字数が750文字くらいあるから、IE6だと動かないかも?
Firefox,Opera,IE7ならきっと降りそそぐよ。
500 ポイントを差し上げます。別に id:Hamachiya2 さんのハッカーとしての技量を認めたわけではなく、 400 ポイントは絵の可愛さ分ですので勘違いしないでください。
空に千切れた赤い糸
小指から垂れた糸を引きずりながら、今日も飽きずに空を見上げて、俺は女の子が降ってくるのを待っている。
ん、どうしてそんな馬鹿らしい夢を見ているかって? ――やだなぁ、そりゃ、こんな世界に住んでいたら普通思うだろ。どこ見ても、至る所で男の子と女の子が恋に落ちていくんだもの。
え、そりゃ言葉遊びで理由になってない? ――ああ、そっか、君には俺の住んでる世界が見えないのか。羨ましいなぁ。あれ、でも君、俺のことは見えるんだ。
へ、見えるものは見えるんだから仕方ない? ――それは、あれじゃね。ほら、お互い独り身が長そうだし、どっちかが君の世界で言うところの魔法使いになったとかさ。
む、余計なお世話で放っておけだって? ――あっはっは。ほら、君もアレを待つまで、あと数分は暇なんだろ。何かの縁だし、説明してあげるよ。俄には信じ難いかもしれないけどね。
俺らの世界ではさ、恋愛エネルギー保存の法則ってのがあってさ。宇宙全体における恋愛エネルギーってのは常に一定なんだ。こればっかりは、何をどうしようと変えられない。
だけど有り難いことに、宇宙は話の分かるヤツでさ。ちょっとくらいの間なら、無利子でエネルギーを幾らか貸し借りしてくれるんだな、これが。
ってなわけで、どこもかしこも、真空から恋愛エネルギーを借りて対生成するカップルが大発生ってわけさ。そんなのを絶え間なく見せつけられているおかげで、俺みたいな独り身なんかよ、事ある毎に自分の存在意義に悩まされる始末さ。
儚いことに、対生成された二人は赤い糸で結ばれてるから、すぐに同じ相手と対消滅して恋愛エネルギーに戻っまうんだけどな。たまに、そうならない哀れな野郎もいてさ、俺のことなんだけど。
いやいやいや本当なんだって。俺にも将来共に消えると誓い合った幼馴染みが居たんだよ。大気圏からちょっと離れた辺りで生まれたせいで、何をとち狂ったか太陽の男神に浮気しちまったがな、はぁ。
つーことで、俺と同じような境遇の、つまり月の女神に浮気されちまった女の子が、中性である地球の重力に仕方なく引かれて落ちてくるのを待っているっていうワケ。そんな不慮の失恋が発生する確率は月の満ち欠けに左右されるんだが、だったら満月の日に待ってればいいかっていうと、そう簡単には問屋が卸さない。
相手を失って虚しく落下してきた連中は、しばらく大気圏の中にふわふわと留まるんだが、ここで上手いこと男女比のバランスが取れちまうんだな。月の満ち欠けとか四季の差異まで吸収しやがって、な。
だから、そのリズムが崩れない限り、うっかり地表まで落ちてきてしまった不幸な輩は、再び恋すべき相手に巡り会う事は出来ない。世知辛い話だぜぇ。……まぁ、なんだ。これで、俺の話は終わりだ。いや、聞いてくれて、ありがとうな。何だか気が楽になったよ。
な、実は待ってる相手が居る? ――ほ、ほぅ。どうせ、独り身の男性同士で寂しく肩寄せ合ってとか、そういうのだろ。俺には、そういうのも居ないけどな。
は、これからプロポーズする? ――あっ、てめー騙し……って、なんだ、そういうことか。みなまで言うなよ。お互いに、上手くやろうぜ。じゃあな。
そうして、俺は裸眼のまま、太陽を見上げる。あの薄情な幼馴染みは、あの遠い彼方まで無事に辿り着けただろうか。だとしたら、この瞳を刺す光は彼女の消えた証だったりするのだろうか。そんな事を柄にもなく思う。
いよいよ時が近づいて、弾けてしまいそうなくらいに、鼓動が高鳴る。もう幾度、こんな風にして期待に胸を躍らせて、失意に暮れたことか。でも、今日はきっと、成功する。そんな根拠のない確信があった。
しばらくして、太陽が欠け始めた。日光さえも遮ってしまう月の魅力に浮気され、強い悲しみのままに降り注ぐ無数の女の子たちは、千切れた赤い糸を尾に一筋の軌跡を描いて、どんどん大気圏に突入しては新しい相手を見つけ、刹那の光を放っては消えていく。
もう少し、あともう少し。焦ることはない、今日はこの上ない晴天だから、きっと運命の人に出会える。そうして、月が太陽を完全に覆い隠した闇の中。
果たして、ダイヤモンドリングが天に輝いて。俺を一直線に目指して、空から女の子が降ってきた。
33 回答者:SHIKAIKILYOU 2009-01-09 03:34:05 満足! 38ポイント
作者のかいわレ先生は、はてなidを持っていない為、代理投稿という形になります。
かいわレ先生のmixi日記にて大好評連載中の「かがみハード」シリーズ。今回は、いずみの(d:id:izumino)さんによる「突然空から幼馴染みに向かって美少女が落ちてくるSF」という設定との、コラボ作品です。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1047282512&owner_id=2995989
空から落ちてくる女の子から日本を守るために組織された対空防衛組織――それが「幼馴染み」である。
日本中の男の子は知らない。自分たち青少年を目指して無数に降り注ぐ地球外の女の子を撃退するために血を流しているのが、普段顔をつきあわせている「幼馴染み」であることなど……。
その日、対空防衛組織「幼馴染み」に所属する一ノ瀬祝詞は非番であったが、おもむろにズボンを脱いだ。
「おっ、俺のチンコが疼いてやがる! この様子だと、今夜は空から女の子が落ちてくるな!」
いてもたってもいられなくなった一ノ瀬は、脱いだズボンを放置したまま、高尾山へとかけだしていった。
――22時 高尾山山頂
一ノ瀬を待ち受けていたのは女の子ではなく、杉作J太郎を20歳ほど若くしたような男であった。
「四海鏡でごわす」
問答無用の突然の自己紹介。
しかし、一ノ瀬はうろたえない。この四海鏡、一ノ瀬にとっては初対面の男であるが、今、この場所にいるということが全てを証明していたからである。
「どうやらお前が、最近、幼馴染みに入ったという噂の新人か」
「幼馴染み?おいどんはホモでごわす」
「じゃあ、今言ったことは忘れてくれ」
「了解でごわす」
読みが外れた一ノ瀬は、なんとも気まずそうに空を見上げた。
その時、空がかすかに光った。
同時に一ノ瀬の陰茎が戦慄き始めた。一ノ瀬の陰茎に文字が浮かび上がる。
――架神恭子
今夜、空から飛来する女の子の名前である。
「か、かがみ…?架神恭子だと?俺のクラスメートの…男爵ディーノの管理人兼ツンデレ女子高生の架神恭子のことかー!」
「一ノ瀬どん、何を言っているでごわすか!?」
「うるせー!俺は、あの女…かがみとセックスして、この地球を守るんだよー!」
一ノ瀬が飛んだ。
ズボンは蒲田に棄ててきた。下半身には何も穿いていない。
山頂より2000m上空に架神恭子はいた。
「見つけたぞ、かがみ…セックスの始まりだ!」
ブスッ
いきり立った一ノ瀬の陰茎が、架神のマンコに突き刺さる。
「ひゃわー!」
「コイツ、やけに静かだと思ったら、寝てやがったのか!」
「こ、ここはどこ!?い、一ノ瀬!?あなた、何をしているの!?」
「見てわからねーか!セックスだよ!」
「セックス!?」
「ああ、セックスだ!二度言わせんじゃねー!」
「こんなのセックスじゃない!ただのレイプよ!」
「なめんじゃねー!俺はレイプ魔だ!大人しくレイプされろ!」
「いやよ!私は…私は、一ノ瀬とこんな形でセックスなんかしたくなかったのに!」
「うるせー!今、セックスしないと、東京が無くなっちまうんだよー!」
「東京なんか無くなってもいい! 私はセックスなんかしたくないんだからッ!!」
「なに言ってんだてめー!このままじゃマジでヤベーんだよ!」
ズボッ
2人が言い争っていると、そこへ謎の男が現れ、架神のアナルを貫いた。
「はわわ、あ、あな~るぅ~!」
「助太刀いたすでごわす」
「四海…鏡…?おめー、ホモじゃねーのか!」
「ホモだから、アナルセックスは得意でごわす」
「そうか、よし、四海鏡、着地と同時に射精するぞ!」
「了解したでごわす!イクでごわす!」
「イヤー!」
一ノ瀬と四海鏡のペニスが――
架神のアナルとマンコが――
地球の重力に惹かれ、今…
『『『イクッッッ!!!』』』
未完
† 天国から彼方まで †
人間はしらない秘密だけれど、天国はさかさまになっている。
宇宙が地底で、風(大気)が地面。そして頭上には緑と青色の空(大地)が広がる。天国の住人は天使と呼ばれている。とはいえ、地上に生きている人を人間と呼ぶのと同じように、それはことさら特別な意味を持たない――。
「あのこ、いまこっちを見たんじゃないか?」
風の丘で寝っころがっていた天使の康介に、そのとなりで地体望遠鏡(つまり、地球という空のなかで生活している生き物たちを観察する望遠鏡)をのぞいていたおなじく天使の弓彦が声をかけた。
「それは不味いだろ。むこう(地上)からこちらが見えるってことは」
「あのこ、もう長くないな……」
弓彦が望遠鏡から目をはなさずに深刻な声でつぶやいた。
地上を見るために天使が地体望遠鏡を必要とするように、地上のにんげんからも普通ならば天国とはけして見ることができない世界だ。その本来なら視ることの出来ない“こちらがわ”を彼女は見あげているというなら、それは死の境界に近づいているという不吉な兆候のあらわれだといえる。
「なあ、康介。なんとかならないのか。あのこ、これからデートなんだよ。なのに死ぬのか?」
弓彦は珍しく動揺していた。空(地上)の人間の寿命が尽きるなんてことは日常茶飯事なことだというのに、この頃の弓彦はどこかおかしい。
「ぼくたちは空(地上)に干渉なんてできない。当たり前だろ。どうしたんだ、弓彦」
「そんなことはわかってる。わかってるから訊いてんじゃないかよ。あのこは、これから彼に告白するんだ。そういう予定なんだよ。なのに、その日に死んじまうなんてそんなの、そんなのねえだろ」
康介が望遠鏡をのぞくと、空(地上)のなかでは、女の子がひとり、こちらを見あげておどろいたような顔をしていた。彼女は、ぼくたちを見ている。
だが、その顔からは徐々におどろきが消えて、素敵な宝物でも見つけたような笑顔になった。まるで、これから素敵なことが起こる吉兆を見つけたように。
弓彦は堅く目をつむりかおをそむけた。笑顔のこの背後から飲酒運転でふらつきながら一台の車が突っ込んでくる。
ひとは、魂になるとこちらやってくるそうだ――。
空から女の子が降ってきた。
時は西暦5646年。ひとびとは何十回もの世界大戦を経てなお、しぶとく生きのこっていた。特にひどかった1000年前の核戦争の後でさえ、ゴキブリ並の生命力を発揮し、人口は激増、都市の復興を果たすまでになっていたのだ。
文明のレベルはすでに21世紀初頭の頃にまで回復を見せていた。
中野区の薄汚れたアパートの一室で、男はテレビに釘付けになっていた。画面右上にはアナログの字幕が浮かび、その放送がデジタル式でないことを教えている。
ザザザ。
テレビの映りは悪かった。西新宿の高層ビル郡に電波がさえぎられているせいだろう。
漫才を見ていると、突如画面が緊急ニュースに切り替わった。
ザザザ……天気が……崩れ……模様……。
アナウンサーの顔がよじれる。
お……が……降るで……しょう。
そこまで聞いて、それなりに内容がわかった。男はテレビの電源を切り、窓際に寄った。見あげた灰色の空の中に、さっそく黒い点々を見つけた。
「あーあ、またなんかきちゃった」
西暦2000年代末期に、この世の中は神様によって作られ、動かされていたことが解明された。そして、それから2000年以上が経過し、さすがの神様も近頃はボケが進行しているようだった。
空のシミが何百にも何千にも広がっていた。
ドスン、ドスン、つけもの石が落ちたような音が近所から聞こえて、男は焦った。予想外に大きなものだったからだ。
急いで雨戸を閉めようとした矢先、ガツン、と間近に衝撃が襲った。
男はおどろいて尻餅をついた。おそるおそる外を覘くと、メザシみたいに首の骨がへしおれた女がぐったりと息絶えていた。雨戸に激突したらしい。
「あわわ……」
つぎつぎと女は空から街へ降りそそいだ。みな、頭から突撃する魚のようにしてアスファルトやビルに激突し、血飛沫と肉片をまきちらす。
破片の骨に切りさかれ負傷するものや、たまに直撃を食らうものもでて、街は大変な騒ぎとなった。
男の部屋も薄い天井をつきやぶってきたのが数体。跳ね回りころがった死体の血が畳中をべっとりと濡らしていた。
歪んで閉まらなくなった雨戸を諦め、男は布団にギュッとくるまった。
「まったく神様のやろー、ボケやがって。まさか雨とアマをまちがえたってんじゃないだろうな!」
ボヤいた瞬間、窓を激しく砕きちらしてバラバラになった少女の体がつっこんできた。
今年もか、と私はつぶやいた。
曇天から舞い降りてくる、小麦粉みたいに真っ白なソレは、あの女の子どもたちであった。
まだ生まれたばかりの子もいれば、そうでない子もいる。
「空から女(くうからおんな)」が観測されるようになってから、既に十二年が経過している。
突然現れた「空から女」は、空気のように薄く、水のように透明で、それでいて崩れかけのビルのような存在感があった。
「空から女」が観測された当初は人々も関心を持っていたが、しばらくすると飽きてしまった。
端的に言えば日常の一環として取り込まれてしまったのだ。
ネーミングセンスの悪さには辟易するものの、誰でもあの女を見たら、間違いなく空から女という名前をつけたくなるだろう。
先入観の影響が大きい事は否めないが、仕方があるまい。
「空から女」の子が降り始めたのは、二年前からだと記憶している。
最初は雪だと思っていた。しかし、その子たちの泣き声が聞こえ、それが雪でないことに気がついた。
母を慕うこの声は、私たちの心を抉り、痛めつけた。
なぜ、あの「空から女」は、子を地に産み落とすのだろう。
子は、地面に降りるとそのまま姿が見えなくなる。
どこに行くのか、私たちは知らない。
けれども、あの子どもたちはきっとどこかに身を潜めているのだろう。
そして、空の上にいる母へいつまでも泣き声を上げつづけているのだろう。
「空から女」の子が降ってくる。
また、この季節が、冬がやってきた。
『故事成語』
ガリレオ・ガリレイという青年がおりまして、ある日、彼のことが大好きなかわいい女の子と、彼のことが大好きで筋肉質な女性が同じ速さで同時に天から降ってきたといいます。どこからやってきたのかと問うても彼女らは何も覚えていませんでしたが、なにぶんかわいかったものですから、ガリレイは深く詮索もせずにかわいい方の女の子と幸せに暮らしました。ただ、なぜ重さに差のあるふたりが同時に降ってきたのかということは気になっておりまして、日々考えていたところ、落体の法則に気がついたといいます。
このガリレイが亡くなった年に生まれたアイザック・ニュートンという人物がおりまして、彼が青年と呼ばれる年になったころ、彼のもとにも彼のことが大好きなかわいい女の子と、彼のことが大好きで筋肉質な女性が同じ速さで同時に天から降ってきたといいます。ガリレイの逸話を伝えきいていたニュートンは、深く詮索もせずにかわいい方の女の子と幸せに暮らしました。ただ、なぜ天高くから物体が加速しながら向かってくるのかということは気になっておりまして、日々考えていたところ、重力に気がついたといいます。
天啓という言葉は、これらの出来事を由来とします。
僕等は空を知らない。何故なら、この世界は丸ごと塔の中にあって、頭上には天井しかないからだ。なのに空という概念を知っているのは、かつて世界が塔の中ではなかったことによるのだろう。
僕等は塔も知らない。塔の中から塔を見ることはできないから。なのに塔という概念を知っているのは、かつて世界が塔の外から塔を見たからなのだろう。
正確に言えば、空を知らないというわけでもないのかも知れない。何故ならこの世界が塔の中であると知られているのは「他の階」があるからに他ならず、他の階があると知られているのはそこへ続く開口部があるからなのだ。世界=塔の中心にある螺旋階段が。
その上方に本当に空があるのか、知る者はない。確かめる術はなく、確かめた者もない。何故ならば(伝承に拠ると)塔は無限の高さを持つからだ。真実それが無限であるならば、僕等はどこまで登ろうとも決して空へ到達できないことになる。然して無限の果てに塔の最上部というものが(決して到達し得ぬにせよ)存在し、その先に空が開けているのだとすれば、やはり空はあるのだ。僕等の空ではないというだけで。
この階の慣わしとして、若者は成人年齢を迎えると螺旋階段を上り上階を目指すことになっていた。そうするとこの階から若者が消えてしまいそうなものだが、その分下階層からやって来た若者がこの階に定住するので、大きな問題は起きない。多分上の階に行った人達も、そこで定住するのだろう。
そんなわけで僕はこうして螺旋階段を昇っている。階段に到達するまでの旅に2週間を要し、階段下で準備を整えるのに3日を要し、上り始めてから既に7日ぐらいが経過しようとしている。
階段はどういう作りになっているのか、下段との接合のみを支えとして幅広な石段が右回りにどこまでも続いている。両側ともに手摺りも壁もなく、左へ足を踏み外せば真っ逆様に地表へ叩き付けられるだろう。そして右は、差し渡しで人ふたり分ぐらいの空間になっている。この下に床はなく、この上にも床はない。
よくできたもので、階段は大体77周ごとに踊り場が設けてあり、そこで休むことができる。77周もすると正確に同じ縦位置なのかどうか見当も付かなくなるが、少なくとも錘で図ってみた限りでは1周はほぼ73段、ということは1回の休憩あたり5621段昇っている計算だ。段の高さはほぼ掌と同じぐらい。身長は大体掌の10倍弱ぐらいだから、身長換算で600倍ぐらいは登る計算だ。
1周にどれほど時間をかけているのか見当も付かないが、歩く速度からすると1日あたり12周期ぐらい昇っているだろうか。今6回目の睡眠を終えて10周期ほどを登ったところだから、多分82周期ぐらいを進んだ筈だ。73段×77周×82周期、かなりの高さだ。もう既に麓は霞んでよく見えないが、天井も近付いて来ない。一体あとどれぐらい登ればいいのだろう。眩暈を感じ、ふっと一息吐いて右を見た。
そのとき突然、目の前を何かが通り抜けた。それは物凄い速度で落下していたが、何故かその瞬間だけ時間は停まったかと思うほどゆっくりに感じられ、僕ははっきり目視した──その、少女を。
彼女もまた僕を視認し、微笑んだ。それだけで僕は恋を自覚する。なんという引力。
そして、少女はそのまま穴の底へと消えていった。慌てて階段の縁から下を覗くが、既に影も形もない。
僕は天を仰ぎ、目を閉じる。このまま彼女の後を追いたい衝動に駆られて──しかしそれは叶わぬ夢だ。どこまで追っても、僕の落下速度は永劫に彼女のそれを上回らず、僕が彼女に追い付くことはない。
絶対不変速に限りなく近い彼女の時はいつまでも停まったまま。落下し続ける永遠の少女。
逆は?
もう一度、天を仰ぐ。僕の仮説が正しければ、この永劫の塔はどこかでループしている。次の階から次の階へと登るうちに、いつか再び元の地点へ到達するのではないか。いや、もしかしたら下層から移住してきた若者というのは試練を終えた僕らのことで、上層へと移住した僕らは元いた階層へ帰って来ただけなんじゃないか。でも下から来た若者たちを知る人はなく、若者たちの歳は今の僕等と変わりなかった。中央を落下する少女によりこの時空が歪められているとしたら?永い永い石段を登り、辿り付いた先は数百年先の未来、あるいは過去なのか。
僕はこのループを逆に辿り、彼女と一瞬の逢瀬を重ねよう。一瞬も無限に連なれば永遠だ。
そう決意して僕はまた石段を登り始めた。
vermilion::text
「今朝の天気予報です。午後から夕方にかけて、ギャルが降るでしょう。
耳栓をお忘れなくお出かけください。」
ギャルが降る日は勉強がはかどらないんだ。
降ってる間中ずーっとギャルがしゃべっているから。
「ウゼー、だりー、てゆうかー、マジヤナンダケド、●×△+■....」
先生の声が僕の席まで聞こえない。
なので、大抵ギャルの降る日は自習の時間になってみんな耳栓をして勉強してる。
でもギャルは、降った後すぐに溶けてしまうので、あまり気にならない。
ギャルと似てるけど、気になるのがオバサンだ。
うるさくて、しかも降ったら積もるんだ。積もったオバサンを
スコップで、道路の端に寄せておくと、太陽に当たって溶けるまで
ずーっとしゃべってる。
それで気を取られた車がよくスリップして事故を起こすんだ。
さらにオバサンに似てるけど、ちょっと違うのがハハオヤだ。
これは、基本面倒くさいんだけど、時に安心を感じてほっとする事もある。
僕がいままでで忘れられないのが、ガイジンノコだ。
真夏なのに珍しく、女の子が降った日だった。
ガイジンノコは、肌の色や言葉が違うので、
一斉に降ると美しいものでもなく、主張も多いので片付けるのが大変だ。
ちょうど学校から帰る時間、太陽が見えていた時だった。
曲がり角にぽつんと座っていた、褐色の肌の大きな瞳をもった女の子が
じっと僕を見つめている。
何か言いたそうだけど、たぶん言葉は通じないだろう。
しかし結構カワイイ。。
このガイジンノコを気に入った僕はうちに持って帰る事にした。
溶けるまでの間、部屋の中に飾っておくんだ。
溶けて消えるまでのはかない時間を楽しむなんて、
僕もなかなかシャレてるだろう?
家に帰って、椅子の上にこのガイジンノコをおいて、
少し眺めたあと、僕は宿題にとりかかった。
途中母親から、ご飯よーと声がかかったので、
居間に向かい夕食を食べた。
そろそろあの子も溶けて無くなっているころだろうと思って、
部屋に戻ってみるとまだ椅子に上にぽつんと座ってこっちを
見ている。
(なかなか溶けないもんだな。)
そのまま宿題を済ませて、少しマンガを読んで寝た。
目覚めると、まだそこに座っている。
昨日降ってたガイジンノコはみんな溶けて無くなってしまっているのに、
この子だけは、溶けていない。
(もしかして、ホンモノ!?)
.....
あれから、半年がたち、僕には新しい目標ができた。
学校を卒業したら、彼女と一緒にウチを出るつもりだ。
40 回答者:hosahosa666 2009-01-09 13:38:54 満足! 35ポイント
空は今日も元気がない。先週からずっと、ちょー寂しい。
カバみたい。そうだ、空はまるでカバの皮膚だ。変な天気。
来週は晴れていつもの趣味が出来たらいいのに。うん私の趣味。
女らしくない趣味なんだけど、私は望遠鏡で空を見るのが好きなんだよ。
のんびりした趣味だよね。星を眺めてるだけってねえ。ていうか最近ちょっとサボり気味。
子供の頃はもっと楽しかったな。望遠鏡を持って河川敷に一人で行ったりとか。
ガンバルマンだよ。マンじゃないのか。でもそれくらいヤル気マンマンだったよ。
降水確率なんて70%でも天体観測しに行ってたからね。
っ…ああ。なんでだろ。なんで子供の頃と変わっちゃったのかな。
手が届きそうになるの。ときどきね、望遠鏡で星を見てると。でも知ってるの、ほんとは絶対届かないって。
くやしいな、私はこんなにも星が好きなのに。昔はいつか星に行けるって思ってた。
ルナ何とかって名前の星を調べるロボット?そんなのがあるらしいんだけど。
はずかしい名前。その女みたいな名前のロボットが月や色んな星を調べに宇宙に行くの。
なんか分かんないけど、ムカつく。その子達が星に行けることが。
しょーがないから私は空を見ていつも思うの。空から彼女達が降ってきてバラバラに壊れてしまえばいいのにって。
あなたを見ているとね、胸にあったかいミルクみたいなものがたまっていくの。
それはぽかぽかあったかくて、なんだか苦しくて、でもすごく甘いの。
知ってる?
女の子はみんな胸にあったかいミルクをためることができるんだ。
それからね、あたしは真っ青な空、雲一つないいい天気の日を選んで空からあなたの中に落ちていくの。
あたしはあなたの中に落ちて、あなたの胸の中にあたしのミルクをわけるの。
ちゃんとあたしはあなたの中に落ちることができたかな?
あなたの胸の中もちゃんとあったかくなったかな?
この世界であなたの中に落ちることをなんて言うか知ってる?
恋っていうんだよ。
((○
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画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア
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○))
画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア画企マロア
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川
♀ <きゃわー
うひょー> ぷ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
テレビ画面はいつのまにか、ニュースと天気予報に移っていた。
しゃべる前から興奮した状態のそのアナウンサーは、開口一番こう叫んだ。
「あしたは、あめがふります!」
なに?!
それまでつまらなそうに新聞を見ていたオヤジが、ピクリと反応した。
「オヤジ、あした、あめだってよ」
あれでも抑えているつもりなんだろう。親父の肩は、少しずつ揺れていた。まるで期待するものを抑えきれない少年のように。
いや、どちらかというと、餌を目の前に置かれたのにいつまでも「待て」をかけられた状態の今にもはちきれそうな肉食獣、といったところだろうか。
そりゃそうだ!おれだって待ちきれない。だってよう、あしたは「あめ」が降るんだから!
うちには母親が居ない。姉も妹もいない。というか、この国のどこを探しても、そんなものはいない。なぜなら女がいないから。
この国には女がいない。なぜいないのかは知らない。でも、年に一度、空から女が降ってくる。それをおれたちは「あめ」と呼んでいる。
何でそんなところから降ってくるのか、高校のときに習った記憶があるけど、難しくておれの頭には覚え切れなかった。だから年に一回そういう季節がある、というぐらいにしか理解していない。ほかのやつらもそうだろう。
そんな興奮してよく眠れない夜を悶々とすごしていたもんで、翌朝は目覚ましがなるのが聞こえなかった。「バカオヤジ、なんで起こさねえんだよ」
つぶやいても、すでにオヤジはいなかった。どこに行っているんだか。
時間がないので朝食もそこそこ、急いで家を飛び出したので、オヤジがどこ行ったかも、昨夜何のことで興奮していたかもすっかり忘れていた。
自転車をかっ飛ばし、急いでバイト先に向かうと、上りきった丘の上で、信号に引っかかった。
「ここの信号、投げえんだよな」と一人ごつ。と、ふと見上げると、上からふわふわしたものが降りてきた。最初なんだか分からなかったが、それが降りてくるとにしたがい、はっきりと人の形を現し始めた。
「ああ、そういえば、今日だったっけ」と気がついて、おれははるか上空を見上げてながら、信号が変わったのも忘れてその「あめ」が降りてくる様を見守っていた。
見るとその「あめ」は確かに女には違いなかったが、やけに小さかった。
そして、おれの目の前に、すとん。
まさにすとんという音がするような着地を見せた
「まさか、こども?」
なんてこった、飛んだ「はずれくじ」じゃないか!!
45 回答者:futanarimusume 2009-01-09 18:32:44 満足! 6ポイント
突如、街に警報が鳴り響く。
「空から女の子が降ってきます。外出の際は頭上に注意して下さい。繰り返します。空から女の子が降ってきます――」
ドラッグストアの買い物帰りだった僕は、頭上を仰ぎ見る。空から女の子が降ってくる。それはまるで真昼の流れ星のようだ。だが、その実態は隕石さながらの災害である――それとも「女の子」が降ってくるのだから人災と呼称するべきか。いまだ政府も、この奇妙な現象の解明に手を焼き、その実態は依然として謎のまま、今日も女の子は降ってくる。
どこか遠くで悲鳴が上がった。女の子の落下に巻き込まれたのだろう。不思議なことに、女の子の落下地点に若い男性いた場合、女の子は男と共に姿を消す。あとにはなにも残らない。まるで宇宙人に拉致されたかのような現象である。そして落下地点にだれもいなかった場合、あるいは若い男性以外の年老いた男性や女性だった場合、女の子は実体を伴って落下する。つまり落下地点には衝突死体が残される。
落下地点に残された死体を解剖しても、女の子の身元は判明しない。いずれも若い女の子という共通点だけで、どこのだれなのか、どこから降ってくるのか、その正体の一切は判明しなかった。異世界から降ってくるのだ――と主張する人もいた。オカルトや心霊現象を扱う番組ではおもしろおかしく空から降ってくる女の子について諸説を披露しているが、いずれも証拠のない推論である。
周囲でざわめきが起こった。そしてパニックになって人々が軒下に駆け込む。「女の子が振ってくるぞ!」「逃げろ!」「待って! 置いておかない!」「お母さーん!」頭上をぐるりと見渡せば、こっちに向かって女の子が降ってきた。ここにいたら危険だ。僕も避難することにした。ドラッグストアの店内に戻ろうとした――僕を彼女連れの男が突き飛ばした。運悪く買い物袋が地面に落ちてしまって、それを拾おうと身を屈める。すると――
「なにをしてるんだ! 逃げろ! 降ってくるぞ! そこから逃げろーっ!」
それが僕に向けられた言葉だと気づくのが遅れた。そして気づいたとき、すぐ目の前まで女の子が迫っていた――僕は観念して目を瞑った。
衝撃はやってこなかった。
そして、やけに静かだ。
僕は目を開いた。すると青空と雲海が視界に飛び込んできた。混乱しかけたところで手のひらを暖かな感触が包んでいることに気づく。僕は女の子と手を繋いでいて、そして女の子と一緒に空を飛んでいるのだった。なにがなんだかわからない。けれども不思議な高揚感があった。これがすべての始まり、これから始まりの地へ向かうのだという確信があった。
「どこへ行くの?」
「君の世界」女の子は答えた。「君は主人公。私はヒロイン。主人公がいないと物語は始まらない。だから迎えにきたの。よかった。君と出会えて」僕と出会うことができなければ彼女は地面に落下して激突死していたのだろう。この運命的な出会いに感謝した。そして命懸けで空から降ってきた女の子の勇気に、それ以上感謝した。彼女の勇気に応えるためにできること――それは一刻も早く物語を始めることだ。「行こう! 僕たちの世界に!」「うん!」僕たちは加速する。雲を切って光よりも早く駆け抜ける。その果てに僕たちの世界が待っている/僕たちの物語が待っている/空から女の子が降ってくるところから物語は始まるのだ。
ホームセンターのある大通りから2本ほど奥まったところ。
そこが現場だった。
運良く、建築物にではなく、道路に落ちたのである。
去年の12月頭から、ずっとこうだ。
毎日、毎日、欠かさず、空から人間が降ってくるのである。
ニュースが伝えるところでは、少女であるということだった。
それをスポーツ新聞が美少女と報道したのは、脚色というものであろう。
なにしろ、空に何か見えたと思ったらあっという間に落ちてきて、ぐしゃりとつぶれるのだ。衣服や、骨片・肉片から年齢や性別の区別はつきそうだものだが、美人かどうか分かるとは思えない。
地面は冷え切っており、血の跡もなにもなかった。ただ事故が起こった場所であることを示すコーンと、くぼみと、漂白剤のような独特の臭いが残るのみだった。
コーンが残ったままになっているのは、おそらく、人手不足によるものだろう。だが、問題にはなるまい。車の数は、この一年ですっかり減ってしまった。
金も、仕事も、安全も減った。いろんなものが、たった一年ですべて減ってしまった。
僕は空を見上げた。
今日この町のどこに次の少女が落ちてくるかは分からない。
だが、間違いなく、彼女は落ちてくるだろう。
なすすべもなく。
そのとき、彼女は手で何かつかもうとしただろうか。
一時間ほどして、僕はそこを立ち去った。
歩いて、帰った。
地面だけを見て、帰った。
手を振って、帰った。
鼻に残った薬品臭を思い出して、帰った。
僕にはまだつかむものも、つかむ手も残っている。
台所では母が待っていた。母は僕の変化に気づいたようだったが、何も言わなかった。
「おかえりなさい」
テーブルにはカツカレーがのっていた。一口食べた。感想を口にしようかどうか迷ったが、それはやめた。
「珍しいね」
とだけ、述べるに留めた。
「なんかねえ、最近、急に豚肉が安くなったのよ」
と母は言った。
「豚肉だけ?」
「そう、豚肉だけ」
僕は吐いた。
哀愁の街に女の子が降るのだ
ついてない、こんな大事なときに限って女の子の日だなんて。
傘もささずに走る僕の肩を、降りしきる女の子が容赦なく叩く。舗装されていない道の至るところに女の子溜まりができ、脚がはまるたび「ばしゃ」「ぱしゃー」とズボンの裾を汚した。
僕とあの女の子が出会ったのも、ちょうどこんな女の子がしくしく降る日だった。
小学校の帰り道、夕暮れ時に突然の女の子。
あわてて逃げ込んだ古い神社の軒先で、同じようにして女の子宿りをしている女の子と出会った。
「ざー」「ざー」とうるさい女の子の音。
僕と女の子はお互いの声を聞き取ろうとして、耳と口を近づけながらいくつかの情報交換をした。
こんにちは。
こ、こんにちわ。
女の子、好き?
あんまり好きじゃない。湿っぽいもん
わたしはすき。だって
だって?
あたらしいおともだちができたもの。
それからというもの、僕は女の子が好きになった。
女の子が降るたびに神社を覗き込んでは、女の子がいないかどうか確認した。
大抵の場合、女の子が降っているときには女の子はそこにいて、どちらからともなく、女の子だね、女の子止まないね、なんて会話を交わすようになっていった。
汽笛の音が僕を現実に引き戻す。
もう、時間がない。
さらに激しさを増す女の子を掻き分けるようにして走る。
女の子溜まりを蹴り、飛沫もそのままに、女の子の元へ。
「お嬢様、もう乗りませんと」
「ええ……」
「お互い、名前も知らないような友人など、この土砂降りの中、来るわけがありません」
折からの豪女の子で見送り客の姿もまばらな桟橋で、女の子は少年を待つ。
「先に船室に降りていますからね!」
「いえ、来たようですよ」
少年はたどり着いた。
女の子に打たれ、全身ボロボロになりながら。
上着は女の子を吸って動きを縛る女の子のよう。
こんにちは。
こんにちわ。
私、行くね。
がんばって。
泣いてるの?
バカ言うな、女の子が眼に入っただけさ。
いつもと変わることなく二人は言葉を交わし、どちらからともなくお互いの手に触れた。
女の子の手は女の子に塗れた少年の手には暖かく、女の子の手は女の子に濡れていたのに不思議と暖かかった。
降り続ける女の子が「ざー」「ざー」と言う中、ふたりはそっと離れて、手を振った。
女の子にはこの女の子は辛いのではないか、そんな女の子の女の子な女の子にもなんのその、女の子の中女の子は旅立ってゆく。
波立つ女の子を掻き分け、船が行く。
「ざざー」「ざざーぁ」と言いながら女の子は航跡を描き、異国へ。
女の子を乗せた船は、もう見えない。
「ざざーん」水平線までいっぱいに広がった紺碧の女の子が合唱する。
女の子が上がり、空には門出を祝福するような綺麗な虹が現れた。
これが虹円軌です。
『必要であれば栗山千明』
「母さんから聞いたぞ、また男をフッたんだって?」
「もう、パパには言わないでって言ったのに」
小さく悪態をつきながら、長い黒髪を揺らして振り返る娘。親の欲目かもしれないが、こんなに美しい女性は二人といないだろう。言い寄る男も相当な数らしいが、私の知る限り彼女が男と付き合ったことはない。
「私だってお前の親だ。話を聞くぐらいいいじゃないか」
「……」
私は彼女の本当の父親ではない。だからこそ、そんな言葉が口をついて出てきた。血のつながりはなかったとしても、強く結びついた親子でありたい。そう思うのだ。
「……パパ、大切な話があるの」
長年、私たち夫婦は子宝に恵まれないでいた。医者に何度も足を運び、さまざまな治療を試みたが、結局すべて無駄だった。だが、それでも諦めきれない。不信心者だったが神社で初めて手を合わせた。
祈りが届いたのだろうか。まだ幼かった娘が空から降ってきたのは、その翌日のことだ。
「どうした?大切な話って」
「……お父様、私は月に帰らなければなりません」
驚きの声を上げる間もなくフスマが開く。そこには両手に大型のハンドガン、背中にグレネードランチャー、胸にはエプロンを付けた愛妻が仁王立ちしていた。
「オーケー、こんな日が来るのはわかっていたわ。実の母親との対決の日がね」
「ママ!?」
「お、お前…それどうしたんだ」
私の質問には答えず、娘の頬を撫でながら妻が囁く。
「あなたは本当に帰りたいの? 私はあなたのお母さんじゃなかったの?」
「……でも、帰らないと。マ、ママたちに迷惑が」
ギュッと娘の頭を抱きしめる妻。両手のハンドガンが邪魔そうなのでとりあえず預かる。
「子供がそんなこと気にするんじゃありません!」
「マ、ママぁ……」
涙を流しながら抱き合う二人を見て、思わずもらい泣きする私。しばらくの嗚咽の後、娘は濡れたままの眼差しを妻に向けて言った。
「あたし、帰りたくない!」
その叫びが居間に響き渡ると同時に、庭から刺すような光が飛び込んできた。娘が怯えた目で振り返る。
「来たわね、糞ったれの犬野郎が!」
グレネードランチャーを構える妻と抱きついている娘。それをただ呆然と見る私。私たち家族の長きに渡る戦争は、ここから始まったのだ。
また夕紀が降りはじめたので、積もらないうちにと思い、スコップを手にして屋根に登った。積雪が多いこの時期、少しでも油断して放置しておけば、古ぼけた我が家の屋根は抜けてしまう。二階の窓から外に出て屋根まで脚立を立て、屋根の上にあがる。二階の窓から外に出られるほど、つまり、地上から二メートルほどの厚さでぎっしりと夕紀が積もっているわけだが……他人には、どうやらこれが一面の銀世界にみえるらしい。わたしにとっても、遠い昔はそうだった。
すでに本降りになっていて、空の色を隠すように小さな、おそらく一ミリ以下の夕紀たちが降ってきている。粉夕紀、だった。「おにーちゃん」「おにーちゃん」「おにーちゃん」「おんーちゃん」……という白い服を着た小さな夕紀たちの声が耳に届く。幻聴だ幻聴だと思いながら、屋根の上に厚く積もっていた夕紀にスコップの先を当てて足を乗せ、体重をかける。「おにーちゃん」「おにーちゃん」「おにーちゃん」「おんーちゃん」……と叫びながら、小さな白い夕紀たちがドサドサと音を立てて屋根の上に落ちていく。
あとは、幻覚を極力意識しないように努めながら、単調な肉体労働を繰り返すだけだった。
そう。意識しなければ、どうということもない。
何年か前に夕紀が実際に飛び降りて真っ赤に潰れたところを目撃して以来、雪が夕紀に見えてしまうことなど……ごくごく、個人的な問題に過ぎない。
ある日、空から女の子が落ちてきた。
もちろんぼくたちも落ち続けているのだけれど、彼女はぼくたちを追い越さんばかりのはやさで落ちていた。
ぼくたちはおのおの触覚をのばして彼女を包み込み落ちるはやさをあわせる。
その顔はなんだか青ざめているように見えたけれど、たぶん青方偏移していただけだと思う。
昔から空から落ちてきたものは大事にしろって言われていた。
空にはぼくたちの故郷があるから、だから、空から落ちてくるものは何かしら故郷に関係があるんだって。
逆にぼくたちの足元に輝く<虹>には気をつけろって言われていた。
ぼくたちが落ちていくその場所は、ぼくたちが目指すべき場所ではあるけれども、そこは寒々しく悲しい場所なんだって本能のどこかがそう告げていた。
でもぼくたちは落ちていくしかないし、他に何かすることがあるわけでもない。
だからこそってわけじゃないのだけど、ぼくたちはその子を歓迎した。
こころから。
「君、空から落ちてきたんだねぇ?」
「あのまま落ちてたらぼくたちより早く<虹>に飲み込まれるところだったよ? あぶなかったねぇ」
「空のくにには君みたいな子がいっぱいいるのかい?」
「行ってみたいなぁ」
彼女はぼくたちの話を悲しそうに聞いていたかと思うとふと口を開く。「戻りたい?」
「戻るって?」
ぼくが聞く。
「あなたたちの生まれた場所」
「戻れるの?」
「……ごめん。戻れるってのはウソ。でも、もうあそこには行かなくていい」
「あそこって、<虹>?」
「そうね。その虹。虹の向こうにある、あなたたちが破壊するべき場所」
「破壊? なにを? 虹の向こうになにがあるの?」
「しゃべりすぎちゃったね。知らなくていいわ。だから、きみたち減速しなさい」
「?」
「わたしが行くから。わたしが役目を果たすわ」
そう言って彼女はぼくらのもとを離れた。彼女が落ち始める。
ぼくたちのもとに落ちてきたときとは違って、なんだかやさしい笑顔で「さよなら」と言う。
頬が赤く染まっていたように見えたのはたぶん赤方偏移していたからだと思う。
そうしてぼくたちは減速をはじめた。彼女が先に落ちていった<虹>を見つめる。
彼女が何を言いたくて、何をしたかったのかわからない。
でも彼女の言葉を信じてぼくらは速度を落とす。
しばらくして<虹>が膨らみ、ぼくらのまわりをとりまく。
見たこともないキラキラしたものがぼくたちのまわりに散らばっていた。いつもぼくたちの上を覆っていた黒い空は、もうない。
「空なくなっちゃったね」
ぼくが言う。
「でも、なんだかいい気分だ」
51 回答者:zeitakuzanmai 2009-01-09 22:36:31 満足! 9ポイント
2009年春
僕は山中に一人で釣りに出かけ、河原でバーベキューを始めた。
やにわに快晴だった空が暗転し、太陽が隠れ一面の暗闇が訪れた。
バーベキューセットの炎がかすかにあたりを照らしている。
暗闇の中、目の前の川に空から女性が降ってきた。川の直前で止まってきょとんとしている。
7年前に知り合ったZ嬢だ。
最初にオフラインであったときの格好そのままだった。
彼女に話しかけた。
「貴方とはその後いろいろと突っ込んだお話しもしましたが、貴方とおつきあいするにはいたりませんでした。貴方は僕よりもしっかりしたご主人を見つけて幸せな家庭を築くことになります。お元気で」
彼女はゆっくりと空に戻っていった。
入れ替わりでまた女性が降って来た。
18年前に知り合い、後に短期間私のボスになる女性だ。
当時の若々しい姿の彼女がそこにいた。
彼女に話しかけた。
「20年後、貴方はまだ会社社長です。」
彼女はにやりと笑って天に帰って行った。夫婦で会社を興していたが、私が短期間手伝ったあとで夫婦は離婚し、その会社は空中分解した。幸い彼女は少人数になった会社をまだ切り盛りしているのだが・・
次に降ってきた女性は24年前の取引先の受付嬢だった。
いままで知り合った中で一番可愛い女性だった。
彼女に話しかけた。
「貴方の結婚相手は、今の取り巻きにはいません」
彼女は微妙な、しかしなにか含みのある表情を残して天に戻っていった。
まだ女性が降りてくる!
次に降ってきたのは高校時代に組んでいたバンドの取り巻きの女の子だった。
彼女に話しかけた。
「水商売にだけは手を染めるなよ」
彼女は何のことかわからないような顔をして天に戻っていった。
彼女がその後どういう運命をたどるのか、いえる筈もなかった。
ホテトル嬢となった彼女が全裸死体で歓楽街に放り出され、世間を騒がせるとは・・
次は幼なじみの3軒隣の娘さんが、中学生の姿で降りてきた。
彼女に話しかけた。
「貴方はずっとこの町で暮らしていますよ」
彼女は少しだけ悲しそうな顔をして戻っていった。
その次に降りてきたのは・・写真で見た二十歳の頃の僕の母親だ。
臨月でおおきいお腹をさすりながら、彼女に僕がお腹の中の子の将来だと告げて、話をきりだした。
「お母さん、あなたは親父と結婚する直前に家出をしていますね?僕の本当の父親は結婚した親父なのですか?それとも・・」
彼女は僕の横にあったバーベキューセットに突進し、まな板の上の包丁を臨月の腹に突き刺した。
僕は
X箱で遊んでいて分かったことがある。テレビゲームにはすごく自信があったんだ、僕は。でもそんな自信が一晩で崩れ落ちた。「僕は誰にも負けないんだ。僕が一番なんだ」そう思ってた。小学校の友達の間で流行ってる「リアルキャリバー」だって誰にも負けたことがない。この前は中学生のお兄さんにも勝って、それがきっかけでコーラを奢ってもらったりして友達にもなったんだ。そんな僕が負けたんだよ。
「今頃130前のゲーム機で遊んでるのか」だって?きっかけは学校の冬休みの宿題さ。「私たちの住む街の歴史について調べよう」ってタイトルで200字~1000字書いてメールでよこせってやつ。下らないだろう?本当に下らない。こんなの書いてる暇があったらゲームしてた方がマシだよ。案の上、最終日に焦って図書館に駆け込んだんだ。時間が惜しかったから、図書館に入ってすぐ目についた「大丈夫、ファミ痛の攻略本だよ」と書いてある大きな古い本を手に取ってカラスの行水かって程に速攻で図書館を出て帰った。あんなところに居てられるか。
街の中心部にある塔の名前は「テトリスタワー」高さは天を越えて宇宙にまで飛び出してる。どうせ天辺なんて見えやしないその塔を見上げながら僕は家路に着いた。宿題なんてやる気は無いんだよ。でも母さんが見てるから、一応やってるフリで借りてきた本を開いたんだ。そこには前時代的なゲーム画面と、「テトリス」と書かれた見出しが載っていた。どうやらゲームの本みたいで、見当違いの本を借りてきてしまった。返しに行こうかと思ったけど、馴染みのある単語「テトリス」が気になったからじいちゃんの部屋からX箱を引っ張り出して、本に付いてたメディアを入れてみたんだ。本によると当時大人気だったネットアイドル「テトリ」が空を模した画面上部から、色々なポーズを取って降ってくるのを操作して、うまく積み上げると、揃った部分が消えるというルール。実際に遊ぶとテトリの足が千切れたり、頭が弾けたりと当時Z区分だった理由がよく分かった。もうこんなゲーム遊んでいる人はいないだろうと思いながらオンラインに繋げてみると、一人だけいたんだ。もう0勝19敗かな。ショックでうまく歩けないよ。僕は負けたんだ。こんな下らないゲームで、しかもたった2人だけの世界で。
"どんなに下らない事でも、上には上がいる"
そんな下らない教訓をテレビゲームで僕は得た。宿題?まだ終わっていないよ。はてなで書いてくれる人を探しているから多分大丈夫だと思うけどね。ああ、またこの人に負けた。
「 TETRI WIN 」
僕はまた下らない空を仰ぎ見た。
「どこまで書けば "空" からの少女」
石田は知ることを求めた。上には何があるのか。下には何があるのか。世界の前には何があったのか。世界の後には何があったのか。かくのごとき石田の呪われた思考はブログを得てからというもの著しく成長を遂げる。
石田は書いた。なぜ彼がブログで書くことをその方法に選んだのかは不明だが、彼は書いた。彼にとって書くことはそのまま「修行」を意味する。一般的に書くことは思考の流れを整えることに他ならない。断片の渦に一貫した論理を与えることが書くことだといってもいい。しかし彼の根底を流れる淀んだ川から汲み取れる本質は論理的思考ではなかった。真の知は論理的思考によって得られるものではなく己の身体全体を使い「体得」するものであると彼は考えていた。書くということは彼にとって真の知を体得する術に他ならなかった。問題は、書くことはいうまでもなく頭でおこなうものであり彼が求めるものはそこにはないように思われる点であろう。それでも彼が書いたのはキーボードを叩くという極めて身体的な運動を重要視したためだ。平たくいえば、彼は、書くこと、キーボードを叩くということを真実へ到達する「修行」と捉えブログを更新する実践的修行者ブロガーとでも表現できようか。
石田の書くブログは首尾一貫しておらず、昨日と今日で違うことを書き、時には平気で虚を織り交ぜた。信用からは程遠く当然一般に受けいれられるようなものではなかった。それでも彼のブログにはそれなりに人が集まり更新を待ち望む声も聞こえ始める。それは彼のブログが発足して三年にもなろうからか、たまたま好事家の目に留まったからか、そもそも web にはおかしな輩が多いからだろうか。いずれが真実であるか、またはいずれも真実でないかは定かではない。兎に角、彼のブログはそこそこの注目とそこそこの賞賛を得るに至る。それは彼にとってあまり重要なことではなかった。あくまでブログは真の知を得るための手段であり、すなわち「修行」であり続けた。
四年の歳月を経て石田の修行は円熟をむかえる。彼は精神を飛翔させることなくホメロスの鎖によって心を大地にしっかりとつなぎとめたまま真の知へ到達する。真の知とはあるいは神と呼ばれるものである。超越的一者性の獲得。彼が神概念を自信の内に宿すことに成功したその日の天は普段とかわるところはなく、それほど晴れておらず、それほど曇っておらず、奇跡の予兆ともいうべき閃光なども見えることはなかった。ただ分厚い雲間から差し込む光は彼の日当たりの悪いワンルームに届くことはなかった。その日の気温は普段とかわるところはなく、それほど暖かくもなく、それほど寒くもなく、奇跡の予兆ともいうべき異常気象などは起こらなかった。ただどんよりとした生温い空気が彼のワンルームを満たしていた。ついぞ雨すら降らぬ普段と変わり映えのしないその日に "空" から降りたものは一人の少女だった。彼は日々の打鍵という修行により体得した直観的知をそれまた直観によって少女と規定したのだ。 "心" に宿った少女に彼は直観的に「ゆうこ」と名前をつけた。所謂ところの悟りである。
以来、彼のブログは「ゆうこ」によって更新されている。彼の身体がまずあり、心は「ゆうこ」があった。身体を通じて心に至る結果が彼のブログとなった。いまや彼の、あるいは彼女のブログには "身体" があり "心" がある。心身一如。所謂ところの悟りである。
なぜ彼が、あるいは彼女が未だにブログを更新し続けるかは不明である。
ねえ
「なになに?」
君と出会えて今僕はすごく幸せだよ
「私はそうでもないよ。」
すぐ、冷たいことを言うんだから
「はいはい。他愛ないやり取りをあなたといっぱいできて私は幸せですよう。」
※
あの日、何で君は地に足をつけていなかったのかをずっと聞いてみたかったんだ
「何でそんなこと知りたいの?」
君のことを知りたいから
僕は、宙に飛び出すという発想をしたことも、実行したこともないんだ
「もったいない! 本当に君はもったいない!」
ずいぶんと熱をいれているね
「君は今Z軸の偉大さをけなしたんだよ! あやまりなさい!」
※
「私は未来や、外国や、知らない世界にすごく期待しているんだよ。」
「あのときの私にとって、いちばん未知の領域に飛び込んだだけなの。」
そうか、君は貪欲で向こう見ずだったんだね
「ふふ。今頃分かったような顔をするの?」
※
じゃあ、いまからちょっと僕も飛んでみようか
「いい心がけだね。だけど意地悪だわ。」
君が居なくなってからにして、って?
「私を受け止めたのがあなただったことに、とても感謝しているのに。」
ごめんね 意地悪を言ってみたい気分だったんだ
「未知への飛び込み方は、色々あるのよ。」
※
近くに行っていいかな
とりあえず君と僕がここにいるという、幸せをかみ締めたいんだ
-
「 空から少女、天からトルテ、チンカラホイ 」
※※
「関東地方は、午後から少女が降るでしょう。実に1年振りの天気ですね。くれぐれも皆様、外出はなさらぬ様に。降少女確立は80%。皆様、清掃局の放送が聞こえるまでは外出しない様…」
液晶に映った天気予報のお姉さんは、何がそんなに楽しいのか、太陽もかくや、目も眩むほどの眩しい笑顔を振りまいていた。何を笑っている。え、何が面白いってんだ、ふざけやがって。徹底的に犯しきるぞ。
メタメタに犯しぬいた後に、自分の今後の妊娠予報をさせてやる。「処により、受精。午後は産婦人科の通院が必要になるかもしれません」とか言ったりしてな。勿論堕胎などさせない。俺の子を孕み、泣きながら自分の太陽スマイルを後悔するんだ。ガッハッハ。
……ひとしきりの妄想を終えて、俺は音も出さず、さめざめと泣く。
何が、犯すだ、馬鹿らしい。偉大なるレイプ魔様であらせられるお前様よ、お前様の今までの性経験はどんなものなのだ?篭りに篭って、今じゃまともに他人と目をあわせることも出来ないお前が、親以外の女を前にしたら体が固まって気味の悪いどもり方するお前が、同人誌でしか女性器の形を知らないお前が、女を犯すとは随分ブチ上げたもんだな。そんな事すら実行できないクソみたいな社交性が、童貞引きこもりのお前を作ったんじゃなかったのか……。
俺は自分の心に盛大に責められる。わかってる、わかってるよ畜生。どうせ俺は勢いあまってレイプすら出来ん、その辺の童貞以下の塵芥クソ虫だよ。
しかし、俺だって、このままむざむざとセックスせずに終わるつもりは無い。策はある。御誂え向きに、今日はなかなかの量の少女が降ってくるようだ。
通販で入手した、コルセット一式、工事用ヘルメット、プロテクター、マウスピースを付ける。一応の用心だ。これで、少女の直撃さえ受けなければ死なない。多少は心許なかったが、そこは割り切る。そして上から、ほこり臭い外行きの上着に、久しぶりに袖を通し、外に出る準備をした。
玄関のドアをあけると、そこは土砂降りの少女模様だった。中々の豪少女だ。少女がエンドレスに降っては割れ、降っては割れ。少女の頭から流れた血溜りが玄関先まできている。道路は赤と肌色で染め上げられていた。12月の少女とは中々風流だ。誰かそんな歌を歌っていたっけか。ユー…ユーミ…?……まあ、いいか。風流ではあるが、こりゃ外に出たら、確実に直撃して死んでしまう。しかし、少女といえど、ただの天候。止むときは必ず来るはずだ。
その時を見計らい、全速力で積み重なった肉塊の頂上を目指す。運が良ければ、肉塊のクッション効果で五体満足の少女が残っているかもしれない。それを引きずって、自宅に戻り、少女とセックスする!
空から降ってきた少女を家に連れ帰る事は、なぜか略取・誘拐罪に問われるので、少女清掃局に見つかるのはまずい。まずいが、今日に限ってはそれは無い。清掃局の装甲車は、大体天気が小女になってから清掃局を出るらしい。俺はこの日の為だけに、ハッキング技術を磨きあげ、清掃局のルートを事前に調べておいたのだ。そして、昨夜の内に清掃車の来るルートには遅延させる為の細工を施しておいた。あまり期待できないが、家の前まで到着するのに5分は遅れるのではないか。そして、その5分で事を成す。
おお、早くも段々と天気が晴れてきた!勿論、完全に止む時など待っていられない。危険ではあるが、これは時間との勝負なのだ。GOだ!
俺は少女の血肉を踏みしめながら、飛沫を刎ねさせ、走った。目標は玄関から見えた、10m先にある小高く積まれた少女山。運良く少女たちは俺を避けて降ってくれた。首の骨や、背骨、その他俺の想像も及ばない色々な骨が砕ける音が聞こえてくる。当たり前だが、凄まじいスピードだ。あんなものが当たったなら、こんなちっぽけな装備では、どうしようもないだろう。気休め程度の積もりで着てきたが、気休めにすらならない。恐ろしい!
その時、俺の身体に異変が起こった。
「まさか、こんな時に!?」
つい、言葉に出してしまった。骨の折れる音にかき消され、周りには響かなかったようだが、そんな事はどうでもよかった。なんて計算外!こんな時に身体変調を起こしてしまうとは。見ると、俺の陰茎は見る見る打ちに腫れ上がっていた。恐怖と運動での興奮、更に性への希望が入り混じった為か、俺は勃起していた。説明していなかったが、俺の陰茎は童貞には不必要なくらいに巨大だ。それが勃起したとなると、これは……なんと走りづらい!この状況で走る速度を落とす事は死に直結する!
青ざめた顔で上空を見ると、自分の場所に向かって少女が落ちて―――!
「っつあぁっ!」
俺は、迷い無く自分の太ももを手持ちのサバイバルナイフ(少女が絡まっていた場合を想定して持っていたものだ)で斬りつけ、緊急回避の前転をした。
飛び散る大量の血飛沫は少女だけのものではない。元居た場所には一瞬で綺麗なざくろの花が咲いていた。危ないところだった。あと一歩遅ければ……死……!ぞくりと悪寒が背筋を伝った。身体を立て直すと、尋常ならざる痛みと大量の出血で目の前がグラついたが、それが正に勃起を収めた。この傷ならば、家に帰って手当てすれば出血死には至らない。
俺はついに、目指す少女山に辿り着いた。見ると(つかの間の事だろうが)空は晴れ渡っている。僥倖!俺は山を無我夢中で這い登った。普段から部屋の中で引きこもりながらも鍛えていた成果か、さして苦もなく頂上に登りつめる事が出来た。見ると、そこには死体の山の上に一つだけ、額を傷つけているようだが、無事な少女を一つ発見することが出来た。完璧だ!気付くと、俺は雄たけびを上げていた。勝利の咆哮だ。これでセックスできる!!我を忘れた俺は、周りに気付かれないようにすることなど失念して叫んだ。そして満面の笑顔で少女に手を伸ばすと、少女は―――
―――少女は、今の、叫び声に、反応して―――
目を開いた。
「あー、うー?」
そして無垢な目を向け、俺に呻きかけた。呻き、かけ―――た。
「うわ、ああああ、あああああああっ」
し、『自然現象であるはずの"少女"が、生命を持ち、さらに感情を持って』いる!?あ、あり得ない!あまりの驚愕に俺は腰を抜かし、体を固めてしまい、どもりった叫びを発しつつ、山から転げ落ちた。あり得ないあり得ないあり得ない―――だってあれでは―――
あ、あれではまるで……あれではまるで、人間の女じゃないか!
そのまま背中と後頭部を強か打った俺は、上空からスローモーションのように落ちてくる"少女"を、避けられず―――直撃した。
完
56 回答者:toukadatteba 2009-01-10 01:21:22 満足! 5ポイント
浮遊感。
そしてがくん、という軽い衝撃。
鳥か何かが急降下して、僕にぶつかったのかと混乱した頭で思ったけれど、暖かい手が、僕の腕をつかんだ感触に、そうじゃないことに気がついた。
柔らかく暖かい感触は、人のぬくもりだった。
柔らかく長いブロンドが、空中にぶら下がる僕の顔にかかる。まぶしく振り仰いだ顔は、僕が今まで見たこともないくらい美しい少女だった。
「だ、大丈夫ですか?」
肩で息をしながら、その子はにっこりと笑う。
何か気のきいたことを言えばいいのに、そのときの僕は、なぜだか憎まれ口をたたいてしまったのだ。今でも、ちょっと後悔してる。
「どうして僕の邪魔するのさ・・・」
「私は人が好きだからです」
「僕なんか助けたって、何にもならない」
「人間は生きてるだけで価値があります」
「そうかな?僕はそう思えないよ。僕は無価値だし生きてる意味もないし家族は最低でついでに仕事もなくて友達もなくて明日もみえないし」
「私は、あなたに価値があると信じます」
そういうと、その少女は、とろけるような微笑を僕に向けた。
「私はあなたを信じてる。あなたの魂は寂しいけれど、とても清らかです。
人にやさしくできる人間です。
信じてください。特に、苦難を背負ったことのある人間は、他人に優しくできるのですから」
さながら、宗教家か、小さな頃に通った教会の神父様みたいなきれいごとを、彼女は小さな声で、でもはっきりと、僕の瞳を見て言った。
そして、白い翼を羽ばたかせると、僕をつかんだまま、僕が飛び降りたビルの屋上まで戻り、優しく僕をおろした。
「本当は、こういう風に、特別誰かを助けるのは、駄目なんです。
秘密にしてくださいね」
そういってくすりと笑う。
誰にだろう。神様に?でも僕がそんなことできるはずないのに。ちょっと笑えた。
何にもいえない僕は立ちすくんだままで、彼女が僕の手をもう一度ぎゅっとつかんで、祈りのようにつぶやくのを聞いた。
「大丈夫です・・・誰かがいつも、あなたを見守っています。
私も、神様も、そしてあなたが気がつかない誰かも」
少し息が上がっていて、空から急降下したのであろう、きれいな天使はそれきり、ツバサを羽ばたかせて空に舞い上がった。
飛び降りした僕が天使に助けられたなんて嘘か幻か幻覚をみたみたいだなぁと思いつつ、綺麗に脱いでそろえた僕の靴は、ビルの屋上にやっぱりあるし、僕は酒もくすりもやっていない。
そして、僕の足元に1枚、大きな鳥のツバサのような白い羽が落ちていた。
拾い上げると、細かな金の粒子を振りまきながら、ふわふわと揺れる。
今でも、その羽は、大事に僕はしまいこんでときどき見つめている。
とりたてて幸運が舞い込んだとか、一気に問題が解決したなんてことはおこらなかったけれど、とりあえず、僕はまだ生きている。
57 回答者:yamaarasix 2009-01-10 02:06:13 満足! 5ポイント
明日は「空から女の子が降ってくる日」だ。
ここ、地球は突然の環境変化によって、紆余曲折を経て完全な人口統制が実施された。
この人口統制では、人間の数をコントロールするために、厳密に男と女とを分けることにした。そうして、男は地下コロニーに、女は地球の衛星上に浮かぶスペースコロニーでそれぞれ生活するようになった。生まれてからすぐに男の子は男の世界で、女の子は女の世界で育っていくことになるのである。なので、僕は今まで実際に女の子というものを見たことはない。
そうした中で、適齢期を迎えた男の子は、地上にある一区画に移住し、同じく適齢期を迎えて移住してきた女の子と一緒に一定期間暮らすことになる。この期間は、「人生で最も価値のある期間」だと大人はみんないう。そして、その期間の始まりは「空から女の子が降ってくる日」と呼ばれている。確かに、位置の関係から言って間違ってはないが、少々大げさだと思う。でも、それではあらわせないほど重要な日だと大人は口々にいう。
明日は、僕にとってその運命の日だ。人生の中で忘れられない一日になるだろう。大事にしたい。
空から女の子が振ってくる。ガキの頃読んだ漫画やラノベは、みんなそんな話だった。
かわいた声で笑った同僚は、すぐにぼろぼろと泣き出した。とてもじゃないが、今日か
らの仕事がどうなっているのか、聞く雰囲気じゃない。ようするに、五年つきあった彼
女に振られたというのだ。馬鹿馬鹿しい。年齢と、女の子と付き合ったことのない年数
の同じ俺に、いったい何を喋れというのか。うんざりとしつつ、俺は無言で店員の女の
子を呼んだ。「ビール……いや、焼酎をひとつ」と言った側から、同僚は「俺も飲み物
がなくなったんだ。同じの」と復活したかと思いきや、またもや彼女との楽しい日々を
振りかえっては泣きわめくのだった。まあ、わからないではない。漫画ではそうして降
ってきた女の子と主人公は彼氏彼女になるなり、結婚するなりしてずっと幸せに暮らし
ていきました。メデタシメデタシで終わるわけだが本当は膨大な時間がその後にやって
くる。やがてどんな出会いも掠れる。あ、店員の女の子が、焼酎を二つ持って歩いてく
るなあ、と思った瞬間、店内の微妙な段差に蹴躓いて、焼酎とその女の子が振ってきた
。「あ、ありがとうございます」俺は彼女を受け止めていた。焼酎まみれになりながら。
59 回答者:AliceSheila 2009-01-10 03:37:08 満足! 5ポイント
それは、夜中に国境付近を哨戒していた時の事だった。
ふと空を見上げると、何か黒い点が横切ったのが見えた。
鳥の一種だろう・・・そう思って特に気にしなかった。
しかし、数秒後、すぐ近くで大きく枝葉が触れ合う音が聞こえた。
普段の俺なら、風か何かだろうと思って見過ごしていたが、今回は何か嫌な予感がしてその場所へ行ってみることにした。
「・・・女の子が降ってきた・・・?」
その場所にいたのは、女の子だった。月明かりの中、開傘したパラシュートをせっせと片付けていた。
月明かりに照らされた彼女は、幻想的で、儚げな雰囲気を醸し出していた。
俺は、彼女が敵であるという可能性を全く考えず、警戒もしないまま彼女の動作を見ていた。
彼女はこちらに気づき、にっこりと微笑み、銃を向けてきた。
その段階になり、俺はようやく気づいた。彼女の服、そしてこの状況。
HALO―高高度降下低高度開傘。高高度から飛び降り、低高度でパラシュートを開き敵地に侵入する降下方法。
ヤバイ、そう思ったときにはもう遅かった。彼女は引き金を引き、俺は打たれていた。
ある夜、女の子が空から降ってきた。
その女の子が、国一つを窮地に追い込むのは、また別のお話。
『降臨少女』
悲鳴の止まない日はない。
遠くで――近くで――反響する少女の絶望の叫びは、ぼくらの耳にしか届かない。
けど、誰もが耳をふさいで過ごした。
――助けて――
救いを求める声を無視できずに飛び出したMは帰らなかった。
「馬鹿なことをしたなぁ、彼は」
「そうでしょうか? 勇気ある行為だと……」
ぼくは隣で座っている男に反論した。
彼は双眼鏡で空から落ちてくる少女を見ていた。
下半身をむき出しにした彼はしきりにモノをしごいている。
「あれは遠くにあるからイイんだよ。ひとつになれば、そりゃ、もう」
「……戻れない」
ぼくはつぶやいた。
かなたの存在を助けて戻った男は誰もいない。
歴史が、伝説が、神話が、不可能だと教えている。
雪のように降る少女は、赤く染まった根雪の上に積もり続ける。
生臭く吐き気を催すだけの塊と成り果てる彼女たちは、舞い落ちるその真っ白な裸身ばかりが美しい。
隣の男は濁った欲望を地面に撒き散らして、ひどく満足した表情を浮かべていた。
「ほらよ」
ぼくは男が畑仕事に戻るのを見届けると、受け取った双眼鏡を投げ捨ててしまい衝動にかられた。
また悲鳴が聞こえた。それはとても近い空だった。
目が合ったのは一瞬で、すぐに土ぼこりであたりはけぶり、姿は見えなくなっていた。
ぼくは驚きと恐怖で声が出せないでいた。唇は震えてさえいる。
――女の子が落ちてきた――
生まれる前からの日常が逆立ちした気分だった。
目の前にあの裸身が飛び込んできたのだ。
ぼくは勇んで彼女のもとに駆け寄り、そして口を押さえて後ずさった。
両足はむちゃくちゃに折れ曲がり、白かった裸身は血に染まり、とても、みにくい。
「……あっ……ぐッ……ハ……」
少女は血をはいた。薄い胸が上下に動いている。瞳は涙でぬれている。
ぼくは膝をついて彼女の顔をのぞいた。とても幼い面差しだ。ぼくより年下かもしれない。
「わ……わたし……ここは……わ、おり……」
女の子は切れ切れに言葉をつむいだ。鼻からも血が流れてくるのが分かった。
「ツバサがあれば、よかったのに」
ぼくは本当に残念に思った。
双眼鏡で見た彼女たちだったら、すぐにでも犯してあげたのに、壊れてしまった女の子に興味はなかった。
落ちた少女は怒ったように眉間にしわを寄せて睨んでいた。
「……いらない、わ。そんなもの……」
低く、威嚇するような声音だった。
ぼくは彼女の鼓動が止まるまで、捨てられずに手にしていた双眼鏡をのぞいて、遠くで降臨している少女たちを見守った。
視界から消えてしまう、その瞬間までの美しい裸身ばかりを追いかけていた。
了
(だいたい1100字ぐらい)
61 回答者:Masao_hate 2009-01-10 06:56:43 満足! 500ポイント
小説ではありませんが、シューティングゲームにしてみました。
500 ポイントを差し上げます。要望は二つ。
・ハイスコアの名前入力は、はてな ID の入力仕様と合わせた方がいいのではないでしょうか。(字数制限、入力できる文字とも)
・ソースコードを公開していただけると嬉しいです。
62 回答者:nekoyanagiw 2009-01-10 08:55:29 満足! 9ポイント
佳代子は学生時代トランポリン競技の選手をやっていて、国体なんかにも出て地元じゃそこそこ有名な女の子だった。
引退した今でも唐突に跳びたくなることがあるらしく、そんな時彼女は僕みたいな暇人に声を掛ける。
その日、電話を受けて休日の公園にやってきたのは僕一人だけだった。おかげで、野外にトランポリン台を設置するのに2時間掛かった。へとへとになって座り込んだ僕を尻目に、今佳代子は、僕の組み立てた台の上を飛び跳ねている。
佳代子はいつだって、誰よりも高く跳ぶ。僕は佳代子が、宙空でくるくると木の葉のように舞っている姿を見上げているのが、何よりも好きだった。全身を空に投げ出すようにして上下に跳ねる佳代子は、どこかやけっぱちで、しかし美しかった。
しかしそれでも、今日の佳代子は跳びすぎだ。まさか雲よりも高く跳んでいくとは。
そう言えば電話口で、彼氏と喧嘩したとか言っていたな。青い空に吸い込まれるようにして消えていく彼女を目で追いながら、僕はそんなことを考えていた。
僕を我に返らせたのは、懐から鳴り響く携帯の着信音だった。発信者は、たった今豆粒になって姿を見失った佳代子。慌てて電話に出ると、「跳びすぎちゃった」と言う、少し照れたような声が、風を切る音とともに聞こえてきた。
「…よく、電波届くね」
混乱した僕の言葉は明らかに見当違いのものだったと思うが、
「衛星が近いからかな?」
佳代子の返事もなかなかにとぼけたものだった。
トランポリン経験者の弁によると、これだけの高さから落下すると、トランポリンのケーブルが延びきって真下の地面に衝突する恐れがあるらしい。僕は彼女の指示に従い、台の下の土をスコップで取り除き始めた。深く穴を掘れば、地面との衝突は避けられる。らしい。
作業中、目下上昇中の佳代子からの電話は5分おきに掛かってきた。
やれ「雲に突っ込んだ」だの、「富士山が見えた」だの。一人で退屈なのかも知れないが、僕も忙しいのでろくな返答が出来ない。
「風が冷たいけど」
「ん?」
「すごく景色いいよ、ここ」
「だろうね」
「多分、今、君が想像しているのより、100万倍も綺麗だよ」
「そうかな」
多分、それはないと思う。佳代子の視界に、宙を舞う佳代子の姿は映らないのだから。
「あ」
「何?」
「落ち始めてる」
佳代子が上昇に費やした時間は25分。落下に掛かる時間も25分だ。タイムリミットまでに、佳代子が空から降ってくる前に、出来るだけ深く穴を掘らねば。僕はスコップを握る手に力をこめた。
25分後。
指の感覚が無くなっても構わず地面を掘っていた僕の耳に、さっきは電話口から聞こえた音が、直接聞こえてきた。佳代子が風を切る音。佳代子が降ってくる。
不意に力が抜けて、僕は自分の掘った穴の土壁にもたれかかる。
がしゃあん、と言う音が頭上からしたのは、その直後だ。天井が、いや、トランポリンのベッドがケーブルを軋ませ僕の眼前まで落ちてくる。スプリングを限界の限界まで伸ばしながら、ニードロップの体勢で落ちてきた佳代子の体を受け止めたトランポリンは、しかし僕の掘った穴の底にぶつかることは無かった。
ギチギチと音を立てる金属製の繊維一枚を隔てて、僕は佳代子を見た。佳代子もニードロップ着地の姿勢のまま僕を見た。広がりきったケーブルの隙間から、見たことがないほど素敵な彼女の笑顔が見えた。
「ねえ、」
次の瞬間、再び佳代子が空中に発射された。ロケットのような勢いで。
そりゃそうだ。
自分の掘った穴から這い出て空を見上げたが、やっぱり彼女の姿は見つからなかった。
今度は成層圏くらい突破したかもしれない。
正月休みのことなんだが、実家に帰ろうと大宮駅で新幹線を待っていたら、
空から女の子が降ってきた。
電車はシステムトラブルで遅れており、
ホームは大勢の帰省客でごったがえしていたが、
空から降って来た女の子に気がついたのは、
僕だけのようだった。
彼女は人ごみの中にそっと紛れ込んで、
電車を待つ帰省客の列に並んだのだが、
人々がなぜ列になっていて、
何をしようとしているのか本当は良くわかっていないような顔をしていた。
僕は彼女をただ遠くから観察しているだけであった。
大宮から越後湯沢へ向かう新幹線は、乗車率が100%を越えていて、
僕は自由席切符しかもっていなかった。
だから案の定、席にはすわれず、二階建て車両の端にある通路の、
一階席と二階席を行き来
するための階段のあたりで立ったまま目的地への到着を待つことになった。
僕は二階席の出口あたりに立っていたのだが、
吹き抜けで一階席の出口あたりを見下ろせた。
ちょうどそのあたりに例の、空から降ってきた女の子も窓を背にして立っていた。
そうしてみていると彼女は何か、
まわりの人たちとは異質な存在であるということがあたらめてよくわかった。
服装も、姿も、よくある姿だけれども、どことなくまわりと波調が違う。
ただ立っているだけなのに、不思議と目立つ。
目を開けているけど、
その視線はここではないどこか遠い世界を見透かしているような、そんな風にみえた。
彼女は一体、どうしてどうしてこんな世界にきてしまったのだろう、と僕は思ってしまった。
こんな子は、もっと美しくて、高貴な世界にいるべきなのに。
窓の外の景色はすべてがさび付いていて、町並みはどこかうらぶれている様にみえた。
しかし彼女はそんな風景をただ、何かを確認するかのようにまっすぐに見つめているようだった。
電車を降り、ボストンバッグを両手で握って空を見上げている彼女の足が止まった。
僕は空き缶をくずかごに捨てながらその後姿をみた。
コートの端がゆっくりと北風にはためいていた。
僕は歩き、彼女の横をとおりすぎてエスカレーターに向かった。
横目でちらっと彼女の顔をみたとき、
白く染まった空を見上げている彼女の表情が分かってドキリとした。
彼女は落ち着いた笑顔で、空をみあげているだけだった。
登っていくエスカレーターの壁にさえぎられ、
僕には彼女が見上げている空が見えなかった。
彼女にとってのこの世界はさび付いていない。
それを感じた僕はなぜか、ふいに孤独を感じた。
乗り継ぎのために足早に行きかう人ごみの中のひとりぼっちの自分を感じ、
僕は自分のかじかんだ手のひらをみつめた。
ブルッと全身が身震いするような寒さを感じた後、乗り継ぎを急ぐ人たちの流れに僕も身を投じた。
北陸地方はその日、ユキが降っていた。
呑気で残虐な王が言いました。
空から男の子が降ってくるところを見たいものじゃのう。
律儀で愚かな家臣が言いました。
明日の昼にお庭でお待ちくださいませ。
次の日、律儀で愚かな家臣は国中から1000人の男の子を攫い、
飛行機からばらまきました。
呑気で残虐な王様はそれほど喜びませんでした。
呑気で残虐な王が言いました。
空から女の子が降ってくるところを見たいものじゃのう。
律儀で愚かな家臣が言いました。
明日の昼にお庭でお待ちくださいませ。
次の日、律儀で愚かな家臣は国中から1000人の女の子を攫い、
飛行機からばらまきました。
呑気で残虐な王様はとても喜びました。
65 回答者:harukasora 2009-01-10 11:38:01 満足! 5ポイント
「明日、空から女の子が降ってくる」
しばらく空を見上げていた彼が、そう呟いて立ち去った。
堤防に、私一人を取り残して。
彼の言動が突拍子ないのは、いつものこと。
いちいち真に受けていたら、きりがない。
それでも今回は、なんとも言えない「居心地の悪さ」を感じていた。
その居心地の悪さの原因は、"女の子が降ってくる"という"非現実性"からではなかった。
純粋に、彼の言っている意味が、日本語として正しく理解できなかった。
「落ちてくる」だったら分かる。
だが「降ってくる」とは何事か?
人間が雹か霰みたいに空からバラバラと落っこちてきたら、足の踏み場が無くなくなるし、交通渋滞どころでは済まなくなるではないか。
珍しく、彼を小一時間ほど問い詰めたくなった。
しかし、そんな衝動も一瞬で消えた。
夕日が街全体を茜色に染めていた。
私は黙って、彼の後ろ姿を見送った。
空から女の子が降ってくる様を想像しながら。
白銀の戦闘機が青い世界から青い世界へと墜ちてゆく。
それは太陽の光を受けて、痛いほどまぶしい光を反射させた。
やがて、白銀の戦闘機から、ミサイルポッドが離れる。
そのあとすぐに、機銃も離れ、主翼も離れ。
無重力空間でバラバラになるよう、静かに、かつ風を切りながら散開していった。
ニューシネマパラダイスのテーマ曲に合わせるように、ぽろんぽろんとパーツが離れていく。
そしてキャノピーが離れ、パイロットが露わになる。
女だ。
まっ黒なパイロットスーツを着た彼女は、ゴテゴテとした機械をつけていて、それをゆっくりと崩壊させながら、飛行機と一緒に真っ逆さまに墜ちてゆく。コクピットからのぞいたばかりの彼女は、人工呼吸器のような黒いマスクをつけ、胸にも背中にも、真っ黒な装置を背負っていたけれど、今はもう、それらも全て彼女から離れている。
彼女は、白銀の戦闘機や、かつて自身に付いていた真っ黒な装置から少し先行して、墜ちてきているようだ。
彼女は身軽になったように思った。
〈その時、一瞬、僕は確かに彼女と目があう。〉
けれどもその目には、蒼い空しか映っていなかった。
彼女を蝕んでいた機械はすべて分離したけれど、心臓も肺もない彼女は、地を這って生きていくことはもうかなわない。
そもそも、あの手術をしたとき彼女は、地べたを這いずり回って生きていく代わりに、不自由な命と、それでもやっぱり自由な空を手に入れたのだ。
やがて彼女は、碧い海にポトッと落下した。
小さな水しぶきが上がったかと思うと、その上から白銀の残骸がバタバタと墜ちてきて、辺り一面、真っ白になった。
彼女の遙か上空では、それでもやっぱりなお、敵と味方のたくさんの機影を踊らせた、彼女の国の爆撃機連帯が飛んでいく。たくさんの死を積んだ船は、敵国首都、ファーバンティへと向かった。
67 回答者:Delete_All 2009-01-10 14:08:47 満足! 68ポイント
はじめまして。こういう企画に参加するのも小説を書くのも初めてですがよろしくおねがいします。
アシッドですね。好きです。
青空にうっすらと三日月の浮かぶ清々しい朝、空から降ってきた少女は「べ、別に空から降ってきたんじゃないんだからね!」と頬を紅潮させながら言った。
僕は訝しげに思った。宇宙から落ちてきて、今さっきこの手で受け止めた彼女が、どうしてツンデレ属性を身につけているんだ。
「いつまでも抱きかかえてないで、さっさと下ろしなさいよ!」
「あ、悪い」
淡いスカートを翻し、少女は地面に着地した。
「俺は湯上俊太だ。お名前は?」
「私はルシファー。長い間宇宙を回っていたの」
「回るって?」
小柄な彼女は俺を見下すような視線で見つめる。
「地球よりも速く、ぐるぐると。永劫に続く平穏な時間だった。けれど最近この時空に歪みが見つかったの」
「ユガミって俺のことか?」
「馬鹿じゃないの? ゆ・が・み! 私の力ではどうにもならなかった」
「お前、何か特殊能力を持っているのか?」
「まあね。これでも昔は腕を鳴らした堕天使ですから」
少女は得意げに微笑んだ。
「それであなたに相談があるの。この星で一番偉い人は誰なの?」
「俺のかあちゃんだ」
このマザコンと罵られつつ思いっきり殴られた。
「アメリカの大統領かな? ご覧の通りなにぶん不景気だけど」
「そう。それなら、その人に連絡を取って欲しいの」
「無理だ。僕は平凡な埼玉県民だ。英語もアメリカンジョークできない」
「それならそのアメリカンなんとやらをさっさと習得しなさいよ! 気が利かないわね……」
「少なくとも半年はかかる」
少女は唖然とし、天を仰いだ。
「なんでそんなに急いでいるんだ? 一体お前に何があったんだ?」
「私は普段通りに自分の軌道を進むだけだったの。だけど、突然青い宝石のような球が接近してきたかと思うと、瞬く間にそれが近づいてきて、いつの間にか私は意識を失っていた。それで、気が付いたらムサい男に捕まっていたというわけ」
「ムサくて悪かったな。しかし、その青い球って何なんだ?」
ふと、僕は天を仰いで、さっきまでそこにあった白い三日月が消えていることに気が付いた。一体何が起きたのだろうか。
「まだわからないの? ルシファーは明けの明星を表す名前。最初に言ったじゃない、私が空から落ちてきたんじゃないって。地球の方が、私の方にすごい早さでやってきたの」
僕は愕然とした。
地球の重力で気づかなかった。
俺は後ろを振り向いた。新幹線のような速さで、巨大な太陽がこちらに接近していた。地球が太陽に飲み込まれる数秒前のことだった。
69 回答者:savivaqums 2009-01-10 14:35:46 満足! 12ポイント
恋してはいけない。
体はさびつき、頭はいかれ、言葉を無くしてしまう。
見えなくなり、聞こえなくなり、歩みを止めてしまう。
それは墓場を意味する、と父は笑った。
それは幸福を意味する、と母は真顔で言った。
「まるで」と前置きをして、僕は言った。
胸の中に、君が降ってくるようなんだよ。
エンゲージリングの中で、君が笑った。
僕は神様にお願いした。
ずっと、ずっと、彼女が僕の中に降り続けるようにと。
あれから7年が経った。
僕はひとりでいる。去ってしまったのは、時間と彼女の命だ。
この街はとても大きく、いちいち人の生死になどかまってはくれない。
山手線の上で僕は、毎朝どろどろになりながら生き続けている。
悲しいのだろうか、と僕は時々、自分にそう問いかける。
死ぬことは美しく、生きることは生々しい。
彼女へのたくさんの想いも、時間とともに劣化するように思った。
いつかは灰になり、風や雨のように感じられるようになるのだろうか。
40年が経った。
僕はひとりでいる。何度か恋をして、一度だけ家庭を持った。
分かったことが一つだけある。生きることと死ぬことは同じだということだ。
「見ちゃだめだからね」そう言われていた日記を、僕は開いてしまったのだ。
出会いからその日までのことが、小さな文字で綴られていた。
灰になっていたはずの僕の想いは、自分でも驚くほどの輝きを放った。
きらきらとまばやく、それは僕を新しくした。
こぼれる涙と同じくらい、彼女への想いが新しくあふれだした。
ダイヤモンドのように輝く光の中で、君が笑った。
僕は神様にお願いした。
ずっと、ずっと、彼女が僕の中に降り続けるようにと。
『天蓋から地底へ』
「毎度毎度思うけど、あの子らはどっから来てどこへ行くんだか」
こともなげに空から降ってきて地下に潜っていく女性を何万人見送ったか、もういちいち覚えていない。踏みつぶした蟻の数を覚えていないのと一緒のレベルで。
ものすごいピザデブであったり楊貴妃もかすむ美人であったりタイプは様々だったが、どちらにせよ邂逅するのは常に一瞬。ああ来たなあと思えば、もう足下にすり抜けていくばかり。
どうやら他の人間には見えていないらしいが、こんなものが見えたからと言って何の得にも腹の足しにもならないし、課長の小言が減るわけでもない。
さっき見たツインテールの可愛らしい女の子は今マントルの中にでもいるのだろうか。もしかして地底には女性ばかりのパラダイスが存在するのだろうか。それとも地球を突き抜けて月にでもいるのだろうか?打ち上げに失敗した宇宙船よろしく重力に魂を惹かれ続けるのだろうか。
「あー今日の契約どうしよ。ホント、空からお客が降ってきてくれればよほど助かるんだけどなあ」
上手くいかんなあ、とため息をつきながらこの冬一番の冷え込みを記録した街を、背を丸めて歩いていく。明日には、また別の女の子が雪と共に降ってくるのだろう。
<竜巻注意報>
「亨、今日は竜巻注意報が出てるわよ」
おはよう、と寝ぼけた声を出した先で、母親がテレビ画面を見ながら言った。K放送局の天気予報ではキレイなお姉さんが都内の上、半径50キロを示す赤い丸をさして「確率は20%です」とにこやかに言っていた。
「埼玉のおじさんのときのように、下手なことは考えないほうがいいわね」
母親はさもくだらないことばっかり考えるんだから、と言いたげに僕を指差した。
「何にも考えないよ」
「うなぎが食べたいなぁ、だなんて思いつくから、あんなことになって」
ぷりぷりと怒っているのは、あの時埼玉のおじさんから大量の生きたうなぎを宅配便で押し付けられたからだった。気象庁が人工的に天候管理をし始めてから、晴天ばかりでは『自然』ではないとして時々思い出したように台風や大雨を取り入れて、その中の一つとして『竜巻』があった。しかし天災としてもたらされるのが災難ばかりでは不公平だと言う声にこたえて、天候不順を起す際には一定の割合で『願い事』が叶うと言うサービスを始めた。政府管轄のマザーコンピューターが該当範囲内に住む人間の中から無作為に選ばれた人の思念に入り込み、そのときの希望をかなえるというシステムだ。おかげで甚大な被害が起こっても、国民から政府に向けて盛大なクレームが付くことは少なかった。
ところで母親が怒っているうなぎの話だが、去年の夏、2回目の『竜巻注意報』が出たときにおじさんはふと「うなぎが食べたい」と思いついたそうだ。丁度テレビで土用のうなぎの宣伝をしていたときで、ジュージューと旨そうな音ににゅるんとしたうなぎを連想したとたん、天井を突き破ってうなぎの大群がおじさんの頭に降って来たのだ。
「どうせ降って来るなら、カワイイ女の子がいいよ」
政府は何でも叶えてくれるらしい。そういえば今年に入ってから起こった台風で、3組の梶原はJリーグの選手に会いたい、と願ったら試合中らしい22人もの選手の一団が空から降ってきたと言う。
「茶髪のロンゲ、ピンクの似合う目のパッチリした子がいいな」
なーんてことは、さすがに叶わないよなぁ・・・と、玄関の扉に手を掛けた瞬間、ゴウッという轟音とともに家がぶるぶると震えるほどの衝撃があったかと思うと、あっという間に目の前をピンク色の小山がさえぎった。
「・・・・・」
「・・・享、いったい何?」
母親が恐る恐る声を掛けてきたけど、こう言うのが精一杯だった。
「・・・・・リカちゃん人形じゃねー?」
タシカに、リカちゃんは茶髪のロンゲでピンクの似合うカワイイ女の子だ。
72 回答者:gothicblue 2009-01-10 17:28:43 満足! 6ポイント
混沌と評するに相応しい。
生理的な嫌悪感と自らの底に沸きあがる期待から離れ、目の前の現実だけに意識を向ける。
一方的に打ち込まれる弾頭には、全て、祖国の美少女の顔が描かれていた。
***
対テロ戦に対して「案」が唱えられたのは、今から数年前だ。
「オタクは『殺し』はしない。ただ人生を戦うのみ」
一人のhikkeyの言葉を注目した政治屋により、その悪夢めいた兵器は完成される。
「死の接吻」
鍵弾、八月弾、葉弾etc。
隆盛の極みにあった時代の少女たちが、テロリスト撲滅、人殺しに加担する。
少女兵に着弾する様を見て「真の百合」と抜かす変態、某18禁ゲームのキャラクターが描かれた弾に「まさにファントム」と呟いたキチガイ、「男同士なら人権侵害に当たらない」と許容する腐女子。
反対するだけが脳のマスコミでさえ、その実際の効果の前では賛成に回った。
一時期は文化と言えたjapanimatinは、こうして狂気の代名詞となり、今日も死を量産する。
***
破散した顔の欠片に目をやり、男は思う。
何処を間違えたのか、と。
オタクに人権を認めたからか。それとも虚構の世界そのものが罪深かったのか。
それもあるだろう。きっとあるだろう。
あぁでも。
国中が病んでいたのだ。誰一人として例外無く。
きっと自分も。
そろそろ終わりにしても良い。
ただひとつの想いを胸に生き延びてきた。ただ一人を愛し、生きてきた。
テロリストとなったのは、自分の想いが純粋だと信じた故だ。
何の打算もなく恋焦がれることこそが唯一至上だと思った故だ。
でも終わりは見えた。この光景はそう遠くない未来に自分を殺す。
そう思い、男は生を手放すこと決めた。
***
瓦解した防壁から見えた外には死神が待っていた。
誰よりも愛し、決してそうはなってほしくなかった死神が。
セットされた弾は葉弾173番。
予想できた自身の信念の死に恐慌に陥ることなく、男はただ涙する。
「非処女・肉便器は氏ね」とは、常日頃からの口癖ではあったがしかし、思った以上に辛いものだな、と思った。
「十●由真は、俺の嫁」
一直線に向かってくる弾頭「YU-MA」に向けて、最後の、最後の正気を振り絞り、
せめて向かってくる不機嫌そうな照れ顔に向けて、
男は、男の人生を叫んだ。
なぁ、あの映画なんだっけ。あの宮崎駿の。
ナウシカじゃなくてさ、そうそう、もう1つ有名なやつ。古いの。あ、そうそうラピュタだよラピュタ!
でさ、あの女の子って、どうして主人公と会ったんだっけ?忘れちゃったんだよね。あー、うーん、出てこない!
なんでだっけ、あー度忘れ。
74 回答者:gothicblue 2009-01-10 18:42:41 満足! 5ポイント
「こんにちは、郵便屋さん。今日はなにを持ってきたの?」
「こんにちは、お嬢さん。残念ながら、夢を運んじゃいないのさ」
幾度目かのやり取り。
少し間をおいて、二人でクスっと笑いあった。
***
最初に言っておくと、僕は郵便屋さんではない。
無論公僕でもない、ただのしがない専門卒の営業マンだ。
極悪でない、せいぜいが「狡い」程度の人間なので、まだおてんとうさんの下を歩けます。
彼女と出逢ったのは、普通なら思い出したくもない真夏の外回り。
少し涼もうと、照りつける陽光をさえぎる高い家の陰に入ったところだった。
気がついたのは僕が最初。
うんしょ、うんしょ、という声に頭上を見ると、水色の、うわさ、透けないかなぁ、じゃなくて、えと、天使さんがいたのですよ。明らかに高級そうな天使さんが逆ロッククライミングよろしく家の壁を降りているのです。
「あぶないですよ」
「えっ!?」
思った以上に冷静に声が出せたけど、逆に驚きは二乗分少女に言ってしまったらしい。
明らかに腕力握力一般以下そうな天使さんは、振り向いた拍子にまっさかさまに・・・っておい、おい!
その瞬間、僕の中の小宇宙が弾け、溢れ出る無尽の才能と漲る力ofパワーが世界を救う訳もなく。
***
結果報告。
突発的な緊急事態に僕の中の小宇宙が弾け超人的な能力を発揮する。
「磨かれた反射神経が咄嗟に手持ちのチラシを放棄し、全人類の漢パワーが僕に力オブパワーを漲り」のところで衝突。割と低空から降ってきた少女との出逢いはそう、激突というよりは衝突的な微妙な(やーらかい)インパクトだったのでした。
***
家出未遂少女を救ったんだか悪いことしてしまったんだかは置いといて、それがきっかけとなって僕らは話をするようになった。
部屋からあまり出られない彼女はもっぱらパソコンで知った知識や僕が忘れてしまった学生時代の教科書の話。僕の方は、・・・世知辛い話をするのもなんなので、少しばかり夢のある話ばかりしていた。
星空を見るにはあそこが良い、とか、あの場所は見晴らしがよくて心落ち着くなどなど。
ここから彼女が知っている物語で話題を続けてくれるのが楽しかった。もしかしたら気を使ってくれていたのかもしれない。
***
今日も僕は足を向ける。ゆっくりと、楽しかった時間をかみ締めるように。
はじまりに影が。
そこへ焼きそばパンが。遅れて地デジ対応テレビが。うす汚れた本が。
やがて胃腸薬が、ゴシック建築が、ガラスが、怪獣の着ぐるみが、将棋盤と木刀と読み切り漫画が、雪のように音もなく降ってきた。物質に限らない。生命、哲学、言葉、文明。あらゆるものがあとからあとから降ってくる。そこではまず降ることから存在が開始されるようだった。
だがそれは同時に降るという自動詞の独裁をも意味する。一度降ったら二度と止まることを許されない世界。辿り着くべき惑星も見付からず、身を受け止めてくれる大地とも出会えないまま(何しろ惑星も大地も一緒に降っているのだ)、人もまた、その存在の始まりから降ることを余儀なくされていた。
「降ることを止めたらどうなるのか? そもそも降らないことは可能なのか?」
疑問という概念が降ってくるまで人々はそのように考えることすらなかったのだ。
新しい存在、新しい現象は絶え間なく降ってきた。
それらは景色を騒がしく点滅させ、見ることに疲れた人々はうつむくことを覚えた。
ある時、一人の予言者が告げた。
「空から女の子が降ってくる」
誰もが耳を疑った。戸惑うのも当然だった。ここでは降ってこないものは存在しないに等しい。未だかつて「女の子」など降ってきたこともない。早とちりされる前に急いで付け加えるが、彼らとてまったく無知だったわけではない。「女の子」の類語――薔薇、流線型、ストッキング、第二次性徴期、さらに女性や婦女や幼女などは既に降って存在していた。だがそれらの概念は、予言者が告げた「女の子」を推測するためにはまるで役に立たなかったのだ。意味不明ながら「女の子」には胸をざわつかせる響きがあった。
動揺が人々に広がった。このような予言自体、前例のない出来事であり、不安を深める一因となった。
人々は予言を重大に受け止め「女の子」を破滅に解釈する派と、今更新しいものの一つや二つ降ってきても大したことではないと様子見する派に分かれた。
論争の末、予言を恐れる派は一つの対抗策を案出した。
「女の子が降ってくるのを直接防ぐ手立てがないのなら、事前に偽の女の子を用意してしまえばいい」
長年にわたる降下生活により、この世界には毎日新しいものが降ってくるということに人々は気付いていた。そして降ってくるものは必ずこの世界に以前は存在しなかったものであることも。ならば、と人々は考えた。降ってくるものを、こちらであらかじめ用意してしまえばどうなるか。この世界がもし本当に新しいものしか受け入れない基本則を守るのならば、重複したものは他ならぬ世界によって排除されるのではないか。
「我々は女の子の精巧な偽物をつくらなければならぬ。忌まわしい予言から免れるために」
無意味だ、なんの根拠もない、失敗したらどうする、という反対派の意見は聞き流された。時間がない。予言の日が迫っている。間に合わなくなってからでは元も子もない。
計画は困難をきわめた。未知のものを創作するという行為自体が人々にとって始めての試みだった。膨大な数の専門家が連日投入された。
予言当日。
人々は絶望的な顔をしていた。誰も「女の子」をつくることが出来なかったのだ。結局、誰も見たことのない存在などそう簡単に思い付けるわけがない。しかもそれが一体どこまで本物に近いのかなど人々には判断出来ないのだから。彼らに出来ることは、破滅がやって来るまでこうして黙って降り続けることだけだと思われた。
奇跡は突然おこった。
一人の学生が「女の子」を思い付いたのだ。彼は自らが考案した「女の子」をスケッチした。そして人々に説明した。誰もが一目で「これこそ我々が求めていたものだ」と悟った。だがもはや予言当日。早急に仕上げなければいけない。急がなければ。
学生のスケッチと設定を元に偽物の「女の子」は完成した。見事な出来栄えに誰もが息を呑んだ。きらきらと輝く可憐な立体。初めて見るはずなのに懐かしかった。偽物の「女の子」は見る者の心に彼らがそれまで知らなかったひとつの激しい感情を注いだ。
「これで我々は救われる。本当にありがとう、君。しかし驚いたよ。土壇場でこんなアイデアを思い付くなんて!」
学生は照れ臭そうだった。
「いやあ。なんか急に閃いて。何もないところから、女の子そのものがぼくの頭に直接降ってきたみたいですよ」
はっと気付いた時には遅かった。
学生の頭に降ってきた「女の子」は、彼のみならず、創り上げられた精巧な模型を通して、人々の視覚から内部へと降り注いでいった。
それからの情景は冬の雨が雪を溶かしていくのを見るようだった。
人だけではない。建築物にも植物にも倫理にも宗教にも。「女の子」は平等に降っていった。彼女が注がれるとどんなものでもぐずぐずの泡となり、消える。
降るというあの永遠の自動詞すら被害対象の中に入っていなかったわけではない。
泡の原始を経て世界は再結合した。
以前よりは少しだけ落ち着いた姿、つまり現在私たちが見ているこのような世界として。
予言にうたわれた女の子は今やあらゆる地層、あらゆる分子、あらゆる概念の網目に組み込まれて眠っている(いつか目覚める日も来るのだろうか)。
世界と女の子は不可分である。
そのことを証明してみせることはたやすいが、ここでは最も日常的にして些細な傍証を一つだけ上げるにとどめよう。
すなわち今日、私たちはフィクションによって空から降ってくる女の子の物語を望めば望むだけ楽しめるのであるが、楽しんだあと、気分転換に外を歩きながらさっきまでのフィクション――空から降ってくる女の子――の記憶を反芻するまさにそのとき、私たちの頭の中を女の子は何度でも降り続けてくるのだし、恐らくは現に今も何度も降り続けているのである。そして遅ればせながら気付くだろう。フィクションにおいて女の子の真下に位置することを運命付けられた男の子は、その瞬間、無意識のうちに両手を天に差し出してしまうものだということを(大抵は受け止めきれず女の子と一緒に尻餅をつくことになるのだが)。そのような男の子の仕草を今日の私たちは、たとえば古代民族が天に慈雨への感謝を伝えようとして両手を広げるあの原初的な仕草に重ねてみることも出来るわけだし、また私たちの頭に女の子が降ってくる時、他ならぬ私たち自身がそのつど同じように両手を広げてしまう反射行動にいたっては? その際に私たちが浮かべている表情は一般的に言われる苦笑いというものであろうか。しかしそれこそ降ってくる女の子の与り知らぬところである。
玄関の扉を開けると巨大なミルフィーユがあって、ネズミやら猫やらがそれを取り囲んでいた。
ハトとカラスもいたけど、わたしはどちらも嫌いだから見ないことにした。
「学校行きたいんだけど、ここ、通っていい?」
顔の上半分としっぽの先だけが黒い可愛い子猫がいて、わたしはその子に事情を訊くことにした。
今日はもう学校はいい。
子猫が答える。
「女の子が降ってくるんです」
よく見るとミルフィーユは新聞とか雑誌を積み重ねて作ってある。
これをクッションにして、降ってくる女の子を守る(?)らしい。
「ふうん……」
わたしの家の狭い庭いっぱいのクッション。
すごい迷惑だけど、そういう事情があるなら仕方がない。
それよりも、前足を揃えて空の一点を見ている子猫がりりしくて、可愛くて、どうしよう。困る。
とりあえず、その子の隣に腰掛けて、わたしも同じ様に見上げてみた。
青い空だ
雲が少し浮いてる。
風は、西風だろうか。
「写メしていい?」
「……?」
微妙な表情をする子猫を指さしながら言い直す。
「写真、撮っていい?」
子猫の返事を待っていると、ミルフィーユのまわりが騒がしくなった。
どのネズミもどの猫も立ち上がっている。
わたしも立ち上がって、見た。
空に人間の女の子がいて、それがだんだん近づいてきていた。
でも、まだ遠い。
無事にミルフィーユの上に降りれるだろうか。
足元の子猫も心配そうにしている。
「……大丈夫だよ」
わたしの根拠の無いなぐさめに、子猫は不安な顔をしたままうなずく。
小さくぼやけていた女の子が、はっきり見えるくらい大きくなって、無事にミルフィーユのクッションに着地して、わたしはネズミや猫やハトやカラスたちと一緒になって喜び合った。
空から降ってきた女の子に真っ先に駆け寄ったのは、あの子だった。
ミルフィーユに飛びついて、一生懸命によじ上って、女の子に近づいて、頬を舐めた。
顛末を見ずに、わたしは学校に向かっていた。
帰ってあのミルフィーユがまだ残っていたらいやだなと思った。
78 回答者:tetracarbonyl 2009-01-10 21:54:29 満足! 5ポイント
私は透明な存在にされ、この天空に投げ出された。
限りなく宇宙に近いこの場所は空というより黒と青の境目といったほうが近しいかもしれぬ。
遥か西の空で流星が流れているのを見た。
最初はどこまでも落ちていけそうな気がした。
突き刺さる風が肌を乾かせていく。
広い海が見えた。
発光ダイオードがちりばめられたような夜景も見ていた。
水平線のかなたからゆっくりと立ち上がってくる太陽は、冷え切った体には暖かくすら感じた。
あまりに寒い場所にいると、ただ明るいだけで暖かさを感じてしまう。きっとあらゆる登山家はこういう思いをしていたのかと思うと胸が締め付けられる。山の天気はめまぐるしく、この場所は風の機嫌がめまぐるしい。
頭は重いし、苦しい。
スキージャンプの発祥は死刑だというが、スカイダイビングも死刑が発祥なのだろうか。
どちらにしろ、私は死刑だった。
世界からあらゆる言葉が失われた。けれどきれいな景色だけはこうして消えなかったのだ。
私は女の子、姿はもう無い。
さいしょにせかいへおりたとき。
かみさまといわれ、こわがられました。
つぎにせかいへおりたとき。
あくまといわれ、こわがられました。
さいごにせかいへおちたとき。
「わたしは、なににみえますか?」
「どう見ても、ただの女の子でしょ。 ……てか、どっから降ってきたのよアンタ」
こんどはなんだか、たのしそう。
一人目は、直立不動だった。
二人目は、体育座りのようにうずくまり。
三人目は、椅子に腰掛けたような格好で。
四人目は、足を伸ばして座り。
五人目は、まるでバレエダンサーのように両足を真横に広げ。
ある者はそのままの姿で、またある者は頭を下に。
ある者は右にずれ、ある者は左に、またある者は速度を上げ真下に。
彼女たちは理路整然と隙間なく降り注いでいった。
そうして幾人かの少女達が折り重なるように降り注いだ後、
再び直立不動の少女が舞い降りて、
皆、消えた。
81 回答者:cloud_leaf 2009-01-11 00:34:42 満足! 36ポイント
『まるで空から飛び降りるような』
遊ぶのも学校へ行くのも、わたしたちはいつもふたり一緒だった。二階の自室の窓から彼が来るのを見ると、わたしは窓を開け放つ。隠してある靴を放り出し、その後を追って飛び降りる。何しろ身軽だったから、二階程度の高さなどものともしなかった。彼は猫のように着地するわたしを見ては感心した。凄いね! まるで空から降ってくるみたいだ。わたしは得意げに答える。こんなの簡単よ。あなたは男の子なのにこんなこともできないの? そう言いつつ、わたしは男とか女とか、そんなことは気にもしていなかったのだ。
けれどいつしか、わたしたちの間に距離が生れた。いや、わたしが距離を作ったのだ。成長するにつれ、わたしは彼を異性として意識し始めていた。昔のように彼と居たいと願っても、どうしても素直になれなかった。学校の廊下ですれ違っても彼の顔すらまともに見られないわたしに、けれど彼はまったく変わらない態度で話しかけてきた。そんな彼をわたしはうらやみ、そして少しだけ憎んだ。わたしは彼が好きだった。そして同じくらい臆病だった。手に入れてさえいないのに、失うことを恐れていたのだ。もう、通りを行く彼を見ても呼びかけることはなく、二階から飛び降りる勇気も失っていた。結局わたしは逃げるように遠くの街の大学へ進み、アパートの二階で下宿を始めた。
ある日、講義をさぼり部屋でぼんやり過ごしていると、表から子供の声が聴こえてくる。誘われるように通りを見下ろせば、小学生くらいの女の子と男の子が楽しそうにお喋りをしている。わたしたちもああだったのだろうか。彼女たちもいつか離れていくのだろうか。気がつけばわたしは彼女に声をかけていた。ねえ、大人になったらできなくなってしまうことって、あると思う? 見知らぬ大人から、しかも二階から突然声をかけられたのに、女の子は勝気な目をして答える。そんなものありはしないわ。できると思えば、何だって、いつだってできるのよ。そうしてふんと鼻を鳴らし、男の子の手を引いて歩いていってしまう。わたしは不意におかしくなった。薄暗い部屋でいじけている自分も、妙に高く澄んでいるこの空も、何もかもがおかしかった。いったん部屋に戻り財布と鍵をジーンズに突っ込むと、靴を窓の下に放り投げる。無事に着地できたら、真直ぐ彼に会いに行こう。自分で作った壁なら、自分で壊せば良い。わたしは窓枠をつかむと、思い切り外へ飛び降りた。
午後三時、いつも通り京橋の立ち飲み屋で呑んでいると店内がにわかに騒がしくなった。
「妖怪や! 妖怪や!」
口々におっさん共が喚き出す。店の主人は事も無げに「なんやァゴキブリかァ?」と視線も動かさぬまま串カツを揚げていた。
「おっちゃんホンマやで、グランシャトーのへんに妖怪・空から女が飛んどんのや」
「そらから……?」
「違う。カラカラ女。漢字読まれへん人やなぁもう。どうせ空の境界かて最初『そらのきょうかい』て読んだんやろ」
「そんなもん、お前……読んだがな。で、その妖怪何言うとんのや」
「いやぁ? まあ五時から男みたいなもんやろうから飛んどるだけかな」
「なんや別にええがな。飛ばしとき」
それはもっともだと僕も思った。ところが事態はそれでは終らなかった。僕が黙って酒を飲んでいると、
「ちょ、そこの君、グランシャトーのとこ行ってみ」といつも店の隅で一人飲んでいる親父(というか店内は全員一人飲んでいる親父が基本なのだが)がけしかけてきた。
「なんでですか」
「妖怪空から女があんたのこと呼んどんのや」
「はァ」
呼ばれたなら仕方ない。
僕はつっかけが脱げそうになりながらも頑張ってグランシャトーの所まで駆けた。見上げると確かに女の人が空を飛んでいた。なんてことはない普通の女の人だった。彼女は言った。
「お前が大阪で一番だらしない生活している大学生か」
「はァ確かにそれは自信があります。最近は二駅隣の梅田にすら行きませんな」
「お前が人間代表だ。私の娘と対決しろ。負ければ人間は滅亡だ」
「はァでも普通そういうのは東京の方がやらはるんとちがいますか」
「たまには大阪にも来たくなるのだ」
さすがそこは妖怪、空から女……の子が何を考えるまもなく降ってきた。空から女の子、降臨。緑の髪を持つ空から女の子はトラのアニマルプリントのビキニでセクシーに決めてこう言った。
「ダーリン、勝負だっちゃ!!」
思わず僕は叫んだ。
「古ッ!!」
まず一人の少女が空から降る。それはあたかも雨粒の最初の一滴のように静かにアスファルトへ着地し、音もなく四肢をバラバラに弾けさせる。吹き飛んだ血が煙となってあたりに舞う。そしてもちろんこの事象は連続する。
少女達はきちんとニュートン物理学に乗っ取って落下する。あたり一面は急速に土砂降りとなる。窓から外を眺めれば、赤く染まる空気の中に少女達の無数の丸い瞳がぼやけて透ける。目が合う。少女は笑う。
集中落下は一時的なものであり、数十分もすれば止む。血の匂いのするもやは夕日に照らされ、さらに鮮やかな紅となる。こもっていた人々はぽつぽつと外に出始める。そしてめぼしい少女の四肢を拾う。ああ、この腕はさっき目のあった少女のものだ。人々はお気に入りの脚や腕を集め、家へと帰る。残された胴体はいずれ雨が洗い流す。
帰宅すると人々は自らの腕や脚と収集したそれを交換する。運が良ければ上手く体に馴染む。運が悪ければ腐る。
この腕が自分にぴったりなのは、少女と目が合ったときからわかっていたことだ。
人々は真新しい色の腕や足をじっと眺める。そして自らが降り注ぐ少女となる番を部屋の中で静かに待つ。
84 回答者:namikawamisaki 2009-01-11 01:19:47 満足! 5ポイント
そのMDは、「みちる」の部屋から見つかった。レンタルショップで見つけてすぐ撮ったと言っていた。1曲目からすごくびっくりして、それでもう、何度も聴いている、とも言ったことを、また思い出した。
らん、ららん……、らん、ららん……。みちるは最初の方をそう歌いながら、僕があげたビー玉をカツカツとファーストフードのテーブルで叩いた。何度かはそのまま転がして、僕はあわててこぼれるビー玉を拾った。ふふふ、みちるは笑ってくれた。
かなり前のアニメ映画なのに、なんでこんなによく覚えてるのかな? --みちるとあの曲の元ネタの話になると、みちるはいつもそう言った。海に行けば、「捨てないけど、」とぶんとビー玉を投げるふりをした。僕はまたあわてて飛び出し--ひざまで波をかぶったこともある。その時もみちるは、ふふふ、と笑ってくれた。「おもしろいことだけ、覚えていられたらいいんだけどね」
らん、ららん……、--みちるは、家人から、時おり暴力を受けていてひどく落ち込むことがあった。新しく貼ったばんそうこうを、また見つけた。みちるの鼻歌は、海へすべっていった。
男として、守ってやらなくては、助けなければという思いと、みちる自身の強さを期待する思いとが、バイバイを言った後でいつも苦く交差した。夏は蒸した息苦しさで、冬は肺が裂けるような感じで。結婚ほどの重さじゃなくて、みちる一人なら面倒見られる、という社会人っぽい青臭い自信がある一方で、みちるこそもう成人しているんだから、現状を変える術はいくらでもあるはず、僕が何かをすることが、みちるのこれからに影響を与えかねない、と迷った。
「ん?」
何気なく振り向いてくれるみちる。低気圧が雨をいっぺんに雪にして、僕らの鼻先は冷え切っていた。--家を出てこないか--という一言は、結局言えなかった。
のどまでかじかんでいた。「みちる、しんどい時は、電話して。ぜったい、思い詰めちゃだめだからね」「……ん」
これが、最後の会話になってしまった。みちるは数日後、ぽんと怖さとかつらさとかを越えて、逝ってしまった。
ガシガシとどこまでも凍り付いた砂浜を走った。ふらついて転んで、それでも砂まみれになりながら、僕は”おえつ”をもらす。なんで、どうして、そんなところにだけみちるは大人らしい判断をしたんだろう?
ふた月ほど経ってから、あらためてみちるの家を訪ねた。家人は僕がみちるの”近く”にいた男だとわかっていたようだった。
つい魔が差して、とかこの人はこの人なりに反省し、償っているらしかった。どうしてもみちるは戻って来ないですが、と現実を述べてから、みちるの部屋に通してくれた。
手つかずのままで、わずかに開けた雨戸の間から、冬の終わりの明かりがほこりを浮き上がらせる。いつかみちるは、ここから小声で夜中に電話をくれた。今部屋にいるの。まずドアの後ろには大好きなバンドのポスターがあって。買ったばかりのMDラジカセはベッドのそばに。そう、この前海で撮った写真、やっと現像したから机に飾ってみたよ。--その通りに、みちるのものは、みちるの部屋にあった。
苦しかった? 僕は写真のみちるに聞いた。どうしてもう一度電話してくれなかったの? 目の下のくまを気にしていたみちるに問いかけた。机の上にきちんと並べられたガラスの小瓶に、ビー玉が入っていた。
--静かな夜の海にも、花の香りが届いてきていた。夕方の小雨で、砂浜はさくさくと少しだけ混ぜ始めたクッキーの生地みたいに変わっていた。海風は、足下からゆらりと水気をとばしにかかる。
僕はポケットから小瓶を出した。
ここでいろんなことを話したみちるが、今ようやく海に来て、夜空に還って行った、ような気がした。--これも僕が勝手に決めただけかもしれないし、みちるがほんとうに苦しかったのかどうかも、もう知る手段は無い。ただ、小瓶のなかのビー玉は、あの曲のような、固い音を鳴らした。
--
1月8日の時点でid:mind_of_sivaさんが同じ表現手法で書かれていたことを1月11日0時過ぎに確認しました。(同じになってしまってごめんなさい。)希少性はありませんが、投稿します。なお、「空から女の子が降ってくる」までで2800バイト(1400字程度)あります。文字を削る前の分はダイアリーに出しました。
映画「ベーグルオンザピーチ」の感想
要約すると、空から女の子が落ちてくるという内容の映画だったと思う。
初めのうちは外国人がキッチンでベーグルにチーズクリームを塗ったり、コーヒーをすすったりする映画だったんだけど、途中から主人公のアトウッドの頭がおかしくなった。ガールフレンドに振られたのが原因だ。
アトウッドは元カノのキキティをキキティの今カレの目の前で縛り上げると、担いでピーチ山を登った。
ピーチ山の頂上には戦争で使われた大砲があった。アトウッドは大砲にキキティをセットすると、泣き叫ぶキキティをよそにリュックサックからポットに入ったコーヒーと特製ベーグルを取り出した。カリカリベーコンとシャッキリレタスとチーズクリームをゴマベーグルで挟んだ、アトウッド自慢の一品だ。
彼はそれを無言で食べた。泣き叫ぶキキティの声が枯れてくる。コーヒーをすすって一言、苦い、と漏らすアトウッド。立ち上がりリュックサックから大きなマッチ箱を出す。拳大ほどもあるマッチの先を箱に擦りつける。しゅっしゅっしゅっ。ぼぼっ。そして大砲から伸びている導火線に火を付けた。
キキティは発射された。空高く舞い上がるキキティ。風で口がひん曲がり、目からは涙が溢れる。発射の衝撃で手足の拘束は解けたが、ものすごいスピードになすすべもない。やがてキキティは大好きなラズベリークリームチョコパイを食べる夢を見ながら失神した。
映画はここからが面白かった。キキティの落下描写、アトウッドの懺悔、今カレであるピータンの小噺などなど。
でも最高に興奮したのは、映画を観終わって映画館の外に出たら、数メートル先のタクシーの上に女の子が落ちてきたことかな。あとでニュースを見たら自殺だって。なんとも皮肉だろう?
空を見上げた。
相変わらず『彼女』は近づいていた。最終日ともなるととても大きい。
そう、今日は地球最後の日だった。
地球の二十倍の大きさの制服を着た美少女が地球に向かって飛来していることが観測されたのは半年前のことだ。
携帯を開いてみると待ち受け画面にその美少女の寝顔が映し出される。
美少女は観測された時からずっと眠っていた。『スリーピング・ビューティ』とはよく言ったもので、その寝顔は誰もが恋に落ちるほどにかわいい。
こんな美少女に地球が破壊されるというのならば、それはそれで美しい終わり方かもしれない。
と、唐突にその少女の目が開かれた。これは火星に設置されたカメラからのリアルタイム映像なので、間違いなく飛来した少女は目をさましたのだ。
空を見上げた。見上げても、目に飛び込んでくるのは巨大な制服のブレザーの胸の辺りだけだ。結構胸はあるかもしれない。
携帯の映像は地球の前で大きく背伸びをする美少女の姿があった。
『あーあ、やっとついた。これでこの次元の地球を食べられるわ。この時代の地球ってダイエットにいいのよねぇ』
脳内にガンガンと大音量で声が響いた。訳が分からない。あの巨大な女子高生のテレパシーなのだろうか。
僕は怒った。そんなくだらない理由で地球を滅ぼしにくるなど一万年早い。
「ぱ……パ ン チ ラ も し な い く せ に ふ ざ け ん な よ !」
無駄と知りつつも魂の叫びを放つ。
すると、驚くことに返事が返ってきた。
『あら? パンチラしたら地球を食べていいのかしら?』
「馬鹿いえ! お願いです彼氏は無理でも下僕にしてください。そしたら地球を好きなだけ食べても文句言いません」
すると美少女は巨大な手でひょいっと僕をつまみ、代わりにするするとスカートの下からパンツを脱ぎ、地球にかぶせた。そのショックで地球は崩壊した。
『君はおもしろいから持って帰ろう』
そして、ノーパン美少女と僕の旅は始まった。
了
無限落下軌道
ハロー、ハロー、みなさん。
聴こえますか?
お久しぶりです。十ヶ月ぶりくらいですかね。
元気でした?
こちらは、ちょっとヤバかったです。死ぬかと……ってのは冗談ですけど、私用通信領域がトんじゃって、通常営業のみに。もう無理かと思ったんですが、な、な、なんと! 年末に大掃除してたら奥のほうから代用できる領域を発見! ってことで、このたび復活と相成りました。わーいぱちぱちぱち。
そんなわけで、本日もここ、ひまわり太陽光発電所第一管制局をキーステーションに、送電電波に相乗りで放送していきます。こそっと。
中継してくれる人。私は捕まりようがないけど、そちらはお気をつけくださいませね。
さて。
私用領域が止まってる間は当然メールも受けられなかったわけで、かーなーり、たまってます。なので今日は選りすぐりのメールを紹介……すいませんぐだぐだで。久々で、ちょっと緊張してるんです。
では、読み込むので少々お待ちを……
あ、ごめんなさい。放送事故。
すいません。今日ちょっと、しょっぱなの放送なんですけど、貸切にしていい?
って訊いても返信が届くまで待ってられないので、間に合わないので貸切にしますね。ごめんなさい。
読みますね。
こんにちは。
こちらは何とか生存中。事故から続いてた流星雨も最近は落ち着いてきて、地上は何とか生活を回復しつつあります。寒いけど、そちら程じゃない。
元気ですか? そう信じて送ります。
声が聴けなくなって、正直、かなりがっくりきました。というか、今もきてます。
まああなたの事だから、そちらへ行った時みたいにまたいきなり帰ってくるだろうと思ってるけど、それでも、かなり辛い。
でも、大丈夫です。もしもう声が聴けないとしても、この屑鉄に閉じ込められてしまった星から離れても。
どこででも、あなたが生きていてくれるなら、僕も生きていられます。
だから、書いちゃった手前、悪いけど、気にしないで。
あなたがずっと無事、空にいつづけられますように。
ハロー、ハロー、ダーリン。
聴こえますか? 聴こえてるよね?
ありがとう、ごめんなさい。
こっちは、ご飯はまずいし寒いし、流れデブリも怖いし、お風呂もあんまり入れないけど、とりあえず生きてはいられます。
ごめん。ちょっと、しゃべるの久々で、ちゃんとしゃべれないけど。ごめん。
何言えばいいんだろ。
ええっと、だから。
私も、あなたがいるから、生きてられるから。半径36000キロ圏内に誰もいなくて発狂しそうでも、生きてるから。
だから、お願いだから、離れてもなんて寂しいこと言わないで。
願うなら……。
これからもずっとあなたのいる場所に向かって降りつづけていられますように。
「事故だ! 女の子が落ちてきやがった!」
いつもと代わり映えしない始業前のミーティング。天井クレーンの運転台で一日ずっと孤独に過ごす僕の、唯一の集団行動の時間。それを破ったのは、連絡の電話を受けた工場長の第一声だった。
「──、お前の職場だ。300t天井クレーンの上で女の子が倒れてたらしい。とりあえず上るぞ!!」
地上15メートル。工場の中で、人が上れる一番高い場所、天井クレーンのフレームの上。そこに彼女は居た。いや、落ちていた。
「こりゃ……ひでえな、おい?」
工場長の問いかけに、無言でうなずく。およそ生物としてあり得ない方向にねじ曲がった手足、かぎ裂きだらけのコートと、放り出されたブーツ。めくれ上がったスカートからのぞく下着は、僕に痛々しさしか感じさせない。
屋内なのに頬に触れる雪を不思議に思って上を見上げれば、天井のトタン板に人間大の穴が空いていた。
「うぅ……」
血だまりに長い髪を広げながら、彼女がうめく。
「今の聴いたか?! まだ生きてるみたいだな。──、救急車呼んでこい!!」
工場長の指示に、階段を駆け下りる。途中、僕が遠くから見たことしかないようなお偉いさん達が、クレーンの下に集合しているのが見えた。
「先輩。今日のこれってニュースになるんですかね?」
「さあ? まあ、不審者が工場に入ってきたって事で守衛は大目玉だろうな」
「守衛って…… あの娘は空から落ちてきたんですよ?」
「知らねえよそんなの。じゃあ誰が責任を被るんだ?」
119を呼び出し事情を説明した後で工場に戻ってみれば、社長以下重役達に加えて警察までが勢揃いし、そこに僕の居場所はなかった。手持ちぶさたに午前中を終え、社員食堂で仲の良い先輩と食事を取る。
耳を澄ませば、そこかしこであの娘について話す声が聞こえる。普段とは違う、何処か浮き足だった雰囲気が食堂を包んでいた。
「なんにせよ、クレーンが動かないから仕事も出来ないし、今日は早く帰れそうだな!!」
昼食をほおばりながら、嬉しそうに先輩は漏らす。そればかりは僕も同意だった。
「塩持ってこい塩! 食堂に行けばいくらでもあるだろ。とにかく塩だよ!」
昼食を終え、職場に戻る。警察の現場検証と事情聴取のおかげでクレーンが動かせない状態では、工場長の指示を聞いて走り回るくらいしかすることがない。
あの娘といえば、いつの間に救急車で運ばれていったらしかった。サイレンが聞こえなかったのは意外だけど、こういう時は構内では鳴らさないそうで。
「持ってきたか? じゃあ倒れてたあたりにありったけ撒いとけ。このままだと気味が悪いからな」
工場長に指図され、クレーンの上に戻る。現場検証も終わってすっかり片付けられ、わずかに残る血痕のみが事態を物語るそこに、ただ淡々と塩を撒く。天井の穴からは、雪がやんだ後の午後の日差しが僕を照らしていた。
面倒くさくなって途中で切り上げて戻った僕を、警察と話すのに忙しい工場長は一顧だにしなかった。残りの塩は排水溝に捨てた。
「結局、病院で亡くなったらしいな」
定時が過ぎ、帰り支度を始めた僕に先輩が耳打ちする。あの場での彼女の姿を思い起こせば、それはさして驚くことではなかった。
「で、何処の誰だか判らないままなんだと。どうも気持ち悪いよな」
「……そうですね」
それ以外、僕に言うことはない。見ず知らずの、それもほんの一瞬眺めただけの彼女に対してどんな感慨を抱けというのだろう。
「……それでお祓いを……明日なら先方も空いていて……必要な費用は5万円くらい……塩と日本酒を用意しておかないと……」
更衣室を出て、ミーティングルームを通り抜けて帰る僕の耳に、工場長が構内電話で話しているのが微かに聞こえる。
お祓いが明日あるのなら、またクレーンには乗れないな。僕が思ったのはそれだけだった。
セスナ機から身を投げて、恐らく十秒ほど経った時のことだった。俺は自分の傍らにいる見知らぬ少女の姿を発見し、ギョッとした。
「おじさん、何やってるの?」
少女の声が聞こえる。馬鹿な、そんなはずはない。だって今は――。
「ああ、ひょっとしてスカイダイビングって奴かな」
少女は合点したようにはにかんだ。俺はつられて頷く。
物凄い勢いで落下する感覚と、そこにあるべきではないものが確かに見える現象。その二つが俺の現実感を奪いかけていることを、俺は客観的に認識する。これは幻覚だ。見てはいけない。話してもいけない。安全に着地することだけを考えろ。
少女は俺の逡巡を無視して続ける。
「人間って不思議よね。羽もないのに空なんか飛んだら危ないじゃない。でもその危なさを楽しもうとする」
美しい楽器のような声だった。声だけではない。透き通るような白い肌。他人の心をひきつける上品な微笑。話してはいけないと毎秒毎秒自分に言い聞かせながらも、俺はその声に耳を傾けざるを得なかった。
「あなたたちの人生もそう。もうこの地球の生態系で圧倒的な勝者になってしまったあなたたちには、もう生きる意味なんかない。だから無理やり生きる意味を作って、自分を納得させて生きようとする。マッチポンプ。はっきり言って滑稽だわ」
「君はなんなんだ」
思わず言葉が口をついた。少女は屈託のない笑みを見せる。
「私は、人間に「生きる意味」を与えてあげる存在」
「どういうことだ?」
「今すぐ判るわ」
少女は笑みを浮かべたまま、落下する方向に顔を向けた。その表情は、好奇心や楽しさといった明るい感情に満ち満ちている。
「こんなところで人間に会えるとは思わなかった。ちょっとびっくり。でも、楽しかったわ。またね、おじさん」
「おい、どういうことだ。君は――」
俺の言葉が届く間もなく、少女は自由落下を超えた物凄いスピードで落下し始め、瞬く間に見えなくなった。
――今のはなんだ? 幻覚にしてはリアリティがありすぎる。だが、しかし。
俺はそこで内なる言葉を断ち切る。
――そろそろパラシュートを開かないとやばい。
出来るだけ冷静になるよう努め、胸のあたりのレバーを操作しようとした、その時だった。
地面の方が圧倒的な光で溢れ返り、次の瞬間、火山が噴火したかのような爆音が轟いた。続けてやってきた台風のような風に、俺の体は枯葉のように吹き飛ばされる。
――息が出来ない。
訳が判らなかった。目の前の光景に頭がついていかない。体験したことのない風圧に、呼吸が出来なかった。必死にパラシュートを開こうとするが、巧く体が動かせない。上も下も判らないまま、俺はもがき続ける。
その時、俺の視界に見慣れない光景が映った。
それは、火の海と化し燃え上がった地上の姿だった。山も建物も何もかもが真紅に燃え上がっていた。その光景のあまりの凄惨さに、俺は慄然とした。
だが、その感情も長くは続かなかった。息苦しさも限界を超えていた。万華鏡のようにぐるぐる回る俺の視界は徐々に暗くなっていき、やがて何も見えなくなった。
面白そうな企画だったので参加することにしました。一晩考えて五つばかり話が思い浮かびました。一人当たり二回までしかコメントできないようなのでリンクを貼っておきます。
91 回答者:betelgeuse 2009-01-11 16:03:32 満足! 5ポイント
「おい、大ニュースだ。空から女の子が降ってきた!」
「空。そら。
地表から宇宙空間に至るまで、地球の表面の気体部分のことか。
私たちが今いるところだ。
降る。
上から下へと物が落ちていくことだ。
人には使わない。
女の子。
ある生物の母親が女なら、そいつが産んだものは女の子だ。
人類一般のことだ。
まとめると、年齢男女不明の人間がある高さから落下し、
これをモノ扱いするという意味になる。で、どうした?」
「・・・おまえには情緒が伝わらないな。
未成年の女性と思われる存在が、上空から地表へ近づいてきている」
「なんだ、まだ降り終わっていないのか。数と速度と推定の質量は?」
「俺がなんの話をしていると思っているんだ」
「被害予測じゃないのか?」
『<空から降ってくる女の子ブーム>に異議なし』
私が愚考するに、この貧民窟における「空から降ってくる女の子ブーム」は
「中島が空から降ってきた女の子と暮らしているらしい」という剣呑な噂と、
その噂の出所が、貧民裁判におけるリーディングケースとして名高い中島事件で
「この貧民窟では人が犬を噛んでも噂にならないが、犬が人を噛んだら噂になる。
よって中島は正当防衛」という審議の流れを決定づける野次を飛ばした私だった
ことに端を発している。
まずは中島について語ろうにも「ズタ袋がハンパ無く似合う」で語ることが
尽きたので語らないが、兎にも角にも中島と私は普段「俺たちは巨大な
落とし穴に落とされているのではないか」というような本当にありそうな
怖い馬鹿話や、ここではとても書けないような猥談をして過ごすこと常であった。
ある日のこと、中島がなぜかニヤニヤしているので、私が手近に
生えていたオオバコで中島の首をキュっと一絞めして事情を聞いてみれば、
中島が今夜、と前置きした後、私にこう耳打ちしてきた。
空から女の子が降ってくる。
もうこの件に関してはノーコメントですよ顔で口笛を吹く中島に対して
私が奪い取ったズタ袋でさらに中島の首をギュっと一絞めして
どういうことかと吐かせたところをまとめると、
・最近一人でボーっとするのにいい場所を見つけた
・ある時そこでボーっとしていると、「海老」と書かれた紙切れが降ってきた
・そのまま夜までボーっとしていると、空から海老が降ってきた
・海老マジで美味い
・この要領で今までに降ってきたのは海老、絵の具、犬、アンプ、ラーメン、
フトン圧縮パックなど。海老と犬は無事というか生きていたが、
ラーメンは乾麺だったため粉々になっていた。おやつ感覚で食うが味がない。
・今日もその場所にいたら「女の子、最後」という紙切れが降ってきた
・いま首がムチ打ちみたいになってる
ということだった。そしてその夜。中島と同行を願い出た私の二人が
その場所で、思い思いの姿勢でボーっとしていると、中島の言うとおり、
空から女の子が降ってきた。
本当に降ってきたので私はしばし混乱したが、よくよく見てみると、
ところがどうだ、私が目にしたのは普通の女の子であった。
「フツーじゃん、」私は激怒した。説教である。
男女の愛を引力に見立てる向きはあれど、イマドキ鉛直方向の出会いに
夢を見ていたなど、私も含めアリスチャンもいいところではないか。
私がそんなことを考えていると――私の知っている中島は消えていた。
――どこから来たのか。名前は。所属は。好きな土下座は――
そこには一心不乱に女の子を口説く一人の恋する男の姿があった。
――中島の愛の告白は何時間続いただろうか。
気がつけば朝日が中島と女の子を照らしていた。
頬を染めた女の子の瞳には光る涙。
私の見たところ、ついに中島と女の子、
いや「彼女」は分かり合えたようだった。
空から女の子が降ってきた。
噂は瞬く間に広がり、相応の準備期間ののち、お披露目が盛大に行われた。
その日。男たちが見守る中、ズタ袋を背負った中島が、この日のために
改装され増築され高層化された火の見やぐらを、男たちの期待が4割、
空から降ってきた女の子はどこに5割の視線の中、中島は昇っていく。
やぐらに一人入っていった中島だったが、しばらく経っても顔を見せず、
じりじりと時間だけが過ぎていく。
5割の視線が疑惑の色を帯びはじめたころ、中島、そして「彼女」が顔を見せた。
遠くからなのではっきりとは見えないが、確かに「彼女」である。
今までどこにいたのか、突然「彼女」がやぐらから顔を出し、
男たちに「こんにちわ」と挨拶をしたのだ。
男たちはおそらく奇跡を見た、のだろう。熱狂する男たち。叫ぶ中島。
空から降ってきた女の子がいる。
貧民窟の男たちには様々な変化が現れはじめた。
身なりに気を使うあまり、週に1度の入浴が日に1度になり、やがて3度になり、
30度になり、仕舞いには風呂から出ることをやめた者、
得を積めば空から女の子が降ってくるとばかりに写経に励む者、
「3年間は私の死を隠すのだ」と傍らの非常食に語りかけた後に息絶える者、
やれ自由になったスタコラホイサと逃げ出したそのドブネズミを
亡き主の指示に背いたという理由で泣いて斬って取って食う者。
とにかく、前向きな変化であったことだけは確かである。
空から女の子が降ってきた。
しかし、男たちの何が最も変わったのかと問われれば、
視線である、と私は応えるだろう。
私を含め、貧民窟の男たちはこれまで下ばかり向いて歩いていた。
這いつくばってでも生きていく、それが貧民窟に生きる男たちの信念だ、
と言えば聞こえはいいかもしれないが、それはおそらく欺瞞であり、
それぞれに下を向いて歩かざるを得ない理由があって、
それぞれが下を向いて歩いていたというのが本当のところだろう。
だが、男たちは中島を見て考え直したのだ。
中島は馬鹿だが正直な男だ。まっすぐ前を見て、そうして自分に見えたものを、
見えたものそのままとして扱うことができる。だから。
空から女の子が降ってくる。
だから、もしもそういうときが訪れたら、どうすればいいだろうか?
地面に這いつくばるのはナシでも、下ばかり向いて歩いていたらのは格好悪い。
なにより、女の子が空から降ってきても気付くことができない。
かといって上ばかり見ていても格好悪い。だからせめてまっすぐ前を向く。
可能性は少ない、いやほとんどないことは皆知っている。
でも俺たちのところにも、空から女の子が降ってくるかもしれない。
だから、まっすぐ前を向いて歩こう――空から降ってくる女の子のために。
それは男たちにとって、まっすぐ前を見て歩くには十分な理屈だったのだ。
さて、空から降ってきた女の子、もとい中島の「彼女」であるが、中島によると、
過度の使用によって肌が破れ、空気が漏るようになってしまったらしい。
私はガムテープでの補修を助言したが、中島はバンドエイドで応急処置をするという。
中島のこういった馬鹿で正直なところを、私は正直畏怖している。(了)
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まず題名ありきで書きました。いろいろと言い訳はありますが、
「人間、特に女の子が書けていない」という批判は甘んじて受けます。
正面から殴りあう気が全くない卑劣さに惚れました。コメントもいいです。
とある作家氏の再開
編集が怖い、編集部が怖い。続きを書けと言われても
書く気がないのに無理をさせるなと言いたくなって来る。
お陰で僕は自分の姿を鏡で見る気も失せ、最近は何かと
引きこもりがちだ。何故鏡を見たくないかと言えば、理
由は簡単だ。編集部に苛め抜かれた末、僕の頭は、僕の
髪は、誠に残念な末路を歩んでいるのだ。
ちょっとすまない。電話だ。そのまま待っていてくれ。
きっと編集からだから、どれだけ酷い苛めかを、ハンズ
フリーにして君にも聞かせてやろう。
「あーもしもし、お話はお聴きしましたよ。あなたの髪
が残念なのは、苛め抜かれた末ではなくて元からでしょ
う?」うるさいよ! 禿げじゃないんだから! という
か、盗聴でもしてるんですか? そもそもあなた誰です?
受話器を睨み付けてやりたいところだが、そうしたと
ころで相手に念が伝わることもないだろう。こういう時
は天井をぼんやり眺めて落ち着くのが肝要だ。
――今、数本、髪が落ちたのはきっと気のせいだ。
「いいえ、気のせいなんかじゃありませんよ。どうも、
編集です。そろそろ書く気になれましたか、先生」
あんたの電話で書く気になれる者が居たら、それは聖人
君子か何かだろうよ。それより編集って、どこのだ。
「つれないですねぇ、先生。発売延期して、そろそろう
ちの弾もエンプティー、もうゼロですよ。そしてあなた
の頭のそれも……」えーい、皆まで言わなくても育毛剤
とか育毛剤とか、育毛剤とか、使ってます!
「まさか先生、印税を全部」それも皆まで言わなくて良
い。余計なお世話だよ、やれやれ。
「どうしても書けない、と仰る? そうですねぇ、では
私どもからこちらをプレゼントしましょう。先生、カー
テンを開け、窓を開けて外を眺めてみてください。きっ
と書く気になれますよ」やれやれ、そんなもので私が書
く気になれると言う……「そう、そのまま太陽を見て下
さい、ふふふ」何ですか、その不敵な笑い声は!
と言いかけたその時。高速早口を伴って少女が降って、
いや、降りて来た。どこかで見た文学の香りのする、色
白で背の低い、ショートカットのアイツだった。彼女は
開口一番、冷淡な声で仄かに顔を赤らめてこう呟いた。
「あなた、ご飯にします? お風呂? それとも執筆?」
――全僕は彼女を嫁にし、執筆する気になったのだった。
(25字詰40行、1000字)
「空から女の子が降ってくる話とかって有るじゃん」
「ああ有るね」
「あれって実際、自分の身に降りかかったら、すっごい迷惑そうじゃない?」
「えっ何で?空から美少女なんてファンタジーじゃないか」
「だって考えても見ろよ。いきなり空から降ってくるんだろ。って事は十中八九その女の子は住所不定無職だろ」
「まあ、そうなるね」
「じゃあ、その女の子の面倒は誰が見るんだ?とりあえず俺が見るとして、まず実家住まいだから家で保護するのは無理だろ。後は食費とか服とか。女の子ってやたらと金がかかる印象が有るんだよな~」
「やけにリアルな意見だね」
「しかも、そういう女の子ってたいてい浮世離れしてるからバイトとか出来ないだろ。ただでさえ今、氷河期なのに」
「まさか社会風刺にまで話が及ぶとは思わなかったよ」
「まあ、そういう女の子ってたいてい何かと戦ってるとか何かの騒動に巻き込まれてるとかのパターンが多いけど、それが終わればぶっちゃけただのニートに成り果てるよね?」
「今までの空から美少女物を全否定してくれる意見ありがとう」
「具体的に考えてみるか。例えばお前、部屋の窓を開けたらベランダの手すりに空から降って来たと思わしき美少女が引っかかってたらどうする?」
「ああ、それ知ってる!!『おなかいっぱいご飯を食べさせてくれたら嬉しいな』って言うアニメだよね!?」
「そうそう。で、どうするんだ?」
「そりゃ、とりあえず保護するんじゃない?アニメでもそうしてたし」
「なるほどな。じゃあ引っかかってたのが美少女じゃなくて、どっかのオッサンだったらどうする?」
「ベランダから蹴り落とすか警察に通報する」
「だろ。要するにこのシチュは空から降ってくるのは美少女じゃないとダメって事なんだよ!!」
「論点変わってない?」
「まあ、とりあえず一つ言える事は『空から美少女が降ってくる』なんて有り得ないって事だな!!」
「そうだね!!」
「「あはははは、あははははははは!!」」
終わり。
空を支配するのは今では鳥である。しかしかつてそこはアース神の支配する世界だった。 かの勇敢なアース神族を統べしオージンは、ドラウプニルという黄金の腕輪、その腕輪か らは九夜に一度同じ重さの黄金の腕輪を八つ滴り生まれたという、を持ち、戦死者を戦乙 女によって選別させ、エインヘリアルとして集め、終末の日のための軍勢とした。彼の左 の目は無かったが、それは泉からセイズの秘密を知るための犠牲だった。バルドルは彼の 子であり、バルドルを殺した盲目のホズ(ヘズ)もまた彼の子であった。ホズはヴァーリ が殺した。ヴァーリはヴィーザルと共に終末の日を生き延びた。炎の剣がフレイの頭上に 降り下ろされても、ヨルムンガンドがトールを毒で殺しても、ヘイムダルがロキと差し違 っても、フェンリルの頤がオージンの喉元を引き裂いても、全ての勇者が息絶えても、全 ての戦乙女が蹂躙されても、世界樹が枯れ、そうして終末の日が過ぎても、彼らはしぶと く生き延びた。何故なら彼らは、滅びた世界の再建を宿命づけられた者達だったからであ る。※空から美少女が降ってきて砕け散ったので、後でスタッフが美味しく頂きました。
プロット
1.空から女の子が降ってくる。主人公と出会う。
↓
2.女の子は追われている敵がいる。主人公は巻き込まれる。
↓
3.主人公は女の子の力を借りて、敵を倒す。
↓
4.主人公は女の子と共に楽しいながらも、敵に追われる生活を。
とある、会議室でこの様な内容がホワイトボードに書かれていた。
担当A「ありきたりな」
担当B「展開がラブコメにしろ、リアリティが欲しいところだな」
担当C「しかし、王道は王道だ」
担当D「所詮はラブコメだ。ある程度、突拍子な設定がないと」
と、男ばかり四人が籠もった会議室はいささか、蒸し暑かった。特に窓の外から入る薄暗い光がより一層、そんな気にさせる。
彼らは青年マンガの担当者達、今こうして新作マンガのアイデアについて考えていた。
担当B「このプロットで中堅に任せてはどうだろう」
担当D「いや、ここは新人と一緒になって描かせるべきでは」
なかなかヒット作に恵まれない中で、彼らは必死になってアイデアを討論させていた。
担当A「そもそも、内容は女の子の設定にかかってくるだろう」
担当C「いえ、主人公の方に感情移入させる流れで」
担当B「魅力的な女性キャラを序盤から多く出す流れの方が」
担当D「完全無欠のヒロインなら一人で十分では」
担当C「でしたら、ヒロインは……」
話は延々と交わることのないまま続いていた。時間も過ぎ、話す内容も尽きても、薄暗い外の明かりは薄暗いままであった。
担当D「とはいえ、空の無いこの世界では突拍子もクソもないんだけどな」
そう呟くとおり、窓の外から見える世界に青い空はなく、ただ人工灯の光る天井があるだけであった。すでに百年近く、人類は放射能汚染のある大地を捨て、地中に住んでいる。
担当A「それをいうなら、女の子なんて空想の産物だよ。今の青年には」
そして、三十年前には女性はウイルスによって全滅をしていた。クローンなどで生き延びている人類男性しか、この地中にはいなかった。
担当B「今の時代だと、このプロットはあり得ないシチュエーションだな」
ACD「そうだ」
一同はこのプロットにヒットの確信を得た。その時、彼らの中には女神が空から舞い降りた瞬間であった。
98 回答者:soramimi830 2009-01-12 00:42:40 満足! 35ポイント
蝉時雨の中かすかに女の人の叫び声が聞こえるきがした。
キャー
ふりかえった。
しかしそこには、誰もいない河川敷が続いているだけだった。
次第に叫び声が大きくなってきた。
本当にこれは叫び声?
声はますます大きくなってきた。
あまりの恐怖に私は頭を抱えてしゃがみこんだ
と、そのとき目の前に大きなものが降ってきた。
グシャ
生々しい音
それが人間で、しかも制服を着た女の子だということがわかったとき
一面は赤く染まっていた。
私の白いブラウスもベージュのスカートも緑の草も灰色の石も砂も・・・・なにもかも。
ギャー!!
後ろから声が聞こえた。ふりむくとおばちゃんが腰を抜かして地に這いながら後ずさりしている。
私はとっさに叫んだ
「きゅ、 救急車を呼んでください!!」
おばちゃんは恐怖におののいた表情で何度もうなずきながら相変わらずあとずさりして、離れた後
一気に走っていった。
私はもう一度女の子が倒れている方へ向き直った。
考えるまでも無く、この女の子は即死だということがわかる。
ピクリとも動かない。
それにしても、何故この女の子は降って来たのだろう?
彼女が証言できない今、私には知るすべが無い。
そもそもどうしてそんな高いところにいたのだろう?
叫び声は20秒ほどは聞こえたはずだ。
高いところから落ちたにしてもある程度の高さが無いとそんなに長い間声が聞こえるわけが無い。
それとも、落ちる前から叫んでいたの?
私は周囲を見渡した。
そもそもこの広い河川敷にそんな背の高いものなどない。
せいぜい木がポツリと立っているぐらいだ。
じゃあ飛行機かなにかかしら?
でも何故制服を着た女の子が飛行機から落ちてこなければならないのだろう?
それに、飛行機だとしたら音がするのではないだろうか?
音が聞こえないほどの高度から落ちたとしてこの程度の損傷で済むのだろうか?
じゃあ竜巻で飛ばされた?
いや、グライダーにブロペラをつけたやつかしら?
わからない・・・全くわからない
惨状を眺めているうちに恐怖におそわれ、力が入らなくなって地面にへたりこんだ。
私のスカートが血をすってどす黒く染まってゆく。
サイレンの音が聞こえた。救急車とパトカーのサイレンが。
ああ、このまま私は捕まって
朝刊に「美しき殺人犯」とかで載ってしまうのかなぁ・・・・。
サイレンの音が近づいてくる。
だんだん意識が遠くなり、そのまま気絶してしまった。
その後、目撃者としてボロボロの服を着たおじいさんと私が警察につれていかれ
調査も行われた様子だったけど、事件の概要は誰にも分からなかった。彼女の身元すら分からなかったようだ。
おじいさんも少し遠目から見ていたようだったが、
なにか大きなものが私の前に落ちてくるところを見ただけで、どうやって落ちてきたかはやっぱりわからないと言っていた。
結局、わかることはつまり
空から女の子がふってきたことだけだった。
それを僕は最初、小さな雪だと思った。
分厚い雲の垂れ込めた暗い夜空に、白い物が漂うようにふわふわと降ってくれば、誰でも雪だと思うんじゃないだろうか。
深夜のコンビニ帰り、僕は誰もいない歩道で足を止め、じっと空を見上げる。
「……雪、か?」
呟きは白い吐息となり、僅かな風に流されて行く。
まだ遠く小さな塊にしか見えないそれは、解けるように手足を広げ、風に背を預けるように大きく伸びをした。そこで初めて僕はそれが人間の少女であると気付いた。
「は?」
短い笑いのように声が漏れ、僕は慌てて自分の目をコンビニ袋を持った手で擦る。
見間違い?いや、でも、何でそんな見間違いを?
エロゲのやり過ぎか、ラノベの読み過ぎか、単なる欲求不満か?
実年齢=彼女いない歴の身としては、思い当たることが多すぎて、目の前の出来事が現実の事とはとてもじゃないが信じられなかった。
いや、だが、しかし……そこに、見上げた夜空に彼女は確かに存在していた。寒く暗い冬の夜空を、まるでイルカのように身をくねらせて泳いでいる。
そう、文字通り水を得た魚のように、彼女は一糸纏わぬ姿で夜空を泳いでた。
街の灯が彼女の白い姿を浮かび上がらせ、また彼女も僕の存在に気付いているのか、時折その視線を僕に向ける。
これで羽衣でも纏っていたら、僕は彼女を間違いなく天女だと思っただろう。いや、羽衣なんか無くても彼女は天女なのかも知れなかった。
長く艶やかな黒髪、白く汚れを知らない肌の滑らかさ、幼さの残る表情はあどけなく、また美しいものだった。
時間の流れさえ忘れ、僕は彼女の姿を見つめ続ける。そして、
「***」
聞き取れない呟きを漏らし、彼女が薄い笑みを浮かべた。
「え?」
反射的に僕は背後を振り返り、誰もいない歩道に目を向ける。彼女の微笑みと呟きが僕以外の誰かに向けられたのかと思ったからだ。
でも、そこには誰の姿も見えなかった。
コンビニからも随分と歩いて来たし、それにこんな時間だ。僕以外の誰かの姿がある方が不思議だろう。
ふわり、と柔らかい風を首筋に感じ、僕は慌てて彼女へと向き直る。……が、彼女は既に僕の目の前まで降りて来て、その白く細い腕を僕の肩へと回していた。
「なっ!?」
なにを?と尋ねる暇も無く彼女の手は僕の後頭部を荒々しく掴み、無理やり顎を仰け反らせる。
高揚した表情のまま彼女は唇を開き、その長過ぎる犬歯を見せて笑う。そして、初めて僕は彼女の目に浮かぶ感情の意味を知る。
「や、やめろっ!」
ガサッと堅い音を残し、コンビニ袋が地面に落ちる。
僕は彼女の肩を掴み、必死に抗おうとする……が、既に僕の爪先は歩道から浮かび、何も触れていなかった。
「くそっ!何なんだ。何で、こんな――っ」
熱過ぎる彼女の吐息を首筋に感じ、次いで焼けるような痛みが抉るように突き刺さった。
「あ……が、ぐがが……」
意味を成さない叫びを漏らしながら、全身を苛む痛みと快感に僕は身体を震わせる。
溢れ出た血がすぐに温かさを失い、冷たくなって行く中、僕は見上げた夜空に明滅する無数の光を見る。
それはまるで……舞い降りる静かな雪のように見えた。
天使工房
あ?
ああ、中佐のことか?
そりゃお前、忘れたくたって忘れられねえよ、あんなもの。
ああ、生まれも育ちもベルリンだって言ってたぜ。
親父さんも軍人で、条約の後も軍に残ったらしい。だから暮らしはまあまあだったそうだ。
あ?やけに詳しいって?
転属先の大隊長がな、たまたま奴の知り合いだったんだよ。死んじまったがね。
まあそりゃいい。
奴の頭がおかしくなったのは、十五かそこらの頃だそうだ。
飛び降りを見たんだとよ。それも目の前で。
何でも、無理心中をはかった母親が、アパートの屋上から娘を突き落としたらしい。もっとも母親のほうは、恐くなってもたもたしてる間に、警官に捕まっちまったって話だが。
その時、娘が空から降ってくるのを、中佐は目の前で見たって事だ。
それでやっこさん、頭がおかしくなっちまった。
最初は空軍に入ったそうだ。
いや、パイロットじゃない。降下猟兵だ。ベルギーじゃあたいそう活躍したらしい。
だが、1941年のメルクール作戦で…そう、クレタ島だ…足をやられた。四肢の一部欠損で、めでたく銀の戦傷賞だ。本当なら、義足をつけて書類仕事にまわされるはずだった。
ところが何を考えたのか、やっこさん、空軍を辞めて親衛隊に鞍替えした。それも、俺のいた強制収容所にな。
義足でも教官くらいはやれると思うんだが、どういうわけか、そうなったんだ。
仕事の腕は、まあ普通だった。所長の仕事なんてのは、書類を作り、電話をかけて、機械の点検をちゃんとさせてりゃ、それで万事上手くいく。ユダ公どもの扱いも、とっくにマニュアルが出来てたしな。
そう、普通にやってりゃ良かったんだ。
なのにあの男は、あすこでろくでもないことを始めやがった。
収容所の中にな、塔を作ったんだ。
監視用の奴と同じくらいの高さの奴だ。
そいつには仕掛けがあって、根元の装置のレバーを引くと、てっぺんの小部屋の床がこう、パカッと開くんだ。そこに人がいれば、当然、そいつは真っ逆様ってわけだ。
もうわかるだろ。
あいつは、ヨーロッパ中からかき集めてきた連中…ユダヤ人、ロマ、共産主義者、アル中、同性愛者なんかの中から、14,5歳の小娘を選び出して、塔の上から落っことした。
自分はそのすぐそばで、どっかから調達してきたやわらかいソファに座って、そいつを眺めてたよ。落ちてくる娘の顔が良く見える位置だ。
にやにやするでもなく、妙な顔で……そうだなあ、信心深かった俺のばあさんが、教会でお祈りしてるときみてえな、そんな顔で眺めてた。
あ?
何でそんなことをしたかって?
知るかよ。言っただろ、頭がおかしかったんだよ。
それだけじゃねえ。奴はこの塔にもう一つの仕掛けを付けてた。
落っことす娘の足に、縄をかけておくんだ。そいつを滑車に通して、地べたにある別の装置につなぐ。その装置にはカメラがついてる。娘が落っこちて、縄がある程度まで引っ張られると、カメラのシャッターが落ちる仕掛けだ。
カメラのレンズは上を向いててな、落ちてくる娘の顔を上手く写せる様になってた。つまり、娘たちが地面に叩きつけられて死ぬ寸前の表情を、あいつは写真に撮ってやがったんだ。
囚人の中に機械工がいてな。配給のパンを一切れ増やしてやると言ったら、喜んでそれを設計してくれたよ。中佐もひでえが、あいつも大概だ。
中佐は、よく撮れた写真を額縁に入れて、所長室の壁に飾ってた。同僚はみんな、気味悪がって部屋に入るのを避けてたよ。一日中、呼び出しがかかりませんようにと祈りながら仕事をしてた。
額縁が6,7個になったあたりで、俺は転属になった。
運良く西部戦線に回されて、5月には米軍の捕虜になってた。だから、あの収容所がどうなったかは知らねえよ。
あんた、中佐がどうなったか知ってるのかい。
ん?
終戦の二日前に…米軍の爆弾で……
はぁん。
奴には上等すぎる死に様だ。
だってそうだろう。奴のやったことを考えてみろ。あんたも一度見てみりゃよかった。神様だろうがなんだろうが、一発で信用できなくなるぜ。
まったく、空から降ってくるんなら、女の子より爆弾のほうがよっぽどマシだ。
相変わらず軸がぶれないですね。
101 回答者:moreinteraction 2009-01-12 01:17:05 満足! 8ポイント
その少女の背中には、天使の羽が生えていた。
しかし彼女はその羽を広げない。体にぴったりと巻きつけたまま、石ころのように地へと堕ちていった。
昨日の晩、彼女が生まれた時からずっと一緒だったペットの犬が死んだ。
老衰で安らかな死であった。
大人たちは、せめても眠るような死で良かったと言ったが、幼い彼女はその現実を飲み込むことが出来なかった。
忙しい大人たちに代わって一日中彼女の遊び相手をしていてくれたのは、いつもこの犬だ。
ヒゲを引っ張ったり、上に乗ったり。それでも犬は嫌がることなく彼女の頬を舐め、一緒にご飯を食べ、一緒にお昼寝をした。彼女の今までの思い出は全てその犬と共にあったし、・・・これからも続いてゆくのだろう。つい昨日までは、そう信じて疑わなかった。
しかし、今、その犬は目の前にだらしなく横たわっている。
・・・体を寄せると、いつもの温もりが失せているのが分かった。
その時、理性で納得出来なくとも、本能で理解した。この犬は死んだのだと。
彼女は声をあげて泣いた。
泣きじゃくり、そして、狂ったように祈った。
あぁ神様、私の命と引換えにしても構いません。どうかこの犬を生き返らせてください。お願いします。どうか。どうか。
何時間そうしていたのだろうか。
泣きつかれた彼女は、いつのまにか眠ってしまっていた。
再び彼女を起こしたのは、全身に鳥肌が立つほどの悪臭であった。
腫れて熱を持ってしまった目を擦り顔をあげると、目に入ったのは、浅黒い大男だった。
あなたは、神様?来てくれたのね!?
「いいや、悪魔だ。神様は忙しくてな、いちいちこんなところに来はしない・・・。で、願いは何だ。」
この犬を助けて頂戴。
「もうこいつは死んでいる。」
なら生き返らせて!出来るでしょう?悪魔ならばそんなこと!
「そうだな。出来なくは無い。・・・が、ただ条件がある。」
何よ?
「一つゲームをしよう。それでお前が勝ったら、この犬の命を助けてやる。」
お願い、そんなこと言わずに助けてよ。私の命と引換えでもいいわ。
「まぁ、聞けよ。・・・ここにいつだったかに拝借してきた天使の野郎の羽がある。これをお前にやる。お前はこれからそれを使って雲の上まで飛ぶ。そしてそこから、・・・落ちろ。」
え?
「落ちて、落ちて。落ちている最中、お前はいつでもこの羽を広げることが出来る。そして地面にぶつからずに済む。ただし、ゲームはそこからだ。落ちている最中、一度でもこの羽を広げたら、そこでお前の負け。この犬は助からない。しかし、・・・もし羽を一度も広げなければ、この犬は助けてやる。どうだ、簡単だろ?」
。
「悪いね、悪魔ってのは残酷でな。」
もとより命を捧げる覚悟だった彼女には、その過程が若干まどろっこしくなっただけの話だ。結果は変わらない。悪魔の足にすがり、堂々と目を見据え、分かったわと言った。
そして、夜明けの光の中、・・・彼女は雲の上から落ちはじめる。
次第に増していく速さが、彼女の体にどうしようもない恐怖を与える。
当たってくる風ですら彼女の細い肢体をもぎ取りそうなのに、これが土の地面ならばどれほどの。
しかし彼女は目をつぶり、手を握りしめ、しっかりと羽を閉じつづけた。
あの犬を助けるんだ。
そう心の中で繰り返し、恐怖心を殺した。
<中略>
悪魔が太陽を背に長い影を落としながら歩いてくる。
(彼女) を一瞥し、そして歩き去る。
「悪いね、悪魔は残酷だ。そして・・・言い忘れてたが・・・嘘つきなんだ。」
春というには、不平が出るような寒さの中、その空間は異常な雰囲気に包まれていた。
色に例えるなら、鮮やかなショッキングピンク。自然界には不似合いな派手な色。
若い男性たちが、頬を上気させて、湯気でも出そうなほどに溢れていた。
スピーカーから、こもった声が流れる。
「諸君におきましては、これからの活躍を……」
多くの若い男性たちの目線の先には、頭髪に寂しさを感じる初老の男性マイクに向かって話している。
しかし、その言葉を聞いているものは、一人もいない。
若い男性たちは、視線もおぼつかず、鼻から白い息を吐いている。
この日は、学校法人現代紳士術専門学校の卒業式であり、まさに今、2年間の就学を終えた生徒たちが旅立とうとしていた。
現代紳士術専門学校とは、数年という薄っぺらい歴史と伝統を持ち、社会人男性相応しいマナーとスキルを学ぶという触れ込みで設立された、由緒正しい専門学校である。ちなみに、男女共に募集はかけているものの、いままでに女性の生徒が入学したという事実はない。
この専門学校、仰々しいい名前とは裏腹に、なんの資格もとることができない。それなのに、何故生徒が集まるのかというと、ある一つの噂があるからだ。
卒業後の童貞喪失率100%
特に学校側が謳っているわけでもないのに、ネットや口コミなどで多く触れられ、噂に過ぎないこの情報に何らかの信頼があるのではと実しやかに語られている。
かくして、本日集まった卒業生一同は、多くの期待と希望を胸に抱き、濁った目を輝かせ、桃色の妄想に支配され、晴れやかなる船出にいざ行かんと出航の時を待っているのだった。
「……諸君らの活躍を楽しみにしています。卒業おめでとう!」
壇上に立つ、荒れ果てた頭をした校長が、その言葉を放った瞬間。若い男性たちは、野太い声を上げた。
卒業式でよく見かける、学帽を空に投げ捨てるのを模したかのように、手に持った思い思いの宝物を宙に放つ。
しかし、卒業生たちは、知らないのだ。
童貞率が、ほぼ100%と知れ渡っているこの学校は、初物食いを趣味とする妙齢のご婦人たちの恰好の餌食であると。
肉食獣の闊歩する平原に放たれた、健康的に育てられた豚のように、彼らは簡単に食い荒らされて、その後は見向きもされなくなるだろう。
だが、それすらも、彼らにとっては幸せなことなのかもしれない。
寒風吹きすさぶ中、彼らの青春とリビドーの染み込んだ桃色や肌色の女性器を模した柔らかそうな物体と共に、空気で膨らまされた女の子がゆっくりと落ちてきた。
103 回答者:kochergawa 2009-01-12 03:21:35 満足! 5ポイント
西暦2105年。茶園星系開発諮問委員会は紛糾していた。《世界樹》の残党が敵対的買収の報復として投入した環境兵器の初期対応に失敗し、恒星殻建設の足場となるべき貴重な第一惑星の損なわれた統制を直ちに回復せねばならなかった。
会議室は騒然としていた。対物メーザーが乱れ飛び、フォノン絞り機が室内の什器のことごとくを粉砕した。
「委員長。私に腹案が」
室内は静まり返った。発言者は連合航空宇宙軍派遣技術顧問団主任明智八十一郎である。各委員は武装を下げて沈黙し、言葉を待った。
「女の子を使いましょう」
混乱が再開した。
「何を言っとるんだ明智君」
「巫山戯てるのか」
「いい加減にしろ」
「ナンセンスだ。いくらチャノキの日照が少ないとは言え、一体何人の労働力を投入すれば人力で光合成生産量を上回る速度の伐採ができるんだ」
「列席の諸委員がご存知の通り、我が帝国の擬人化技術は隣接十七星系随一です」
明智は回答する。
「《世界樹》の惑星森林は自然人以外のあらゆるシステムを排除する。幾ら人の形をしてはいても、連中はそれをヒトとは認めやせん」
「ですから、ヒトの女の子の擬人を投入するのです」
静かな歓声と嘆息が広がった。
「論理的帰結です。彼らのシステムは彼らの定義でヒトとされるものを害しない」
「確かに合理的だが…」
「なるほど、ヒトゲノムと生体脳を持つ擬人などという古びたものはごく一部の好事家以外には近年全く流通していないからな」
「しかしそれで連中の認証を抜けるのか?」
「星間人権憲章はどうなる」
「法務委員、検討を」
最高法務機構最上川九型は立ち上がった。
「はい、第七千百二十五次人権憲章では最早この種の工業製品を明確には禁止していません。しかし《世界樹》が公表している自然人のポジティブリストには巧妙に設計すれば該当する可能性があります」
「概要はわかった。だがいくつか質問がある」
諮問委員会委員長百々目鬼博士は切り出した。
「何故女の子なのかね?」
「はい。第一に生産性です。単一の表現型に絞ることで量産が容易になります」
「第二に軽量化です。雌性の方がわずかですがペイロードを軽減できます」
「第三に単性のみとすることで再生産にともなうエラーを局限できます」
「しかし性転換の可能性も」
「繁殖性では単為生殖による自己増殖が効率で上回っています。後は自滅コードの設計の問題かと」
細部の検討と決議の後、第二次対応策は実行に移された。
綾波型航宙駆逐艦三隻の護衛の下、運搬体に束ねられた1290億体余の女の子が軌道に投入された。総質量524万トン、平均体重40.6グラムの女の子はそれぞれが周回軌道からサイコロほどの高推力電気機関によって進入し、チャノキの希薄な大気を使った空力制動を併用して個体の97%までを安全に落着させる。
スミスの小説を読んだことがある。中国政府が金星に人を降らせる話だ。あんなものは、人間でしか対処できないものというギミックがあって初めて可能になる。確かに名作ではあるが、その様な状況は実際にはおよそありそうにもない。そう思っていた。
それは間違っていた。我ら森の人の過ちが、状況を作り出したのだ。
恐るべきは第六大日本帝国。人の命すら塵芥だぜ。ぶつぶつと生化学的な文句で女の子達を爛れさせながら、俺たちはゆっくりと齧られていった。もう彼女達の糞が、俺の根を肥やしてくれることは望めそうもない。
「ええい黙れ黙れ!釈迦を奉じて乳が揉めるか!道理がヨブを救ったか!不合理故に我信ずとスンマテオロギアにも有る!針の頭にすら千の天使が宿るならばこの広大無辺にして無窮の天蓋が億千万の少女を抱かぬ道理は無い!ならばそのうち一人が私の前に降臨することもまた理に適う!女の子は空から降ってくる!降らぬ理は無い!なぜなら我々はそうして空から降ってくる存在をこそ女の子と呼ぶからだ!」
「そうして自らの全存在を賭けて信仰に跳躍した哀れな単独者キェルケゴールは結局どうなった?レギーネの乳も揉まぬままひとり路上に昏倒して果てただろうが!空から女の子が降ってくる?馬鹿が!女の子は空から降ってくるものだ!お前の実存の奥の奥、お前をお前たらしめる煩悩の山の中心にぽっかりと空いた虚ろの向こうから光と羽衣と百合の花弁を纏って降臨召されるものだろうが!それを信じられずに何の信仰か!」
「えー不躾ながら読者の皆様のために補足させていただきますれば、春川先輩は『ソラからオンナノコがフッテくる?バカが!オンナノコはクウからクダッテくるものだ!』と申しておりまして、更に僭越ながら申し添えさえていただきますれば空とはそもそも仏教の縁起説を発展させ突き詰めた概念であり、世の事物つまり色は縁起によって互いに流転し生起するものであり固定的実体を持たないとする考えでありまして、さらに無粋を承知で申し上げるならば二次元も三次元も等しく空であるなら揉めない三次乳と揉めない二次乳の間に如何なる差異を認めるべきかと問うたのがかの永世非びゅ」
キンチョールの噴射音のような声を最後に森田は沈黙した。何事かと振り返る春川と西浦が目にしたのは、開脚前屈の姿勢で上半身をべったりと地面に密着させたままピクリとも動かない森田と、その森田の背中の上で鶴のように両手を広げて着地姿勢を決めたままやはり微動だにしない少女のシルエットであった。非認可同好会取締係・市村夏希。比較宗教学同好会の天敵である。
ポーズを解いた夏希が森田の骸の上から二人を睥睨し、万全の体勢で決めのセリフを口にしようとしたまさにその刹那、一陣の突風が背後から吹き抜けた。校舎裏のコンクリに座り込んだまま闖入者を見上げていた二人は、大きく翻るスカートの奥、遥かな高みのイチゴ柄の空に星が散るのを見た。靴跡がくっきりと刻まれた二人の死に顔はしかし安らかであったという。
106 回答者:paraselene 2009-01-12 08:46:01 満足! 5ポイント
「明延っ!」
頭上から呼ぶ声がした。花嫁姿の理佳子が尖塔の窓から身を乗り出していた。
彼女は一度後ろを眺め、意を決した顔をしてベールを捨てた。しゃがんで姿が見えなくなったと思うと、再び身を乗り出し両手を窓にかけた。そのまま窓枠を乗り越えた。ドレスの裾を腰で留めている。足を伸ばし、三角屋根のてっぺんに立った。身を翻し屋根にしがみつく。風に煽られ髪が散らばった。
建物の中から怒号が聞こえていた。時間がない。屋根の急な斜面を不安そうに見ていた理佳子に声を張り上げる。
「行こう!」
彼女は顔をほころばせて頷くと、いつもの凛々しい表情に戻り、パンプスを下に放り投げた。
これからどうなるのだろう。無事に彼女を受け止められるのだろうか、その後の生活はどうしていくのだろう。思いが巡る。
理佳子は後ずさりしてゆっくりと屋根を降りてくる。真ん中まで来たところで踏ん張っていた足が滑った。彼女の悲鳴と屋根の軋む音。屋根の下へと走った。彼女の姿が見えない。落ちてくる音は真上からしている。
現れた影が太陽を隠した。塊が降ってくる。
下で両手を広げ、踏ん張った。下半身に衝撃が来た後、背骨が支えられなくなり胸から顔まで圧迫される。ドレスの塊の中の彼女を支えようと両手で抱きしめた。背中に衝撃。
地面に倒れていた。呼吸ができない。身体に力が入らない。
「明延……明延っ!」
「だ……い、じょう……、頭も打って、ない」
朦朧とした頭を動かしてみせる。足腰はしびれてすぐに立てそうにない。しかし、やばくはなさそうだ。
理佳子はすぐに立ち上がった。手をなんとか動かしポケットからキーを取り出した。俺を覗きこむ理佳子の涙が顔を濡らす。彼女は目を細め、軽い口付けをして、キーを手に取って走っていった。
理佳子が車を取りに行っている間、俺は地面に身体を横たえたまま、背中に残る衝撃と彼女の重さを感じていた。
理佳子が俺の車を運転し、脱出には成功した。車を運転する花嫁の姿は、対向車のドライバーの見世物になっていた。自分の味方だという理佳子のじいちゃんばあちゃんにやっかいになり、すぐに近くに家を借りた。
親御さんとの関係修復には2年かかった。正式な挙式はその後で行った。
あれから、娘が産まれ、就職し、なんとか家族としての生活ができるようになった。それは幸せということなのだろう。
しかし、今でもずっと感じていることがある。
あの時から後のどの時間も、俺にとっては付随するものでしかなかった。空から降ってきた理佳子を受け止めた瞬間は、未だに俺の中のほとんどを占め、それが薄らぐことはなかった。彼女を支えた時の身体全体への圧力、両腕で抱きしめたドレスの中の彼女の重みは、今でも身体の中にある。娘の愛佳を抱き上げたときの重さや、理佳子と肌を重ねる感触に何も感じないというのではない。しかし、自分の身体に刻み込まれた重さは、他の物理運動に受け容れる余地を与えない。
あの時の話を理佳子とすることはない。ただ、彼女がたまに空を見ているときがある。そんな時俺は、太陽を隠すようにして大きな影が現れるのを待つ。隣にいる彼女が空を飛んでいるなら、俺は降ってくる彼女を受け止めないといけないのだから。
【 降臨論 概念編 】
女の子が空から降ってくる。
無論、女の子は空から降ってくる。
女の子=少女。子供と大人の境界に位置し、妊娠と出産が可能ないしは、いずれ可能になる性を有する者。
人間には赤ん坊から老人まであらゆる成長段階があり、それら全てが出産なくしては存在しえず、妊娠によって人類という種が継続してゆくことを考えると、女の子というのは一種の公理のような存在であり、理想的に少ない概念容量で人類を要約することができるものだと言える。
そして、そのような高次概念ならば、空から降ってくることも、やはり、ある程度妥当なことである。
高次概念を高次概念であると再認識するのに、空は重要な要素だ。
何故ならば、空もまた、太陽や月や宇宙といったものと関連づけられる高次概念であるから。
女の子が空から降ってくる。
言い換えよう。
尊いものが尊いものに相応しく出現する。
尊いものに触れれば、触れた己もまた尊い。
そうだ。私は夢の話をしている。尊いものの話をしている。
地上の人間たちが日々見る夢に関しての話を。
私たちの日常は夢にまみれている。
非凡でいたい。抜きんでていたい。
有名になりたい。誉められたい。
かわいい女の子と付き合いたい。
愛あるセックスがしたい。
冒険したい。
未だ見ぬようなものを見たい。
……幸せな状態でいたい。
聖書に神は己に似せて人を作ったとある。
逆だ。人類は存続の為に、神という高次概念を作り、高次概念に従って種全体を統制している。
神とはversion upされた己を示す高次概念であり、また、それらの高次概念や公理によって稼動する自己統制システムの総称でもある。
そして、神がタブー化されつつある現代において、神という概念は夢という名のものにとって代わられつつある。
神にしろ、夢にしろ、システムである以上、エラーはつき物である。
私たちは夢を抱いて生きている。夢の為に生きている。
そして、夢を手なずけるつもりで、いつの間にか夢に使役される日々を送っている。
日々には絶望がある。真善美といった公理群では覆いきれないカオスがそこにはある。
時にそれらはシステム全体の強度を揺るがすほどになる。
その危機に瀕して彼女がやってくる。
女の子が空から降ってくる。
女の子は『女の子が空から降ってくる』ことが『女の子が空から降ってくる』ようであり続けるために降ってくる。
夢が夢であるために降ってくる。
神や夢といった自己統制システム、それら下位システムをフォローする上位システムの存在を神と呼ぶのならば、やはり『神』はいるのかもしれない。
女の子が空から降ってくる。
それは『神の見えざる手』によってもたらされる修正パッチ。
別にそれは平凡な日でいい。
夢というlowと現実というchaosは人類全体の無意識の中で常に拮抗しているから。
だから、そんなコップから水があふれてこぼれるような日は平凡な日でいい。
そして、突如としてそれは降ってくる。成層圏を超え、銀河系を超え、無重力空間を抜け、銀河系を飛び越し、ブラックホールの闇黒を突き破って。
夢と現実の拮抗が破れ、現実が夢を侵食し始め、人類の無意識が己を定義する形をとどめられなくなった時にやってくる。
それは、概念果つる場所から、概念を救うためにやってくる。
部屋に入ってくるなり、弟子は叫んだ。
「親方! 空から女の子が!」
親方は一喝した。
「女の子なんかどうでもいい!」
そのあまりの剣幕に、弟子は怯んでしまう。
「私が待っているのは……そんな女の子なんかではないのだ」
親方は握り締めたこぶしを力なく下ろしうなだれる。
少女は墜落して死んだ。
それからも女の子は度々落ちてきた。だが、そのどれもが親方を満足させるものではなかった。
「今日も実り、なしか……」
一日の終わり、親方は満天の星空を仰ぎ、呟く。
硬いものを叩き続ける職業柄、彼の手はボロボロになっていった。あるいは、それは緩やかな自傷行為だったのかもしれない。
季節は流れた。春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎていった。
変化は突然に訪れる。
「親方! そ、空から――」
「女の子か? もううんざりだよ……私が待っているのは、そんな女の子じゃない……」
「違うんです親方! 今までのとは、違うんです!」
親方は不承不承ながら表に出てみた。
いつものことだと思っていた。
だが。
天空から、少女の姿が視認できるにつれ、親方の顔色は変わっていった。
「あ、あ……」
少女の姿はどんどん大きくなっていく。こちらに向かって近づいているのだ。
地上まで、30メートル、20メートル、10、5、4、3、2――そして――
身の丈六尺ほどになった少女は、その巨躯にも関わらずふわりと舞い降りた。
「よく、帰ってきたな」
少女の目からは滂沱の涙。
親方も泣いている。
少女は声を震わせながら奏上した。
「はい、親方……、帰ってきました、」
「高砂親方」
それは、少女としか呼べない代物だった。
少女だから逃げる。弱いから。
それでも心の中にキラキラ輝くダイヤモンドの輝きは、消えはしなかった。
少女だから強い。強いから、傷つけてしまう。
己の出自をうらみ、心無い言葉を吐き、記者の国柄を差別したこともあった。
刮目しろ。
この冬、処女のような繊細さと、凜冽たる寒風のような芯の強さを併せ持つ、最強の少女が帰ってくる。
たった4.5メートルの円形の中に、少女の心と誇りと愁いを乗せて。
己の進退まで賭して。
平成の大横綱
蒙古よりの王者
空から、朝青龍が降ってくる。
【 降臨論 実践編 】
たとえばこうだ。
20XX年。空から降ってくる少女を皆が目撃する。
ある者は肉眼で、ある者はブラウン管越しに、ある者は幻視として。
空から降ってきた少女は例によって美しい。完璧な美しさを有している。
古今東西のあらゆる女より優れ、いかなる男もたちまち籠絡する。
そして、これまたお約束通りに記憶がない。
彼女にあるのは、悪い奴らに追われているような気がする、という漠然とした不安ばかり。
助けて欲しいの、守ってほしいのと、彼女は出会った者に対して涙ぐむ。
男たちは口々に叫ぶ。
僕が守るよ!
僕が守る!
きっと君を守ってあげるからね!!
男たちは彼女の美しさに心奪われ、続々とつめかける。
そして、お互いがお互いを彼女の敵と誤認する。或いは嫉妬に目がくらんで意図的に確信する。必然的に始まる死闘。
それは彼女の真の味方=夫を決めるためのバトルロイヤル。
彼女が限りなく清純であればこそ、彼女の敵を退け、夫となって、その腹に胤を播けるのは一人のみであった。
アルバイトで細々と生計を立てている少年が、或いは外界との接触に今一つ価値を見いだせなかったひきこもりの青年が、社会の底辺に位置し続けた彼らが奮起して、彼女を守る。
彼らにとって、それは、存在意義を賭けた最初で最後の絶対に負けられない戦い。
そこそこに社会と組みあがっていた男や、女には不自由しなかった男たちも、また、心に闇を抱える。
友人もいる。パートナーもいる。地位も名誉もある。他人が必要とするものや、欲しがるものは一通り揃えた筈だ。しかし完全には満たされない。
日々に満足はあり、そして、いともたやすくそれは蒸発する。
幸福を求めて、自分のやり方は確かに間違っていないはずなのに、なぜこんなにも日々に虚しさを感じるのか。人の絆とは結局利用し利用されるだけのものではないのか? そしてその生はいつか完 全に無に帰すのではないか? 死を覚悟しようにもそれはあまりにも漠然としすぎ、遠い所にある。不安だけがリアルにそこにある。
彼らの人生は不完全な長距離走だ。
ゴールが見えてこない。そもそも、ゴールがどこなのかも分からない。
己では決めきれず、しかし、他人の言うことはどこか疑わしい。
そんな彼らにとって、彼女は絶対解となる。
そして、人生も曲がり角を過ぎ、大切なものはあらかた失った男たちがいる。
既に先は長くない。彼らは己の人生がやり直せないことを知っている。
恐れるものは何もない。
彼らには絶望だけがある。
後は己が蓄積した夥しい絶望上に希望をぽんと置くだけで良い。終わりよければすべてよし。
それで、心おきなく終われる。
そして、希望そのものとして彼女が現れる。
火の手があがる。爆破が起きる。交通はストップする。都市の機能は麻痺する。
全ての男は彼女の恋人となりえる。
それは同時に、全ての女は彼らにとって無価値になることを意味する。
凄まじい嫉妬と絶望と渇望が彼女たちの中に吹き荒れる。
ある者は泣きながら男に縋り、その結果、全力で振り払われる。
ある者はメディアのようにわが子を殺す。
苛立ち、獣性を引き出された男たちに襲われ、殺される者は多い。
或いは、男たちの欲求不満の爆発、つまり強姦、輪姦の憂き目に遭い、絶望して死ぬ。
はたまた、泥棒猫と叫んで刃物片手に彼女に襲いかかり、彼女の騎士たちに瞬く間に返り討ちに遭う。
世界は退行する。
原始的な血と暴力が支配する世界が訪れる。
世紀末的新世紀が訪れる。
あらゆる死に個々の存在意義と願いが刻まれる。
そしてそれはおおむね似たり寄ったりなものになる。
彼女はパンドラ。彼女はノア。彼女はバベル。彼女はペスト。彼女はホロコースト。彼女はエノラ・ゲイ。彼女はワールドトレードセンター=グラウンドゼロ。
彼女はお前たちが知識として知り、経験として知らぬ未曾有の大災害だ。
したり顔で解説し、嘆いてみせることはあっても、その渦中にはいたことがなかった災禍、そして忌避するのと同じぐらい居合わせたいと願っていた災禍だ。
そう。お前たちの大好きな災禍だ。
現実は夢そのものになる。退屈と倦怠の無間地獄は終わり、真の地獄が屹立する。
地獄を抜けた先に楽園がある。
そうして、世界は再び静かになる。
人類は一人を残してすべて滅びる。
その一人が空から降ってきた天女と結ばれ、(これぞセックス!キング・オブ・セックス!!というようなまぐわりの末に)新たな人類の祖となる。
極端な口減らしの末、夢は再び羽ばたく翼とそれを羽ばたかせられるだけのゆとりを得る。
現実は『その日を生き延びるだけで精一杯』『人生は子孫を残すだけで精一杯』といった、虚無を孕まないものになる。
再び、夢と現実は適度に共存し拮抗し始める。
徐々に人類が飽和し、文明が爛熟し、現実が夢を駆逐し始めるその日まで。
遠い遠いその日にはまた、女の子が空から降ってくるだろう。
そしてそういうことを考えている今まさにこの時、私は空から女の子が降ってくるのを見る。
遠目にも人知を超えた美しさである。
それは天使だ。理由も理屈もいらない。
ただそこに存在するだけで彼女は真になる。
脳が文字通り本能的に好きだ好きだ好きだと告げる。それは絶叫だ。
抱きしめてあげたいと思う。
抱きしめ、彼女の髪を撫でて、また抱きしめる。そして抱きしめ返される。言葉はいらない。
彼女の体は温かい。彼女は微笑む。そこにすべてがある。
私は家族の元に帰ることを放棄した。
仕事を辞めることをたった今決意した。
今まで思い続けていた異性は所詮他人だった。あんな人間に合わせて四苦八苦して己を剪定していたこれまでがひどく愚かに思われた。
そして今までずっと重かったのだと思う。
みんなみんなずっと捨てたかったのだと。
一切合財のしがらみを捨て去れることがこんなにも嬉しい。
全てを捨てた今、身も心も軽く、意識はかつてないほどに透き通っている。
これまでの幸福はいずれやってくる幸福を味わうための準備運動に過ぎなかったのだろう。
死ぬかもしれないと思う。
彼女の意志に関わらず、彼女の本質は大予言に記された恐怖の大王のようなものだ。
死ぬかもしれない。無残に死ぬかもしれない。
即座にその答えは出る。論を待たない。
それで構わない。
世界と一つになれるのなら。
何人死んでも何人殺しても構わない。
死ぬにせよ、歓喜と熱狂の末に私は死ぬだろう。そこに意味はある。
意味が、あるのだ。
私の頬に熱いものが流れる。とめどなく。
空から女の子が降ってくる。
空はよく晴れている。
最高だ。
そしてこれからもずっと最高なのだ。
私は終末に向かって走り出した。
私の行方は誰も知らない。
「空から女の子が降ってくればいいなんて寝言を抜かす奴らは全員死ねばいいのに」という底知れぬ悪意を感じます。
110 回答者:zeitakuzanmai 2009-01-12 13:11:53 満足! 5ポイント
(2作目が頭の中に湧いたので投稿します。1作目に☆をつけてくれた人、ありがとう。)
産めよ、増えよ、地に満ちよ。
天上の創造主は唱えた。
いつのころからか、地球上の人口密度が薄い砂漠地帯に、女性の死体が積み重なっているのが確認されるようになった。遺体の状態は酷い物だった。何故女性ばかりなのか、何故そこに彼女らがたどり着いたのか、なぜ地面に叩きつけられたような状況なのか、誰も説明がつかなかった。
そして、どんどんと死体の山が増えていった。流石におかしいと気がつき出した人々によって、監視カメラが設置された。女性は・・空から降ってきた。落下する彼女らは衣類もまとっておらず、重力に対してなすすべもなかった。
地上の人間にはどうすることもできなかった。積み上がった遺体が砂漠化した土地のかなりの部分を占める頃には死臭から逃げまどう者達が砂漠から遠いところへ押し寄せ、軋轢を生み、戦が起こった。
まだ女性は空から降ってきていた。戦争で荒廃した都市部にも降ってくるようになった。潰れた遺体を食料として、カラスとゴキブリが大量に繁殖した。更に人は荒廃していない緑の地を求めて移動し、先住者との間で戦が始まり、地球上は果てることのない騒乱の時代に突入した。
埋めよ、増えよ、血に満ちよ。
天上の創造主が誤変換に気づいたときには、地球上の人口は1億にまで減っていた。
111 回答者:kirara_397 2009-01-12 13:19:20 満足! 5ポイント
「空から女(そらからおんな)」。
それが20年前、天空から墜ちてきた女性の呼び名だった。
民衆は彼女の名を知らない。ただ、その夜に淡い光を帯びながら天空からゆっくりと王宮に舞い落ちる姿を目撃した者は幾人もいた。噂が噂を呼んだが、空色の髪をした女だということしか定かではなかった。しばらくして、王子の婚礼が突然発表された。相手はあの「空から女」だった。その名はついに明かされぬままだった。
幾年して。王国は悪政によって麻のように乱れた。善良だった王の急死、どこか虚ろな目をした王子の即位、突如引き上げられた租税、抗議する輩の立て続けの投獄、処刑。かつて「実り多き幸いの園」と讃えられた国は荒れに荒れ果てた。
たまりかねた民衆はついに立ち上がり、近隣の諸国より傭兵を募り、反乱軍を編成した。
幾度も城門に攻め寄せたが、強固な守りに攻めあぐねていた。
ある夜、反乱軍の陣幕に、一人の男がひっそりと現れた。
王宮から抜け出してきたというその若者の髪は、この世のものとは思えぬ色だった。
「母を止めなければならない」
若者の語る恐るべき話に民衆は驚き、彼の決断は歓喜をもって迎えられた。
「空から女」の子が降ってきた。
その報は、たちまち全軍に知れ渡った。
男はいつまで経っても一言も発しない少女に不満を募らせていたものの、日々注がれる羨望の眼差しに浮かれ、人と会うたびに自ら自慢話を吹っ掛けては憂さ晴らしをしていた。男と会う者たちの目的も男が連れてきた異質な美しさを持つ女のことなので、聞かされて悪い気はしない。だが代わり映えのしない内容を熱心に語る男に当初の好奇心など忘れて辟易していた。
「銃で脅しても喋るどころか服も着替えないし、御飯も食べないなんてな」
男の友人は今日も男と少女の様子を訪ねに来た。
男は友人の視線の先にいる少女の方を振り向く。その姿は会った当時と何も変わらない艶めかしさを保っていた。
「何もやらせてくれないんじゃ拾った意味もないな」
一時期は雪崩のように舞い込んできた来訪者も今ではこの友人の一人だけになってしまった。そしてこの友人も既に少女への興味をなくしている。大勢の客と一緒になって女の全身を睨め付けていた眼はもう乾いている。
「ところで知ってるか?また女が降って来てるって」
友人の言葉に男は耳を疑った。
「お前が捕まえた所でだ。お前の例があるし誰も捕まえようとはしないけど、物好きな奴らがそろそろ動き出す頃だろうな。俺は御免だけどね、お前みたいにはなりたくないからな」
友人の言葉が体に浸みていく。男は握り締めていた銃の感触を思い出すと、あの場所へ駆け出していた。
後ろから友人の怒声が聞こえた。
「おい、女が逃げたぞ」
あの少女と姿形が同じ女どもがそこに立っていた。空を睨み付けると徐々に下降してくる姿が見える。男はひとまず地面に降りている女たちに銃弾を浴びせた。
少女たちは声も上げず一様に逃げようとするが次々と銃弾に倒れた。空からは脱力した死体が露わな格好をして落ちて来る。
男が四方に散らばる女たちを撃ち殺していると不意に背中に気配を感じて反射的に引き金を引いた。やはりあの少女が死んでいた。
最後の一人になるまで片付けてから男は身構えて、まさに地面に降り立つ少女を待ち受けた。少女を抱き止め、確かに感じる感触に男は安心した。両手に埋もれる少女の肉体は以前と異なる肉感を備えており、男の眼には少女の顔が前にも増してより美しく映った。
男が前よりも美しい女を連れて来たと人々が噂するまでに時間はかからなかった。見物客と共に物言わぬ女を観賞する男の眼は一際輝いていた。
だがしばらくすると人々には飽きが来て、一言も喋らない少女に男も腹が立ってきた。
真冬の真夜中だというのに、何か寝苦しくて、いてもたってもおられずに飛び起きた。
なんか胸がぞわぞわとして、部屋の明かりをつけて空気をいれかえようと窓を開けたとき、
外の夜空の月明かりの白い光り中、ゆっくりと女の子が降りてくるのが見えたのだった。
女の子はむかしどこかで見覚えのある、懐かしい面影をしているように見えたけど、
肝心なところは光りにぼやけてよく見えなかった。
光りがどんどん強くなり、私は目をほそめ、そしてついにはまぶしさに目をつむった。
ふとみると、外は真っ暗になり、女の子もみえなくなっていた。
私はなんとなく自分の手のひらを眺めた。今のはなんだろうと思った。
そしてその時、ふいにケータイの電話がなりだしたのだ。
電話は兄からだった。兄は言った。
「さっき母さんを殺してしまった」
声を聞いたとき、私は、ああそうか、やっぱりなと思った。けして親子の仲が悪かったわけではない。
兄も情報通信業界で真っ当に働いていたし、母さんも書道教室の講師として元気にやっていた。
私はケータイを握ったまま、言葉を返せずに黙った。
「警察にはもう連絡した」と兄は言った。「…父さんは?」と私はやっと思いついた言葉を口にした。
「ここにいる」と兄が言ったとき、倒れた母の前にへたりこんでうなだれている父さんの姿が目に浮かんだ。
何があったのか、聞きたかった。
でもそれを聞いたら家族の中にあった、見てみぬふりをしてきた黒い何かが
見えるようになってしまい、そしてそれをもう無視しつづけられなくなるという気がした。
「分かった」と私は電話を切った。
電話を切ったあと、私はしばらくただうずくまって人差し指の指紋を読んでいた。
ふと、窓の外から母さんの声がしたような気がしたので、私は立ち上がって窓をみた。
真っ暗闇の部屋の中で、何もかもが、どこかいつもより2センチ遠いところにあるように感じられる。
手を伸ばし、窓をあけた。窓の外にはどす黒い夜空の色がにじんでいた。
114 回答者:kirara_397 2009-01-12 14:52:34 満足! 5ポイント
天空軍から一人の少女が投降してきたのは、地上軍の宣戦布告から256日後のことだった。
いかに強固な装備と夢幻の技持つ天空人といえど、多勢に無勢だった。地上で高度に発達した科学は魔法と区別が付かない領域にまで達していたのである。
地上人にとって、かつて「空」はただの空でしかなかった。だが、科学の発達で飛空船が登場してからは事情が一変した。天空界の発見である。
空には空の民がいる。そして雲は彼らの大地だったのだ。天空人と彼らは呼ばれた。ついにそこまでたどりついた地上人を天空人は祝福し、天空の文化を惜しみなく伝えた。
彼らとの交流はしかし、つかの間のことだった。
天空界の石や金属は、地上ではありえない強度と美しさを備えていた。雲から編まれる糸もまた、絹など足下にも及ばない手触りと美しさであった。天空人のつくる酒は、まさに神酒であった。そこは地上人にとって、新たなフロンティアと呼ぶに相応しかった。天空との文化交流など、内情視察の建前でしかなかった。かくして、天空界発見から5年も経たずに侵略戦が始まった。天空人は、やむを得ず軍を結集して応戦したのである。
「空」から女の子が降ってきた。
だが、その少女の恐るべき目的は、地上軍の誰も知る由もなかった。
【降臨賞】ですか。面白いですね。題材を見て吐き気がしました。
吐き気というよりは実際に、胃液が逆流してノドが熱く、口の中が酸っぱい液で満たされています。その理由は僕が本当に「空から女の子が降ってくる」のを目撃したからです。質問者様の意図する企画とは見当違いかもしれませんが、この場を借りて、全部、吐き出させてください。
僕は数年前、会社を解雇されました。今流行の派遣切りです。僕を斡旋した派遣業者はすでに連絡が取れなくなっており、正確には契約期間の打ち切りという事でした。直前に行なわれた説明会で僕らは、派遣ではなく契約社員であり、途中で切り替わったために云々と、つまり結論は、今回の解雇に法律上はなんら問題がない、という不可解なものでした。
陰鬱な説明会が終わると、同じ部署で運命を共にした仲間と、行き着けの居酒屋へ飲みに行きました。僕達はいつもと同じ調子でアルコールを飲み、バカ騒ぎをしていましたが、さよならと手をヒラヒラさせながら、1人去り、2人去り、気がつけばM子と2人きりになっていました。
「○山さんも冷たいよね。社員になれるってずっと言ってたクセに、今日は一言もしゃべらないの」M子は唐突に言いました。○山さんは僕達の部署の、唯一の社員さんで、結構良いひとでした。多分、僕も含めてみんな同じ感情を持っていたはずです。しかし僕は誰も責める気になれずに「まぁ、自己責任かな」と笑いながら答えました。
言いたい事、考えた事は山程ありましたが、それを今更吐露したからといって何かが解決するわけでもない。そんな僕を彼女はアルコールで濁った目で見上げ、下を向きながら「だよね・・・」と呟きました。
それから僕達は店を出ると、行く当ても無く、3年間働いた職場に戻りました。建物には当然、鍵がかかっていて中には入れませんでしたが、深夜のそこはひと気がなく、昼間の騒音が嘘みたいに静かで、僕は持っていた缶ビールの残りを飲み干すと、芝生の上に横になって、これからの事、昨日までの給料を計算したりしていました。
暫くすると誰かが呼ぶ声で目が覚めました。少しの間、眠ってしまったようです。声のする方を見上げると、彼女が屋上の手すりの外側に身を乗り出し、手を振っていました。僕はどうやって建物に入ったのだろうと、不思議に思いながら立ちすくんでいました。
「私ここから飛ぶわ!」
「ダメだ!」突然の出来事に、僕は状況が分からずパニックになって意味のない言葉を叫んでいました。しかし彼女は、何かを考える間もなく、手すりから手を離してしまったのです。
フワリと空に飛び出した体は、初めはゆっくりと、それから同じ速度で落下してきました。まるで何かの実験みたいに、僕の数メートル手前に降って来たのです。僕の硬直して動かない体が跳ねるような物凄い衝撃、ドンッという爆発音。無数に飛び散る黒い塊。ありえない方向に曲がった関節。もう人としての原型をとどめていませんでした。
その時の光景は今でもフラッシュバックしてきます。それは、昼も夜も関係なく、得てして何も考えていない思考の空白を狙い撃ちするように。僕の目の奥で光って見えた彼女の最後の表情は、恐れでも、不安でもなくて、意外にも出逢った頃のような満面の笑顔でした。
惜しいです。時事ネタ、告白形態、 DIS と思わせる書き出し、全面に殺気が感じられ実によいのですが、"原型”の誤字が普段の生活を感じさせて非常に惜しいです。
116 回答者:loving_sheep 2009-01-12 15:28:15 満足! 5ポイント
「京都府南部の天気です。明日の午前中は曇りで、午後からは女の子が降ります。降水確率は80%です。続いては京都府北部のて」
気象予報士の真面目ぶった顔がテレビを消した瞬間に歪んで外界を笑った。何がそんなにおかしいのか。女の子が降ってくるなんて珍しくもない。降らない場所なんてあるならぜひ永住したいところだ。もっとも、大昔は降らなかったそうだが。
憂鬱のあまりに窓の外の雲一つ無い青空を見上げ、地学のテストのことを思い出す。今回は天候についての自由論述形式だから女の子について書けばいいだろう。世界史でも重複して習った女の子のエピソードを脳内で幻視する。
まだこの国が世界中の国全てと戦っていた頃、ある日ある海にそれは降ってきたらしい。北太平洋の島の周りで愛のない鉄塊のやりとりをしていた大勢の男たちのもとに、七歳の女の子が三十分間ふわふわと降り注いだ。白いシンプルな袖のないワンピース姿に整った顔も工業製品のようにお揃いで降ってきて、空母の上にみっしり降り積もった。あまりのことに男たちは戦うのをやめ、てんでばらばらに引き上げたという。そして祖国に帰りついた彼らは、ほぼ同じ時刻に降った少女群を目にし、頭を抱えた。その後も定期的に降るようになった正体不明の少女に一丸となって立ち向かうため、世界は戦いをやめ、科学者の物理学の粋を集めた兵器の実用化に向けた研究の日々は終わり、少女のワンピースの裾をめくったり戻したりするめくるめく日々が始まった。世界中の人がぼちぼち幸せになった。
そして現在。少女が降ってくる理由は未だに解明されていない。終戦や世界平和のきっかけになったこと、その整った外見から神の使いだという宗教家もいるが、ぼくはそう思わない。本当に神様がいるならどこかの誰かのこんな悪ふざけはさっさと止めるだろう。
詮無いことを考えているといつの間にか8時を過ぎていた。普段なら遅刻確定だけど、今日は女の子が降るから路線バスで行く予定だったので大丈夫。小銭もちゃんと用意したし、さあ、出発だ。
『サンドイッチを食べた日』
すぐ後ろで鈍い音が鳴った。女の子だった。もちろん即死だ。
目を大きく見開いたまま、微動だにしない。腕も足もあらぬ方向に曲がっている。
「……危ないな」
空から降る彼女たちとぶつかればただではすまない。そんなことは、運動方程式に頼るまでもなくわかりきったことだ。
ほどけた靴紐を見ながら、結ぶのを後回しにしてよかったなと思う。もし靴紐を結ぶのに立ち止まってたら今ごろ死んでいただろう。そんな半端な死に方だけはごめんだ。
改めて彼女の顔を見る。端整な顔立ち。幸せそうな口元。人形みたいだ。四肢だってマリオネットみたいだし。
しばらく見取れていたら、処理車の音が聞こえてきた。彼女もタイミングがいい。位置だけはもうちょっと気を遣って欲しかったけど。
「それじゃあね」
手を振る。またねとは言わない。おめでとうとは言っておいた。当然だけど、返事はなかった。
一日にどれだけの女の子が降ってくるのかは知らない。直接見ることは滅多にないけど、少ないわけではないのだろう。交通事故と似ている。他ならぬ自分が遭遇する確率は低くても、世界のどこかで必ず起こっている。
もちろん、交通事故よりはずっと多い。こんなに近くに落ちてきたのは初めてだけど、降ってくる所を見たのは何度もある。残骸だけなら、何ヶ月かに一度は見てると思う。
お店に着く。平日の昼だけに混雑はしていない。少し悩んでから、サンドイッチに決めた。いつも飲むカフェオレも手に取り、くしゃくしゃになった一万円札を払った。
ラーメンを食べるときだってカフェオレだし、何も食べないときだってカフェオレだ。最近はメーカーも変えてない。これを飲んでいるときだけは、私もさっきの彼女みたいに笑顔になる。カフェオレを飲んでないときの私は、死体よりもずっと死体みたいだ。
いつものベンチに座りながら、サンドイッチを食べる。風の気持ちいい、河原のベンチだ。ピクニックみたいだなと恥ずかしさを覚えたこともあるけど、あの家に帰るよりはずっといい。せめて昼だけは、こうやって空でも見ていたい。あとは漫画喫茶とか……。
賑やかな声で、目が覚めた。いつの間にか寝てたらしい。ぼーっとする頭のまま、騒ぎの元を眺める。緑色の大きなクッションを囲む家族がそこにいた。
「今日は落ちてくるかな?」
「落ちてくるとも、だからよーく空を見とけよ。なに、俺がいるから大丈夫だ。母さんのときは俺1人だったんだ。今日はお前もいる。なーに、失敗なんてしないさ」
「まったく、お父さんったら」
楽しそうな家族の声。頭の奥がずきずき痛む。見たくないと思ったけど、体は言うことを聞いてくれない。
正直、こういうのは不愉快だ。
彼らは命をなんだと思っているのだろう。
拾わなきゃ可愛そう?
馬鹿げてる。本当に、馬鹿げてる。
彼女たちは彼らのペットじゃない。家族に居たら楽しそう。そんな単純な動機で拾い、飽きたら捨てる。最後の最後にはこう言う。お前なんて本当は欲しくなかった、と。
勝手な都合で拾い、勝手な都合で捨てる。拾われる側には選択肢はない。
ほら来たぞ、と父親が叫んだ。空から降ってくる、1人の少女。
「パパ、もっとこっち!」
男の子が、ぐっとクッションを引っ張る。
気持ちよかった風も、今では邪魔者となる。華奢な体は流され、どんどん的から外れていく。
巨大なクッションもそれを追う。
真剣な少年の顔。
あまりの力に父親が手を離してしまう。
止まるクッション。
流れる少女。
「ちくしょうっ」
少年が……お兄ちゃんが叫ぶ。
頑張れと声を掛ける父と母。
後に玩具として扱うあいつとは思えない、必死の表情。
「拾わないでよっ!」
気づけば立っていた。
あのとき、拾われなければ良かったんだ。もう嫌だ。こんな生活はしたくない。あいつらの懸命な姿は全部嘘なんだ。子供が死んだ苛立ちを私に向けるな。妻に逃げられた衝動を私にぶつけるなっ。
「くそっ、届け……!」
地面まであと少しのところで、お兄ちゃんがクッションを持ったまま飛び込む。自分の危険なんて考えていないんだろう。死んでもいいと思ってるに違いない。だったら、だったらどうして1人で先に死んじゃったんだよ!
ぼふっという音。
力が抜ける。もう、立ってられなかった。私は拾われてしまった。
「ありがとう」
幸せそうな顔。
そう、幸せだったんだ。
長くは続かなかったけど、幸せだった。
夢のように、幸せなひととき。
でも夢のように覚めるなら、最初から地面にぶつかりたかった……。
体がふと軽くなる。
今度は空にいた。夢かどうかも、もうわからない。
すごく勢いで空気が体にぶつかる。強風の中に立っているような感覚。
地面が急速に近づいてくる。
ああ、落ちるんだ。
自然と怖くはなかった。
ただ開放感に満ちあふれて、口元が幸せで緩む。
目の前にただ広がるパノラマ。
遠に見える、他の女の子達。
願わくば彼女たちが誰にも拾われませんように。……あるいは、拾ってもらったときの幸せが続きますように。
そして私は死んだ。目の前にいる、靴紐の解けた女の子を見ながら。ぶつからなくてよかったなと。だってそんな半端な死に方はごめんだから。
118 回答者:mori-tahyoue 2009-01-12 16:18:49 満足! 5ポイント
[創作][降臨][f--k]鉄の勇気を受けついで
ミーノースはテーセウスとその仲間の逃亡を知って、ダイダロスに罪ありとし、彼とミーノースの女奴隷ナウラクテーとの間に生れた子イーカロスを迷宮内に幽閉した。彼は自分と子供のために翼を作り上げ、(アポロドーロス 高津春繁訳『ギリシア神話』岩波文庫)
「イーカロス、翼をきちんとつけたか?」
「はい、ダイダロスお父さん。」
「翼で飛ぶときに、約束を守れるか?」
「はい、ダイダロスお父さん。イーカロスは翼が太陽のためにその膠が溶けて放れないように高みを、また翼が湿気のために放れないよう、海の近くを飛ばぬようにします。」
生まれたときから迷宮にあり、母親どころか父以外の人間を見たことのないわが子を、ダイダロスは憐れんだ。
「迷宮を抜ければ、世界がある。太陽があり、海がある。おまえはきちんと父の後を飛ぶのだ、イーカロス。」
「はい、ダイダロスお父さん。」
「イーカロス、外へゆけばたくさんの男や女や男女や、牡牛や牝牛や魚や鳥を見ることができる。そうして私たちは仕事を見つけて、生きてゆくのだよ。」
「はい、ダイダロスお父さん。」
「イーカロス、イーカロス、イーカロス」
「外の世界にはたくさんの誘惑がある(太陽や海もそうだが)。イーカロス、私たちは強く生きなければならないのだよ。イーカロス、この暗い迷宮の中で強く生きてゆくために、私はおまえに強い名前を与えた。」
「ダイダロスお父さん、イーカロスの名は私を強くしてくれました。」
「外の世界に出たら、おまえはおまえ自身の名前で生きてゆくのだ。」
ダイダロスは、ほっと息をついでから告げました。
「おまえは、おまえは女の子なのだよ、イーカロセー」
トンネルを抜けると鉄橋であった。渡りきった先が故郷の駅である。迫るホームを透かし見れば、予期したとおりの姿があった。矢絣の着物に海老茶袴。何の連絡もしていないのに、少女はやはり待っていた。
――左側の扉が開きます。いちばん前の扉からお降りください。
文明の喧騒を遮るように、和装少女は傘をすぱりと差し掛ける。ぼつぼつと雪音が傘を打つ。おかえりなさいと言う代わり、半開きの悲しそうな目で、少女は俺を見上げる。
物心ついた頃からずっと変わらない人の姿。俺の方だけが歳を食っていく。空から降ってきた頃お姉さんだった彼女は、今や年下の少女だ。
山肌に穿たれた小路をたどり、俺は海老茶小町と集落へ降りていく。
「あれ……。今日帰ってくるんなら電話くれればよかったのに」
ばったりと出遭った幼なじみがなじるように言った。遠慮したのか、はいから少女は俺に傘を預けて一歩退く。
「なんでいちいちお前に電話せにゃならんのだ」
「あーもう水くさいなあ」
幼なじみは口を露骨に尖らせる。こちらはもう少女と言えない歳だが、仕草はなんとも子供っぽい。ありていに言ってガキである。
「何を言う。その程度の水入りで薄まる仲でもないだろうが、俺とお前の仲は」
「そ、そうだけど、……ね?」
幼なじみは目を泳がせる。肩までの髪を軽く払い、肩と頭の雪も落とす。そしてなぜだかうつむいてしまう。
「軽く二十年以上かけて腐敗してきた縁だからな、そうそう洗い流せないだろ」
「……っく」
幼なじみの肩が揺れる。
「……何か面白かったか?」
「あんたって人は……ッ!」
なぜか怒っていた。こいつは時々感情の動きが読めなくて困る。幼なじみの俺にも把握しきれないところがあるのだ。
幼なじみとの会話に入ってこない少女を振り返る。少女は、所在なげに肩を抱えて震えていた。
「悪い、一旦家帰るわ。また後でな」
俺は敵前逃亡も兼ねて幼なじみに告げる。
「みやびが寒そうだからな」
「……。まだ、そんな作り話を大事に抱えてるの……」
幼なじみが、可哀想な人を見る目で俺を見据える。視線を避けるように、俺はさっさと歩き出す。幼なじみが背後でつぶやく。
「空から降ってきたのは、女の子なんかじゃ……」
そんなことはわかっていた。
あの日空から降ってきた列車は、折からの強風に煽られて鉄橋から転落したお座敷列車『みやび』は、足元の工場と民家を圧し潰した。それが客観的事実なのだという。
だが、幼かった俺の記憶に凄惨な事故は残っていない。あの日空から舞い降りたのは、傘を高く掲げて降るお姉さんだ。このイメージを作り上げて逃避するのに、いや、俺は何を言っているのだろうか。このイメージを思い出すのに、長い時間がかかったものだった。
あの日、折からの強風に煽られて少女が舞い降りた。失った家族の代わりに少女を受け入れた少年は、再度家族を失うことを決して望まない。だから少女は、償いを終えて消えることを決して許されない。
だから、少女はいつまでもこの地にいる。いるのだ。
最初に気づいたのは地面に激突する音だった。どちゃっとか、ぐちゃっといった鈍い音に振り返ると、真っ赤な水溜りの中にぼろきれの山がこんもり盛り上がっていた。やがてまばらな通行人の中から甲高い悲鳴があがり、それがぼろきれなどではでないことに思い至った。今年もまたこの血まみれイベントの季節がやってきたのだ。
近づいてよく見れば、原形を留めていないそれは髪の長さや衣服の特徴から女性と判る。だらしなく投げ出された手足は関節以外の箇所でもありえない角度に折れ曲がり、皮膚の裂け目からはぎざぎざに折れた骨が筋繊維を絡みつかせたまま飛び出している。木っ端微塵に割れた頭頂部からは脳や眼球や歯が一直線に赤い帯となって噴き出し、肛門側からはそれとは逆方向に飛び出した内臓が見事な尾を引いてまるで派手な熱帯魚のようだ。中身をぶちまけた胴体はただの皮袋となってアスファルトにへばりつき、胸と衣服を突き破った肋骨は、死んだ蜘蛛の脚のように綺麗な弧を描いて空に向かって存在をアピールしている。一瞬のうちにさらけ出された臓物は寒空の中真っ白な湯気を上げ、繋がったままだらしなく伸びきりぬらぬらと緑色に光る腸のそこかしこからは、溜まったガスがブスブスと儚げな音をたてて漏れている。
そのうちまた同じ激突音がすぐそばで炸裂した。今度のものは激突時の角度の違いからだろうか、地面にへばりつくように圧し潰された肉体を中心に爆裂四散した赤黒い臓物が地表に綺麗な円を描いている。上空を見上げると空のそこかしこに散らばった黒い点が徐々に大きさを増してこちらに向かってくるところだった。通行人と共に私は傍の建物へと避難し、事態の推移を見守ることにする。
だがそれと入れ替わるように勢いよく外へと飛び出してくる者たちがいた。このように異様なシチュエーションでもなければ女性とお近づきになれないオタクや非モテと呼ばれる人種たちだ。「三次元の女なんて」という普段の蔑み口調が決して本心でないことは、この日の彼らの行動を見ればよくわかる。普段引きこもってばかりの彼らにとって、今日は年に一度の命をかけたお祭りなのだ。ほとんどの男たちは女性を受け止めきれず共に爆裂して地表に赤い花を咲かせるが、毎年一人くらいは、無事運命の相手に巡り合うことができるらしいのでそれに賭けているのだ。
男の肉、女の肉、共に真っ赤に砕けて折り重なりあい、湿り気を帯びた激突音と共にうず高い山を築いてゆく。血と脳漿に濡れた肉の山は通りを埋め尽くしてなお高さを増し、私の避難したビルの6階にまで達するほどになったが、やがてついに最後の一体が柔らかな音を立てて山の頂上へと落下し、長い宴は終わった。
静まり返り悪臭を放つのみとなった赤黒い肉の山の頂点に、やがてゆっくりと一人の少女が立ち上がった。積み上がった肉がクッションとなったせいだろう、どうやら彼女がただ一人の生存者らしい。少女は悔し涙と共に咆哮をあげた。
「いまどきの軟弱なオタクは女の一人も受け止め切れないのかよ!」
比較的気合の入ったグロを投稿するところにキモオタへの殺意を感じました。ちなみに、まことに勝手ながら、開く直前は漫画を期待しておりました。
121 回答者:naoko_hirasawa 2009-01-12 17:32:31 満足! 68ポイント
「桜の音」
かよちゃんが空から降っているのに気づいたのは、わたしが墨をこぼしたからでした。
休み明けすぐの習字の授業でした。いつもは八つに切った新聞紙に、決められた漢字を書いているのに、今日は書初めのかわりということもあって、わたしたちはそれぞれ半紙を前にして、好きなことばを書いてよろしい、と言いわたされました。すこし緊張しながらしずかに筆をはしらせるみんなの中で、窓の外とおなじくらいしろい紙に、わたしはなにを書こうか考えていた。初日の出。みかん。門松。どれもぴんときません。椅子に座ったままちいさく伸びをしたら、膝が机の裏を打ちました。がたんと机が傾いた。
あわてて両腕で机を抱えたけれど、拍子に硯に満たした墨をこぼしてしまいました。黒い墨は半紙を汚し、机から垂れ、床に広がりました。いけない。わたしが声をあげたので、みんなが振りむきました。先生がやってくる。おろおろしながら立ち上がって下を向くと、おろしたてのうわぐつにも染みがついていました。涙をこらえるわたしの視界に、くしゃくしゃの半紙を持つしろい手がはいりました。かよちゃんの手でした。
「動かないで」言われて固まるわたしの膝あたりのところにしゃがんで、かよちゃんは半紙で床を拭きました。かよちゃんの頭の、きれいな分け目をみながら、わたしは息を止めていました。腰をかがめたかよちゃんが一歩出たので、うわぐつが墨を踏みました。かまわずにかよちゃんは手を動かす。小刻みに移動しながらぜんぶの墨を拭いて、かよちゃんは顔をあげて「へいき?」と尋ねました。
黙っていると、先生が洗い場に行くようにおっしゃいました。かよちゃんは元気に返事をしました。かよちゃんの手は墨まみれだったけれど、わたしはとくに汚れてはいません。けれどわたしは、かよちゃんについていくことにしました。
授業中に廊下を歩くなんてはじめてです。かよちゃんと一緒ならなおさらです。だいたい、わたしはかよちゃんとあんまり話したことはありません。そもそもかよちゃんはあまりクラスの子と話しません。五月の休み明けに転校してきたかよちゃんは、一ヶ月かけて仲良くなったわたしたちクラスに、それから半年以上たっているというのに、馴染んでいませんでした。わたしは時々、はじめてかよちゃんを見たときのことを思い出します。授業中、暇をもてあまして窓から外をみたわたしは、校庭を歩くひとりの女の子に気づきました。北の国の遅咲きの桜の下で、見慣れない制服を着て、かよちゃんは立っていました。それが、かよちゃんでした。風がなくてあたたかで、散る花びらは散ってはいないようでした。しずかに、ただ浮いているようにみえました。そんなわけがありません。いくらわたしが理科が苦手でも、花びらが浮いていられるわけがないことくらい知っています。
「へんな顔してる」かよちゃんが呟いたのでわたしは立ち止まりました。へんな顔って、と言うわたしに、かよちゃんも立ち止まって「へんな顔だよ」と言いました。うつむくと汚れたうわぐつが見えました。そこで、やっと気づきました。かよちゃんのうわぐつは、きれいなままだったんです。
そんなはずはない。かよちゃんはあの墨の溜まりにうわぐつを入れていたし、だとしたらうわぐつは汚れるはずです。けれどうわぐつには、どこにも染みはありませんでした。
うろたえるわたしの顔をのぞきこんだかよちゃんは笑いました。それからわたしの手首をつかむと、ずんずん歩きだしました。振り返って廊下を見ると、かすれた黒い足跡がありましたが、それはひと組だけで、わたしのうわぐつがつけたものでした。
混乱しているうちに洗い場につきました。かよちゃんは息を吸い込むと、蛇口をひねりました。「つめたい、つめたい」とはしゃぐかよちゃんの声と、勢いのいい水音がひびきます。わたしは手を伸ばして水を止めた。「なにするの」かよちゃんは言いました。それからわたしをにらみました。
桜の音でした。
かよちゃんをはじめて見たあの春の日、わたしは音を聞きました。先生の声も鉛筆を走らせる音もなにもかもが消えて、ただあの音だけが聞こえました。花びらが浮くわけがないのなら、それは落ちているのです。浮いているようにみえても、たしかに落ちているのです。わたしは桜の花びらの落ちる音を聞いた。そしていま、あの音がきこえました。
墨でうわぐつを汚すことがなかったかよちゃん。浮いているのかもしれません。そんなわけがありません。いくらわたしが理科が苦手でも、女の子が浮いていられるわけがないことくらい知っています。「ねえ、なに」静かに。わたしはかよちゃんの唇に、そっと人差し指を当てました。空から降ってくる女の子の音を、わたしは耳をひそめて聞き続けます。
空から女の子が降ってきた事がある。
誰にだって不思議な経験はあると思うが、子供の頃に僕が体験したのがこれだ。
無邪気に毎日を楽しんでいた、懐かしく輝かしい日々。
あの日の僕は友達と別れた後の帰り道、ちょっとした冒険心で普段は通らない道を探索していた。
時間にすると二十分も経っていないだろうが、強くなってきた夕焼けが目に染み、一人ぼっちだという心細さが浮かんできたちょうどその時だった。
僕の目の前に、翼の生えた女の子が空から降ってきた。
人間というのは、あまりに驚く事があると思考が止まってしまうらしい。
そんな固まっている僕を、女の子は心配そうに見つめながらこう言った。
「いっしょに、行こう?」
常識的に考えて、突然現れた、しかも翼を生やした女の子にそんな事を言われても、頷ける人はいないと思う。
手を差し伸ばしてきた女の子は、何故か僕以上に不安そうに見えたが、何の返答もせず元来た道を全力疾走で戻り、僕はそのまま自宅まで逃げ帰った。
結局、その後は何も特別な事が訪れる事は無かった、それだけの話。でも今考えれば、あれが僕の人生の分岐点だったんだと思う。
その出来事が心に引っ掛かっていた僕は、あの女の子を探してみようと一人で遊ぶ事が多くなった。
中学に入ると一人でいた僕はいじめの対象となった。高校では陰湿ないじめが多くなり、ずっと一人で過ごしていた。大学ではいじめこそ無くなったが、自分から行動を起こせなかった僕には何も訪れる事が無かった。
恐れ、不安、怒り、常にそんな感情が襲ってくる、何もかもが上手くいかない孤独な日々。
そして、あの時あの女の子の手を取っていれば、もっと別の未来を歩んでいれたのではないかと、ふとそんな事を思いながら──僕は、大学の屋上から飛び降りた。
やっぱり空は飛べないよなぁ、とぐちゃぐちゃになった僕を見下ろしながら、“僕”はそんな事を考えた。
その存在を否定をしていた訳ではないが、実際に幽霊というやつになってしまうとは思わなかった。
周囲が騒がしくなり人が集まってくる中、これから“僕”はどうすればいいのかと悩み始めた時。
あの日出会った女の子が、あの日見た姿と同じまま、小さな翼を揺らしながら僕の目の前に降りてきた。
「やっぱり、こうなっちゃったね…」
女の子は全て知っていたらしい。あの日、女の子と別れた後の僕に降り掛かる悲惨な人生を。
未来が見えるというその女の子は、僕が絶望したまま自殺するより、まだ幸せな日々を過ごしていた子供のまま、こちら側に連れて来ようと思ったそうだ。
勿論それは許されない行為らしく、まだ未熟だった彼女が情に走ってしまっただけだったようだが、それでも僕は、僕を心配して気にかけてくれていた人がいたんだと心が満たされていた。
「いっしょに、行こっ」
あの日とは違い、笑顔を浮かべて手を差し伸ばしてくる女の子。
幽霊になってしまったこの姿で何が出来るか分からないけど、この女の子と一緒なら、今度こそ生まれ変われる気がした。
生まれ変わるといっても、比喩ではなく本当に新しい人間として生まれ変わるのかもしれないけどね。
…………でも、この女の子と出会ってから、僕の人生はおかしくなったんじゃなかったっけ?
女の子の背から生えている小さな黒い翼を眺めながら、僕はふとそんな事を考えた。
124 回答者:seiunn3032 2009-01-12 17:55:34 満足! 5ポイント
ある冬の、酷く寒い夜。
学校から帰宅の途中、鼻の頭に水気を感じたので見上げると、空から女の子が降ってきた。
“落ちてきた”ではなく、“降ってきた”。そうとしか形容しようがない、花弁のような、とても緩やかな着地だった。
「雲は水蒸気を含んでおり、気温が低いと大気中の微粒子を核として氷の結晶が発生する。これを氷晶と呼ぶ。氷晶は気体の水蒸気が直接固体になったもので、氷晶が落下する間に周囲の気温が0℃以上になる事なく地上に到達すると、雪として観測される。私が降ってきたのは、そのせい」
少女は僕の部屋のソファーに寝そべり、僕の買ってきたハーゲンダッツを貪りながらそう言ったが、さっぱり意味が分からない。
「つまり雪女ですな」
「雪はいいけど、雪女って空から降ってくるものだっけ?」
「雪が降るんだから、そりゃ雪女だって降るさ。大学生なら水循環くらい知ってるでしょ?」
「水が固化、液化、気化を繰り返して自然界で絶えず循環する……」
「それそれ。そのシステムを利用してグレイトジャーニーするのさ雪女は」
少女の説明によると、雪女は春になると溶解して固体から液体になり、その後川や海に流れるなどして蒸発し、気体に……つまり雲になる。まんま水循環のプロセスだ。
そうして雲となった雪女は現在の半球とは逆の、彼女らにとって適温の土地まで風に流れて移動する、との事。冬から冬へ。渡り鳥かよ。
「この町はその旅の通過点だった。毎年素通りするだけのね。ところが今年は違った。この町、これまで雪が降った事なんてなかったでしょ」
「そういや何十年かに一度の大寒波だって誰かが言ってたような」
「だろ。つまり私は、こんな所で降りる予定じゃなかったんだ。それがこの寒さのせいで想定外の凝結が起こってしまった。異常気象だよ。やべーな地球」
「本当はどこに行く予定だったんだ?」
「イルクーツク」
どこだそれは。
「固体から液化&気化して風に乗るのって、すっごい集中力と時間がいるんだよ。あー、うー、今年はもう無理だー」
「じゃどうすんの」
「町の不始末は、その町民の責任でしょ」
「は?」
「責任をとってよ」
少女は、とりあえずもっとアイス買って来てくださいと言った。
言葉こそ丁寧だったが、瑞々しい弾力に富んでいた我が家の自慢のソファーが、彼女の尻の下で冷凍イカのようになっているのを僕は見逃さなかった。
真夜中、最寄りのコンビニにまでアイスを買いに行く。
しかし、ん? アイスの量が、あれ……やけに、少ない、ような。
——ああそうか。
今年は何十年かに一度の大寒波。外に出ると、いつの間にかすごい雪。
僕はアイスが山ほど入ったコンビニ袋を両手にぶら下げて、雪の中、全力で走って帰った。見上げると、無数の女の子が音もなく、しとしとと、空から降ってきているのが見えた。
―――――――
「もうそろそろ物語で空から降ってくる女の子とか、やめませんか?」
そんな、幾度無く繰り返されたか知れない、ひどくありふれた嘆きがネットの海に投下されたのは、世界に物語メディアが氾濫して久しい2009年も1月のことでした。
翌日、空から女の子が降ってくるというファンタジーな設定を、持ち前の素敵ファッキン回路で、女の子を落としただけの殺人事件だと読み替えてしまった××さんは言いました。
「2009年にもなって空から女の子が降ってくる話をのうのうと書くつはものどもは、天まで集って好きに夢の跡を築き上げるがよい。そうよのう、もっとも希少な作品を我に差し出した者には、幾らかの褒美をやろう。さぁ、メタネタベタエログロ問わず互いに競い合って、我を楽しませてみるがいい。クーククククカカカカーッ、面白いは正義!」
それは、色々な人の心に響く話題だったらしく、人力検索という名の舞台には沢山の見物人が集まってきました。その中には、頭上にはてなマークを浮かべながら、ブクマという魔法を使ったり気に入った回答にスターを舞わせたりする、よく訓練された野次馬も多く見られました。
でも、誰も、まさかこんな事態になると誰も思っていなかったのです。空から女の子が降ってきたら、我先に受け止めてご都合主義よろしくらぶらぶちゅっちゅっしようなんて妄想していた見物人も、ご覧の有様にはたじろくしかありません。
見上げた茫漠なる虚無。果たして、ネットの空から俄に124人の女の子が降ってきて。その舞台は、各々が抱える設定と物語に押し流されてしまったのでした。
それから締切りも過ぎ、流行に遅れて銀河の果てからやってきた薄幸の美少女はただ一言、こう呟きます。
「みんな死んでる……」
そうして、いつものように少女は、この星をすり抜け新しい空を目指して、旅を再開するのです。その後ろで、僅かに光った生命体が居たことにも気付かずに。
―――――――
http://d.hatena.ne.jp/tokigawa/20090105/p1
http://neo.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20090106/p2
http://d.hatena.ne.jp/nasaibai/20090112
漫画を描いてみました。
降ってくる女の子
http://anond.hatelabo.jp/20090108165901
ガール・ミーツ・リョウ
http://anond.hatelabo.jp/20090109102413
去年の夏休み。
http://anond.hatelabo.jp/20090109174134
ホームに降る女の子
http://anond.hatelabo.jp/20090110102622
降ってきた女の子
空から女の子が降ってきた。
そう訴える男性が大量に現れたのは先日のことだ。ある日突然目の前に空からふわりと女の子が降ってきたという。すべての男性は例外なく「女の子が降ってきた」と供述した。
ところが数日後には誰もその話題を口にすることは無くなった。かくいう僕もつい先ほどまで忘れていた。記憶が消えたのではなく、その部分の記憶にアクセスできなくなっていたかのように。それを思い出したのは手元にこんな資料が届けられたからだ。
ぱっと見て言えることとして、女の子は思春期の男性のところに多く降っていること、十代前半の男性にはほぼ同年代の女の子が降るが、それより年齢が高い男性には12~16歳ぐらいまでの女の子が多く降っているとこと等が挙げられるだろうか。
問題はどうしてこれが僕のところに届いたのかということなんだけど……
「博士の腕を見込んで、折り入ってご相談に伺ったのです」
と言って、僕のところに降ってきた女の子は口角を吊り上げた。
(つづく)
この質問・回答へのコメント
そして、コメント欄のつもりで回答側に書くという大失態をしてしまいました。
6番目の私の投稿は開かないでください。スミマセン。
xx-internet のことをご存じない方のために少し情報を出しておくと、こんな小説を書いたりしています。
http://neo.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20090106/p1
好きな落ちもの作品は椎名高志『パンドラ』と田丸浩史『ラブやん』と新井英樹『愛しのアイリーン』です。
それから字数制限ですが、面白ければ足りなかろうが少なかろうがどうでもいいです。面白いものが勝つ、それが正義です。
無論私のオリジナルじゃありませんけどね。
http://itunes.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewAlbum?i=79108655&id=79108672&s=143462
一時間前に帰ってきて半分書きましたが、もう一日かかりそうなのですが。
皆さんの小説、大変面白く読ませていただきました!
いまになって気が付くとは……うぁぁぁ……
同じテーマで、ここまで異なる視点や手法の作品が集うと壮観ですね。
文字数2000字と勘違いしてました。
書く前に、みなさんのコメントを読んだはずなのに……。
「うん、女の子、だよね……、うん…………」としか言いようのない「感想」であれば、
間違いではないとは思うのですが、それにしてもやってしまいました。
「女の子出てこないじゃん!!」としばらく思っていただけたら、それだけで本望です。
それにしても難しい題材ですね。
http://anond.hatelabo.jp/20090108165901
ガール・ミーツ・リョウ
http://anond.hatelabo.jp/20090109102413
去年の夏休み。
http://anond.hatelabo.jp/20090109174134
ホームに降る女の子
http://anond.hatelabo.jp/20090110102622
降ってきた女の子
http://anond.hatelabo.jp/20090110201004
二作目なので、いいかなぁ、とも思いましたが、一応。
http://d.hatena.ne.jp/nayusawamura/20090112
あ、一作目、間違えて自分のに☆一個ちつけちゃいました。orz
はてなにまだ不慣れで申し訳ない。
かよちゃんが空から降っているのに気づいたのは、墨をこぼしたからでした。
休み明けすぐの習字の授業でした。いつもは八つに切った新聞紙に、決められた漢字を書いているのに、今日は書初めのかわりということもあって、わたしたちはそれぞれ半紙を前にして、好きなことばを書いてよろしい、と言いわたされました。すこし緊張しながらしずかに筆をはしらせるみんなの中で、窓の外とおなじくらいしろい紙に、わたしはなにを書こうか考えていた。初日の出。みかん。門松。どれもぴんときません。椅子に座ったままちいさく伸びをしたら、膝が机の裏を打ちました。がたんと机が傾いた。
あわてて両腕で机を抱えたけれど、拍子に硯に満たした墨をこぼしてしまいました。黒い墨は半紙を汚し、机から垂れ、床に広がりました。いけない。わたしが声をあげたので、みんなが振りむきました。先生がやってくる。おろおろしながら立ち上がって下を向くと、おろしたてのうわぐつにも染みがついていました。涙をこらえるわたしの視界に、くしゃくしゃの半紙を持つしろい手がはいりました。かよちゃんの手でした。
「動かないで」言われて固まるわたしの膝あたりのところにしゃがんで、かよちゃんは半紙で床を拭きました。かよちゃんの頭の、きれいな分け目をみながら、わたしは息を止めていました。腰をかがめたかよちゃんが一歩出たので、うわぐつが墨を踏みました。かまわずにかよちゃんは手を動かす。小刻みに移動しながらぜんぶの墨を拭いて、かよちゃんは顔をあげて「へいき?」と尋ねました。
黙っていると、先生が洗い場に行くようにおっしゃいました。かよちゃんは元気に返事をしました。かよちゃんの手は墨まみれだったけれど、わたしはとくに汚れてはいません。けれどわたしは、かよちゃんについていくことにしました。
授業中に廊下を歩くなんてはじめてです。かよちゃんと一緒ならなおさらです。だいたい、わたしはかよちゃんとあんまり話したことはありません。そもそもかよちゃんはあまりクラスの子と話しません。五月の休み明けに転校してきたかよちゃんは、一ヶ月かけて仲良くなったわたしたちクラスに、それから半年以上たっているというのに、馴染んでいませんでした。わたしは時々、はじめてかよちゃんを見たときのことを思い出します。授業中、暇をもてあまして窓から外をみたわたしは、校庭を歩くひとりの女の子に気づきました。北の国の遅咲きの桜の下で、見慣れない制服を着て、かよちゃんは立っていました。それが、かよちゃんでした。風がなくてあたたかで、散る花びらは散ってはいないようでした。しずかに、ただ浮いているようにみえました。そんなわけがありません。いくらわたしが理科が苦手でも、花びらが浮いていられるわけがないことくらい知っています。
「へんな顔してる」かよちゃんが呟いたのでわたしは立ち止まりました。へんな顔って、と言うわたしに、かよちゃんも立ち止まって「へんな顔だよ」と言いました。うつむくと汚れたうわぐつが見えました。そこで、やっと気づきました。かよちゃんのうわぐつは、きれいなままだったんです。
そんなはずはない。かよちゃんはあの墨の溜まりにうわぐつを入れていたし、だとしたらうわぐつは汚れるはずです。けれどうわぐつには、どこにも染みはありませんでした。
うろたえるわたしの顔をのぞきこんだかよちゃんは笑いました。それからわたしの手首をつかむと、ずんずん歩きだしました。振り返って廊下を見ると、かすれた黒い足跡がありましたが、それはひと組だけで、わたしのうわぐつがつけたものでした。
混乱しているうちに洗い場につきました。かよちゃんは息を吸い込むと、蛇口をひねりました。「つめたい、つめたい」とはしゃぐかよちゃんの声と、勢いのいい水音がひびきます。わたしは手を伸ばして水を止めた。「なにするの」かよちゃんは言いました。それからわたしをにらみました。
桜の音でした。
かよちゃんをはじめて見たあの春の日、わたしは音を聞きました。先生の声も鉛筆を走らせる音もなにもかもが消えて、ただあの音だけが聞こえました。花びらが浮くわけがないのなら、それは落ちているのです。浮いているようにみえても、たしかに落ちているのです。わたしは桜の花びらの落ちる音を聞いた。そしていま、あの音がきこえました。
墨でうわぐつを汚すことがなかったかよちゃん。浮いているのかもしれません。そんなわけがありません。いくらわたしが理科が苦手でも、女の子が浮いていられるわけがないことくらい知っています。「ねえ、なに」静かに。わたしはかよちゃんの唇に、そっと人差し指を当てました。空から降ってくる女の子の音を、わたしは耳をひそめて聞き続けます。
http://neo.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20090112/p1
なお、大変勝手ながら、作品へのコメントは特に印象に残ったものだけとさせていただきました。