きょうの社説 2009年10月6日

◎起業支援の研究会 不況時を「好機」と考えて
 石川県と県産業創出支援機構は、県内での起業を支援するビジネス研究会をつくり、1 7日に初の勉強会を開催する計画という。開業より廃業件数がはるかに多い状況を改めることは、地域経済の長年の課題である。不況時はある意味では起業の好機ともいえ、研究会の活動をテコに新規事業の道が一つでも多く開かれることを望みたい。

 2009年版の中小企業白書によると、ITバブル後に3%台に低下した企業の開業率 は、04〜06年に5・1%に上昇した。全体では依然、廃業率(6・2%)を下回っているが、法改正で会社設立のハードルが低くなったこともあって、個人企業を除く会社企業だけの開業率は5・6%と1990年代前半以来、久々に廃業率(5・5%)を上回り、起業マインドの高まりを示している。

 ただ、県商工会連合会のまとめによると、県内商工会地区の開業件数は08年度で86 件(前年比2件減)にとどまる。これに対して、廃業は295件(前年比22件増)に増えており、地域経済の活力の低下要因になっている。

 それでも、不況と離職者の増加が起業を促す傾向もうかがえ、心強くもある。日本政策 金融公庫金沢支店の融資実績をみると、県内の08年度の創業者向け融資は利用企業数が前年度比22%増の175社、金額は37%増の11億2500万円に急増している。

 景気が悪化し、消費が落ち込んでいる時は、一般に起業環境がよいとはいえない。しか し、だからこそ新商品の投入や新しいビジネスモデルで需要開拓に挑戦する意義があるととらえることができる。過去の例をみると、不況時に創業した企業は業績予想を慎重に見積もっており、競争相手も多くないので、存続率が高いといわれる。

 県が設立するビジネス研究会では、起業希望者が受講者になり、チームを作って、単独 では活用しにくいアイデアを組み合わせるなどして事業化をめざす考えという。近年は女性の起業希望者も増加しており、研究会への参加が期待される。それぞれの旺盛な起業意欲をしっかりした事業計画で結実させてほしい。

◎「海女」を無形遺産に 輪島も運動に積極参加を
 三重県鳥羽市で開催された初の「海女フォーラム」で、海女文化のユネスコ世界無形文 化遺産登録をめざす運動が動き出した。女性の素潜り漁は日本と韓国にしか存在せず、世界的にもユニークな文化として日韓合同で運動を広げるという。

 無形遺産のハードルはかなり高いとみられるが、運動を通して海女漁にさらに光が当た れば、文化継承の大きな力になる。日本海側の海女漁の拠点として輪島市も関係地域と連携を強め、舳倉島の海女文化発信につなげたい。

 日本の海女は約2千人おり、伊勢志摩地方が半数を占める。一方、韓国では済州島を中 心に約1万人が漁に出ているという。鳥羽市の「海の博物館」と済州島の「海女博物館」が交流を重ねてきた縁でフォーラムが実現し、輪島を含め、岩手県久慈市から熊本県天草市までの10地域、韓国の海女らが参加して現状報告などが行われた。

 海女漁に関心が高まってきた背景には、海に潜ってアワビやサザエ、海藻などを採る素 朴な漁法が、海洋資源の保護に役立つとして再評価が進んだことがある。人が海と密接にかかわってきた歴史を見つめ直し、海の営みを持続させるという「里海」の概念も海女漁に光を当てている。

 漁と一体となった暮らしや信仰はまさに「海女文化」としてくくれる貴重な財産である 。それぞれ地域性はあるが、かつては海女の移動、技術の伝播もみられ、広域的にとらえた方が文化的なスケールも鮮明になってくるだろう。

 輪島市の舳倉島でも夏のシーズンには約250人の海女が漁に出ている。神社などの信 仰形態にも独自性がみられ、潜る場所などを確認する目印となるよう石を積んだケルン(山だめ)群もある。そうした文化的な研究に加え、漁業資源の回復策や後継者育成などは各地で共通する課題であり、連携する意義は大きいだろう。

 海女文化は国内でも文化財としての明確な位置づけはなされていないのが現状である。 世界へ向けてその価値を発信するには、まず国内の文化的な評価を確立させる必要がある。