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2007年12月17日

「洞爺湖サミットに吹く風Vol.1」トークセッション

市民社会の声をサミットに届けるためにはどうする?

 「洞爺湖サミットに吹く風Vol.1」の出演者北沢洋子さん、マエキタミヤコさん、大橋正明さんの3名に司会の坂田昌子さんが加わって、活発なトークセッションが行われた。

活発なトークセッション  

■坂田

 来年の洞爺湖サミットへ向けて色々なお話が出ました。北沢さんは、貧困根絶のためにケルンサミットの時のような広範な市民参加をどうやって実現していくのかを問題にされました。大橋さんは、とにかく市民サイドの声を届けることが重要だと提起されました。マエキタさんは、遠い国の問題をどれだけ身近な問題として感じていくのかについて語られました。これらのテーマはすべて根底ではつながっていると思います。

 そこでこのセッションでは、実際にG8へ向けてどうすればよいのか、提案も含めてお伺いしたいと思います。会場からも途中で疑問などありましたらどんどん手を挙げてください。ではまずマエキタさんから。

<大勢の人波で政府にプレッシャーを>

■マエキタ

 北沢さんはG8NGOフォーラムに入っていらっしゃいますよね? 入ってない!? 北沢さんはアドバイザーとかお目付役としてNGOフォーラムの提言には欠かすことのできない方だと思いますけど。だったら今日、私が口説こうかと思ってます。(拍手)駄目ですよ、やらないなんて(笑)。

■北沢

 世代交代ですよ。私はもう引退組ですから。ただちょっと問題提起したいのですけど。例えば今年6月にドイツで行われたハイリゲンダムサミットでは、ドイツ人だけでなく外国からもたくさん人が来ました。ところが日本の場合、東京サミットや沖縄サミットの時にはほとんど外国から人は来ない。洞爺湖もそうでしょうけれども、すごく費用がかかる。日本は極東の島国ですから。

 ケルンサミットの時は、ライン川沿いの国の人たちはライン川を船で来たの。子どもを船の先頭に載せてね。だからインターナショナルな会合になるのです。日本の場合は、一部の国際NGOのロビイストじゃない限り来ないのです。日本人でも、沖縄や北海道へ行く費用は高いですから。

■坂田

 私も沖縄サミットへ行きましたが、なかなか大変でした。

■北沢

 北海道も飛行機で行ってホテルに泊まったらすごい出費です。ところがアメリカの場合も、99年シアトルのWTO会議に7万人が集まったときは、トレーラーなんかで旅行している。現地ではキャンプして、ただ同然。アメリカでは有給休暇をとるのも簡単なんです。日本は有給休暇とって北海道に行くことはとても難しい。私は日本の事情に合わせた形の対抗サミットをつくった方がいいと思います。

 沖縄サミットの時にはジュビリーは国際会議を開催しました。ケルンサミットでの3万5000人のジュビリーのヒューマンチェーンなどはとても無理でしたので。会議でも参加者の後ろには大勢の声があるのだとG8に圧力かけることが大切です。

 政府は事前に「過激なデモはやらないで欲しい」とか、私たちに色々と約束させようとしました。私は「世界中から来た人たちがみんな自主的にやるわけだから、日本のジュビリーが日本政府と約束してどうのこうの言うことではない」と断りました。

 政府は、G8に提言する人たちの後ろにどれくらい広範な人たちがいるのかすごく気にします。だからそれをどう創り出すのかは大切です。特に洞爺湖では難しい問題ですね。

■マエキタ

 要はプレッシャーをかければいいわけだから、なるべく安く大勢の人が行って、どれだけ派手にできるかがポイントですね。みんなの共感を得つつ、くだらないことでも揉めずに、「こっちの方が大人だよ」と示せる立派なものを実現したい。日本の市民社会はここまで成熟したと見せたいですね。海外には成熟してないと思っている人も多いから。

■北沢

 いやー、表には見えないだけで日本の市民社会はすごく成熟していますよ。横のつながりはないけど、NPOの数の多さはすごいです。高齢者や障害者に対するサポート組織はたくさんありますよ。こんなにたくさんある国はない。しかし問題はNPOの日常の仕事に追われ、世界大に考える余裕がない。

 大橋さんところの集まっている人たちが舞い上がっている感じでしょ(笑)。それはとても良いし、素晴らしいと思うのだけど。

北沢洋子さん

■大橋

 舞い上がっていますかね?(笑)。もしそうなら舞い上がっているところから下りて、もっとみんなに広く伝えて一緒に動かないといけないと思います。そこはマエキタさんが専門なんですけれども、一番苦しんでいる点です。

 例えばイギリスのグレンイーグルスサミットでは「メイク・ポヴァティ・ヒストリー(MAKE POVERTY HISTORY)」、つまり「貧困を過去のものにしちゃえ」とスローガンが掲げられました。これに様々な人が共感を持ち、多くの人が動いたわけです。

 日本の場合、「NGOやNPOは多様であることが命」みたいなところもあるので、残念ながらそこのところがまだうまく出来ていない。分り易いコンセプトを打ち出して、みんなが「そうだよね、だからちょっとやろうよ」と乗ってこれるような動きをぜひ一緒になって考えていただきたい、あるいは導いていただきたいなと思っています。

■マエキタ

 「成熟した日本の市民社会を見せてあげよう」みたいな路線はどうですか。「メイク・ポヴァティ・ヒストリー」だと、貧困問題と環境問題は違うと考える人がまだ多いからこの2つがつながらない。

 ごめんね、細かい話でテクニカルなことだけれども。今北沢さんがおっしゃった、市民社会が成熟しているんだか成熟してないんだか、普通の人には分からないようなところもあるので、「ここまで成熟したんですよ」みたいなことをポイントにするのはどうですか。

マエキタミヤコさんと大橋正明さん

■大橋

 いずれにせよNGOフォーラムとして一言、まあ二言か三言かは分からないけれども、こういうことを言いたいんだと簡単に伝えるメッセージを作らなきゃいけないと思います。

■北沢

 作らなきゃいけないと思いますよ。

■大橋

 そこを是非、マエキタさんも含めてみなさんに助けてくださいねとお願いしているんです。NGOフォーラムには多様な考えを持った様々な人たちが参加していますから、そう簡単にまとまれないのですが、それをどう乗り越えていくかで日々苦しんでいるところです。でもそれは、NGOフォーラムに期待がかけられているがゆえの苦しみでもあると思います。

■北沢

 私は洞爺湖そのものに行くだけでなく、全国津々浦々でサミットに合わせた取組みを行うことも必要だと思います。それと同時に、よくイギリス人が言う「スタント」を企むことも必要ではないでしょうか。それは「あっと驚く」ような、目が覚めるようなことをやる。スタントマンのスタントね。それをやることによってマスメディアが取り上げ、問題意識が広がっていく。日本の運動はマスメディアの使い方が下手ですよね。

■マエキタ

 スタントって言うんですか。専門用語を勉強しました。これから使います。スタント大事ですね。

<地域と世界をつなげるポイント>

■北沢

 それから私が今後掘り起こしていきたいと思っているのは、NGOだけじゃなくてNPOや地域のアソシエーション(グループ)です。その間のネットワークを作り出したいと考えています。NPOとして法人資格を取得している団体だけじゃなく、法人資格のないグループも地域にたくさんあります。

 政府がやれてないことはたくさんあって、福祉は穴だらけとかひどい状態になっています。その穴をみんな市民が埋めているわけです。私は神奈川に住んでいて、NPOに資金を出す基金の審査委員をしています。そこに申請してくる様々なグループのリストを見ますが、みんなボランティアでやっているから大変なのね。

 例えば託児所をつくる運動があります。ここで1つの問題は託児所では病気の子どもを預ってくれないから、その時はお母さんやお父さんが仕事を休まなければいけない。しかし頻繁に休めばキャリアに傷がつくからなかなか簡単ではない。しかしある程度の数の保育所を集めて病気になった子どもを看るというNPOを設立する。これは立派な事業になる。行政は考えもつかないことです。

 しかし、このことは、いずれは法律や条令にして政府や自治体がやるべきことです。同じような問題はたくさんあり、様々なNPOやグループがボランティアで担っているのですが、常勤職員を増やすには、行政の仕事にしていかないとNPOには限界がある。そうすると行政に対するアドボカシーが必要になってきます。アドボカシーは国際協力NGOだけの仕事じゃなくなってくるわけです。環境問題でも同じことが言えます。

■マエキタ

 NGOフォーラムには福祉関係のNGOも参加してますよね。

■大橋

 ただ少ないですね。だからその辺が一番問題で、多分G8サミットは国際的な遠いところの話だと感じている人が多いと思います。だけどグローバル化のなかで、世界の流れが日本の貧困や経済格差を生み出している。そう考えると今度のサミットでは、いわゆる国際的なことに関わるNGOだけじゃなくて、もっと地域のなかでボランタリーな活動しているNPOの人たちも関心をもって声を上げる仕組みを作り上げていくことが大切ですね。

■マエキタ

 英語を喋れない人が入り難い雰囲気を作ってないかチェックしないと。NGOが駆使する専門用語に気がひけたりすると良くないですね。

■北沢

 ハイリゲンダムのデモだったと思うのですが、スローガンに「あんたたちは8人、私たちは60億人」というのがあった。

■マエキタ・坂田

 ああ、いいですね!

■北沢

 いいでしょ。洞爺湖で、「私たちは60億」って言うの。

■坂田

 とにかく分り易さ、とっつき易さはすごく重要です。私たちは高尾山を守るローカルな活動で、ツリーハウスとか作って「気持ちいいね、だから守ろう」みたいな団体です。そんな私たちがNGOフォーラムに参加して、やっぱり世界のことも考えなきゃいけないと思っている。でも敷居が高いとつらい。ミーティングとかに出て、これは高いんじゃないかと思いました。

■マエキタ

 思いました?

■会場から

 僕らは「水と森の保全を考えるカワウソ倶楽部」という小さなグループで、NGOフォーラムに参加してます。身近な水の問題から始めて、東京の檜原村周辺で森の保全活動をしています。森が気持ち良すぎて、ついつい大きな社会問題から引き込もってしまう。それではいけない、身近な問題からもっと壮大な問題までつなげていきたいとNGOフォーラムに参加したんですが、やっぱり少しハードルが高いなと思います。「なんか僕らとはちょっと違う世界の人だな」というイメージがあるんですよね。

■マエキタ

 違う世界じゃ困りますよね。60億だもん。

■会場から

 そうなんですよね。身近なことが壮大な世界につながっていると頭では分かるんです。でもいざ行動となると、どうやればいいんだろうかと悩みます。マエキタさんはホワイトバンドなどすごくライトな感覚でやっていらっしゃる。どうやってそういった取組みができるのか悩んでいます。

■マエキタ

 「敷居が高い」というのは、実際に高いかどうかではなく、その人の中で高いと思い込んでいる場合が多い。それをついつい人のせいにするわけです。だからこそ、「敷居が高い」と思わせちゃいけない。すごく大事なことですね。

■大橋

 結局難しいのは、NGOフォーラムは異なる2つの役割を担うことです。政策提言をしようとする内容を分り易く伝えることと、官僚や専門家が使っている言葉に合わせること。いわゆるキャンペーン的な部分と、各国首脳やシェルパに向かってどう発言するかという役割です。一つの問題を突きつめていくともっと広い問題につながっていくけれど、そうなると全体が見えづらくなってしまう。

 私はずっとこの世界で生きてきましたから、私なりにこの問題は分かっているつもりなんです。でもどうしても超えられないから、ぜひみなさんと一緒に何とかしたいのです。

<60億の声を背にG8と向き合う>

■マエキタ

 要は3つピークがあるわけです。かたやG8の8人。こっちは60億です。その間にNGOフォーラムが名乗りを挙げていらっしゃる。

 NGOフォーラムはまず自分たちが集約した意見をG8の8人に届けなきゃいけない。同時に60億人ともつながらないといけない。どちら側にもアカウンタビリティがあり、きちんと説明しなくてはいけないから2倍大変。

 しかも今までは一生懸命政策提言を作ってきたから、まだ60億の方にはエネルギーが足らない。当然60億にもエネルギーを向けたいけど手が足りないからみんなの力を借りたいと。

マエキタミヤコさん

■大橋

 そうですね。それから北海道の市民フォーラムはまた別にあるし、G8を問い直す東京を中心にしたグループも別にある。他にも様々な動きがあるのかもしれない。できればそうした動きとお互い矛盾しないようにやっていきたいですね。NGOフォーラムだけで全てやれと言われてもそれはなかなかできない。最大の努力はするけれども、市民社会の多様性をうまくコーディネートして押し出していくことが、今後はますます重要になると思います。

■北沢

 私はG8サミットの市民サイドはお祭りでいいと思う。「せっかく洞爺湖でやるのだから、私たちも何かやりましょう。これを機会に国際的につながって、日本でこんなことをたくさんやったよと残したい」というぐらいで良いと思う。お祭りだから時限的なもので良くて、永遠に一緒にやらなきゃいけないことはない。

■坂田

 みんなで政策提言するのは基本的に無理なんですね。だから様々な次元があっていいかなと思うんですが、でもどっかでネットワークを表現したい。ケルンサミットでボノたちが提言しているバックで「わーっ」と声が上がり、提言している人たちも元気が出る。そういう連携はつくりたいなあと思います。

■北沢

 それじゃなきゃ、相手は耳を貸さない。ケルンサミットの時はイタリア首相がボノ・ファンで会えたのですごく喜んだらしい。まあそれぐらいの価値はあの人にあるし、悪い事じゃないのだけど、いくらボノだって提言を聞いてもらうためには、これだけの人が後ろにいるよと示さなければいけない。

 私たちが大蔵省と交渉した時も、窓を開けたらヒューマンチェーンの人たちの「わーっ」という声が聞こえてきて私自身が元気になった。「声の後ろにはさらに署名した2千万人がいますよ」と言えるような気がして元気になる。そんなつながりが大事だと思います。

■マエキタ

 私は北沢さんと同じ感覚を何度も味わったことがあります。私は最初、「デモの時にはシュプレヒコールよりチャーミング・アプローチ」と主張していたんだけど、「シュプレヒコールってこういうことのためにあるんだ」とすごく良く分かった時があるんです。

 私は国民投票法が強行裁決される際に傍聴に行って、国会の中にいたんですよ。参議院の本会議場は、外でわーっとシュプレヒコールしている人たちが「法案反対」と叫ぶのがとてもよく聞こえるんです。「ああ、この為にやっているのか」とシュプレヒコールの意味が機能として分かったのですごく大事だと思いました。

 それと「お祭りでいいのよ」との北沢さんの意見を後付で解釈すると、一体感なんだと思います。「私たちは一体なのよ」という雰囲気を感じてカチッとまとまる。どうやって一体感を作り盛り上げられるかですね。

■坂田

 本当にそれを大急ぎで作らないと間に合わないから必死なんです。シュプレヒコールであろうとチャーミング・アプローチであろうと、私はその時その時のシチュエーションでどんどん変わっていくと思ってます。「昔はこうだった」「こういう形でなければならない」とか、逆に「今時はこうでなければいけない」とか、そんな風にこだわっちゃいけない。ちょっと年齢上かなみたいな人と若い人との間に溝をつくっちゃいけないと思っているんです。

 短い時間でしたが、今日は興味深いお話をしていただきどうもありがとうございました。この続きをぜひまたやりましょう。

 (拍手)

(1258号 2007年12月25日発行)