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2008年02月04日

パラダイム・チェンジからネーム・チェンジへ アクティオ・ネットワーク(前ブント)代表 水澤努

変革へ向けた強い意志が未来を決する

 「名は体を表す」という諺があります。その意味でブント(BUND)はもはや、私たちの組織の体を表しているとはいえません。

 昨年5月の総会において規約を改正し、冒頭に「BUNDは『絆』を意味するドイツ語である」と記してルーツからの読み替えを試みました。しかし広義の「ブント」は社会運動の歴史に大きな位置を持っているだけに、やはり読み替えには無理があります。今や私たちは、自らの体を表すにふさわしい名称へ変更すべき時を迎えています。

<ブントには長い歴史がある>

 ブントには長い歴史があり、恣意的には払拭できない固有の意味がその名前には染みついています。60年安保ブントの指導者島成郎は「虎は死んでも皮を遺す。ブントは死んでも名を遺す」と語りました。ブントの名に込められた強烈な思い入れが伝わってきます。

 広義のブント(BUND)は、あくまでもder Bund der Kommunisten(共産主義者同盟)の略称です。これは今でも変わっていません。いかに主観的に読み替えを試みようとも、客観的には共産主義運動の一潮流として認知されているのです。

 ゆえに自らをブントとして規定している組織は、現在でも複数存在します。かっての激しい分派闘争が、未だ終わっていないことを表現しているわけです。ゆえに好むと好まざるとに関わらず私たちがブントを名乗ることは、客観的にはブント(共産主義者同盟)の1分派としてしか受けとめられないのです。

 共産主義を完全に放棄し、政治・思想的に新左翼の世界から脱却したにもかかわらず、このままブントを名乗り続けるならば、私たちがいまだ新左翼の世界に踏み止まっているかのような誤ったメッセージを社会に発信し続けることになります。ミスリーディングの根拠を自分たちで作っていることになるのです。

 私たちが新左翼の世界から完全に脱却したことを内外に刻印するためには、今や組織名変更を避けて通ることはできないのです。

<実体とイメージは不可分一体>

 私たちが何者であるか(=アイデンティティー)は、私たちが社会的にどのように認知されているかを抜きには成立し得ません。廣松哲学の言葉で表現すれば「対他的な反照規定」の問題です。

 多くの企業が取り組んでいるCI(コーポレート・アイデンティティー)の本質は、歴史的に認知されてきた「私たち」を、新たな自己表現を通じて逆規定し、組織的に作りかえていくことです。ゆえに私たちにとって大いに参考になります。

 『広辞苑』はCIについて、「会社の個性・目標の明確化と統一をはかり、社内外にこれを印象づけるための組織的活動」と解説しています。その際、社名変更は必須のプロセスです。

 かつて社会環境が変化し、「重厚長大」から「軽薄短小」の時代へ移行する頃、多くの企業が盛んにCIに取り組みました。産業構造の転換に適応するアイデンティティーの変革が問われていたからです。CIをうまく実現して組織を発展させた企業もあれば、CIに失敗して衰退した企業もあります。それほどまでにCIは組織の命運を決するものなのです。

 数多くの企業のCIを手がけてきた深見幸男氏は、『CI入門』で次のように述べています。

 「企業の存在には、実体としての存在と、イメージとしての存在があります。企業外部の社会にも、企業内部の組織にもイメージとしての存在が大きなウェートを占めています。アイデンティティーは、もともと実体とイメージの双方に関わる概念であって、別々に切り離しては論じられないものです。むしろアイデンティティーの問題は、実体そのものというより、実体としての〝見られ方〟の問題であるといえます」

 まさに実体主義を批判し関係主義的なパラダイムを探求してきた私たちは、それを自らにも適用すべきなのです。

<CIには変革への意志が不可欠>
 
 CIで問われる様々な変革のなかでも、組織名の変更は核心命題です。
 この点について深見氏は次のように指摘しています。

 「社名やブランド名はその企業の実体(歴史、業容、考え方など)を表していることが多いものです。それゆえ、企業の将来の総合的イメージを規定したアイデンティティー目標に照らし合わせて、現在の名称体系が企業の将来意図に適応しているかを評価することが必要となります」

 「将来に向けて変化を意図する時、『組織/従業員』の変革が迫られ、それと同時に『名称』を検討することが必要となってきます。さらに時代の感性に著しく遅れており、名称に包容力が感じられない場合、『名称』を検討する必要性が出てきます」

 ただし深見氏は、「名称、特に社名を変えることには、デメリットとともに困難な問題も多くある」と指摘しています。理由は、「既存の名称のもとで、社会に長年培ってきた優位な価値を一時的にしろ失うことです。さらに、長年、慣れ親しんだものであり、愛着という社員の感情…といった理屈では割り切れない問題」があるからです。

 名称変更の可否はこうしたことを勘案して決定すべきですが、単なる保守的な態度には釘を刺しています。

 「決定に際し、往々にして『いい名前が出てくれば変えよう』という意見が見られますが、これでは名称変更は難しいといわざるをえません。デール・カーネギーの『人を動かす』のなかに『いちばん心地よい響きを持つ言葉は自分の名前だ』という言葉があるように、よい名前を探すという視点が前面に立ちますと、歴史があり、自分が育ててきた愛着のある既存の名前以上によい名前はないといえます」

 核心問題は、名称変更のデミリットを勘案した上でなお、それを超えるだけの強い変革の意志が組織に存在しているかどうかです。

 「企業の名称体系変更の決定は、よい名前が先にくるのではなく、現在の名称体系では企業の将来発展の方向をあらわせず、将来を委ね難いという強い信念と将来の方向を示唆する新しい名前を大きく育てていこうという強い意志を明示することにほかなりません」
 つまり「名ばかり」の変化ではない、組織の根本的(ラディカル)な変革を刻印するための名称変更でなくては意味がないのです。変革へ向けた強い意志こそがCIの正否を決します。ゆえに変革への意志が弱い企業はCIのデメリットにより没落し、強い企業はエクセレント・カンパニー(優良企業)への飛躍台とするのです。

 同様に新しい社会運動を創造するためには、まず自らを刷新する強い意志が必要です。それが私たちに満ちている今こそ、パラダイム・チェンジからネーム・チェンジへと踏み出す時です。

 私たちが目指す行動的なネットワーク組織を表現する、新しい組織名称への変更を決意しましょう。

      (ブント名称変更を提起した趣意書)

(1261号 2008年2月10日発行)