◆パート社員の正社員との「均等待遇」。政権交代で実現が期待されています。
性別や正規・非正規を問わず、同じ職場で同じ仕事をしている人は同じ賃金を得られる「均等待遇」を--。衆院選のマニフェスト(政権公約)に、ヨーロッパ並みの「同一労働同一賃金」の実現を掲げた民主党は、ワーキングプア(働く貧困層)や賃金格差の存在を踏まえ、こうした問題の解消に取り組む構えだ。とはいえ、実現にはいくつもの壁が立ちはだかる。
三菱ふそうトラック・バスの川崎工場で4年間働いた鈴木重光さん(37)は昨年暮れ、「派遣切り」にあった。運転席にブレーキを組み込む作業で、時給1300円。正社員と一緒に同じ仕事をしてきたのに、昇給は一度もなかった。人づてに正社員が「派遣だからいろいろ言わなくてもいい」と話していたと聞き、やはり期待されていないのかと、がっくりきた。
「格差」を最も痛感させられたのは、ボーナス支給日だった。正社員同士が使い道を話していると耳をふさいだ。「悔しかったが、当たり前と思うようにしていた」と振り返る。
厚生労働省の1万社(従業員5人以上)を対象とした調査では、有期雇用労働者の28・3%が正社員と同様の仕事をしている。現行パート労働法はパートの基本給について、正社員と昇進ルートが同じで、事実上の無期雇用なら正社員と同一とすることを事業主に義務付けているが、そんな人はごくまれ。その他のパートへの差別禁止は、事業主の努力義務などにとどまり、罰則規定もない。
政権与党・民主党の政策に影響力を持つ連合は03年、「パート・有期契約労働法」(仮称)の議員立法による成立を目指し、法案要綱の骨子案を作った。「合理的理由」がある場合を除き、勤務時間や契約期間が短いことを理由に、正社員と労働条件に差を付けることを禁じている。
ここで言う「合理的理由」は(1)職務内容の難易度(2)労働環境や仕事に対する肉体的・精神的負担(3)要求される知識や技能--が違う場合を指している。
しかし「均等待遇」の実現には、課題も多い。まずは正社員の給与をベースに、賃金の算出方法を決める必要がある。連合案の場合は、パートの人の給与も、住宅補助や扶養手当を含む正社員の初任給を基準とする内容だ。
だが、パートの労働条件底上げは企業の負担増に直結する。長引く不況の下、企業側には正社員の処遇を切り下げることで、パートと「均等」にする考え方が根強くある。連合の村元隆労働条件局長は「パートが能力を十分発揮できれば、会社の利益につながると考えてもらいたい。非正規労働者の労働条件の改善や処遇の底上げを求めたい」と企業に発想の転換を求める。
「均等待遇」は、民主、社民、国民新党の連立政権樹立にあたり政策合意にも盛り込まれた。今後、議論が加速するとみられる。それでも、細川律夫副厚労相は「まだ具体的な話ができる段階ではない」と慎重だ。
名古屋大学大学院の和田肇法学研究科教授(労働法)は「雇用形態による違いで賃金や社会保障に違いがあって当然、という発想は変えないといけない。均等待遇の大原則を掲げるのは重要だ。企業の中での労使合意や、基準作りをする際、何を理由に正社員との差を付けることが許されるのかを議論することが大切になるだろう」と話す。【佐藤丈一】
毎日新聞 2009年10月5日 東京朝刊