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主張留学生交流が築く域内の平和

公明新聞:2008年7月29日

実現へ日本がリーダーシップを

アジア版エラスムス

 アジア諸国の相互理解を深めるだけではない。日本の大学の国際競争力アップや教育の国際化にもつながるはずだ。

 単位の相互互換制度を中核に据えて、アジア・太平洋域内の大学交流を促進させようという政府の「アジア版エラスムス計画」の輪郭が見えてきた。

 文部科学省などの説明によると、計画は来年秋、日中韓3国を軸に試験的に実施し、その後、東南アジア諸国連合(ASEAN)の大学にも参加を呼び掛けていく。5年間で数十校の参加と最大5000人の留学生交流を見込んでいる。近く有識者による研究会を発足させ、具体策の検討にも入る予定だ。

 エラスムス計画は、EU(欧州連合)の前身であるEC(欧州共同体)が1987年にスタートさせたもので、現在はEU加盟国と周辺のノルウェーなど約30カ国から2000以上の大学、総勢約15万人の学生と2万人の教員が参加している。その効果は、域内の大学教育を流動化、活性化させているだけではない。欧州統合に不可欠な「EU市民」としての意識の共有をも促し、いわばEUの拡大と深化を下支えする「人材養成の装置」として機能している。

 アジア版エラスムス計画は、EUのこの成功にならって、日本政府が「大学のグローバル化戦略」の一環として検討してきたものだ。政府開発援助(ODA)予算の一部を留学生支援に回す「留学生ODA」制度など、教育交流の拡充を訴えてきた公明党の主張にも沿っている。

 欧州版、アジア版を問わず、エラスムス計画の最大の特徴は単位互換制度にある。「最初の2年間は日本の大学で、残り2年間は中国の大学で」といったように、学生は複数の大学を転学しても単位が取得でき、域内の大学の流動化を一気に加速させるものと期待される。

「国家を人間的にする」

 無論、課題は少なくない。

 日本国内での大学間交流さえも未整備な中で、海外の大学との間での単位互換がはたして可能なのか。カリキュラムや学位授与基準の共通化といった問題も併せ、その“すり合わせ”は容易ではないだろう。

 「アジアの多様性」という問題もある。宗教的、文化的に共通の土壌を持つ欧州と異なり、アジアは複雑で多彩な顔を持つ。アジア版エラスムスの実現には、この多様性の克服と昇華が欠かせない。膨大な資金調達という難問も待ち構えている。

 ただ、エラスムス計画がもたらす中長期的な成果を思えば、これらの難題に挑む価値は十分にある。「教育交流は国家を人々に変える」とのJ・W・フルブライト(世界で最も権威のある留学生交流計画「フルブライト・プログラム」の提唱者)の言葉を待つまでもなく、留学生交流は国際関係に人間のぬくもりを注入し、さまざまな面で「平和の配当」をもたらすからだ。

 日本のリーダーシップで、“エラスムスの果実”をぜひともアジアの地に実らせたい。

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