中国は1日、建国60年を祝った。日本にとって最も重要な隣人の一人が、還暦を迎えたといえる。
中国の60年の歩みはおおむね、故毛沢東主席が政治の安定を目指して内部闘争を繰り広げた前半の30年と、故〓(〓は「登」に「おおざと」)小平氏が「改革・開放」を掲げて経済発展に突き進んだ後半30年に分けられる。
「改革・開放」路線は大きな効果を挙げた。昨年には国内総生産(GDP)が3兆8600億ドル(約350兆円)に到達し、米国、日本に次いで世界3位となった。国際通貨基金(IMF)によると、来年には日本を上回り、世界2位の経済大国になると予測されている。
国際社会での存在感も増す一方だ。金融危機への対応、温暖化対策、北朝鮮核問題など地球規模の問題については、米国と中国が協調して対処する「G2」時代が到来しつつある。
北京で行われた建国60年の記念式典は、中国が「大国」としての自信を内外に誇示する舞台となった。軍事パレードでは、改良型の大陸間弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルが続々と登場した。胡錦濤国家主席は、天安門広場で「社会主義中国は世界の東方に高くそびえ立っている」と演説した。
しかし、こうした自信とは裏腹に、中国の国家運営には危うさが付きまとう。最大の不安材料は、急速な経済発展に伴って拡大する貧富の差と、民族問題だ。
共産党の一党支配を温存した「民主化なき市場経済」は、権力と金を持つ党官僚と、発展の恩恵にあずかれぬ庶民という構図を生んだ。都市と農村の経済格差も広がり、都市に流入した農村出身者「農民工」は低賃金での不安定な生活を強いられている。さらに、昨年のチベット暴動や、今年7月の新疆ウイグル自治区ウルムチの大規模暴動など、漢族と少数民族との対立が先鋭化している。
記念式典では、このような庶民の不満が顕在化するのを防ぐため、当局は昨年の北京五輪以上の厳戒態勢で臨んだ。民主活動家や地方からの陳情者は事前に拘束されたと報じられている。動員の招待客以外の一般市民は式典会場に近づけなかったという。お祝いの行事としては、何とも寂しい話ではないか。
外交面では、資源確保のためのなりふり構わぬ姿勢があつれきを生んでいる。軍事パレードで登場した最新鋭装備に、大国意識に裏打ちされた膨張主義を読み取り、脅威を感じた近隣国も多い。
国際社会はいま、こうした中国に人権、民主化、軍縮、環境、少数派への寛容といった価値観を先進国と共有し、大国としての責任を果たすよう求めている。
「新中国」の国家としての60歳はまだ若く、人間の60歳とは当然違う。しかし、この節目を機に、膨張・拡大一辺倒から脱し、国際社会の一員としての「成熟」を目指してほしい。これが私たち隣人の願いであり、注文である。
=2009/10/02付 西日本新聞朝刊=