コラム 小寺信良の現象試考:ついに「ガラスの城」が壊れ始めた録音録画補償金制度 (2/2)これから何が起こるのかデジタル専用機に対して補償金を徴収しないと決めたのは、東芝とパナソニックである。ではなぜ今回、多くの記事で東芝だけが名指しで名前が載るのか。これには補償金の支払いシステムを知る必要がある。 補償金は、メーカーが消費者から、販売価格内に含まれたものとして徴収する。それをJEITAがいったん集約し、私的録画補償金管理協会(SARVH)に支払う。この支払い時期は半期に一度で、3月末と9月末である。各メーカーは年に1度、そのどちらかの支払い日にあわせて、JEITAへ補償金を預ける格好だ。実はこのタイミングが、東芝が9月末で、パナソニックは3月末である。 ではパナソニックが今年3月末の支払いで、何も問題がなかったのはなぜか。それは、パナソニックの最初のデジタル専用機が発売されたのが、今年4月だったからである。したがって今回9月末払いのぶんで問題になったのが、東芝だけだったというわけだ。 JEITAはこの9月末に、集めた半期分の補償金をSARVHに払っている。ただこの中に東芝のデジタル専用機ぶんの補償金は、そもそも集めていないのだから、含まれていないものと見ていいだろう。もちろんパナソニックのデジタル専用機はこれまでも補償金を上乗せしていないので、このままだと来年3月にもまたもめる可能性がある。 さらにあと2年弱でアナログが停波するわけだから、今後レコーダーは、アナログチューナーを積んでいるモデルをわざわざ買うメリットが少なくなってくる。むしろ消費者としては、どうせ使えなくなるアナログチューナーを積むぐらいなら、それを省いて少しでも安くして欲しいというのが本音だろう。テレビはともかくレコーダーは、アナログ停波を待たずにアナログチューナーが全廃される可能性は高い。 しかも実質的に補償金を払っているのは消費者であり、メーカーやJEITAは単に徴収を代行しているに過ぎない。SARVHも補償金受領と分配を担当しているだけで、直接の請求権は権利者にある。したがってSARVHがJEITAに払えというのもおかしな話で、双方ともあくまでも代理者でしかない。 両者の訴訟になるのではという予測も飛び交っているが、そうなると権利者 VS 消費者の代理戦争をSARVHとJEITAが行なうというややこしい状態になる。第一、消費者は「単に集められなかったから払っていない」だけで、「払わなかった」と言われる筋合いはない。おそらくメーカーの徴収協力義務違反ということになるだろうが、それに関する罰則規定は著作権法にはないので、その点は訴訟になり得る。実は補償金制度というのは、消費者の理解とメーカーの徴収協力がなければ簡単に全体が壊れてしまう、ガラスの城のような制度なのだ。 またこの問題で大きな影響を受けるのが、メディア(ディスク)産業界である。ソニーやパナソニックなど、レコーダーメーカーだけでなく、日本ビクター、日立マクセル、三菱化学メディア、太陽誘電、富士フイルム、TDKなど、メディアを製造販売している国内企業は多い。アナログ停波によってVHSデッキが事実上役に立たなくなり、今後はそのぶん光メディアの消費量は、今以上に伸びるだろう。競争により単価が下がってくれば、補償金の負担は、今の比ではなくなってくる。 しかもややこしいことに、今後の成り行き次第では、東芝とパナソニックのデジタル専用機で使用したメディアは、実は補償金がいらなかった、ということにもなりかねない。それをどのように証明し、返還手続ができるのか。 メディア産業界も基本的には、フルデジタルになればDRMがあるので、文化庁が補償金の将来的な縮小・廃止を示した20xx年モデル(「DRMが普及し、補償金がなくなる未来」を文化庁が提示)によって補償金は必要なくなるものと考えていたはずである。このモデルは権利者側は乗らないと宣言しているが、私的録音録画小委員会の最終報告書(案)にも明記されており、この方向性が撤廃されたわけではない。 しかし現状、文化庁がDRMは補償金には関係ないので徴収してよしという態度を取るのであれば、自分で掲げた20xx年モデルの実現に対して努力していないことになる。実質的にこの問題は、文化庁が権利者とメーカーの調整を非公開の場で行なうとも言っていたが、少なくともデジタル専用機に関しては9月末という締切があるのに、これまで放置していた責任は重い。 自民党政権から変わった新文科省大臣は、この事態をどのように見るだろうか。 小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。 関連記事
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