プリント表示ブログに書く by kwoutブログに書くソーシャルブックマーク
次の記事へ 前の記事へ

news011.jpg

コラム

小寺信良の現象試考:ついに「ガラスの城」が壊れ始めた録音録画補償金制度 (1/2)

「デジタル専用レコーダーは対象外」として、東芝が支払わなかったことで話題となった私的録画補償金。一体何が問題なのか。

 10月1日に、東芝がデジタル放送専用録画機ぶんの補償金を支払わなかったことを明らかにした(「デジタル専用録画機は補償金の対象外」 東芝が支払い拒否)。これに関して事情がよくわからず混乱している人も少なくないようなので、今回はこの問題について解説してみたい。

 デジタル放送専用録画機とは、従来のアナログ地上波用のチューナーを搭載せず、デジタル放送しか受信できないレコーダーである。以下デジタル専用機と呼ぶことにしたい。まず前提として、今年5月には東芝とパナソニックが、このデジタル専用機の価格に、録画補償金を上乗せせずに販売していることが明らかになっている(「課金対象か明確でない」――パナソニックと東芝、デジタル専用レコーダーに補償金上乗せせず)。

 日本の補償金制度では、消費者がこの補償金を支払うことになっている。補償金は対象機器の販売価格に含まれており、例えばレコーダーであれば、基準価格(ほぼ実売価格と等しい)の1%で、上限が1000円となる。したがって実売12万円のレコーダーを買っても、上限があるので1000円、消費者は支払っていることになる。

 今年2月から販売され始めたデジタル専用機では、これを集めていないというわけである。ではなぜ、集めないということになったのか。

4年かけても埋まらない溝

 録画録音補償金の存在が多くの人に知られることとなったのは、2005年4月の文化庁 法制問題小委員会に、iPodなどのHDDプレーヤーも補償金の対象に加えるべきという意見書を、権利者団体が提出したことに始まる(「iPodからも金を取れ」――私的録音補償金で権利者団体が意見書)。それまで補償金制度は、CD-RやDVD-Rなどのメディアに詳しい一部の人が知るのみであったが、これをきっかけに多くの人が、知らずに補償金を払っていたという事実を知ることになる。

 そこから延々と補償金の対象機器、DRMとの関係性、制度を拡大するのか縮小するのか、といった議論が続く。2006年には文化審議会内に専門の「私的録音録画小委員会」を発足させて議論を続けたが、デジタル専用機に対して補償金がいるのか、という問題は結論が出ないまま、2008年12月に終了となった。

 今年5月に著作権法が改正され、Blu-ray Discが補償金対象となった。しかしこれはこの委員会の決定ではなく、著作権法を抱える文科省と、オリンピック前になんとしてもダビング10をスタートさせたい家電メーカーを所管する経産省が、05年6月の合意により、実現されたものである。つまり民民では結論たどり着かず、お上がえいやっと大鉈をふるった格好である。

 この両省合意時に発表された「ダビング10の早期実施に向けた環境整備について」という文章(「著作権法施行令の一部を改正する政令案への意見」(リンク先PDF))に、問題点がよくまとまっている。引用すると、

 2.文部科学省は、著作権法30条2項が著作権保護技術の有無が支払い義務の発生要件になるかどうかについて明示的に規定していないと認識している。

 3.経済産業省は、メーカーが、コンテンツの利用を技術的にコントロールすることが可能な場合には補償金制度の対象とすべきではないとの立場を一貫して主張してきており、地上デジタル放送の録画に係る機器・媒体については補償金の対象とすべきではないと考えていることを、認識している。

(中略)

 5.無料デジタル放送の録画の取扱等私的録音録画補償金制度のあり方については、早期に合意が形成されるよう引き続き努力する。

 とある。つまり文科省では、「デジタル放送にはDRMがあるが、それと補償金は関係ないのだ」としているのに対し、経産省では、「メーカーはDRMがあるから補償金はいらないでしょと言ってる」としており、「このすれ違いは早くなんとかしないとね」ということであった。

 録音録画補償金とは、消費者がデジタル録画やデジタル録音を行なうことによる、著作権利者の利益減少を補償するものである。しかしこの利益減少とは、デジタル技術によって多数の無劣化複製が行なわれるものだ。ただ、今、デジタル放送はDRMで複製が制限されるため、権利者の利益減少をもたらすほどの無秩序な大量複製はできなくなった。

 そもそもプレイスシフトやタイムシフトで視聴する場合においては、それを代替する手段を権利者側が提供していないわけだから、それらの行為が阻害するとされる権利者の利益そのものが存在していない。

 DRMと補償金の関係は、これまでも本コラムにて早くはっきりさせないと様々な遺恨を残すことになると指摘してきた。だがこの制度の趣旨を議論する場であった私的録音録画小委員会は、事実上物別れに終わってしまっている。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2009 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


おすすめPC情報テキスト

モバイルショップ

ノートの新モデルが続々と発売!
ハイエンドからコンパクトまで、見逃せない新モデルが目白押し!

新型CPUモデル最大1万円値下げ!
円高差益還元セール実施中!新発売のゲームパソコンもお買い得!

キャリアアップ

ピックアップ

news021.jpg 「1万チョイまで」で幸せになるカナル型イヤフォン16選
ポータブルオーディオの最も簡単かつ効果的なチューニングはイヤフォンの変更。最近ではバリエーションも充実しており、ちょっと財布のひもを緩めればシアワセになれる。今回は人気のカナル型を集めてみた。

news022.jpg 価格比較:夏の水辺はコレで撮る――今夏の防水デジカメ徹底チェック(後編)
今年は防水デジカメの当たり年。今シーズンに登場した防水デジカメの仕様と価格を比較する。

news065.jpg 価格比較:高級コンパクトデジカメ、価格を比較
最近ではハイビジョン動画や個人認識、さらには超高速連写など、デジタルであることを前面に押し出した製品も増えているが、“撮ることの楽しさ”を前面に押し出した高級コンパクトデジカメもいちジャンルを築いている。各社製品の価格を比較した。

news097.jpg 価格比較:充実のエントリーデジタル一眼、価格を比較
最新のエントリー向けデジタル一眼は撮像素子も10メガを越えたほか、ライブビューやHD動画機能なども備えており、その充実ぶりは目を見張る。お買い得感の高いダブルズームキットで価格を比較した。

news102.jpg 価格比較:ハイアマ向けミドルクラス一眼、価格を比較
撮像素子はAPS-Cサイズながら、各種装備やスペックを充実させた中級デジタル一眼レフの価格を比較した。エントリー向けに比べやや高価にはなるが、いわゆる写真愛好家を対象とした製品だけに、充実した製品がそろっている。

news063.jpg 価格比較:あこがれを手に入れる、フルサイズ一眼の価格を比較
これまでフルサイズ機といえば、プロ向けの高価な製品しか存在していなかったが、今では少し背伸びをすれば狙える。とはいえまだまだ高価。最新価格のチェックは欠かさずにいたい。

news038.jpg 価格比較:エコポイント活用、ハイエンド機も充実の50V型以上テレビ価格一覧
50V型以上ともなると、各社のハイエンドモデルと録画機能付きテレビのオンパレード。プラズマテレビも選択肢が増え、画質・機能ともに充実した製品が並ぶ。

news098.jpg 価格比較:エコポイント活用、満足度の高い46V/47V型テレビ価格一覧
“価格比較”3回目は、46V型と47V型に注目。液晶テレビではプレミアムモデルの比率が高まり、プラズマテレビも選択肢が増えてくる。画質や機能は欲ばりたいが、出費はなるべく抑えたい――そんな人にぴったりのサイズだ。

news111.jpg 価格比較:エコポイント活用、売れ筋40V/42V型テレビ価格一覧
売れ筋の40V型、42V型の薄型テレビからエコポイント対象製品を取り上げ、実売価格を比較する。エコポイントは2万3000点。

news073.jpg 価格比較:エコポイント活用、最新37V型テレビの価格一覧
前回の40V型/42V型に続き、今回は1まわり小さい37V型を取り上げる。最新注目機種の中から、エコポイント対象製品をピックアップ。

news104.jpg 価格比較:エコポイント活用、録画対応モデルも充実の32V型テレビ価格一覧
リビングルームのメインテレビとして、また書斎や寝室におくパーソナルテレビとしても注目される32V型液晶テレビ。ここ1年ほどで倍速駆動や録画機能を備えた製品が増えているのも特徴だ。今回は各社のエコポイント対応製品16機種をリストアップ。

news092.jpg 価格比較:エコポイント活用、個室にちょうどいい26V型以下の液晶テレビを比較
パーソナルサイズと位置づけられる26V型以下だが、最近は上位モデルの機能を一部取り込む形で個性的な製品が増えている。個室やベッドルームなど、シチュエーションに合わせて検討したい。