最近読んだ本(1月7日)
まずは、年末年始に読んだ本のうち、3冊について。
① 阿川弘之『大人の見識』新潮新書
② 藤原正彦『遥かなるケンブリッジ』新潮文庫
③ 宋文州『傍目八目』日経BP
①と②は随想と国費留学生体験記の違いはあるが、共通点が多い。危機的状況(個人、家族、国家等)の体験と対処を示してくれる。憂うべき状況を自己と歴史の誇るべき点を見つめ、将来に期待しながら打破しようとする。
①においては、日本の過去のいい点、とりわけ「海軍のよき伝統」にこだわる。「海軍」全てが良いとは決して言っていないが、私も読んだ「山本五十六」「米内光政」「井上成美」等の著作を通じて、「古きよき日本海軍」精神が、今の日本、とりわけ日本人に必要だと主張。現状を憂うる、老成された著者の最後の?(失礼)叫びとも言えなくもない。
やはり、戦前の学士は読書の質・量を始め、教養の土台が違うと改めて感じる。
②『遥かなるケンブリッジ』は、新進気鋭の数学者、『国家の品格』の藤原正彦氏が、ノーベル賞学者あたり前のケンブリッジ大学数学教室へ飛び込む。「オレは信州の武士の家系だ」と自らを鼓舞しながら、30代の作者の気負いと悩みが興味深い。あたかも、外国人柔道家が講道館へ他流試合(しかも、国家を背負って)するかの様だ。
ケンブリッジとオックスフォードで、連続講義する時の緊張感。時あたかも、著者の子供が学校で人種差別による「いじめ」にあい、家庭も緊張する。奥さんを罵倒する。(実際、お会いしたことがあるが、とても素敵な方である)
このあたりは、手に汗握るが、状況を読者に的確に伝える著者の文章力のすごさを改めて感ずる。
①、②に両通するのは、危機感の中の誇りと明るさ「ユーモア」だ。阿川氏は藤原氏の著作を評価しているが、両氏それぞれ「ユーモア」を定義している。①は戦前の「時代」、②は英国の気候や慣習の暗さを軽くいなして、明るく揶揄している。(勿論、最初からそうだった訳ではないだろうが)
藤原氏の留学は今から20年以上前、世の中バブルの絶頂のもと、元禄平和ボケ。にもかかわらず、日本の現状と将来を憂い、「このままでは大変なことになる。日本は英国の経験を学び、人間力を向上させなければ」と憂いて結んでいる。
③の著者は私の知人で、本人から頂いた。②と③は大晦日に一気に読んでしまった。一日2冊読んだのは生まれて初の快挙で、それほど面白く、又テレビが余りにもつまらなかったからだ。読み終わった夜10時頃、宋さんに電話をしたほどだ。残念ながら通じず、翌元日、宋さんから電話を頂いた。
著者は元中華民国の財閥ゆえ、文化大革命時代、徹底的に迫害されながら育った。朝鮮国境や新彊ウイグルまで逃げ回ったと言う。国費留学生で、北大で勉強した後事業を立ち上げ、東証の一部上場会社にした。
彼の生い立ちと日本での成人後体験をもとに、率直に「タブー」を語ったのが本著だ。
教育、仕事、経済、少子化、日本・中国、日本と中国、憲法、靖国等余り中国にこだわらない著者が積極的に表現し、反応は賛否両論あると言う。私も全面賛成ではないが、中国出身で成功したビジネスマンが、積極的に「面倒臭い問題」と向き合い、発信することを大いに評価する。もっと、日本人も中国人も(中国においても)どんどんやればよいと思う。政治家が絡むとややこしい。非政治人間が、明るくさわやかに、日本や中国のことをもっと語り、行動すればよい。日本にとってもメリットだ。宋さんは「私の様な小さな存在が」と謙遜するが、インターネットの時代、宋さんの発言は勇であり、影響は大と思う。
年末年始に読了した3冊は、いずれも非政治人間が今の日本を直視し、憂い、率直に考え方を公表し、改善を願っている。「下り坂の日本」にいる我々に、刺激を与えるもので、是非お勧めする。