中川昭一  Shoichi Nakagawa

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2008.08.19

最近読んだ本(8月15日)『大和魂のモダン・サッカー』 加部究 双葉社

毎月2-3冊おもしろい本を読んでいるが、今回は日本サッカーの父、デットマール・クラマーさんの本。
 質のいいスポーツに関する本は一瞬の無限の連続であるスポーツを分解し、深め、解説することにある。背景にはプレイヤーの肉体、精神状態、イメージ・トレーニング、多くの人々の支援、妨害、不運と幸運・・・・・。すべて結果だ。サッカーにおいては点を取ることと、点を取られないこと。
 以前読んだ面白い本は、著者がクラマーを先駆者と位置づける「オシムの言葉」、江夏豊「左腕の誇り」等々。今読むのを待っている中村俊輔の「察知力」等もある。
 私にとってクラマーさんは特別の存在だ。その発言は、私が夢中になってサッカーをやっていた頃からよく知られていた。シュートを高く浮かすと「宇宙開発」。手を抜いた選手には「ホット一息(コカコーラ)」プレイヤー。「大和魂」等々。
 そして何と私はクラマーさんにコーチしてもらったことがある!昭和42年か43年の中学夏合宿、東大検見川グラウンドだったが、そこに日本代表チームとクラマーさんがいたのだ。我々の練習の横を通ったクラマーさんは、チラっと我々を見て、何かの仕草をし、何かを言った(聞こえなかったし、ドイツ語だから分からない)しかし、我々はあのクラマーさんからコーチをしてもらったと錯覚した。いや、確信した!
 その晩、合宿所の夕食は代表と一緒で、食事もそこそこに、あこがれの選手にまとわりついた。(さぞ迷惑だったことだろう)私にとっては生涯忘れられない40年前の思い出だ。
 私が見た一番の試合は、東京のアルゼンチン戦勝利でも、メキシコの銅メダルでも、ベルリンのスウェーデン戦勝利でも(生まれていない)、アトランタのブラジル戦勝利でもワールドカップでもない。昭和42年のメキシコオリンピック予選の韓国戦だ。
 夜7時からの試合を、私に小学校5年生で初めてサッカーの世界の引き入れてくれたV先生と見に行った。勝った方が得失点差で出場が決まる。ハラハラどきどき。エースの杉山は脱臼して、肩から腕をぶら下げている。3-3からの20分は一方的に押されている。片山、山口、小城、鎌田、宮本征ら全員必死で守るが、ついに中盤でフリーになった韓国選手が思い切ってロングシュートを放つと、少し前に出ていたGK横山が乾坤一擲ダイビングするが、届かず。「やられた!」と思ったら、バーに当たってゴール・キック。横山は本書で、「これは入らない」と言っているが、そうだろうか?とにかく「負けなかった」。
 三角巾の杉山ら全員で日の丸を掲げてグラウンドを一周したときは、涙しながら思いきり拍手した。

 本文はほとんど書評になっていない。読んでいて高校時代の最高の感動の思い出の方が余りにも強すぎるのだ。
 しかし、本書を読んでの感動も多々ある。80を過ぎてかくしゃくと世界を飛び回るクラマーさん。誰よりも遅く床について、誰よりも早く起きて一人一人の練習メニューを説明するクラマーさん。キャプテンで最年長の八重樫がメキシコ初戦でケガをして、自分が今できることはこれしかないとチーム全員のユニフォームを毎日手洗いしたこと。クラマーをコーチに招く時のとまどい。クラマーと、長沼、岡野体制(ともに30代前半だ)への反発・・・・・。
 クラマーと長沼、岡野の意見が異なり、結果クラマーが間違っていたことも単純に当時と今は比較できないかもしれない。
 しかし、サッカー(テニスでも)で絶対に大事なことは。「ポイントを取り、取られないこと」と「よく考えること」であることは間違いない。
 そしてクラマー曰く「指導者はリーダーシップと記憶力と演技力が必要だ」

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