中川昭一  Shoichi Nakagawa

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2007.12.12

最近読んだ本(12月6日)『汗出せ 知恵出せ もっと働け!』 丹羽宇一郎 文芸春秋

■ 「汗出せ 知恵出せ もっと働け!」丹羽宇一郎 文芸春秋

 著者は学生運動をやり、「何となく」伊藤忠に入り、ある時猛烈に仕事をはじめ、社長になってからは大量の不良債権処理をして、当社史上最高益を出して現在会長。私も存知上げているので、本書を送っていただいた。著者の講演集だ。トップに上りつめた人の成功談ならいっぱいあるので、しばらく積んでおいたが、当日何の気なしに手にとってパラパラめくっているうちに、はまって、7時間かけて(殆ど徹夜で)一気に読んだ。疲れた。私は本を読むスピードが遅い。(書くのはもっと遅い)
 気になったところは線を引き、特に気になったところは右上頁を折り、更に気になったことばを巻頭白頁に書く。とに角時間がかかる。それでも、値する内容が本書にはたくさん詰まっていた。


 しかし、著者も最近は、私と同じことをしていると知ってはっとし、自信を持った。(但し、スピードは知らない)


 本書は単なる成功した経営者の成功談ではない。勿論「猛烈」だが、まず社会人になるまでに猛烈に本を読んだ。若い頃、滅茶苦茶本を読んだ人を私は好きだ。うらやましい。私も読書は好きだが、質量共の少なさを後悔している。特に、歴史書、哲学書、文学書等の古典。著者と同じ様に、読みたい本が常に山ほどあるので、どうしても歴史や経済等の現実書が中心になり、文学や単なるベストセラー等は時間のムダ、いや後回しになってしまう。著者は本は一番大切だと力説する。何程、著者は本屋の息子だったのだ。従って、この講演にも古今東西の名著が自由自在に登場する。
 著者曰く、「人は仕事で磨かれ、読書で磨かれ、人で磨かれる」そして最近は、パソコンやメールが盛んだが、対応力(理解し、相手に説明し、理解させる力)の養成の為には読書が必要と力説する。


 総合商社というのは、全く不思議な存在だ。あらゆる物品を扱うだけでなく、リース、エンジニアリング、コンサルティング、ファイナンス、プロジェクト・ファイナンス、人材派遣等々あらゆる分野をもつ。どんなに世界的なメーカーでも、未だに商社との関係なしには、考えられない。間接金融は低下しているが、商社の存在は益々大きい。私も最近だけでも、新分野を勉強しようとするとき(エネルギー、レアメタル、医療サービス等)に関して、商社の友人に教えてもらっているし、未知の外国出張の前には、外務省等と同様、商社に情報を聞く。極めて優勝劣敗のビジネス業だ。しかし、丹羽さんとお会いすると、どこか書生っぽく、人情ぽい。そして、リカードの比較優位説に反して、「コメだけは絶対に譲ってはいけません」とはっきりと書く。


 本書は成功談ではなく、現状を憂いている。特に日本人の心を憂いている。
『お腹が空けば食べればよい。しかし、心の栄養補給も大事だ。』『病んでいる心に手術はできない』『立派な身体は相続できても、心は相続できない。生まれた時、皆心はゼロなのだから』『蟻になれるか、トンボになれるか、人(心)になれるか』等々・・・・。


 日本は資源も、もって生まれた国力もなく、人の努力で世界を生き抜いてきた。技術で製品を世界に売ってきた。イノベーションは、技術、販売、資金の合作であり、時に過度な規制が足を引っ張る。技術からイノベーションへは時間がかかる。そして、それを支えるのは教育だ。他方、日本はこれから人が減る。20世紀で8000万人増えたが、22世紀までに8000万人減って4000万人になる!
日本を支える唯一の「財」、人が質、数とも減る。このままでは日本沈没だ。何とかしなければならない。(全く同感)
しかし、ここで著者は、自分は20年も30年も生きていないから、もう関係ないとニヒってしまう。
 著者はWFPを通じた、後発途上国支援にも熱心だ。昨年ケニアの首都ナイロビへ行った時のことを紹介している。私もその1ヶ月前にケニアへ行き、世界一のスラム、ナイロビのキベラへ行った。昼間で治安は問題ないと思ったが、それでもジープに乗り換え、前後をパトカーで守って行った。怖いというより、ここが人間の住む所か、かわいい子供達も、一週間後に又来た時、無事でいるだろうかと思った。
著者は言う。「日本では、大津波や大地震の時だけ緊急援助とか言って大騒ぎするが、平時から生命や健康の危機に頻している人々の方が余程問題だ」全く同感。
私もキベラやサンパウロのスラム、ウランバートルのスラムを見てつくづく深刻に考えさせられる。北京でも同じような所へ行ったことがあるが、オリンピックということで今は美しい街並みになったらしい。そこに住んでいた人々はどこで、どう暮らしているのだろう。


11章のうち、第2章の中央大学学生達、第5章の国家公務員合同初任研修。この若者向が他の大人向より、圧倒的に迫力がある。著者の若者への悲痛とも言える期待が、ひしひしと感ぜられる。(他章が手を抜いていると言っているわけではない)


本書は中身が有益であるだけでなく、今後私が講演する上で大変参考になる。スピーチの導入時どんなユーモアから入っていくか、いつも悩むが、ある章では「・・・・唐突ではありますが、アメリカの心理学者によりますと、話を聞く時の印象は、だいたい50%がルックス、30%が声、迫力、気力、そして中身は20%という比率になるのだそうです。・・・・・最も、私がいくら良い中身をしゃべっても、聞き手の皆さんがおやすみになると、これは意味のないことですので、そのあたりのこともご斟酌いただきたいと思っています。」
これは使える。いや、もう使っている。近々著者にお会いして、事後承諾を頂かなければならない。
是非、学生諸氏にお勧めしたい本だ。

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