■キャサリン・ハムネットやリリー・コールが協力
「日本のみなさんが今着ているTシャツやジーンズも、フェアトレードやオーガニックのものでなければ、強制労働をさせられている子どもたちが摘んだコットンが混ざっている可能性はかなり高いと思います」と語るのは、環境や人権に配慮した生産や消費を呼びかけているイギリスのNGO「Environmental Justice Foundation(EJF)」のラリッサ・クラークさん。
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キャサリン・ハムネットがEJFのために提供した「SAVE THE FUTURE」Tシャツ。着ているのはモデルのスザンヌ・ディアス。リリー・コールを含め、今回モデルは全員がノーギャラで協力している。現在、EJFのサイトで日本からでも購入できる。収益はEJFの活動資金に充てられる。(photo / Environmental Justice Foundation, Eric Guillemain) 昨年9月のロンドン・ファッション・ウィークを訪れた際、「SAVE THE FUTURE」と大書きされたTシャツを着たリリー・コールのポスターに目を奪われました。そのTシャツをキャサリン・ハムネットとコラボしたのがEJFだったので、今回連絡をとり、ロンドンのおしゃれなエリア、エンジェルにあるオフィスを訪問したのです。
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EJFのラリッサ・クラークさん。1年前まではイビザ島のDJイベントのサイト運営を手がけたりしていたのだとか。「私みたいにもともと環境や国際協力の道を歩いてきていない人がこんな仕事に興味を持って飛び込んだというのが、裾野の広がりを感じさせるでしょ」と笑顔。彼女が着ているのは、ルエラのEJF Tシャツ。
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「KATHARINE E HAMNETT」と真ん中に赤い「E」の文字が入っているのが、キャサリン・ハムネットが3年間の予定で実験的に始めているというEthical(正しい・倫理的な)なブランド。「100%オーガニックコットン、インドで人道的に生産され、イギリスでプリント」と細かく書かれている。このTシャツの売り上げも、一部がEJFの活動に使われる。 その後もEJFでは、クリスチャン・ラクロワ、ルエラ、ベティ・ジャクソンといったクリエーターと、フェアトレード&オーガニックコットンのメッセージTシャツを発売してきています。
「コットンはみんな大好きですよね。でも、コットンのもとになる綿花は、どの農作物よりたっぷり農薬が使われている作物です。そして、最も子どもの強制労働が広く使われている作物でもあるんです」(ラリッサさん)。インド、中国、パキスタンなど綿花生産国のトップ7のうち、なんと6ヶ国までで児童労働が報告されているのだとか。
「世界中でおよそ100万人の子どもたちが、綿花の受粉や農薬の散布、収穫などに駆り出されています。10歳に満たない子どもたちが親の借金のかたに出稼ぎにとられたり、女の子の場合、残念ながらやっぱりレイプ被害などの報告も少なくないんです」
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綿花をひとつひとつ手で収穫する、ウズベキスタンの少年。ときには炎天下、ときには寒い北風の中、一日中腰を曲げて働く子どもたちの賃金は、インドで1日60ルピー(160円)、中国で1キロ1元(15円)、パキスタンで1ヶ月200〜600パキスタン・ルピー(400〜1100円)。国や地域によっては、先祖代々、土地ごと農場主に「所有」されている人々もいて、こういう場合は賃金というもの自体が支払われていないことも多い。(photo / Environmental Justice Foundation) ■年に2万人が、綿花の農薬で命を落としている!
さらに綿花の場合、大量の農薬が悲惨さに拍車をかけている。綿花に使われる農薬でなんと世界で年に2万人の綿花生産者が命を落とし、100万人が入院しているという。もちろんこの中に子どもたちも含まれる。
もうひとつ見逃せないのが、綿花生産には大量の水が必要だということ。「綿棒の頭ひとつ分のコットンを育てるのに、2.5リットルの水が必要だと言われています。あるいはジーンズ1本のために、2000リットル。中央アジアのアラル海が干上がって地図から消えそうだというニュースを耳にしたことのある人は多いと思いますが、この大きな原因がウズベキスタンなどでの綿花の大規模生産なんです」(ラリッサさん)。
■イギリスの小売り最大手TESCOが宣言♪
……聞くほどに、もうコットンなんて買っちゃいけないんじゃないかと気が滅入ってくる。でも、買わなければ買わないで、途上国の生産者の人たちが困ってしまうのでは?
「そう、そこなんです」とラリッサさんの印象的な茶色の瞳が光る。「買っていいんです。でも、選んでほしい。子どもが辛い目に遭っていないコットン、少しでも農薬の少ないコットン、無謀な灌漑で砂漠化や貧困を引き起こしていないコットンを選んでください。現状では、フェアトレードやオーガニックを謳っていないコットン製品は、ほとんどが“不幸せなコットン”を含んでいると思っていいと思います。正しい製品が見当たらなければ、お店やメーカーに、フェアトレードでオーガニックの製品が欲しいと伝えてください。お客様センターに電話をしてもいいし、メールでもOKですよ」。
日本の感覚だと、そんな気の長い消費者運動なんてしてもさー、という気がしてしまう。でもこれはやっぱり企業を変えるいちばんの近道。取材の前日15日、イギリスでの小売最大手のTESCO(テスコ)と高級スーパーのM&S(マークス&スペンサー)が「児童労働がひどいウズベキスタンのコットンを使わないよう、すべての取引先に通達を出した」と発表したのです。TESCOは激安の独自ブランドで、M&Sも質が高いわりにはリーズナブルな価格の独自ブランドでイギリスの衣料品販売の最大勢力だから、この発表の意味はとても大きい。
「聞いたところでは、2社ともやっぱり消費者からの問い合わせが増えてきたことに危機を感じたらしいですよ。数年前に私たちが話を持ちかけたときには、綿製品は大勢の中間業者を経ているから生産者の状況を調べるなんて絶対無理!と突っぱねていたのに、興味を持つ人が増え、メディアが報道し始めるとけっこう早く動くものです。1社が発表するともう1社も慌てて同じ日に宣言するなんて、ちょっと笑えますよね」(ラリッサさん)
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大人から作業の指示を受けるウズベキスタンの少年たち。EJFがコットンのキャンペーンで今注力しているのがこのウズベキスタン。世界6位の生産国で、事実上の独裁政権が外貨獲得の手段として、組織的に子どもたちを綿花の借り入れなどに動員している。政府は否定しているけれど、EJFのコーディネートでジャーナリストが取材を敢行、その様子が英BBCのニュース番組で報道されたことも、今回のTESCOなどのウズベキスタン綿不使用の宣言につながった。(photo / Environmental Justice Foundation) ■500円のTシャツを買う前に、考えてみて
はてさて、お決まりですが振り返ってわれらが日本。フェアトレード先進国のイギリスに比べると、勢いはちょっと見劣りしてしまうのが正直なところだけれど、私たち消費者が欲しいものを欲しいと声を上げ始めれば、意外に早く変わり始めるのではないかという気はします。現に、今ここで書いてしまうのは控えますが、某百貨店がこの春にフェアトレードファッションのイベントを計画しているとか。これは楽しみ。もちろん、cafeglobeのセレクトカフェでも、ピープルツリーの扱いを始めています。
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フェアトレード・ファッションPeople Treeのオーガニック・コットンを使ったヨガウエアシリーズ。農薬に痛めつけられていないオーガニック・コットンはとてもやわらか。ぜひ試してみて。 たしかに、フェアトレードでオーガニックの製品は、少し値段が高いことが多いものです。でも、そもそも子どもたちが労働に駆り出されるのは、子どもの賃金が安い(あるいは子どもなら払わずに済む)から。500円のTシャツ、980円のカットソーなどを喜んで買う私たちが、発展途上国の子どもたちを学校や家庭から追い出して畑に追い込んでいるとも言えるのです。きちんとした生活のできる賃金を大人の農業労働者に払える値段で、農薬を乱用せず丁寧な農業ができる値段でコットンを買って、素敵な製品を作ってほしい、そうしたらもっとあなたのお店で買いますよ!という声を上げてみませんか。
文・写真/青木陽子(cafeglobe)
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