“一芸アイドル”花盛り　「鉄」「歴史」「ブス」まで

写真拡大

アイドルファン向けイベントに集まった「霊感アイドル」疋田紗也（前列右）、「イラドル」山下若菜（後列右端）ら一芸アイドル＝９月１９日、東京・麻布十番ＶＡスタジオ

　歴史に明るい「歴ドル」に鉄道好きの「鉄ドル」、さらには人をいらいらさせる「イラドル」、ブスなアイドル「ブスドル」と、風変わりなアイドルが花盛りだ。独特の個性で勝負し、ライバルとの差別化を図る「一芸アイドル」はなぜ増え続けているのか。（村上智博）

　◆「カワイイだけでは…」

　最近の歴史ブームに乗って一気にブレークしたのは「歴ドル」の美甘子（みかこ）（２５）。幕末に生きた坂本龍馬ら志士が、身元が割れないように使った変名や辞世の句をそらんじているほど歴史に詳しい。テレビのクイズ番組などでおなじみだ。「好きな歴史にいつも触れながら仕事ができるのは幸せ。アイドルといわれるのはちょっとくすぐったいが、結婚して子供ができるまでは頑張っていきたい」と抱負を口にする。

　ほかにも、幼少時に入院したときの臨死体験で霊感を身につけた「スピリチュアルアイドル」の疋田紗也（さや）、落語家の桂歌春を父に持ち、自身も高座に上がる「落（らく）ドル」田代沙織もよく知られるところだ。

　さらに、株式の運用などに詳しい「株ドル」の名波はるか、コンバインの運転が得意な「農ドル」の田中冴花、ＯＬを突然辞めて釣り糸を垂れるようになった「釣りドル」のふくだあかり、生粋のお嬢様のセレブアイドル「セレドル」の安藤成子（せいこ）、マグロの解体が得意な「魚ドル」の安西真実と、一芸アイドルは枚挙にいとまがない。

　◆言った者勝ち

　ある一芸アイドルを抱える芸能事務所の幹部は「今のアイドルはスタイルがいいとかカワイイというだけでは務まらない。テレビ番組は枠があり、○○ドルとしてでも売り出さないと、視聴者にはすぐに飽きられてしまう」と指摘する。

　一芸アイドルには、単なる趣味の延長のような肩書もあるが、そのような現状をアイドル評論家の中森明夫さんは「言った者勝ちになっている」と分析する。

　かつてアイドルは、「カリスマ性」を内包したあこがれの対象でもあった。だが中森さんによると、１９９０年代に入って、「水着を人前で着られたらアイドル」となるなどカリスマ性が薄らぎ、一般女性との垣根も低くなっている。

　さらにここにきてインターネットが普及し、誰もが動画投稿サイトやブログを通じ、自由に自分を発信できる時代になった。

　中森さんは「一昔前はアイドルがイベントの告知を一つするのも大変だった。だが今はブログで、『きょう私アイドルになります』とプロフィルを掲載すれば即、アイドルになれる。初音ミクといったバーチャルアイドルまで生まれた。無限の広がりを持つネットがメディアの主役になっている以上、一芸アイドルも際限なく増えるのは仕方のないことです」と話す。

　芸能界のウラ事情に詳しい出版プロデューサー、高須基仁さんは「ブログに見られるように、最近の若い女性の間では『もっと私を見て見て』という欲求が膨れ上がり、手軽にアイドルになりたいと願うケースが増えている。だが流行に乗っかるだけで、実は勝負するものがないアイドルは多い。たとえ一芸アイドルとしては売れなくとも、映画などに進んで挑戦するような“本物”のアイドルがもっと生まれてきてほしい」と期待を口にした。