きょうの社説 2009年10月5日

◎学生の合宿誘致 知恵を絞ればまだ伸びる
 石川、富山県内で学生の合宿誘致に乗り出す自治体が増え、成果を挙げている。七尾市 では宿泊費助成事業の今年度利用者は延べ1万人近くに達する見通しで、石川県では高校のサッカー合宿に限っても今年の延べ宿泊者数は8月末時点で1万3千人を超えた。学生の合宿はスポーツ、文化活動を含め、交流人口拡大が期待できる有望な分野といえる。

 宿泊費助成は石川で5市町、富山は5市が設け、両県は全国的にも合宿誘致が活発な地 域だが、同様の取り組みを始める自治体は各地で増え、地域間の綱引きも一段と激しくなろう。官民一体で誘致戦略に知恵を絞り、他の地域にはない魅力を打ち出していきたい。

 七尾市では2006年度に合宿の宿泊費助成制度を創設し、1年目は延べ140人だっ た利用者を2年目は延べ2200人、3年目は延べ5500人と順調に伸ばしてきた。市内には和倉温泉など宿泊施設に加え、合併前の旧1市3町ごとに体育館や武道館、グラウンドなどが整っている。担当者が全国の大学などを訪れ、合宿環境を積極的に売り込んだことが功を奏したようだ。学生の合宿は夏休みを中心に活発に行われており、まだまだ開拓の余地はある。

 七尾市では今年の箱根駅伝で完全優勝を果たした東洋大陸上競技部も6年前から合宿し ている。市内の児童生徒と合同練習も行っており、トップアスリートとの交流は地元選手の大きな刺激になる。トップチームを招くことは合宿地としての知名度を高める効果も期待できるだろう。

 富山県は今年度から県としても宿泊費助成を始め、4月からの3カ月で1300人を誘 致した。申請が急増し、予算を倍増する措置を取ったという。関大アメフト部120人が富山市で合宿するなど有名チームでは宿泊規模も大きくなるのが合宿誘致の利点である。

 一方、新潟県佐渡市では能舞台が30以上ある土地柄を生かし、能サークルや能を研究 するゼミの誘致に成功している。文化系ではこのように研究テーマに応じてフィールドワークの適地としての売り込みも考えられる。住民との交流事業やもてなしの工夫を含め、地域ぐるみで知恵を出し合いたい。

◎補正予算見直し 凍結だけなら景気冷やす
 鳩山由紀夫首相が指示した今年度補正予算の削減額が目標とされる3兆円に届かず、政 府は集計結果の公表を見送り、一層の上積みを目指すことになった。今週中にも報告がまとまる見通しだが、目標額にこだわり過ぎて執行停止の事業を広げれば、補正予算の景気対策としての目的まで損なわれる恐れがある。

 麻生政権が成立させた総額14兆7千億円の補正予算は、不況で失われた需要を補い、 景気を刺激するため、規模を膨らませる編成となった。各省庁が性急に検討を進めた結果、不要不急の事業も紛れ込んだとみられる。だが、いずれ必要になる事業を前倒しし、大型の財政出動で需要を生み出すという狙いは間違っていなかったはずだ。エコポイント制度やエコカー減税、定額給付金などは景気悪化に歯止めをかける一定の役割があった。

 事業を見直す余地は確かにあるのだろうが、景気の足取りがおぼつかない今の経済状況 を考えれば、凍結や中止だけでは景気にマイナスの影響が及ぶ恐れはあっても決してプラスにはならない。景気の「二番底」に陥らないための追加景気対策は選択肢として考えておく必要がある。

 子ども手当や揮発油税の暫定税率廃止などの新政策実現のため、来年度は7兆1千億円 の財源が必要になる。鳩山内閣は補正予算の見直しで3兆円程度の捻出を見込んでいた。報告期限の2日時点で総額2兆円程度にとどまることが分かり、各省庁のバラバラな削減基準を統一し、さらに見直しを進めることになった。

 鳩山内閣が初めて手掛ける予算の切り込みであり、「政治主導」を印象づけるために意 気込むのは分かるとしても、行政刷新会議などの陣容も整わないまま、予算をひっくり返しても厳密な検証には限界がある。すでに地方自治体分で執行済みの事業も多く、ある程度のところで見極めをつけるのが現実的な対応ではないか。経済界でささやかれる「鳩山不況」の懸念を払拭するためにも、足元の景気動向には細心の注意を払ってほしい。