根岸吉太郎監督の受賞を喜ぶフジテレビの皮算用

「おくりびと」に続け――。第３３回モントリオール世界映画祭で、最優秀監督賞を受賞した映画「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」（根岸吉太郎監督）が盛り上がっている。

　同作は生誕１００年を迎えた太宰治の同名小説を映画化したもの。戦後の混乱期に放蕩の限りを尽くした小説家の夫（浅野忠信）と、そんな夫を理解して気丈に支える妻（松たか子）の愛を描いている。

　根岸監督は、「個人賞ですが、日本映画全体の名誉だと思ってます」と大喜び。昨年の米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した「おくりびと」も同映画祭のグランプリを受賞しているだけに、なおさらうれしいだろう。

　もっとも、根岸監督以上に大喜びしているのは「ヴィヨン」を製作したフジテレビだという。

　これまでのフジの映画はエンターテインメント色が強く、ヒットさせた映画はドラマの延長というパターンが多かった。そのため、どうしても映画賞を狙うことが難しかった。

「そんなフジを尻目に、ＴＢＳが製作した文芸路線の『おくりびと』が各映画賞を総ナメにし、興収６０億円超の大ヒットを記録しました。フジは国際的な映画賞で評価されることの“パワー”を痛感し、名と実の両取りを目指して路線を変更しているんです。そういう中で文芸作品の『ヴィヨン』が国際映画賞を受賞した。この成功が今後の映画戦略に大きく影響してくるのは確実。してやったりでしょう」（映画関係者）

　この路線の先がけになったのは君塚良一監督の「誰も守ってくれない」だ。この作品もフジの製作で昨年のモントリオール世界映画祭で最優秀脚本賞を受賞。「誰も――」を来年の米アカデミー賞の外国語映画賞に出品する。これがアカデミー賞を受賞し、さらに「ヴィヨン」が続くような事態になれば万々歳。

　テレビ局の映画ビジネスは新たな局面を迎えている。

（日刊ゲンダイ2009年9月12日掲載）