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そんな展開・・・(爆) (22) by.柚子色
「はぁ・・・鬱だ・・・。」
ため息をついてもどうにも事態は変化しないことは分かっている。分かっているんだが・・・。
「はぁ・・・」
これがため息をつかずにいられるか。
「学校、行きたくねぇなぁ・・・」
不登校のようなことを言ってるが、何も規則に縛られるのはゴメンだ!なんてことを思っているわけではない。・・・もちろん、これには理由がある。
このド三流小説を見てくれた奇特な・・・もとい、好奇心旺盛な方はお分かりいただけると思うが、俺は何故か女になった・・・何を言ってるんだこの変な奴はと思われるかもしれないが、俺は正真正銘ついこの間まで生物学的にも男だったのだ。
俺はそのことを親友2人と家族意外には隠してきたのだが、休みにプールへ行ったときにクラスメイトの管野晶という変態に俺が女であることがばれてしまったのだ・・・。
正直、足が重い。
「むぅ・・・もう学校に着いてしまった・・・。」
しかもいつもより早い。
「あ〜頭が痛い・・・」
「大丈夫か?」
「うぇ!?」
突然後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはカズが居た。
「おはよう。プールで風邪ひいたか?」
「・・・おはよ。大丈夫・・・じゃないかも」
もちろん違う意味で。
「うっ・・・」
教室へ入るとこもった固まりのような暑い空気にぶつかった。
窓を全開にしているのだが、今日は風が無く、人数の多い教室内は最悪といっても良いコンディションだった。
「・・・これでもまだ夏本番って訳じゃないもんな」
カズは額に汗を浮かべてさっさと席へいってしまった。
「・・・・。」
俺は何となく管野 晶の姿を探す。
どうやらまだ来ていないようだ。
「どうすべきか・・・」
「何がだ?」
ふと考えるとそれが口に出てしまったらしい。
後ろには亮介が立っていた。
「あ、おはよ」
「ああ・・・」
挨拶をすますと亮介もカズと同様。だらけて机へと突っ伏した。
「確かに今日は暑いな。」
気温は昼頃には30度にまで達するという。初夏や梅雨の気温じゃないだろー!と心の中で叫んでみる。
そうこうしてても暑さは和らいではくれないので俺は席へ行って2人とともに机へと突っ伏した。
・・・その瞬間教師が入ってきてすぐに現実へと引き戻されたわけだが・・・。
「すんません!まだ遅れてませんよねぇ!?」
誰だよこの暑い中うるせぇなぁ・・・と30人ほどににらまれながら教室へと飛び込んできたのは管野だった。
「管野。さっさと席に着け。」
担任がそう言うと管野は席に行く途中チラッと俺の方を見た。
「―――っ?」
「w」
管野はニヤッと笑うと席に着いた。
「た〜け〜るっ!」
「ひょわっ!?」
休憩時間に席で溶けていたら後ろからガバッと抱きつかれた。
あわてて振り解くとそこには管野 晶がいた。
「・・・・・・・・何でしょう?管野君。」
「そんな他人行儀な〜。アキラでいいよ(は〜と」
「何が(は〜と、だ。キモい!むしろキショい!」
そう言うとさらにニヤニヤしながら抱きついてくる。
「くっつくな!暑苦しい!キショい!」
「ひどいなぁ〜。タケルには友情というモノはないのかい?」
そう言ってやれやれと首を振りため息をつく。
そんなこと言ってもなぁ。お前と友情を育んだ覚えが無いのだが。
「おい」
気がつくとカズと亮介が晶の後ろに立っていた。
お〜・・・とても表現出来ないような顔をされていらっしゃる。
「ちょいと顔貸せや。」
「・・・(汗」
そのまま二人にずるずるとどこかへ連れ去られていった。
「・・・」
少し不安だな。ついて行ってみよう。
俺は晶がとてもとても心配なので、慌てず、走らず、廊下をきちんと歩いて追いかけた。
<つづく>
ため息をついてもどうにも事態は変化しないことは分かっている。分かっているんだが・・・。
「はぁ・・・」
これがため息をつかずにいられるか。
「学校、行きたくねぇなぁ・・・」
不登校のようなことを言ってるが、何も規則に縛られるのはゴメンだ!なんてことを思っているわけではない。・・・もちろん、これには理由がある。
このド三流小説を見てくれた奇特な・・・もとい、好奇心旺盛な方はお分かりいただけると思うが、俺は何故か女になった・・・何を言ってるんだこの変な奴はと思われるかもしれないが、俺は正真正銘ついこの間まで生物学的にも男だったのだ。
俺はそのことを親友2人と家族意外には隠してきたのだが、休みにプールへ行ったときにクラスメイトの管野晶という変態に俺が女であることがばれてしまったのだ・・・。
正直、足が重い。
「むぅ・・・もう学校に着いてしまった・・・。」
しかもいつもより早い。
「あ〜頭が痛い・・・」
「大丈夫か?」
「うぇ!?」
突然後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはカズが居た。
「おはよう。プールで風邪ひいたか?」
「・・・おはよ。大丈夫・・・じゃないかも」
もちろん違う意味で。
「うっ・・・」
教室へ入るとこもった固まりのような暑い空気にぶつかった。
窓を全開にしているのだが、今日は風が無く、人数の多い教室内は最悪といっても良いコンディションだった。
「・・・これでもまだ夏本番って訳じゃないもんな」
カズは額に汗を浮かべてさっさと席へいってしまった。
「・・・・。」
俺は何となく管野 晶の姿を探す。
どうやらまだ来ていないようだ。
「どうすべきか・・・」
「何がだ?」
ふと考えるとそれが口に出てしまったらしい。
後ろには亮介が立っていた。
「あ、おはよ」
「ああ・・・」
挨拶をすますと亮介もカズと同様。だらけて机へと突っ伏した。
「確かに今日は暑いな。」
気温は昼頃には30度にまで達するという。初夏や梅雨の気温じゃないだろー!と心の中で叫んでみる。
そうこうしてても暑さは和らいではくれないので俺は席へ行って2人とともに机へと突っ伏した。
・・・その瞬間教師が入ってきてすぐに現実へと引き戻されたわけだが・・・。
「すんません!まだ遅れてませんよねぇ!?」
誰だよこの暑い中うるせぇなぁ・・・と30人ほどににらまれながら教室へと飛び込んできたのは管野だった。
「管野。さっさと席に着け。」
担任がそう言うと管野は席に行く途中チラッと俺の方を見た。
「―――っ?」
「w」
管野はニヤッと笑うと席に着いた。
「た〜け〜るっ!」
「ひょわっ!?」
休憩時間に席で溶けていたら後ろからガバッと抱きつかれた。
あわてて振り解くとそこには管野 晶がいた。
「・・・・・・・・何でしょう?管野君。」
「そんな他人行儀な〜。アキラでいいよ(は〜と」
「何が(は〜と、だ。キモい!むしろキショい!」
そう言うとさらにニヤニヤしながら抱きついてくる。
「くっつくな!暑苦しい!キショい!」
「ひどいなぁ〜。タケルには友情というモノはないのかい?」
そう言ってやれやれと首を振りため息をつく。
そんなこと言ってもなぁ。お前と友情を育んだ覚えが無いのだが。
「おい」
気がつくとカズと亮介が晶の後ろに立っていた。
お〜・・・とても表現出来ないような顔をされていらっしゃる。
「ちょいと顔貸せや。」
「・・・(汗」
そのまま二人にずるずるとどこかへ連れ去られていった。
「・・・」
少し不安だな。ついて行ってみよう。
俺は晶がとてもとても心配なので、慌てず、走らず、廊下をきちんと歩いて追いかけた。
<つづく>
投稿TS小説第142番 そんな展開・・・(笑)(1) by.柚子色
掲示板の方に投稿されてます♪
絵師:白弥
「タケル!!」
見たことある顔、無精ひげが中途半端なうちの親父・・・。
「ったく・・・何だよ。」
「うむ実はな!」
急に深刻な顔をされるとこっちが怖い。
「な、何だよ。」
「・・・」
「だからなんだ!」
「お前の大事にしてたプラモ・・・こわしちった(エヘ)」
プチ・・・
「こぉんのぉ〜!!糞親父がぁぁぁ!!!」
「親に向かってく・・」
「てめ〜なんざ糞でじゅうぶんじゃ〜!!!」
と、いうわけで近場のプラモ店にパテを買いに来たわけだが、
「なんでつぶれてんの?」
そこには模型店の面影はすでになかった。
仕方がないので俺は隣町の模型店まで行くことにしたのだが・・・
「やばい・・ここどこ?」
はい、案の定。
「ハイそこ、うるさいよ。って、誰にいってんの?俺、・・・まずいな、雨が降ってきた。」
まだ少しだが雨がぱらついてきた。これは本降りになりそうだ。
「そういえば、この近くに社があったな。」
ここに来る途中に見つけた小さな社をおれは思い出した。
あそこならいいかもしれない。そう思って俺は自転車をこいで行った。
ザー・・・・
「ああ・・すげーふってる。」
どうにかこうにか社までたどり着いたが、この雨はやんでくれそうになかった。
ん・・・。あれ、俺寝てたみたいだな・・。あ、晴れてる。模型店はまたこんどでいっか。
「さぁ〜て・・・と?」
何かいつもより目線が低い俺は170弱はあるはずなんだが。声も高かったな。変声期がまだでもここまで高いはずは。
!!!
「なっ・・・!!」
こっこれはお・・・ぱい。なんで?どうして・・・お、俺の息子が・・ない。
下半身の違和感を感じた俺は触ってみるといつもそこにあるはずのものがなかった。
「・・・こんな・・ばかなこと・・」
俺は生きている心地がしなかった。小さな社から空を見上げると、もう日が沈みかけて空を赤く染めていた
これからどうしよう。こんなんで家に帰ってどう説明すればいいんだよ・・・。
そんなことを思っていたとき、
「あれ?タケル?」
「え?」
そこにはいつも見てきた顔があった。
40代にしてはあまりにも幼い顔立ちのお袋だった。
よく俺は母親似だといわれる。
「あれ?女の子?・・でもあの自転車とその服は・・」
どうやら町の方から帰る途中、とめてあった自転車に気付いて車から降りてきたらしい。
「俺だよ!タケルだよ!」
「え・・?顔は似てるけどタケルは男の子のはず・・・」
とりあえず俺はここまでの経緯をお袋に話した。
「・・・信じられない・・よな。」
そういった俺を微笑みながらお袋は
「・・・大丈夫。自分の子供くらい、なんとなくわかるわよ。」
そういわれると、不覚にも・・。なんだか目頭が熱くなってきた。
「その格好じゃあ風邪をひいちゃうわね、ナツキの服をちょうど買ってたから着替えちゃいなさい。」
お袋はそう言うと車の後部座席から新品の白のワンピースを取ってきて渡した。
「・・・」
俺はあまり泣き顔を見られたくなかったのでさっさと服を取って車に向かった。
「・・・キ・・・」
俺が車に入るとき、母が何かをそっと呟いた気がした
「ぐすっ・・・」
「ほら・・もう泣かないの。家に着くわよ。」
お袋はともかく、親父には泣いているところは見せたくなかった。
そう思うとなんだか自然と涙が止まった。
車は見慣れない景色から見慣れた景色へと移り変わっていった。
「あれ?」
俺はふと外に目をやると、夕闇の中小さな少女を目にした。あたりはもう暗いはずなのに、その少女の周りだけやけに明るかったのだ。それは、白いふちの長い帽子に、白いワンピースそれは、まるで物語の中から出てきたようだった。
家に着くと親父が玄関先で待っていた。
「タケル!無事だったか!」
むにゅ・・・
「・・・」
「・・・」
親父が俺を抱きしめた。
「・・・タケルよ・・パパはこんな風に育てた覚えはないぞ。」
めったにみない真剣なまなざし。
「俺だってこんな風に育った覚えなんざねぇ。」
「ママ。なんでタケルはこんなんになったのだ?」
親父がお袋に聞く。
「え〜と、ガンプラ・・・」
ブチ!!!
俺の何かが切れた。
「・・・親父よ」
「なんだ娘よ。」
「てめーのせいでこうなったんじゃねぇぇかぁぁ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」フェードアウト→
つづきはこちら
20070621初出
キャラ設定ラスト追加 20080717
挿絵追加20090702
ちょっぴり修正20090710
絵師:白弥
「タケル!!」
見たことある顔、無精ひげが中途半端なうちの親父・・・。
「ったく・・・何だよ。」
「うむ実はな!」
急に深刻な顔をされるとこっちが怖い。
「な、何だよ。」
「・・・」
「だからなんだ!」
「お前の大事にしてたプラモ・・・こわしちった(エヘ)」
プチ・・・
「こぉんのぉ〜!!糞親父がぁぁぁ!!!」
「親に向かってく・・」
「てめ〜なんざ糞でじゅうぶんじゃ〜!!!」
と、いうわけで近場のプラモ店にパテを買いに来たわけだが、
「なんでつぶれてんの?」
そこには模型店の面影はすでになかった。
仕方がないので俺は隣町の模型店まで行くことにしたのだが・・・
「やばい・・ここどこ?」
はい、案の定。
「ハイそこ、うるさいよ。って、誰にいってんの?俺、・・・まずいな、雨が降ってきた。」
まだ少しだが雨がぱらついてきた。これは本降りになりそうだ。
「そういえば、この近くに社があったな。」
ここに来る途中に見つけた小さな社をおれは思い出した。
あそこならいいかもしれない。そう思って俺は自転車をこいで行った。
ザー・・・・
「ああ・・すげーふってる。」
どうにかこうにか社までたどり着いたが、この雨はやんでくれそうになかった。
ん・・・。あれ、俺寝てたみたいだな・・。あ、晴れてる。模型店はまたこんどでいっか。
「さぁ〜て・・・と?」
何かいつもより目線が低い俺は170弱はあるはずなんだが。声も高かったな。変声期がまだでもここまで高いはずは。
!!!
「なっ・・・!!」
こっこれはお・・・ぱい。なんで?どうして・・・お、俺の息子が・・ない。
下半身の違和感を感じた俺は触ってみるといつもそこにあるはずのものがなかった。
「・・・こんな・・ばかなこと・・」
俺は生きている心地がしなかった。小さな社から空を見上げると、もう日が沈みかけて空を赤く染めていた
これからどうしよう。こんなんで家に帰ってどう説明すればいいんだよ・・・。
そんなことを思っていたとき、
「あれ?タケル?」
「え?」
そこにはいつも見てきた顔があった。
40代にしてはあまりにも幼い顔立ちのお袋だった。
よく俺は母親似だといわれる。
「あれ?女の子?・・でもあの自転車とその服は・・」
どうやら町の方から帰る途中、とめてあった自転車に気付いて車から降りてきたらしい。
「俺だよ!タケルだよ!」
「え・・?顔は似てるけどタケルは男の子のはず・・・」
とりあえず俺はここまでの経緯をお袋に話した。
「・・・信じられない・・よな。」
そういった俺を微笑みながらお袋は
「・・・大丈夫。自分の子供くらい、なんとなくわかるわよ。」
そういわれると、不覚にも・・。なんだか目頭が熱くなってきた。
「その格好じゃあ風邪をひいちゃうわね、ナツキの服をちょうど買ってたから着替えちゃいなさい。」
お袋はそう言うと車の後部座席から新品の白のワンピースを取ってきて渡した。
「・・・」
俺はあまり泣き顔を見られたくなかったのでさっさと服を取って車に向かった。
「・・・キ・・・」
俺が車に入るとき、母が何かをそっと呟いた気がした
「ぐすっ・・・」
「ほら・・もう泣かないの。家に着くわよ。」
お袋はともかく、親父には泣いているところは見せたくなかった。
そう思うとなんだか自然と涙が止まった。
車は見慣れない景色から見慣れた景色へと移り変わっていった。
「あれ?」
俺はふと外に目をやると、夕闇の中小さな少女を目にした。あたりはもう暗いはずなのに、その少女の周りだけやけに明るかったのだ。それは、白いふちの長い帽子に、白いワンピースそれは、まるで物語の中から出てきたようだった。
家に着くと親父が玄関先で待っていた。
「タケル!無事だったか!」
むにゅ・・・
「・・・」
「・・・」
親父が俺を抱きしめた。
「・・・タケルよ・・パパはこんな風に育てた覚えはないぞ。」
めったにみない真剣なまなざし。
「俺だってこんな風に育った覚えなんざねぇ。」
「ママ。なんでタケルはこんなんになったのだ?」
親父がお袋に聞く。
「え〜と、ガンプラ・・・」
ブチ!!!
俺の何かが切れた。
「・・・親父よ」
「なんだ娘よ。」
「てめーのせいでこうなったんじゃねぇぇかぁぁ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」フェードアウト→
つづきはこちら
20070621初出
キャラ設定ラスト追加 20080717
挿絵追加20090702
ちょっぴり修正20090710
投稿TS小説第142番 そんな展開・・・(笑)(19) by.柚子色
第一話はこちら
「なにして遊ぶ〜!?」
「・・・」
ハイテンションな片山さんはプールサイドを走り回っていた。こらこら、プールサイドで走っちゃいけませんよって小学校で習ったでしょう?
一方上川さんはどこから出したのかウサギの描かれた浮き輪を持っていた。
「なぁタケル。」
「ん?何?カズ。」
「パーカー着てると入れないぞ。」
ごおおおおおおおおん!
今ものすごい勢いでハンマーで殴られた。いやねぇよとか突っ込まないで。
「・・・お前なぁ。少しは考えろよ・・・」
「え?」
「・・・んなもん、太ったからにきまってんだろ!!」
ずごおおおおおおおおおん!
今絶対地雷踏んだ!いや、突っ込まなくてもわかってるから。もうグダグダしてるってわかってるからっ!
「そ、そうだったのか・・・。ごめんなタケル・・・。」
そんな哀れむような目で見なくても。
『グッ!』
いや、亮介。フォローしてくれるのはありがたいんだけど、もうちょっと言い様ってものが。あと親指たてるな。
そういえば亮介もいらないところで馬鹿だった。わざとじゃないよな?
「え〜!?そんなに太ってないよ〜。羨ましいくらい!」
片山さんがプールの中から言う。
「・・・・」
上川さんは流れるプールを逆走(?)していた。
あれだ。水鳥みたいに足だけ凄くがんばってるみたいな?
「浮き輪いるのかなぁ?」
時刻は12時を回ってすこし。
「そろそろ腹へったな〜。俺なんか買ってくるよ。」
カズはそういうと財布を取り出す。
「何が良い?」
「じゃあ私焼きそば!紅ショウガなしで!」
片山さんが真っ先に手を挙げて言う。なんか遠慮というものがない人だ・・・
「じゃあ僕、塩ラーメンで。」
「んじゃ俺は・・・あ、金ねぇや。」
亮介は財布を振ってみせる。
「じゃあ僕が貸しといてあげるよ。」
「そうか、すまないな。じゃあ俺も塩ラーメンで。」
亮介の分までカズに渡す。
「上山さんは?」
「・・・・」
少し考えた後。
「・・・ビビンバ」
「え?・・・あ、あるの?」
メニューを見直す。
「あるし・・・しかも石焼き・・・」
「あれ?カズじゃん。」
「え?あ、晶?」
「!?」
亮介がいち早く反応する。
「お前らきてたんだなぁ〜w」
「お、お前こそどうして此処に?」
「亮介じゃんwどうしたんだよ〜。あわてることないじゃん!・・・あ、もしかしてデート?合コン?そっちの女の子たちでしょ?」
管野くんがこっちを見る。あ、目があった。
「あ〜タケルもいるから3:2じゃん。合コンでもデートでもないじゃん。」
あれ?気づかれた?3:2って・・・ああそうか、俺がどっち言っても3:2じゃん。
「知り合い?」
片山さんが聞く
「うん。クラスメート。」
「じゃあ良いじゃん!」
がばっと立ち上がった。なんかいやな予感・・・。
「合コンしよう!ちょうど3:3になったし!」
「え?3:3?」
な、何言ってくれちゃってんの〜〜〜!?
イラスト.白弥
<つづく>
初出20081114
イラスト追加20090715
「なにして遊ぶ〜!?」
「・・・」
ハイテンションな片山さんはプールサイドを走り回っていた。こらこら、プールサイドで走っちゃいけませんよって小学校で習ったでしょう?
一方上川さんはどこから出したのかウサギの描かれた浮き輪を持っていた。
「なぁタケル。」
「ん?何?カズ。」
「パーカー着てると入れないぞ。」
ごおおおおおおおおん!
今ものすごい勢いでハンマーで殴られた。いやねぇよとか突っ込まないで。
「・・・お前なぁ。少しは考えろよ・・・」
「え?」
「・・・んなもん、太ったからにきまってんだろ!!」
ずごおおおおおおおおおん!
今絶対地雷踏んだ!いや、突っ込まなくてもわかってるから。もうグダグダしてるってわかってるからっ!
「そ、そうだったのか・・・。ごめんなタケル・・・。」
そんな哀れむような目で見なくても。
『グッ!』
いや、亮介。フォローしてくれるのはありがたいんだけど、もうちょっと言い様ってものが。あと親指たてるな。
そういえば亮介もいらないところで馬鹿だった。わざとじゃないよな?
「え〜!?そんなに太ってないよ〜。羨ましいくらい!」
片山さんがプールの中から言う。
「・・・・」
上川さんは流れるプールを逆走(?)していた。
あれだ。水鳥みたいに足だけ凄くがんばってるみたいな?
「浮き輪いるのかなぁ?」
時刻は12時を回ってすこし。
「そろそろ腹へったな〜。俺なんか買ってくるよ。」
カズはそういうと財布を取り出す。
「何が良い?」
「じゃあ私焼きそば!紅ショウガなしで!」
片山さんが真っ先に手を挙げて言う。なんか遠慮というものがない人だ・・・
「じゃあ僕、塩ラーメンで。」
「んじゃ俺は・・・あ、金ねぇや。」
亮介は財布を振ってみせる。
「じゃあ僕が貸しといてあげるよ。」
「そうか、すまないな。じゃあ俺も塩ラーメンで。」
亮介の分までカズに渡す。
「上山さんは?」
「・・・・」
少し考えた後。
「・・・ビビンバ」
「え?・・・あ、あるの?」
メニューを見直す。
「あるし・・・しかも石焼き・・・」
「あれ?カズじゃん。」
「え?あ、晶?」
「!?」
亮介がいち早く反応する。
「お前らきてたんだなぁ〜w」
「お、お前こそどうして此処に?」
「亮介じゃんwどうしたんだよ〜。あわてることないじゃん!・・・あ、もしかしてデート?合コン?そっちの女の子たちでしょ?」
管野くんがこっちを見る。あ、目があった。
「あ〜タケルもいるから3:2じゃん。合コンでもデートでもないじゃん。」
あれ?気づかれた?3:2って・・・ああそうか、俺がどっち言っても3:2じゃん。
「知り合い?」
片山さんが聞く
「うん。クラスメート。」
「じゃあ良いじゃん!」
がばっと立ち上がった。なんかいやな予感・・・。
「合コンしよう!ちょうど3:3になったし!」
「え?3:3?」
な、何言ってくれちゃってんの〜〜〜!?
イラスト.白弥
<つづく>
初出20081114
イラスト追加20090715
投稿入れ替わり小説 『僕だった彼女』 <後> by.りゅうのみや
「元に戻れそうにないわね」
「そうだな」
「だったら今の状況を楽しまなきゃ!」
「どうやって?」
「決まっているでしょ、デートよ♪」
「デデデデ、デート!?」
「そう、デートよ。せっかく目の前にこんなに可愛い女性がいて、
何もしないなんて勿体無いわよ」
それはあくまでも龍一の立場から見て、
自分の美貌にうっとりするナルシスト的な要素が
あるのなら分からなくもないが、僕の方から見れば、
自分の顔にどうやって心ときめかせろというのだ!
「何、文句あるの? 元はといえばあんたがぶつかりさえしなければ……」
「わかった、わかったから行けばいいんだろ、行けば!」
どうも彼女には敵わない。
どうしてあの男はこんな凶暴娘を好きになったのだろう?
……マゾ?
「電車に乗るのも久しぶりねー、
小さい頃はよく座席を反対に座って景色を楽しんだわ。
それで靴を脱ぐのを忘れていたから、
いつも知らないおじさんのスラックスを汚していたわ」
「小さいから仕方がないとそのおじさんに同情すべきか、
それともその頃から凶暴な片鱗が見え隠れしたと考察すべきか……」
龍一の希望で二駅離れた遊園地に行くことにした。
彼女はあまり電車に乗る機会がないためか、
えらく上機嫌だが、僕にとってみれば通学の時に利用するので、
取り立ててテンションが上がるものではなかった。
むしろ通勤ラッシュと重なるため、苦い思い出しかないのだが……
しかし……
遊園地は僕が計画として練っていたデートコースでもあった。
それを目の前に映る『僕』のために巡るとは……
「どうしたの? 溜息何かついちゃって」
「いや……、好きな人と今から行くところに誘おうとしただけに、
胸が締め付けられて……」
そう言うなり龍一は頬を膨らませて不機嫌になった。
「何よ、目の前にこんなに可愛い人がいるじゃない!
この私がいるって言うのに、少しは楽しんだらどう!?」
その発言に思わず龍一の手を掴んで、前の車両に移った。
まったく、誤解を生みかねない発言で、ますます僕に戻れないじゃないか。
わざとそうしている感じではないので、他人に対する配慮に欠けるのだろう。
「あ、着いたわよ」
電車が停車してドアが開くなり、降りるとすぐに
『一番乗り―☆』と言いながらポーズを決めた。
まったく、子供というかなんというか……
歩いてすぐの所に遊園地がある。
珍しいことに入場料は各々が払うことになった。
それほど大きくはない遊園地だが、それなりにアトラクションが揃っている。
「ねぇ、まずは鏡の迷路に行ってみましょ!」
「そ、それで楽しむのって小学生とその親じゃないの?」
「いいでしょ、乙女は常に夢を見るのよ」
その顔で乙女心云々を語るのは説得力に欠けるが、
彼女の言う通りにした。
中に入ってみると壁一面が鏡になっていて、
そのために今のこの姿をあらゆる角度で見ることができる。
「こ、これが僕だというの……」
とても不思議な感覚だった。
確かに体だけは女だが、ここにいるだけで心まで女になりそうな気がする。
「あれー、加奈どうしたの? 鏡に映る自分の姿なんか見ちゃって」
「い、いや……その、可愛いなあって………」
何を言っているのだ、男なのに自分のことを可愛いだなんて!
確かに可愛いけど、それを認めてしまうなんて!
認めることで元に戻れなくなってしまう……
それは何よりも恐れていることであり、また甘美な響きでもある。
違う、違う! 女になりたくないのにぃ、なりたくなんかないのにぃ……
どうして……、自分の魅力を認めてしまったら、
元に戻りたいという意思が弱まってしまう……
「やっと認めたのね。そう、あなたはこんなに可愛い。
可愛いのだから自分に恋をしちゃってもいい。
いいのよ、自分に恋しちゃっても。
だってあんたの性格、悔しいけど私より女っぽいのだから」
かぁ〜〜〜〜っ!
一瞬で顔が真っ赤になる。
からかっているのだろうか、それとも本心なのか。
「だって私、前々から思っていたの。
顔はこんなに可愛いのに女っぽくないって。
もしかしたら今のこの姿は世を忍ぶ仮の姿じゃないかなーって。
だからあんたと入れ替わって、今の自分が何よりも自然に思えてくるの。
えへへ、変だね、私」
それは……単に凶暴娘だからじゃあ……
でもこの体でいると、まるで私まで男の自分に
疑問を投げかけてくるような感じがして、
結局十歩も歩かないうちに入り口に戻ってしまった。
続いて向かったのはジェットコースター。
私は小さい頃に経験して、それ以来嫌いになってしまった。
「わ……、私こういうの嫌いなんです。
龍一さん、引き返しましょうよ」
もはや蛇に睨まれた蛙状態だった。
怖くて怖くて足が竦(すく)む。
「怖くない怖くない、加奈ってこういうところ嫌いなんだ」
「は……はいぃっ、怖いの嫌ですぅっ!」
そう言うなり私は龍一の袖をギュっと握って必死に訴えた。
「そっかー、大丈夫だよ。私がついているから」
ナデナデ
「りゅ、龍一さん……」
あ、私の頭を撫でてくれる。
どうしてだろう……、さっきから胸の鼓動が聞こえてくる。
私、龍一と一緒にいると心がときめく。
自分が加奈という一人の女性でありたいと思って、
それが自然であるかのように思えてくる。
……流されてはダメ。
そう思っていても、もう私の心は変わってしまっている。
心が望んでいる、女性になりたいと願ってしまう……
私、自分に、そして龍一に恋をしている……
「手、握ってもいい?
私、あなたがそばにいてくれたら怖い気持ちが
和らぐような気がしてきて……」
「うん、いいわよ。
そうやっていると本当に抱きしめたくなるほど可愛いね」
その言葉にますます戻れなくなってしまう。
でも、もう戻れなくなってしまった。
だってジェットコースターの怖さも、龍一のお陰で全然怖くなかったから……
もう日が暮れてきた。
時間的にこれが最後のアトラクションになるだろう。
「私はねー、あれに乗りたいの。
あれで遠くの景色を眺めたいの」
龍一が指さしていたのは観覧車だった。
それは恋人同士が乗る金字塔のような乗り物だった。
「そそそそ、それに乗るつもり!?」
だめだ……、かなり長い時間、景色以外といえば
相手の顔しか見ることができないじゃないか。
さっきから女性としての価値観を埋め込まれているところに、
とどめの一撃を決めようとしているのと変わらないじゃないか。
そう考えると嫌悪の思いが一気に爆発した。
「もうこれ以上女性にしないで! これ以上感情の変化を味あわせないで!
辛いの……、怖いの……、私が私でなくなっちゃう……
心の変化についてこれないの……、ダメ…私、本当にダメなの……」
はっきりいって情緒不安定だった。
心はとっくに女性になっているものの、頭がそれに伴っていない。
あるいは理性が酷い葛藤となって押し寄せてくる。
そのためこれ以上変わることが怖くなってしまった。
それなら元に戻る算段を練ってもいいのだが、
それを考えるほど男としての価値観は、もう喪失している。
女になるのは怖い、でも男に戻ることもできない。
男でも女でもない中途半端な性別、それが今の私だった。
それだけにちょっとした気持ちの揺らぎで心が大きく動揺する。
私は地面に座り込んで泣き出した。
「う……うええぇん。変わりたくない、私…女になりたくない!
止めてぇ、ねぇ、お願いだから止めてよぉ!」
入れ替わったのは私のせいだったのだが、それでも誰かにすがりたかった。
その時、龍一が私を思いっきり抱きしめた。
「ごめんね……」
「え? あ……、あの…」
「ごめんね、私がちょっとふざけたばっかりに、
加奈をこんなにも悲しませちゃって……」
「りゅう……いち?」
「確かにぶつかったのは紛れもなくお前だ。
でもだからといって入れ替わったのはお前のせいじゃない。
分かっていたのに、悪ふざけでデートに誘って
困らせる結果になってしまって……」
「龍一さん……」
龍一は今までの凶暴娘ではもうなかった。
まるで愛しい恋人を傷つけてしまったことに、
自責の念を抱いている彼氏のようだった。
「もう、戻れないのだったらお前にだけ女にさせるのは歯痒くて仕方がない!
お前が女性になるのであれば、私も責任をもって男になる!」
「え……、龍一さんそれって……」
「お願いだ、私と付き合ってください!」
……
…………
時間が止まったかのような感覚。
何を言っているのか理解するのに少し時間を要した。
言っている意味を理解すると元自分の顔が突然別人のように見える。
ま、眩しい、眩し過ぎる。
あまりにも頼もしく、また恰好良く見えたので、直視できなかった。
「あれ? 加奈……ひょっとして嫌だった?」
「いえ……、凄く嬉しいです。
嬉しいけど、それはあなたの本心からなの?
信じて……いいの?」
「ああ、お前は私の彼女に理想的な女性だよ」
その言葉を聞くと私は考えるより先に龍一に飛びついた。
「私、龍一さんのこと好き!
『元私』だったから、そして龍一だから好き!」
「私も加奈のこと、好きだな」
二人はライトアップで辺りが夢色な景色の最中、唇を交わした。
初めてのキスは女性になれたことを嬉しく思うあまりよく覚えていなかった。
もうすっかり暗くなったので、二人は駅に戻りそれぞれの家に帰ることにした。
お互いの住所と駅からのルートを教え合った。
「じゃあ、もうここでお別れだね。
家、わかるよね加奈?」
「はい龍一さん。今日は本当に楽しかったです。
私、初めてのデートがあなたでよかった……」
「そう言って頂けると嬉しいな。
まぁ、これからよろしくお願いな」
「はい、さようなら龍一さん」
そう言って初めてお邪魔する、元彼女の家に向かった。
翌日……
「いっけなーい、寝坊しちゃった!
おかーさん、目覚まし鳴っていた!?」
「鳴っていても目を覚まさなかったじゃない」
「うわっ、もうこの時間!
トーストだけもらうから、服着替えていってきまーす!」
女性になっても相変わらず寝坊は変わりそうにない。
これはあの人が、寝坊癖があったのか、私の意識の問題なのか……
私は大急ぎで洗面台で顔を洗って髪をとかし、服を着替えたら家を出た。
女性になって最初の登校日で早々に遅刻なんて洒落にならない。
幸いなことに私の家は電車に乗らなくていいほど近いところなので、
少しダッシュするくらいで間に合いそうだ。
「よぉ、おはよう加奈」
え、その声は……
「りゅ、龍一さん♪」
石田龍一、つまり以前僕だった彼女だ。
その姿は以前の私のように気弱そうな表情ではなく、
物怖じしない男らしい顔つきだった。
「その制服姿とっても可愛いよ」
「そ、そんな……、私着こなしとかよく分からなくて、恥ずかしい限りです」
「ううん、そんなことないよ。
可愛かった私の体だから何を着ても似合うよ」
「あ、ありがとう龍一さん……」
キーンコーンカーンコーン
「うわっ……やっべー、予鈴が鳴っちゃった。
急ぐぞ、加奈!」
「うん、龍一さん」
二人は学校を目指して駆けていった。
秋の恋の空気をいっぱいに吸いこんで……
(おしまい)
あとがき
TSの分類に挙げていいのか微妙だけど、入れ替わりものでした。
タイトルの命名はいつも苦労します。今回も直球です、すみません。
「そうだな」
「だったら今の状況を楽しまなきゃ!」
「どうやって?」
「決まっているでしょ、デートよ♪」
「デデデデ、デート!?」
「そう、デートよ。せっかく目の前にこんなに可愛い女性がいて、
何もしないなんて勿体無いわよ」
それはあくまでも龍一の立場から見て、
自分の美貌にうっとりするナルシスト的な要素が
あるのなら分からなくもないが、僕の方から見れば、
自分の顔にどうやって心ときめかせろというのだ!
「何、文句あるの? 元はといえばあんたがぶつかりさえしなければ……」
「わかった、わかったから行けばいいんだろ、行けば!」
どうも彼女には敵わない。
どうしてあの男はこんな凶暴娘を好きになったのだろう?
……マゾ?
「電車に乗るのも久しぶりねー、
小さい頃はよく座席を反対に座って景色を楽しんだわ。
それで靴を脱ぐのを忘れていたから、
いつも知らないおじさんのスラックスを汚していたわ」
「小さいから仕方がないとそのおじさんに同情すべきか、
それともその頃から凶暴な片鱗が見え隠れしたと考察すべきか……」
龍一の希望で二駅離れた遊園地に行くことにした。
彼女はあまり電車に乗る機会がないためか、
えらく上機嫌だが、僕にとってみれば通学の時に利用するので、
取り立ててテンションが上がるものではなかった。
むしろ通勤ラッシュと重なるため、苦い思い出しかないのだが……
しかし……
遊園地は僕が計画として練っていたデートコースでもあった。
それを目の前に映る『僕』のために巡るとは……
「どうしたの? 溜息何かついちゃって」
「いや……、好きな人と今から行くところに誘おうとしただけに、
胸が締め付けられて……」
そう言うなり龍一は頬を膨らませて不機嫌になった。
「何よ、目の前にこんなに可愛い人がいるじゃない!
この私がいるって言うのに、少しは楽しんだらどう!?」
その発言に思わず龍一の手を掴んで、前の車両に移った。
まったく、誤解を生みかねない発言で、ますます僕に戻れないじゃないか。
わざとそうしている感じではないので、他人に対する配慮に欠けるのだろう。
「あ、着いたわよ」
電車が停車してドアが開くなり、降りるとすぐに
『一番乗り―☆』と言いながらポーズを決めた。
まったく、子供というかなんというか……
歩いてすぐの所に遊園地がある。
珍しいことに入場料は各々が払うことになった。
それほど大きくはない遊園地だが、それなりにアトラクションが揃っている。
「ねぇ、まずは鏡の迷路に行ってみましょ!」
「そ、それで楽しむのって小学生とその親じゃないの?」
「いいでしょ、乙女は常に夢を見るのよ」
その顔で乙女心云々を語るのは説得力に欠けるが、
彼女の言う通りにした。
中に入ってみると壁一面が鏡になっていて、
そのために今のこの姿をあらゆる角度で見ることができる。
「こ、これが僕だというの……」
とても不思議な感覚だった。
確かに体だけは女だが、ここにいるだけで心まで女になりそうな気がする。
「あれー、加奈どうしたの? 鏡に映る自分の姿なんか見ちゃって」
「い、いや……その、可愛いなあって………」
何を言っているのだ、男なのに自分のことを可愛いだなんて!
確かに可愛いけど、それを認めてしまうなんて!
認めることで元に戻れなくなってしまう……
それは何よりも恐れていることであり、また甘美な響きでもある。
違う、違う! 女になりたくないのにぃ、なりたくなんかないのにぃ……
どうして……、自分の魅力を認めてしまったら、
元に戻りたいという意思が弱まってしまう……
「やっと認めたのね。そう、あなたはこんなに可愛い。
可愛いのだから自分に恋をしちゃってもいい。
いいのよ、自分に恋しちゃっても。
だってあんたの性格、悔しいけど私より女っぽいのだから」
かぁ〜〜〜〜っ!
一瞬で顔が真っ赤になる。
からかっているのだろうか、それとも本心なのか。
「だって私、前々から思っていたの。
顔はこんなに可愛いのに女っぽくないって。
もしかしたら今のこの姿は世を忍ぶ仮の姿じゃないかなーって。
だからあんたと入れ替わって、今の自分が何よりも自然に思えてくるの。
えへへ、変だね、私」
それは……単に凶暴娘だからじゃあ……
でもこの体でいると、まるで私まで男の自分に
疑問を投げかけてくるような感じがして、
結局十歩も歩かないうちに入り口に戻ってしまった。
続いて向かったのはジェットコースター。
私は小さい頃に経験して、それ以来嫌いになってしまった。
「わ……、私こういうの嫌いなんです。
龍一さん、引き返しましょうよ」
もはや蛇に睨まれた蛙状態だった。
怖くて怖くて足が竦(すく)む。
「怖くない怖くない、加奈ってこういうところ嫌いなんだ」
「は……はいぃっ、怖いの嫌ですぅっ!」
そう言うなり私は龍一の袖をギュっと握って必死に訴えた。
「そっかー、大丈夫だよ。私がついているから」
ナデナデ
「りゅ、龍一さん……」
あ、私の頭を撫でてくれる。
どうしてだろう……、さっきから胸の鼓動が聞こえてくる。
私、龍一と一緒にいると心がときめく。
自分が加奈という一人の女性でありたいと思って、
それが自然であるかのように思えてくる。
……流されてはダメ。
そう思っていても、もう私の心は変わってしまっている。
心が望んでいる、女性になりたいと願ってしまう……
私、自分に、そして龍一に恋をしている……
「手、握ってもいい?
私、あなたがそばにいてくれたら怖い気持ちが
和らぐような気がしてきて……」
「うん、いいわよ。
そうやっていると本当に抱きしめたくなるほど可愛いね」
その言葉にますます戻れなくなってしまう。
でも、もう戻れなくなってしまった。
だってジェットコースターの怖さも、龍一のお陰で全然怖くなかったから……
もう日が暮れてきた。
時間的にこれが最後のアトラクションになるだろう。
「私はねー、あれに乗りたいの。
あれで遠くの景色を眺めたいの」
龍一が指さしていたのは観覧車だった。
それは恋人同士が乗る金字塔のような乗り物だった。
「そそそそ、それに乗るつもり!?」
だめだ……、かなり長い時間、景色以外といえば
相手の顔しか見ることができないじゃないか。
さっきから女性としての価値観を埋め込まれているところに、
とどめの一撃を決めようとしているのと変わらないじゃないか。
そう考えると嫌悪の思いが一気に爆発した。
「もうこれ以上女性にしないで! これ以上感情の変化を味あわせないで!
辛いの……、怖いの……、私が私でなくなっちゃう……
心の変化についてこれないの……、ダメ…私、本当にダメなの……」
はっきりいって情緒不安定だった。
心はとっくに女性になっているものの、頭がそれに伴っていない。
あるいは理性が酷い葛藤となって押し寄せてくる。
そのためこれ以上変わることが怖くなってしまった。
それなら元に戻る算段を練ってもいいのだが、
それを考えるほど男としての価値観は、もう喪失している。
女になるのは怖い、でも男に戻ることもできない。
男でも女でもない中途半端な性別、それが今の私だった。
それだけにちょっとした気持ちの揺らぎで心が大きく動揺する。
私は地面に座り込んで泣き出した。
「う……うええぇん。変わりたくない、私…女になりたくない!
止めてぇ、ねぇ、お願いだから止めてよぉ!」
入れ替わったのは私のせいだったのだが、それでも誰かにすがりたかった。
その時、龍一が私を思いっきり抱きしめた。
「ごめんね……」
「え? あ……、あの…」
「ごめんね、私がちょっとふざけたばっかりに、
加奈をこんなにも悲しませちゃって……」
「りゅう……いち?」
「確かにぶつかったのは紛れもなくお前だ。
でもだからといって入れ替わったのはお前のせいじゃない。
分かっていたのに、悪ふざけでデートに誘って
困らせる結果になってしまって……」
「龍一さん……」
龍一は今までの凶暴娘ではもうなかった。
まるで愛しい恋人を傷つけてしまったことに、
自責の念を抱いている彼氏のようだった。
「もう、戻れないのだったらお前にだけ女にさせるのは歯痒くて仕方がない!
お前が女性になるのであれば、私も責任をもって男になる!」
「え……、龍一さんそれって……」
「お願いだ、私と付き合ってください!」
……
…………
時間が止まったかのような感覚。
何を言っているのか理解するのに少し時間を要した。
言っている意味を理解すると元自分の顔が突然別人のように見える。
ま、眩しい、眩し過ぎる。
あまりにも頼もしく、また恰好良く見えたので、直視できなかった。
「あれ? 加奈……ひょっとして嫌だった?」
「いえ……、凄く嬉しいです。
嬉しいけど、それはあなたの本心からなの?
信じて……いいの?」
「ああ、お前は私の彼女に理想的な女性だよ」
その言葉を聞くと私は考えるより先に龍一に飛びついた。
「私、龍一さんのこと好き!
『元私』だったから、そして龍一だから好き!」
「私も加奈のこと、好きだな」
二人はライトアップで辺りが夢色な景色の最中、唇を交わした。
初めてのキスは女性になれたことを嬉しく思うあまりよく覚えていなかった。
もうすっかり暗くなったので、二人は駅に戻りそれぞれの家に帰ることにした。
お互いの住所と駅からのルートを教え合った。
「じゃあ、もうここでお別れだね。
家、わかるよね加奈?」
「はい龍一さん。今日は本当に楽しかったです。
私、初めてのデートがあなたでよかった……」
「そう言って頂けると嬉しいな。
まぁ、これからよろしくお願いな」
「はい、さようなら龍一さん」
そう言って初めてお邪魔する、元彼女の家に向かった。
翌日……
「いっけなーい、寝坊しちゃった!
おかーさん、目覚まし鳴っていた!?」
「鳴っていても目を覚まさなかったじゃない」
「うわっ、もうこの時間!
トーストだけもらうから、服着替えていってきまーす!」
女性になっても相変わらず寝坊は変わりそうにない。
これはあの人が、寝坊癖があったのか、私の意識の問題なのか……
私は大急ぎで洗面台で顔を洗って髪をとかし、服を着替えたら家を出た。
女性になって最初の登校日で早々に遅刻なんて洒落にならない。
幸いなことに私の家は電車に乗らなくていいほど近いところなので、
少しダッシュするくらいで間に合いそうだ。
「よぉ、おはよう加奈」
え、その声は……
「りゅ、龍一さん♪」
石田龍一、つまり以前僕だった彼女だ。
その姿は以前の私のように気弱そうな表情ではなく、
物怖じしない男らしい顔つきだった。
「その制服姿とっても可愛いよ」
「そ、そんな……、私着こなしとかよく分からなくて、恥ずかしい限りです」
「ううん、そんなことないよ。
可愛かった私の体だから何を着ても似合うよ」
「あ、ありがとう龍一さん……」
キーンコーンカーンコーン
「うわっ……やっべー、予鈴が鳴っちゃった。
急ぐぞ、加奈!」
「うん、龍一さん」
二人は学校を目指して駆けていった。
秋の恋の空気をいっぱいに吸いこんで……
(おしまい)
あとがき
TSの分類に挙げていいのか微妙だけど、入れ替わりものでした。
タイトルの命名はいつも苦労します。今回も直球です、すみません。
投稿入れ替わり小説 『僕だった彼女』 <中> by.りゅうのみや
「いっただきまーす♪」
そう言いながら龍一は三段に積まれたホットケーキを食べ始めている。
ここは喫茶店、朝食を抜いた罰として奢る羽目になった。
財布は中身だけ交換され、手元には万札三枚が入っているが、
なぜか迷惑料として一枚ピンハネされた。
どうして……、本当なら好きな人とのデートに使うつもりが……
「もう一人のお客様も何かご注文はありませんでしょうか?」
自分のお金で食べるのだし、あまり注文しないようなデザートでも頼んでみるか。
「えっとこのチョコレートとカスタードのアイスを……イタッ!」
テーブルからでは死角となっているが、右手を龍一に思いっきりつねられた。
「(何勝手に頼もうとしているの!?)」
「(え? だ、だって精算は僕持ちだけど……)」
「(カロリー高めのデザート頼んで太らせるつもり?
あんたにはこのメニューがぴったりなのよ!)」
そう囁きながらメニューに指差したのは……
まさか…、これを注文しろというのか……
「え……えっと、特選青汁をお願いします」
「はい、かしこまりました」
一瞬周りの空気が凍りついたような気がする。
くっそ〜、こんな可愛い顔しながら渋いメニューを
選ばなければならないなんて、新手の嫌がらせか……
「なんでこんなメニュー頼まないといけないの……」
出された青汁は特選というだけあって凄かった。
まず色が凄まじかった。
青汁なのに青くなかった。
いや、七割方は青いのだが、何か青いブツブツというかモロモロとした粒があり、
残り三割は赤とかオレンジとか黄色い粒であり、全然汁ではなかった。
おまけに糸まで引いているし……
あまりに毒々しい色合いなので、店員にレシピを訊ねてみた。
どうやらホウレンソウやピーマンやパセリが主体で、
その他は人参や柚子の皮、パイナップルをミキサーにかけたものらしい。
糸の原因はオクラらしい……
こ、これを飲めというのか、何かの罰ゲームじゃあないだろうか……
ズズッ
「ご、ごめんちょっとトイレ……!」
……
…………
「……凄かった」
げっそりした顔でそう言った。
こんなもの二度と飲みたくなかった。
「あら、あんたに飲んでもらうために注文させたんじゃないのだけど」
「だったら何のために……!」
「ごめんね〜、実は私別れたい彼がいてね、
で、どうやって別れ話を切り出そうか困っていたのよ」
「それでああいった手引書で勉強したり青汁を頼んだりしたのか?」
「青汁はそうだけど、あれは結局まだ読んでないわよ」
……つまりこの性格は地だというわけか。
この性格に惚れ込んだ人ってどんな人だろうか……
いや、彼女結構可愛いから面食いなのかも。
それ以前に、一日で二回も別れ話に縁があるとは、
僕ってそれほど恋愛とは無縁の人生を歩むということなのかな……
そう思いつつ何かの縁だと思い、彼女の助けになろうと
『別れを切り出す101の奥義』を手に取った。
『1.デートの30分遅刻は当たり前
2.借りたものは絶対に返さない
3.デレ要素の全くないツン状態
……
………
101.喫茶店で青汁を飲ませる』
「しっかりと青汁のアドバイスがあるし!」
「知らないわよ、偶然よ偶然」
偶然だとするとありのままの自分でいることが、
一番彼女にとっては別れさせやすいということか……
「よぉ加奈、遅れてすまんな」
軽そうな声と共に目の前にキザ男がやって来た。
「(えっと、この人が別れたい彼?)」
「(そう、そうなのよ。しかも待ち合わせ時間を45分遅刻しているし)」
一番目の項目を相手の方がしでかすとは、なかなかの猛者だ。
だが、僕達がここにやって来たのも15分前なので、
やはりこちらにも条件にかなってしまう。
もっとも僕の衝突・失恋イベントのせいで余計な時間を喰らったのだが。
しかし……
これは結構やばい状況ではないだろうか……。
「あれぇ? 加奈、こいつ誰だよ!」
そう言いながら龍一を指差す。
いや、そいつが付き合っている相手の加奈だけど……
「僕……いえ私、この人と付き合おうと思っていて別れを切り出そうと……」
それ以前に男と付き合うつもりなど毛頭ない。
これは龍一の意志であると同時に、僕の意志でもある。
「なにぃ、俺のことが嫌いになったというのか!」
逆上のあまり騒ぎたてる男。
ひ、ひえぇぇっ、怖いよぉ。
「ちょっと、俺の女に酷いことするようなやつは……撃つわよ」
「撃つ……? お前まさか……」
龍一の言葉に即座に反応した男。
もしかして彼女は普段からそういった乱暴な言葉を使うため、
相手に勘付かれたのかもしれない。
「あのあの! これ、私の気持ちです。
私のことが好きなら全部一気に飲んでください!」
そう言いながら一口飲んだだけでゲロった青汁を差し出す。
「ん? なんか誰かが飲んだ跡があるようだが……」
「わ、私が先に一口飲んだのです。
間接キスのようなものですから、跡に合せて飲んでください!」
よく考えれば別に意識して女言葉を使うより、
多少荒っぽい言葉使いの方が自然だと思った。
「なるほどね、心変りしたというのか。
よく見ておけそこの貧相な男よ!
お前には一生加奈の間接キッスにあずかる
ことはできないことを、身を持って知るがいい!」
ゴクゴクゴクゴク
「………………、プシューーーーッ!」
バタン!
あーぁ、こんなまずいのを一気飲みするから体がついていけなかったか。
「ご愁傷様、あんたには暫く眠ってもらうわ」
そう言うなり龍一は倒れた男の額にセロハンテープで紙切れを貼った。
「龍一、何を貼ったんだ?」
「ホットケーキと青汁の請求書」
「ま、まずいだろ、何も頼んでいない男に代金を支払ってもらうなど」
「だからあんたはアマちゃんなのよ、
別れを切り出すには多少冷たくあしらうのがいいのよ。
それに彼、青汁を飲んだし」
こいつのあしらい方は桁違いだ。
そう思いながら請求書の裏面に何か殴り書きが書かれているのに気付いた。
『あんたなんか嫌い嫌い、だーい嫌い!
私が別れたいのに未練たらたらだし、
こうでもしないといけないなんて鈍感過ぎなのよ!
べーだ! Byあんたの『元』彼女:小笠原加奈』
容赦ないな、こいつ。
そう思いながらも強引に腕を引っ張る
龍一によって、店を後にする結果となった。
そして今はさっき振られた公園にいる。
「はー、これでやっと肩の荷が下りたって感じよ」
「大丈夫かな、あれで」
「いいのよ。それよりどうやったら元に戻れるのかな?」
「さあ、お約束としたらぶつかったら戻るのかな?
それとも………」
タタタタタタタタ ドゴッ
「ギャッ!」
ゴロゴロゴロ
龍一のおよそ50mの助走付きタックルにより、
僕は空高く舞い上がり豪快に吹っ飛ばされた。
「加奈の嘘つきー、ぶつかっても変わんないじゃない!」
お、お約束は頭と頭がぶつかって元に戻るのであって、
決して肩でお腹をぶつけるのじゃないのだが……
あまりの痛さに反論できなかった。
もっとも気を取り戻した時にそのことを言ったら、
仲良く頭を押さえる結果になった。
あ……、頭が割れそうだ。
<つづく>
そう言いながら龍一は三段に積まれたホットケーキを食べ始めている。
ここは喫茶店、朝食を抜いた罰として奢る羽目になった。
財布は中身だけ交換され、手元には万札三枚が入っているが、
なぜか迷惑料として一枚ピンハネされた。
どうして……、本当なら好きな人とのデートに使うつもりが……
「もう一人のお客様も何かご注文はありませんでしょうか?」
自分のお金で食べるのだし、あまり注文しないようなデザートでも頼んでみるか。
「えっとこのチョコレートとカスタードのアイスを……イタッ!」
テーブルからでは死角となっているが、右手を龍一に思いっきりつねられた。
「(何勝手に頼もうとしているの!?)」
「(え? だ、だって精算は僕持ちだけど……)」
「(カロリー高めのデザート頼んで太らせるつもり?
あんたにはこのメニューがぴったりなのよ!)」
そう囁きながらメニューに指差したのは……
まさか…、これを注文しろというのか……
「え……えっと、特選青汁をお願いします」
「はい、かしこまりました」
一瞬周りの空気が凍りついたような気がする。
くっそ〜、こんな可愛い顔しながら渋いメニューを
選ばなければならないなんて、新手の嫌がらせか……
「なんでこんなメニュー頼まないといけないの……」
出された青汁は特選というだけあって凄かった。
まず色が凄まじかった。
青汁なのに青くなかった。
いや、七割方は青いのだが、何か青いブツブツというかモロモロとした粒があり、
残り三割は赤とかオレンジとか黄色い粒であり、全然汁ではなかった。
おまけに糸まで引いているし……
あまりに毒々しい色合いなので、店員にレシピを訊ねてみた。
どうやらホウレンソウやピーマンやパセリが主体で、
その他は人参や柚子の皮、パイナップルをミキサーにかけたものらしい。
糸の原因はオクラらしい……
こ、これを飲めというのか、何かの罰ゲームじゃあないだろうか……
ズズッ
「ご、ごめんちょっとトイレ……!」
……
…………
「……凄かった」
げっそりした顔でそう言った。
こんなもの二度と飲みたくなかった。
「あら、あんたに飲んでもらうために注文させたんじゃないのだけど」
「だったら何のために……!」
「ごめんね〜、実は私別れたい彼がいてね、
で、どうやって別れ話を切り出そうか困っていたのよ」
「それでああいった手引書で勉強したり青汁を頼んだりしたのか?」
「青汁はそうだけど、あれは結局まだ読んでないわよ」
……つまりこの性格は地だというわけか。
この性格に惚れ込んだ人ってどんな人だろうか……
いや、彼女結構可愛いから面食いなのかも。
それ以前に、一日で二回も別れ話に縁があるとは、
僕ってそれほど恋愛とは無縁の人生を歩むということなのかな……
そう思いつつ何かの縁だと思い、彼女の助けになろうと
『別れを切り出す101の奥義』を手に取った。
『1.デートの30分遅刻は当たり前
2.借りたものは絶対に返さない
3.デレ要素の全くないツン状態
……
………
101.喫茶店で青汁を飲ませる』
「しっかりと青汁のアドバイスがあるし!」
「知らないわよ、偶然よ偶然」
偶然だとするとありのままの自分でいることが、
一番彼女にとっては別れさせやすいということか……
「よぉ加奈、遅れてすまんな」
軽そうな声と共に目の前にキザ男がやって来た。
「(えっと、この人が別れたい彼?)」
「(そう、そうなのよ。しかも待ち合わせ時間を45分遅刻しているし)」
一番目の項目を相手の方がしでかすとは、なかなかの猛者だ。
だが、僕達がここにやって来たのも15分前なので、
やはりこちらにも条件にかなってしまう。
もっとも僕の衝突・失恋イベントのせいで余計な時間を喰らったのだが。
しかし……
これは結構やばい状況ではないだろうか……。
「あれぇ? 加奈、こいつ誰だよ!」
そう言いながら龍一を指差す。
いや、そいつが付き合っている相手の加奈だけど……
「僕……いえ私、この人と付き合おうと思っていて別れを切り出そうと……」
それ以前に男と付き合うつもりなど毛頭ない。
これは龍一の意志であると同時に、僕の意志でもある。
「なにぃ、俺のことが嫌いになったというのか!」
逆上のあまり騒ぎたてる男。
ひ、ひえぇぇっ、怖いよぉ。
「ちょっと、俺の女に酷いことするようなやつは……撃つわよ」
「撃つ……? お前まさか……」
龍一の言葉に即座に反応した男。
もしかして彼女は普段からそういった乱暴な言葉を使うため、
相手に勘付かれたのかもしれない。
「あのあの! これ、私の気持ちです。
私のことが好きなら全部一気に飲んでください!」
そう言いながら一口飲んだだけでゲロった青汁を差し出す。
「ん? なんか誰かが飲んだ跡があるようだが……」
「わ、私が先に一口飲んだのです。
間接キスのようなものですから、跡に合せて飲んでください!」
よく考えれば別に意識して女言葉を使うより、
多少荒っぽい言葉使いの方が自然だと思った。
「なるほどね、心変りしたというのか。
よく見ておけそこの貧相な男よ!
お前には一生加奈の間接キッスにあずかる
ことはできないことを、身を持って知るがいい!」
ゴクゴクゴクゴク
「………………、プシューーーーッ!」
バタン!
あーぁ、こんなまずいのを一気飲みするから体がついていけなかったか。
「ご愁傷様、あんたには暫く眠ってもらうわ」
そう言うなり龍一は倒れた男の額にセロハンテープで紙切れを貼った。
「龍一、何を貼ったんだ?」
「ホットケーキと青汁の請求書」
「ま、まずいだろ、何も頼んでいない男に代金を支払ってもらうなど」
「だからあんたはアマちゃんなのよ、
別れを切り出すには多少冷たくあしらうのがいいのよ。
それに彼、青汁を飲んだし」
こいつのあしらい方は桁違いだ。
そう思いながら請求書の裏面に何か殴り書きが書かれているのに気付いた。
『あんたなんか嫌い嫌い、だーい嫌い!
私が別れたいのに未練たらたらだし、
こうでもしないといけないなんて鈍感過ぎなのよ!
べーだ! Byあんたの『元』彼女:小笠原加奈』
容赦ないな、こいつ。
そう思いながらも強引に腕を引っ張る
龍一によって、店を後にする結果となった。
そして今はさっき振られた公園にいる。
「はー、これでやっと肩の荷が下りたって感じよ」
「大丈夫かな、あれで」
「いいのよ。それよりどうやったら元に戻れるのかな?」
「さあ、お約束としたらぶつかったら戻るのかな?
それとも………」
タタタタタタタタ ドゴッ
「ギャッ!」
ゴロゴロゴロ
龍一のおよそ50mの助走付きタックルにより、
僕は空高く舞い上がり豪快に吹っ飛ばされた。
「加奈の嘘つきー、ぶつかっても変わんないじゃない!」
お、お約束は頭と頭がぶつかって元に戻るのであって、
決して肩でお腹をぶつけるのじゃないのだが……
あまりの痛さに反論できなかった。
もっとも気を取り戻した時にそのことを言ったら、
仲良く頭を押さえる結果になった。
あ……、頭が割れそうだ。
<つづく>
投稿入れ替わり小説 『僕だった彼女』 <前> by.りゅうのみや
「やっばー、待ち合わせの時間に遅れてしまう!」
あろうことか片思いの人との初デートの日に寝坊してしまった。
目が覚めたのは八時半、待ち合わせの時間は九時。
当然朝食を摂る暇もない。
衣装ケースとにらめっこしながら、どの服がいいか迷っている。
え〜っと、やっぱり着慣れているカジュアルとジーパンでいいか。
鏡を見ると頭が爆発しているのが分かる。
「……寝相悪いからな、俺」
いつも寝ながらトリッキーな寝返りをするものだから、
器用なことに目が覚めたら、枕の位置に足があった。
……いくらなんでも180度も回転したのは今日で初めてだ。
流石にこの頭で挑むほど危なっかしい真似はできないので、
洗面台でドライヤーをかけることにした。
……
…………
よしっ、準備も整ったことだし、早速家を出るか。
「行ってきまーす」
玄関のドアを開けると大急ぎで、待ち合わせの公園に向かった。
今は十月、一番過ごしやすく、そして恋の季節でもある。
しかし……
気がかりなことがある。
デートの誘いをしたのは向こうの方なのに、
何やら思い詰めた表情だったしあまりデートを楽しみにしている感じではなかった。
確かに僕の方が一方的にアプローチした感があるのだが、
今まであまり乗り気ではなかった。
それら二つの事柄から考えると、
今回のデートで進展はあまりないのかもしれない。
まずは少しずつ知ることで、先が見えればいいのだが……
ドン
「うわわっ!?」
「きゃああぁっ!」
……
…………
…………………
えーと、状況確認中。
これはあれこれ考え事しているうちに、
目の前の障害物に気が付かず突進してしまったのだろう。
「だぁーれが障害物よ、だぁーれが!」
え? 俺の声?
声のする方に目を向けてみる。
地面に倒れこんで凄い形相で僕を睨みつけている……僕?
……あれ?
なんで僕がもう一人いるのだろう?
「あ……あんた私!?」
「え……、そう言うお前は…僕?」
……
…………
自分の姿を確認する。
肌は白く、髪は肩まで伸ばしており、胸もしっかりある。
「「えぇーーーーっ!?」」
人って不測の事態が起きると思考が停止するって本当だったのか……
えーっと、えーっと。
これって……
「ちょっと、なんで私が男の子になって、あんたが私になっているのよ!」
「さ、さぁ? やっぱりお約束な展開だけど、ぶつかることでの入れ替わりじゃない?」
「バカも休み休み言いなさい! これは……、そうよドッキリカメラなんだわ。
私が倒れこんでいる間に特殊メイクを仕掛け、
私にそっくりな人を連れてきたんだわ、そうに決まっているわ!」
む、無茶苦茶な……
それに芸人じゃあるまいし、見知らぬ一般人にそういうことをして、
キレたら収拾がつかないではないか。
ふにふに
入れ替わった女性はしきりに自分の胸を触る。
いや、ない胸を触っても意味がないぞ。
それにさっきの騒ぎで人が集まっているし……
シクシク、軽く羞恥プレイをされている。
周りに知り合いがいませんように。
「ちょっと、なんであたしの胸がなくなっているの!?
さてはサラシで無理矢理押さえ込んだね。
このあたしの自慢の胸になんてことするの!」
そんな無茶な。
それに男が胸をアピールするような言い方をするなあぁーーっ!
もう当分この道を使えないじゃないか。
「ちょっとこっちへ来なさい!」
「ちょ……、僕をどこに連れていくつもりだ!?」
「いいからさっさと来る!」
うわっ、意外に僕の力ってすごいんだな。
体育会系ではないのに自分と同じくらいの体格の人を引っ張ることができるなんて……
いや、今のこの体が、それほど力がないのかも……
すっかり輪になっている観客を無理矢理かき分けながら、
入れ替わった女性は公園の女子トイレに連れていく。
「ちょっと、ここ狭いぞ」
「うるさいわね、それとも何? もう一度群衆の前で一悶着したいというの?」
「……ここでいいです」
しかし……
「いくら状況を確認したいからといって、
いきなり女子トイレの個室に潜り込むのはまずいんじゃあ……」
「大丈夫よ、全ての個室にノックしたから誰もいないのは確かよ」
いや、そういう問題じゃないのだけど。
「あなたが持っているポーチに手鏡があるから、取ってくれない?」
あ、これか……
小奇麗で趣味のいいポーチのチャックを外し、中に入っているものを確認する。
『新・伊藤流 人をおちょくる方法』
……なんだこの手引書?
『別れを切り出す101の奥義』
グサッ
なんか結構心に来るタイトルだったぞ。
「もういい、あんたがするといらないものを引っ掻きまわすから」
そう言うなりポーチを奪い、手鏡を取り出した。
最初からそうすればいいのに。
手鏡で自分の姿を見た途端、彼女の表情が豹変した。
「ちょ、なにこの顔! 髪をばっさり切っちゃって、
おまけに肌の質も全く違うし! こんなの……私じゃない!」
ようやく自分の置かれた状況を認識したのだろう。
彼女が茫然としている間に手鏡を奪い返し、今度は僕の姿を確認してみた。
「う、うわっ可愛い……」
こんなに可憐で美しい体つきをしているのが僕だなんて信じられない。
自分の姿にうっとりしていると、彼女がいきなり怒鳴りつけてくる。
「ゆ、許せない、許せないわ!
私がこんなにショックを受けている状況の中、
なんであんたは満更でもないって顔しているのよ!
許せない、理不尽よーっ!」
そこまで言いかけて、突然彼女が身震いをした。
「……ちょっと、今すぐこの部屋を出なさい!」
「え? あの……」
「いいから今すぐ出なさい、出ないと撃つわよ!」
拳銃でも持っているのか?
と思いながら殺気に負けて出ることにした。
女子トイレにいるのも気恥しかったので、そのまま外に出ることにした。
「きゃああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
み、耳がキンキンする。
甲高い声が女子トイレの中からこだまする。
次の瞬間大慌てで彼女が飛び出してくる。
「ちょ……ちょっと。あんた股間になんて物ぶら下げているのよ!」
股間に……?
「ああっ!」
見れば彼女はジーパンとトランクスをおろしたままの恰好だった。
「ちょ……このままだと僕が変質者に思われるから、早く仕舞って!」
さっきは観客がいる中での羞恥プレイかと思えば、
今度はその方面からやってくるとは……
ああ、もう死にたい。
……
…………
「ところで自己紹介がまだだったわね、私は小笠原加奈よ」
「僕は石田龍一、遼東学園の一年生です」
「へぇ、私も遼東学園よ、二年生だけど」
「で、ややこしいから呼び方を統一するため、
これからは僕が加奈になるけど、それでいいかな」
「それで構わないわ。ところで何を急いでいたのよ」
「あっ!」
今までの騒動ですっかり忘れていた。
約束の時間に間に合わなくなるためにダッシュしていたんだ。
「ま……まずい、初めてのデートの約束がもう15分も遅刻になっちゃった」
「デート? モテない顔で無理しちゃって」
「顔はいいだろ、顔は。この公園で待ち合わせしていたから、
大急ぎで行かなきゃ!」
「待ちなさい!」
「引きとめるなよ、彼女カンカンになっているに違いない!」
「その姿で会いに行くつもり?」
「え……、あっ!」
すっかり今の状況を忘れていた。
この体は小笠原加奈であって僕ではない。
こんな恰好で行ったとしても彼女を当惑させるに違いない。
「すっかり困った顔しているわね、
何なら私が変わりにデートに行ってもいいわよ」
「い、いやいや、余計話がこじれてしまう!」
故意ではないとはいえ、自分の方からぶつかったのは紛れもない事実。
それだけに根に持ってデートを破綻させることだってするかもしれない。
「大丈夫よ、乙女心はあんたよりよく知っているわ。
今回だけは悪い印象を与えるような行為は避けてあげる」
次はないという意味だろうか、
それともデートの後で元に戻る算段でも立てるつもりだろうか。
待ち合わせはこの公園のベンチにしている。
僕は垣根の陰から見守ることにした。
「あの……、遅くなってすみません」
「ううんいいよ、私もちょうど今来たところだから」
「えっと、今回が僕たちの初めてのデートだったよね。
とっておきのデートスポットを知っているのだけど」
おお、なかなかうまい感じで話を進ませようとしているぞ。
良いぞ、その調子だ。
「そのことだけど……、本当にごめんなさい」
「え? どうしたの?」
「私がここに呼んだのはデートをするためではなく、
別れ話を切り出すためだったの」
え……?
そ、それって……
「藤井さん、いいわよこっちにきて」
彼女がそう言うと、体格のいい男がやってきて軽くお辞儀をする。
「今まで黙っていたけど、私は彼と付き合っているの」
「どうして……、どうして黙っていたんだ…?」
「あなたがあまりにも積極的に誘っていて、断りづらかったから。
ごめんなさい、あなたを傷つけちゃうことをしちゃって……」
そんな、そんな……
確かにあまり乗り気じゃないとは思っていた。
向こうの方から誘ってくるにしては不自然な部分も多いとも思っていた。
だけど、まさかこんな結果になるなんて……
「そう……。ごめんね、僕…無神経なせいであなたを困らせちゃって」
「ううん、私の方こそ話を切り出せなくごめんね……」
「えっと、藤井さん。彼女のことよろしくね」
藤井という人は軽く礼をして答えた。
「じゃ、じゃあ……これで失礼します!」
そういうなり僕…、いや龍一は走り去っていった。
彼女にとってみれば全てが演技で、どこも傷付く箇所はなかったのだが、
それを傍で見ている僕にとってみれば大いに傷付いてしまった。
「うわああぁぁん、振られちゃったー!」
あれから龍一と二人っきりになって大声で泣いていた。
「仕方がなかったわ、もうあの様子じゃあどこにも付け入る隙がなかったし」
何の慰めにもならない言葉を述べる龍一。
いや、彼女にしてみればできる最大限の努力はしたのは知っているのだが……。
ナデナデ
「え……?」
「べ、別にあんたのこと何とも思わないけどね、流石に可哀想かなーっと思って」
慰めてくれた…?
あの凶暴娘が?
ポカッ
「いったーい!」
「何か知らないけど、今無性に殴りたくなったわ」
考えていることがばれているのかな?
顔に出やすいタイプだとは思っていたけど……
「ほら、これで涙を拭いなさい。せっかくのメイクが台無しになっちゃうじゃない」
そう言うなりポーチからハンカチを取り出した。
口は悪いけど、性格はそれほどでもないのかもしれない。
クー キュルルルル
「あ…」
朝食を摂ってなかったため、龍一のお腹が鳴った。
「か、加奈っ! 今はこの体だけど、心は女よ!
乙女に恥かかせたいのかしら!」
そう言いながら首を絞めてくる。
「ちょ……、この体を傷つけたらそれはそれでまずいだろ」
「それもそうね……、じゃあ裸踊りで我慢するわ」
「男に戻れなくなるという意味でやめてぇ!」
こいつはツンデレなのか、それとも単なる凶暴娘なのか……
<つづく>
TS小説第57番 がんばれ!新入社員神月光!〜豆乳こんにゃくダイエットラーメン編〜
イラスト:巴
「神月さん、部長がお呼びです」
受付兼庶務の洋子さん(19)の呼びかけに、ぼく、神月光は顔を上げる。
広報部長の河合亜美さんは20代後半を自称するナイスバディのお姉さんだ。
なかなかのやり手で、強引な手段で仕事を取ってきて、強引に売り込むと評判だ。
我が、あむぁいおかしカンパニーはおかしを作って売るのが本業だ。
おかしと言っても食べるものではない。
脳や精神に作用して、トロトロに融かしたり、滋養強壮に良かったり。
中毒性があって、とっても甘くって、ちょっぴり苦い。
そんなおかしの製造を目指しているのだ。
おかしの販売には宣伝が重要だ。
一度食べれば中毒になって、食べ続け無ければ生きていけない素敵なおかしを作ったとしても、先ずはそれを食べてもらわないと話しにならない。
そして、食べてもらう前に知ってもらわなければいけない。
だから、ウチの会社では伝統的に広報部の地位は強いんだって、亜美さんは言ってた。
伝統も何も新興企業なのだが。
ぼくは部長の部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
一礼して中に入る。
中にいたのは部屋の主の広報部長の亜美さんと研究開発部長の田中さんだ。
亜美さんは大きな胸を張って、足を組んで椅子に座ってる。田中さんはしわくちゃの白衣を羽織って、汚れたメガネをいじっている。
「来たわね、神月くん。今度の仕事は重要よ」
亜美さんの声に身構える。
机の上にはラーメンが置かれている。
お昼ごはん?それとも、、、
「、、、ひょっとして、ターゲットはラーメンですか?」
「流石ね、神月くん。その通りよ。提携第一号は豆乳こんにゃくダイエットラーメンで決まりっ、よ」
「と、豆乳こんにゃくダイエットラーメン?ですか」
おかしの製造販売が軌道に乗った事で、弊社はさらなるターゲットを探した。
多分野への拡張や進出も一つの手段ではあるが、それは我々広報部の仕事ではない。
弊社の既存リソースである顧客基盤ネットワークを元に、他の事業者の製品を販売する橋渡しをする、と言うのが広報部のミッションなのだ。
その為にぼくは採用された。
「で、キミならどう売る?」
「えっとですねぇ」
部長の問いにどう答えるかでぼくの今後の出世とかストックオプションとかに影響する。ぼくは頭を高速で巡らす。
ダイエットか。
確かにこんにゃくはカロリーが無いからな。
「ダイエットしたいあなたに朗報!超低カロリーの奇跡のラーメンがここに降臨っ!、、、とかやるのは下策ですね。それでは当たり前すぎて売れません」
「ふん」
田中部長が鼻を鳴らす。
「弊社の顧客基盤は、ニッチで濃い客層が中心です。男の子が女の子に変身してしまうというファンタジーを好む層なのですから顧客基盤にマッチした戦略を取る必要があります。そもそも、インターネットを使用した宣伝は如何にあるべきかっ!大体、同じような宣伝をするのなら、優秀なコピーライターが作ったコピーをあちこちに貼り付ければいいのです。二流、三流の素人に宣伝させるのなど下の下ですっ!」
ぼくは熱弁を奮う。
正直言うと、豆乳こんにゃくダイエットラーメンの宣伝をやるとは思って無かったが、ウチがインターネットを使った宣伝をやる事は前から分かってた。だからある程度の筋は考えてたのだ。
伊達にMBAは出ていない。
そして、仕事で大切なのは中身では無い。
上司に与えた印象なのだ。
「こいつは出来る」とか、「切れるな」と印象を与えるかどうか。その為には、プレゼン力が重要なのだ。
自分のプランを良く見せる為に、他人のプランを落とすのは道義的には良くないが、、、ぼくの出世の為だからしょうがない。
「サイトの客層はそれぞれ違います。お客様がサイトに来る目的も違います。そのサイトの客層に合わせた宣伝こそが求められるのです。ウチの客層は必ずしも豆乳こんにゃくダイエットラーメンを売る対象としては好ましくありません」
まずは状況の分析が大事だ。
ぼくは良く知らないのだが、ウチの客層は男の子が変身して女の子になる話は好きなのだが、女装とはちょっと違うらしいのだ。そして、ホモとも、ニューハーフとも違うらしい。
そして、更によく分からないのが、女の子に変身してから男にやられるのが良いと言う一派と、女とやるのが良いと言う一派がいるらしいのだ。
、、、わからん。
その辺はまだ勉強中だ。
「ふむ。それで?」
「ですが、豆乳こんにゃくダイエットラーメンと言うのは新規性のある製品です。おそらくほとんどの人は食べたことが無い。味を想像するのも難しい。弊社の顧客基盤は、想像力と好奇心にかけては一般人に比べて旺盛なのではないか、とぼくは思います。そこを突けば今回のプロジェクトにも勝算が出てくるのではないでしょうか」
状況の掘り下げ。しゃぺっている内にだんだんアイデアがまとまってくる。
「あなたの知らない新たな快楽が待っています。しかも、ローリスク。なるほど悪くないプランね、神月くん」
亜美さんも乗ってきた。もう一押しだ。
「こんにゃくラーメンの触感、味。それらを想像させ、好奇心を刺激してやるのです。更に、オタクは基本的にみんな太ってますし、運動が嫌いです。女の子に変身するストーリーの一典型は、それまで平凡だった主人公が女の子に変身するだけで急に回りからちやほやされ出すのです。即ち、努力無しに得られる幸運。運動しなくてもやせられるラーメンと近い部分もあるのです。そこも的確についてやる。そうすれば思わず、クリックしてですね」
「ふむふむ」
部長もノリノリだ。これでぼくの査定も。えへへ。
「先ずは実際に自分で経験した方が良いですね。やっぱりそれが広報の基本ですし」
「おお!」
言ってるうちにぼくも気になってきた。一体どんな味なんだ。
ぼくは亜美さんの机の上のラーメンに手を伸ばす。
その時っ。
ぼくの接近に気付いた“それ”らは一斉に鎌首をもたげた。
「へ?」
一瞬の躊躇が命取り。
“それ”らは一斉にぼくの口めがけてジャンプした。
ぼくはあわてて口を手で覆う。
「あ、そのラーメンは今回の豆乳こんにゃくダイエットラーメンとはまったく関係の無い、ウチの新製品の女性変身ラーメンじゃから」
田中さんがのんびり言う。
き、聞いてねー!
あ、鼻。
鼻は駄目っ。
鼻の穴からラーメンがぼくの中に入ろうと殺到する。
「うわぁー」
思わず漏らした悲鳴。
その隙を逃さず、女性化ラーメンはぼくの中に次から次へとずるずる入っていく。
「ごくん」
ぼくは全ての女性化うどんを飲み干してしまった。
「な、なんでこんなものがここにっ!」
亜美さんは冷ややかにぼくを見る。
急に汗がだらだらと出る。
体が熱い。
ラーメンが血管を通って蚯蚓腫れを作りながら走り回る。
そして体のあちこちや脳に作用する。
なんだか変な気分。
く、苦しい。
ぼくはネクタイを外して、ワイシャツのボタンを外す。
胸がどんどんどんどん大きくなる。
ああああ。
そして、下半身も変化を。
お尻がおっきくなり、ぼくの大切なものが消える。
とほほー。
ぼくはすっかり全身可愛い女の子になってしまう。
内股でもじもじするぼく。
「ふむ。実験成功っと」
田中さんは何事も無かったようにノートに何やら書き込む。
「女の子に変身する事と豆乳こんにゃくダイエットラーメンの販促と、、、はて?」
亜美さんが冷ややかに突っ込む。
いや、これは事故なんですけど。
だいたいなんでそんな紛らわしくて危険なものがこんなとこにあるんだ!?
「だからですね」
「おおっ。流石は神月くん。これの事も知っていたのか!?」
うわわわーんっ。
「いや、その」
「自分で経験する為に、女の子に変身、か。流石は我があむぁいおかしカンパニーの期待の新人広報部員。偉いわ、神月くん」
「え、えええええー」
「では、実際に着てみて顧客の想像力を刺激するようなキャッチフレーズを考えてくれたまえ」
「あ、あのっ。亜美さんが着てみてはどうでしょうか?」
必死の反撃。
「ん?ウチの顧客は男ばっかりだから、参考にならんだろう」
くうううー。
き、着るのか!?
これを?
ぼくが?
「いや、ぼくは男なので、、、」
「神月くん。広報部の人間が軽々しくウソを言ってはいけないな」
亜美さんの冷たい視線。
あう。
「す、すいません」
「私は愚図は嫌いだ」
うわぁーん。
ぼくは視線に負けて、着替え始める。
こ、こんなのはっ。
気にしなければなんて事は無いんだっ。
「で、どんな感じでそれは宣伝するね?」
「あ、えとですね。網タイツの感触が新鮮でっ。すね毛とか全部無くなってて。頼りなくって。でも、すべすべで。ハ、ハイレグの切れ込みがなんか、すごくって。もう、訳が分からなくってですねっ。と、とっても恥ずかしくって。見られててですねっ。あっ、ダメです。止めてください亜美さんっ。ダメですったら」
「神月くん、こう胸の谷間にラーメンを挟んで。『私を食べて』なんてキャッチコピーで勝負しましょう。そうしましょう」
「お、オヤジか、あんたはーっ!」
ついにぼくは切れる。
けど、その声は高くってまるっきり女の子の声で。
結局、ぼくは谷間にこんにゃくラーメンを挟んで、にっこり笑ってポーズした写真でコンテストに勝負を賭ける事になったのだ。
<おしまい>
このお話は勿論フィクションであり、女性化ラーメンと豆乳こんにゃくダイエットラーメンは全くの別物です。商品の購入に関しましては、リンク先の内容をよく確認してなさるようにお願いします。基本的に商品へのクレーム等はお受けできませんが、「豆乳こんにゃくダイエットラーメンを食べたが女の子にならなかった」と言う類のクレームはしょうがないので当方へお願いします。
2005年4月1日付けの作品ですが、巴ちゃんにイラストを描いてもらいました♪ちなみにラーメンは一つも売れませんでしたorz
投稿TS小説 貧しいマント(4) 最終回 by.りゅうのみや
……
…………
「はっ、ここは?」
「ゆんちゃん! 良かった、もう目が覚めないかと思った」
「まったく、無茶ばかりするんだから」
「げ、お…お母さん」
「まぁ、その無鉄砲さもたまには役に立つじゃない、62点」
なんすか、その評価、しかも微妙な点数だし。
「ここ、病院? じゃあ、助かったのか」
お母さんの話だとあの後、捜索隊が駆け付けてくれて無事二人を救出したらしい。
萌は目立った外傷がなかったのだが、私は衰弱が激しいとの理由で病院に搬送されたそうだ。
いずれにしても精密検査の結果、二人とも大事には至らなかったのだが…。
「優、萌ちゃんを探し出して本当にお利口さんねぇ」
やばい、こういった口調の時は絶対に雷が落ちる。
「でも、自分を危険にさらす救助の仕方は褒められたものじゃないね。
そういったときは大人の人に助けを呼ぶのが正解なんだよ、知ってた?」
そう言いながら梅干し(こめかみのあたりをグリグリといたぶる刑罰)を仕掛けてきた。
「いたっ、いたたたたたたた! ちょ……ほんとに痛いんだけど」
「あ〜ら、本当の愛の鞭はこんなものじゃないわよ」
「も、もぅ、ゆんちゃんのおば……、お母さんもそれくらいで許してもいい…でしょ?」
今、絶対におばさんと言いかけたところで、殺気を感じて言い直したな。
ともかく、お小遣い三ヵ月間ゼロ円で決着がついた。
マントを渡したり救出を容認したかと思えば、
こういった仕打ちをするのだから放任主義の極みというべきか…。
いや、この人の場合、『経験から教訓を学べ』みたいな人だから、
これも社会勉強の一環として放置して、あとでみっちりと教え込むタイプなのかも。
そう考えると怖くなるので、考えをやめることにした。
衰弱しているとはいえ、回復も早かったので翌日には退院することができた。
日曜日の午後……
萌の両親に引越しの予定を調整してもらって、
こうして萌と最後のお別れをするため、あの公園にいる。
「ここが初めてで、そして最後の場所でもあるんだね」
「そうだね、子猫を助けるためにやってきた可愛らしい子、
それがゆんちゃんだった」
「指切りする時は胸が痛かったのを覚えているよ、
あの時はホントは男の子で、萌に嘘つきながら友達として付き合うことになったんだから」
「あはは、でも私はゆんちゃんが男か女なんて別に気にしてないよ、
だって、私にとっては、ゆんちゃんはゆんちゃんなんだら」
…まったく、恥ずかしいことを屈託のない笑顔で言うもんだから、
逆に私の方が恥ずかしくなってしまうじゃない。
『あの時は…』、と私が言うのも理由があって、
昨日の出来事で、萌を助けるために力を使い果たした私は、
もう変身する力を失ってしまったのだ。
そして、私が最後に変身したのは女の子だった。
だから、私はこれからは男の子ではなく、女の子として生きなければならない。
「なぁ萌?」
「なぁに、ゆんちゃん」
「その……、もし好きだった人が男だったら、萌は嫌いになった?」
「ううん、そんなことないよ。ゆんちゃんは私にとっての怪盗キッド、
私のハートを奪う恋人だよ。
だって、私を助けるために命をかけたのだもの」
相変わらず恥ずかしいことを素で言えるな。
「さあ、萌、そろそろ時間だ。
最後のお別れをして車に乗りなさい」
……、そういえば今までこんなくさい話を聞いていても
びくともしない萌のお父さんは大物かもしれない。
「ゆんちゃん、あの貧しいマント、私にくれない?」
「え、どうして?」
「だって、あのマントには思い出がいっぱい詰まった宝物だから。
それにもうあのマントはボロボロで使わないでしょう?」
誰のせいでボロボロになったのか問い詰めたかったけど、
確かにもう変身できない私には無用の長物だった。
「はい、これを私だと思って大切にしてね」
「うん、ゆんちゃん、ありがとう」
「ほら、萌、もう時間だ。車に乗って」
「うん、わかったわ」
バタン
車のドアが閉まると今まで平常を装っていた仮面が崩れたような気がした。
もう、萌に会えなくなると思うと胸が締め付けられそうな思いになった。
だからわたしは…、
「もえーーーーっ!」
「ええっ!? ゆんちゃん!」
走り去る車を必死に追いかけようとした。
もちろん人と車の差は歴然としているので、走るだけでは萌のもとには届かない。
そこでお別れの言葉をありったけの力を振り絞ってこう叫んだ。
「萌ーーっ、大人になったらお前を私のお嫁さんにするっ!
だから、その時まで待っていてなーっ!」
「ゆんちゃん……、わかったわ。私もその言葉を信じるわ!」
もう、車は見えなくなった。
思い返すとこの半年間、萌しか見てなかったのかもしれない。
そして、私を女にした人でもあった。
それだけに別れは凄く、すごく辛かった。
11年後……
「はぁ、成人式もようやく終わったのね」
近くの会館ホールから外に出た私はそう呟いた。
まったく、今でも母親の人形扱いから解放されないのだろうか。
私としては振袖で向かえたかったけど、親の意向によって結構奇抜な服装をしている。
白のタキシードにシルクハットはどう考えても成人式で着ると浮きすぎている。
同級生からは可愛らしいという反応と、カッコいいという反応に困るコメントを残す人がいた。
ちなみにあの日以降、男に戻れなくなった以上、私の体は徐々に女っぽくなってきた。
第二次性徴の変化って、ここまで変わっていくものかと正直自分にびっくりする。
今の私は華奢な体とは裏腹に豊満な胸、髪の毛は相変わらずのウェーブが
胸元の高さまで達していて、十分に大人の魅力をアピールしている。
それだけ魅力的であれば、普通に振袖を着た方がずっと似合うことだろう。
ちなみにもう女性として生きていくことになったのだから、
戸籍上は『すぐる』だが、実際に使う時は『ゆう』と呼び方を変えている。
けんちゃんとは一線を置くようになった。
もちろん友達としての仲をやめたわけではないのだが、
大きくなるにつれ、けんちゃんはスポーツやゲームに、
私はオシャレや料理に関心が傾いたため、
共通の話題が少なくなり、そのため以前のような分け隔てのない関係は難しくなった。
また、女子の反応も当初は賛否両論で、
『おとこおんな』という理由でのけ者にされていた時期があったのだが…。
まぁ、さすがに一年も過ごしていればそういった陰湿なイジメもなくなった。
とにかく女として慣れるはじめの何年間は苦労が絶えなかった。
これもすべて『あの人』のせいなのだが……
「あ、ゆんちゃん! おっひさ〜」
「え……?」
この呼び方を使う人は一人しかいない。
私を女にした張本人だ!
「もう、すっかり大人にちゃって、可愛いよゆんちゃん」
「やっぱり、萌!? どうしてここに?」
「えへへ、また引っ越し。転勤族だから仕方ないけどね。
でももうお父さん定年近いから、多分ここで骨を埋もれるかも」
そっか、もう会えないかと思ったけど、こんな形で出会えるのか。
あの頃のあどけなさを若干残しつつ、可憐で懐かしい笑顔がそこにあった。
「あれ、ゆんちゃん、お顔が真っ赤」
「し、知らないわよ、こんなフェイント聞いてないわよ」
「私が呼んできたのよ」
「え、お母さん?」
「一ヶ月前にこの近く戻って、挨拶しに来たのよ、自宅まで。
いや、挨拶もそこそこに、いきなり『私をゆんちゃんのお嫁さんにしてください!』ですもの。
あれにはちょっとびっくりしたわ」
「萌、もしかしてあの約束をまだ…」
今でも忘れない大切な思い出となっていたのか……。
「私にとってはあの日の思い出は永遠ですもの、忘れたりはしません!」
確かに私も、今でも萌のことを思うと夜も眠れないこともあるし、
萌が帰ってくることを待ち侘びて彼氏を作ろうとはしなかった。
でも、今の私は完全な女性。
あの時の無責任な約束は効力を果たすことができないかもしれない。
「でも、私はこんな姿をしているわ。
一応戸籍としては男性で通しているけど、親は許してはくれないって」
「何のために呼んできたのか分からないようだね、優はそれでよくって?」
「え、どういうこと…?」
「私も女性になった時、散々だったわ。何しろうちの旦那が家にやってきて
『息子を嫁にください』ですもの。娘ではなく息子とね。
あんな出来事があったから、優にもこういう日が来るんじゃないかと思っていたわ。
だから、お父さんとお母さんは萌ちゃんの提案を了承したよ。
向こうの方のご両親の方とも、とりあえずだけど話は通しておいたわ。
もっともまだ学生だから、経済的基盤がしっかりできてからと釘を刺されたけど」
「え、それって……」
「もう、ニブチンなんだから。恋人として付き合ってもいいってこと」
「う…うそ、許してくれないかと思ってた。
私、今でも萌のこと好きだから……」
だから今はすごくうれしい。
「じゃあ、ゆんちゃん、これ着てみる?」
「これは…?」
見るとそれは上等そうなマントだった。
まるで怪盗キッドのように見えるマントに思わず魅入っていた。
「あの貧しいマントは、もう小さくてサイズが合わないから。
今でもあのマントは大切にしまっているけど、
着る機会もあるかなと思って、ゆうちゃんのためにそれを特注したの!」
え…、それってそれなりにお金を費やしたんじゃあ……
「ゆんちゃんは私だけの怪盗キッドだから、そのマントを着てみて。
そして私をだっこして。だってゆんちゃんは私の心を奪うのだから」
それってルパンに出てくるカリオストロのつもりか?
銭形のとっつぁんも粋なのか、それとも夢見がちな性格なのか…。
そして、こいつも相変わらず夢見がちだ。
だけど、そんな萌を私は好きになったのだから。
白いタキシードにシルクハット、
そして萌の手によって新しくなった『貧しいマント』を身に着けた私は、
萌をお姫様だっこの形で持ち上げた。
う〜ん、できればお姫様だっこは私の方がされたいのだが。
それに華奢な体では萌の全体重を長い間持ち上げることは無理そうだった。
「お、おかーさん、写真撮るのなら早めにお願い。
早くしないと……、私もう限界…」
「いちいち大げさに言わないの、それは結婚の重みよ。
萌ちゃんを幸せにする一生分の重みがのしかかっているのだから、少しは我慢なさい」
「ゆんちゃん、ファーストキスはレモン味って言うじゃない。
酸っぱい思い出もこれからの青春の一ページに加えられるよ」
ふ、ふたりして、そんな無茶な……
そう思いつつも萌ともう一度出逢えたこと、
いずれ結婚できることに私の胸の高鳴りはやみそうになかった。
「いくよーっ、はいチーズ!」
同級生のはやし立てる声援を尻目に、
私と萌はデジタルカメラに向かって蔓延の笑みでポーズを決めた。
(おしまい)
(あとがき)
作者が偏屈なのか、小学生という性質上、性描写を排除したTSの常識を
真っ向から対抗する作品に仕上がりました。
もはや主人公が男性か女性かというより年齢的に中性だし。
本来なら一番TS主人公に仕立てやすい優の母親を
変人(?)に仕立て上げたあたり、なんか精神的に病んでるのかもしれない(苦笑)
(救出にはやる息子を逆に応援したかと思えば、
朝食の代わりにマントと煙玉を渡すなんて、ありえねぇ)
…………
「はっ、ここは?」
「ゆんちゃん! 良かった、もう目が覚めないかと思った」
「まったく、無茶ばかりするんだから」
「げ、お…お母さん」
「まぁ、その無鉄砲さもたまには役に立つじゃない、62点」
なんすか、その評価、しかも微妙な点数だし。
「ここ、病院? じゃあ、助かったのか」
お母さんの話だとあの後、捜索隊が駆け付けてくれて無事二人を救出したらしい。
萌は目立った外傷がなかったのだが、私は衰弱が激しいとの理由で病院に搬送されたそうだ。
いずれにしても精密検査の結果、二人とも大事には至らなかったのだが…。
「優、萌ちゃんを探し出して本当にお利口さんねぇ」
やばい、こういった口調の時は絶対に雷が落ちる。
「でも、自分を危険にさらす救助の仕方は褒められたものじゃないね。
そういったときは大人の人に助けを呼ぶのが正解なんだよ、知ってた?」
そう言いながら梅干し(こめかみのあたりをグリグリといたぶる刑罰)を仕掛けてきた。
「いたっ、いたたたたたたた! ちょ……ほんとに痛いんだけど」
「あ〜ら、本当の愛の鞭はこんなものじゃないわよ」
「も、もぅ、ゆんちゃんのおば……、お母さんもそれくらいで許してもいい…でしょ?」
今、絶対におばさんと言いかけたところで、殺気を感じて言い直したな。
ともかく、お小遣い三ヵ月間ゼロ円で決着がついた。
マントを渡したり救出を容認したかと思えば、
こういった仕打ちをするのだから放任主義の極みというべきか…。
いや、この人の場合、『経験から教訓を学べ』みたいな人だから、
これも社会勉強の一環として放置して、あとでみっちりと教え込むタイプなのかも。
そう考えると怖くなるので、考えをやめることにした。
衰弱しているとはいえ、回復も早かったので翌日には退院することができた。
日曜日の午後……
萌の両親に引越しの予定を調整してもらって、
こうして萌と最後のお別れをするため、あの公園にいる。
「ここが初めてで、そして最後の場所でもあるんだね」
「そうだね、子猫を助けるためにやってきた可愛らしい子、
それがゆんちゃんだった」
「指切りする時は胸が痛かったのを覚えているよ、
あの時はホントは男の子で、萌に嘘つきながら友達として付き合うことになったんだから」
「あはは、でも私はゆんちゃんが男か女なんて別に気にしてないよ、
だって、私にとっては、ゆんちゃんはゆんちゃんなんだら」
…まったく、恥ずかしいことを屈託のない笑顔で言うもんだから、
逆に私の方が恥ずかしくなってしまうじゃない。
『あの時は…』、と私が言うのも理由があって、
昨日の出来事で、萌を助けるために力を使い果たした私は、
もう変身する力を失ってしまったのだ。
そして、私が最後に変身したのは女の子だった。
だから、私はこれからは男の子ではなく、女の子として生きなければならない。
「なぁ萌?」
「なぁに、ゆんちゃん」
「その……、もし好きだった人が男だったら、萌は嫌いになった?」
「ううん、そんなことないよ。ゆんちゃんは私にとっての怪盗キッド、
私のハートを奪う恋人だよ。
だって、私を助けるために命をかけたのだもの」
相変わらず恥ずかしいことを素で言えるな。
「さあ、萌、そろそろ時間だ。
最後のお別れをして車に乗りなさい」
……、そういえば今までこんなくさい話を聞いていても
びくともしない萌のお父さんは大物かもしれない。
「ゆんちゃん、あの貧しいマント、私にくれない?」
「え、どうして?」
「だって、あのマントには思い出がいっぱい詰まった宝物だから。
それにもうあのマントはボロボロで使わないでしょう?」
誰のせいでボロボロになったのか問い詰めたかったけど、
確かにもう変身できない私には無用の長物だった。
「はい、これを私だと思って大切にしてね」
「うん、ゆんちゃん、ありがとう」
「ほら、萌、もう時間だ。車に乗って」
「うん、わかったわ」
バタン
車のドアが閉まると今まで平常を装っていた仮面が崩れたような気がした。
もう、萌に会えなくなると思うと胸が締め付けられそうな思いになった。
だからわたしは…、
「もえーーーーっ!」
「ええっ!? ゆんちゃん!」
走り去る車を必死に追いかけようとした。
もちろん人と車の差は歴然としているので、走るだけでは萌のもとには届かない。
そこでお別れの言葉をありったけの力を振り絞ってこう叫んだ。
「萌ーーっ、大人になったらお前を私のお嫁さんにするっ!
だから、その時まで待っていてなーっ!」
「ゆんちゃん……、わかったわ。私もその言葉を信じるわ!」
もう、車は見えなくなった。
思い返すとこの半年間、萌しか見てなかったのかもしれない。
そして、私を女にした人でもあった。
それだけに別れは凄く、すごく辛かった。
11年後……
「はぁ、成人式もようやく終わったのね」
近くの会館ホールから外に出た私はそう呟いた。
まったく、今でも母親の人形扱いから解放されないのだろうか。
私としては振袖で向かえたかったけど、親の意向によって結構奇抜な服装をしている。
白のタキシードにシルクハットはどう考えても成人式で着ると浮きすぎている。
同級生からは可愛らしいという反応と、カッコいいという反応に困るコメントを残す人がいた。
ちなみにあの日以降、男に戻れなくなった以上、私の体は徐々に女っぽくなってきた。
第二次性徴の変化って、ここまで変わっていくものかと正直自分にびっくりする。
今の私は華奢な体とは裏腹に豊満な胸、髪の毛は相変わらずのウェーブが
胸元の高さまで達していて、十分に大人の魅力をアピールしている。
それだけ魅力的であれば、普通に振袖を着た方がずっと似合うことだろう。
ちなみにもう女性として生きていくことになったのだから、
戸籍上は『すぐる』だが、実際に使う時は『ゆう』と呼び方を変えている。
けんちゃんとは一線を置くようになった。
もちろん友達としての仲をやめたわけではないのだが、
大きくなるにつれ、けんちゃんはスポーツやゲームに、
私はオシャレや料理に関心が傾いたため、
共通の話題が少なくなり、そのため以前のような分け隔てのない関係は難しくなった。
また、女子の反応も当初は賛否両論で、
『おとこおんな』という理由でのけ者にされていた時期があったのだが…。
まぁ、さすがに一年も過ごしていればそういった陰湿なイジメもなくなった。
とにかく女として慣れるはじめの何年間は苦労が絶えなかった。
これもすべて『あの人』のせいなのだが……
「あ、ゆんちゃん! おっひさ〜」
「え……?」
この呼び方を使う人は一人しかいない。
私を女にした張本人だ!
「もう、すっかり大人にちゃって、可愛いよゆんちゃん」
「やっぱり、萌!? どうしてここに?」
「えへへ、また引っ越し。転勤族だから仕方ないけどね。
でももうお父さん定年近いから、多分ここで骨を埋もれるかも」
そっか、もう会えないかと思ったけど、こんな形で出会えるのか。
あの頃のあどけなさを若干残しつつ、可憐で懐かしい笑顔がそこにあった。
「あれ、ゆんちゃん、お顔が真っ赤」
「し、知らないわよ、こんなフェイント聞いてないわよ」
「私が呼んできたのよ」
「え、お母さん?」
「一ヶ月前にこの近く戻って、挨拶しに来たのよ、自宅まで。
いや、挨拶もそこそこに、いきなり『私をゆんちゃんのお嫁さんにしてください!』ですもの。
あれにはちょっとびっくりしたわ」
「萌、もしかしてあの約束をまだ…」
今でも忘れない大切な思い出となっていたのか……。
「私にとってはあの日の思い出は永遠ですもの、忘れたりはしません!」
確かに私も、今でも萌のことを思うと夜も眠れないこともあるし、
萌が帰ってくることを待ち侘びて彼氏を作ろうとはしなかった。
でも、今の私は完全な女性。
あの時の無責任な約束は効力を果たすことができないかもしれない。
「でも、私はこんな姿をしているわ。
一応戸籍としては男性で通しているけど、親は許してはくれないって」
「何のために呼んできたのか分からないようだね、優はそれでよくって?」
「え、どういうこと…?」
「私も女性になった時、散々だったわ。何しろうちの旦那が家にやってきて
『息子を嫁にください』ですもの。娘ではなく息子とね。
あんな出来事があったから、優にもこういう日が来るんじゃないかと思っていたわ。
だから、お父さんとお母さんは萌ちゃんの提案を了承したよ。
向こうの方のご両親の方とも、とりあえずだけど話は通しておいたわ。
もっともまだ学生だから、経済的基盤がしっかりできてからと釘を刺されたけど」
「え、それって……」
「もう、ニブチンなんだから。恋人として付き合ってもいいってこと」
「う…うそ、許してくれないかと思ってた。
私、今でも萌のこと好きだから……」
だから今はすごくうれしい。
「じゃあ、ゆんちゃん、これ着てみる?」
「これは…?」
見るとそれは上等そうなマントだった。
まるで怪盗キッドのように見えるマントに思わず魅入っていた。
「あの貧しいマントは、もう小さくてサイズが合わないから。
今でもあのマントは大切にしまっているけど、
着る機会もあるかなと思って、ゆうちゃんのためにそれを特注したの!」
え…、それってそれなりにお金を費やしたんじゃあ……
「ゆんちゃんは私だけの怪盗キッドだから、そのマントを着てみて。
そして私をだっこして。だってゆんちゃんは私の心を奪うのだから」
それってルパンに出てくるカリオストロのつもりか?
銭形のとっつぁんも粋なのか、それとも夢見がちな性格なのか…。
そして、こいつも相変わらず夢見がちだ。
だけど、そんな萌を私は好きになったのだから。
白いタキシードにシルクハット、
そして萌の手によって新しくなった『貧しいマント』を身に着けた私は、
萌をお姫様だっこの形で持ち上げた。
う〜ん、できればお姫様だっこは私の方がされたいのだが。
それに華奢な体では萌の全体重を長い間持ち上げることは無理そうだった。
「お、おかーさん、写真撮るのなら早めにお願い。
早くしないと……、私もう限界…」
「いちいち大げさに言わないの、それは結婚の重みよ。
萌ちゃんを幸せにする一生分の重みがのしかかっているのだから、少しは我慢なさい」
「ゆんちゃん、ファーストキスはレモン味って言うじゃない。
酸っぱい思い出もこれからの青春の一ページに加えられるよ」
ふ、ふたりして、そんな無茶な……
そう思いつつも萌ともう一度出逢えたこと、
いずれ結婚できることに私の胸の高鳴りはやみそうになかった。
「いくよーっ、はいチーズ!」
同級生のはやし立てる声援を尻目に、
私と萌はデジタルカメラに向かって蔓延の笑みでポーズを決めた。
(おしまい)
(あとがき)
作者が偏屈なのか、小学生という性質上、性描写を排除したTSの常識を
真っ向から対抗する作品に仕上がりました。
もはや主人公が男性か女性かというより年齢的に中性だし。
本来なら一番TS主人公に仕立てやすい優の母親を
変人(?)に仕立て上げたあたり、なんか精神的に病んでるのかもしれない(苦笑)
(救出にはやる息子を逆に応援したかと思えば、
朝食の代わりにマントと煙玉を渡すなんて、ありえねぇ)
投稿TS小説 貧しいマント(3) by.りゅうのみや
急いで走って公園まで辿り着いた。
ここから萌の足跡を導き出せばいいのだが……。
萌がどんな行動をするのか、もう一度頭の中で整理してみた。
ああ見えて以外に行動派で、思いついたまま実行に移すタイプだった。
それから……、そうだ猫だ!
萌は無類の猫好きで、初めて出会った時も猫を助けようと四苦八苦している時だった。
行動派、そして猫を助けるのを度々する……
それから考え出した結論はいたってシンプルだった。
「あいつ、猫助けようとして迷子になったのだな!」
僕は公園の周囲で特に危険な場所を洗いざらい探してみることにした。
まずは林道、ここは道から少しでも外れたならば、
ジャングルのような構造になっていて迷いやすい。
「おーい、萌! いるのか! いないのか! 返事をしてこーい!」
……
………しかし、虱潰しで探しても成果はなかった。
林の中を駆け巡ったため、服は泥だらけになっていた。
くそっ、萌のやつ、最後の最後まで面倒を掛けてくる。
林道でなければ、あとは川辺りが危険な場所なのだが……。
あいつ、川を渡ったりしてないだろうな。
川となると範囲が広くなるが、林と違って発見率もかなり上がるはず。
そうなると、死角となっている場所の方が、
捜査の行き渡っていない場所である可能性が高い。
川の近くで、死角となりやすい場所といえば……あの鉄橋の下あたりが怪しい。
もう老朽化が激しいために使われなくなった鉄橋がある。
あそこなら交通量もほとんどないし死角となりやすい場所に違いない。
朝食もろくに食べていないためか、疲労が目に見えて激しく、
歩くのも精一杯であった。
なんでこんなに必死になってるのだろう。
それは自分でもわからなかった。
ただ萌を見つけ出したい、それだけが動機となっていた。
相変わらずここは誰もいないなと感じた。
民家などほとんどなく、主要な交通網があるわけでもなく、完全に田舎の風景だった。
鉄橋は道がもはやガタガタに裂けていたり割れていたりで、
とても自動車を走らせる環境ではなかった。
「萌ー! どこだ萌ー!」
『にぁーっ』
鉄橋の下から猫の鳴き声が聞こえてきた。
猫とくればピンと来ないはずがなかった。
僕は河川敷に降りて鉄橋の下を重点的に探してみた。
いた!
萌は鉄橋の中腹にある、支柱の小さな陸地の片隅に猫と一緒にいた。
いや、倒れていた。
最悪の事態を想像して急いで駆け寄ろうとした。
「うわわ、意外と流れが速いな」
夕べに降っていた雨のせいか、いつもより若干流れが速く感じた。
雨がなければ渡りきることもできる川なのだが、今は増水もしていて非常に危険だった。
しかしまだ幼い僕にとって、身の安全のことなど頭に入ってなかった。
「どうすれば渡りきることができるのだろうか…。
そうか、直線距離で行こうとするから流されるんだ。
もっと上流から歩けば斜めに歩くことによってうまく辿りつけるぞ」
一応科学的な理論だが、それでも無茶もいいところだった。
靴を脱いで、意を決して川に足を入れた。
いつもなら足首程度の深さしかない川も、今日は弁慶の泣き所の高さまで達していた。
思っていたより大分流されていったが、
予め上流から渡ってきたので、渡りきれない距離ではない。
現に、もう川の半分を渡り切っていたのだ。
「あとは流れに従いつつも溺れない程度に下っていけば……」
……
…………
はぁはぁ、ようやくたどり着いた。
「おい、大丈夫か萌?」
「う……うぅん」
よかった、単に眠っていただけか。
しかしこいつのボーイフレンドになる人は災難なんだろうな。
いや、その役をいままで僕が担っていたのだが…。
「ふぁ〜っ、よく寝た。……あれ? あなた誰?」
「誰って…もちろん、ゆ………ああぁぁっ!」
うっかりしていた、急いでいたためまだ変身をしていなかったのだ。
そのため今の僕は萌のよく知っている『ゆんちゃん』ではなく、
『すぐる』という全くの別人だった。
「え……えっと、ゆうの男友達で、すぐるっていうの」
「すぐる…?」
「そ、そうなんだ。
萌がいなくなったというので、一緒に探していたの」
「え、そうなの? ……あなたがゆんちゃんじゃないの?」
「え…っ、ど、どうしたのいきなり」
「だってボロボロに擦り切れているけど、
そのマント、ゆんちゃんがよく着ている『貧しいマント』じゃないの?」
しまった!
つい促されるままにマントを羽織ってしまったのが災いした。
「い…いや、あの、それは……え〜っと」
「ゆんちゃん!」
「は、はいっ」
いきなりドスの入った声にびっくりして、言い訳の言葉をやめた。
「この川を渡って私のために助けに来たのはゆんちゃんしかいないのよ!
誰か別の人ならここまで自分の身を張ってまで来ることはしないでしょう?」
確かに余程の理由がなければこうまでして助けたりはしないだろう。
冷静になって考えれば、川を渡らなくても誰かに知らせれば済む話だった。
でもそうしなかった、なぜなんだろう。
「もう、ゆんちゃんのニブチン。
ゆんちゃんは私のことが好きだから必死になって助けに来たのでしょう!
なんでもっと自分に素直になれないの?
自分に嘘をついてるゆんちゃんより、ありのままのゆんちゃんでいて…
お願い、私が好きなゆんちゃんでいてくれて…」
僕が……、萌を…好きだって?
考えもしなかったことだった。
ただ、萌とは女友達で、それ以上でも以下でもないと思っていたから。
もう一度、萌と出会って今までのことを思い返してみた。
すっごく明るくて、子猫を助ける勇気があって、少し変わった性格の持ち主。
ずっと僕のことを慕っていて、その笑顔を見るとドキッと感じることも何度かあった。
でも、萌にとっての僕の存在はすぐるではなく、ゆんちゃんなのだから。
女の子同士で好きになったらいけないと思って、
ずっと自分の気持ちを押し殺していたのかもしれない。
改めて萌を見てみる。
ドキッ、ドキドキドキ……
あれ、何だろうこの胸の鼓動は?
萌をここまで愛しいと思ったことはなかった。
そっか、そうだったんだ。
初めて会ったときからお互い惹かれ合っていたのかもしれない。
だからまずは友達として付き合っていたのかもしれない。
「……そうかもしれない。私…、萌のこと好きだと思う」
「じゃあやっぱり、ゆんちゃんなのね?」
「そのまま、お互いの気持ちに気がつかないまま、
引っ越しした方が良かったのかもしれないのだけれど…」
そう言いながら私は煙玉を手にして地面にたたきつけた。
ボンっ!
霧が晴れるとすぐるという男の子の姿はもうなく、
萌のよく知っているゆんちゃんになっていた。
もちろんマントは外側が赤になっている。
「ああ、私は大里優(すぐる)。でも萌だけにとってはゆんちゃんだよ」
「……ゆんちゃん、ゆんちゃん!」
大粒の涙を流しながら、私の胸に飛びついてきた。
「私、ゆんちゃんのことが大好き! もうゆんちゃんから離れたくない…」
そこまで言われると、私も女冥利(?)に尽きるといったものだ。
……
…………
それから私は二人で河川敷に戻る作戦を練っていた。
「で、萌はどうやってここまで来たの?」
「どう…って、普通に。猫が出られなくなったので私が助けようと、
ここまで普通に歩いてきたけど?」
「どういうこと? この速い流れを『普通に』渡れるはずがない」
「あの時は、まだ雨が降ってなくて、無理なく来れたけど」
あ、そっか。
確かに雨が降り出したのは夕べだったからな。
「で、猫を助けた時には気付いたけど、
その時には雨が降ってきて、とても渡れるような状態じゃなかったの」
なるほど、つまり今のこの流れでは渡りきれないということか。
私一人であれば河川敷まで渡りきることはできるかもしれないが、
もう一人、厄介になるとなれば話は別だ。
まったく、こいつはいつもいつも面倒なこと引き起こして、
結果的に私がその処理を負う羽目になる。
ついさっき恋人同士になったというのに、
早くも溜め息をつくことになろうとは…。
もっともさっきの演出のために女の子になったこの体だと、
私でも危なっかしいのかもしれない。
「まあ、萌に目を瞑ってもらって、もう一度戻ったらそれで問題ないのだが…」
え…、目を瞑るって言ったな、私。
それって、人から見たら結構眩しいってことだよな。
そういえばけんちゃんも始めて変身を見た時には眩しさでしばらくの間、
目が見えなくなるとか言ってたような……。
変身する時の光によって人に知らせてみたらどうだろうか。
なかなか良策だと思った。
だが、ちょっとやそっとの光なら見逃してしまうかもしてない。
また、短い間光ったとしても、それはそれで見逃してしまうだろう。
そうなると、よほど強い光を放ちつつ、なおかつ連続して変身しなければならない。
変身の時にかかるエネルギーはそれなりにある。
しかも朝食をとってないのだから変身も制約がかかってしまう。
となれば、辺りを見渡しつつ、人がいることに気づいた時に変身する方が、
いないのにそうするよりずっと効率が良いと判断した。
それに捜索隊も派遣されていると思うので、光は直接救援信号として役立つ。
「よし、萌、誰か人が来てこないか注意深く見張っていて!」
「アイアイサー!」
「あ、…アイアイサー?」
「ゆんちゃんは怪盗キッドだから、その部下である私は命令に忠実であるべきです。
隊長、私は何としてもこの任務を遂行してみせます!」
いやいやいや、それはどこぞの軍隊みたいだったぞ。
しかしキラキラしたおめめで周囲を見渡している萌を見てると、
反論したくてもできそうになかった。
はぁ、まぁ張り切ってるだけましか。
……暫くして、
「あ、隊長。向こうに何人か人がいるのが見えます!」
「どれどれ、あぁ本当だ」
遠くにいるためはっきりしないが、捜索隊がこの付近に範囲を広げたのかもしれない。
よし、機は熟した。
「萌、今から合図を送るよ。
強い光がピカピカと光輝くから、猫は服の中に、
萌は地面に蹲っていいと言うまで目を開けちゃダメだよ」
「うん、わかった」
萌は言われたとおり服の中に猫を入れるとそのまま地面に蹲った。
さて、私の体力が尽きるのが先か、それとも捜索隊が発見するのが先か。
そう考えると身震いするが、そこでけんちゃんのよく使うあの言葉を思い出した。
『真のヒーローは逆境に立たされた時に本領を発揮するものであって、
弱きを助けようとするその思いこそ、必勝の秘訣である』
今の私はヒーローではなく、ヒロインなのだが、
確かに萌を助けようとする思いは誰にも負けてはいないかった。
けんちゃん、お前は最高の友人だよ。
今の私には迷いが一片たりともなかった。
ただ萌を救う、それだけが熱い情熱として漲っていた。
そして、私は力を解放した
ビカビカビカビカビカ
今までの中で一番強い光を、それも途切れることなく
変身することによって連射的に光を放っていった。
急激に体の中のエネルギーが消耗しているのが分かる。
お願い、早く……、早く私に気付いて……。
けんちゃんのあの言葉をもう一度思いに留め、
さらにより一層、強く光が周囲を照らしていった。
「おい、あそこを見ろ!」
「人だ、ライトか何かで救援信号を送っているぞ!」
意外と早く私たちの存在に気付いてくれたようだ。
もうこれで、私の役目は終わったようだ。
そう思うと急に緊張の糸が切れたのか、
ドサッ!
私はそのまま地面に倒れた。
「……え? ……ゆう? ゆんちゃん? ねえ、どうしたの?
…………………ゆ、ゆんちゃん!」
萌は私の姿を見て思わず飛び退いた。
「ねぇ、起きて、ゆんちゃん、
いいって言ってないのに目を開けたのは悪かったけど。
ねえ、お願いだから目を覚まして、
お願いだから、いつものように『また私を困らせることばかりしちゃって』と言ってよ!
お願い、ゆうううぅぅぅーーーーーっ!」
私の耳元で、誰かの声がしていた。
しかし、私の耳には届かなかった。
<つづく>
ここから萌の足跡を導き出せばいいのだが……。
萌がどんな行動をするのか、もう一度頭の中で整理してみた。
ああ見えて以外に行動派で、思いついたまま実行に移すタイプだった。
それから……、そうだ猫だ!
萌は無類の猫好きで、初めて出会った時も猫を助けようと四苦八苦している時だった。
行動派、そして猫を助けるのを度々する……
それから考え出した結論はいたってシンプルだった。
「あいつ、猫助けようとして迷子になったのだな!」
僕は公園の周囲で特に危険な場所を洗いざらい探してみることにした。
まずは林道、ここは道から少しでも外れたならば、
ジャングルのような構造になっていて迷いやすい。
「おーい、萌! いるのか! いないのか! 返事をしてこーい!」
……
………しかし、虱潰しで探しても成果はなかった。
林の中を駆け巡ったため、服は泥だらけになっていた。
くそっ、萌のやつ、最後の最後まで面倒を掛けてくる。
林道でなければ、あとは川辺りが危険な場所なのだが……。
あいつ、川を渡ったりしてないだろうな。
川となると範囲が広くなるが、林と違って発見率もかなり上がるはず。
そうなると、死角となっている場所の方が、
捜査の行き渡っていない場所である可能性が高い。
川の近くで、死角となりやすい場所といえば……あの鉄橋の下あたりが怪しい。
もう老朽化が激しいために使われなくなった鉄橋がある。
あそこなら交通量もほとんどないし死角となりやすい場所に違いない。
朝食もろくに食べていないためか、疲労が目に見えて激しく、
歩くのも精一杯であった。
なんでこんなに必死になってるのだろう。
それは自分でもわからなかった。
ただ萌を見つけ出したい、それだけが動機となっていた。
相変わらずここは誰もいないなと感じた。
民家などほとんどなく、主要な交通網があるわけでもなく、完全に田舎の風景だった。
鉄橋は道がもはやガタガタに裂けていたり割れていたりで、
とても自動車を走らせる環境ではなかった。
「萌ー! どこだ萌ー!」
『にぁーっ』
鉄橋の下から猫の鳴き声が聞こえてきた。
猫とくればピンと来ないはずがなかった。
僕は河川敷に降りて鉄橋の下を重点的に探してみた。
いた!
萌は鉄橋の中腹にある、支柱の小さな陸地の片隅に猫と一緒にいた。
いや、倒れていた。
最悪の事態を想像して急いで駆け寄ろうとした。
「うわわ、意外と流れが速いな」
夕べに降っていた雨のせいか、いつもより若干流れが速く感じた。
雨がなければ渡りきることもできる川なのだが、今は増水もしていて非常に危険だった。
しかしまだ幼い僕にとって、身の安全のことなど頭に入ってなかった。
「どうすれば渡りきることができるのだろうか…。
そうか、直線距離で行こうとするから流されるんだ。
もっと上流から歩けば斜めに歩くことによってうまく辿りつけるぞ」
一応科学的な理論だが、それでも無茶もいいところだった。
靴を脱いで、意を決して川に足を入れた。
いつもなら足首程度の深さしかない川も、今日は弁慶の泣き所の高さまで達していた。
思っていたより大分流されていったが、
予め上流から渡ってきたので、渡りきれない距離ではない。
現に、もう川の半分を渡り切っていたのだ。
「あとは流れに従いつつも溺れない程度に下っていけば……」
……
…………
はぁはぁ、ようやくたどり着いた。
「おい、大丈夫か萌?」
「う……うぅん」
よかった、単に眠っていただけか。
しかしこいつのボーイフレンドになる人は災難なんだろうな。
いや、その役をいままで僕が担っていたのだが…。
「ふぁ〜っ、よく寝た。……あれ? あなた誰?」
「誰って…もちろん、ゆ………ああぁぁっ!」
うっかりしていた、急いでいたためまだ変身をしていなかったのだ。
そのため今の僕は萌のよく知っている『ゆんちゃん』ではなく、
『すぐる』という全くの別人だった。
「え……えっと、ゆうの男友達で、すぐるっていうの」
「すぐる…?」
「そ、そうなんだ。
萌がいなくなったというので、一緒に探していたの」
「え、そうなの? ……あなたがゆんちゃんじゃないの?」
「え…っ、ど、どうしたのいきなり」
「だってボロボロに擦り切れているけど、
そのマント、ゆんちゃんがよく着ている『貧しいマント』じゃないの?」
しまった!
つい促されるままにマントを羽織ってしまったのが災いした。
「い…いや、あの、それは……え〜っと」
「ゆんちゃん!」
「は、はいっ」
いきなりドスの入った声にびっくりして、言い訳の言葉をやめた。
「この川を渡って私のために助けに来たのはゆんちゃんしかいないのよ!
誰か別の人ならここまで自分の身を張ってまで来ることはしないでしょう?」
確かに余程の理由がなければこうまでして助けたりはしないだろう。
冷静になって考えれば、川を渡らなくても誰かに知らせれば済む話だった。
でもそうしなかった、なぜなんだろう。
「もう、ゆんちゃんのニブチン。
ゆんちゃんは私のことが好きだから必死になって助けに来たのでしょう!
なんでもっと自分に素直になれないの?
自分に嘘をついてるゆんちゃんより、ありのままのゆんちゃんでいて…
お願い、私が好きなゆんちゃんでいてくれて…」
僕が……、萌を…好きだって?
考えもしなかったことだった。
ただ、萌とは女友達で、それ以上でも以下でもないと思っていたから。
もう一度、萌と出会って今までのことを思い返してみた。
すっごく明るくて、子猫を助ける勇気があって、少し変わった性格の持ち主。
ずっと僕のことを慕っていて、その笑顔を見るとドキッと感じることも何度かあった。
でも、萌にとっての僕の存在はすぐるではなく、ゆんちゃんなのだから。
女の子同士で好きになったらいけないと思って、
ずっと自分の気持ちを押し殺していたのかもしれない。
改めて萌を見てみる。
ドキッ、ドキドキドキ……
あれ、何だろうこの胸の鼓動は?
萌をここまで愛しいと思ったことはなかった。
そっか、そうだったんだ。
初めて会ったときからお互い惹かれ合っていたのかもしれない。
だからまずは友達として付き合っていたのかもしれない。
「……そうかもしれない。私…、萌のこと好きだと思う」
「じゃあやっぱり、ゆんちゃんなのね?」
「そのまま、お互いの気持ちに気がつかないまま、
引っ越しした方が良かったのかもしれないのだけれど…」
そう言いながら私は煙玉を手にして地面にたたきつけた。
ボンっ!
霧が晴れるとすぐるという男の子の姿はもうなく、
萌のよく知っているゆんちゃんになっていた。
もちろんマントは外側が赤になっている。
「ああ、私は大里優(すぐる)。でも萌だけにとってはゆんちゃんだよ」
「……ゆんちゃん、ゆんちゃん!」
大粒の涙を流しながら、私の胸に飛びついてきた。
「私、ゆんちゃんのことが大好き! もうゆんちゃんから離れたくない…」
そこまで言われると、私も女冥利(?)に尽きるといったものだ。
……
…………
それから私は二人で河川敷に戻る作戦を練っていた。
「で、萌はどうやってここまで来たの?」
「どう…って、普通に。猫が出られなくなったので私が助けようと、
ここまで普通に歩いてきたけど?」
「どういうこと? この速い流れを『普通に』渡れるはずがない」
「あの時は、まだ雨が降ってなくて、無理なく来れたけど」
あ、そっか。
確かに雨が降り出したのは夕べだったからな。
「で、猫を助けた時には気付いたけど、
その時には雨が降ってきて、とても渡れるような状態じゃなかったの」
なるほど、つまり今のこの流れでは渡りきれないということか。
私一人であれば河川敷まで渡りきることはできるかもしれないが、
もう一人、厄介になるとなれば話は別だ。
まったく、こいつはいつもいつも面倒なこと引き起こして、
結果的に私がその処理を負う羽目になる。
ついさっき恋人同士になったというのに、
早くも溜め息をつくことになろうとは…。
もっともさっきの演出のために女の子になったこの体だと、
私でも危なっかしいのかもしれない。
「まあ、萌に目を瞑ってもらって、もう一度戻ったらそれで問題ないのだが…」
え…、目を瞑るって言ったな、私。
それって、人から見たら結構眩しいってことだよな。
そういえばけんちゃんも始めて変身を見た時には眩しさでしばらくの間、
目が見えなくなるとか言ってたような……。
変身する時の光によって人に知らせてみたらどうだろうか。
なかなか良策だと思った。
だが、ちょっとやそっとの光なら見逃してしまうかもしてない。
また、短い間光ったとしても、それはそれで見逃してしまうだろう。
そうなると、よほど強い光を放ちつつ、なおかつ連続して変身しなければならない。
変身の時にかかるエネルギーはそれなりにある。
しかも朝食をとってないのだから変身も制約がかかってしまう。
となれば、辺りを見渡しつつ、人がいることに気づいた時に変身する方が、
いないのにそうするよりずっと効率が良いと判断した。
それに捜索隊も派遣されていると思うので、光は直接救援信号として役立つ。
「よし、萌、誰か人が来てこないか注意深く見張っていて!」
「アイアイサー!」
「あ、…アイアイサー?」
「ゆんちゃんは怪盗キッドだから、その部下である私は命令に忠実であるべきです。
隊長、私は何としてもこの任務を遂行してみせます!」
いやいやいや、それはどこぞの軍隊みたいだったぞ。
しかしキラキラしたおめめで周囲を見渡している萌を見てると、
反論したくてもできそうになかった。
はぁ、まぁ張り切ってるだけましか。
……暫くして、
「あ、隊長。向こうに何人か人がいるのが見えます!」
「どれどれ、あぁ本当だ」
遠くにいるためはっきりしないが、捜索隊がこの付近に範囲を広げたのかもしれない。
よし、機は熟した。
「萌、今から合図を送るよ。
強い光がピカピカと光輝くから、猫は服の中に、
萌は地面に蹲っていいと言うまで目を開けちゃダメだよ」
「うん、わかった」
萌は言われたとおり服の中に猫を入れるとそのまま地面に蹲った。
さて、私の体力が尽きるのが先か、それとも捜索隊が発見するのが先か。
そう考えると身震いするが、そこでけんちゃんのよく使うあの言葉を思い出した。
『真のヒーローは逆境に立たされた時に本領を発揮するものであって、
弱きを助けようとするその思いこそ、必勝の秘訣である』
今の私はヒーローではなく、ヒロインなのだが、
確かに萌を助けようとする思いは誰にも負けてはいないかった。
けんちゃん、お前は最高の友人だよ。
今の私には迷いが一片たりともなかった。
ただ萌を救う、それだけが熱い情熱として漲っていた。
そして、私は力を解放した
ビカビカビカビカビカ
今までの中で一番強い光を、それも途切れることなく
変身することによって連射的に光を放っていった。
急激に体の中のエネルギーが消耗しているのが分かる。
お願い、早く……、早く私に気付いて……。
けんちゃんのあの言葉をもう一度思いに留め、
さらにより一層、強く光が周囲を照らしていった。
「おい、あそこを見ろ!」
「人だ、ライトか何かで救援信号を送っているぞ!」
意外と早く私たちの存在に気付いてくれたようだ。
もうこれで、私の役目は終わったようだ。
そう思うと急に緊張の糸が切れたのか、
ドサッ!
私はそのまま地面に倒れた。
「……え? ……ゆう? ゆんちゃん? ねえ、どうしたの?
…………………ゆ、ゆんちゃん!」
萌は私の姿を見て思わず飛び退いた。
「ねぇ、起きて、ゆんちゃん、
いいって言ってないのに目を開けたのは悪かったけど。
ねえ、お願いだから目を覚まして、
お願いだから、いつものように『また私を困らせることばかりしちゃって』と言ってよ!
お願い、ゆうううぅぅぅーーーーーっ!」
私の耳元で、誰かの声がしていた。
しかし、私の耳には届かなかった。
<つづく>
投稿TS小説 貧しいマント(2) by.りゅうのみや
放課後、けんちゃんが昼休みに見捨てたことを根に持っていたので、
僕は一人で下校をしていた。
てくてく歩くこと十数分、公園についた。
学校と家を結ぶ所にあるので、いつも公園に寄り道しながら帰っていた。
「きゃーっ、ネコちゃーん!」
おや、どこからか泣き声が聞こえます。
耳を澄ましてみるとどうやら公園の女子トイレが発生源のようです。
何があったのか分からないけど、助けたいものの女子トイレじゃあ…。
きょろきょろとあたりを見渡しても人はないかった、
ここは人通りの少ないところだから無理はない。
助けるしかないのか。
木の陰に隠れて変身するか。
けんちゃんの影響からかマントを装着しつつ、優雅に変身を行った。
「おーい、どうしたのー?」
女子トイレに入って何度も繰り返し、そう尋ねた。
「ここだよー、誰か来てください」
ガチャ
ドアを開けると優とおない年くらいのツインテールが可愛らしい少女が泣いていた。
ちなみに女の子は用をしていないようで、パンツはおろしてはなかった。
ふぅ、もし下してたらどうしようかと思ったけど、大丈夫か。
「どうしたの、きみ?」
「猫が、猫があの箱に閉じ込められているのっ」
箱? ああ、貯水タンクというのかな、水を流すために溜めておく容器のことね。
確かに『にぁー』と鳴く声はネコがいる証拠だった。
「えっと、もしかして蓋が重たくて持ち上がらないの?」
コクコク
そのようだ。
「じゃあ、せいのーでで一緒に持ち上げるよ」
「「せいのーで、よいしょ」」
二人で持ち上げればそれほど重たくはなかった。
あとは蓋を少しずらして置いて、それからタンクの中に手を突っ込んだ。
「まだ仔猫か」
「あっ……」
よっぽど怖かったのだろう、仔猫は救出されると一目散に逃げ去った。
「あ〜ぁ、せっかく助けたのに、もう行っちゃった」
「しかたないよ、それより誰がこんなひどいことしたんだろうね」
最近は物騒になってるから、こんな悪戯をする人がいるのだろう。
トイレで二人話し合うのもあれだったので、今は公園のベンチに座っている。
「仔猫を助けてくれてありがとう。…えっとあなたは誰ですか」
ぎくっ
「わたし、顔を覚えるのが得意なので、同じ学年の人なら大抵は覚えてるはずなのに」
ぎくぎくっ
「えっと、何年生でしたっけ、あなたは?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。
私は小早川萌といいます。2年生ですの」
そ、そっか〜危なかった。
今の場合、同じ学年だったらアウトだ。
「私は大里す……」
「す……? え、なんですの?」
いやいや、すぐるなんて言ったら性別がこれなのに怪し過ぎるだろ。
言葉に詰まったが、その時咄嗟にお母さんから優と命名した理由を思い出した。
≪あなたは優って言うのだけど、
それはあなたが優秀な人、また優しい人になってほしいからつけたのよ。
で、もしあなたが女の子だったら漢字はそのままで『ゆう』って呼ぶつもりだったの≫
そうか、今まで優はすぐるという読み方しか知らなかったけれど、
ゆうとも読めるのか。だったら……
「わ、私は大里優(ゆう)よ。3年生なんだ」
「ゆう? それがあなたのお名前? いいね、なんだか優しい気持ちになる…」
いや、ホントの名前で褒められたことないのに、ここに来て嘘の名前で……。
「そっか、私より一つ上なのね。背もちっちゃかったから同じ2年生だと思ってた」
ちっちゃくて悪かったな、確かに女の子に変身すると背が若干縮むけど。
「ね、お友達にならない?」
「へ? お友達?」
「うん、猫を助けに駆け寄った人ですもの。
いい人と仲良くなりなさいってお母さんに言われてるもの」
確かに悪い人じゃないんだけど、唐突だな、この子。
突き放してもいいけど、いい人から一転して
酷い人扱いされるのもいい気がしないので、友達になることにした。
「わかった、これからお友達ね」
「はい、ゆんちゃん」
そう言って萌は右手を突き出し、小指を立てた。
っていうかゆうって言ってるのに、断りもせず勝手にゆんちゃんとか呼んでるし!
「……なに、それ?」
「指きり、お友達になるにはまず指切りをするものだよ」
そんなお約束、知らんぞ!
そうはいっても、ここでやめれば話がこじれそうなので、仕方なく指切りをした。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った!」
……よく考えれば恐ろしい約束事だった。
だって萌は僕が女の子だと思ったから友達になろうとしたわけで、
それを前提に指切りをしたということは、ばれた時点で針を千本も飲まされるということだった。
誰なんだ、指切りなんてやくざみたいな恐ろしい遊び考えた人は!
「ところでゆんちゃん、この赤と黒のマントはなーに?」
あ…
すっかり忘れていた。
つい変身する時の癖で着けていたが、よく考えれば凄く浮いていた。
あまり本当のこと言ってうわさが広がるのも嫌だったので、
適当に名前を考えてみた。
やっぱこれ、サーカス団の人が着るマントに似ているな……じゃあ。
「え……、え〜っと、これは『まずつしのマント』っていうの」
「まずつし?」
どうやら魔術師のマントと言いたいようだが、
まだあどけなさを残しているのかはっきりと発音できず、まずつしと言ったようだ。
「そっか〜、『貧しいマント』なのね。変な名前ね」
あれ? 微妙に意味が違っているような…。
しかし頭の中では魔術師と言ってるものの、
言葉にするとまずつしのままなのだから、反論できなかった。
「いくら貧しかっても私はそのマント好きだよ。長くてかっこよくて」
どれほど貧しいんだ、そのマント!
しかし萌のおとぼけた口調に反論する気力を失い、
「そ…そ、ありがと」
としか返事することができなかった。
誤魔化せたことを喜ぶべきか、別の意味に受け止められたことを気にすべきなのか……
日が暮れてきたので、萌とは別れて急いで家路に就いた。
「あら優、家の外で変身したらいけないっていう約束だったのに、
おいたをしちゃったのね」
しまった、あの時の変身をまだ解いてなかった。
「いいいい、いや、これは、その」
「約束破ったらおこずかいを100円減らすってことになってたよね、
覚悟はよろしくて? 優」
ちなみに何度も約束を破っているので、本来なら今回ので50円、お母さんに渡さないといけなくなった。
しかしそれではかわいそうということで、おこずかいは10円になった。
それからというもの、
時々けんちゃんとの約束を抜け出して萌と遊ぶようになった。
抜け出すときは大抵もらった煙玉で姿をくらませているのだが。
別に女友達が欲しいわけではない。
あまり構ってやらないと萌が寂しがって、授業中でも泣き叫ぶらしい。
さすがにそこから情報が広がるとまずいので、相手をしているわけだが…。
「ゆんちゃんって、いっつもズボンばっかりだね。
顔も奇麗だからスカートとか似合いそうなのに」
ぎくっ
「い、いや〜、スカートだとエロガキがカンチョーするからうかつには穿けないの」
咄嗟の反応だったが、嘘ではない。
いたずら好きのけんちゃんなんか時々クラスの女の子に鋭い突きをやって、
打ち所が悪ければ保健室送りだし。
僕自身、女の子に変身した時に一度やられたことがあって、
ガードの薄いスカートをうかつには穿く気になれない。
ちなみに母親は僕を人形のように扱う癖があるのか、
ワンピースやキャミソールなどを揃えていて、
家では専らそういった服装をしている場合が多い。
もっとも外では男の子として振舞うよう言われているので、穿くこと自体滅多にないのだが。
萌と遊ぶ時はいつも下校時。
いつもの公園、そして遊ぶことといえば滑り台とかブランコとか、砂遊びとか。
ジャングルジムに登るのは、以前頂上に登りきった萌を見上げてスカートの中を見て、
びっくりして落ちて以来、もうしていない。
別にどうってことはないのだが、なぜか見てはいけないものを見たような気がして
動揺したのだと思う、理由はよく分からないが。
男と女の違いって何だろう、服が違う程度しか分からないけど。
「どうしたの?」
「うわわっ、なんでもない」
なんでだろう、目の前まで顔を近づけられたら、ドキドキしてしまう。
まだ第二次性徴前の優には内面の変化に気づくはずがなかった。
「ねぇ、貧しいマントちょっと触っていい?」
「え、どうして?」
「だってそのマント、なんだか夢があっていいじゃない。
アニメで言うなら怪盗キッドとか、ルパン3世とか」
いや、ルパンはマントなんか着てないぞ。
怪盗キッドはアニメの名前じゃないし。
「ほらっ、外が黒だといかにもやりそうって感じでしょ」
いや、本来は外が黒だと男なのだが…。
要するに萌にとってはマントとはそんな存在でしかなかったようだ。
もっとも優も変身の時に少し着る程度の意味でしかないのだが。
そんな萌との関係が半年間続いた。
「え、引っ越し?」
「うん、おとーさんとおかーさんの事情で遠い所に行くって……」
そう言われて僕はようやくこの厄介な関係から解放されることに内心胸を撫で下ろした。
「いつ引越しをするのだ?」
「あさって…」
急に決まったものだ。
その日は日曜日、つまり今日を除けば会える日はもうないであろう。
「そ、そっか。もう会えなくなるなんて寂しいね」
「……むぅ、それだけ?」
「え、それだけって?」
「これはきっと私とゆんちゃんとの仲を割くいんぼーなのよ。
ここは『萌ちゃんはこの私が奪う!』って犯行文を送りつけて、
私を連れ去るのが怪盗キッドの役目でしょ」
それは単なる誘拐犯じゃあ……。
それに女が女を連れ去って何がしたいのやら。
可愛らしい外見とは裏腹に、たまに突飛な発想で度々困らせたりするけど。
「まさか、最後まで振り回されるとは……」
「ん、なにか言った?」
しまった、口に出してしまった。
でもそうか……、もういなくなっちゃうのか。
なぜか感慨深くなっている自分に気づいた。
無理もない、男の子の時と違って女の子の時はけんちゃん以外で友達はいなかったのだから。
年下の子に『ゆんちゃん、ゆんちゃん』って慕われているのだから、まんざらでもなかった。
翌日、いつになくお母さんのけたたましいモーニングコールで目が覚めた。
「ねぇお母さん、そんなに大声出しちゃ近所迷惑だよ」
「あら優、私に向かってその態度、後でどうなるかわかってらして?」
「……どうぞ、何があったのか教えてください」
殺気に負けてしまった。
こういう時はおとなしくした方が身のためというものか…。
「小早川萌を知っているんでしょう、ちょっと厄介なことになったらしいわ」
「え、萌がどうかしたの?」
「今朝、PTAの連絡でその子が行方不明との情報が流れたわ」
……え!?
「い、いつ! いついなくなったの?」
「昨日の夕方にかけてですって。昨日は家に帰ることがなかったとのことよ」
ということは、僕がいつもの公園で別れて、それからどこかにいった可能性が高い。
萌の身の危険が迫っていることに、いてもたってもいられなかった。
「萌を探しに行きます!」
「待ちなさい!」
「なんだよ、とめたって駄目だよ、僕は萌を助け出す!」
「そうじゃないわ、止めたって出ていくタイプくらい、お母さんはお見通しよ。
せめてこれを持ってから出てゆきなさい」
バサッ
え、これってお母さんには内緒で持っている貧しいマントじゃあ……
それに一つだけだが煙玉を渡された。
「こ、これ…」
「言ったでしょ、お母さんにはなんでもお見通しって。
世紀の大怪盗なら萌を奪い取ってみせなさい!」
……あの、なんでそんなことまで知ってるの?
どこぞのニュータイプか、とツッコミたくなったが、
それどころじゃないので、マントを羽織ったら大急ぎで玄関を出た。
<つづく>
僕は一人で下校をしていた。
てくてく歩くこと十数分、公園についた。
学校と家を結ぶ所にあるので、いつも公園に寄り道しながら帰っていた。
「きゃーっ、ネコちゃーん!」
おや、どこからか泣き声が聞こえます。
耳を澄ましてみるとどうやら公園の女子トイレが発生源のようです。
何があったのか分からないけど、助けたいものの女子トイレじゃあ…。
きょろきょろとあたりを見渡しても人はないかった、
ここは人通りの少ないところだから無理はない。
助けるしかないのか。
木の陰に隠れて変身するか。
けんちゃんの影響からかマントを装着しつつ、優雅に変身を行った。
「おーい、どうしたのー?」
女子トイレに入って何度も繰り返し、そう尋ねた。
「ここだよー、誰か来てください」
ガチャ
ドアを開けると優とおない年くらいのツインテールが可愛らしい少女が泣いていた。
ちなみに女の子は用をしていないようで、パンツはおろしてはなかった。
ふぅ、もし下してたらどうしようかと思ったけど、大丈夫か。
「どうしたの、きみ?」
「猫が、猫があの箱に閉じ込められているのっ」
箱? ああ、貯水タンクというのかな、水を流すために溜めておく容器のことね。
確かに『にぁー』と鳴く声はネコがいる証拠だった。
「えっと、もしかして蓋が重たくて持ち上がらないの?」
コクコク
そのようだ。
「じゃあ、せいのーでで一緒に持ち上げるよ」
「「せいのーで、よいしょ」」
二人で持ち上げればそれほど重たくはなかった。
あとは蓋を少しずらして置いて、それからタンクの中に手を突っ込んだ。
「まだ仔猫か」
「あっ……」
よっぽど怖かったのだろう、仔猫は救出されると一目散に逃げ去った。
「あ〜ぁ、せっかく助けたのに、もう行っちゃった」
「しかたないよ、それより誰がこんなひどいことしたんだろうね」
最近は物騒になってるから、こんな悪戯をする人がいるのだろう。
トイレで二人話し合うのもあれだったので、今は公園のベンチに座っている。
「仔猫を助けてくれてありがとう。…えっとあなたは誰ですか」
ぎくっ
「わたし、顔を覚えるのが得意なので、同じ学年の人なら大抵は覚えてるはずなのに」
ぎくぎくっ
「えっと、何年生でしたっけ、あなたは?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。
私は小早川萌といいます。2年生ですの」
そ、そっか〜危なかった。
今の場合、同じ学年だったらアウトだ。
「私は大里す……」
「す……? え、なんですの?」
いやいや、すぐるなんて言ったら性別がこれなのに怪し過ぎるだろ。
言葉に詰まったが、その時咄嗟にお母さんから優と命名した理由を思い出した。
≪あなたは優って言うのだけど、
それはあなたが優秀な人、また優しい人になってほしいからつけたのよ。
で、もしあなたが女の子だったら漢字はそのままで『ゆう』って呼ぶつもりだったの≫
そうか、今まで優はすぐるという読み方しか知らなかったけれど、
ゆうとも読めるのか。だったら……
「わ、私は大里優(ゆう)よ。3年生なんだ」
「ゆう? それがあなたのお名前? いいね、なんだか優しい気持ちになる…」
いや、ホントの名前で褒められたことないのに、ここに来て嘘の名前で……。
「そっか、私より一つ上なのね。背もちっちゃかったから同じ2年生だと思ってた」
ちっちゃくて悪かったな、確かに女の子に変身すると背が若干縮むけど。
「ね、お友達にならない?」
「へ? お友達?」
「うん、猫を助けに駆け寄った人ですもの。
いい人と仲良くなりなさいってお母さんに言われてるもの」
確かに悪い人じゃないんだけど、唐突だな、この子。
突き放してもいいけど、いい人から一転して
酷い人扱いされるのもいい気がしないので、友達になることにした。
「わかった、これからお友達ね」
「はい、ゆんちゃん」
そう言って萌は右手を突き出し、小指を立てた。
っていうかゆうって言ってるのに、断りもせず勝手にゆんちゃんとか呼んでるし!
「……なに、それ?」
「指きり、お友達になるにはまず指切りをするものだよ」
そんなお約束、知らんぞ!
そうはいっても、ここでやめれば話がこじれそうなので、仕方なく指切りをした。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った!」
……よく考えれば恐ろしい約束事だった。
だって萌は僕が女の子だと思ったから友達になろうとしたわけで、
それを前提に指切りをしたということは、ばれた時点で針を千本も飲まされるということだった。
誰なんだ、指切りなんてやくざみたいな恐ろしい遊び考えた人は!
「ところでゆんちゃん、この赤と黒のマントはなーに?」
あ…
すっかり忘れていた。
つい変身する時の癖で着けていたが、よく考えれば凄く浮いていた。
あまり本当のこと言ってうわさが広がるのも嫌だったので、
適当に名前を考えてみた。
やっぱこれ、サーカス団の人が着るマントに似ているな……じゃあ。
「え……、え〜っと、これは『まずつしのマント』っていうの」
「まずつし?」
どうやら魔術師のマントと言いたいようだが、
まだあどけなさを残しているのかはっきりと発音できず、まずつしと言ったようだ。
「そっか〜、『貧しいマント』なのね。変な名前ね」
あれ? 微妙に意味が違っているような…。
しかし頭の中では魔術師と言ってるものの、
言葉にするとまずつしのままなのだから、反論できなかった。
「いくら貧しかっても私はそのマント好きだよ。長くてかっこよくて」
どれほど貧しいんだ、そのマント!
しかし萌のおとぼけた口調に反論する気力を失い、
「そ…そ、ありがと」
としか返事することができなかった。
誤魔化せたことを喜ぶべきか、別の意味に受け止められたことを気にすべきなのか……
日が暮れてきたので、萌とは別れて急いで家路に就いた。
「あら優、家の外で変身したらいけないっていう約束だったのに、
おいたをしちゃったのね」
しまった、あの時の変身をまだ解いてなかった。
「いいいい、いや、これは、その」
「約束破ったらおこずかいを100円減らすってことになってたよね、
覚悟はよろしくて? 優」
ちなみに何度も約束を破っているので、本来なら今回ので50円、お母さんに渡さないといけなくなった。
しかしそれではかわいそうということで、おこずかいは10円になった。
それからというもの、
時々けんちゃんとの約束を抜け出して萌と遊ぶようになった。
抜け出すときは大抵もらった煙玉で姿をくらませているのだが。
別に女友達が欲しいわけではない。
あまり構ってやらないと萌が寂しがって、授業中でも泣き叫ぶらしい。
さすがにそこから情報が広がるとまずいので、相手をしているわけだが…。
「ゆんちゃんって、いっつもズボンばっかりだね。
顔も奇麗だからスカートとか似合いそうなのに」
ぎくっ
「い、いや〜、スカートだとエロガキがカンチョーするからうかつには穿けないの」
咄嗟の反応だったが、嘘ではない。
いたずら好きのけんちゃんなんか時々クラスの女の子に鋭い突きをやって、
打ち所が悪ければ保健室送りだし。
僕自身、女の子に変身した時に一度やられたことがあって、
ガードの薄いスカートをうかつには穿く気になれない。
ちなみに母親は僕を人形のように扱う癖があるのか、
ワンピースやキャミソールなどを揃えていて、
家では専らそういった服装をしている場合が多い。
もっとも外では男の子として振舞うよう言われているので、穿くこと自体滅多にないのだが。
萌と遊ぶ時はいつも下校時。
いつもの公園、そして遊ぶことといえば滑り台とかブランコとか、砂遊びとか。
ジャングルジムに登るのは、以前頂上に登りきった萌を見上げてスカートの中を見て、
びっくりして落ちて以来、もうしていない。
別にどうってことはないのだが、なぜか見てはいけないものを見たような気がして
動揺したのだと思う、理由はよく分からないが。
男と女の違いって何だろう、服が違う程度しか分からないけど。
「どうしたの?」
「うわわっ、なんでもない」
なんでだろう、目の前まで顔を近づけられたら、ドキドキしてしまう。
まだ第二次性徴前の優には内面の変化に気づくはずがなかった。
「ねぇ、貧しいマントちょっと触っていい?」
「え、どうして?」
「だってそのマント、なんだか夢があっていいじゃない。
アニメで言うなら怪盗キッドとか、ルパン3世とか」
いや、ルパンはマントなんか着てないぞ。
怪盗キッドはアニメの名前じゃないし。
「ほらっ、外が黒だといかにもやりそうって感じでしょ」
いや、本来は外が黒だと男なのだが…。
要するに萌にとってはマントとはそんな存在でしかなかったようだ。
もっとも優も変身の時に少し着る程度の意味でしかないのだが。
そんな萌との関係が半年間続いた。
「え、引っ越し?」
「うん、おとーさんとおかーさんの事情で遠い所に行くって……」
そう言われて僕はようやくこの厄介な関係から解放されることに内心胸を撫で下ろした。
「いつ引越しをするのだ?」
「あさって…」
急に決まったものだ。
その日は日曜日、つまり今日を除けば会える日はもうないであろう。
「そ、そっか。もう会えなくなるなんて寂しいね」
「……むぅ、それだけ?」
「え、それだけって?」
「これはきっと私とゆんちゃんとの仲を割くいんぼーなのよ。
ここは『萌ちゃんはこの私が奪う!』って犯行文を送りつけて、
私を連れ去るのが怪盗キッドの役目でしょ」
それは単なる誘拐犯じゃあ……。
それに女が女を連れ去って何がしたいのやら。
可愛らしい外見とは裏腹に、たまに突飛な発想で度々困らせたりするけど。
「まさか、最後まで振り回されるとは……」
「ん、なにか言った?」
しまった、口に出してしまった。
でもそうか……、もういなくなっちゃうのか。
なぜか感慨深くなっている自分に気づいた。
無理もない、男の子の時と違って女の子の時はけんちゃん以外で友達はいなかったのだから。
年下の子に『ゆんちゃん、ゆんちゃん』って慕われているのだから、まんざらでもなかった。
翌日、いつになくお母さんのけたたましいモーニングコールで目が覚めた。
「ねぇお母さん、そんなに大声出しちゃ近所迷惑だよ」
「あら優、私に向かってその態度、後でどうなるかわかってらして?」
「……どうぞ、何があったのか教えてください」
殺気に負けてしまった。
こういう時はおとなしくした方が身のためというものか…。
「小早川萌を知っているんでしょう、ちょっと厄介なことになったらしいわ」
「え、萌がどうかしたの?」
「今朝、PTAの連絡でその子が行方不明との情報が流れたわ」
……え!?
「い、いつ! いついなくなったの?」
「昨日の夕方にかけてですって。昨日は家に帰ることがなかったとのことよ」
ということは、僕がいつもの公園で別れて、それからどこかにいった可能性が高い。
萌の身の危険が迫っていることに、いてもたってもいられなかった。
「萌を探しに行きます!」
「待ちなさい!」
「なんだよ、とめたって駄目だよ、僕は萌を助け出す!」
「そうじゃないわ、止めたって出ていくタイプくらい、お母さんはお見通しよ。
せめてこれを持ってから出てゆきなさい」
バサッ
え、これってお母さんには内緒で持っている貧しいマントじゃあ……
それに一つだけだが煙玉を渡された。
「こ、これ…」
「言ったでしょ、お母さんにはなんでもお見通しって。
世紀の大怪盗なら萌を奪い取ってみせなさい!」
……あの、なんでそんなことまで知ってるの?
どこぞのニュータイプか、とツッコミたくなったが、
それどころじゃないので、マントを羽織ったら大急ぎで玄関を出た。
<つづく>
投稿TS小説 貧しいマント(1) by.りゅうのみや
「ちょ……あなた、優が…優が……!」
「いったいどうし……え、もしかしてこれは…」
それは僕が3歳の、まだ物心つくかつかないかの出来事でした。
五年後…
「行ってきまーす!」
元気よく玄関から飛び出す、パタパタと音を鳴らせているのは
ランドセルの留め具を掛けていないため。
ランドセルには教科書やノート、筆箱に、たて笛、30cm物差しと、
あとはマントまで入っている。
僕が装着して膝の高さまで届くような大きさのマントは、
表は黒地が、裏は赤地が施されている。
「よう、すぐる」
「おはよ、けんちゃん」
彼は佐藤健太、家もお隣だし、幼稚園時代からの友達だ。
ああ、そういえば僕の紹介がまだでしたね。
大里優(すぐる)、小学3年生ということもあって、まだまだあどけなさを残しています。
「今日もマント持ってきたのか?」
「えへへ、まぁね。僕のチョコレートマークってやつ?」
「……すぐる、英語苦手なら無理して使うな」
「だけど、このマントはあくまでも演出のためであって、
ホントは今この場でもできるんだけど」
「かぁーっ! 分かってないなすぐる、
変身ヒーローは常に自分の変身するところは人には見せないのがお約束だろ」
「僕、変身はするけど、ヒーローじゃないし」
「それから、ほら、煙玉ありったけ用意したぞ」
「わぁ〜、ありがとう」
「また意味もなく使いきったりするなよ、
人目に気づかれず変身するために持ってきたんだからな」
「え〜、使ってナンボの煙玉でしょ」
そう、僕は変身ができるけんちゃん曰くスーパー小学生。
何に変身できるかって?
それはこれからのお楽しみ。
ところ変わって昼休みの体育館の倉庫室。
「さて、マントと煙玉を持ってきたよな」
「うん、でもここ薄暗くて埃っぽいよ」
「ここくらいしか人に気付かれる心配のない所はないの」
僕はマントを手慣れた手つきで肩に巻き、
スカーフに縫い付けてあったマジックテープで固定する。
マントは外側が黒、内側が赤になっている。
そして僕は右手に持っていた煙玉を床に叩きつけた。
ボンっ!
辺り一面を煙が包んだ。
しばらく経ってから煙りが止んでそこにいたのは…、
「よし成功だ!」
「は、恥ずかしいな。こんな練習何の役に立つのかな」
優の立っていた場所には、誰か別の女の子が立っています。
華奢な体つきで、顔立ちはまだまだ幼さが残るものの、可憐そのもの。
髪は肩の高さまで伸びていて、髪全体にウェーブがかかって何とも可愛らしい風貌をしている。
「ようやく煙が消えるまでに変身することと、
マントを返すことができるようになったな、すぐる」
そうなのです、僕は女の子に変身する能力を持つ他の人とは違った人なのです。
僕が3歳の時、両親はある変化に気がつきました。
男性にあるべきもの、つまり男性器が目の前で消える珍事件に遭遇したのです。
一緒に風呂に入っていた二人は大慌てで僕を大学病院に連れて行きました。
精密検査の結果、奇妙な現象を目撃したと医師は述べました。
性染色体の配列XYの情報がどうやら本人の意思で突如XXに変わることができるのです。
僕にはそれが何を意味するのかよく分からなかったけど、
男の子から女の子に変身することが科学的に確認されたらしい。
XXからXYに戻ることもできるし、それ以外は特に体に影響はなく、
それ以上の変化はなかったとか何とか言ってたっけ。
小さいころからずっと聞いたその言葉は、まだまだ僕には難し過ぎて
頭で暗記しているくらいのものでしかなかった。
ただ、僕がなぜこのようになったのか、両親はある程度気づいていたようです。
お母さんは大学生の時、実験室の薬品数種類を体に被り、そのために女性になったのです。
ちなみに同じ実験室でその時の状況を目撃したのが、お父さんでした。
子供を作る時、両親は奇形児ができるのではないかと憂慮したようです。
しかし特に大きな変化はなく、その後の変化も順調と思えた時期にこの出来事、
もはやそれ以外の理由で優が女の子になる理由は
なかったと言ったような言ってなかったような…。
とにかく、僕が今学んでいる授業の内容からすると
桁が違うレベルなので、詳しくは覚えていない。
ただ変身できる、それだけで十分だった。
さすがに人に見せるのはまずいと思って、人目を避けて変身を遊んでいるのだが…。
「もう戻っていいでしょ。それから戻るときは煙玉使わなくてもいいよね」
「俺しかいないからいいぜ、ただしおれが後ろを向いてからだ。
それとマントは元に戻すようにな。」
ぴかぴかっ
僕の全身から穏やかな光が輝いたと思うと、元の男の姿に戻っていた。
これでは目立つしそのため正体もすぐばれるといったところか。
「じゃあもう一度、煙玉を使って変身するんだ」
「またぁ、いい加減疲れたよ」
しかし、ここで断ればライダーキックが炸裂することを心得ているので、反論はできない。
ボンっ!
煙が充満している間に、また可憐な姿になった。
煙玉は目眩ませをして安全に変身するための秘密道具らしい。
しかし、そもそも周りに人がいる時に使う方が怪しいのだが、
アニメの影響なのかそういった演出に凝るのがけんちゃんのポリシーらしい。
ちなみに女の子になる時にはマントは外側が赤、内側が黒になっている。
そもそもマントが裏表で色が違うのは、
性別が自分の意志で変わることを意味するものとなっている。
男の子の時は外側が黒、女の子の時は外側が赤と決めている。
さっきの特訓には煙があるうちにマントを裏返すことも含まれていました。
マジックテープも簡単に取り外ししやすいように工夫されています。
もちろんこのマントとスカーフを用意したのけんちゃんなのだが…。
「こらー、けむたいと思えばこんなところでいたずらをしたなー!」
鬼原こと、榊原教育指導に見つかった、こりゃまずい。
「うわっ、鬼原だ。逃げろ」
「ま、まってよけんちゃん」
うまく逃げ切れたようだが、けんちゃんとはぐれたてしまった。
もうそろそろ昼休みも終わるので、教室に戻ればまた会えるはずだが…。
「うわっ、おしっこしたくなった。女の子って、どうしてこうトイレが近いのかな」
まだ保健の授業で性について学んでいない優には膀胱の構造の違いなど、
分からないのも無理はない。
トイレの入り口にやってきた。
「今度は失敗しないぞ、女子トイレにはいいればいいんだ」
そうなのだ、以前うっかり男子トイレに入ってそのままパンツをおろしたために、
あれがないために尿は太ももをつたって流れ落ちたことが一度ありました。
しかもタイミングが悪いことに、さっきまで人がいなかったのに
男の子がトイレにやってきて……、暫くの間、トイレで謎の女の子がいたと噂が流れた。
もっとも、すぐ煙玉をつかったため顔が割れてなかったので、
こうして今も変身していても大丈夫なのだが…。
もしかして、変身する度に見知らぬ人が学校にいると思われたりしてないよね?
とりあえず、変身の時以外はマントはつけていないので、
そうそうばれる心配もないと思うのだが、
同じ学年でこういった顔をあまり見ないから……、いつかばれるかもしれない。
けんちゃんもそういったとこ、疎いんだから
ぶつぶつと文句を言ったが、さて。
僕は少し悩んでいた。
確かにトイレに行けば用を足せる。
しかし、もうそろそろ次の授業が始まってしまう。
そうなれば元に戻る時間がないので、女の子の姿で授業を受けることになる。
今はけんちゃん以外の人でこのことを知っている人はいない。
親には知られてはいけないとの理由で、外出時の変身は禁止されている。
(もっとも優は学校以外のところでしょっちゅう変身して遊んでいるのだが…)
女子トイレに入って元に戻ることもできるのだが、
そうすれば出る時に女の子に遭遇すれば、一気に騒ぎが広がる。
一方男子トイレの個室に駆け込めば、入る時にリスクがかかるが、
顔が割れていない分比較的安全(?)だし、出る時は男の子に戻っているから
そのまま授業に出ることができる。
しかし、少しでも危険な要素があったら問題になるのも事実。
そうか、こんな時のための煙玉だ。
僕は男子トイレめがけて煙玉を投げ込んだ。
ボンっ!
「うわっ、なんだ!?」
「誰だよ煙玉使ったのは」
辺り一面煙で覆われ、周りが見えなくなった。
よし、今のうちに…!
僕は男子トイレに入ると手探りでドアノブを探し始め…、
バタン
ふぅ、ぎりぎりセーフ。
どうやら無事個室に潜り込むことができた。
……
…………
…………………
さて、トイレも終わったことだし元に戻るか。
光が周りを包んだかと思うと、元の男の子に戻っていた。
先に戻ってから用を済ましてもいいのだが、我慢できなかったのだ。
<つづく>
「いったいどうし……え、もしかしてこれは…」
それは僕が3歳の、まだ物心つくかつかないかの出来事でした。
五年後…
「行ってきまーす!」
元気よく玄関から飛び出す、パタパタと音を鳴らせているのは
ランドセルの留め具を掛けていないため。
ランドセルには教科書やノート、筆箱に、たて笛、30cm物差しと、
あとはマントまで入っている。
僕が装着して膝の高さまで届くような大きさのマントは、
表は黒地が、裏は赤地が施されている。
「よう、すぐる」
「おはよ、けんちゃん」
彼は佐藤健太、家もお隣だし、幼稚園時代からの友達だ。
ああ、そういえば僕の紹介がまだでしたね。
大里優(すぐる)、小学3年生ということもあって、まだまだあどけなさを残しています。
「今日もマント持ってきたのか?」
「えへへ、まぁね。僕のチョコレートマークってやつ?」
「……すぐる、英語苦手なら無理して使うな」
「だけど、このマントはあくまでも演出のためであって、
ホントは今この場でもできるんだけど」
「かぁーっ! 分かってないなすぐる、
変身ヒーローは常に自分の変身するところは人には見せないのがお約束だろ」
「僕、変身はするけど、ヒーローじゃないし」
「それから、ほら、煙玉ありったけ用意したぞ」
「わぁ〜、ありがとう」
「また意味もなく使いきったりするなよ、
人目に気づかれず変身するために持ってきたんだからな」
「え〜、使ってナンボの煙玉でしょ」
そう、僕は変身ができるけんちゃん曰くスーパー小学生。
何に変身できるかって?
それはこれからのお楽しみ。
ところ変わって昼休みの体育館の倉庫室。
「さて、マントと煙玉を持ってきたよな」
「うん、でもここ薄暗くて埃っぽいよ」
「ここくらいしか人に気付かれる心配のない所はないの」
僕はマントを手慣れた手つきで肩に巻き、
スカーフに縫い付けてあったマジックテープで固定する。
マントは外側が黒、内側が赤になっている。
そして僕は右手に持っていた煙玉を床に叩きつけた。
ボンっ!
辺り一面を煙が包んだ。
しばらく経ってから煙りが止んでそこにいたのは…、
「よし成功だ!」
「は、恥ずかしいな。こんな練習何の役に立つのかな」
優の立っていた場所には、誰か別の女の子が立っています。
華奢な体つきで、顔立ちはまだまだ幼さが残るものの、可憐そのもの。
髪は肩の高さまで伸びていて、髪全体にウェーブがかかって何とも可愛らしい風貌をしている。
「ようやく煙が消えるまでに変身することと、
マントを返すことができるようになったな、すぐる」
そうなのです、僕は女の子に変身する能力を持つ他の人とは違った人なのです。
僕が3歳の時、両親はある変化に気がつきました。
男性にあるべきもの、つまり男性器が目の前で消える珍事件に遭遇したのです。
一緒に風呂に入っていた二人は大慌てで僕を大学病院に連れて行きました。
精密検査の結果、奇妙な現象を目撃したと医師は述べました。
性染色体の配列XYの情報がどうやら本人の意思で突如XXに変わることができるのです。
僕にはそれが何を意味するのかよく分からなかったけど、
男の子から女の子に変身することが科学的に確認されたらしい。
XXからXYに戻ることもできるし、それ以外は特に体に影響はなく、
それ以上の変化はなかったとか何とか言ってたっけ。
小さいころからずっと聞いたその言葉は、まだまだ僕には難し過ぎて
頭で暗記しているくらいのものでしかなかった。
ただ、僕がなぜこのようになったのか、両親はある程度気づいていたようです。
お母さんは大学生の時、実験室の薬品数種類を体に被り、そのために女性になったのです。
ちなみに同じ実験室でその時の状況を目撃したのが、お父さんでした。
子供を作る時、両親は奇形児ができるのではないかと憂慮したようです。
しかし特に大きな変化はなく、その後の変化も順調と思えた時期にこの出来事、
もはやそれ以外の理由で優が女の子になる理由は
なかったと言ったような言ってなかったような…。
とにかく、僕が今学んでいる授業の内容からすると
桁が違うレベルなので、詳しくは覚えていない。
ただ変身できる、それだけで十分だった。
さすがに人に見せるのはまずいと思って、人目を避けて変身を遊んでいるのだが…。
「もう戻っていいでしょ。それから戻るときは煙玉使わなくてもいいよね」
「俺しかいないからいいぜ、ただしおれが後ろを向いてからだ。
それとマントは元に戻すようにな。」
ぴかぴかっ
僕の全身から穏やかな光が輝いたと思うと、元の男の姿に戻っていた。
これでは目立つしそのため正体もすぐばれるといったところか。
「じゃあもう一度、煙玉を使って変身するんだ」
「またぁ、いい加減疲れたよ」
しかし、ここで断ればライダーキックが炸裂することを心得ているので、反論はできない。
ボンっ!
煙が充満している間に、また可憐な姿になった。
煙玉は目眩ませをして安全に変身するための秘密道具らしい。
しかし、そもそも周りに人がいる時に使う方が怪しいのだが、
アニメの影響なのかそういった演出に凝るのがけんちゃんのポリシーらしい。
ちなみに女の子になる時にはマントは外側が赤、内側が黒になっている。
そもそもマントが裏表で色が違うのは、
性別が自分の意志で変わることを意味するものとなっている。
男の子の時は外側が黒、女の子の時は外側が赤と決めている。
さっきの特訓には煙があるうちにマントを裏返すことも含まれていました。
マジックテープも簡単に取り外ししやすいように工夫されています。
もちろんこのマントとスカーフを用意したのけんちゃんなのだが…。
「こらー、けむたいと思えばこんなところでいたずらをしたなー!」
鬼原こと、榊原教育指導に見つかった、こりゃまずい。
「うわっ、鬼原だ。逃げろ」
「ま、まってよけんちゃん」
うまく逃げ切れたようだが、けんちゃんとはぐれたてしまった。
もうそろそろ昼休みも終わるので、教室に戻ればまた会えるはずだが…。
「うわっ、おしっこしたくなった。女の子って、どうしてこうトイレが近いのかな」
まだ保健の授業で性について学んでいない優には膀胱の構造の違いなど、
分からないのも無理はない。
トイレの入り口にやってきた。
「今度は失敗しないぞ、女子トイレにはいいればいいんだ」
そうなのだ、以前うっかり男子トイレに入ってそのままパンツをおろしたために、
あれがないために尿は太ももをつたって流れ落ちたことが一度ありました。
しかもタイミングが悪いことに、さっきまで人がいなかったのに
男の子がトイレにやってきて……、暫くの間、トイレで謎の女の子がいたと噂が流れた。
もっとも、すぐ煙玉をつかったため顔が割れてなかったので、
こうして今も変身していても大丈夫なのだが…。
もしかして、変身する度に見知らぬ人が学校にいると思われたりしてないよね?
とりあえず、変身の時以外はマントはつけていないので、
そうそうばれる心配もないと思うのだが、
同じ学年でこういった顔をあまり見ないから……、いつかばれるかもしれない。
けんちゃんもそういったとこ、疎いんだから
ぶつぶつと文句を言ったが、さて。
僕は少し悩んでいた。
確かにトイレに行けば用を足せる。
しかし、もうそろそろ次の授業が始まってしまう。
そうなれば元に戻る時間がないので、女の子の姿で授業を受けることになる。
今はけんちゃん以外の人でこのことを知っている人はいない。
親には知られてはいけないとの理由で、外出時の変身は禁止されている。
(もっとも優は学校以外のところでしょっちゅう変身して遊んでいるのだが…)
女子トイレに入って元に戻ることもできるのだが、
そうすれば出る時に女の子に遭遇すれば、一気に騒ぎが広がる。
一方男子トイレの個室に駆け込めば、入る時にリスクがかかるが、
顔が割れていない分比較的安全(?)だし、出る時は男の子に戻っているから
そのまま授業に出ることができる。
しかし、少しでも危険な要素があったら問題になるのも事実。
そうか、こんな時のための煙玉だ。
僕は男子トイレめがけて煙玉を投げ込んだ。
ボンっ!
「うわっ、なんだ!?」
「誰だよ煙玉使ったのは」
辺り一面煙で覆われ、周りが見えなくなった。
よし、今のうちに…!
僕は男子トイレに入ると手探りでドアノブを探し始め…、
バタン
ふぅ、ぎりぎりセーフ。
どうやら無事個室に潜り込むことができた。
……
…………
…………………
さて、トイレも終わったことだし元に戻るか。
光が周りを包んだかと思うと、元の男の子に戻っていた。
先に戻ってから用を済ましてもいいのだが、我慢できなかったのだ。
<つづく>
変身ものがたり
好物はmale to female ですが、他の変身も好きなので購入、読破。
人魚→人、人→狼、女→毛玉、人面ソもの、整形マニア、男→妖怪?など。
独特のテイストが良い感じ。性転換はなしでした。
人魚→人、人→狼、女→毛玉、人面ソもの、整形マニア、男→妖怪?など。
独特のテイストが良い感じ。性転換はなしでした。
変身ものがたり (秋田レディースコミックスデラックス) (2008/04/28) 渡辺 ペコ 商品詳細を見る |
投稿TS小説 移植された脳はレシピエントの夢を見るか? (by.BQ) <2>
§THE BEGINNING
いまこの世界にクレア・Y・モナハンとして存在している私は見かけどおりの人間ではない。これは私を引き取った富豪大山ケンゾウや側に仕えるマリアも知らない秘密のはずである。
3年前この体で目覚める以前の私は茶眼黒髪の日本人男性だった。そして医師として研究者として充実した日々を送っていた。当然年令もクレアの父親世代に近い。
そのころの私も大山ケンゾウと多少の縁はあった。もちろん彼は富豪として世界中で知られている。アメリカで日本食食材の通信販売をきっかけに財を成し、その資金でシリコンバレーを席巻、そしていまや世界のネット界を牛耳るyuzu.comは彼の支配下にあった。しかし彼の幸せの絶頂は長くは続かない。事故で愛妻を亡くし、最愛の娘も意識が戻らなかったのだ。
2人の事故は訪日時に起こり、1人娘は私の所属する大学病院で治療を受けた。脳幹死は免れたものの植物状態となった娘のために彼は多額の寄付を行い治療のための研究施設を設立した。私が席を置くことになった通称『脳研』がそれである。私は既に植物状態の症例への治療で21例中6例ほどの成功を学会で発表していた。もちろんすぐに日常生活に復帰できるレベルものはさらに少ない。しかしこの段階では危険度の高い症例にしか許可が下りないので大成功と言えた。それなのに症例数が少ないのは、脳の部分移植を伴うので倫理委員会で1例ごとにかなり紛糾するからだ。
これには裏の事情もある。脳死患者の臓器移植を待つ人もいるのだ。肝臓や腎臓なら生体移植も可能だけれど例えば心臓となるとそうはいかない。もちろん遺伝子操作された豚のや費用をいとわなければ人の細胞から育てられたものも実用の段階にあった。しかしそれらは世界的に見てもせいぜい瀕死になった兵士に使われる程度だ。さまざまな心理的、社会的、あるいは宗教的問題が関与していた。
そのころの日本はちょうど移行期で法整備を待っている段階であった。2010年前後に認められた脳死移植は軌道に乗っており、それに関与するさまざまな団体や組織は新しい治療の導入を快く思っていなかった。また日本人の考え方からすると豚や試験管から取り出した心臓を移植することに強い抵抗もある。
そのため私の治療は脳以外の臓器移植をまつ患者やその家族からは蛇蝎のごとく嫌われていた。私も神を気取る気はない。しかし治る可能性があるなら脳に損傷を受けた方や家族だって治療を望むのは当然だった。そして大山氏も。
大山氏の娘の場合本人が臓器移植に同意していたことと日本の脳死判定基準で見れば脳死に該当する可能性がある点も問題だった。私は大山氏の代理人に2つの方法を提案した。
一つは私がこれまで行ってきた方法、意識が目覚める可能性はあるものの日常生活へ復帰できるかどうかは賭けになる。
もう一つは広範囲の脳移植であった。私は動物実験では成功させており、成功の自信はある。ただ外見が変わってしまうので父親に強く勧める気はなかった。成功して受けるはずの名誉にはさほど関心はない。賞賛と同等、いやそれを上回る非難を受けるはずだ。それでも学問的興味からこれを提案する誘惑には勝てなかった。
代理人を見送った私は神崎所長の部屋を訪れた。次期教授を狙う彼は私の仕事に必要以上に興味を持っている。それは仕方のないことであった。この研究所自体大山氏の娘の治療目的で建てられたようなものなのだ。私の提案と大山氏の選択は研究所のそして所長の未来に大きな影響を与える。
「どうだったかね、名和先生」
名和義巳……それが私の名前だ。
「代理人は治療の提案をと急いでいましたので以前から報告しておいた2案を示しました」
「うーん。あまりにも急だな」
そう言うと40代後半にしてはふさふさした髪をかきながら部屋を歩き回り始めた。
「確かに私どもが考えていたよりは早いですけれど、準備は整っていると思います」
「準備だと? 君は何もわかっちゃいない。それに移植は政治的にも微妙なときなんだ」
この研究所は脳に関する研究と治療を行っているが、途中で脳死状態となる症例も多いので半分移植センターともいえる。
それにいくら研究馬鹿と言われる私でも夏の総選挙で脳死移植の見直しを掲げる大自党が優勢らしいことも知っていた。
「ともかく大山氏の返事は明日早朝にあります」
「あ、ああ。考慮しておく。ところで昨日高速で見つかったと言う娘さんはどうかね?」
「まだ意識は戻りません。それに少し奇妙な所があるのでご報告しようとおもっていたところです」
「奇妙とは? まだ身元不明なのか」
「ええ。でもそれより問題なのはCT、MRIとMRAの診断結果です」
「どうした?」
「全く問題がないのです」
「外傷もなく、頭蓋内に損傷がなくても目覚めない例はあるだろう」
「これは私見なのですが」
「君の私見なら喜んで聞こう」
「PET(ポジトロン断層法)を見るとまるで記憶が消されているようなのです」
「それは……考えすぎではないかね。PETで判断するのは無理だろう」
「いわゆる植物状態の症例のデータを多く集め、その治療をしてきた私がいうのです。目覚めても障害の残った方をご存知で?」
「ああ、私も君の論文は見ている」
「目覚めぬ間の彼らでさえあの娘に比べれば脳の活動は何倍も盛んです。目覚めても視覚情報処理さえできないと思われます」
「興味深いな。かといって脳死扱いにもできないわけか」
「所長!」
「すまん。不謹慎なことを言うつもりじゃなかったんだ」
自分の研究室に戻る前に上級主任の平田先生と話をした。5期上で私の直接の上司に当たる。彼は神崎所長の一の弟子で私の研究の指導者というよりお目付け役だ。口うるさいところはあるが、たいてい好きにさせてくれるのでこれまでは上手くやってきた。
「名和先生。大山氏の娘の治療だがもう少し待てないのか」
「それは先方の希望しだいかと」
「こちらの都合というものもあるだろう」
それからしばらく議論したが結論は出ない。と言っても私が提案し大山氏が受ければ治療を行うと言うのはすでに何年も前から決まっていた。例え所長が反対してもだ。
別れてコーヒーでも飲もうと休憩室に入ると部下の2人がいた。大学院を出たばかりの赤坂と青山だ。
「あ、名和先生、所長どうでした」
「どうとは、どういう意味だい。青山先生」
「大山氏の娘さんの手術のことですよ。許可出ました?」
「許可も何も大山氏が望めばやるしかないだろう」
「でも」
「でもなにかね」
人当たりのいい青山は所内の噂話に通じている。
「じつは大自党の鷹山代議士から電話があったらしくて……それからどうも所内があわただしいようですよ」
「ふーん」
「それより名和先生、スリーピングビューティーについてはその後どうなんです?」
赤坂は開業医の子息で研究は院までと思っているらしく身が入らない。しかしメスさばきは見所がありたいていのことはこなせるようになっていた。
「だれだい?」
「いやだなー、Jane Doe(名前のわからぬ女性)のことですよ」
「完全な健康体なのに目覚めぬ不思議な娘さ」
「作られたように完璧な肉体も動かねば人形も同然か。輝く金髪も青い目もただの」
「冗談はそのくらいにしておきたまえ。それより」
私は大山氏が娘の治療を望んだ場合、明日は午前中から手術になることを説明した。
部屋に戻って大山氏の娘の資料にもう一度当たる。目覚めさせる自身はあった。しかし大山氏に喜んでもらえるかどうかはある意味運が左右するだろう。
再確認を終えたときには夜になっていた。一緒に持ってきたJane Doeの資料も見ておこうと立ち上がったときドアがノックされた。
ドアの向こうに立っていたのはカフェラテのカップを持った女性だ。彼女は胸部外科から来ている四谷法子である。父親は形成外科学の、母親は生理学の教授と言うサラブレッドで、私より4期下なのに将来講座を率いるのは当然と思っているらしい。
「名和先生、大山氏の娘さんとJaneの資料をおもちですか?」
「うん。でも電子カルテシステムにも入っているだろう?」
「認証システムが面倒だし、閲覧記録も残りますからね。それに名和先生の鉛筆メモは入力されないんでしょう?」
「大山さんのはデスクの上、Jane Doeはドアの横のテーブルに。大山さんのは明日朝には返してくれ」
「すぐ終りますので、ここで見させていただいても?」
「どうぞ。私は長椅子で休む」
5分ほどで大山さんの資料を調べ終えると彼女は振り返らずにこう言ってからJaneの資料を見始めた。
「よろしければテーブルに置いたカフェラテをどうぞ。まだ口をつけてませんから」
「いただくよ。でも君が口をつけていないのは残念に思う男のほうが多いんじゃないかな」
「あら、名和先生とは思えない冗談ですこと。他の方ならセクハラものですわよ」
研究室とは言え夜に1人で男の部屋に来てよく言う。
「お褒めに預かりどうも。では遠慮なく」
私が飲み物を啜る音が途切れると彼女がページをめくる音だけになった。
しばらくすると遠くからヘリの音が聞こえてきた。緊急の移植手術が入るのだろうか。なんだか眠い。さっきまで緊張で眠れそうになかったのに。
「先生、彼女のHLAですけど」
「なんて言った? なんだか眠いんだ」
「あら、明日はお忙しいのでしょう。私はこれで退散しますから」
「すまない」
私はそのまま長椅子で眠ってしまったのだと思う。
それが私が自分の体で過ごした最後の夜である。
§ THE METAMORPHOSIS
目を開けると興奮した様子の若い女性看護師が顔をのぞき込んでいた。手足も首も思うように動かない。
「私がわかりますか?」
一度まばたく。デュマを呼んだかどうかは知らないが、賢そうな娘だから気づくだろう。
「どこか痛いところは?」
今度は二度瞬いた。
「先生もすぐ見えますから、大丈夫よ」
一度まばたく。
「記憶は……ああ、返事はいいから。私が混乱させてどうするのよ!」
愉快な看護師の表情はころころ変わる。笑いだした私は痰でむせ、看護師はあわてて側臥位にすると背中をたたいた。
どうやらずいぶん長い間意識がなかったらしい。くも膜下出血のはずはないから梗塞かな。私の脳には小さな動脈瘤があるが百万分の一の危険もないし、万一破裂したら即死の場所にあった。万一じゃ矛盾か、億が一だな。
ドアが開き青い顔をした若い医師が入ってきた。顔だけは見たことがある。まだローテーション中で当直を禁じられているはずだ。
私の心配をよそに二人は間抜けな会話をしていた。
「何だったっけ名前」
「ありませんってば」
「意識戻ったんだろう」
「まだ話せません」
「そ、そうか。えーっとえーっと」
「なんて言ったんですか、先生」
「まだ言ってないって」
「あら」
「聴診するから場所替わって」
「はい」
側臥位の私の正面、窓側に立ち腕をまわして背中をさすっていた看護師が動くと夜の闇で窓ガラスが鏡になっていた。そこに映っている私は記憶にあるJane Doeの姿である。常に冷静なことが自慢だったはずの私はあっけなく気を失った。
次に目覚めたとき外は明るかった。側には中年の女性看護師と赤坂がいる。
「やあ、気がついたかい。僕が見えるかな」
首が動くので軽くうなずいた。
「おや動かせるのか」
さらに赤坂が何か言おうとしたとき看護師が口を挟んだ。
「先生、カウンセラーが来るまでは女医さんに交代して下さい。今朝の看護会議の」
「了解、了解。たしか四谷先生がいたぞ」
「もうお呼びしました」
「俺はお呼びじゃないか……」
「昨夜もなんだか当直の先生が見えてから様子がおかしかったそうですから」
「はいはい。退散退散と」
赤坂が出て行くと看護師は優しい言葉を何度もかけてくれる。
私の知りたい情報は全く含まれないものの一つわかったことがある。私は名和義巳と認められていないのだ。しかしそれはおかしい今の状況を論理的に説明するなら脳移植しかないはずなのに。
四谷はすぐに来た。
「お姫様が目を覚ましたんだって?」
「先生!」
「ごめんごめん。診察しながら話しましょう」
看護師は遠慮なく私の胸をさらけ出す。診察し易くなっている衣装が女性にとってこれほど恥ずかしいものだとはじめて知った。
聴診と触診はすぐ終了する。
「バイタルと採血結果は?」
看護師が差し出した端末を一目で確認すると見舞い用の椅子を引き寄せて私に話しかけた。
「私は四谷法子、日本の東浜大学の医師よ。言葉わかるのかな」
私は慌ててうなずいた。ネイティブなみの四谷の英語は苦手だ。
「あなたはこの近くの高速道路に倒れている所を発見されてこの施設に運ばれたのよ。普通の病院じゃ手に負えないってことでね」
「先生」
「意識ははっきりしているし、言ってあげたほうがいいわよ。それにこれはカウンセラーじゃなく医師が言うべき内容よ」
「はい」
「実はあなたは半年ほど意識がなかったの」
あれから半年……。
「驚かせたかな。だからしばらくリハビリが必要になるわ。それと何か覚えている? 自分のこととか」
私は頭を振った。何もかもが妙だ。状況が分かるまで正体は言わない方が良いだろう。
「声、出せそうかな」
出せそうな気がした。
「あがぁ」
看護師がポリ容器の吸い口を差し出してくれたので口をゆすぐ。
「あー、あー、はい」
思ったより甲高い。見た目より若いのかもしれない。
「あら、とても可愛らしい声ね」
私は思わず顔が赤らむのを感じた。
「先生」
「わかったわよ。お昼から流動で開始、本人が希望すればプリンやゼリーも良いわよ」
「はい」
「排尿排便は当分ベッド上、リハビリ中は紙おむつね」
「はい」
うわぁー最悪だ。かといって自分でも同じ判断をするだろう。
「心理面はカウンセラーに、検査上は全く問題ないからさっそく整形の医師にリハビリの計画を立ててもらって」
「わかりました」
その日から午前中はリバビリ、午後はカウンセラーの面談という生活が始まった。リハビリはかなりきつい。しかし専門外の私でも異例とわかる速さで運動能力は回復していった。それに比べカウンセリングは何の情報も私にもたらさない。カウンセラーの女性は私に質問し答えを記録するばかりなのだ。
とにかくありがたいことに2週目からは自力でトイレにいけるし、食べ物の形をした料理を食べることができるようになった。その後数日で脳研付属のリハビリ専門施設に転院となる。
今の私にはどうしようもないこととは言え、我が身に起こった謎からは遠ざかってしまう。
いったい何が起こったのだろう。この現象は脳移植でしか説明がつかない。しかしそれなら施設内の誰も知らないとは考えられないから皆が私に対して秘密にしていたことになる。でもそれに何の意味があるというのだ。では私が名和義巳であると説明するか。
だがどうやって証明する。名和本人しか知らない情報を言えば注目を集めるのは可能だ。そして脳が私のものであることを……。
結局2つの疑念から私は沈黙を守ることにした。
一つは私の正体を知っている複数の人間がいるはずであること。手術室で誰にもばれずに脳移植を1人でするのは不可能だ。
もう一つは私の頭部に手術痕がないこと。半年くらいではまだ縫合部の赤みが取れないはずである。だのに私の有毛部には全く痕がなかった。
何か憑依のような超常現象なのか……記憶のないJane Doeの脳に私の記憶が吸い込まれたとか。ご都合主義すぎる。なにか合理的な理由があるはずだ。
リハビリ施設での生活は平和で退屈なものだった。特に私には外部の情報への接触が許されていなかったのでなおさらだ。目覚めてから3週間ほどたったときには施設からの脱走を考えるまでになった。
看護師長にせめてニュース番組の視聴を許してほしいと何度目かの願いにいくとどっしりした体格の女看護師は珍しくすすんで私を部屋に招きいれてくれた。
「ジェーンちゃん、ちょうど良かったわ。面会の方なのよ」
彼女の大きなデスクの前のソファーに見知らぬ人物の後姿があった。
ちなみにジェーンちゃんとは私のことである。
「面会?」
「ええ。2人で話す許可は出てるのでこの部屋を使いなさい」
「ありがとうございます。看護師長さん」
「いつも良い娘ねえ」
看護師長は私の頭を撫でると部屋を出てドアを閉めた。振り返り背を向けたままソファーに座る人物の前に進み挨拶をする。面会許可があるということはJane Doeの家族か関係者の可能性が高い。私は緊張ながら頭を下げ挨拶した。
「ここではジェーンと呼ばれています」
顔を上げると銀髪の美しい女性の緑の目が私を見つめていた。
「マリア・マグダレーネ・マイズナーです。よろしく」
マリアとの初めての対面であった。
§ THE GIRL'S LIFE
マリアが話したのは異様な物語だった。このままここ居ると私は消される。まるで一昔前のハリウッド映画そのままだ。
「それで私にここから逃げろと?」
「そうです。リハビリが終わり研究機関にもどれば脱出の機会はもうありません」
「私は囚人ではなく患者のはずです」
「研究所のマウスや猿は死ぬまで外にでることはないでしょう?」
「私は猿じゃない」
マリアは黙って鞄からリップスティック大のmp3プレイヤーを取り出した。音楽を聴くだけでなくボイスレコーダーとしても使えるタイプだ。イヤーフォンをはめると声が流れ始める。よく知っている声たちが話しているのは、Jane Doe――私のこれからの処遇、実験計画についてのものだった。
「信じられない」
私の驚きはJaneの肉体を実験動物扱いする事に対してだけではない。私の脳がJaneの頭蓋に収まっているのを知っている者が彼らの中に必ずいるはずだった。私を抹殺する気なのか……しかしそれなら移植などという回りくどいことをしなくても。
「どうしますか?」
「急に言われても。しばらく時間をいただけませんか。まだリハビリの予定も残っているし」
「今決めていただかないと。私の訪問は警戒されるはずですから2度目はありません」
私はマリアを見つめ、彼女も私を見つめ返す。このとき心の中に浮かんできた感情をなんと表現すれば良いのか……それはマリアへの信頼感、彼女をまるで親か姉のように慕う感情だった。それでも理性は納得しない。
「逃げても過去のない者であるのに変りはないでしょう? どうやってどこで暮らすのです」
「私は大山ケンゾウの依頼で動いています」
「大山ケンゾウ?」
「あなたは知らないでしょうけど、脳研や付属施設の実質上のスポンサーで大富豪です。既に経歴も、パスポートや運転免許証、社会保障番号まで全てそろっています」
「ではアメリカへ?」
「日本でその姿は目立ちすぎます」
「なるほど……でも、どうしてその大山さんが私を助けるのですか?」
「私は依頼を受けただけなので」
「脱出の?」
「その後の保護もです。あなたに仕えるように言われています」
「私に」
「はい」
自分はマリアの側が良いと私の本能は告げていた。
「お願いします」
マリアは鞄を私に持たせ抱き上げ窓から外にでて近くの林の中を駆ける。駐車場とは逆の方向だ。
「少しでも時間が稼げるよう車はおいていきます」
私の不安を察してかマリアは声をかけてくれた。
林は急な下り勾配になっていた。施設は小高い丘の上にある。視界が開けるとそこは施設に通じる山道の途中で青い目立たぬ車が停車している。
ためらうことなくマリアは後部ドアを開けて私を押し込んで乗り込む。運転席にはにやけた感じの小柄な外国人がいた。
「悪いわね、ファイブファイブ」
「それは止めてくれよ、スリーエム。だいたい俺は6インチあるんだから」
彼らは英語で話しているが、私にもわかり易い。
「あなたもね、ホセ。ところでどこが6インチなのかしらね」
「全面的に謝るよ、マリア。でも身長が5’6”なのは確かだぜ」
男は話しながら車を発進させており、かなりの速度で南に向かっている。
2人は実務的な話を始めた。私たちは立川から輸送機に密航してアンダーセンに向かうらしい。グアムは久しぶりだ。
「ところでマリア。命令書は?」
「これはペンタゴンの作戦じゃないわ」
「根っからの軍人の俺としちゃー、命令書なしと言うのはねえ」
マリアは私の膝の上にあったショルダーバッグから大きな紙包みを取り出した。
「ほら、財務省のものならあるわ」
「へっへー」
「半分は小額紙幣よ」
金を受け取り満足したらしい男は昔話を始めた。マリアは軍の特殊部隊にいた経験があるらしい。私の耳を気にしてなのか時と場所ははっきり言わないが、かなり大掛かりな作戦もあった。
車は常磐から外環自動車道にはいると2人の口数も減る。インターを降りたところで私は車内に用意されていた大きなザックに入れられた。マリアに渡されたフェノバルビタールをのむとまもなく寝てしまい、起きたときには亜熱帯の空の下にいた。
アメリカでの住まいはボルチモア郊外のチェサピーク西岸沿いにある大山の邸宅だった。ワシントンDCとボルチモアの通勤圏だが、ニューヨークまでなら300kmある。大山はたいていニューヨークにいた。私はマリアと2人の生活を始めた。
用意された経歴で15才の私は10年生でハイスクールに通うことになる。
こう話していくと何の疑念も不安も抱かず新生活を受け入れたように思われるかもしれない。
しかし到着した後の数日間、私は真実を求めてできる限りのことはしていた。
問題なのは半年前に名和義巳が公式に死亡していることだ。このためアメリカの一少女に過ぎない私は、電話はもちろんメールを用いた問い合わせもできない。せいぜいネットで検索するしかないので真実を突き止めることは不可能だった。
私の死因は心不全と発表されていた。ドナー登録していたので各臓器は生きているかもしれない。しかし元の肉体が6ヶ月も維持されている可能性はなかった。この肉体で生きていくしかない。
もちろん現状が最悪とは言い切れない。理由は不明だけれど大山の援助でかなり高い生活レベルだし、移された肉体も異性のものであることを除けば若く美しくなっており文句を言うのは筋違いだ。おまけに不思議な美女マリアが側にいてくれる。
しかし私の人生の目標であり目的であった研究は、アメリカ大陸と太平洋を隔てたかなたにあり過去のデータを見ることもできない。
それにしても私の身に何が起こり、なぜこの肉体で目覚めることになったのだろう。
医者の不養生とは言うけれど検診は受けていた。循環器系に問題はなかったし、梗塞を起こしたとも考えられない。考えられるのは何かの事故……それしかないだろう。事故ならあの晩寝てしまってからの記憶はない説明もつく。
そして誰かが私を救うためにこの体に脳を移植した。辻褄は合う。名乗り出なかったのは、脳死状態でさえないJaneへの脳移植が殺人だから。
移植の手術痕が頭部にない問題はここでの生活を始めてまもなくかたがついた。この肉体の治癒能力が異常に高いのだ。包丁で深く切った指の怪我は見る見る止血し数日で痕が消えた。一緒に暮らすマリアは気付いたはずだが、何も言わない。彼女はやはりJaneを前から知っているのだろうか。
これらの疑問を胸に抱いたまま私の新生活は始まった。元の研究に近づくにはアメリカか日本で医学の研究職につく必要があり、道のりは遠い。それでも私の人生の目的であり、間に合うなら自分の手で完成したかった。
私の通う高校はワシントンDCの名門私立で大統領の子女が通うことで名が知られている。アメリカでは飛び級が比較的簡単なのでいきなり大学と言う手もあった。しかし簡単に受け入れてくれる3流大学の単位は名門では認められないことも多いし、私の場合何より英語力が問題である。じっくり構えて勉強するしかなかった。
こうして始まった私の2度目の高校生生活は、妙な話だが、最初のものよりずいぶん楽しかった。心配していた英語力は授業には支障ないものの、やはり友人を作るにははなはだ心細い。それでも溶け込めたのはこの外見のせいだろう。まあ男どもは送り迎えをする謎の美女の方に興味があったらしいが……。
大山邸から学校までは50号線で約44マイル(71km)40分のドライブである。ほとんどが高架なので渋滞時でも50分ほどだ。私はマリアとゆっくり話のできるこの時間を楽しんでいた。家でのマリアは何かと忙しい。しばらく管理会社任せで誰も住んでいなかったこともあるし、家の管理以外にもなにか仕事があるらしかった。
通学を始めて2週間ほどたって親しく慣れたと感じたころ思い切って車内でこう質問した。
「大山さんのご家族は?」
このときまでに私がマリアから受けた説明は、大山がたいへんな資産家であることと私を娘と思って援助するということだけだった。私は彼の娘の運命が気になっていた。日本で事故にあったことは検索で確認できるのだが、今の所在は全く不明である。
「奥様はお亡くなりになって……娘が1人いるはずですけれど私はお会いしたことはございません」
「そう」
マリアはそれ以上の情報を持たないか、言う気がないらしい。私を娘と思うと言うことは実の娘はまだ意識不明ということなのだろうか。
追加しておくと法律上の親権者は大山ではなくマリアだった。
楽しみにしていたマリアとのドライブは、私が16才3か月になり限定免許(深夜早朝は運転できない)を取得すると自然消滅した。行動半径が拡がるのは嬉しいけど少し寂しい。
そしてこの時期、私には悩みがあった。性的なものである。女性の肉体ならそれほど直接的なものはないと理解していたのだけれど、この年令ではそうでもないらしかった。もちろん私の脳は男のものなので男に抱かれたいと感じるわけではない。対象はマリアである。美しい女性であり保護者でもあるマリアは私の身も心もひきつけた。そして2人暮らしの気安さから私はある晩マリアの寝室のドアをノックした。
ドアを開けたマリアに抱きつくと彼女は優しく抱き返してキスをしてくれた。私は精一杯の勇気をだして小声で一緒に寝たいと言い、マリアは私を抱き上げてベッドまで運んでくれた。私の頭の中のシミュレーションとは逆だけど、今の体格では止む終えない。私は夢のような夜を過ごした。
いまこの世界にクレア・Y・モナハンとして存在している私は見かけどおりの人間ではない。これは私を引き取った富豪大山ケンゾウや側に仕えるマリアも知らない秘密のはずである。
3年前この体で目覚める以前の私は茶眼黒髪の日本人男性だった。そして医師として研究者として充実した日々を送っていた。当然年令もクレアの父親世代に近い。
そのころの私も大山ケンゾウと多少の縁はあった。もちろん彼は富豪として世界中で知られている。アメリカで日本食食材の通信販売をきっかけに財を成し、その資金でシリコンバレーを席巻、そしていまや世界のネット界を牛耳るyuzu.comは彼の支配下にあった。しかし彼の幸せの絶頂は長くは続かない。事故で愛妻を亡くし、最愛の娘も意識が戻らなかったのだ。
2人の事故は訪日時に起こり、1人娘は私の所属する大学病院で治療を受けた。脳幹死は免れたものの植物状態となった娘のために彼は多額の寄付を行い治療のための研究施設を設立した。私が席を置くことになった通称『脳研』がそれである。私は既に植物状態の症例への治療で21例中6例ほどの成功を学会で発表していた。もちろんすぐに日常生活に復帰できるレベルものはさらに少ない。しかしこの段階では危険度の高い症例にしか許可が下りないので大成功と言えた。それなのに症例数が少ないのは、脳の部分移植を伴うので倫理委員会で1例ごとにかなり紛糾するからだ。
これには裏の事情もある。脳死患者の臓器移植を待つ人もいるのだ。肝臓や腎臓なら生体移植も可能だけれど例えば心臓となるとそうはいかない。もちろん遺伝子操作された豚のや費用をいとわなければ人の細胞から育てられたものも実用の段階にあった。しかしそれらは世界的に見てもせいぜい瀕死になった兵士に使われる程度だ。さまざまな心理的、社会的、あるいは宗教的問題が関与していた。
そのころの日本はちょうど移行期で法整備を待っている段階であった。2010年前後に認められた脳死移植は軌道に乗っており、それに関与するさまざまな団体や組織は新しい治療の導入を快く思っていなかった。また日本人の考え方からすると豚や試験管から取り出した心臓を移植することに強い抵抗もある。
そのため私の治療は脳以外の臓器移植をまつ患者やその家族からは蛇蝎のごとく嫌われていた。私も神を気取る気はない。しかし治る可能性があるなら脳に損傷を受けた方や家族だって治療を望むのは当然だった。そして大山氏も。
大山氏の娘の場合本人が臓器移植に同意していたことと日本の脳死判定基準で見れば脳死に該当する可能性がある点も問題だった。私は大山氏の代理人に2つの方法を提案した。
一つは私がこれまで行ってきた方法、意識が目覚める可能性はあるものの日常生活へ復帰できるかどうかは賭けになる。
もう一つは広範囲の脳移植であった。私は動物実験では成功させており、成功の自信はある。ただ外見が変わってしまうので父親に強く勧める気はなかった。成功して受けるはずの名誉にはさほど関心はない。賞賛と同等、いやそれを上回る非難を受けるはずだ。それでも学問的興味からこれを提案する誘惑には勝てなかった。
代理人を見送った私は神崎所長の部屋を訪れた。次期教授を狙う彼は私の仕事に必要以上に興味を持っている。それは仕方のないことであった。この研究所自体大山氏の娘の治療目的で建てられたようなものなのだ。私の提案と大山氏の選択は研究所のそして所長の未来に大きな影響を与える。
「どうだったかね、名和先生」
名和義巳……それが私の名前だ。
「代理人は治療の提案をと急いでいましたので以前から報告しておいた2案を示しました」
「うーん。あまりにも急だな」
そう言うと40代後半にしてはふさふさした髪をかきながら部屋を歩き回り始めた。
「確かに私どもが考えていたよりは早いですけれど、準備は整っていると思います」
「準備だと? 君は何もわかっちゃいない。それに移植は政治的にも微妙なときなんだ」
この研究所は脳に関する研究と治療を行っているが、途中で脳死状態となる症例も多いので半分移植センターともいえる。
それにいくら研究馬鹿と言われる私でも夏の総選挙で脳死移植の見直しを掲げる大自党が優勢らしいことも知っていた。
「ともかく大山氏の返事は明日早朝にあります」
「あ、ああ。考慮しておく。ところで昨日高速で見つかったと言う娘さんはどうかね?」
「まだ意識は戻りません。それに少し奇妙な所があるのでご報告しようとおもっていたところです」
「奇妙とは? まだ身元不明なのか」
「ええ。でもそれより問題なのはCT、MRIとMRAの診断結果です」
「どうした?」
「全く問題がないのです」
「外傷もなく、頭蓋内に損傷がなくても目覚めない例はあるだろう」
「これは私見なのですが」
「君の私見なら喜んで聞こう」
「PET(ポジトロン断層法)を見るとまるで記憶が消されているようなのです」
「それは……考えすぎではないかね。PETで判断するのは無理だろう」
「いわゆる植物状態の症例のデータを多く集め、その治療をしてきた私がいうのです。目覚めても障害の残った方をご存知で?」
「ああ、私も君の論文は見ている」
「目覚めぬ間の彼らでさえあの娘に比べれば脳の活動は何倍も盛んです。目覚めても視覚情報処理さえできないと思われます」
「興味深いな。かといって脳死扱いにもできないわけか」
「所長!」
「すまん。不謹慎なことを言うつもりじゃなかったんだ」
自分の研究室に戻る前に上級主任の平田先生と話をした。5期上で私の直接の上司に当たる。彼は神崎所長の一の弟子で私の研究の指導者というよりお目付け役だ。口うるさいところはあるが、たいてい好きにさせてくれるのでこれまでは上手くやってきた。
「名和先生。大山氏の娘の治療だがもう少し待てないのか」
「それは先方の希望しだいかと」
「こちらの都合というものもあるだろう」
それからしばらく議論したが結論は出ない。と言っても私が提案し大山氏が受ければ治療を行うと言うのはすでに何年も前から決まっていた。例え所長が反対してもだ。
別れてコーヒーでも飲もうと休憩室に入ると部下の2人がいた。大学院を出たばかりの赤坂と青山だ。
「あ、名和先生、所長どうでした」
「どうとは、どういう意味だい。青山先生」
「大山氏の娘さんの手術のことですよ。許可出ました?」
「許可も何も大山氏が望めばやるしかないだろう」
「でも」
「でもなにかね」
人当たりのいい青山は所内の噂話に通じている。
「じつは大自党の鷹山代議士から電話があったらしくて……それからどうも所内があわただしいようですよ」
「ふーん」
「それより名和先生、スリーピングビューティーについてはその後どうなんです?」
赤坂は開業医の子息で研究は院までと思っているらしく身が入らない。しかしメスさばきは見所がありたいていのことはこなせるようになっていた。
「だれだい?」
「いやだなー、Jane Doe(名前のわからぬ女性)のことですよ」
「完全な健康体なのに目覚めぬ不思議な娘さ」
「作られたように完璧な肉体も動かねば人形も同然か。輝く金髪も青い目もただの」
「冗談はそのくらいにしておきたまえ。それより」
私は大山氏が娘の治療を望んだ場合、明日は午前中から手術になることを説明した。
部屋に戻って大山氏の娘の資料にもう一度当たる。目覚めさせる自身はあった。しかし大山氏に喜んでもらえるかどうかはある意味運が左右するだろう。
再確認を終えたときには夜になっていた。一緒に持ってきたJane Doeの資料も見ておこうと立ち上がったときドアがノックされた。
ドアの向こうに立っていたのはカフェラテのカップを持った女性だ。彼女は胸部外科から来ている四谷法子である。父親は形成外科学の、母親は生理学の教授と言うサラブレッドで、私より4期下なのに将来講座を率いるのは当然と思っているらしい。
「名和先生、大山氏の娘さんとJaneの資料をおもちですか?」
「うん。でも電子カルテシステムにも入っているだろう?」
「認証システムが面倒だし、閲覧記録も残りますからね。それに名和先生の鉛筆メモは入力されないんでしょう?」
「大山さんのはデスクの上、Jane Doeはドアの横のテーブルに。大山さんのは明日朝には返してくれ」
「すぐ終りますので、ここで見させていただいても?」
「どうぞ。私は長椅子で休む」
5分ほどで大山さんの資料を調べ終えると彼女は振り返らずにこう言ってからJaneの資料を見始めた。
「よろしければテーブルに置いたカフェラテをどうぞ。まだ口をつけてませんから」
「いただくよ。でも君が口をつけていないのは残念に思う男のほうが多いんじゃないかな」
「あら、名和先生とは思えない冗談ですこと。他の方ならセクハラものですわよ」
研究室とは言え夜に1人で男の部屋に来てよく言う。
「お褒めに預かりどうも。では遠慮なく」
私が飲み物を啜る音が途切れると彼女がページをめくる音だけになった。
しばらくすると遠くからヘリの音が聞こえてきた。緊急の移植手術が入るのだろうか。なんだか眠い。さっきまで緊張で眠れそうになかったのに。
「先生、彼女のHLAですけど」
「なんて言った? なんだか眠いんだ」
「あら、明日はお忙しいのでしょう。私はこれで退散しますから」
「すまない」
私はそのまま長椅子で眠ってしまったのだと思う。
それが私が自分の体で過ごした最後の夜である。
§ THE METAMORPHOSIS
目を開けると興奮した様子の若い女性看護師が顔をのぞき込んでいた。手足も首も思うように動かない。
「私がわかりますか?」
一度まばたく。デュマを呼んだかどうかは知らないが、賢そうな娘だから気づくだろう。
「どこか痛いところは?」
今度は二度瞬いた。
「先生もすぐ見えますから、大丈夫よ」
一度まばたく。
「記憶は……ああ、返事はいいから。私が混乱させてどうするのよ!」
愉快な看護師の表情はころころ変わる。笑いだした私は痰でむせ、看護師はあわてて側臥位にすると背中をたたいた。
どうやらずいぶん長い間意識がなかったらしい。くも膜下出血のはずはないから梗塞かな。私の脳には小さな動脈瘤があるが百万分の一の危険もないし、万一破裂したら即死の場所にあった。万一じゃ矛盾か、億が一だな。
ドアが開き青い顔をした若い医師が入ってきた。顔だけは見たことがある。まだローテーション中で当直を禁じられているはずだ。
私の心配をよそに二人は間抜けな会話をしていた。
「何だったっけ名前」
「ありませんってば」
「意識戻ったんだろう」
「まだ話せません」
「そ、そうか。えーっとえーっと」
「なんて言ったんですか、先生」
「まだ言ってないって」
「あら」
「聴診するから場所替わって」
「はい」
側臥位の私の正面、窓側に立ち腕をまわして背中をさすっていた看護師が動くと夜の闇で窓ガラスが鏡になっていた。そこに映っている私は記憶にあるJane Doeの姿である。常に冷静なことが自慢だったはずの私はあっけなく気を失った。
次に目覚めたとき外は明るかった。側には中年の女性看護師と赤坂がいる。
「やあ、気がついたかい。僕が見えるかな」
首が動くので軽くうなずいた。
「おや動かせるのか」
さらに赤坂が何か言おうとしたとき看護師が口を挟んだ。
「先生、カウンセラーが来るまでは女医さんに交代して下さい。今朝の看護会議の」
「了解、了解。たしか四谷先生がいたぞ」
「もうお呼びしました」
「俺はお呼びじゃないか……」
「昨夜もなんだか当直の先生が見えてから様子がおかしかったそうですから」
「はいはい。退散退散と」
赤坂が出て行くと看護師は優しい言葉を何度もかけてくれる。
私の知りたい情報は全く含まれないものの一つわかったことがある。私は名和義巳と認められていないのだ。しかしそれはおかしい今の状況を論理的に説明するなら脳移植しかないはずなのに。
四谷はすぐに来た。
「お姫様が目を覚ましたんだって?」
「先生!」
「ごめんごめん。診察しながら話しましょう」
看護師は遠慮なく私の胸をさらけ出す。診察し易くなっている衣装が女性にとってこれほど恥ずかしいものだとはじめて知った。
聴診と触診はすぐ終了する。
「バイタルと採血結果は?」
看護師が差し出した端末を一目で確認すると見舞い用の椅子を引き寄せて私に話しかけた。
「私は四谷法子、日本の東浜大学の医師よ。言葉わかるのかな」
私は慌ててうなずいた。ネイティブなみの四谷の英語は苦手だ。
「あなたはこの近くの高速道路に倒れている所を発見されてこの施設に運ばれたのよ。普通の病院じゃ手に負えないってことでね」
「先生」
「意識ははっきりしているし、言ってあげたほうがいいわよ。それにこれはカウンセラーじゃなく医師が言うべき内容よ」
「はい」
「実はあなたは半年ほど意識がなかったの」
あれから半年……。
「驚かせたかな。だからしばらくリハビリが必要になるわ。それと何か覚えている? 自分のこととか」
私は頭を振った。何もかもが妙だ。状況が分かるまで正体は言わない方が良いだろう。
「声、出せそうかな」
出せそうな気がした。
「あがぁ」
看護師がポリ容器の吸い口を差し出してくれたので口をゆすぐ。
「あー、あー、はい」
思ったより甲高い。見た目より若いのかもしれない。
「あら、とても可愛らしい声ね」
私は思わず顔が赤らむのを感じた。
「先生」
「わかったわよ。お昼から流動で開始、本人が希望すればプリンやゼリーも良いわよ」
「はい」
「排尿排便は当分ベッド上、リハビリ中は紙おむつね」
「はい」
うわぁー最悪だ。かといって自分でも同じ判断をするだろう。
「心理面はカウンセラーに、検査上は全く問題ないからさっそく整形の医師にリハビリの計画を立ててもらって」
「わかりました」
その日から午前中はリバビリ、午後はカウンセラーの面談という生活が始まった。リハビリはかなりきつい。しかし専門外の私でも異例とわかる速さで運動能力は回復していった。それに比べカウンセリングは何の情報も私にもたらさない。カウンセラーの女性は私に質問し答えを記録するばかりなのだ。
とにかくありがたいことに2週目からは自力でトイレにいけるし、食べ物の形をした料理を食べることができるようになった。その後数日で脳研付属のリハビリ専門施設に転院となる。
今の私にはどうしようもないこととは言え、我が身に起こった謎からは遠ざかってしまう。
いったい何が起こったのだろう。この現象は脳移植でしか説明がつかない。しかしそれなら施設内の誰も知らないとは考えられないから皆が私に対して秘密にしていたことになる。でもそれに何の意味があるというのだ。では私が名和義巳であると説明するか。
だがどうやって証明する。名和本人しか知らない情報を言えば注目を集めるのは可能だ。そして脳が私のものであることを……。
結局2つの疑念から私は沈黙を守ることにした。
一つは私の正体を知っている複数の人間がいるはずであること。手術室で誰にもばれずに脳移植を1人でするのは不可能だ。
もう一つは私の頭部に手術痕がないこと。半年くらいではまだ縫合部の赤みが取れないはずである。だのに私の有毛部には全く痕がなかった。
何か憑依のような超常現象なのか……記憶のないJane Doeの脳に私の記憶が吸い込まれたとか。ご都合主義すぎる。なにか合理的な理由があるはずだ。
リハビリ施設での生活は平和で退屈なものだった。特に私には外部の情報への接触が許されていなかったのでなおさらだ。目覚めてから3週間ほどたったときには施設からの脱走を考えるまでになった。
看護師長にせめてニュース番組の視聴を許してほしいと何度目かの願いにいくとどっしりした体格の女看護師は珍しくすすんで私を部屋に招きいれてくれた。
「ジェーンちゃん、ちょうど良かったわ。面会の方なのよ」
彼女の大きなデスクの前のソファーに見知らぬ人物の後姿があった。
ちなみにジェーンちゃんとは私のことである。
「面会?」
「ええ。2人で話す許可は出てるのでこの部屋を使いなさい」
「ありがとうございます。看護師長さん」
「いつも良い娘ねえ」
看護師長は私の頭を撫でると部屋を出てドアを閉めた。振り返り背を向けたままソファーに座る人物の前に進み挨拶をする。面会許可があるということはJane Doeの家族か関係者の可能性が高い。私は緊張ながら頭を下げ挨拶した。
「ここではジェーンと呼ばれています」
顔を上げると銀髪の美しい女性の緑の目が私を見つめていた。
「マリア・マグダレーネ・マイズナーです。よろしく」
マリアとの初めての対面であった。
§ THE GIRL'S LIFE
マリアが話したのは異様な物語だった。このままここ居ると私は消される。まるで一昔前のハリウッド映画そのままだ。
「それで私にここから逃げろと?」
「そうです。リハビリが終わり研究機関にもどれば脱出の機会はもうありません」
「私は囚人ではなく患者のはずです」
「研究所のマウスや猿は死ぬまで外にでることはないでしょう?」
「私は猿じゃない」
マリアは黙って鞄からリップスティック大のmp3プレイヤーを取り出した。音楽を聴くだけでなくボイスレコーダーとしても使えるタイプだ。イヤーフォンをはめると声が流れ始める。よく知っている声たちが話しているのは、Jane Doe――私のこれからの処遇、実験計画についてのものだった。
「信じられない」
私の驚きはJaneの肉体を実験動物扱いする事に対してだけではない。私の脳がJaneの頭蓋に収まっているのを知っている者が彼らの中に必ずいるはずだった。私を抹殺する気なのか……しかしそれなら移植などという回りくどいことをしなくても。
「どうしますか?」
「急に言われても。しばらく時間をいただけませんか。まだリハビリの予定も残っているし」
「今決めていただかないと。私の訪問は警戒されるはずですから2度目はありません」
私はマリアを見つめ、彼女も私を見つめ返す。このとき心の中に浮かんできた感情をなんと表現すれば良いのか……それはマリアへの信頼感、彼女をまるで親か姉のように慕う感情だった。それでも理性は納得しない。
「逃げても過去のない者であるのに変りはないでしょう? どうやってどこで暮らすのです」
「私は大山ケンゾウの依頼で動いています」
「大山ケンゾウ?」
「あなたは知らないでしょうけど、脳研や付属施設の実質上のスポンサーで大富豪です。既に経歴も、パスポートや運転免許証、社会保障番号まで全てそろっています」
「ではアメリカへ?」
「日本でその姿は目立ちすぎます」
「なるほど……でも、どうしてその大山さんが私を助けるのですか?」
「私は依頼を受けただけなので」
「脱出の?」
「その後の保護もです。あなたに仕えるように言われています」
「私に」
「はい」
自分はマリアの側が良いと私の本能は告げていた。
「お願いします」
マリアは鞄を私に持たせ抱き上げ窓から外にでて近くの林の中を駆ける。駐車場とは逆の方向だ。
「少しでも時間が稼げるよう車はおいていきます」
私の不安を察してかマリアは声をかけてくれた。
林は急な下り勾配になっていた。施設は小高い丘の上にある。視界が開けるとそこは施設に通じる山道の途中で青い目立たぬ車が停車している。
ためらうことなくマリアは後部ドアを開けて私を押し込んで乗り込む。運転席にはにやけた感じの小柄な外国人がいた。
「悪いわね、ファイブファイブ」
「それは止めてくれよ、スリーエム。だいたい俺は6インチあるんだから」
彼らは英語で話しているが、私にもわかり易い。
「あなたもね、ホセ。ところでどこが6インチなのかしらね」
「全面的に謝るよ、マリア。でも身長が5’6”なのは確かだぜ」
男は話しながら車を発進させており、かなりの速度で南に向かっている。
2人は実務的な話を始めた。私たちは立川から輸送機に密航してアンダーセンに向かうらしい。グアムは久しぶりだ。
「ところでマリア。命令書は?」
「これはペンタゴンの作戦じゃないわ」
「根っからの軍人の俺としちゃー、命令書なしと言うのはねえ」
マリアは私の膝の上にあったショルダーバッグから大きな紙包みを取り出した。
「ほら、財務省のものならあるわ」
「へっへー」
「半分は小額紙幣よ」
金を受け取り満足したらしい男は昔話を始めた。マリアは軍の特殊部隊にいた経験があるらしい。私の耳を気にしてなのか時と場所ははっきり言わないが、かなり大掛かりな作戦もあった。
車は常磐から外環自動車道にはいると2人の口数も減る。インターを降りたところで私は車内に用意されていた大きなザックに入れられた。マリアに渡されたフェノバルビタールをのむとまもなく寝てしまい、起きたときには亜熱帯の空の下にいた。
アメリカでの住まいはボルチモア郊外のチェサピーク西岸沿いにある大山の邸宅だった。ワシントンDCとボルチモアの通勤圏だが、ニューヨークまでなら300kmある。大山はたいていニューヨークにいた。私はマリアと2人の生活を始めた。
用意された経歴で15才の私は10年生でハイスクールに通うことになる。
こう話していくと何の疑念も不安も抱かず新生活を受け入れたように思われるかもしれない。
しかし到着した後の数日間、私は真実を求めてできる限りのことはしていた。
問題なのは半年前に名和義巳が公式に死亡していることだ。このためアメリカの一少女に過ぎない私は、電話はもちろんメールを用いた問い合わせもできない。せいぜいネットで検索するしかないので真実を突き止めることは不可能だった。
私の死因は心不全と発表されていた。ドナー登録していたので各臓器は生きているかもしれない。しかし元の肉体が6ヶ月も維持されている可能性はなかった。この肉体で生きていくしかない。
もちろん現状が最悪とは言い切れない。理由は不明だけれど大山の援助でかなり高い生活レベルだし、移された肉体も異性のものであることを除けば若く美しくなっており文句を言うのは筋違いだ。おまけに不思議な美女マリアが側にいてくれる。
しかし私の人生の目標であり目的であった研究は、アメリカ大陸と太平洋を隔てたかなたにあり過去のデータを見ることもできない。
それにしても私の身に何が起こり、なぜこの肉体で目覚めることになったのだろう。
医者の不養生とは言うけれど検診は受けていた。循環器系に問題はなかったし、梗塞を起こしたとも考えられない。考えられるのは何かの事故……それしかないだろう。事故ならあの晩寝てしまってからの記憶はない説明もつく。
そして誰かが私を救うためにこの体に脳を移植した。辻褄は合う。名乗り出なかったのは、脳死状態でさえないJaneへの脳移植が殺人だから。
移植の手術痕が頭部にない問題はここでの生活を始めてまもなくかたがついた。この肉体の治癒能力が異常に高いのだ。包丁で深く切った指の怪我は見る見る止血し数日で痕が消えた。一緒に暮らすマリアは気付いたはずだが、何も言わない。彼女はやはりJaneを前から知っているのだろうか。
これらの疑問を胸に抱いたまま私の新生活は始まった。元の研究に近づくにはアメリカか日本で医学の研究職につく必要があり、道のりは遠い。それでも私の人生の目的であり、間に合うなら自分の手で完成したかった。
私の通う高校はワシントンDCの名門私立で大統領の子女が通うことで名が知られている。アメリカでは飛び級が比較的簡単なのでいきなり大学と言う手もあった。しかし簡単に受け入れてくれる3流大学の単位は名門では認められないことも多いし、私の場合何より英語力が問題である。じっくり構えて勉強するしかなかった。
こうして始まった私の2度目の高校生生活は、妙な話だが、最初のものよりずいぶん楽しかった。心配していた英語力は授業には支障ないものの、やはり友人を作るにははなはだ心細い。それでも溶け込めたのはこの外見のせいだろう。まあ男どもは送り迎えをする謎の美女の方に興味があったらしいが……。
大山邸から学校までは50号線で約44マイル(71km)40分のドライブである。ほとんどが高架なので渋滞時でも50分ほどだ。私はマリアとゆっくり話のできるこの時間を楽しんでいた。家でのマリアは何かと忙しい。しばらく管理会社任せで誰も住んでいなかったこともあるし、家の管理以外にもなにか仕事があるらしかった。
通学を始めて2週間ほどたって親しく慣れたと感じたころ思い切って車内でこう質問した。
「大山さんのご家族は?」
このときまでに私がマリアから受けた説明は、大山がたいへんな資産家であることと私を娘と思って援助するということだけだった。私は彼の娘の運命が気になっていた。日本で事故にあったことは検索で確認できるのだが、今の所在は全く不明である。
「奥様はお亡くなりになって……娘が1人いるはずですけれど私はお会いしたことはございません」
「そう」
マリアはそれ以上の情報を持たないか、言う気がないらしい。私を娘と思うと言うことは実の娘はまだ意識不明ということなのだろうか。
追加しておくと法律上の親権者は大山ではなくマリアだった。
楽しみにしていたマリアとのドライブは、私が16才3か月になり限定免許(深夜早朝は運転できない)を取得すると自然消滅した。行動半径が拡がるのは嬉しいけど少し寂しい。
そしてこの時期、私には悩みがあった。性的なものである。女性の肉体ならそれほど直接的なものはないと理解していたのだけれど、この年令ではそうでもないらしかった。もちろん私の脳は男のものなので男に抱かれたいと感じるわけではない。対象はマリアである。美しい女性であり保護者でもあるマリアは私の身も心もひきつけた。そして2人暮らしの気安さから私はある晩マリアの寝室のドアをノックした。
ドアを開けたマリアに抱きつくと彼女は優しく抱き返してキスをしてくれた。私は精一杯の勇気をだして小声で一緒に寝たいと言い、マリアは私を抱き上げてベッドまで運んでくれた。私の頭の中のシミュレーションとは逆だけど、今の体格では止む終えない。私は夢のような夜を過ごした。
投稿TS小説 移植された脳はレシピエントの夢を見るか? (by.BQ) <1>
移植された脳はレシピエントの夢を見るか?
Do transplanted brains dream about the new dody?
――BQ――
「お父様、なにをなさるのですか?」
脳移植されて身寄りのない少女となった私を引き取り、ずっと見守ってくれていた養父にいきなり腕を強くつかまれて、私は動揺していた。
ここは南の島にある彼の別荘で、彼の側に呼ばれた私は部屋に用意されていたビキニを身につけプールサイドにいた。
「魅力的に育ちすぎたお前のせいだ。予定より少し早いが女にしてやる」
意味は十分すぎるほどわかる。逃げようともがくが50代とはいえ鍛えられた肉体をもつ養父との力の差は歴然としていた。
「そんな、信じていましたのに」
「私が無償で最高の教育と環境をお前のために用意したと思ったのかね」
そう言いながら養父は水着のトップを剥ぎ取りマットの上に押し倒した。
「いやー、マリア!」
私の世話係は助けを求める声に反応せずじっと見詰めている。その顔にかすかに浮かんだ憐憫の色は私をますます絶望の淵へと追い込んだ。
「お父様!」
「そう言われると背徳的行為のような気がしてますます興奮するよ」
首筋あたりにキスしていた口は徐々に下がり私の乳首を含んで転がす。
「あ〜」
マリアとのレズ行為で開発された体からの快感は私の全てを支配しようとしていた。
キスを求めて酒臭い彼の顔が近づいてきたとき私は逃れたい一心でこれまで言わなかった秘密を口にした。
「少し前に記憶が戻りました。私は男なんです」
「ますます征服したくなる状況だな」
少しも驚かないのはおかしい。養父は私の正体を知っているのか。気が遠くなりそうな快感を我慢して質問しようとした。だがビキニのボトム内に侵入した彼の手が私の意志を奪い去る。
逃げようとして暴れていたはずなのに、いつしか刺激を求めている。彼がいきなり身を離したとき私は自分が腰を振っているのに気付いた。まるでさかりのついた犬だ。
「慌てるな少し待ちなさい。マリア」
「はい旦那様」
「ここは暑い。私の寝室に運びなさい」
「かしこまりました」
私はマットの横にあったタオルを抱きしめ惨めに震えていた。硬く閉じたまぶたを押しのけて涙があふれ出る。やっと女性の肉体を受け入れ養父の娘として生きていく決心をしたばかりだというのに。これではあんまりだ。
3年前この体で目覚めた瞬間から自分が何者であるかははっきり自覚していた。しかしその事実を証明する手だてはなにもない。私しか知らないはずの情報を漏らせば周りの注意を引くことはできただろう。ただそれをすれば私を身元不明の少女の体に閉じこめた犯人たちも動く。全ての記憶を消される危険は冒(おか)せなかった。
養父に引き取られてからの3年間も私は犯人たちの影に怯え続けた。彼らの支配下にある施設から出たことを危険と見なす可能性がある。事実養父は私を引き取るのに金だけではなく政治的圧力をかけたと言っていた。でももし養父が私の過去を知っているなら? そこから導き出される結論は1つ。養父は直接犯人たちと取り引きしたのだ。私は彼のペットとして売られたということだろう。
近づいてきたマリアは泣き続ける私を黙って抱き上げる。書類では私より10才年上の彼女はこの3年間忠実に仕え守ってくれた。身の回りの世話から護衛、そして愛人として。そっと視線を向けると緑の瞳が反応する。いつもは美しく感じる緑だのに今はとても冷たい感じだ。
「助けてよ、マリア」
マリアは返事をせず歩き始めた。こんな状況でも風に揺れるきれいな銀髪に見とれてしまう。
「一緒に逃げて」
マリアは歩みを止めず養父の寝室まで私を抱いて行き鏡の前のスツールに下ろした。涙の痕のついた私の顔を拭き、気のせいかいつもよりくすんで見える金髪をとかす。あんなことがあったのに鏡の中の私は普段と変わらぬ落ち着いた様子に見えた。
「私のクレアの様子はどうかね」
そう言いながら入ってきた養父に私の感情は爆発した。
「人でなし。私を騙したのですか!」
「問題ありません。旦那様」
私を無視した2人の会話に興奮し自分でもなにを言っているかわからない。
しばらく私の叫ぶままに任せた後養父は近づいてこう言った。
「おいおい、さっきは自分は男だとか言ってなかったかね。それじゃ我侭な小娘だぞ」
養父はやはり知らないのか。
「信じてくれるのですか?」
「私には外側だけで十分だよ」
そう言いながら油断した私を抱きしめる。
「やめて!」
「クレアが女になるところを見たいかね」
「旦那様のお望みのままに」
「いやよ! 出て行って」
「いてもらったほうが面白そうだ」
「かしこまりました」
逃げ出そうと暴れるが、かえって養父を楽しませるくらいしかできない。ベッドの上に投げ出されたとき私の抵抗は終っていた。
「もうおしまいかね」
「あなたを楽しませるだけですもの」
「水着の股を湿らせて言ってもなあ」
「ひぃ」
慌てて枕で隠そうとする前に彼は力任せに最後の水着を剥ぎ取る。
仰向けのまま顔をそむけている私の体を指や舌がはう。悲しいけど2分も持たなかった。
「あ〜」
開いた口に養父はすぐに舌を差し入れた。マリアとは違うざらついた舌、私も舌を絡め流し込まれた唾液を啜る。男に抱かれる嫌悪感を性的興奮が押し流していた。また知らぬうちに刺激を求めるように腰を振っている。
彼は口を離し何かつぶやきながら私の腿の裏を持って押し上げる。そしてそのまま顔を埋めた。私の泉を舌がなめ、髭剃り後が内股をこすり、鼻が敏感な突起を押す。私の口は獣のような叫びを上げ、背中は弓なりになった。興奮で見開いた目に私たちを見つめるマリアの姿が映る。
嫉妬? 私に……それとも養父に。しかし私の注意は彼に戻された。
「欲しがっているものをやるぞ」
「え?」
視線を下げると彼は既に全裸であり、勃起したそれは私に狙いを定めていた。予想しなかったといえば嘘になるだろう。しかしその獰猛さが恐怖を呼び起こした。
「やめて!」
彼はかまわず先を押し当てゆっくりと腰を静める。充分濡れていた私は先端をゆっくり飲み込み熱いそれをゆっくり包み込んでいった。
私がさらなる刺激を求めて動こうとした瞬間、彼は一気に沈み込んだ。
「あ〜」
彼が腰を振り始めると私も動いていた。そしてさらなる刺激を求めて足を相手の腰に絡めて奥まで導く。
「そら行くぞ」
一匹の雌と化した私は彼にしがみついて身を任せた。
驚くほどの若さを見せ二度目を後ろから三度目を騎乗位で私にそそぎ込むと彼は寝てしまった。興奮の冷めぬ私は残されてしまったかっこうだ。
控えていたマリアは無言のまま私をシーツでくるみ運び出す。その目は優しく、いつものマリアに戻っていた。
考えてみれば助けてくれなかったマリアへの不満は的外れである。彼女は養父に、ああもう違うのだ。彼は私を上に載せ突き上げながら妻にすると宣言した。マリアは彼に雇われて世話をしてくれているのであり、逆らって職を失えば当然私と別れなければいけない。
私のベッドルームのバスタブにはすでに湯が張られており、マリアは私の体を壊れもののようにシーツから出してその中に入れた。
「ごめんね、勝手なことを言って。マリア」
マリアは私の汚れを落としながら顔を近づけキスをした。柔らかい舌が歯肉をこすり私の舌の迎えを待つ。女の長い興奮はまだ続いており体の芯に残る情欲はその誘いで再び燃え上がった。
陰部の汚れを洗い終えた手を逃さぬように腿ではさむとマリアは困ったようにささやいた。
「体を拭かせてください。このままではお仕着せがぬれてしまいます」
私は笑って許可を与える。マリアは私を抱き上げてバスルームから運び出し大きなタオルで拭き始めた。タオルが乳首や性器周りに触れるとその感覚と期待で思いのほか大きな声が出てしまう。
「う〜ん。マリアァ」
マリアは手を早めわずかな時間で拭き終えて2人でベッドに入った。
マリアとのレズ関係では(心は男のつもりだけれど第三者が見れば同性愛というしかないだろう)私が常に積極的に動いていた。男であることを自らに納得させたい心理だったのだろう。でも今日の私はマリアを受け入れようと体を開いただけだった。
あれほどの痴態を見られたあとでは男の見栄を張る気もしない。それに自分は男だという告白をマリアに聞かれた可能性もあった。彼女に正体を知られたら私は養父に続き恋人を亡くすことになる。マリアは男に興味を示さないタイプだと私は考えていた。
マリアの口が秘所に触れたとたん私は自分の決心を後悔することになる。マリアが私の膝の裏に手を当ててベッドに押さえ込むように長い腕を伸ばしたのだ。エビ固め状態の私の体は恥ずかしい所を全てマリアの目の前にさらけ出している。おまけに自分からも良く見えた。
「マリア」
止めてと言う前にいやらしい音をたててマリアは私を吸い始めた。直接的刺激でなく大きな音で私を刺激する。恥ずかしがり屋の私にはとても効果的だ。慌てて逃げようにもマリアの方が力が強く脚も体も動かない。頭をどけようと腕を伸ばすと器用に手首をつかまれた。顔を少し上げたマリアが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「や、止めて」
「泉はまだ枯れておりませんわ」
「ひぃー」
マリアの柔らかく長い舌が私の下半身全てを支配した。テイレシアスのいう男の十倍の快感は理性を吹き飛ばす。女同士の行為は私の意識がなくなるまで続いた。
<つづく>
Do transplanted brains dream about the new dody?
――BQ――
「お父様、なにをなさるのですか?」
脳移植されて身寄りのない少女となった私を引き取り、ずっと見守ってくれていた養父にいきなり腕を強くつかまれて、私は動揺していた。
ここは南の島にある彼の別荘で、彼の側に呼ばれた私は部屋に用意されていたビキニを身につけプールサイドにいた。
「魅力的に育ちすぎたお前のせいだ。予定より少し早いが女にしてやる」
意味は十分すぎるほどわかる。逃げようともがくが50代とはいえ鍛えられた肉体をもつ養父との力の差は歴然としていた。
「そんな、信じていましたのに」
「私が無償で最高の教育と環境をお前のために用意したと思ったのかね」
そう言いながら養父は水着のトップを剥ぎ取りマットの上に押し倒した。
「いやー、マリア!」
私の世話係は助けを求める声に反応せずじっと見詰めている。その顔にかすかに浮かんだ憐憫の色は私をますます絶望の淵へと追い込んだ。
「お父様!」
「そう言われると背徳的行為のような気がしてますます興奮するよ」
首筋あたりにキスしていた口は徐々に下がり私の乳首を含んで転がす。
「あ〜」
マリアとのレズ行為で開発された体からの快感は私の全てを支配しようとしていた。
キスを求めて酒臭い彼の顔が近づいてきたとき私は逃れたい一心でこれまで言わなかった秘密を口にした。
「少し前に記憶が戻りました。私は男なんです」
「ますます征服したくなる状況だな」
少しも驚かないのはおかしい。養父は私の正体を知っているのか。気が遠くなりそうな快感を我慢して質問しようとした。だがビキニのボトム内に侵入した彼の手が私の意志を奪い去る。
逃げようとして暴れていたはずなのに、いつしか刺激を求めている。彼がいきなり身を離したとき私は自分が腰を振っているのに気付いた。まるでさかりのついた犬だ。
「慌てるな少し待ちなさい。マリア」
「はい旦那様」
「ここは暑い。私の寝室に運びなさい」
「かしこまりました」
私はマットの横にあったタオルを抱きしめ惨めに震えていた。硬く閉じたまぶたを押しのけて涙があふれ出る。やっと女性の肉体を受け入れ養父の娘として生きていく決心をしたばかりだというのに。これではあんまりだ。
ラッキーな日 (いずみコミックス) (2009/06/29) 犬 商品詳細を見る |
3年前この体で目覚めた瞬間から自分が何者であるかははっきり自覚していた。しかしその事実を証明する手だてはなにもない。私しか知らないはずの情報を漏らせば周りの注意を引くことはできただろう。ただそれをすれば私を身元不明の少女の体に閉じこめた犯人たちも動く。全ての記憶を消される危険は冒(おか)せなかった。
養父に引き取られてからの3年間も私は犯人たちの影に怯え続けた。彼らの支配下にある施設から出たことを危険と見なす可能性がある。事実養父は私を引き取るのに金だけではなく政治的圧力をかけたと言っていた。でももし養父が私の過去を知っているなら? そこから導き出される結論は1つ。養父は直接犯人たちと取り引きしたのだ。私は彼のペットとして売られたということだろう。
近づいてきたマリアは泣き続ける私を黙って抱き上げる。書類では私より10才年上の彼女はこの3年間忠実に仕え守ってくれた。身の回りの世話から護衛、そして愛人として。そっと視線を向けると緑の瞳が反応する。いつもは美しく感じる緑だのに今はとても冷たい感じだ。
「助けてよ、マリア」
マリアは返事をせず歩き始めた。こんな状況でも風に揺れるきれいな銀髪に見とれてしまう。
「一緒に逃げて」
マリアは歩みを止めず養父の寝室まで私を抱いて行き鏡の前のスツールに下ろした。涙の痕のついた私の顔を拭き、気のせいかいつもよりくすんで見える金髪をとかす。あんなことがあったのに鏡の中の私は普段と変わらぬ落ち着いた様子に見えた。
「私のクレアの様子はどうかね」
そう言いながら入ってきた養父に私の感情は爆発した。
「人でなし。私を騙したのですか!」
「問題ありません。旦那様」
私を無視した2人の会話に興奮し自分でもなにを言っているかわからない。
しばらく私の叫ぶままに任せた後養父は近づいてこう言った。
「おいおい、さっきは自分は男だとか言ってなかったかね。それじゃ我侭な小娘だぞ」
養父はやはり知らないのか。
「信じてくれるのですか?」
「私には外側だけで十分だよ」
そう言いながら油断した私を抱きしめる。
「やめて!」
「クレアが女になるところを見たいかね」
「旦那様のお望みのままに」
「いやよ! 出て行って」
「いてもらったほうが面白そうだ」
「かしこまりました」
逃げ出そうと暴れるが、かえって養父を楽しませるくらいしかできない。ベッドの上に投げ出されたとき私の抵抗は終っていた。
「もうおしまいかね」
「あなたを楽しませるだけですもの」
「水着の股を湿らせて言ってもなあ」
「ひぃ」
慌てて枕で隠そうとする前に彼は力任せに最後の水着を剥ぎ取る。
仰向けのまま顔をそむけている私の体を指や舌がはう。悲しいけど2分も持たなかった。
「あ〜」
開いた口に養父はすぐに舌を差し入れた。マリアとは違うざらついた舌、私も舌を絡め流し込まれた唾液を啜る。男に抱かれる嫌悪感を性的興奮が押し流していた。また知らぬうちに刺激を求めるように腰を振っている。
彼は口を離し何かつぶやきながら私の腿の裏を持って押し上げる。そしてそのまま顔を埋めた。私の泉を舌がなめ、髭剃り後が内股をこすり、鼻が敏感な突起を押す。私の口は獣のような叫びを上げ、背中は弓なりになった。興奮で見開いた目に私たちを見つめるマリアの姿が映る。
嫉妬? 私に……それとも養父に。しかし私の注意は彼に戻された。
「欲しがっているものをやるぞ」
「え?」
視線を下げると彼は既に全裸であり、勃起したそれは私に狙いを定めていた。予想しなかったといえば嘘になるだろう。しかしその獰猛さが恐怖を呼び起こした。
「やめて!」
彼はかまわず先を押し当てゆっくりと腰を静める。充分濡れていた私は先端をゆっくり飲み込み熱いそれをゆっくり包み込んでいった。
私がさらなる刺激を求めて動こうとした瞬間、彼は一気に沈み込んだ。
「あ〜」
彼が腰を振り始めると私も動いていた。そしてさらなる刺激を求めて足を相手の腰に絡めて奥まで導く。
「そら行くぞ」
一匹の雌と化した私は彼にしがみついて身を任せた。
驚くほどの若さを見せ二度目を後ろから三度目を騎乗位で私にそそぎ込むと彼は寝てしまった。興奮の冷めぬ私は残されてしまったかっこうだ。
控えていたマリアは無言のまま私をシーツでくるみ運び出す。その目は優しく、いつものマリアに戻っていた。
考えてみれば助けてくれなかったマリアへの不満は的外れである。彼女は養父に、ああもう違うのだ。彼は私を上に載せ突き上げながら妻にすると宣言した。マリアは彼に雇われて世話をしてくれているのであり、逆らって職を失えば当然私と別れなければいけない。
私のベッドルームのバスタブにはすでに湯が張られており、マリアは私の体を壊れもののようにシーツから出してその中に入れた。
「ごめんね、勝手なことを言って。マリア」
マリアは私の汚れを落としながら顔を近づけキスをした。柔らかい舌が歯肉をこすり私の舌の迎えを待つ。女の長い興奮はまだ続いており体の芯に残る情欲はその誘いで再び燃え上がった。
陰部の汚れを洗い終えた手を逃さぬように腿ではさむとマリアは困ったようにささやいた。
「体を拭かせてください。このままではお仕着せがぬれてしまいます」
私は笑って許可を与える。マリアは私を抱き上げてバスルームから運び出し大きなタオルで拭き始めた。タオルが乳首や性器周りに触れるとその感覚と期待で思いのほか大きな声が出てしまう。
「う〜ん。マリアァ」
マリアは手を早めわずかな時間で拭き終えて2人でベッドに入った。
マリアとのレズ関係では(心は男のつもりだけれど第三者が見れば同性愛というしかないだろう)私が常に積極的に動いていた。男であることを自らに納得させたい心理だったのだろう。でも今日の私はマリアを受け入れようと体を開いただけだった。
あれほどの痴態を見られたあとでは男の見栄を張る気もしない。それに自分は男だという告白をマリアに聞かれた可能性もあった。彼女に正体を知られたら私は養父に続き恋人を亡くすことになる。マリアは男に興味を示さないタイプだと私は考えていた。
マリアの口が秘所に触れたとたん私は自分の決心を後悔することになる。マリアが私の膝の裏に手を当ててベッドに押さえ込むように長い腕を伸ばしたのだ。エビ固め状態の私の体は恥ずかしい所を全てマリアの目の前にさらけ出している。おまけに自分からも良く見えた。
「マリア」
止めてと言う前にいやらしい音をたててマリアは私を吸い始めた。直接的刺激でなく大きな音で私を刺激する。恥ずかしがり屋の私にはとても効果的だ。慌てて逃げようにもマリアの方が力が強く脚も体も動かない。頭をどけようと腕を伸ばすと器用に手首をつかまれた。顔を少し上げたマリアが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「や、止めて」
「泉はまだ枯れておりませんわ」
「ひぃー」
マリアの柔らかく長い舌が私の下半身全てを支配した。テイレシアスのいう男の十倍の快感は理性を吹き飛ばす。女同士の行為は私の意識がなくなるまで続いた。
<つづく>
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(13)<最終回> by.りゅうのみや <18禁>
「や…、優しくしてね」
「もちろんよ、みなもに酷いことはしないわ」
「でも、性に慣れてくると涼ちゃんから
調律というひっどいお仕置きがやってくるわよ」
酷いは余計だろ、酷いは。
私だけ悪者扱いされているし。
まずはみなもの胸を揉んでみた。
「ひゃっ、あ……あのあの」
「大丈夫よ、みなもに酷いことはしないから。
じっくり感じていいわよ」
シェリーは舌でみなものアソコを重点的舐める。
今はスク水を穿いているので、生地の上から舐める程度にとどめている。
「そ、そんな水着の上からなんて、はあぁぁん」
「みなもってなかなか素質あるかもね、初めてなのに感度は良好ね」
「涼子ちゃん、そんな恥ずかしいこと言わないで」
やっぱりここは愛撫より安心感を与えた方がいいかもしれないね。
そう思いみなもとキスをして、さらに優しく頭を撫でた。
「え、あのあの……」
「大丈夫よ、あなたに酷い目はしないわ」
さらに何度も撫でていくと、安心したのかすっかり警戒心を緩めてくれた。
私自身シェリーとの行為はかなり優し目のものだったから、
調律は当分見送った方がいいかもね。
「はぁ…はぁ…はぁ…、二人に愛されてぇ、気持ちいい……」
すっかりみなもは出来上がっているようだった。
これ以上の愛撫は彼女にとって酷というもの。
「シェリー、用意はいいかしら」
「いいわよ涼ちゃん」
二人してスク水を剥ぎ取った。
「か、可愛い……」
目はすっかり快感で蕩けた表情で、
胸は少し小柄だが何とも言えないほど奇麗だった。
「涼ちゃん、よだれよだれ」
はっとなって口元を拭う。
しかし涎なんて何もなかった。
シェリーの方を見ると、けらけらと笑っていた。
……からかわれたようだ。
どうも調律じゃないとこのペースなのだろう、シェリーには敵わなかった。
「いい、みなものここ、この尻尾で犯すけど大丈夫?」
「う、うん。あの………初めてだから優しく…ね?」
「もちろんよ」
シェリーがぶーぶー不満を言っているようだが、
みなもが私を選んだのだから、
「シェリーには私を悦ばせてもらうわね」
そう言って両手でぱっくりと割れ目を開いた。
すでに愛液でびしゃびしゃになっていた。
しぶしぶシェリーは尻尾を突っ込んできた。
「シェリーちゃん、今回はみなもを悦ばせ
サキュバスにするのが目的だから、
みなもより先にイカすことのないようにね」
釘を刺すと同時に調律を行うことにした。
まぁ難易度は低いけど。
今の私達はプールの中に入って、
立った状態でみなもが真ん中で、
両サイドを私とシェリーが挟み込んでいる状態だ。
簡単にいえばサンドイッチともいえるか。
「いくわよ、みなも」
ズブズブ
「ひゃあ、あぁ………」
ゆっくりゆっくりと傷つけないように差し込んでゆく。
奥まで潜り込んだかと思えば入口から血が流れて来た。
「痛かったかしらみなも?」
「す、少し。まだ動かさないで……」
……
…………
「も、もう大丈夫よ。動かして……いいよ」
「そう、その前にもうわかったと思うけど、
あなたは私に初めてを捧げました。
おめでとう、あなたは女になったわ」
「女? サキュバスではなくて?」
女になることの意味を理解してないようだった。
「それはこれからよ、ゆっくり動かすから痛くなったら右手で叩いてね」
ズ…ズ…ズ…ズ…
Gスポットを重点的に狙う責め方をしつつ、
ゆっくりとした往復運動でみなもに快感を教える。
クリトリスも触りながら、必要以上の快感が生じたのなら
やめるようにする責め方をして、
みなもに快感がどういったものかだけをじっくり教え込む。
「どう、気持ちいいかしら?」
私としてはシェリーの責めで気持ちいいのだが、
それでもだいぶセーブしているようで、冷静さを保つことができる。
「はああぁぁん、いい、気持ちいい……とってもぉ…いいわ」
これくらいでベストのようだ。
しかしみなもがサキュバスになったらこれから
ミニハーレムになるのだろうかと思うとちょっぴりワクワクする。
「うわっ、涼ちゃんえっちっちだ〜」
「シェリー、行為の最中で心を読まないこと。
みなも、どう? どんなかんじ?」
「はい、なんかどんどん気持ち良くなって、
快感が全身に広がっています。
でもでも、もう何かが来ちゃう、怖いのぉっ」
どうやら絶頂が近いようだった。
私は尻尾の動きを少しだけ早め、気持ち良さを増幅させることにした。
「くるぅ、何かが来ちゃう…………はああぁぁん!」
バサッ
みなもの絶頂とともに背中から翼が生え、お尻から尻尾が伸びた。
「おめでとう、あなたはサキュバスになりました
これからはずっと一緒だよ」
「はぁ……はぁ……はぁ……。うん……、嬉……しい…な…」
絶頂が止んだのか、途切れ途切れに返事をした。
その後みなもを除いて、いつもの過激なエッチを繰り広げた。
その後……、
「女王様、お疲れ様でした。
これでようやく一段落つきましたね」
「ええ、これもすべてあなた方のお陰ですわ。
改めて礼を言います」
「いえ、私一人の力では逆に敵を作る一方でしょう。
あなたの人徳と交渉術なくして講和は成立しなかったでしょう」
そう、女王様・私・みなもともののけ界の首脳と会談した結果、
正式に平和条約が成立した。
私のサキュバス化という優れた能力と、みなもという生きた証人、
そして女王様の人徳などによって、
対等な立場を持てるようになったのがその理由である。
シェリーは性格的に向いていないと思って除外した。
彼女には隠密性向上の指導係として他のサキュバスの面倒を見ている。
すぐには結果が見えなくても着実に成果を上げてくれることだろう。
「ところで相良さん。
この前の件、検討して頂いたでしょうか」
「ドラグーンの席に就任することですか?
私がこうして淫魔界に大きな変革をもたらしたのに、
これから訪れる大きな仕事を放棄するほど無責任なことはしません。
私の方こそお願いします」
ドラグーンとは女王の次の地位を占める重要な役職だ。
外交、内政、性の確保など女王が担いきれない
責務を果たすという意味で、これ以上ない役職ともいえる。
「あなたには責任重大な仕事を任せて申し訳ありません。
それでは次に、シェリーとみなもを
ドラゴンホースの地位に就く件については如何でしょうか」
「その件についても承諾済みです。
シェリーには指導係の仕事が一段落した時点で、就かせるつもりです」
ドラゴンホースとはドラグーンの仕事を補佐する管理職であり、
シェリーには内政と性の確保を、
みなもには外交のトップの地位を任せようと検討している。
「わかりました。
それではあなたにお願いしたいのですが、
それ以降の階級とその実務をどのようにするか考えて頂けないでしょうか」
「ある程度の構想なら検討しています。
まず階級の底辺がソルジャーとしまして、
サキュバスとしての能力の低いものをそこに就かせます。
続いてランス隊とラビット隊はコンビを組んで積極的に性の確保をします。
つまりこの階級のサキュバスが国内生産力の中心的役割を担います。
まぁ、勿論この階級以外のサキュバスも性の確保する行為を容認しますが、
あくまでも実務をしっかりとこなすのであればですが……。
その上のシルバー隊は、ソルジャーに隠密性の指導係、
あるいは実践訓練の教官として、ソルジャーに次のステップを踏む役目を果たします。
最後にゴールド隊はドラゴンホースのサポートを、
つまり政治を積極的に励む役職にしようと考えています」
「面白い提案ですね、早速承諾します。
それではこれからたくさんの仕事がやってきますが、
どうか無理をせず頑張ってください」
お辞儀をした女王様は女王の間に戻った。
「はぁ〜、緊張したね涼子ちゃん」
「ん、なにが? 平和条約? それとも女王様との会話?」
「もちろん平和条約だよ。
いつ暗殺されるか心配だったのだから」
「そうね、でももののけ界もすっかり様変わりしていたようね。
文献によればもう少し過激な性質だったけど、
政治体制が変わったため平和主義的な風潮に変革したようね」
「じゃあちょうどいい時期に交渉することができたのね」
「そうなるわね。
ところでシェリーもそろそろ仕事が終わる頃だと思うので、
久しぶりに三人でシましょう」
そう言うとみなもは頬を真っ赤に染めながら静かに頷いた。
まだ純情みたいだ。
しばらくはソフトにしなければ。
お楽しみは最後に取っておいた方が楽しそうだし。
「じゃあシェリーには悪いけど、先に二人で楽しみましょう。
いらっしゃい、みなも」
「………は、はいっ!」
その後長きに至って淫魔界は大いに繁栄した。
それも女王様、相良涼子、シェリー、みなもの尽力があってこそのものだった。
特に涼子、シェリー、みなもはいずれも本来はサキュバスではない種族の者であった。
そのためこれら三人は畏敬の念を込めてこう呼ばれるようになった。
『変貌の百合姫』と。
(おしまい)
あとがき
前作に比べさらに長編になりました。
拙い物語を最後まで読んで頂きありがとうございました。
ちょっとエロい展開を挿入するつもりが、完全にSMになっているし……
どうしてこうなっちゃったのだろう(遠い目)
「もちろんよ、みなもに酷いことはしないわ」
「でも、性に慣れてくると涼ちゃんから
調律というひっどいお仕置きがやってくるわよ」
酷いは余計だろ、酷いは。
私だけ悪者扱いされているし。
まずはみなもの胸を揉んでみた。
「ひゃっ、あ……あのあの」
「大丈夫よ、みなもに酷いことはしないから。
じっくり感じていいわよ」
シェリーは舌でみなものアソコを重点的舐める。
今はスク水を穿いているので、生地の上から舐める程度にとどめている。
「そ、そんな水着の上からなんて、はあぁぁん」
「みなもってなかなか素質あるかもね、初めてなのに感度は良好ね」
「涼子ちゃん、そんな恥ずかしいこと言わないで」
やっぱりここは愛撫より安心感を与えた方がいいかもしれないね。
そう思いみなもとキスをして、さらに優しく頭を撫でた。
「え、あのあの……」
「大丈夫よ、あなたに酷い目はしないわ」
さらに何度も撫でていくと、安心したのかすっかり警戒心を緩めてくれた。
私自身シェリーとの行為はかなり優し目のものだったから、
調律は当分見送った方がいいかもね。
「はぁ…はぁ…はぁ…、二人に愛されてぇ、気持ちいい……」
すっかりみなもは出来上がっているようだった。
これ以上の愛撫は彼女にとって酷というもの。
「シェリー、用意はいいかしら」
「いいわよ涼ちゃん」
二人してスク水を剥ぎ取った。
「か、可愛い……」
目はすっかり快感で蕩けた表情で、
胸は少し小柄だが何とも言えないほど奇麗だった。
「涼ちゃん、よだれよだれ」
はっとなって口元を拭う。
しかし涎なんて何もなかった。
シェリーの方を見ると、けらけらと笑っていた。
……からかわれたようだ。
どうも調律じゃないとこのペースなのだろう、シェリーには敵わなかった。
「いい、みなものここ、この尻尾で犯すけど大丈夫?」
「う、うん。あの………初めてだから優しく…ね?」
「もちろんよ」
シェリーがぶーぶー不満を言っているようだが、
みなもが私を選んだのだから、
「シェリーには私を悦ばせてもらうわね」
そう言って両手でぱっくりと割れ目を開いた。
すでに愛液でびしゃびしゃになっていた。
しぶしぶシェリーは尻尾を突っ込んできた。
「シェリーちゃん、今回はみなもを悦ばせ
サキュバスにするのが目的だから、
みなもより先にイカすことのないようにね」
釘を刺すと同時に調律を行うことにした。
まぁ難易度は低いけど。
今の私達はプールの中に入って、
立った状態でみなもが真ん中で、
両サイドを私とシェリーが挟み込んでいる状態だ。
簡単にいえばサンドイッチともいえるか。
「いくわよ、みなも」
ズブズブ
「ひゃあ、あぁ………」
ゆっくりゆっくりと傷つけないように差し込んでゆく。
奥まで潜り込んだかと思えば入口から血が流れて来た。
「痛かったかしらみなも?」
「す、少し。まだ動かさないで……」
……
…………
「も、もう大丈夫よ。動かして……いいよ」
「そう、その前にもうわかったと思うけど、
あなたは私に初めてを捧げました。
おめでとう、あなたは女になったわ」
「女? サキュバスではなくて?」
女になることの意味を理解してないようだった。
「それはこれからよ、ゆっくり動かすから痛くなったら右手で叩いてね」
ズ…ズ…ズ…ズ…
Gスポットを重点的に狙う責め方をしつつ、
ゆっくりとした往復運動でみなもに快感を教える。
クリトリスも触りながら、必要以上の快感が生じたのなら
やめるようにする責め方をして、
みなもに快感がどういったものかだけをじっくり教え込む。
「どう、気持ちいいかしら?」
私としてはシェリーの責めで気持ちいいのだが、
それでもだいぶセーブしているようで、冷静さを保つことができる。
「はああぁぁん、いい、気持ちいい……とってもぉ…いいわ」
これくらいでベストのようだ。
しかしみなもがサキュバスになったらこれから
ミニハーレムになるのだろうかと思うとちょっぴりワクワクする。
「うわっ、涼ちゃんえっちっちだ〜」
「シェリー、行為の最中で心を読まないこと。
みなも、どう? どんなかんじ?」
「はい、なんかどんどん気持ち良くなって、
快感が全身に広がっています。
でもでも、もう何かが来ちゃう、怖いのぉっ」
どうやら絶頂が近いようだった。
私は尻尾の動きを少しだけ早め、気持ち良さを増幅させることにした。
「くるぅ、何かが来ちゃう…………はああぁぁん!」
バサッ
みなもの絶頂とともに背中から翼が生え、お尻から尻尾が伸びた。
「おめでとう、あなたはサキュバスになりました
これからはずっと一緒だよ」
「はぁ……はぁ……はぁ……。うん……、嬉……しい…な…」
絶頂が止んだのか、途切れ途切れに返事をした。
その後みなもを除いて、いつもの過激なエッチを繰り広げた。
その後……、
「女王様、お疲れ様でした。
これでようやく一段落つきましたね」
「ええ、これもすべてあなた方のお陰ですわ。
改めて礼を言います」
「いえ、私一人の力では逆に敵を作る一方でしょう。
あなたの人徳と交渉術なくして講和は成立しなかったでしょう」
そう、女王様・私・みなもともののけ界の首脳と会談した結果、
正式に平和条約が成立した。
私のサキュバス化という優れた能力と、みなもという生きた証人、
そして女王様の人徳などによって、
対等な立場を持てるようになったのがその理由である。
シェリーは性格的に向いていないと思って除外した。
彼女には隠密性向上の指導係として他のサキュバスの面倒を見ている。
すぐには結果が見えなくても着実に成果を上げてくれることだろう。
「ところで相良さん。
この前の件、検討して頂いたでしょうか」
「ドラグーンの席に就任することですか?
私がこうして淫魔界に大きな変革をもたらしたのに、
これから訪れる大きな仕事を放棄するほど無責任なことはしません。
私の方こそお願いします」
ドラグーンとは女王の次の地位を占める重要な役職だ。
外交、内政、性の確保など女王が担いきれない
責務を果たすという意味で、これ以上ない役職ともいえる。
「あなたには責任重大な仕事を任せて申し訳ありません。
それでは次に、シェリーとみなもを
ドラゴンホースの地位に就く件については如何でしょうか」
「その件についても承諾済みです。
シェリーには指導係の仕事が一段落した時点で、就かせるつもりです」
ドラゴンホースとはドラグーンの仕事を補佐する管理職であり、
シェリーには内政と性の確保を、
みなもには外交のトップの地位を任せようと検討している。
「わかりました。
それではあなたにお願いしたいのですが、
それ以降の階級とその実務をどのようにするか考えて頂けないでしょうか」
「ある程度の構想なら検討しています。
まず階級の底辺がソルジャーとしまして、
サキュバスとしての能力の低いものをそこに就かせます。
続いてランス隊とラビット隊はコンビを組んで積極的に性の確保をします。
つまりこの階級のサキュバスが国内生産力の中心的役割を担います。
まぁ、勿論この階級以外のサキュバスも性の確保する行為を容認しますが、
あくまでも実務をしっかりとこなすのであればですが……。
その上のシルバー隊は、ソルジャーに隠密性の指導係、
あるいは実践訓練の教官として、ソルジャーに次のステップを踏む役目を果たします。
最後にゴールド隊はドラゴンホースのサポートを、
つまり政治を積極的に励む役職にしようと考えています」
「面白い提案ですね、早速承諾します。
それではこれからたくさんの仕事がやってきますが、
どうか無理をせず頑張ってください」
お辞儀をした女王様は女王の間に戻った。
「はぁ〜、緊張したね涼子ちゃん」
「ん、なにが? 平和条約? それとも女王様との会話?」
「もちろん平和条約だよ。
いつ暗殺されるか心配だったのだから」
「そうね、でももののけ界もすっかり様変わりしていたようね。
文献によればもう少し過激な性質だったけど、
政治体制が変わったため平和主義的な風潮に変革したようね」
「じゃあちょうどいい時期に交渉することができたのね」
「そうなるわね。
ところでシェリーもそろそろ仕事が終わる頃だと思うので、
久しぶりに三人でシましょう」
そう言うとみなもは頬を真っ赤に染めながら静かに頷いた。
まだ純情みたいだ。
しばらくはソフトにしなければ。
お楽しみは最後に取っておいた方が楽しそうだし。
「じゃあシェリーには悪いけど、先に二人で楽しみましょう。
いらっしゃい、みなも」
「………は、はいっ!」
その後長きに至って淫魔界は大いに繁栄した。
それも女王様、相良涼子、シェリー、みなもの尽力があってこそのものだった。
特に涼子、シェリー、みなもはいずれも本来はサキュバスではない種族の者であった。
そのためこれら三人は畏敬の念を込めてこう呼ばれるようになった。
『変貌の百合姫』と。
(おしまい)
あとがき
前作に比べさらに長編になりました。
拙い物語を最後まで読んで頂きありがとうございました。
ちょっとエロい展開を挿入するつもりが、完全にSMになっているし……
どうしてこうなっちゃったのだろう(遠い目)
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(12) by.りゅうのみや <18禁>
「………どう……して?
……どうして私をサキュバスという種族にするの?
理由を教えてよっ、ねぇ!」
最後の方は力を振り絞って訊ねたことが分かる。
私たちサキュバスにとってみれば死活問題、
しかしみなもにとってみれば犠牲者の一人として数えられる。
理由など言いたくもなかった。
しかしここまで来て言わずに立ち去ることは、
最悪のパターンであることをよく知っていた。
だから…、
「サキュバスが住む世界、淫魔界というのだけど、
そこはある問題を抱えているわ。
サキュバスより高等生物といわれるもののけの存在。
サキュバスともののけは敵対関係にあるわ。
そしてサキュバスは常に弱い立場で喘いでいた。
私としては両者が平和な関係を築くことを望んでいるわ。
でもそのためには対等な力を持っていないと交渉に失敗してしまう。
そこであなたをサキュバスに変えることで解決しようと思うの」
今の表現はかなり水で薄めた感じになっているが、
薄めなければ交渉のカードとして使うことを言っていることになる。
それだけに言いたくもない説明だった。
「私をサキュバスにすることで、力を見せつけ、
それで対等な立場を維持しながら交渉に挑むということ?」
「……!」
みなもは結構頭が冴えるようだった。
確かに一ヶ月間の学生生活をしていて、
みなもはかなり上位の方にいるとは思っていたが、
まさかそこまでとは……。
「……その通りよ、悲しいことに。
でも私はあなたがサキュバスになることを強制しないわ。
あなたにはあなたの生活がある、それを私は踏みにじりたくない。
だからどうするかはみなもが決めることなのよ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…ぃぃ……ょ」
「えっ?」
「私サキュバスになるわ、
私も涼子ちゃんやシェリーちゃんのようにサキュバスになる!」
力強い声でそうはっきりと答える。
「え? いいの?」
「うん、私、サキュバスになるわ」
「……みなも、悪いことは言わないわ。
サキュバスになるということは、
今の生活全てを捨てることになるわ。
本当にそれだけの覚悟があるの?」
本気でサキュバスになるつもりがなければ、
私は一生分の罪を負うことになる。
いや、みなもの意志でサキュバスになることを
表明してもそれはやはり私の責任だ。
例えるならテレビでスナック菓子のCMをやっていたとして、
それによって視聴者はその商品を購入するとしたら、
言うまでもなくその人の意志で購入したとはいえ、
そう促したのはやはりスナック菓子のメーカー側にある。
それと同じことをしている。
私がこうした提案をすること自体、重大な悪行を犯していることになる。
「涼子ちゃんの辛い気持ち、なんとなくわかるわ。
シェリーちゃんが興味本位で始めたこと。
そのことが全ての始まりだったのだね」
「い、いやいや、あたしだってそんなつもりで………きゃ!」
私は尻尾でシェリーの足元を打つ。
「(あなたが自分の弁護に回ってどうするのよ、
結果的にとはいえあなたの責任だよ!)」
まったく、この性格はどうにかならないのか。
「うんいいのよ、……ただちょっとびっくりしただけ。
わかっているの、この出来事は誰のせいでもないって。
ただ涼子ちゃんとシェリーちゃんは私の前から消えないで!」
ここまで上手くいくとは思わなかったが、
それはあくまでも私との関係を望んでそう言っているだけに過ぎない。
サキュバスとしての心構えがどれほどあるのかは、怪しいと言わざるを得ない。
「もう一度聞くわ、あなたはサキュバスになるのよ。
私以外の人とセックスすることになるわよ。
あなたにはその覚悟があるというの?」
「……正直自信がないと思う。
知らない人と肌を重ねるのは正直嫌かもしれない」
「だったら……」
「いやっ!」
「ん!? んんん!」
みなもは私に口づけして舌を入れてきた。
「はぁ……、チュパっ………ピチャ……ちゃぷちゃぷ…」
大胆にもみなもは私の舌を舐め、かき混ぜてきた。
「ぴゅぷ……あむ、れろれろ……ぱぁっ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ようやく口が離れた。
「えへへ、涼子ちゃんに私の初めてあげちゃった♪」
え、それってファーストキス?
しかし……、
「何という舌技だったの?
ディープキスくらい普段からシェリーとしているというのに、
性にまだ慣れていないみなもがここまで上手だったとは……」
「確かに他の人とエッチするのは嫌だけど、
涼子ちゃんとシテくれるのだったら私はそれでもいいわよ。
あ、もちろんシェリーちゃんともね」
「本当にいいの?
私だってあまりシェリー以外の人との経験はないのよ」
一度だけあった。
それは淫魔界の女王様に会見する数時間ほど前のことだった。
シェリーの訓練の結果を見る為に捕獲された男性を、
摘み食いした程度のことだが。
「うん。私、涼子ちゃんがいなくなってから辛い思いをしたから、
一緒にいられればそれでいいわよ」
これで交渉は終了した。
結果は見ての通り成功した。
でもそれで本当に良かったのか怪しいくらいだ。
「さて、あなたをサキュバスに変えます。
それにはエッチな儀式をしなければなりません」
「はい!私、頑張ります」
「いくわよ、はっ!」
私は左の人差し指で額のルビーに触れた。
すると指は赤く輝き、指を動かすと赤い霧が舞い降りてくる。
私はみなもの頭上に霧を振り掛け、最後に指を額に押しつけた。
「これでまずは第一段階完了、いよいよエッチを始めるよ。
シェリー、手伝ってー!」
「はいはーい♪」
シェリーはこの行為を今か今かと待ち構えていたのか、
私のもとに急いで駆け寄った。
やっぱりこいつに交渉しなくて正解だな、
都合の悪いところを省いてサキュバス化させるタイプだ。
「涼ちゃん、あとで覚えてらっしゃい!」
何でいつもこのタイミングで心が読めたりするの……?
「みなも、あなたは初めてだよね?」
「え…、ええ」
そう言うなりみなもはうつむき加減になった。
性に慣れ切っている私達は変態的なプレイでも感じることができるのだが、
みなもは処女だから優しくしなければならない。
そう言えば処女で性に疎い娘をサキュバスにするって、
ある意味で結構美味しいシチュエーションかもしれない。
<つづく>
……どうして私をサキュバスという種族にするの?
理由を教えてよっ、ねぇ!」
最後の方は力を振り絞って訊ねたことが分かる。
私たちサキュバスにとってみれば死活問題、
しかしみなもにとってみれば犠牲者の一人として数えられる。
理由など言いたくもなかった。
しかしここまで来て言わずに立ち去ることは、
最悪のパターンであることをよく知っていた。
だから…、
「サキュバスが住む世界、淫魔界というのだけど、
そこはある問題を抱えているわ。
サキュバスより高等生物といわれるもののけの存在。
サキュバスともののけは敵対関係にあるわ。
そしてサキュバスは常に弱い立場で喘いでいた。
私としては両者が平和な関係を築くことを望んでいるわ。
でもそのためには対等な力を持っていないと交渉に失敗してしまう。
そこであなたをサキュバスに変えることで解決しようと思うの」
今の表現はかなり水で薄めた感じになっているが、
薄めなければ交渉のカードとして使うことを言っていることになる。
それだけに言いたくもない説明だった。
「私をサキュバスにすることで、力を見せつけ、
それで対等な立場を維持しながら交渉に挑むということ?」
「……!」
みなもは結構頭が冴えるようだった。
確かに一ヶ月間の学生生活をしていて、
みなもはかなり上位の方にいるとは思っていたが、
まさかそこまでとは……。
「……その通りよ、悲しいことに。
でも私はあなたがサキュバスになることを強制しないわ。
あなたにはあなたの生活がある、それを私は踏みにじりたくない。
だからどうするかはみなもが決めることなのよ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…ぃぃ……ょ」
「えっ?」
「私サキュバスになるわ、
私も涼子ちゃんやシェリーちゃんのようにサキュバスになる!」
力強い声でそうはっきりと答える。
「え? いいの?」
「うん、私、サキュバスになるわ」
「……みなも、悪いことは言わないわ。
サキュバスになるということは、
今の生活全てを捨てることになるわ。
本当にそれだけの覚悟があるの?」
本気でサキュバスになるつもりがなければ、
私は一生分の罪を負うことになる。
いや、みなもの意志でサキュバスになることを
表明してもそれはやはり私の責任だ。
例えるならテレビでスナック菓子のCMをやっていたとして、
それによって視聴者はその商品を購入するとしたら、
言うまでもなくその人の意志で購入したとはいえ、
そう促したのはやはりスナック菓子のメーカー側にある。
それと同じことをしている。
私がこうした提案をすること自体、重大な悪行を犯していることになる。
「涼子ちゃんの辛い気持ち、なんとなくわかるわ。
シェリーちゃんが興味本位で始めたこと。
そのことが全ての始まりだったのだね」
「い、いやいや、あたしだってそんなつもりで………きゃ!」
私は尻尾でシェリーの足元を打つ。
「(あなたが自分の弁護に回ってどうするのよ、
結果的にとはいえあなたの責任だよ!)」
まったく、この性格はどうにかならないのか。
「うんいいのよ、……ただちょっとびっくりしただけ。
わかっているの、この出来事は誰のせいでもないって。
ただ涼子ちゃんとシェリーちゃんは私の前から消えないで!」
ここまで上手くいくとは思わなかったが、
それはあくまでも私との関係を望んでそう言っているだけに過ぎない。
サキュバスとしての心構えがどれほどあるのかは、怪しいと言わざるを得ない。
「もう一度聞くわ、あなたはサキュバスになるのよ。
私以外の人とセックスすることになるわよ。
あなたにはその覚悟があるというの?」
「……正直自信がないと思う。
知らない人と肌を重ねるのは正直嫌かもしれない」
「だったら……」
「いやっ!」
「ん!? んんん!」
みなもは私に口づけして舌を入れてきた。
「はぁ……、チュパっ………ピチャ……ちゃぷちゃぷ…」
大胆にもみなもは私の舌を舐め、かき混ぜてきた。
「ぴゅぷ……あむ、れろれろ……ぱぁっ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ようやく口が離れた。
「えへへ、涼子ちゃんに私の初めてあげちゃった♪」
え、それってファーストキス?
しかし……、
「何という舌技だったの?
ディープキスくらい普段からシェリーとしているというのに、
性にまだ慣れていないみなもがここまで上手だったとは……」
「確かに他の人とエッチするのは嫌だけど、
涼子ちゃんとシテくれるのだったら私はそれでもいいわよ。
あ、もちろんシェリーちゃんともね」
「本当にいいの?
私だってあまりシェリー以外の人との経験はないのよ」
一度だけあった。
それは淫魔界の女王様に会見する数時間ほど前のことだった。
シェリーの訓練の結果を見る為に捕獲された男性を、
摘み食いした程度のことだが。
「うん。私、涼子ちゃんがいなくなってから辛い思いをしたから、
一緒にいられればそれでいいわよ」
これで交渉は終了した。
結果は見ての通り成功した。
でもそれで本当に良かったのか怪しいくらいだ。
「さて、あなたをサキュバスに変えます。
それにはエッチな儀式をしなければなりません」
「はい!私、頑張ります」
「いくわよ、はっ!」
私は左の人差し指で額のルビーに触れた。
すると指は赤く輝き、指を動かすと赤い霧が舞い降りてくる。
私はみなもの頭上に霧を振り掛け、最後に指を額に押しつけた。
「これでまずは第一段階完了、いよいよエッチを始めるよ。
シェリー、手伝ってー!」
「はいはーい♪」
シェリーはこの行為を今か今かと待ち構えていたのか、
私のもとに急いで駆け寄った。
やっぱりこいつに交渉しなくて正解だな、
都合の悪いところを省いてサキュバス化させるタイプだ。
「涼ちゃん、あとで覚えてらっしゃい!」
何でいつもこのタイミングで心が読めたりするの……?
「みなも、あなたは初めてだよね?」
「え…、ええ」
そう言うなりみなもはうつむき加減になった。
性に慣れ切っている私達は変態的なプレイでも感じることができるのだが、
みなもは処女だから優しくしなければならない。
そう言えば処女で性に疎い娘をサキュバスにするって、
ある意味で結構美味しいシチュエーションかもしれない。
<つづく>
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(11) by.りゅうのみや <18禁>
大分時間が経過したのか、日が傾きかかっていた。
「シェリーはさっき言っていたように私とは血縁関係は全くないわ、
実験の経過を観察するために地上に降りて来たの」
「え、シェリーはいったい何者なの?」
「平たく言えばもののけという種族で人間ではないわ」
「……!」
「しかし、私と恋に落ちて、もののけとしての立場を捨てたわ」
「どうして……ですか?」
「それは生存維持活動が人間の生体エネルギーを
奪う方式に嫌気がさしたからよ。
生体エネルギーを失った人は命を落すの」
「……、もしかして人と触れることで情が移ったとか…?」
呑み込みが早くて助かった。
言おうとしたことを言ってくれた。
「その通りよ、シェリーはもののけより
下等生物とも呼べるサキュバスに身を落としたわ」
「さきゅ……ばす?」
理解力は高いけど、ウブなためか性的な話になると知識に欠けるようだ。
まぁ、あまり知り尽くしても反応に困るのだが……。
「エッチなことをすることで、
人の生体エネルギーを吸い取る種族のことよ。
サキュバスなら人の命まで奪うことはないわ」
「………っ!」
急にみなもの顔がボッと燃え上がるように真っ赤になった。
大丈夫かな、話しを続けて?
「話を続けてもいいかしら?」
みなもはただ黙って頷いた。
「シェリーはサキュバスになったばかりだから、
危険を冒して性を吸い取ることができなかったわ。
そこで恋人同士となった私が性を与えるパートナーになったわ」
「恋人に…? シェリーちゃんと?」
そう言って視線をシェリーの方に向ける。
「まぁ……、長い人生にはいろいろあるのよ」
今まで私が説明していたのを見守っていたシェリーだったが、
聞き流してほしいのか頭を掻きながらそう答えた。
「話を続けるわね。
しかし一人の人相手だとどうしても性を吸い尽くしてしまうわ。
それこそ一日中性を吸わないと生きることすら難しくなるの」
「そんな……、シェリーちゃんがそんな目に……」
「重要なのはその後、もう普通の生活ができなくなった私達は、
人間界を離れ、サキュバスが住む淫魔界に住み着いた。
性の手ほどきを受け続けた結果、私はサキュバスへと生まれ変わったの」
「あの、そんなこと急に言われても信じられません!
何か証拠があるというのですか?」
とうとうその言葉が出たか……、
そこまで話が展開できたのならとりあえずの成果を挙げたことになる。
ついに種明かしをする時がやって来たのね…。
「いい、今から見せることにびっくりするかもしれないけど、
でもそれは現実のことなのよ。
私のことを嫌いになることがあっても現実だけは認めてね」
「…………わかったわ」
そう、ぼそっと呟いた。
後戻りはできなかった。
私とシェリーは力を解放した。
背中からは大きな翼が、お尻からは長い尻尾が突き出てきた。
そして私の額にはルビーのようなものが浮かび上がった。
「………! これは!?」
「ごめんなさい、私は見ての通り化け物よ。
人間だった時の記憶は持っているけど、体は人間ではない。
人間より淫らなことを考えて、そのためだけに生きている。
だから、あなたが拒めば私はここを去るわ……」
本心だった、これ以上みなもを傷つけたくなかった。
ガバッ
「え…?」
突然のことで何をされたのか分からなかった。
「みなも…?」
何とみなもは私に飛びついたようだ。
「やっぱり……、やっぱりあれは涼子ちゃんだったのね!」
「え? どういうこと?」
今度は私の方がみなもの言っている意味が分からなかった。
『やっぱり』 『あれ』
その言葉の意味からすると、
今の自分の姿をある程度知っていなければ、言えない発言だったから。
「どうしたのみなも、やっぱりって?」
「はいっ、私、ここ2,3日不思議な夢を見たのです」
「不思議な夢? どんな?」
「遠くからでしたが、人が空を飛んでいる夢でした。
その人は大きくて真っ黒な翼を持っていました。
そして私の目の前に華麗に舞い降りたのですが、その顔が……」
「まさか私だったというの!?」
みなもは頭を頷いた。
何ということだろう、みなもは知っていたのだ。
予知夢…、いや私がサキュバスになったのはちょうどその頃だから、
偶然かもしれないけれどみなもには遠くの出来事を
察知できる力があるかもしれない。
「私は嬉しかったわ。
もう会えないと思っていた涼子ちゃんに再び会えるなんて。
でも朝になるといつもあなたは消えてしまう…。
あなたもここから消えるわけじゃないよね?」
うっ、そうきたか。
私は正直どうしたらいいのか分からなかった。
ここで消えないというのは簡単だった。
しかしそれは彼女をサキュバスにするということで、
今は冷静さを失っているみなもを誘ったら
有無を言わずにサキュバスになってしまう。
でもそれは確かに自分の意志ではあるものの、
冷静な判断のもとで下した決断とはいえないからだ。
「ど、どうしたの!? 涼子ちゃん、どうして泣いているの!?」
泣いている? 私が?
手で目元を拭った。
大粒の涙が流れていたのが分かる。
「辛いことがあれば全部私に話して!
あなたが悲しむと私も胸が痛いわ……」
情けなかった。
逆に慰められた。
なんでだろう、これから酷い目に遭わせるはずなのに、
逆にそういった不意打ちがやってくるとは……
「辛いことは全部話して。
私、涼子ちゃんのためなら何でもするわ」
「…………わか……ったわ、今から言うことをよく聞いて……。
あなたを………サキュバスにします…」
言ってしまった。
今までみなもをサキュバスにするプランを散々考えていたけど、
実際にこういう形でやってくるとは……
サキュバスにも良心というものが存在するのだなと思った。
だって、こんなに胸が痛いから。
<つづく>
「シェリーはさっき言っていたように私とは血縁関係は全くないわ、
実験の経過を観察するために地上に降りて来たの」
「え、シェリーはいったい何者なの?」
「平たく言えばもののけという種族で人間ではないわ」
「……!」
「しかし、私と恋に落ちて、もののけとしての立場を捨てたわ」
「どうして……ですか?」
「それは生存維持活動が人間の生体エネルギーを
奪う方式に嫌気がさしたからよ。
生体エネルギーを失った人は命を落すの」
「……、もしかして人と触れることで情が移ったとか…?」
呑み込みが早くて助かった。
言おうとしたことを言ってくれた。
「その通りよ、シェリーはもののけより
下等生物とも呼べるサキュバスに身を落としたわ」
「さきゅ……ばす?」
理解力は高いけど、ウブなためか性的な話になると知識に欠けるようだ。
まぁ、あまり知り尽くしても反応に困るのだが……。
「エッチなことをすることで、
人の生体エネルギーを吸い取る種族のことよ。
サキュバスなら人の命まで奪うことはないわ」
「………っ!」
急にみなもの顔がボッと燃え上がるように真っ赤になった。
大丈夫かな、話しを続けて?
「話を続けてもいいかしら?」
みなもはただ黙って頷いた。
「シェリーはサキュバスになったばかりだから、
危険を冒して性を吸い取ることができなかったわ。
そこで恋人同士となった私が性を与えるパートナーになったわ」
「恋人に…? シェリーちゃんと?」
そう言って視線をシェリーの方に向ける。
「まぁ……、長い人生にはいろいろあるのよ」
今まで私が説明していたのを見守っていたシェリーだったが、
聞き流してほしいのか頭を掻きながらそう答えた。
「話を続けるわね。
しかし一人の人相手だとどうしても性を吸い尽くしてしまうわ。
それこそ一日中性を吸わないと生きることすら難しくなるの」
「そんな……、シェリーちゃんがそんな目に……」
「重要なのはその後、もう普通の生活ができなくなった私達は、
人間界を離れ、サキュバスが住む淫魔界に住み着いた。
性の手ほどきを受け続けた結果、私はサキュバスへと生まれ変わったの」
「あの、そんなこと急に言われても信じられません!
何か証拠があるというのですか?」
とうとうその言葉が出たか……、
そこまで話が展開できたのならとりあえずの成果を挙げたことになる。
ついに種明かしをする時がやって来たのね…。
「いい、今から見せることにびっくりするかもしれないけど、
でもそれは現実のことなのよ。
私のことを嫌いになることがあっても現実だけは認めてね」
「…………わかったわ」
そう、ぼそっと呟いた。
後戻りはできなかった。
私とシェリーは力を解放した。
背中からは大きな翼が、お尻からは長い尻尾が突き出てきた。
そして私の額にはルビーのようなものが浮かび上がった。
「………! これは!?」
「ごめんなさい、私は見ての通り化け物よ。
人間だった時の記憶は持っているけど、体は人間ではない。
人間より淫らなことを考えて、そのためだけに生きている。
だから、あなたが拒めば私はここを去るわ……」
本心だった、これ以上みなもを傷つけたくなかった。
ガバッ
「え…?」
突然のことで何をされたのか分からなかった。
「みなも…?」
何とみなもは私に飛びついたようだ。
「やっぱり……、やっぱりあれは涼子ちゃんだったのね!」
「え? どういうこと?」
今度は私の方がみなもの言っている意味が分からなかった。
『やっぱり』 『あれ』
その言葉の意味からすると、
今の自分の姿をある程度知っていなければ、言えない発言だったから。
「どうしたのみなも、やっぱりって?」
「はいっ、私、ここ2,3日不思議な夢を見たのです」
「不思議な夢? どんな?」
「遠くからでしたが、人が空を飛んでいる夢でした。
その人は大きくて真っ黒な翼を持っていました。
そして私の目の前に華麗に舞い降りたのですが、その顔が……」
「まさか私だったというの!?」
みなもは頭を頷いた。
何ということだろう、みなもは知っていたのだ。
予知夢…、いや私がサキュバスになったのはちょうどその頃だから、
偶然かもしれないけれどみなもには遠くの出来事を
察知できる力があるかもしれない。
「私は嬉しかったわ。
もう会えないと思っていた涼子ちゃんに再び会えるなんて。
でも朝になるといつもあなたは消えてしまう…。
あなたもここから消えるわけじゃないよね?」
うっ、そうきたか。
私は正直どうしたらいいのか分からなかった。
ここで消えないというのは簡単だった。
しかしそれは彼女をサキュバスにするということで、
今は冷静さを失っているみなもを誘ったら
有無を言わずにサキュバスになってしまう。
でもそれは確かに自分の意志ではあるものの、
冷静な判断のもとで下した決断とはいえないからだ。
「ど、どうしたの!? 涼子ちゃん、どうして泣いているの!?」
泣いている? 私が?
手で目元を拭った。
大粒の涙が流れていたのが分かる。
「辛いことがあれば全部私に話して!
あなたが悲しむと私も胸が痛いわ……」
情けなかった。
逆に慰められた。
なんでだろう、これから酷い目に遭わせるはずなのに、
逆にそういった不意打ちがやってくるとは……
「辛いことは全部話して。
私、涼子ちゃんのためなら何でもするわ」
「…………わか……ったわ、今から言うことをよく聞いて……。
あなたを………サキュバスにします…」
言ってしまった。
今までみなもをサキュバスにするプランを散々考えていたけど、
実際にこういう形でやってくるとは……
サキュバスにも良心というものが存在するのだなと思った。
だって、こんなに胸が痛いから。
<つづく>
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(10) by.りゅうのみや <18禁>
私たちは学校のプールの上を飛び回っている。
まずはみなもがいるかどうか確認するためだ。
「あ、あそこにいるの……あれがみなもじゃない?」
「よく見つけたわねシェリー、鷹のように視力がいいわね」
さらに近づいてみれば確かにみなもであることがわかる。
丁度クロールの最中らしく、優雅に泳いでいる。
さて…、
「あの場に乱入して犯すこともできるのだけど、
シェリーはどうした方がいいと思う?」
ここで問題となっていることは周りの人に気付かれないだろうかではなく、
人がいるかいないかどちらの方が効果的か尋ねる内容であった。
実際、みなもの周囲にマジックミラーみたいな結界を張れば、
周りからはこちらのサキュバス化の試みに気付かれる心配はない。
「そうね…、今すぐは得策じゃないわ。
周りに人がいることだし、彼女、パニックになると思うわ」
なるほど、そういう考えもできるのか。
それなら今すぐ行動するのではなく、
水泳が終わるその時を狙った方がサキュバス化に応じてくれやすい。
卑怯な手だが、少しでも有利な状況の下で行動を起こした方が
リスクが少ないのは、目に見えて明らかだった。
しかし……、
「みなもってあんなに可愛かったかな……」
ついうっかり呟いてしまった。
「あれ? 今頃気がついたの?
てっきり私は涼ちゃんの好みだから、
サキュバス化を目指そうとしているのかと思ったわ」
「なっ、そんな馬鹿なことしないわよ。
と言うかそんな余裕なんてあるわけないでしょ、
私の命がかかっている状況の中で!」
やはり普段の会話はシェリーの方が一枚上手だ。
そうした会話をしている間に部活が終わったのか、
部員が疎らになって来た。
こうした時がチャンスとなってくる。
別にここでなくてもいいのだが……、
「スクール水着姿のみなもを犯す方が萌えるから?
涼ちゃんってやっらしぃ〜♪」
「な、ななななななっ!」
肝心な時にあまり実力を発揮できず、
こういうどうでもいい時にだけ読心力を発揮するのだから、
狙っているとしか思えないのだが……。
しかし図星なのだから反論できない。
でもこういったちょっと小悪魔的な要素に惹かれているのも事実だ。
「ほ、ほら、今がチャンスよ。私に続きなさい!」
そう言うなり私はグングンと急降下をした。
スタッ
みなもの背後に着地した。
私はすぐさま右手を地面に触れて魔法陣を描いた。
これでもうみなもは周りから見えない存在になった。
逆にみなもにとってみれば私達の存在に気づくようになる。
「なも……、みなも……」
「え? その声は……、ええっ!?」
みなもは振り返ると驚いた表情をみせた。
「お久しぶりぃ、みなも♪」
「りょ、涼子ちゃん、それにシェリーちゃん!
ど、どうしたの! いままでどこにいたの!?」
「ごめんねみなも、寂しい思いをさせて」
「涼子ちゃん……、涼子ちゃん……!」
あまりに当然の反応を示されたら、この後の展開に罪悪感を抱くが、
自分の身だけでなく淫魔界のことを思って行動を決起するしかなかった。
「ごめんね……、みなも…」
そう言って私はみなもの頬にキスをした。
いきなり唇を奪えばそれは完全にサキュバスになるよう誘っていることになるが、
これくらいならスキンシップの一環として受け流すこともできる。
「あ……、涼子ちゃん今までどうしたの?
それにシェリーちゃんも……。
おうちの方とかずっと心配していたのよ」
みなもが冷静に話すことができているのも、
声を掛ける前に翼と尻尾と額のルビーを一端消したからだ。
しかしキリのいいところでまた出さないといけない。
その出すタイミングこそ勝負の分かれ目となる。
「私は……、あなたを連れにやって来たのよ」
「連れる? どういうこと?」
「私はあなたが知っている『相良涼子』でもなければ、
『相良涼』でもない。言ってみるなら『サキュバスとして生まれ変わった相良涼』よ」
「え? 涼子? 涼? サキュバス?」
頭にクエスチョンマークが飛び交っていることだろう、
私が逆の立場だと同じ反応を示していただろう。
「順を追って話をするわ。
私は元々相良涼と言う男性だった。
しかし不慮の事故で死亡直前まで追い込まれたわ」
「相良涼…、不慮の事故……」
「それを救ってくれたのがシェリーよ。
彼女は知識欲のために私を人体実験にして、男性から女性に変えた。
その方法は精子の遺伝情報を書き換えるものであった」
「人体実験……、…せ、精子!?」
先程まで私の言ったことを反復する程度の反応しか示さなかったものの、
流石に卑猥な言葉には敏感だったようだ。
無理もない、みなもは性に疎いのだから。
「大丈夫!? ここでいったん話を打ち切りましょうか?」
「いえ、続けてください!
知りたいのです、どうして涼子ちゃんが消えちゃったのか」
そこまで言われたら断る理由はなかった。
「男性ではなく女性として世に生まれたのが、
あなたがよく知っている相良涼子。
三ヶ月半前までは私は相良涼子の人格が宿っていた。
しかし本来の、相良涼としての人格が目覚めたの。
あなたが知っている涼子はもういないわ」
一ヶ月半相良涼として過ごし、二ヵ月前に失踪したのだから
足し合わせて三ヵ月半前に今の私の人格が宿っていることになる。
私がみなもに初めて会ったのはちょうど過ごしやすい時期、
あれは確か五月あたりだったと思う。
もうだいぶ昔の話のように思える。
「知って………たよ。
私、最初から、涼子ちゃんが涼になる時から知っていたよ」
「……え?」
「だって性格が結構変わっていたし色んなことを忘れているし。
いくらなんでも一週間前にパフェ食べに行ったことすら
忘れているなんて、考えられないから……」
ああ……、もうバレバレだったんだ。
「どうして黙っていたの?」
「少なくともあなたに罪がないように思えたので…」
「それは……、どこを見てそう思ったの?」
「女は人を見る目が違うのよ。
じっくりと観察すれば簡単に分かるわ」
女心なのか、まだ三ヶ月半しか経ってないのだからそこら辺はよくわからない。
シェリーの方を見つめる。
コクコク
どうやら本当のようだ。
「ごめん……、結果的にあなたを騙す形になって」
「ううん、あなたはやっぱり私の知っている涼子ちゃんだよ。
その悩んでいるときに両手を背中にまわす癖、
ようやく戻ったのだもの。
それに最初の頃はぎこちなかった涼子の演技も、
私のもとにいなくなる頃には、
もうすっかり考え方まで涼子ちゃんそのものだったわ。
やっぱりあなたは私の知っている涼子ちゃんだよ!」
「ごめんね……、ごめんねみなも…」
私はしばらくの間みなもを抱き、泣きついていた。
<つづく>
まずはみなもがいるかどうか確認するためだ。
「あ、あそこにいるの……あれがみなもじゃない?」
「よく見つけたわねシェリー、鷹のように視力がいいわね」
さらに近づいてみれば確かにみなもであることがわかる。
丁度クロールの最中らしく、優雅に泳いでいる。
さて…、
「あの場に乱入して犯すこともできるのだけど、
シェリーはどうした方がいいと思う?」
ここで問題となっていることは周りの人に気付かれないだろうかではなく、
人がいるかいないかどちらの方が効果的か尋ねる内容であった。
実際、みなもの周囲にマジックミラーみたいな結界を張れば、
周りからはこちらのサキュバス化の試みに気付かれる心配はない。
「そうね…、今すぐは得策じゃないわ。
周りに人がいることだし、彼女、パニックになると思うわ」
なるほど、そういう考えもできるのか。
それなら今すぐ行動するのではなく、
水泳が終わるその時を狙った方がサキュバス化に応じてくれやすい。
卑怯な手だが、少しでも有利な状況の下で行動を起こした方が
リスクが少ないのは、目に見えて明らかだった。
しかし……、
「みなもってあんなに可愛かったかな……」
ついうっかり呟いてしまった。
「あれ? 今頃気がついたの?
てっきり私は涼ちゃんの好みだから、
サキュバス化を目指そうとしているのかと思ったわ」
「なっ、そんな馬鹿なことしないわよ。
と言うかそんな余裕なんてあるわけないでしょ、
私の命がかかっている状況の中で!」
やはり普段の会話はシェリーの方が一枚上手だ。
そうした会話をしている間に部活が終わったのか、
部員が疎らになって来た。
こうした時がチャンスとなってくる。
別にここでなくてもいいのだが……、
「スクール水着姿のみなもを犯す方が萌えるから?
涼ちゃんってやっらしぃ〜♪」
「な、ななななななっ!」
肝心な時にあまり実力を発揮できず、
こういうどうでもいい時にだけ読心力を発揮するのだから、
狙っているとしか思えないのだが……。
しかし図星なのだから反論できない。
でもこういったちょっと小悪魔的な要素に惹かれているのも事実だ。
「ほ、ほら、今がチャンスよ。私に続きなさい!」
そう言うなり私はグングンと急降下をした。
スタッ
みなもの背後に着地した。
私はすぐさま右手を地面に触れて魔法陣を描いた。
これでもうみなもは周りから見えない存在になった。
逆にみなもにとってみれば私達の存在に気づくようになる。
「なも……、みなも……」
「え? その声は……、ええっ!?」
みなもは振り返ると驚いた表情をみせた。
「お久しぶりぃ、みなも♪」
「りょ、涼子ちゃん、それにシェリーちゃん!
ど、どうしたの! いままでどこにいたの!?」
「ごめんねみなも、寂しい思いをさせて」
「涼子ちゃん……、涼子ちゃん……!」
あまりに当然の反応を示されたら、この後の展開に罪悪感を抱くが、
自分の身だけでなく淫魔界のことを思って行動を決起するしかなかった。
「ごめんね……、みなも…」
そう言って私はみなもの頬にキスをした。
いきなり唇を奪えばそれは完全にサキュバスになるよう誘っていることになるが、
これくらいならスキンシップの一環として受け流すこともできる。
「あ……、涼子ちゃん今までどうしたの?
それにシェリーちゃんも……。
おうちの方とかずっと心配していたのよ」
みなもが冷静に話すことができているのも、
声を掛ける前に翼と尻尾と額のルビーを一端消したからだ。
しかしキリのいいところでまた出さないといけない。
その出すタイミングこそ勝負の分かれ目となる。
「私は……、あなたを連れにやって来たのよ」
「連れる? どういうこと?」
「私はあなたが知っている『相良涼子』でもなければ、
『相良涼』でもない。言ってみるなら『サキュバスとして生まれ変わった相良涼』よ」
「え? 涼子? 涼? サキュバス?」
頭にクエスチョンマークが飛び交っていることだろう、
私が逆の立場だと同じ反応を示していただろう。
「順を追って話をするわ。
私は元々相良涼と言う男性だった。
しかし不慮の事故で死亡直前まで追い込まれたわ」
「相良涼…、不慮の事故……」
「それを救ってくれたのがシェリーよ。
彼女は知識欲のために私を人体実験にして、男性から女性に変えた。
その方法は精子の遺伝情報を書き換えるものであった」
「人体実験……、…せ、精子!?」
先程まで私の言ったことを反復する程度の反応しか示さなかったものの、
流石に卑猥な言葉には敏感だったようだ。
無理もない、みなもは性に疎いのだから。
「大丈夫!? ここでいったん話を打ち切りましょうか?」
「いえ、続けてください!
知りたいのです、どうして涼子ちゃんが消えちゃったのか」
そこまで言われたら断る理由はなかった。
「男性ではなく女性として世に生まれたのが、
あなたがよく知っている相良涼子。
三ヶ月半前までは私は相良涼子の人格が宿っていた。
しかし本来の、相良涼としての人格が目覚めたの。
あなたが知っている涼子はもういないわ」
一ヶ月半相良涼として過ごし、二ヵ月前に失踪したのだから
足し合わせて三ヵ月半前に今の私の人格が宿っていることになる。
私がみなもに初めて会ったのはちょうど過ごしやすい時期、
あれは確か五月あたりだったと思う。
もうだいぶ昔の話のように思える。
「知って………たよ。
私、最初から、涼子ちゃんが涼になる時から知っていたよ」
「……え?」
「だって性格が結構変わっていたし色んなことを忘れているし。
いくらなんでも一週間前にパフェ食べに行ったことすら
忘れているなんて、考えられないから……」
ああ……、もうバレバレだったんだ。
「どうして黙っていたの?」
「少なくともあなたに罪がないように思えたので…」
「それは……、どこを見てそう思ったの?」
「女は人を見る目が違うのよ。
じっくりと観察すれば簡単に分かるわ」
女心なのか、まだ三ヶ月半しか経ってないのだからそこら辺はよくわからない。
シェリーの方を見つめる。
コクコク
どうやら本当のようだ。
「ごめん……、結果的にあなたを騙す形になって」
「ううん、あなたはやっぱり私の知っている涼子ちゃんだよ。
その悩んでいるときに両手を背中にまわす癖、
ようやく戻ったのだもの。
それに最初の頃はぎこちなかった涼子の演技も、
私のもとにいなくなる頃には、
もうすっかり考え方まで涼子ちゃんそのものだったわ。
やっぱりあなたは私の知っている涼子ちゃんだよ!」
「ごめんね……、ごめんねみなも…」
私はしばらくの間みなもを抱き、泣きついていた。
<つづく>
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(9) by.りゅうのみや <18禁>
「やめてぇぇぇっ!」
シェリーの叫び声が響く。
「どうして? あなたを強姦しちゃったのだから、
抜こうとしているだけなのよ」
「抜かないでぇ、わたしぃ、女王様となら強姦されてもいいからぁ!
あなたの欲望を私にぶつけてぇぇっ!!」
シェリーは自らの口で強姦されることを望んだ。
「いいわよぉ、壊れるかもしれないけどたっぷりと犯し尽くしてあげるわ」
「壊してぇ、私を壊してぇ!」
無論本当に壊すわけではない、
その一歩手前まで快楽を与える口実に過ぎなかった。
これは私自身が未遂に終わったとはいえ、経験者だからその境目がわかるのである。
一方シェリーにはそうした経験がないからこそ、
あの時の調律ではその兆しがあると見えた段階で素早く手を引っ張ったのだ。
ズンズン ズチャ ズチャ ズチャ
かなり激し目の前後運動を繰り返す。
壊れるくらいの快楽を望んだので、それに答えることにした。
「あああぁぁぁ、きゃあああぁぁっ!
こんなのってぇ、すぐイッちゃうのぉ、
サキュバスの尻尾でズコズコと犯されているぅ!」
その後しばらく犯し続けたが、若干反応が薄れてきた。
さて、そろそろ壊れる一歩手前かな?
そう思って私は一気に尻尾を抜き取る。
「きゅうううぅぅぅっ」
ここから理性を取り戻すための治療が必要かな。
「いい、あなたは壊れちゃったらだめよ。
私と過ごす長い日々を、こんな一瞬の快楽のために流されてはだめよ」
「長い……日々?」
「そうよ、今必要以上の快楽を得るのと、
ずっと永続する快楽と暖かさ、どちらを選ぶつもり?」
「……私ぃ、ずっと女王様に愛され続けたい…」
どうやら調律は成功したようだ。
「なら、これからずっと愛し続けてあげる」
そう言ってシェリーの頭を撫でた。
「うんありがとう、女王様……」
あれからしばらくしてようやくシェリーが正気を取り戻した。
「これからはいっぱい可愛がってあげます」
シェリーはどうされてみたい?
あなたの為にいっぱい可愛がってあげるから」
「う、うん。さっきの触手で私を苛めていいかな?
でも、できるだけソフトに、触手に愛されているような優しい感じで」
「うん、いいわよ。あなたの為にいっぱい感じさせてあげるから」
ちゅぷ
「はあぁん、何これ……、いい…気持ちいい……
私ぃ、触手に愛されている………」
私がさっき受けた責めと同じだが、
それは明らかに緩かった。
「なんでぇ、なんでこんなにあったかいのぉ?
気持ちいい…………ずっとこの感覚に浸ってみたい……」
触手に凌辱されている感想にしてはあまりにも似ても似つかなかった。
例えるなら、少しぬるめのお風呂にゆったりと
浸かっているような、夢心地の感想に近かった。
「気持良さそうね、私にお礼の言葉は?」
「はいぃ、この私にぃ、夢を叶えさせて頂きありがとうございますぅ。
触手にぃ愛されてぇ、悶えてぇ、幸せなのぉ……」
先程まで激しい責めに遭ったため、
体力の消耗が激しいシェリーのことが気になる。
このまま苛められればそれはそれで壊れる要因になるので、
キリがいいところで方針を切り替えなければならない。
「せっかく気持ちいいところをお邪魔して申し訳ないのだけど、
私も混ぜていいかな? 私だってもう一度犯されたいの」
犯される割合が半分になるのだから、これで十分安全になった。
「うんいいよ、だって女王様が呼んで頂いたのですから……」
「そう? ありがとね、じゃあお礼に
私の尻尾をあなたのアソコに入れてあげるね」
「うん、うれしい……、
あの………私も女王様のアソコ、入れてよろしいでしょうか」
「そうして頂けると助かるわ、一緒に感じましょうねシェリー」
「は、はいぃっ、女王様♪」
私は仰向けになったシェリーの上に覆い被さり、
お互いの尻尾をアソコに差し込み、ゆっくりと出し入れする。
さらに触手による責めを受け、
この責めは甘くありながら確実に劣情の炎として燃え上がっていた。
「えへへ〜、女王様とこうして結ばれるのを
ずっと待っていたような気がします♪」
「こうして? 私たちはいつでも肌を重ね合わせてきたじゃない」
「違いますよぉ、その時の女王様はまだサキュバスになってないために、
こうして互いの尻尾でアソコを犯すことなんて、
できなかったじゃないですかぁ♪」
ああ、そういうことか。
「夢が叶えて嬉しいの、シェリー?」
「はいぃ、私すっごく嬉しいですぅ!
……女王様は嬉しくないのですか?」
不安そうに私を見つめてくる。
ここは苛める時じゃないから素直に感想を言うべきだろう。
「うん、私もこうされることを夢見ていたのかもしれない。
今、こうして願いが叶いました。だからすごく幸せ」
うねうねと蠢く触手の責めも、二人のムードを高める添え物に過ぎなかった。
まったく、いつから私はこんな能力を持っていたのだろう。
サキュバスになった時から? それとも調律の最中?
だがそれらはどうでもいい話だった。
今は二人の愛を確かめ合うことが第一優先順位なのだから。
それ以外は何もいらなかった。
その後、体力の限界を迎えるまで、
この終わることのない愛情表現は続いた。
私とシェリーは今人間界に降りている。
親友であるみなもをサキュバスに変えることがその目的である。
「さて、みなもと会うのもいつ以来かしら?」
シェリーに訊ねてみた。
何しろ淫魔界には時間の観念がほとんどないからだ、
常時闇に包まれて時計もない世界だから、正確に知るはずがなかった。
「ほらっ、これを見て、これを」
「へぇー、なかなか気が利くじゃないシェリー」
シェリーが持ち出したのは新聞だった。
丁度新聞の営業所を通りかかったので、
新聞の自販機で購入したのだろう。
日付の欄を確認する。
2009/8/30
つまりみなもと会うのもおよそ二ヶ月ぶりになる。
「そっかー、暑いから夏だとは思っていたけど、
丁度暑い時期にやってきたことになるわね」
「エアコンでゆったりと涼んでいたいね」
さすがにそうも言ってられないだろう。
この時期だから夏休みに入っているのだろう。
「確かみなもって運動系の部活に入っていたよね?」
「ええ、水泳部だったはずよ」
「よかった、みなもの家ってまだ行ったことなかったからね」
「うん私も。じゃあ、学校に行けばプールで泳いでいるかもね」
そうときまれば早速学校に向かった。
「こういう時隠密性が高いと便利よね〜、涼ちゃん」
「そうだね、私たちのこと知っている人がいても気兼ねなく街中を歩けるし」
そう、普通の人は私たちの姿なんて見えるはずもなかった。
その証拠に何度も人にぶつかりそうになることさえあった。
流石にぶつかったら存在が疑われるので避けるのに必死なのだが…。
「なんかこう、スリルがあっていいよね、涼ちゃん」
「翼があるのだから空を飛んだ方がいいのだけど……」
「だってせっかくの人間界なのよ、街の風景を懐かしみたいじゃない。
ほら、あそここの前食べに行った駅前のスイーツ専門店よ、
せっかくだからチョコレートパフェ食べに行きましょ♪」
「こらこら、目的を履き違えたらダメでしょ。
それにどうやって食べに行くのよ?」
「姿消したまま厨房にお邪魔してちょっとくすねに……」
「ダメでしょ、それは無銭飲食と言って立派な犯罪よ!」
「え〜、人の性を奪うサキュバスにモラルもあったものじゃないわよ」
「それとこれとは別問題よ!
この近辺じゃないところならいくらでも連れてってあげるから」
「え、本当!? じゃあ今すぐどこか行きましょう!」
「……目的を忘れてないよね?
今回はみなもをサキュバスにすることであって、
パフェ食べることじゃないのよ」
なんか疲れる……。
エッチの時はどちらかと言えば私の方がリードしているのだが、
こういうときはむしろシェリーの方が一枚上手だ。
まぁ、こういうのもいいのかもしれない。
見方を変えれば恋人同士のデートとそう変わらないのだから。
「えへへ、そうだったよね。
じゃあ涼ちゃんの言うとおり空を飛んじゃいましょ」
そう言いながら私たちは翼を大きく広げ、
空高く飛び上がった。
「そういえば私、人間界を空高くから見降ろしたことって今までなかったわ」
飛行機でなら見たことはあるのだが、
自分の好きなように景色を楽しむことができない
という意味においては初めてだった。
淫魔界は常時真っ暗で、景色を楽しむことはできなかった。
それが今こうして優雅に飛ぶことができる。
しかしもし私たちの姿を見ることができるとすれば、
それは恐怖以外の何物でもないだろう。
だって黒くて大きな翼と長い尻尾を見て、
サキュバスが狩りにやって来たと感じずにはいられない光景だったから。
「あら、実際のところ狩りを行うためにやってきたのでしょう?」
心をある程度読むことができるため、
シェリーがそうツッコミを入れた。
以前はもう少しその能力に優れていたのだが、
サキュバスになったことで大分退化したのだろう。
「確かにそのとおりね、
でも相手の合意がないとサキュバス化は成立しないわ」
「本当にできるのかしら、そのような前代未聞の賭けに」
「きっとできるわ。だからシェリー、あなたの力が必要だわ!」
もう、学校は目前に迫っていた。
自分の命運を分ける一世一代の大勝負の火蓋が、今切って落とされた!
<つづく>
シェリーの叫び声が響く。
「どうして? あなたを強姦しちゃったのだから、
抜こうとしているだけなのよ」
「抜かないでぇ、わたしぃ、女王様となら強姦されてもいいからぁ!
あなたの欲望を私にぶつけてぇぇっ!!」
シェリーは自らの口で強姦されることを望んだ。
「いいわよぉ、壊れるかもしれないけどたっぷりと犯し尽くしてあげるわ」
「壊してぇ、私を壊してぇ!」
無論本当に壊すわけではない、
その一歩手前まで快楽を与える口実に過ぎなかった。
これは私自身が未遂に終わったとはいえ、経験者だからその境目がわかるのである。
一方シェリーにはそうした経験がないからこそ、
あの時の調律ではその兆しがあると見えた段階で素早く手を引っ張ったのだ。
ズンズン ズチャ ズチャ ズチャ
かなり激し目の前後運動を繰り返す。
壊れるくらいの快楽を望んだので、それに答えることにした。
「あああぁぁぁ、きゃあああぁぁっ!
こんなのってぇ、すぐイッちゃうのぉ、
サキュバスの尻尾でズコズコと犯されているぅ!」
その後しばらく犯し続けたが、若干反応が薄れてきた。
さて、そろそろ壊れる一歩手前かな?
そう思って私は一気に尻尾を抜き取る。
「きゅうううぅぅぅっ」
ここから理性を取り戻すための治療が必要かな。
「いい、あなたは壊れちゃったらだめよ。
私と過ごす長い日々を、こんな一瞬の快楽のために流されてはだめよ」
「長い……日々?」
「そうよ、今必要以上の快楽を得るのと、
ずっと永続する快楽と暖かさ、どちらを選ぶつもり?」
「……私ぃ、ずっと女王様に愛され続けたい…」
どうやら調律は成功したようだ。
「なら、これからずっと愛し続けてあげる」
そう言ってシェリーの頭を撫でた。
「うんありがとう、女王様……」
あれからしばらくしてようやくシェリーが正気を取り戻した。
「これからはいっぱい可愛がってあげます」
シェリーはどうされてみたい?
あなたの為にいっぱい可愛がってあげるから」
「う、うん。さっきの触手で私を苛めていいかな?
でも、できるだけソフトに、触手に愛されているような優しい感じで」
「うん、いいわよ。あなたの為にいっぱい感じさせてあげるから」
ちゅぷ
「はあぁん、何これ……、いい…気持ちいい……
私ぃ、触手に愛されている………」
私がさっき受けた責めと同じだが、
それは明らかに緩かった。
「なんでぇ、なんでこんなにあったかいのぉ?
気持ちいい…………ずっとこの感覚に浸ってみたい……」
触手に凌辱されている感想にしてはあまりにも似ても似つかなかった。
例えるなら、少しぬるめのお風呂にゆったりと
浸かっているような、夢心地の感想に近かった。
「気持良さそうね、私にお礼の言葉は?」
「はいぃ、この私にぃ、夢を叶えさせて頂きありがとうございますぅ。
触手にぃ愛されてぇ、悶えてぇ、幸せなのぉ……」
先程まで激しい責めに遭ったため、
体力の消耗が激しいシェリーのことが気になる。
このまま苛められればそれはそれで壊れる要因になるので、
キリがいいところで方針を切り替えなければならない。
「せっかく気持ちいいところをお邪魔して申し訳ないのだけど、
私も混ぜていいかな? 私だってもう一度犯されたいの」
犯される割合が半分になるのだから、これで十分安全になった。
「うんいいよ、だって女王様が呼んで頂いたのですから……」
「そう? ありがとね、じゃあお礼に
私の尻尾をあなたのアソコに入れてあげるね」
「うん、うれしい……、
あの………私も女王様のアソコ、入れてよろしいでしょうか」
「そうして頂けると助かるわ、一緒に感じましょうねシェリー」
「は、はいぃっ、女王様♪」
私は仰向けになったシェリーの上に覆い被さり、
お互いの尻尾をアソコに差し込み、ゆっくりと出し入れする。
さらに触手による責めを受け、
この責めは甘くありながら確実に劣情の炎として燃え上がっていた。
「えへへ〜、女王様とこうして結ばれるのを
ずっと待っていたような気がします♪」
「こうして? 私たちはいつでも肌を重ね合わせてきたじゃない」
「違いますよぉ、その時の女王様はまだサキュバスになってないために、
こうして互いの尻尾でアソコを犯すことなんて、
できなかったじゃないですかぁ♪」
ああ、そういうことか。
「夢が叶えて嬉しいの、シェリー?」
「はいぃ、私すっごく嬉しいですぅ!
……女王様は嬉しくないのですか?」
不安そうに私を見つめてくる。
ここは苛める時じゃないから素直に感想を言うべきだろう。
「うん、私もこうされることを夢見ていたのかもしれない。
今、こうして願いが叶いました。だからすごく幸せ」
うねうねと蠢く触手の責めも、二人のムードを高める添え物に過ぎなかった。
まったく、いつから私はこんな能力を持っていたのだろう。
サキュバスになった時から? それとも調律の最中?
だがそれらはどうでもいい話だった。
今は二人の愛を確かめ合うことが第一優先順位なのだから。
それ以外は何もいらなかった。
その後、体力の限界を迎えるまで、
この終わることのない愛情表現は続いた。
私とシェリーは今人間界に降りている。
親友であるみなもをサキュバスに変えることがその目的である。
「さて、みなもと会うのもいつ以来かしら?」
シェリーに訊ねてみた。
何しろ淫魔界には時間の観念がほとんどないからだ、
常時闇に包まれて時計もない世界だから、正確に知るはずがなかった。
「ほらっ、これを見て、これを」
「へぇー、なかなか気が利くじゃないシェリー」
シェリーが持ち出したのは新聞だった。
丁度新聞の営業所を通りかかったので、
新聞の自販機で購入したのだろう。
日付の欄を確認する。
2009/8/30
つまりみなもと会うのもおよそ二ヶ月ぶりになる。
「そっかー、暑いから夏だとは思っていたけど、
丁度暑い時期にやってきたことになるわね」
「エアコンでゆったりと涼んでいたいね」
さすがにそうも言ってられないだろう。
この時期だから夏休みに入っているのだろう。
「確かみなもって運動系の部活に入っていたよね?」
「ええ、水泳部だったはずよ」
「よかった、みなもの家ってまだ行ったことなかったからね」
「うん私も。じゃあ、学校に行けばプールで泳いでいるかもね」
そうときまれば早速学校に向かった。
「こういう時隠密性が高いと便利よね〜、涼ちゃん」
「そうだね、私たちのこと知っている人がいても気兼ねなく街中を歩けるし」
そう、普通の人は私たちの姿なんて見えるはずもなかった。
その証拠に何度も人にぶつかりそうになることさえあった。
流石にぶつかったら存在が疑われるので避けるのに必死なのだが…。
「なんかこう、スリルがあっていいよね、涼ちゃん」
「翼があるのだから空を飛んだ方がいいのだけど……」
「だってせっかくの人間界なのよ、街の風景を懐かしみたいじゃない。
ほら、あそここの前食べに行った駅前のスイーツ専門店よ、
せっかくだからチョコレートパフェ食べに行きましょ♪」
「こらこら、目的を履き違えたらダメでしょ。
それにどうやって食べに行くのよ?」
「姿消したまま厨房にお邪魔してちょっとくすねに……」
「ダメでしょ、それは無銭飲食と言って立派な犯罪よ!」
「え〜、人の性を奪うサキュバスにモラルもあったものじゃないわよ」
「それとこれとは別問題よ!
この近辺じゃないところならいくらでも連れてってあげるから」
「え、本当!? じゃあ今すぐどこか行きましょう!」
「……目的を忘れてないよね?
今回はみなもをサキュバスにすることであって、
パフェ食べることじゃないのよ」
なんか疲れる……。
エッチの時はどちらかと言えば私の方がリードしているのだが、
こういうときはむしろシェリーの方が一枚上手だ。
まぁ、こういうのもいいのかもしれない。
見方を変えれば恋人同士のデートとそう変わらないのだから。
「えへへ、そうだったよね。
じゃあ涼ちゃんの言うとおり空を飛んじゃいましょ」
そう言いながら私たちは翼を大きく広げ、
空高く飛び上がった。
「そういえば私、人間界を空高くから見降ろしたことって今までなかったわ」
飛行機でなら見たことはあるのだが、
自分の好きなように景色を楽しむことができない
という意味においては初めてだった。
淫魔界は常時真っ暗で、景色を楽しむことはできなかった。
それが今こうして優雅に飛ぶことができる。
しかしもし私たちの姿を見ることができるとすれば、
それは恐怖以外の何物でもないだろう。
だって黒くて大きな翼と長い尻尾を見て、
サキュバスが狩りにやって来たと感じずにはいられない光景だったから。
「あら、実際のところ狩りを行うためにやってきたのでしょう?」
心をある程度読むことができるため、
シェリーがそうツッコミを入れた。
以前はもう少しその能力に優れていたのだが、
サキュバスになったことで大分退化したのだろう。
「確かにそのとおりね、
でも相手の合意がないとサキュバス化は成立しないわ」
「本当にできるのかしら、そのような前代未聞の賭けに」
「きっとできるわ。だからシェリー、あなたの力が必要だわ!」
もう、学校は目前に迫っていた。
自分の命運を分ける一世一代の大勝負の火蓋が、今切って落とされた!
<つづく>
投稿TS小説 変貌の百合姫−シェリーの甘い企み続編−(8) by.りゅうのみや <18禁>
一斉に触手は私目掛けて襲い掛かり全身を蹂躙していった。
スライムは私の全身を嬲り、ひだのある触手はアソコをズンズンと激しい勢いで突き上げ、
粘液に塗れた触手は胸を襲い、段々状になっている触手はお尻の奥深くまで潜り込み、
イソギンチャクのような触手は口内を犯している。
その責めは覚醒した私でさえ気を緩めると発狂してしまいそうになるが、
自分を壊すのが目的でないので、踏み止まった。
そう、これはシェリーに対する罰なのだ。
私が涎を垂らしながら悶え悦ぶ様を
ただ見るしかできないというこの上ない屈辱的で、
しかも高まった性欲の行き場が失って理性を失わせるのが狙いであった。
もちろん壊したら本末転倒ので、そこら辺はセーブしている。
「ぎゃあああぁぁぁっ、気持ちいぃっ!
この要所要所に最適な触手が私を壊すためだけに犯してくれてるのぉ!
これさえあれば、私何もいらないわぁっ!!」
大げさに卑猥な言葉を並べて、シェリーを言葉で凌辱する。
ちらっと流し目でシェリーを見る。
思った通り高められるだけ高められた性欲に悶え、
立つことができず床で転げまわっている。
「ひぎゃああぁぁっ、犯してぇ! 犯してよぉ!
女王様、私おいたをしてしまいましたぁ!
だからぁ、だから、この哀れなメス奴隷を壊れるくらい犯してくださあぁぁいっ!!」
そうおねだりしちゃっても、私ももう少ししたらイケそうなので、
可哀想だけどそれまで我慢していてね。
「はぁ……はぁ……、じゃあ可哀想だから、
あなたにはそれをしゃぶってもいいわよ」
そう言って私はおしゃぶりを取り出し床に投げ捨てた。
シェリーはそれを正しく認識しているか怪しいフシもあるが、
口に咥えることができるものであれば何でも良かった。
「ちゅぱっ、じゅぷっ、ぴちゃ、はぷっ、あふぅ……」
本来おしゃぶりは赤ちゃんがしゃぶる道具だ。
それが快楽の渦に飲み込まれたシェリーが手にしたら、
性的な要求を満たす淫らな道具に変貌した。
そんなシェリーを見ていると私まで興奮してきた。
「イッちゃう、イッちゃう、イクうぅぅーーーーっ!!」
ようやく私は絶頂を迎えた。
ぴくぴくと体全身が痙攣して3分は身動きが取れなかった。
気を取り戻した私は、心配になってシェリーを見てみる。
「あああぁぁん、どうしてぇ、どうしておしゃぶりってこんなに美味しいのぉ!?
こんなことなら、乳離れなんてしなきゃよかったわ!!
このしゃぶるごとに口内を犯される快感に、入り浸っていたい!」
あ、ちょっと壊れかかったかな?
さっきからずっとおしゃぶりをしゃぶりながら
アソコから滝の様な愛液をただ流しているシェリーは、
瞳の光を失っていた。
だがまだ大丈夫、瞳の光を失う程度なら私だって経験したからまだ大丈夫。
それにどうやらあれをおしゃぶりと認識できるほど、意識がはっきりしているし。
なーんだ、心配して損しちゃった。
これで『あうあう』とか『えうえう』とか意味不明な
幼児言葉を言っているのなら後戻りできない状態に陥っているが、
まだ淫らな言葉を喋り続けるくらい理性が残っているなら修復可能だった。
しかもこれは『調律』、つまりサキュバスとしてあらゆる責めが
やってきても、自我を保つ訓練ともなる。
そうとわかればもう少し特訓してみる。
「あれー? シェリーっておしゃぶりで感じちゃってるのぉ?」
できるだけ羞恥心に火をつけるような口調で言い放つ。
「そう……、そうなのぉ、わらひはおしゃぶりで感じちゃっているはしたない娘ですぅ」
見る見るうちにシェリーは言葉責めで快感を覚えるようになってきた。
「知っていた? おしゃぶりって赤ちゃんが咥えるものなのよ。
今のあなたは快楽に溺れた淫らな赤ちゃんでちゅねー」
臨場感を出すために、語尾を赤ちゃん言葉にするのも忘れなかった。
「あひゃぁっ、そう…なのぉ、わらひぃ、快楽に溺れた淫らな赤ちゃんでちゅぅ……
おしゃぶりが大好きでずっと吸い続けていてぇ、
アソコからエッチなおつゆが溢れちゃってるのぉ……」
シェリーも自分自身で苛める術を身に付けたのか、
自分を昂るための演技がかなり上手かった。
私は床に水たまりのように溜まった愛液にピンと来て、
次の責めを何にするか決めた。
「あらあら、シェリーったらもういいお年なのにおもらしをしちゃったのね!」
「ごめんなさああぁぁい、ごめんなさああぁぁいっ!」
大粒の涙が溢れ、泣きじゃくるシェリー。
「いーえ、いくら赤ちゃんプレイをしているからって、
おもらしをするなんて許せないわ! 罰としてお尻ペンペンの刑ですよ!」
ピシ バシ ビシ バシ
尻尾を巧みに使ってシェリーのお尻をいたぶる。
「ひゃあ、ぎゃああぁぁっ! いい、いいのぉ!
もっと強く私のお尻をぶってぇ!」
「あーら、私はお仕置きをしているのよ。
本当なら嫌がってもいいはずよ、なのにどうして悦んでいるの!?」
「それわぁ、それわぁ……シェリーが変態だからですぅ!
痛いことされてぇ、本当なら嫌がるところをぉ、
変態だからぁ、痛いほど感じちゃうのよぉぉっ!」
「なんてこと口にするのですか、これは躾なのよ。
マゾな奴隷として調教するために叩いているのではありません!」
ビュン ビシッ バシッ ビシッ
「ひぎぃ、ごめんなさああぁぁい! ごめんなさああぁぁい!
わらひぃ、どんなに頑張ってもぉ叩かれることに
感じちゃう体になっちゃったのぉ。
お願い……もうぶつのはやめてぇぇっ!」
自分を昂るためなのか、それとも本当にやめてほしいのか、
シェリーは躾をやめるよう懇願した。
しかし、それならそれで別の責め方がある。
「そう、わかったわ。
あなたの気持ちに気付かなくて、こんな仕打ちをして悪かったわ」
そう言って尻尾で叩くのを止めた。
「え……?」
「躾のためなのに、こんな酷い目に合せてごめんなさい。
さあ、もういいわよ、もう許してあげるから」
そう言って頭を撫でてあげた。
責めの手を緩めることもまた調教の一つでもある。
さて、いつまで耐えることができるだろうか…?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく我慢していたが、変化が訪れてきた。
「ぃ………ゃ……」
やはり昂った性欲に負けてしまったのだろう。
「いやなのぉ! わらしぃ、嫌なのぉ!」
「嫌? 何が嫌なの?」
「なにもされないのは嫌なのぉ!
お願い、犯してぇ! 私のここ、あなたの尻尾が欲しくて涎を垂らして……ひゃああぁん!」
私はシェリーがおねだりを言い終える前に時間差攻撃を仕掛けた。
いきなり奥の方まで突っ込んであげた。
「ひゃああぁぁっ、やあああぁぁぁん!
いっ、いきなりぃ、きゃああああぁぁぁぁん!!」
「あれ? もしかして本当は欲しくなかったの?
ごめんなさい、最後までちゃんと聞いてなかって……」
そう言いながらオマンコに深く突き刺さった尻尾を抜き取ろうとした。
<つづく>
スライムは私の全身を嬲り、ひだのある触手はアソコをズンズンと激しい勢いで突き上げ、
粘液に塗れた触手は胸を襲い、段々状になっている触手はお尻の奥深くまで潜り込み、
イソギンチャクのような触手は口内を犯している。
その責めは覚醒した私でさえ気を緩めると発狂してしまいそうになるが、
自分を壊すのが目的でないので、踏み止まった。
そう、これはシェリーに対する罰なのだ。
私が涎を垂らしながら悶え悦ぶ様を
ただ見るしかできないというこの上ない屈辱的で、
しかも高まった性欲の行き場が失って理性を失わせるのが狙いであった。
もちろん壊したら本末転倒ので、そこら辺はセーブしている。
「ぎゃあああぁぁぁっ、気持ちいぃっ!
この要所要所に最適な触手が私を壊すためだけに犯してくれてるのぉ!
これさえあれば、私何もいらないわぁっ!!」
大げさに卑猥な言葉を並べて、シェリーを言葉で凌辱する。
ちらっと流し目でシェリーを見る。
思った通り高められるだけ高められた性欲に悶え、
立つことができず床で転げまわっている。
「ひぎゃああぁぁっ、犯してぇ! 犯してよぉ!
女王様、私おいたをしてしまいましたぁ!
だからぁ、だから、この哀れなメス奴隷を壊れるくらい犯してくださあぁぁいっ!!」
そうおねだりしちゃっても、私ももう少ししたらイケそうなので、
可哀想だけどそれまで我慢していてね。
「はぁ……はぁ……、じゃあ可哀想だから、
あなたにはそれをしゃぶってもいいわよ」
そう言って私はおしゃぶりを取り出し床に投げ捨てた。
シェリーはそれを正しく認識しているか怪しいフシもあるが、
口に咥えることができるものであれば何でも良かった。
「ちゅぱっ、じゅぷっ、ぴちゃ、はぷっ、あふぅ……」
本来おしゃぶりは赤ちゃんがしゃぶる道具だ。
それが快楽の渦に飲み込まれたシェリーが手にしたら、
性的な要求を満たす淫らな道具に変貌した。
そんなシェリーを見ていると私まで興奮してきた。
「イッちゃう、イッちゃう、イクうぅぅーーーーっ!!」
ようやく私は絶頂を迎えた。
ぴくぴくと体全身が痙攣して3分は身動きが取れなかった。
気を取り戻した私は、心配になってシェリーを見てみる。
「あああぁぁん、どうしてぇ、どうしておしゃぶりってこんなに美味しいのぉ!?
こんなことなら、乳離れなんてしなきゃよかったわ!!
このしゃぶるごとに口内を犯される快感に、入り浸っていたい!」
あ、ちょっと壊れかかったかな?
さっきからずっとおしゃぶりをしゃぶりながら
アソコから滝の様な愛液をただ流しているシェリーは、
瞳の光を失っていた。
だがまだ大丈夫、瞳の光を失う程度なら私だって経験したからまだ大丈夫。
それにどうやらあれをおしゃぶりと認識できるほど、意識がはっきりしているし。
なーんだ、心配して損しちゃった。
これで『あうあう』とか『えうえう』とか意味不明な
幼児言葉を言っているのなら後戻りできない状態に陥っているが、
まだ淫らな言葉を喋り続けるくらい理性が残っているなら修復可能だった。
しかもこれは『調律』、つまりサキュバスとしてあらゆる責めが
やってきても、自我を保つ訓練ともなる。
そうとわかればもう少し特訓してみる。
「あれー? シェリーっておしゃぶりで感じちゃってるのぉ?」
できるだけ羞恥心に火をつけるような口調で言い放つ。
「そう……、そうなのぉ、わらひはおしゃぶりで感じちゃっているはしたない娘ですぅ」
見る見るうちにシェリーは言葉責めで快感を覚えるようになってきた。
「知っていた? おしゃぶりって赤ちゃんが咥えるものなのよ。
今のあなたは快楽に溺れた淫らな赤ちゃんでちゅねー」
臨場感を出すために、語尾を赤ちゃん言葉にするのも忘れなかった。
「あひゃぁっ、そう…なのぉ、わらひぃ、快楽に溺れた淫らな赤ちゃんでちゅぅ……
おしゃぶりが大好きでずっと吸い続けていてぇ、
アソコからエッチなおつゆが溢れちゃってるのぉ……」
シェリーも自分自身で苛める術を身に付けたのか、
自分を昂るための演技がかなり上手かった。
私は床に水たまりのように溜まった愛液にピンと来て、
次の責めを何にするか決めた。
「あらあら、シェリーったらもういいお年なのにおもらしをしちゃったのね!」
「ごめんなさああぁぁい、ごめんなさああぁぁいっ!」
大粒の涙が溢れ、泣きじゃくるシェリー。
「いーえ、いくら赤ちゃんプレイをしているからって、
おもらしをするなんて許せないわ! 罰としてお尻ペンペンの刑ですよ!」
ピシ バシ ビシ バシ
尻尾を巧みに使ってシェリーのお尻をいたぶる。
「ひゃあ、ぎゃああぁぁっ! いい、いいのぉ!
もっと強く私のお尻をぶってぇ!」
「あーら、私はお仕置きをしているのよ。
本当なら嫌がってもいいはずよ、なのにどうして悦んでいるの!?」
「それわぁ、それわぁ……シェリーが変態だからですぅ!
痛いことされてぇ、本当なら嫌がるところをぉ、
変態だからぁ、痛いほど感じちゃうのよぉぉっ!」
「なんてこと口にするのですか、これは躾なのよ。
マゾな奴隷として調教するために叩いているのではありません!」
ビュン ビシッ バシッ ビシッ
「ひぎぃ、ごめんなさああぁぁい! ごめんなさああぁぁい!
わらひぃ、どんなに頑張ってもぉ叩かれることに
感じちゃう体になっちゃったのぉ。
お願い……もうぶつのはやめてぇぇっ!」
自分を昂るためなのか、それとも本当にやめてほしいのか、
シェリーは躾をやめるよう懇願した。
しかし、それならそれで別の責め方がある。
「そう、わかったわ。
あなたの気持ちに気付かなくて、こんな仕打ちをして悪かったわ」
そう言って尻尾で叩くのを止めた。
「え……?」
「躾のためなのに、こんな酷い目に合せてごめんなさい。
さあ、もういいわよ、もう許してあげるから」
そう言って頭を撫でてあげた。
責めの手を緩めることもまた調教の一つでもある。
さて、いつまで耐えることができるだろうか…?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらく我慢していたが、変化が訪れてきた。
「ぃ………ゃ……」
やはり昂った性欲に負けてしまったのだろう。
「いやなのぉ! わらしぃ、嫌なのぉ!」
「嫌? 何が嫌なの?」
「なにもされないのは嫌なのぉ!
お願い、犯してぇ! 私のここ、あなたの尻尾が欲しくて涎を垂らして……ひゃああぁん!」
私はシェリーがおねだりを言い終える前に時間差攻撃を仕掛けた。
いきなり奥の方まで突っ込んであげた。
「ひゃああぁぁっ、やあああぁぁぁん!
いっ、いきなりぃ、きゃああああぁぁぁぁん!!」
「あれ? もしかして本当は欲しくなかったの?
ごめんなさい、最後までちゃんと聞いてなかって……」
そう言いながらオマンコに深く突き刺さった尻尾を抜き取ろうとした。
<つづく>