沖縄だけで解決はない

　新閣僚のトップを切って初来県した北沢俊美防衛相は、基地問題について地元の意向を確かめるという姿勢で聞き役に徹した。

　時を同じくして訪米中の鳩山由紀夫首相は米軍普天間飛行場の県外・海外移設を目指す基本方針を堅持すると言明した。岡田克也外相も名護市辺野古での代替施設建設計画を再検証する考えをあらためて示した。

　米国から発信される新内閣の方針に比べ、「大切なのは県民の心だ」という北沢防衛相の来県はメッセージ性に乏しかった。自身の考えをほとんど明かさなかった。

　発足間もない内閣で政策調整や方針確認が不十分だったにしても、首相や外相発言との落差には違和感を覚える。

　巨大ダムの建設中止や外交密約の洗い出し作業など次々と打ち出す鳩山内閣は政治主導による改革を印象付けている。それに比べて沖縄の基地問題は、米国という交渉相手があるため、首相の意気込みがあっても先行きは不透明で、隔靴掻痒（そうよう）の感が否めない。そんな状態で沖縄の声を聞きたい、と言われても地元は戸惑うばかりだ。

　県庁で北沢防衛相を迎えた仲井真弘多知事は従来の考え方を繰り返した。

「県外、国外がベストだが、現実的かどうか」と疑問視した。

　これに北沢防衛相は、衆院選で普天間の辺野古移転に反対した候補者が自民候補に完勝した結果が「直近の県民の民意」との認識を示しながら、「理想の中で現実を見失うのは得策ではない」とも語った。

　真意が分からない。

　那覇防衛局の辺野古での環境アセスメントについて、北沢防衛相は来県前に「邪魔になるものではないんだから粛々とやる」と発言した。公共事業の精査を旗頭にする民主党の閣僚としては、いささか軽はずみではなかろうか。

　当初明らかにされていなかったヘリパッド設置が追記されるなど手続きの問題が指摘され、８月に市民らがアセスやり直しを求め那覇地裁に提訴している。

　さらに米サンフランシスコ連邦地裁での沖縄ジュゴン訴訟で、保護措置を命じられた米国防総省は、日本のアセスが影響を明らかにすると主張した。ところが、県のアセス審議会で生態把握が不十分と指摘された防衛局側は「ジュゴン保護を目的としているのではない。現在の環境を維持する対策を講じる」とした。

　この認識ギャップは米国での訴訟に影響しそうだ。北沢防衛相の発言は現状を把握しているとは思えない。

　米軍再編の日米協議は外務、防衛両省官僚が交渉を仕切り、政治のイニシアチブが見えなかった。

　政治主導に切り替えると宣言した鳩山内閣は、基地問題も「ゼロベース」から対米交渉に臨むべきだ。

　在沖米軍基地の７割を占有する海兵隊は半世紀前に岐阜県と山梨県から移駐した。現在は長崎県佐世保を母港とする米軍艦に乗って活動している。本土移転は十分合理性のあるオプションだ。

　基地問題の解決策は沖縄ではなく本土側にある。