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「チーム医療維新」で医療崩壊に歯止めを

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【第80回】 西田博さん(東京女子医科大心臓血管外科講師)

 「医師とコメディカルの役割分担の推進」との方針の下、厚生労働省は今年8月から、「チーム医療の推進に関する検討会」を開催している。しかし、医師と連携・協働して慢性疾患などを持つ患者に初期診察や薬剤処方を行うことができるナースプラクティショナー(診療看護師、NP)の導入については、医師の負担軽減につながるとして関心が高まる一方、日本医師会が反対を表明しているなど、先行きは不透明だ。
 そんな中、コメディカルを活用した「チーム医療」の必要性を外科医の立場から訴える東京女子医科大心臓血管外科講師の西田博さんは、「『チーム医療』をうまく取り込めない医師やそれを排除しようとする医師は、これから厳しくなる」と指摘する。
 なぜ今、「チーム医療」なのか―。西田さんに聞いた。(妹尾ゆかり)

■数をやみくもに増やすのではなく、構造改革も

―医師とコメディカルとの連携による「チーム医療」という考え方に出会ったきっかけを教えてください。

 
 2007年の日本胸部外科学会で、医師とコメディカルとの協働をテーマに取り上げたセッションがあって、そこで講演する機会を頂いたんです。その時、わたしは学会のデータを基に、外科医の労働条件の悪さなどを発表しました。
 日本胸部外科学会では、会員医師の処遇や労働環境について、02年から毎年、会員にアンケートしています。わたしは担当委員として、02年から4回、労働時間や処遇、給料などを調査していました。調査からは、日本の心臓外科医がいかに重労働で処遇も悪いかということが明らかになりました。
 ところで日本の心臓外科についてですが、施設数が500を超え、「専門医」と称する人が2000人くらいいても、手術数は5万例ほどなので、昔から施設や専門医が多過ぎるという話がありました。そのため、施設数や専門医の数を絞る方向で学会もかじを切っております。
 ということは今、医師不足で医療崩壊、外科医不足で外科医療崩壊といわれていますが、少なくとも心臓外科の世界では、医師を減らそうとしている。減らさなければいけないぐらい医師や病院が多いという中で、どうしてみんなが長時間労働をしているのかと問うと、やはり構造改革が必要なのだと思うのです。

―具体的にはどのようなことでしょうか。

 例えば、現在は外科医の中にも“手術をする外科医”と、“外科医を支える外科医”がいます。心臓の領域となると、一人では手術ができませんし、術後の管理にも手が掛かりますので、“外科医を支援する外科医”がいるわけです。一方、米国では外科医は非常に少ないのに、同じ心臓外科の領域でもたくさんの手術をやっています。
 コロンビア大学の例を出しますと、6人の外科医で1500例の手術をしています。その外科医に30人以上のフィジシャンアシスタント(医師助手、PA)やNPを加えたチームで、効率よく医療が行われているわけです。
 ところが、日本では36人のチームなら36人がみんな外科医という話になります。その中の30人、つまり“外科医を支援している外科医”については、みんなが“手術できる外科医”になれるかというと、そういうわけではありません。「ドロップアウト」というのは語弊がありますが、多くは途中で開業したり老人病院に行ったりする。それはある意味、とても無駄なことですよね=図=。
 今後、その傾向はどんどん強まると思います。病院数は集約・削減の方向ですから、“手術をする外科医”の枠は減りますが、“外科医を支える医療従事者”へのニーズは減ることはありません。外科医人口も減るとすると、今のように“外科医を支える仕事を外科医がする”という非効率な仕組みを続けるべきではありません。
 術後管理や術中管理の一部など、外科医ではなくてもできることがたくさんあります。そういうことを、看護師などのコメディカルの方でも、モチベーションの高い一部の方に一定の修練をしていただいた上でやっていただくといいと思うのです。

―増やすべきは医師の数だけではないということですね。

 はい。医師を増やすとか、看護師を増やすというのは、それぞれの「縦糸」を太くするということですよね。しかし、これでは種類の本数、つまり職種のカテゴリーは増えないし、他職種との連携を増やすということにはなりません。絶対数を増やすことも重要ですが、看護師の裁量権を拡大したNPのようなカテゴリーを増やすことも重要ですし、それによって横のつながりを密にし、縦割りを排除するということも重要だと思います。

■「チーム医療」の中心は患者

―コメディカルの裁量権の拡大を図る「チーム医療」の考え方に反対する医療関係者も多いようですが。


 地域医療にしろ、病院内外の医療にしろ、「チーム医療」を上手に取り込めない医師やそれを排除しようとする医師は、これから厳しくなると思いますね。
 患者のニーズにきめ細かく応えるためには、自分が全部背負い込んで一人で駆け回るよりは、優秀なコメディカルと組んで役割分担し、それぞれがそれぞれのプロフェッショナルの仕事に専念した方がいい。結果的に生産性や効率性が向上し、それぞれの職種、特に医師にとってのみでなく、患者さんにもよい医療が提供できると思います。

―厚労省でも8月、医師とコメディカルの役割分担を見直す「チーム医療の推進に関する検討会」が開催されましたね。コメディカルの裁量権拡大の議論もいよいよ本格的になってきたという感じですが。

 そうですね。ただ、「チーム医療」を推進しようとするときに問題なのは、医療提供者の視点や都合だけで話をするというのは受け入れられないということ。「チーム医療」の中心はやはり患者さんであって、患者さんにとってよいこと、つまり透明性があって、説明責任が成り立つようなことでないといけません。NPやPAと米国では言っていますが、コメディカルの裁量権を拡大してプレーヤーを増やし、相互に連携してよい医療を効率的にやるというときは、そのプロセスや形が国民によく見えるようにしておかないといけないと思います。
 何となく、コメディカルが医療をやるようになったというのではなく、「こういう教育をして、こういうことができる」ということや、「患者にはどういうニーズがあって、それに対してこういう人たちが活躍すると、こういうメリットがありますよ」、あるいは「こういうデメリットも考えられるけど、われわれが一緒になってこういうことが起こらないようにしますよ」という、患者にとっての説明責任、透明性が大事だと思います。

■「ワンフォーオール・オールフォーワン」の精神で

―最後に、「チーム医療」の実現に向けて、今後の意気込みをお聞かせください。

 今、医療が高度化して、患者さんのニーズも高まって、大学を出た30年前と比べて複雑かつ多様になっています。その中で、医師だけでいい医療を提供しようとしても限界があると思います。そこで、自分の周りを見回してみると、いろいろなコメディカルの人が医療を支えていることに気付くわけです。
 そういう人たちがどういう教育を受けて、どういうつもりで医療に参加しているのかについては、これまでほとんど意識していませんでした。しかし「チーム医療」のことを研究し、いろいろな人と話す中で輪が広がって強く思うことは、スポーツと一緒でチームワークが非常に重要だということです。それも、個人個人が高いレベルを目指した上でのチームワークです。「自分たちのテリトリーはこうだから口を出すな」とか、「これはお前の責任だろ」とか、そういう話ではなく、もっといろんな面で連携して、「チーム医療」を進めるべきです。
 わたしはラグビーが好きなのですが、「ワンフォーオール・オールフォーワン」の精神で、日本の医療を良くしていけたらと強く思います。「チーム医療維新」というウェブサイトもあります。共鳴してくださる方にはぜひ仲間に加わっていただき、大きな輪となって医療を良い方向にチェンジさせることができればと思っています。

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更新:2009/10/03 10:00   キャリアブレイン

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