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 第11回
 もーろー日記
 3Dで飛び出す!?特殊映像の夏!!



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2009年07月25日
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ 第10回2009年上半期・特殊映像総決算! ]
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第10回 2009年上半期・特殊映像総決算!(2)
■小規模公開のアニメ、好調 ■「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」

斉藤守彦

【小規模公開のアニメ、好調】

 ゴールデン・ウィークには、他に「交響詩篇エウレカセブン/ポケットが虹でいっぱい」が東京テアトル、「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」が角川書店=クロックワークスの配給で、それぞれ公開された。
 「エウレカセブン」は、プリントわずか6本での公開なれど、初日から熱心な観客を集め、メイン館であるテアトル新宿をはじめ、軒並み満席が続いた。かたや「グレンラガン」は、「エウレカセブン」と同じ4月25日から、池袋シネマサンシャインを中心に20スクリーンでスタート。オープニング2日間で、入場者数1万8000名、興収2784万円をあげた。両作品とも大きなマーケット展開にはなっていないが、それ故に1スクリーンあたりの興収はすこぶる高く、「エウレカセブン」のオープニングにおける1スクリーンあたり興収は174万9867円と、これは「名探偵コナン・漆黒の追跡者」のそれ(173万9802円)を、わずかだが上回っている。
 こうした、いかなるマーケット・サイズにも対応が出来、固定客たるファンを中心に、堅実な観客動員が出来るのが、この種のアニメ映画の強みだ。少なくとも上映する立場である映画館としては、拡大公開作品と同等の興収をあげることが出来、さらにショップでの関連商品売り上げも見込めるとあって、美味しい番組なのである。

 「エウレカセブン」を配給した東京テアトル、「グレンラガン」のクロックワークスは、昨今こうした中小規模のアニメ映画に力を入れている配給会社であり、またメイン上映館のテアトル新宿、シネマサンシャインも同様に、クールアニメを番組編成に活かしている。
 このテアトル新宿VSシネマサンシャインが、正面から激突したG.W.のアニメ戦線だったが、次の激突は「東のエデン」(11月28日よりテアトル新宿他)VS「劇場版マクロス 虚空歌姫 〜イツワリノウタヒメ〜」(11月21日よりシネマサンシャイン他)の“11月対決”となりそうだ。

【「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」における、
 絶妙なマーケティングとその成果】


 スレスレで上半期に公開されたのが、カラー=クロックワークス配給による「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」だ。6月27日より全国120スクリーンでスタートした同作品は、オープニング2日間で入場者数35万4852名、興収5億1218万200円、1スクリーンあたり実に426万8168円をあげる、前作「序」のオープニングを上回るヒットとなった。
 120スクリーンという規模の上映において、5億円を上回るオープニング興収は前例がなく、1スクリーンあたり興収426万8168円は、去年の「崖の上のポニョ」(興収155億円)の327万6128円(3日間集計)を上回り、日本映画史上最高興収記録作品「千と千尋の神隠し」の、オープニング1スクリーンあたり興収479万6464円(3日間集計)に続くもの。ただし「千と千尋…」が3日間集計であることから、実質的には「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」のほうが1日あたりの興収は上ということになる。

 実際、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」のマーケティングについては、通常の映画とは違う手法が使われている。まず全国ブッキング数を120スクリーンに限定したこと。昨今では、特にハリウッド・メジャー大作が、シネコンめがけてフィルムの絨毯爆撃を行っており、例えば今年の夏休みでは、「ターミネーター4」697、「トランスフォーマー/リベンジ」655と(いずれもオープニング段階でのスクリーン数)と、超拡大公開が主流。対する日本映画は、ずっとスクリーン数を絞ってきたが、昨今ではこうした洋画の大作への対抗と、製作費の早期回収を目的に、拡大公開をするケースが増えてきた。
 今年上半期に大ヒットした「ROOKIES -卒業-」が、428スクリーン、「ヤッターマン」は312スクリーンでスタートしている。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」と同クラスのマーケティングを行った作品を探してみると、アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」が、119スクリーンでスタート。最終的には興行収入13億円に達するようだが、これは小規模なマーケットで、コツコツと時間をかけて、クチコミの力で観客を集めていった結果だ。ところが「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の場合は、オープニングから興収5億円を上回る稼働を見せた。

 ハリウッド・メジャー系配給会社の常識で言えば、オープニングで興収5億円をあげる作品ならば、全国拡大公開が当然。300〜500スクリーン程度のマーケティングを行ってもおかしくはないだろう。今年正月に公開されてディズニー・アニメ「ウォーリー」は、オープニング2日間で5億1326万8150円と、ほぼ「破」に等しい興収をあげたが、スクリーン数は458であった。
 何事につけ「大きいことは良いことだ」が信条なのがハリウッド・メジャーのマーケティングだからだ。しかし、そのやり方が昨今充分な成果をあげられなくなっていることも、また事実。
 興行を行う映画館、特にシネコンとしては、複数のスクリーンを開けることで、観客を独占してしまおうという狙いがある。例えば、1回の上映に座席数300席のスクリーンを用意する。

 ところがボックスオフィスには、320人の観客が来てしまった。後ろ20人のお客さんには「申し訳ありませんが、売り切れです。他の回をご利用になるか、日にちを改めて下さい」と言わなくてはならない。こうした状況を、シネコン側はたいそう懸念する。なぜならそれは、ビジネスチャンスを失うことになるからだ。 
 初期の外資系シネコンでは、こうした「お帰りいただく」観客を出すことは絶対にタブーであり、そうなった場合、支配人は厳しく叱られたし、そうならないように、想定される観客数を実際の70パーセントと計算して、座席数の配分が行われたことは、知る人ぞ知るところ。
 
【インターロック、先行上映禁止。
 「イベントとドラマ」の演出は、今回も徹底された。】

 ところが、これが日本のアニメ映画、とりわけエヴァのように知名度が高く、ファンが多いアニメには通用しない。座席数300のところに320人のお客様が来ても、後ろのお客さん20人は、ちゃんと順番を待ってくれる。いや、むしろそうした困難を経験をして、その上で目当ての作品を鑑賞するという体験に、一種のドラマというかM的快感を感じているのではないかとさえ思ってしまう。
 このあたりは、前作「序」の時、大月俊倫エグゼクティブ・プロデューサーが「『イベントとドラマを作らなきゃダメなんだ』と。まず飢餓感を出そうと。並んで入ったとか、並んだけど入れなかったとか。必ず苦労して届く。それが『エヴァ』なんだと。手の届くところに置いたら、もはや『エヴァ』じゃないんだ。ちょっと遠目に置いて、飢餓感をあおる。それはズバリ当たったよね」(カラー刊「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 全記録全集」より)と名言していることからも、あえてそういう“ハングリー・マーケティング”戦略をとったことがうかがえる。

 上映用プリント1本を、2つのスクリーンに映写する「インターロック」を禁止し、「1サイト1スクリーン上映」を徹底。なおかつ「初日午前8時以前の先行上映、絶対厳禁」という、シネコン時代ならではの手法をあえて禁じ手としたのも、「ようやく見られた」環境を演出するためと考えて間違いないだろう。
 映画館としては、その分観客への対応等で、手間もかかってくるのだが、それでも興行サイドが、こぞってエヴァを上映したがるのは、ショップに並べた関連商品の売上の凄まじさにある。今回の「破」でも、観客の約35%前後がパンフレットを購入し、約50%の観客が「入場料金以上の額のお買い物を、ショップでなさいます」と、某興行関係者は言う。あるシネコン・チェーンでは、6月の全サイトのショップ売上高のうち、なんと80%がエヴァ商品だったという。たった3日間上映しただけにも関わらず。池袋シネマサンシャインでは、5日間の関連商品の売り上げが、1000万円に達したそうだ。もちろんドリンクやポップコーンといった、今や映画鑑賞の必須アイテムとも言えるフード類を売るコンセッションの売上にも、大いに貢献している。
 さながら映画館にとって「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」は、興行収入の数倍の付帯収入をもたらしてくれる、福の神のような存在なのである。

【「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」とは、
 庵野総監督の“14歳の夢”の実現か?】


 実際に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を、スタート3日目、満席&関連商品の9割が「完売」の、新宿バルト9 で鑑賞した時思ったのは、作品全体から感じられる「ハレ」の空気。「新世紀エヴァンゲリオン」の時には、まったく感じられなかった開放感、爽快感であった。特に庵野総監督がシンジと同じ年代だった時に耳にしたであろう、音楽や歌の数々が、随所に使われている演出には驚いた。まるで「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」という作品そのものが、14歳だった庵野総監督が、当時夢見たロボットアニメを再現したような、そんな思いに囚われたのは、筆者が庵野総監督と同世代であるからかもしれない。
 もしかしたら、庵野総監督の、そうした“14歳の時の夢”は、作品内容のみならず、満席の映画館で息をこらしてスクリーンを見つめた、そんな体験をシネコン時代の今日に再現しようという、マーケティングにも反映されているのではないだろうか?
 そんな思いがわき上がってきた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」鑑賞。上映が終了すると、場内から自然に拍手が起こった。ちらほらと見える、少年少女の観客にとって、この映画は“2009年夏の、特別な体験”として、記憶に刻まれることだろう。

 本稿執筆の時点で、興行収入20億円突破が報じられた。このペースで行けば、30億円突破も可能だろう。作品のクォリティ、そしてマーケティングの両面において、インディペンデント映画作家であり、アニメ制作会社社長である庵野秀明は見事な勝利を収めたのであった。

(3) ■東映のライダーと戦隊 ■深刻なハリウッド映画離れ
(1) ■好調 プリキュア ■ヤッターマンショック ■コナンとしんちゃん

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posted by animeanime at 2009.07.25
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