ポスト鳩山へ前原「三重苦」 失敗すれば“政権危機”にも

2009.09.25


鳩山政権で、まず最初に手腕が試されることになった前原氏【拡大】

 前原誠司国交相(47)が就任早々、3つの試練にさらされている。民主党が総選挙マニフェスト(政権公約)に掲げた「八ツ場ダム建設中止」をはじめ、「日本航空再建」と「高速道路無料化」だ。うまく着地をさせられれば「ポスト鳩山」に躍り出ることも可能だが、八ツ場ダム問題では住民側を激怒させた。かつて、「偽メール問題」で代表の座を追われたこともある前原氏。果たして「三重苦」を乗り切ることができるのか。

 「配慮に欠けていた面があったことをおわびしたい。ただ、誠に申し訳ないが、白紙に戻すつもりはない」

 前原氏はシルバーウイーク最終日の23日、八ツ場ダム建設予定地(群馬県長野原町)を視察した。一方的な中止表明については陳謝したが、建設中止の意向を改めて強調した。

 1952年に建設計画が浮上した八ツ場ダム。ダム本体工事は未着工のままだが、総事業費は当初予算の2倍以上という4600億円まで膨張した。民主党は「時代に合わない大型公共事業」として、マニフェストに建設中止を盛り込み、前原氏も大臣就任直後に中止を明言していた。

 これに対し、国に振り回された格好となった地元住民らは「中止ありきでは話し合えない」と猛反発し、前原氏との会合をボイコット。さらに、事業費を負担している6都県の知事らも「代替案の開示がなく、極めて無責任」(埼玉県の上田清司知事)と批判を強めており、調整難航は必至となっている。

 前原氏は62年、京都市生まれ。中学2年で父親を亡くし、奨学金を受けながら87年に京大法学部を卒業。松下政経塾で学び、91年に28歳で京都府議となり、93年に日本新党から衆院議員に初当選した。

 民主党中堅のホープ的存在で「凌雲会=前原グループ」(約30人)を率いる。2005年9月の代表選では、菅直人氏を破って新代表に。「永田町の郷ひろみ」などと話題となったが、翌06年の通常国会で「偽メール問題」で党を存亡の危機に立たせ、同年3月に代表を辞任した。

 民主党関係者は「前原氏は社会人経験がないまま政治の世界に入ったせいか、人心掌握面にやや難点がある。八ツ場ダムの件も、まず地元住民の話を聴いてから、ダムの治水や利水の効果、建設継続時と中止時の事業費や維持費の差などをきちんと伝えるべきだったのでは」と語る。

 「日本航空再建」の問題も大きい。

 日航は高コスト体質や世界的不況の影響で、1兆5500億円もの負債を抱えて経営危機に陥っているが、仮に日航が破たんすれば、日本の航空網や経済へのダメージは甚大だ。

 前原氏は「日航、全日空の2社体制の維持」を明言しており、24日に日航の西松遥社長を国交省に呼び、同社が月内の策定を目指している経営改善計画について説明を受けた。

 西松氏はこの席で、改正産業再生法に基づき、公的資金による出資支援を要請したが、前原氏は「具体性、実現可能性が不十分」と指摘。そのうえで、政治主導の決着に向け「腹案がある」と自信を示した。

 訪米中の鳩山由紀夫首相は25日、国際電話で前原氏と協議し、「しっかり対応してほしい」と指示。日航再建に残された時間は少なく、「国民に事実上の税金投入を納得させられるか問題だ」(同)との声もある。

 民主党マニフェストの看板事業である「高速道路無料化」も難題だ。これまでの道路建設に伴う約30兆円の有利子負債や道路の維持管理コストをどう捻出するかや、鳩山首相が国連で約束した「温室効果ガス25%削減」方針に矛盾するとの指摘もある。

 こうした三重苦について、永田町では「前原氏は反小沢の筆頭だけに、あえて厳しい場所に追いやられたのでは」(自民党筋)との見方もあるが、政治評論家の小林吉弥氏は「鳩山首相が『余人をもって代え難い』と期待している証拠だ」として、こう続ける。

 「前原氏が抱える3つの問題は国民が注視している。うまくいけば、鳩山政権を上昇気流に乗せられるが、失敗すると政権崩壊につながりかねない。前原氏は国民の理解を得るため拙速した判断を避けており、現時点では80点をつけていい」

  【前原誠司プロフィル】

生年月日  1962年4月30日

出身地   京都市

学歴    京都大学法学部卒業

      松下政経塾卒

経歴    91年に京都府議会議員に初当選

      93年に衆議院議員に初当選

             (当選6回)

政策テーマ 外交・安保と財政再建 

趣味    野球、旅行、鉄道写真撮影

座右の銘  至誠 天命に生きる

好物    鰻、たまご焼、めん類