無題

何故・・・こんな事になってしまったのだろう?

祈りの間は既に荒れ果てていた。
祭壇は神官長の血のり紅く彩られ、周囲には首を胴から切り離された騎士が転がっている。

彼女・・ニルスは金の長髪を幼さの残る可憐な顔の上に乱し、仰向けに横たわっていた。
身につけた純白のローブは所々裂け、その隙間から覗く白く伸びやかな四肢には
痛々しい裂傷と打ち身の痕がいくつも見て取れた。
国教騎士団の象徴「聖女」の証である白金のティアラは既にその額には無い。

「うっ、ぐっ・・・・」

上から肩を押さえ込まれ全身に激痛が走る。
ニルスは痛みに喘ぎながらも、自分に覆いかぶさるこの事態の元凶たる魔物を力なく見つめた。

肌は青白く耳は尖り、頭部には漆黒のいびつな角を生やしている。背には蝙蝠の翼が揺らめき、醜悪な黒

い尻尾がグネグネと蠢いていた。魔物特有の紅い瞳には冷酷さが浮かび、この状況を楽しんでいる様子が

牙の見隠れする口元の薄笑いで分かった。
だが、その金の髪、端整な顔立ち、そして我が国教騎士団の鎧。
それの意味する所は・・・

ニルスは、緑の瞳に涙を浮かべて囁いた・・・・。


「・・・・お兄・・さま・・・・・何故っ!・・」


百合じゃなくてサーセンw

声は小さかったが、魂の篭った言葉には聖女の力、光輝の力が宿った。
いくつもの小さな鈴が鳴ったような音が銀色のさざ波となって祈りの間に広がる。

ビシッ!! と音がして兄であった魔物が身を仰け反らせる。
だが、それは一瞬不快げな表情を見せただけで、何事も無かったかの様にゆっくりと見下ろしてきた。
そして・・・


「んぐむっ、んんんんんっっ!!!」


いきなり口を口で塞がれ舌を蹂躙されていた。
突然の事に動転し、聖なる力の篭る声を上げようとするが、深く深く喰い付かれ顔を逸らす事も出来ない


目を硬く閉じ涙を流して、力を振り絞り暴れるが、なんなく両手首を纏めて頭上で押さえつけられ身動き

が取れなくなってしまう。


ちゅっ・・・ぐっちゅ・・・・・ちゅっ・・・
ぐきゅ・・ちゅっぱっ・・・


舌を絡めとられ、弄られる。現実味を帯びない感覚に頭がぼおっとする。
そして、唾液を吸い上げられ、甘苦い唾液を流し込まれ、歯列をねっとりなぞられると腰から背中にかけ

てゾクゾクっと痺れた。


・・ちゅぷ・・・・ちゅっ・・・はぁ・・はぁ・・・
・・・・ん・・ちゅ・・くちゅ・・・


どれほどの時間だったか。
甘く這い上がってくる未知の感覚を追っているうちに、ニルスはいつの間にか自分から舌を絡ませていた


夢中で魔物の唾液を貪ると魔物は一旦口を離して薄笑いを更に濃くし、先ほどからローブを押し上げてい

るニルスの左のふくらみの頂点を指ではじいた。

「あぐぅっ!!」

快感の閃光に反射的に嬌声が上がる。
続けざまに反対の頂点を何度も弾かれ、嬌声と共に体がビクビクッと跳ね上がる。
体が火照り無意識のうちに腿をもじもじと擦り付けていた。
ニルスは自分の股間が熱くて、じっとりと湿り気を帯びているのが・・・分かった。


そこで初めて快感を自覚すると、激しい恥ずかしさと共に正気に戻った。
そして、今までの自分の痴態に血の気が引いた。


「い、いやっ・・・いやああああああああああっ!!!」


絶叫が祈りの間に響き渡る。
だが、その魂からの叫びに光輝の力が発揮される事は・・・無かった。

『く・・くくく・・・あはははははははははは!!』

魔物がさも嬉しそうにニルスを笑う。

『この時を・・・この時だけを待っていたぞ! ニルス!』

「お兄様・・・なぜ・・」

ニルスは呆然としながら同じ問いを投げかけていた・・・。

『なぜ?愛しい妹が、籠にいれられたまま朽ち果ててゆくのが耐えられなかったからさ。』

「そんなっ!・・・そんな事の為に神官長さまや皆さんは・・・それにその姿は・・」

『この体、・・望んだものではなかったが、私を人間のクビキから解き放ってくれたよ。
 あの方には感謝している。この力でお前を手に入れられるのだから・・・。』

一瞬伏せられた紅い瞳にたゆたう感情の欠片があったが、すぐに歓喜の色に取って代わられた。

『私との深く淫らな口付けで、お前の聖女の証、光輝の力は容易く失われた。』

信じられない宣告にニルスは呆然とする。

『さあ、私と共にゆこう・・・ニルス』

「いいえ。いいえ、出来ません!お兄さまこそ、どうか正気に戻ってくださいっ!」

『なぜだ?お前の体は既に瘴気に満ち満ちているのだ。ここに残る意味もないはず。それに・・疼くであ

ろう?』

魔物は顔を歪めて笑うと、ローブに隠れたじっとりと濡れる股間に指をぬるりと這わせる。

「っぁ・・うくっ・・・やめ・・」

かろうじて嬌声を噛締めたが、肌があわ立ち体に快感の火が灯るのを抑える事は出来なかった。
足をきつく閉じ互いをすりつけると、頬が上気し瞳がうるんだ。
魔物は嬉しそうに目を細めると喉の奥で笑う。

『くく・・我慢する事はない・・・が、そうだな・・・もう少し素直になるがいい。』


空中に手を伸べると闇が凝りだし、そこから虎ほどもありそうな漆黒の獣がするりと現れた。
その動物は形こそネコ科の猛獣の様だったが、表皮は流動的で黒いタールの様な闇の塊で出来ていた。
魔物はニルスの上から離れると、ニルスに優しく微笑んだ。人間の兄だった時のままに。

『さぁ、ニルス。こちらの世界へおいで。』

「やめて・・・お兄さま・・・いや・・やめてえええええ!!」

漆黒の獣はしなやかに跳ね上がると、ニルスへ真っ直ぐ飛び掛った。
襲い掛かられる瞬間、ギュっと目をつぶったが肉を食まれる痛みは襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、そこにおぞましいものを目撃した。

「ひっ」

胸元で黒い粘液の塊となった獣が徐々に体を覆い始めていたのだ。
純白のローブを溶かしながら、どす黒いひんやりとした粘液が薄く這うように肌を侵食してゆく。
軟体生物に這われる様な感触に怖気が走る。
反射的に手で払うと払った手に闇の粘液が感染し、その白い指を黒く染め上げていった。

「やっ、いやあああああっ!お兄さま!お兄さま助けてくださいっ!!」

身をよじりながら懇願するが、当の魔物はニヤニヤしながら語りかけてくる。

『何を恐れる?魔への転生をか?苦痛などないよ。そこにはただ快楽があるだけだ。』

「いやです!私は聖女だった者。たとえ力が消え、過去のものとなろうとその誇りだけはっ」

しかし、その強い意志の言葉を遮るように魔物が断罪する。

『だが瘴気に染まり、聖女の資格さえ無くしたお前を騎士団は許さんだろうな。汚物も醜聞も嫌う騎士団

がそれを許すはずがない。もう人間界にお前の居る場所はあるまいよ。』

「そんな・・・そんなこと・・・」

その事実が、騎士団のやり方を聖女として見てきたニルスには痛いほど分かってしまった。
国教騎士団の魔物や穢れに対する厳しいまでの処断を。
ここで起きた事は必ず白日の下に晒されてしまう・・・そして、そして自分は・・・。



目元と口元以外の全てが黒い粘液に包まれた時、それは起きた。

キチ・・ギッ・・ギュッ・・

「はうっ!!」

今まで流動的だった粘液が突然ラバー状に固まり全身を締め付けはじめたのだ。
だが、それは苦しさを与えるものではなく、むしろ快感を伴った。

「あっ・・・体がギュっていって・・こすれて・・・」

ニルスの漆黒の体はいやらしくテカリ、体をうねらせるたびに体のあちこちで高く低く摩擦音が鳴った。
その感覚と音に酔い、ニルスは快感の波が腰から這い上がり脳まで達するのを目を細めて味わう。
黒い胸の先端は硬く尖り、股間の形が、陰核までもがくっきりと浮かび上がっていた。

「はぁ・・・はぁ・・・ぁああ・・」

ニルスは四つん這いになると神聖な間の床に黒い乳首をこすりつけ舌を出してあえぎだした。

「あふっ・・・はぁっ・・・きもち、いいっ・・・」

様子を見守っていた魔物が後ろから近づき、

『仕上げだ。』

ニルスの陰核からアナルまでを強くなぞった。

ギュッ・・キュキューッ

「あぐぅっ!!!」

ニルスは尻を突き上げ、呆気なく絶頂へ達してしまった。


すると、ニルスの尾てい骨からズルリ・・・と黒く長い尻尾が生えてきた。
そして頭部にはむくむくと尖った耳が生える。指の先には鋭利な黒曜石にも似た爪が伸びた。
若草の瞳に紅く暗く灯りがともる。テラテラ濡れる赤い唇からは銀の牙が・・。
その姿はニルスに飛び掛ったあの闇の獣そのままの姿だった。

魔物は満足そうにニルスであった獣の尻を撫でる。

『お起き。』

獣は尻尾をぬらりと振るとゆっくり立ち上がり、陰惨に妖艶に微笑んだ。
その笑いにかつてのニルスの快活な笑みはかけらもなかった。

『良く似合うよ。闇猫ニルス。』

闇猫は嬉しそうに魔物に体をすりつける。
胸を鷲掴みにしてやると甘えた声を出して喘いだ。

「んふぁ・・はぁはぁ・・お兄さまぁ・・・もっといじってぇ・・」

魔物は苦笑し闇猫を四つん這いにさせると、愛液で濡れそぼる割れ目へ己の巨大で醜悪なペニスをあてが

った。

「ぁあ・・熱いわぁ、お願い・・早くくださいっ!!」

『これは契約だ。お前はこれから私のしもべとなるのだ。』

「ぁう・・・はいぃ、お兄さまぁ。闇猫ニルスはお兄さまだけの飼い猫となりますぅ。」

『永遠に』

「永遠に!」

それより一年後、国教騎士団は一匹の魔物とそれに付き従う闇の獣によって滅んだ。
その獣は、聖女の光輝の力に似た呪詛の力で人間を淫夢に誘い、全ての者を片っ端から淫魔に変えてしまったという。
そして、かろうじて生き延びた者は言う。獣は聖女ニルスに似ていた・・と。

おわり