language
お知らせ
現状レポート
八ッ場ダムとは
八ッ場ダム計画の問題点
地域の再生
八ッ場あしたの会について
参考図書・リンク
サイト内検索
|
八ッ場ダムについて流されている情報の誤りについて(2009年9月17日)
I.八ッ場ダムを中止した方が高くつくという話の誤り
II.八ッ場ダムはすでに7割もできているという話の誤りについて III.八ッ場ダムの暫定水利権がダム中止に伴って失われるという話の誤り IV.大渇水到来のために八ッ場ダムが必要だという話の誤り V.八ッ場ダムは利根川の治水対策として重要という話の誤り VI.ダム予定地の生活再建と地域の再生について I.八ッ場ダムを中止した方が高くつくという話の誤り1.八ッ場ダムを中止した方がはるかに安上がり(1) 事業費の再増額は必至
(2) 継続した場合と中止した場合の今後の事業費の比較八ッ場ダム事業を継続した場合は上述の要因によって1000億円程度の事業費増額が必要となると予想される。仮に1000億円とすれば、八ッ場ダム建設事業の今後の公金支出額は残事業費1390億円+1000億円=2390億円となる。 一方、中止した場合の必要事業費は国交省が示す生活関連の残事業費770億円程度である。 したがって、中止した方が差引き1620億円も公金支出を減らすことができる。 2.利水負担金の返還について(1)利水負担金についての正しい話
(2)利水負担金を仮に返還した場合は?
(3)利水者負担金の返還は公会計内の話しかし、利水者負担金の返還は公会計内での国と地方の負担割合のことであって、公金支出額の総額、すなわち、国民の負担額が変わるわけではないから、本質的な問題ではない。 1で述べたとおり、ダムを中止した方が、公金支出額がはるかに小さくなるのであって、広い視点から見て無駄な公費の支出をなくすため、ダムの中止が必要である。
治水分の直轄負担金について
関係都県は利水負担金の他に八ッ場ダム事業の治水分として平成20年度までに526億円負担してきているが、これは河川法に基づく直轄事業負担金であって(ダムの場合は3割負担)、返還するような法的な根拠は何もないから、返還を求められるものではない。これは橋下徹大阪府知事が問題視した直轄事業負担金である。今まで道路等などの直轄公共事業が中止されても返還されたことはなく、八ッ場ダムの中止についてもしこの返還の話が出れば、今までに中止した直轄公共事業の全部に波及することになるから、国交省はこのことには触れることはできない。 II.八ッ場ダムはすでに7割もできているという話の誤りについて1.工事の進捗は大幅に遅れている7割というのは、八ッ場ダム建設事業の事業費4600億円のうち、7割が平成20年度までに使われたということであって、工事の進捗率とは全く別物である。本体工事は未着手である。関連事業のうち、規模が大きいものは付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成であるが、平成20年度末の完成部分の割合はそれぞれ6%、2%、75%、10%であり、まだまだ多くの工事が残されている。付替鉄道は75%まで行っているとはいえ、新・川原湯温泉駅付近は用地未買収のところがあって、工事の大半はこれからであるから、完成までの道のりは遠い。 2.完成が平成27年度末よりも大幅に遅れることは必至八ッ場ダムの完成予定は平成27年度末で、今年度後半から本体工事着手となっているが、実際の完成は大幅に遅れる可能性が高い。八ッ場ダムの場合、ダムサイト予定地を国道と鉄道が通過しているので、付替国道、付替鉄道を完成させ、現国道と現鉄道を廃止しないと、本格的なダム本体工事をはじめることができない。この付替国道、付替鉄道の工事が用地買収や地質の問題で大幅に遅れているので、事業が継続されても、ダムの完成は平成27年度末より大分先になることは確実である。 III.八ッ場ダムの暫定水利権がダム中止に伴って失われるという話の誤り1.八ッ場ダムの暫定水利権は長年の取水実績があり、支障を来たしたことがない。八ッ場ダムの暫定水利権とは、八ッ場ダムの先取りの水利権として暫定的に許可された水利権のことで、そのほとんどを占めるのが埼玉県や群馬県などの農業用水転用水利権の冬期の取水である。農業用水を転用した水利権であるから、冬期は権利がないとされ、八ッ場ダム事業への参加で冬期の水利権を得ることが求められている。しかし、これらの農業用水転用水利権は夏期も冬期も長年の取水実績がある。古いものは37年間も取水し続けている。その間、冬期の取水に支障を来たしことがない。 2.利根川の冬期は取水量が激減するので、水利用の面で余裕がある。利根川の冬期は夏期よりも流量が少ないが(冬期の晴天日の流量は夏期の6割程度)、農業用水の取水量が激減するので(冬期の都市・農業用水の全取水量は夏期の3割程度、左下の図)、水利用の面でも十分な余裕がある。それを反映して、利根川では冬期の渇水はきわめてまれである。過去において冬期に取水制限が行われたのは平成8年と9年の冬だけである。その取水制限率は10%であって、ほとんど自主節水にとどまっており、生活への影響は皆無であった。平成8、9年当時と比べて現在は首都圏の保有水源が増えていることと、取水量が減少してきていることもあり(右下の図)、八ッ場ダムなどなくても、埼玉県水道等の農業用水転用水利権が冬期の取水を続けることに何の問題もない。 3.ダム中止後も継続される暫定水利権今まで数多くのダムが中止されてきている。その中には、中止されたダムの完成を前提とした暫定水利権がそのダムの利水予定者に許可されていたケースがあるが、ダム中止後にその暫定水利権が消失することはなく、そのままの使用が認められている。具体的な例としては、徳島県の細川内ダムや新潟県の清津川ダムがある。両ダムとも国土交通省のダムである。八ッ場ダムの暫定水利権がダム中止後、使用できなくなることは決してない。
4.埼玉県民の過重負担
5.水利権の許可権をダム建設推進の手段に使う国交省上述のとおり、八ッ場ダムの暫定水利権は、八ッ場ダムがなくても取水し続けることが可能なのであるから、安定水利権として認めればよいのだが、利根川の水利権許可権者は国交省で、八ッ場ダム建設の事業者も同じ国交省である。国交省は水利権許可権をダム事業推進の手段に使っていると言ってよい。実態に合わない非合理的な水利権許可行政を根本から改める必要がある。 IV.大渇水到来のために八ッ場ダムが必要だという話の誤り大渇水到来の話は八ッ場ダムには直結せず石原慎太郎東京都知事は「異常気象が深刻化しており、日本だって、いつ干ばつにさらされるか分からない」から八ッ場ダムを必要だと語っているが、これは八ッ場ダムについての知識を持たないことによる発言である。 八ッ場ダムはそれほど大きなダムではなく、夏期は洪水調節のため、水位を下げるので、利水容量は2500万m3しかない。一方、利根川水系にはすでに11基のダムがあって、それらの夏期利水容量は合計では4億3329万m3あるから、八ッ場ダムができても、約5%増えるだけである。 渇水が起きることがあるのはほとんど夏期であるから、夏期の利水容量が重要であるが、八ッ場ダムはその容量が小さいダムなのである。 大渇水が来るという話自体が現実性のない話であるが、そのことはさておき、八ッ場ダムが完成しても、利根川水系ダムの状況が現状とそれほど変わるわけではないから、都知事の発言は完全にピント外れである。 V.八ッ場ダムは利根川の治水対策として重要という話の誤り1.八ッ場ダムの治水効果はわずかで、治水対策として意味を持たない。(1)カスリーン台風再来時の八ッ場ダムの治水効果はゼロ
(2)過去50年間で最大の洪水における八ッ場ダムの治水効果はわずかなもの最近50年間で最大の洪水は平成10年9月洪水で、八斗島地点のピーク流量は9,220m3/秒であった。昭和56年から八ッ場ダム予定地に近い岩島地点で流量観測が行われているので、実際の観測値から八ッ場ダムの治水効果を知ることができる。 同洪水について八ッ場ダムの効果が最も大きくなる条件で求めた結果が図1である。八斗島地点における八ッ場ダムの水位低減効果は最大13cmで(実際には8cm程度)、そのときの水位は堤防の天端から4m以上も下にあった。八ッ場ダムがあったとしても、この洪水においては何の意味もなかった。 また、図2は堤防の天端と同洪水の痕跡水位(最高水位の痕跡)を八斗島地点から栗橋地点(埼玉県)までの区間について示したものである。どの地点とも痕跡水位は堤防天端から約4m下にあるので、八ッ場ダムによるわずかな水位の低下が意味のないものであることは明らかである。 このように利根川はほとんどのところで大きな洪水を流下できる河道断面積がすでに確保されているから、八ッ場ダムのわずかな治水効果は意味を持たない。 2.ダム建設のために後回しにされる河川改修(1)破堤の危険性をはらむ利根川の堤防堤防は何度も改修を重ねてきたため、十分な強度が確保されているとは限らない。洪水時に河川の水位が高い状態が維持されると、水の浸透で堤体がゆるんで堤防が崩れたり(すべり破壊)、あるいは堤防にみず道が形成されて堤防が崩壊したりする(パイピング破壊)危険性がある。 国土交通省が利根川の堤防の安全度を調査した結果を情報公開請求で入手して、整理した結果の一例を図3に示す。利根川中上流部の右岸は、すべり破壊・パイピング破壊の安全度が1を大きく下回って破堤の危険性がある堤防が随所にあることがわかる。利根川の他の区間も同じような状況である。 (2)河川改修の事業費が急減
VI.ダム予定地の生活再建と地域の再生について1.地元の町とダム予定地からの反発八ッ場ダムの中止に対して、地元の町とダム予定地から次のように強い反発が出されている。 「地元はダム事業に多大な犠牲を払って協力してきた。ダムの完成は地元との約束である。中止となれば、地元住民は途方に暮れ、観光再建計画でも再度ゼロからの再考を余儀なくされ、ダメージは計り知れない。」 ダム予定地では、多くの人々が代替地への移転、補償金など、ダムを前提として生活設計を立てざるをえない状況が長く続いてきたため、ダムの中止はその生活設計を白紙に戻し、地元の人たちを苦境に追い込みかねず、この反発は当然のことである。3で述べるように八ッ場ダムの中止に当たっては、水没予定地の人たちの生活を立て直し、地域を再生させるため、政治の真摯な取り組みが求められる。 2.ダム事業を進めても地元の活気は取り戻せないただ、留意すべきは、このままダム事業を進めても、人口の激減で活性が大きく失われてきているダム予定地が再び活気を取り戻すことはきわめて困難だということである。 (1)八ッ場ダム湖は観光資源にならない。
(2)美しい吾妻渓谷の喪失吾妻渓谷は八ッ場ダムができると、その上流部は破壊されるか、ダム湖の底に沈んでしまうが、残される中下流部の渓谷も今の美しさを失ってしまう。岩肌の美しさは時折洪水が起こることによってその表面が洗われ、現在の景観が維持されているから、ダムが洪水を貯留するようになると、下久保ダム(群馬県藤岡市)直下の三波(さんば)石峡(せききょう)のように岩肌をコケが覆い、草木が生い茂って様相が大きく変わってしまう。 (3)ダム湖による地すべり発生の危険性八ッ場ダム予定地の周辺は地質が脆弱なところが多いので、ダムができてダム湖から水が浸透し、湖水位が大きく上下すると、地すべりが起きることが予想される。川原湯の代替地の一つである上湯原地区(川原湯温泉新駅予定地周辺)は面積では最大の地すべり危険地区である。ダムができれば、ダム湖予定地周辺の住民は地すべり発生の危険性をいつも心配しなければならない日々を送る可能性が高い。 以上のことを考え合わせると、このままダム事業を進めても、ダム予定地が観光地として活気を取り戻し、人々が経済的にも精神的にも安定した生活を送ることはむずかしいと考えざるをえない。 3.ダム中止後こそ、真の地域再生を(1)ダム中止後の生活再建支援法案の制定ダム中止後は、今まで国土交通省や県が示してきた絵空事ではなく、吾妻渓谷などの自然を観光資源として活かして着実に地域を再生する道筋を考えなければならない。 生活再建と地域振興、それらを進めるためには、そのことを制度的に可能にする法律の制定が必要である。 民主党は今年5月20日に「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案(仮称)骨子案」を発表し、パブリックコメントの募集を行った。その骨子案では、国、都道府県、市町村、住民で地域振興協議会を組織した上で、そこでの協議を経て、都道府県が地域振興計画を作成し、その計画に基づく事業が国の交付金で実施されることになっている。今後の法案化の段階で具体的な内容が加えられていくであろうが、何よりも大事なことは地元住民の意向に基づいて生活再建・地域振興の計画が策定されなければならないということである。そのためには、地元住民の合意形成が必須条件であることが法律に明記される必要がある。 (2)生活再建、地域再生のためのきめ細かな取り組みを!このような法律に基づき、老朽化した家屋・建物の新改築、生活再建のための物心両面の支援措置、衰退した地域の基幹産業を再生させる支援プログラムの推進、移転した人たちを呼び戻すための既買収地の譲渡など、地域を再生させるための様々な取り組みがされていかなければならない。それは、不要なダム計画の推進で地元を半世紀以上も苦しめてきた国と群馬県、さらに、ダム計画を後押ししてきた下流都県の責任の下に行われるべきものである。
|