きょうの社説 2009年10月2日

◎日銀の「北陸短観」 改善でも消えぬ不透明感
 9月の「日銀短観」は、2期連続の改善を示しながらも、景気回復の手応えに乏しく、 企業や家計のマインドは、むしろ後退の兆しが見える。石川、富山、福井3県の「北陸短観」にも似た状況がうかがえ、特に急速な円高や雇用環境の悪化が暗い影を落としている。目先の数値は多少良くなったとはいえ、先行きの不透明感はより高まったと言えるのではないか。

 日銀短観が示す企業の景況感は大幅に持ち直している。景気が「良い」と答えた企業の 割合から「悪い」と回答した企業の割合を引いて算出する業況判断指数は、北陸3県の全産業で、前回6月のマイナス55からマイナス45へと改善し、先行きもマイナス39と一段の改善の方向である。

 ただ、2年9カ月ぶりの改善だけに、底の底まで下がり続けて、ようやくリバウンドし たという印象が強い。それを象徴するのは、北陸企業の設備投資の鈍さである。今年度の計画は全産業で前年度比32・1%減と、全国平均の17・3%減を大きく上回っている。特に輸送用機械、一般機械、建設、卸売りの分野が50%超の落ち込みになっており、主要産業の元気のなさが目立つ。

 もう一点は、雇用の過剰感である。雇用について「過剰」と答えた企業の割合から「不 足」と回答した企業の割合を引いて算出する雇用人員判断は、プラス25と全国平均の同20を上回っている。資金繰りを苦しいと感じる企業の割合も全国平均を5ポイント上回り、北陸経済の苦境ぶりを映し出している。雇用環境の悪化は、家計への影響が大きいだけに不安は尽きない。

 しかも最近の急激な円高は、短観の調査にほとんど反映されていない。1ドル=90円 を割り込む水準が続けば、企業業績はもとより設備投資や雇用にも影響してくるだろう。輸送機械、一般機械、携帯電話や薄型テレビ向けの電子部品・デバイス、自動車内装材など輸出に強みを持つ製造業の多い北陸には特に頭の痛い問題だ。

 市場では、年度後半の二番底懸念がささやかれている。鳩山政権の経済運営にもいよい よ「黄色信号」がともり始めた。

◎天下り禁止 急がれる全体の制度設計
 鳩山内閣が各省庁による「天下り」あっせんと、官僚OBの独立行政法人などへの再就 職禁止の方針を閣議決定し、すでに内定していた一部の人事に「待った」をかけた。天下り根絶へ向けた鳩山内閣の不退転の決意を示したかたちだが、天下りの背景にある早期退職勧奨制度の是正や、定年まで勤めることを前提にした人事・給与システムの在り方など、抜本的解決へ向けた環境整備は手つかずのままである。

 霞が関が長年にわたって築き上げてきた人事システムの固い岩盤を崩すのは容易でなく 、麻生政権時代は官僚に足元を見透かされ、公務員制度改革の道筋を描くには至らなかった。これからは民主党の支持基盤である公務員労組の抵抗も予想され、実現へ向けては自民党政権とは違った困難さが伴う。鳩山内閣は来年の通常国会に関連法案を提出する予定だが、改革が中途半端に終わらぬよう全体の制度設計を急ぐ必要がある。

 民主党は政権公約で「国家公務員の天下りあっせんの全面禁止」を掲げた。10月1日 付人事の一部を凍結し、公募選考に代えたのは公約との整合性を取るための苦肉の策ともいえる。

 天下りが問題なのは、中央省庁の関連法人にOBが指定席のように座り、そこへ流れる 国の支出が無駄遣いの温床になりやすいからである。役員の高額報酬や随意契約の多さなども指摘されてきた。再就職の受け皿のような役割しかなく、必要性の乏しい公益法人の整理も大きな課題である。

 民主党の公約には「国家公務員総人件費の2割削減」もある。早期退職勧奨を廃止すれ ば人件費の大幅増は避けられない。給与引き下げや役職定年制などの仕組みも検討対象になるとみられるが、その場合、組合を納得させられるかどうかが改革の試金石となる。

 公務員制度改革はそれこそ百年に一度の大仕事であり、鳩山首相の強いリーダーシップ なくして実現しない。制度の悪弊を一掃するだけでなく、公務員の士気を高め、その能力を最大限に生かせるような組織体系にできるかどうか。それが霞が関改革の本質でもある。