司法が救ったポニョの里!宮崎監督も「勇気に敬意」
埋め立て架橋事業に差し止め判決が出された広島県福山市の鞆の浦
Photo By 共同 |
映画「崖の上のポニョ」の舞台とされる瀬戸内海の景勝地・鞆(とも)の浦(広島県福山市)の埋め立て架橋事業をめぐり、反対派住民らが知事の埋め立て免許差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁は1日、免許差し止めを命じた。景観保護を理由に公共工事を差し止めた司法判断は初めて。映画の宮崎駿監督(68)は「とてもいい判決。裁判官の勇気に敬意を表します」などと話した。県側は「到底承服できない」と不満を表明しているが、前原誠司国土交通相は当面、事業認可しない考えだ。
判決を受け、宮崎監督は東京都小金井市の「スタジオジブリ」で記者会見。「とてもいい判決。鞆の浦の問題だけでなく、今後の日本をどうしていくかを考えるときに、大きなよい一歩を踏み出した。大変な文化財を破壊するのに、準備も計画もずさんだと(指摘した)非常に的を射た判決だと思う。裁判官の勇気に敬意を表します」と笑顔で語った。
宮崎監督は、04年にスタジオジブリの社員旅行で鞆の浦を初めて訪れた。福山市南部の半島に位置し、小高い山並みと島々に挟まれた、円弧を描く湾が美しい景勝地。万葉集に大伴旅人が詠んだ歌が残されている。監督も気に入り、翌05年2月から約2カ月間、崖の上に建っていた民家を借りて滞在。バスに乗ったり、歩き回りながら映画の構想を練った。作品には、湾に浮かぶ漁船や高台に建つ民家など、鞆の浦をモデルにしたシーンが数多く登場する。
宮崎監督は「開発でケリがつく時代は終わった。公共工事で劇的に変わるという幻想や錯覚を振りまくのはもうやめた方がいい。オリンピックをやればなんとかなるなどと、問題を単純化してはいけない」と指摘。「不便だから町に愛着がわくものだ。日本全体が落ち着いた住みやすい場所になるように考えなければならない」と訴えた。広島県の控訴の可能性については「言う立場にないが、税金の無駄遣いになるから控訴しない方がいい」と述べた。
映画公開以降、鞆の浦を訪れる観光客は増加。福山市によると、08年の観光客数は前年比2・3%増の175万1000人。1〜6月は前年の9割ほどだったが、映画の上映が始まった7月は前年同月比6・0%増の16万人で、8月は同26・0%増の16万5000人を記録。福山市全体の観光客数が減少する中、鞆の浦は観光客数を伸ばしているという。
広島地裁は「鞆の浦の文化的、歴史的景観は住民だけでなく国民の財産というべき公益で、事業で重大な損害の恐れがある」と免許差し止めを命じた。景観をめぐる訴訟は、高層建築物の差し止めなど民間同士が当事者となるケースが多く、公共事業の差し止めを命じたのは初めて。県と市の計画策定から26年になる鞆の浦の事業は見直しを迫られることになる。
▼鞆の浦(とものうら) 江戸時代は朝鮮通信使の経路となるなど、貿易港として栄えた。1925年に名勝「鞆公園」に認定され、34年には日本初の国立公園の1つに指定。埋め立て架橋は広島県と福山市が交通渋滞解消や下水道整備のため83年に計画策定。港の一部約2ヘクタールを埋め立て、約180メートルの橋を架ける事業で、排水権者の全員同意が得られずにいったん凍結。推進派の現市長が07年1月測量に着手し、反対派住民は免許差し止めを求め同4月、広島地裁に提訴。市は翌月埋め立て免許を出願、県は08年6月、国に認可申請した。
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