ヤン・シュヴァンクマイエルが『肉片の恋』に続いて、MTVのために作った作品。 【物語】 顔と手以外が、野菜でできた人物がベッドに拘束されている。体の一部である野菜はみるみる朽ちていくが、もはや彼女(?)の意思ではどうにもできない。彼女は、すぐ近くにあるけれど届かないコップの水を、ただうらめしそうに見つめるだけだった。 『肉片の恋』が多少なりとも音楽が絡んだ作品だったのに対し、『フローラ』では雑踏の音しか聞こえません。しかも、トータルでたった30秒の作品です。 あんまり短すぎて、この作品にはどんな意味があるのだろうかといろいろ考えてしまうのですが、例えばこんな解釈はどうでしょうか―― ・『肉片の恋』が肉を扱った作品だったので、次は野菜で作品を作ってみた。 ・この女性は“すぐそばにあるのに手が届かない状態におかれた何か”のメタファーで、自由が制約されていた時代のチェコとか、その当時のシュヴァンクマイエル自身であるとか、あるいは、「若さ一般」に関してとか、……。 この次に作られた作品が『スターリン主義の死』というのも何だか意味深ですね。 欲望の対象がすぐそばにあるのに手がとどかない状況というのは、シュヴァンクマイエル作品では意外と少なく、むしろ、欲望のおもむくままに行動し、欲望が導いた“醜悪な結果”を見せるのがシュヴァンクマイエル作品だ、と言えるかもしれません。 ・アルチンボルド的人物を、ストップ・モーション・アニメーションで動かしてみたかった。アルチンボルド的人物が戦って粉々になったり、相手に呑み込まれたりするのは、『対話の可能性』でもうやってしまったので、今度はちょっと趣向を変えてみた。 ・ピーター・グリーナウェイの『ZOO』(1985)に対するシュヴァンクマイエル的な回答。 『ZOO』のモデルはブラザーズ・クエイであり、ブラザーズ・クエイがシュヴァンクマイエルを敬愛しているのはよく知られていることなので、シュヴァンクマイエルが『ZOO』を知って、意識していたとしても不思議ではありません。 ◆作品データ 1989年/米/30秒 台詞なし/字幕なし アニメーション *この作品は、DVD『シュヴァンクマイエル短篇集』に収録されています。 *この作品を他の誰かにも教えてあげたいと思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓ ↓ ◆監督について ヤン・シュヴァンクマイエル 1934年 プラハ生まれ。 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。 1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。 国際的な評価としては― カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒 ・1965年 『石のゲーム』 9分 ・1966年 『棺の家』 10分19秒 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒 ・1968年 『庭園』 16分50秒 ・1968年 『部屋』 13分05秒 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒 ・1973−79年 『オトラントの城』 17分57秒 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒 ・1987年 『アリス』 84分30秒 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒 ・1989年 『フローラ』 30秒 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒 ・1992年 『フード』 17分 ・1994年 『ファウスト』 96分 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒 ・2000年 『オテサーネク』 127分 ・2006年 『ルナシー』 123分 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! |
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