歌舞伎座の10月公演が1日、始まった。尾上菊五郎が昼の部で「音羽嶽(おとわがたけ)だんまり」の音羽夜叉(やしゃ)五郎、夜の部で「義経千本桜」の「吉野山」「川連(かわつら)法眼館」の佐藤忠信と狐(きつね)忠信を演じている。
佐藤忠信は源義経の忠臣。兄の頼朝に疎まれて逃亡する義経は、恋人の静御前を忠信に託すが、その忠信は実はそっくりに化けたキツネであった。それと知らない静御前は忠信と道行(「吉野山」)をする。
静御前は義経の隠れ住む「川連法眼館」に到着。だが、いつの間にか忠信は姿を消す。館には本物の忠信がいた。静御前が義経に命じられて鼓を打つと、もう一人の忠信が現れ、自分は鼓に張られた雌雄のキツネの子であると語る。
菊五郎は「『吉野山』を踊ってすぐに『四の切(川連法眼館)』をするのは国立劇場の『歌舞伎鑑賞教室』(1980年)でつとめて以来。『吉野山』は道行ですから、ウキウキとした感じが出ないと。曲がいいので、踊っていても楽しさがありますね」
「川連法眼館」は本物の忠信と狐忠信の2役の演じ分けが見どころ。初演では二代目尾上松緑に教わった。
「キツネのきぐるみになってからの方が楽です。袴(はかま)をつけて静御前とやりとりをするあたりが大変です。袴の裾(すそ)をポンと跳ね上げたり、きれいに垂らしたり。体に合わせて衣装を作ります」
「音羽嶽」は、大勢の人物が暗闇の中で宝物などの探り合いをする歌舞伎独特の「だんまり」の一幕。菊五郎が親代わりをつとめてきた尾上松緑の長男で3歳の藤間大河の初お目見得の舞台だ。
「菊五郎劇団に役者が一人増える。おめでたいですよね」
25日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年10月1日 東京夕刊