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エコナビ2009:円高一時88円台 藤井発言で「買い」 米の超低金利も影響

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 28日の東京外国為替市場は一時、1ドル=88円台前半まで上昇し、輸出企業の業績悪化懸念から日経平均株価は一時9971円05銭と1万円を割り込んだ。米国の超低金利の長期化観測とともに、藤井裕久財務相が円安政策には踏み込まない姿勢を示したことが円買いに拍車をかけた。市場では「金融危機後の円の最高値(1ドル=87円10銭)を試す展開になる」との見方が強く、輸出依存の日本経済に重しとなりかねない。【小倉祥徳、工藤昭久】

 円相場が急騰した28日午前、藤井財務相は記者団に「今は異常でも何でもない」と語った。藤井財務相は24日のガイトナー米財務長官との会談でも「円安政策は採らない。為替は不介入が原則」と発言、市場では「財務相が『円高容認』とも受け止められる姿勢をあえて示した影響は大きい」(邦銀ディーラー)との見方が広がり、投機筋の円買いに格好の材料を与えた。

 そもそも、米国では失業率が高止まりするなど先行きに不安を抱え、景気刺激策を継続する必要性が指摘されていた。市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が超低金利政策を長期化させるとの観測が強まり、ドル売りが続いていた。さらに前週末の主要20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で、世界経済が米国消費に依存する「不均衡」の是正に取り組む姿勢を示したため、「米経常赤字解消のためのドル安・円高につながりやすい」(三井住友銀行の宇野大介氏)。

 民主党の「生活者重視」のスタンスも財務相発言を円高容認と受け止めやすい土壌を形成している。円高で輸入価格が下落すれば、家計の購買力改善につながるとの見方からで、市場が財務相発言に敏感に反応したのはそのためだ。

 ただ、急激な円高が輸出企業の業績を圧迫し、賃金抑制などを通じて消費にも悪影響が生じかねない。野村証券金融経済研究所は「国内製品のコストに占める輸入価格の割合は小さく、円高の物価への波及効果は限定的。むしろ円高進行時には消費が抑制されやすい」と分析する。

 午後になって藤井財務相が「円高是認とは言っていない。ドル円相場は一方向に偏っている」と発言を修正すると円高進行は一服し、午後5時時点は1ドル=89円56~57銭。日経平均も1万9円52銭まで戻し取引を終えた。ただし、市場は「政府が介入に消極的な立場を変えたとまでは受け止めていない」(野村証券の海津政信氏)ため投機的な円買いが進む可能性もある。

 ◇80円台前半、予測も

 市場では、年末までは円高基調で推移するとの見通しが広がり、1ドル=80円台前半の水準まで円高が進むとの予測もある。輸出企業の業績悪化懸念から株価も圧迫されそうだ。

 三井住友銀行の宇野大介氏は「世界経済は今後、二番底へ向かう。日本の金融システムは相対的に安定しているため、消去法で円が買われる展開になる」と予測する。米国で失業率悪化に歯止めがかかり、利上げが現実味を帯びる局面になれば、ドルに買い戻しが入るが、その可能性が出てくるのは「来年3月ごろ」(三菱東京UFJ銀行の高島修氏)。年内は円高・ドル安の流れが定着しそうだ。

 野村証券の海津政信氏は「1ドル=85円まで円高が進むと輸出企業の業績に足かせとなり、日経平均は9500円まで下落する可能性がある」と指摘。日経平均は1万円を挟んだ水準で推移するとの予測が大勢だ。ただ、「欧米経済が厳しい中、円資産は比較的買われるため日本株売りは限定的」(宇野氏)といった観測から、再び9000円を割り込むという悲観論は少ない。

 ◇経団連会長、静観の構え「ドル安の裏返し」

 日本経団連の御手洗冨士夫会長は28日の会見で、円相場が一時1ドル=88円台前半まで上昇したことについて「輸出企業に限ればこれ以上円高が進めばインパクトがあるが、今の状況ではそんなに変わらない」と述べ、市場の動きを静観する考えを示した。

 円高の要因について「米国経済の回復の遅れを背景にしたドル安の裏返し」と指摘。藤井裕久財務相の円高容認とも受け取れる発言に関しては「為替政策の変更とは受け取れない」と話し、相場の動きとは無関係との考えを示した。【三沢耕平】

毎日新聞 2009年9月29日 東京朝刊

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