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きょうの社説 2009年10月1日
◎烏山頭の世界遺産運動 金沢から応援の声届けたい
金沢出身の八田與一(よいち)技師が建設に尽力した烏山頭(うさんとう)ダムを世界
遺産に登録する運動が台湾で本格化する。登録申請を求める学者や市民団体が署名活動に本腰を入れ、12月末までに20万人分を集めて、台湾の立法院(国会)に提出する予定である。地道な民間交流からスタートした八田技師を通じた金沢と台湾とのきずなは、現地での 記念公園整備や児童生徒の訪問などますます深まっている。世界遺産登録を目指す活動は八田技師の功績を見つめ直し、新たな交流が芽吹く好機といえる。金沢からも応援の声を台湾に届けたい。 八田技師を描いたアニメ映画「パッテンライ!!」がきっかけとなって、台湾全体で八 田技師への関心が高まっている。署名運動はこの動きを受けたもので、11月には映画の舞台となった台南県で上映し、馬英九総統も鑑賞する予定である。各地で共感を呼んだ「パッテンライ!!」は今年の「ジャパンテント」でも上映され、広い視野と不屈の精神を持った八田技師の姿が留学生の心をとらえた。さらに台湾での上映の機会が増えれば、一層の知名度アップと運動の盛り上がりにつながるだろう。 金沢からの応援策としては、外国人宿泊者のなかで最多の台湾からの観光客に対して、 八田技師の功績や交流の様子を積極的に発信していきたい。金沢観光のなかに、八田技師を顕彰する金沢ふるさと偉人館訪問や人物紹介のパンフレット配布などをこれまで以上に取り入れて、台湾の人々に地元金沢の八田技師に寄せる思いを伝えることができれば、運動推進の一助になるのではないか。 会見によると、署名活動は参加団体、大学、インターネットを通じて行い、今後日本で も署名の輪を広げる必要性を指摘した。側面からの後押しもしていきたい。この夏、台湾に大きな被害をもたらした台風にも烏山頭ダムは耐え、現在も台湾の人々の暮らしを支える大事な遺産であることがあらためて証明された。世界遺産登録へのハードルは高いとみられているが、この取り組みが次代の友好につながる大きな一歩となることを期待したい。
◎建国60年の中国 「覚めた目」を失わずに
中国が建国60周年を迎えた。その節目の年に政権交代を果たした鳩山由紀夫首相は、
胡錦濤主席との会談で「東アジア共同体」構想を提案し、新たな対中外交をスタートさせた。この30年間の改革・開放政策で世界市場を左右する経済大国に成長した中国と良好な関係を築くことは、日本にとって今や死活的といえるほど重要である。ただ、漠然とした共同体構想や「東シナ海を友愛の海に」といった内実を伴わない言葉だけが先行している鳩山外交に心もとなさも覚える。市場経済を導入した中国共産党は著しく変質し、正統な社会主義にふたをして、開発主 義とナショナリズムをより所にしているといわれる。それでも「複数の政党による政権交代や三権分立は絶対にやらない」と一党支配体制の堅持を高らかにうたっている。 東シナ海などにおける中国海軍の活動は覇権主義を感じさせ、ガス田共同開発の政府合 意も、うかうかしているとほごにされかねない危うさがある。友愛の理念はよしとしても、中国に対して覚めた目を失ってはなるまい。 中国経済の成長ぶりはまさに驚異的で、2000年に日本の3分の1に満たなかった国 内総生産(GDP)は、今年か来年には日本を抜いて世界第2位に浮上する勢いである。経済の相互依存関係は深まるばかりであり、日本にとって中国は既に米国を上回る貿易相手国になっている。 改革・開放政策による高度成長の一方で、国民の格差拡大などの社会矛盾も深刻化して いる。発展から取り残された内陸部や農村では、地方政府の腐敗もあって住民の不満が高まり、暴動や集団抗議行動が相次いでいる。少数民族の人権問題や民主化の遅れに対する国際社会の批判も絶えない。中国の経済社会の不安定要素への冷静な目配りも必要である。 鳩山政権は「対等」な日米関係を強調するが、そのことは対中外交にも当てはまる。歴 史問題に萎縮せず、尖閣諸島の領有権や軍事費の透明化、核兵器削減、民主化の推進など、中国にしっかり物を申す外交を求めたい。
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