「素敵な宇宙船地球号」毎週日曜よる11時放送

[第475回] 4月29日 23:30〜24:00放送
「故郷が砂漠になる日」 〜知られざる黄砂のナゾ〜
↑予告動画がご覧いただけます。


 春、中国に吹き荒れる黄砂。風物詩のようにいわれたのは昔の話、今や人の命まで脅かすものとなり、日本まで飛来するそのルートや発生場所にも変化が表れているといいます。いま何が起きているのでしょうか。
 中国・黄土高原は昔から、4月になると数日おきに黄砂が起こる場所です。風速30メートル、真昼でも太陽を拝むことができないほど視界を遮る黄砂は、その日の夕方には中国全土を襲い、丸一日後には西日本を中心に日本でも観測されます。
 長年黄砂を研究している、酪農学園大学(北海道札幌市)のブホー・オーツル准教授が注目しているのは、数年前から北海道でも黄砂が観測されることと、故郷の内モンゴルで草原と砂漠がモザイクのように入り組んだ衛星画像が撮影されたこと。黄砂の発生地域が従来のタクラマカン砂漠や黄土高原から内モンゴルに移動し、それが北海道へ運ばれているというのです。
 黄砂が発生する4月、先生は故郷の村まで、北海道に届く黄砂の謎を調べる旅に出ました。しかし、途中、草原の真ん中にあるはずの村で、屋根が地面と同じ高さになるまで砂に埋もれた光景に出くわしました。すると、遊牧民のいた大草原が鉄条網の柵で遮られていたのです。土地が個人所有になれば生産力が高まると、遊牧民に分配するために作られたこの柵により、移動を制限された家畜は草を根こそぎ食べるようになり、さらに収入を増やすための過放牧が柵の中の砂漠化を加速させました。草原を砂漠にする元凶は柵だと先生は考えましたが、政府は遊牧が原因と断定、遊牧が禁止される草原まで現れ始めました。
 町のパルプ工場から流れる排水で一面枯れ果てた草原もありました。このまま乾燥して黄砂が発生する砂漠となれば、その汚染物質も一緒に巻き上げられ、さらに大気中の汚染物質と反応し、人体への影響がある危険な黄砂が日本に飛来するようになってしまいます。
 久しぶりの先生の帰省は、家族に会えた喜びと、一変した風景を見た悲しみの両方を味わう旅となってしまいました。故郷の遊牧民は村を作って定住し、草原を開墾して農業を始めていました。しかし草原は砂の層に数センチしかない薄い皮膚のようなもので、開墾によってはがされると砂漠のようになってしまうのです。草原を耕してはならないことは、遊牧民なら誰もが知っている長老たちの教え。生活のため、砂地でも育つマメ類やトウモロコシを植える先生の兄たちも複雑な気持ちでしょう。先生は遊牧民を集め、北海道まで飛ぶ黄砂がこの大草原から発生しているという事実を話し始めました。真剣に耳を傾ける彼らに、20家族、100家族で力を合わせて広い土地を作り、自由に遊牧しようと呼びかけます。家畜が新鮮な草だけを求めて移動を続け、大草原と共生してきたこれまでの遊牧のように。
 この数十年で大きく変わってしまった三千年の遊牧民の暮らし。特産品のカシミヤを安く手に入れようとする先進国の需要など、日本人にも決して無縁ではないのです。

ナレーター:緒形 拳


  • 黄砂
    3〜5月、中国北部の黄土地帯で舞い上がった砂塵が上空の風に運ばれ、遠くまで及ぶ気象現象。大地が十分に温まった午後、冷たい空気が偏西風とともに流れ込むとその温度差で強風が発生し、砂漠の砂を巻き上げて起こる。日本では西日本を中心に観測されるが、時に空が黄色に煙ることもある。発生地の中国やモンゴルでは砂塵嵐による自然災害が深刻で、家畜被害などがもたらされる。中国では「砂塵暴」という。アレルギー体質を悪化させるなどの健康への影響も問題となりつつある。
  • 生態移民
    住民を移動させることでその生態環境を保護・回復しようとする中国の環境政策で、砂漠化の防止などの目的で内モンゴル自治区の遊牧民を町や都市部の集合住宅に移住させるなどしている。家畜の飼育頭数が限度を超える「過放牧」が背景にあり、生態移民は数万人いるといわれる。