チボリ再考：／上　最後の社長、坂口正行氏に聞く　／岡山

　◇巨額支出、点検されず
　旧チボリ・ジャパン（チ社、９月２日に清算手続き終了）最後の社長だった坂口正行氏（７０）へのインタビューを基にした県内２誌の記事が波紋を広げている。本紙既報分と重なる部分もあるが、デンマーク“本家”による幻の倉敷チボリ買収計画など新たな証言も。坂口氏に聞いた。【小林一彦】
　２本の記事は「岡山人じゃが２００９」（吉備人出版）に、元山陽新聞専務の赤井克己さんが執筆した「倉敷チボリ公園はなぜ閉園に追い込まれたか」と、「おかやま財界」９月５日号の「『そろそろいいでしょう』チボリ坂口さん独白」。坂口氏は取材を受けた経緯を、「事業の完全な終結にあたり、“遺言”として事実を地元に伝え、残したかった」と話す。
　両誌が共通して触れた一つが「ばく大な開業前支出」費用の問題だ。９７年の倉敷チボリ公園開園前に支出された経費のうち、建設費を除いた費用を指す。その詳細は未解明分が多く、本紙でも「５５億円が今も使途不明」と伝える記事を複数回掲載した。
　開園までに要した費用を、坂口氏は「県とチ社で総額４７４億円」とする。チ社会長だった石井正弘知事は昨年９月議会で４５１億円と説明したが、これは県支出額の認識の相違であり、チ社負担分に限れば、両者とも２８９億円で共通している。使途不明の５５億円はここに含まれる。
　坂口氏によると、２８９億円のうち遊具やレストランなどの建設費が１７６億円、残る１１３億円が開業前支出だ。その中で５８億円は支払い先が判明しており、３０億円近くが提携先の“本家”デンマーク・チボリ公園側にデザイン料などとして支払われたという。
　２８９億円の内訳は県と倉敷市の無利子・低利子融資が計約１２０億円、チ社資本金約１６１億円（県出資の２０億円、倉敷市の１５億円を含む）など。県と市の融資は事業終了までに完済したが、チ社資本金は公園事業終了時に１１億円しか残らなかった。チボリ事業の累積債務と事業終了に伴う解体費用などが計約１５０億円に上ったためだが、開業前支出１１３億円が累積債務の大半を占めた。１１年半に及ぶ実際の公園運営で生じた赤字は「実は２６億円だけ」と坂口氏は言う。
　チボリ公園誘致計画は８７年、岡山市の市制１００周年事業として発表された。しかし、誘致にあたった岡山市、県、県内財界など出資の第三セクター「センチュリーパーク・チボリ」（セ社）の不明朗な会計処理や、デンマーク側との間を仲介した人物への億単位の巨額報酬などが問題化。９１年には当時の松本一市長（故人）がチボリ問題を争点にした出直し選挙で敗れ、結局、市は撤退した。
　しかし、当時の長野士郎知事（故人）が強引に倉敷市での建設を主導した。県は当時、「ここでやめたらデンマークとの国際問題になる」と強調したが、坂口氏は「既に巨額の支出をしていたので引くに引けなかったのが実情だろう」と話す。１１３億円がどの段階でどの程度使われたかは明確でないが、セ社は９２年に第三セクターのチ社に営業譲渡しており、坂口氏は「岡山での計画段階で大半が使われたのではないか」とみる。
　昨年１２月、石井知事に提出された倉敷チボリ公園事業検証委員会（委員長＝中村良平・岡山大大学院教授）の報告書でも「誘致構想期における多額の開業費の支出が、その後の累積赤字の大きな要素」と指摘している。坂口氏は「チ社負担の建設費と比較しても異常に巨額。チェックできる人がいなかったのか」と話す。
　改めて振り返ると、倉敷でのチボリ事業は、岡山での巨額支出の責任追及をおそれた結果であり、さらに多額の税金の追加投入などで傷口を広げた側面が強いのではないか。長野前知事の責任は極めて重いが、９６年に長野県政を継承した石井知事は、先月２６日のチ社株主総会後の記者会見で、私の質問に「当時の方々の判断にコメントしない」と述べるなど、前知事時代のチボリ政策への評価を避けている。県の責任を明確にしたくないのでは、との印象を強く受けた。

９月３０日朝刊

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