再燃するエコ投資バブル:山形浩生(評論家兼業サラリーマン)(2)
中央排出枠銀行の誕生?
ただし、それには時間がかかる。そしてそれまでに別の変な仕組みが出現しつつある。ぼくが心配しているのは、排出権取引というやつだ。
オバマ政権になって、アメリカもキャップアンドトレード式の排出権取引をまじめに検討しているようだ。が、排出権取引というのはつまり、「排出したかもしれない二酸化炭素」なるものを取引するという代物だ。そんな得体の知れないものを、大規模に取引することがいかにやばいか、すぐに想像が付きそうなものでは? 「おれは来年、100万トン二酸化炭素を出したかもしれないけれど、それはやめとくからそのぶんお金をよこしなさい」というのが排出権取引なんだが、来年「出したかもしれない」なんていうものを捏造するくらいの会計処理など、いくらでも思い付くと思わないだろうか?
たとえばいま、途上国ではCDMというのがある。日本が途上国を手伝って、彼らの炭素排出を減らせば、そのぶん日本が排出枠をもらえますという仕組みだ。
さて、これでCDM詐欺を思い付かないだろうか? 途上国としては、たとえば「でっかい石炭火力発電所つくりまーす」と宣言して、あとから「やっぱやめました、日本の援助でそのぶん省エネで対応します、だからCDMのクレジットちょうだい」といえばいい。
まあ実際にはそこまで単純ではないし、いまはそういうインチキがまかり通らないように厳しい規制をしている。
が、そのために活用しにくい複雑な仕組みになってしまっているのも事実で、実際なかなか使われていない。
そしてそこが問題でもある。排出権取引は市場の仕組みを使って二酸化炭素排出を抑え、環境を保護しようとする。だがその「市場」は必ずマネーゲームの対象となってしまう。
そして困ったことに、逆にマネーゲームの対象にならなければ排出権取引が市場として栄えることはない。市場によって環境保護を図るなら、それをマネーゲームの対象にすることを奨励せざるをえないだろう。
たとえばヨーロッパではしばらく前から排出枠の取引が行なわれているが、どの国も自分が金を払うのはいやだ。だからみんな枠を甘めに設定しすぎ、おかげで排出権が余って市場は低迷した。そこで枠の見直しなどで市場のテコ入れを図った。それ自体はよい動きだろう。
だがこれは、その「枠」の決め方が非常にやばいことも示している。そこには政治的な思惑や力関係だけでなく、市場を操作しようという意図が機能している。そうした思惑で排出枠が決められ、それが市場における需給を大幅に左右する――あなたが腹黒い金融屋なら、その枠を決める仕組みになんとか入り込んで、それを操作しようとするだろう。
実体のない人工的に決められる「商品」をめぐる大規模なお金の動く市場――ぼくはこれが新しいバブルの種にならないわけがないと思っている。それを基にしたデリバティブもすぐに生まれるだろう。しかもそこで取引される商品は、産業活動そのもののレベルを左右する。
ぼくはこれがかなりやばい仕組みだと思うんだが、エコ論者は真顔でこれを支持しているし、エコというお題目があるから何やらずいぶんと追い風調子だ。
極端な話、もしこんな仕組みがほんとうに世界的に動き出すなら(そしてそれをきちんと強制する仕組みができるなら)、たぶん炭素排出の枠決定は中央銀行のマネーサプライ操作に相当するものとなるだろう。
産業が過熱したら排出枠サプライを絞り、逆に産業が低迷したら排出枠サプライを増やす――ただしこの中央排出枠銀行は、いまのままだとつねに産業を冷やそうというバイアスをもっていることになるが、100年の歴史をもつ中央銀行制度すら危ういのに、そこへこんないまのダメ日銀みたいな仕組みを入れて大丈夫なのか?
願わくば、いまのエコ投資バブルから何か新しい低炭素エネルギー技術が出てきて、こうした変な仕組みを使わずに済むようになるといいのだけれど。さて今世紀末、ぼくたちはどんな世界に住んでおりますことやら。
ただし、それには時間がかかる。そしてそれまでに別の変な仕組みが出現しつつある。ぼくが心配しているのは、排出権取引というやつだ。
オバマ政権になって、アメリカもキャップアンドトレード式の排出権取引をまじめに検討しているようだ。が、排出権取引というのはつまり、「排出したかもしれない二酸化炭素」なるものを取引するという代物だ。そんな得体の知れないものを、大規模に取引することがいかにやばいか、すぐに想像が付きそうなものでは? 「おれは来年、100万トン二酸化炭素を出したかもしれないけれど、それはやめとくからそのぶんお金をよこしなさい」というのが排出権取引なんだが、来年「出したかもしれない」なんていうものを捏造するくらいの会計処理など、いくらでも思い付くと思わないだろうか?
たとえばいま、途上国ではCDMというのがある。日本が途上国を手伝って、彼らの炭素排出を減らせば、そのぶん日本が排出枠をもらえますという仕組みだ。
さて、これでCDM詐欺を思い付かないだろうか? 途上国としては、たとえば「でっかい石炭火力発電所つくりまーす」と宣言して、あとから「やっぱやめました、日本の援助でそのぶん省エネで対応します、だからCDMのクレジットちょうだい」といえばいい。
まあ実際にはそこまで単純ではないし、いまはそういうインチキがまかり通らないように厳しい規制をしている。
が、そのために活用しにくい複雑な仕組みになってしまっているのも事実で、実際なかなか使われていない。
そしてそこが問題でもある。排出権取引は市場の仕組みを使って二酸化炭素排出を抑え、環境を保護しようとする。だがその「市場」は必ずマネーゲームの対象となってしまう。
そして困ったことに、逆にマネーゲームの対象にならなければ排出権取引が市場として栄えることはない。市場によって環境保護を図るなら、それをマネーゲームの対象にすることを奨励せざるをえないだろう。
たとえばヨーロッパではしばらく前から排出枠の取引が行なわれているが、どの国も自分が金を払うのはいやだ。だからみんな枠を甘めに設定しすぎ、おかげで排出権が余って市場は低迷した。そこで枠の見直しなどで市場のテコ入れを図った。それ自体はよい動きだろう。
だがこれは、その「枠」の決め方が非常にやばいことも示している。そこには政治的な思惑や力関係だけでなく、市場を操作しようという意図が機能している。そうした思惑で排出枠が決められ、それが市場における需給を大幅に左右する――あなたが腹黒い金融屋なら、その枠を決める仕組みになんとか入り込んで、それを操作しようとするだろう。
実体のない人工的に決められる「商品」をめぐる大規模なお金の動く市場――ぼくはこれが新しいバブルの種にならないわけがないと思っている。それを基にしたデリバティブもすぐに生まれるだろう。しかもそこで取引される商品は、産業活動そのもののレベルを左右する。
ぼくはこれがかなりやばい仕組みだと思うんだが、エコ論者は真顔でこれを支持しているし、エコというお題目があるから何やらずいぶんと追い風調子だ。
極端な話、もしこんな仕組みがほんとうに世界的に動き出すなら(そしてそれをきちんと強制する仕組みができるなら)、たぶん炭素排出の枠決定は中央銀行のマネーサプライ操作に相当するものとなるだろう。
産業が過熱したら排出枠サプライを絞り、逆に産業が低迷したら排出枠サプライを増やす――ただしこの中央排出枠銀行は、いまのままだとつねに産業を冷やそうというバイアスをもっていることになるが、100年の歴史をもつ中央銀行制度すら危ういのに、そこへこんないまのダメ日銀みたいな仕組みを入れて大丈夫なのか?
願わくば、いまのエコ投資バブルから何か新しい低炭素エネルギー技術が出てきて、こうした変な仕組みを使わずに済むようになるといいのだけれど。さて今世紀末、ぼくたちはどんな世界に住んでおりますことやら。
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月刊誌『Voice』は、昭和52年12月の創刊以来、激しく揺れ動く現代社会のさまざまな問題を幅広くとりあげ、つねに新鮮な視点と確かなビジョンを提起する総合誌です。
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