きょうのコラム「時鐘」 2009年9月30日

 2度目のトキ放鳥に、失礼ながら知人の誰彼の顔を思い浮かべた。会社勤めや商売から身を引き、自由気ままを手にした人たちである

今度の放鳥は、広いケージに20羽を集め、出入り口を開けた。いわば、「気が向いたら飛んでいけ」方式。先を争って飛び立つ光景を想像したが、先陣は15分後にたった1羽で、結局、初日は2羽だけが飛び立った。自由へのあこがれより、戸惑いの方が強いのか

気ままな暮らしも難儀なようで、晴耕雨読を宣言した知人は、1日200ページの読破を課す。毎日が日曜画家の男は、日にスケッチ2点を心掛ける。規則やノルマから解放された身なのに、そうやって怠け癖をいさめている

何かと身につまされるトキである。昨年放鳥された10羽のうち、確認された雄は佐渡にとどまり、雌だけが自由を楽しむように海を渡った。観光地で見掛ける団体客も、元気に土産物を探すのは婦人たちで、男性陣は大概ベンチに座り込んでいる

今度の放鳥で、黒部にいる雌にも繁殖の期待が集まる。冒険心に富む雄の飛来を切望する。大げさだが、オトコのメンツが懸かっている。