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社説

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予算編成―さあ、大胆な組み替えを

 自公政権下で編成作業が始まっていた来年度予算を白紙から見直すことを、鳩山政権が正式に決めた。新たな借金を増やさず、無駄な予算を大胆に削って「くらしを守る方向」に使うための財源を生み出すという。

 その基本方針を徹底するよう期待したいが、具体的なやり方については国民に不安もあるだけに、政策の決定過程を含めて説明に努めてほしい。

 鳩山政権はきのうの閣議で、予算編成の基本方針として概算要求基準(シーリング)の廃止を決めた。予算改革の大きな第一歩となる。シーリングこそが、前年度予算の踏襲と微修正を繰り返すことしかできない官僚主導の利害調整型予算を形作ってきたからだ。社会が大きく変化したり政策目的が変わったりしても機動的に対応できなかったのはそのせいだ。

 小泉政権は公共投資や裁量的経費を削減する手法を導入した。だが予算の内容を思い切って組み替えるところまではいかなかった。予算づくりそのものを転換できるのは、やはり政権交代の威力である。

 鳩山政権は「既存の予算はゼロベースで厳しく優先順位を見直す」という。これを実際にやってみせるのは画期的だ。しかし、前例を踏襲せずに白地から予算を組む作業は相当な困難が予想される。

 民主党は「生活第一」という政策の基軸を掲げてきた。それが政権交代への期待を生んだ。これを予算編成で貫けるかどうか、が鍵になる。

 政権公約でうたった政策を予算に盛り込むに当たり、制度づくりにきめ細かい工夫をこらすことが求められる。子ども手当や高校無償化など、若い世代を育てる政策は国民の声に耳を傾け、しっかりと進めてほしい。

 同時に大切なのは、財源の制約のもとで、厳しい選択だが合理的だと納税者に納得される内容にすることだ。

 公約した事業すべてに十分な予算をつけるのは至難の業だ。何を優先し、何を切るか、減らすか。

 その点で高速道路無料化(財源は毎年度1.3兆円)とガソリン税などの暫定税率廃止(同2.5兆円)は再考を求めたい。温暖化対策とも矛盾するこれらの政策に毎年度数兆円を投じることが妥当だろうか。もっと優先すべき使い道が考えられないか。

 自公政権が経済危機への対策として編成し執行中の補正予算の組み替えも含め、新政権の決断力と説明責任を果たす能力が問われる。

 年度内に予算を使い切ろうとして生じる無駄をなくすため、複数年度の予算管理も検討するという。

 「10月15日までに概算要求、年内編成」という日程はかなりきつい。それでも経済危機のもとで予算編成の遅れは許されない。スピードも不可欠だ。

ドイツ総選挙―大連立が残した重い教訓

 ドイツで行われた総選挙の結果、4年間続いた2大政党による大連立政権が解消され、11年ぶりに中道右派政権が生まれる見通しとなった。

 勝利したのはメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟で、大連立の相手だった社会民主党は戦後最低の得票率となり、惨敗した。

 勝敗を分けた要因の一つは、両党のリーダーの実力と人気の違いだ。

 旧東独の物理学者だったメルケル氏は、ドイツ統一後の90年代に政界入りし、頭角を現した。大連立政権では、首相としてサミット外交や地球温暖化問題で指導力を発揮した。

 一方、社会民主党は内紛が相次ぎ、昨年、首相候補に指名されたばかりのシュタインマイヤー外相は有権者に存在感を示せなかった。

 大連立の4年間が社民党に逆風を呼んだのは間違いない。両党で議席の7割を押さえ、その基盤に乗って社会保障の負担増や付加価値税の税率アップなど不人気な政策を次々と導入した。

 こうした現状に対する有権者の反発は、社民党により厳しく向けられた。格差是正、所得再配分に積極的と見られてきた政党だけに、失望が大きかったのだろう。

 昨年来の経済危機で有権者たちの暮らしが厳しくなり、不満が加速した面もある。社民党は最低賃金の拡充策などを選挙戦で打ち出し、軌道修正を図ったが、手遅れだった。

 第1党の座を確保したとはいえ、現状批判は同盟にも向けられ、得票率は前回よりわずかに減少した。

 その結果、勢力を伸ばしたのが中小政党だ。同盟への批判票は、経済界の支持を受ける保守、自由民主党の議席数を押し上げ、労働者や低所得層の不満票は左派党や90年連合・緑の党に流れたようだ。

 大連立政権下では、政策論議も低調になってしまった。選挙戦終盤になってアフガニスタンへの部隊派遣問題が争点に浮上した。ドイツ軍が要請した空爆で現地の住民が多数犠牲になったためだが、2大政党がともに派遣支持では論戦が深まりようもなかった。

 メルケル首相は今後、連立に向けて自民党との政策協議に入る。両党とも減税やこれまでの脱原発政策の転換を掲げ、基本的な方向は重なっている。減税幅や、既存原発をどれくらいの期間延命させるかが焦点になりそうだ。

 大連立は不人気でも必要な政策の実現には効力を発揮する一方で、それぞれの政党の独自性が見えにくくなったり、批判勢力が弱まって政策論争がしぼんだりする副作用もある。

 ドイツの経験はそのことを浮き彫りにした。日本でも一昨年、自民党と民主党との間で大連立話が持ち上がったことがある。大変な劇薬でもあることを改めて知る。

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