日弁連の緊急提言に思う2008-07-21 Mon 20:11
お久しぶりです。法セ座談会についてのコメントを書いて以来の投稿です。
今日は、先日出された日弁連の緊急提言について、法律学と切っても切れない縁にある政治学・経済学の「イロハ」を使った説明をしたいと思います。 現実に反論の出来る程の地位を占めているか否かはともかくとして、先日の緊急提言は日弁連の総意なのですから、新60期修習生で弁護士登録した方も含んだ意見と捉えざるを得ません。これは、政治学における既得権益団体の力学の基礎中の基礎的行動です。つまり、当該団体に入ろうとする側は門戸を開けとしきりに叫ぶのに、入った途端に自らその間口を狭くせよ、という言論に加担するという構造です。日本のように法律学と政治学が同じ法学部で教育されている世界において、彼（女）らは在学中一切政治学の勉強をしなかったのでしょうか。忘れたのでしょうか。それとも日弁連も既得権益団体であると自嘲気味に語らんとしているのでしょうか。 弁護士の質の低下という問題があることは否定しません。しかしここでも、ミクロ経済学の基礎中の基礎で説明ができます。基準以下の質しか提供できない弁護士は、基本的に市場原理上コストとベネフィットが見合っていないサプライヤーとして市場から駆逐され、やがて需給の均衡点に達します。むろん、市場の失敗を考える必要はありますが、当座それが問題になりそうな要因はないように思います。法学部生は得てして自分たちが経済学部生より能力が高いと自負してきたきらいがありますが、これも経済学を少しかじった人間からみれば失笑の的と言わざるを得ません。 このような緊急提言をまとめて公表したことには、正直言って失望とか落胆というより、哀れさすら覚えます。もちろん、彼（女）らからみれば僕は新司法試験にすら3回もかかっている、出来の悪い法学徒かもしれません。しかし、僕はこの状態を見てあきれかえっています。いかに法律実務の一部に凝り固まって、他の学問領域の素養を持たない弁護士が多いか、そのことに絶望もしています。彼（女）らは大学で教養教育を受けていないのでしょうか。それだけ視野が狭ければ、法律家が煙たがられるのは至極当然な反応と言わざるを得ないのではないでしょうか。 僕は、もっと視野を広げてものを考えたいという欲求に満ちています。もちろんそれは、僕が学者としての道を生きようと決めているからいえるのんきな発言に過ぎず、大抵の新司法試験受験生にとっては就職問題は死活問題です。でも、今回の提言を見ると、そんな業界に見切りを付けて優良企業に就職する選択肢の方が優れている、という評価すら持たざるを得ないように思います。 ロースクール制度に組み込まれた方々は、様々な面で「裏切り」にあってきました。発足当時には80%の合格率といわれていたものが、気づけば50%、40%、30%になり、合格しても就職もできず、挙げ句門戸が狭められようとしています。多角的視野を有するプロセス重視の法曹養成というビジョンの達成どころか、完全に失敗した国策だと言わざるを得ない状態になりつつあります。僕の所属していたロースクールでも、いつの間にか旧来の弁護士側の受験組織が日夜論証を教え、それに学生がついていく状態になりつつあります。 僕は、自分にとってロースクールという場は、あくまでも実務的視点を加えた基本法の定着という意味しか有していなかったことに気づきました。今は、ロースクールを毛嫌いする学者の一部にも極めて共感を覚えるほどです。 ここをお読みの方には、不快な気持ちを持たせたかもしれません。そのことはお詫びします。でも、現状は絶対に間違っています。ただそのことだけを書きたくて、今日はfc2の画面を開きました。 テーマ:ロースクール（法科大学院） - ジャンル:学校・教育 |
解説の解説�◆�法セ座談会編2008-07-14 Mon 23:21
受験新報に続いて、法学セミナー8月号でも、例年どおり座談会形式で問題の検討が行われています。またまた僭越ながら、解説の解説をしたいと思います。
【総論】 例年実務家の法科大学院教員が司会をし、学者教員が個別に概説の上議論に入る形式が取られているのですが、この議論内容が例年ヒアリングで酷評されています。もちろん、理論的にはあり得るが実務的には無理筋だ、といった議論に意味がないとはいいませんが、果たしてここに登場される（一部の）お偉い弁護士の方は旧試験時代、実務では無理筋の議論はせずに理論を構築しないで試験に臨んだのでしょうか？理論的に正解であれば点数は入るのではないでしょうか？理論的に無理筋であるとか、この判例はつぶせない、といった実質論で、学者の立てた立論をぶちこわす傾向が（一部に）見られて非常に疑問です。私が学者に肩入れしているというのもあるでしょうが、座談会形式にせず個別分担執筆とし、実務家のコメントをつけるといったスタイルの方がいいのではないでしょうか。今年もそう思わざるを得ない科目がありました。 【各論】（すべて敬称略） 1.民事系 司会：古田啓昌（アンダーソン・毛利・友常パートナー、成蹊） 民法：北居功（慶応） 商法：弥永真生（筑波） 民訴：酒井一（名大） ・さっそく、私が問題とする「実務家のまぜっかえし」が炸裂した観がある。まず相続に関して「当事者の意思解釈」の問題とするのが「実務的には」一般なのかも知れないが、それを正解として要求しているとは到底思えない。司会も主張の応酬を想定することで妥当なところに落とそうとしているようだが、当該問題では初めから理論的帰結を正しく導出すれば足りると思うし、それ以上の時間があったとは思えない。 ・設問1小問(3)については、北居によって要件事実的構成以外の解法が示されているが、司会は一刀両断している。勝手に訴訟法上の解法は認められないと決めつけてよいのだろうか。 ・そのように言いつつ、会社法分野の出題において、保証債務の射程については議論を確認しようとする司会の姿勢は一貫しているのだろうか。 ・法人格否認についても司会は実務家として無理筋だと一刀両断である。訴訟法・執行法上の適用を考慮すべきという司会・弥永の指摘は正鵠を得ており、この点を指摘できれば更に加点になったであろう。もっとも、本問は明らかに法人格濫用が問題となりうる事実関係であった。むしろこれを無理筋として主張段階で切り捨てれば、それこそ弁護過誤になるのではないか。 ・弥永は主力を違法配当と見ており、これはひとつの線であろう。他に、利益供与、事実上の取締役の線が示されている。事実上の取締役はCを狙う議論であるが、あいにくCについては必ずしも情報が多くなく、あまり点が入る構成ではないと思う。 ・主観的追加的併合については、また司会から、実務的には最判の否定は無理筋だとするコメントが出、学者は学説上の多数説を説く構図になっている。また、「申立書」の法的性格などといった細かく意を払う必要のなさそうな議論をしていたりと、ここでも実務家と学者の議論はちぐはぐな印象を受ける。 ・文書提出命令については酒井から、自由心証説が多かったのではないかとの意見が出ている。これもどうであろうか。疑問である。224条3項で要求される事実については私のコメントの能力がないので、割愛する。 評価：B-（司会が議論を乱しすぎている） 2.刑事系 司会：倉科直文（虎の門・明大） 刑法：中空壽雅（明大） 刑訴：水谷規男（阪大） ・中空の刑法についての概説は妥当であると思われる。これに対する水谷の事実認定の方法についての指摘は、当然判決起案の立場が要求されていると見るべきで、余計な混ぜっ返し以外の何物でもない。問題にしたいのであれば、共謀共同正犯否定説からでも起案されるとよい（蛇足）。 ・採点基準は絶対に明らかにされないので、それを要求するための議論は無意味である。 ・刑訴については、水谷は現行犯逮捕周りの指摘も必要との立場に立つ。これは結果が出てしまうまでわからない。 評価：B（中空発言を評価して） 3.公法系 司会：斉藤浩（淀屋橋総合・龍谷） 憲法：木下智史（関大） 行政：石井昇（甲南） ・木下による憲法の論点整理は的確であると思われる。受験新報のような知る権利一本槍といった構成はとられていない。 ・検閲については、正直に言ってあまり点数が振られているとは思えないが、斉藤は比較的これにこだわっている。ただ、総花的な答案は評価されないのだから、軽く触れるというのが一般的なのではないか。 ・結局受験生にとれるベストな戦略は、岐阜県条例事件との事案の相違を的確に把握することだったのだろう。その点ではこの解説は的確である。 ・石井による行政法の解説は概ね的確と思われる。 ・斉藤の指摘するように、執行停止については内容を細かく分析した方が点は伸びるだろう。 ・以前受験新報の解説を解説したときに言及したように、行手法と行手条例の関係について整序できれば高得点になるという指摘は石井・斉藤の指摘にも見られる。 評価：A-（憲法についての錯綜を除けば最もクオリティが高い） 【後説】 偉そうに色々と書かせて頂きましたが、実務的な分析は諸刃の剣であることもあります。実務的に無理筋かいける筋なのかは修習に入ってから体得するもので、まず法科大学院において重視されるべきは理論的基礎であるのだとしたら、中途半端な実務的知識はマイナスにしかならないでしょう。その点で、特に民事系に関しての座談会は大いに疑問です。 昨年散々批判されたからか、今回はメンバー総入れ替えが行われましたが、なおクオリティの向上がなければまた批判されるだけ、と思うのは私だけでしょうか。 テーマ:ロースクール（法科大学院） - ジャンル:学校・教育 |
法曹養成と研究者養成2008-07-12 Sat 00:35
新司法試験からは完全に脱線した話ですが、興味のある方はお付き合い下さい。
私の現在所属している大学は、研究者養成コース修士課程を廃止しておらず、博士後期課程に進学するには修士課程を修了する道とロースクールを修了する道が併存した状態にあります。 これは、端的に言って教授陣の中にロースクール反対派が一定程度存在し、ロースクール修了者に選考を一本化できなかったのが理由です。彼（女）らはロースクールでの教育も拒否し、指導する学生もすべて修士課程からのみ採用しています。そのため、当該教授陣にとってはもちろん、その指導を受ける院生にとっても私は目の敵のような存在です。 私は、彼（女）の反発ないし敵視の姿勢自体には一定程度の合理性があると考えています。ロースクールでは実務法曹の卵を育てるという目的とタイトなスケジュールの関係上、どうしても判例・実務、よくて通説的見解を一通りソクラティック・メソッドで修得するのが限界といったところです。これを過度に推し進めると、非常に従順な学生の場合、判例・実務・通説に対する批判的視点を見失いがちです。 しかしこれは別に新司法試験制度に限った話ではなく、旧司法試験においても予備校でカビが生えたような古い判例・学説を教えていたのですから、さして状況が変わった訳ではありません。むしろ問題視すべきは、自律的に修士課程に進むという選択肢をとらず、「なんとなくロースクール」に進学する学生が多い点なのではないでしょうか。 また、私も学者として生きていこうとしている身ですから、堅固な判例・通説にダイナマイトを仕掛ける（この表現は内田民法Iからとりました）ことも時には必要だとも思います。そういった意味では、ロースクール教育は彼（女）らからすれば「洗脳」に近いのかもしれません。その点も認めます。 しかし、もともと学者も霞を食らって生きている訳ではありません。アンチテーゼを提出する場合にも、敵を知ることで己を知ることもできる訳です。判例の全てが間違っていると断ずるのは容易ですが、かなりの高率で判例・通説には一定程度の合理性がある訳です。それから目を背けて「我かく思えり」と自説を披瀝するだけでは、まさに議論のための議論をしているのと変わりありません。 東大をはじめ一部の大学が基礎法を除いて修士課程を廃止し、博士後期課程に進むためにはロースクールの修了を要求することには、一定の合理性があります。その１点は、上記の「敵を知る」ために判例の論理を十分に理解する過程の重要性にあります。もう１点は、通常の修士課程にはないことですが、他の法領域との関係を不断に調整する能力を体得しうる（むろん、修了した者が皆そのような能力を体得しているといっている訳ではありませんが）ということです。 残念ながら法律学の世界もかなり縦割りの形態をとっていて、法領域をまたがった総合的研究は必ずしも十分にできる状態にありませんでした。ロースクール修了者は、そのような融合分野についての研究で一定以上の成果を挙げうる可能性があります。 もとより、私はロースクール生に採用を一本化すべき、と考えている訳でもありません。修士課程において従来取得していた、比較法研究の流儀、あるいは歴史研究の方法といった基礎教育の過程が欠落するからです。事実、私は博士後期課程に進んでから２年半、本当に暗中模索の状態で研究を進めてきました。彼らがロースクールへの一本化に強く抵抗することには、この点で合理性を認めざるを得ません。 しかし、彼（女）らが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の要領で私に白い目を向けることには、断固抵抗します。私は博士後期課程に移ってからは、あくまでも研究者養成コースの院生として過ごしてきました。たしかに、指導教員の意向に従って新司法試験は受け続けましたが、同時に彼（女）らと遜色ない水準の研究成果も生んできました。また、院生の会合にも顔を出しましたし、財政的に求められた支出にも応じてきました。 彼（女）らが、自分たちの側に来た人間を受け入れないというのは、単なる狭量でしかありません。たしかに、ロースクールから博士後期課程に移ってきた人間の一部は、全く研究者養成コースの院生に溶け込んでいませんが、それは彼（女）らの方針であって、私まで排外視される理由にはならないと思います。 むしろ彼（女）らとしては、修士課程とロースクールとの間の選択に関して制度間競争を展開するのが戦略的かつフェアなやり方なのではないかと思います。「何となくロースクール」ではなく、修士という道もあるのだとアピールすることには、私は何の異論も持ちません。 人間関係というものは必然的に感情的対立を生むので、この問題が容易に解消するとは思っていません。しかし、決して多数ではありませんが、私には修士から上がってきた院生との交友関係も生まれてきたことを付言しておきたいと思います。その芽を摘み取るのは、彼（女）ら自身の首を絞めているのと同じことなのではないでしょうか。 今日は全然試験と関係ない話でした。ただ、研究者養成と法曹養成は、法律学が実学である以上密接不可分の問題です。実務法曹を目指されている皆さんにも、このような現状を認識して頂くことは有益であると考え、ここに自分の考えを記しました。 テーマ:ロースクール（法科大学院） - ジャンル:学校・教育 |
或る憲法学者とのやりとり2008-07-10 Thu 19:54
今日はおつとめの日で、午前中学部の会社法を受けた後とある場所へ向かい、用が済んだ後は家に帰ってきました。
ところで、今日は本試験にも関わるちょっとしたエピソードがあるので、書いてみました。 最近某出版社から出た憲法の演習書の執筆者のおひとりが所属大学の教員で、今日購入してみたのでその方の執筆分担部分について若干の意見交換をメール上でしました。 その際、私の持論である憲法実体面と訴訟面のバランス論ということを、受験新報8月号の解説を引き合いに伝えたところ、やや興味深いリアクションが返ってきました。いわく、今年の憲法の出題に最も近いと思われる岐阜県青少年保護育成条例事件においては、私人側は大人や青少年の知る権利を主張していた、というのです。そして、法令自体の違憲と処分違憲について、最高裁が第三者の違憲主張適格の一般的議論とはやや異なったスタンスで臨んでいるのではないか、というコメントを頂きました。 かく解すると、受験新報の「知る権利」構成も、何を違憲と捉えるかによってはあながち無理筋ではない、という可能性があります。もちろん、相対試験なので殆どの方が表現の自由一本槍で書いたのであれば、さして沈む訳ではないのですが、興味深い意見だと思いました。 ちなみに私は、以前から日本におけるスタンディング（違憲主張適格）の狭さについては疑問を抱いていた方だったので、市川正人教授の佐藤幸治還暦論文集所収のスタンディングの論文を斜め読みするなど、若干意を払ってきました。そのため、票読み�△鬚翰�頂ければわかるように、本人の表現の自由にほとんどの精力を払いながらも、「見たい大人」については知る権利の侵害と解して違憲主張適格を拡大する方向を（いわばセービングクローズとして）示唆しました。検察官の反論を明示していないので片手落ちなのですが、その可能性は認識していた積もりです。 結局、憲法の勉強法に王道はなく、重要である判例の議論の筋を丹念に理解し、あたかも大法廷に成り代われる程度にその趣旨を披瀝できるようにするほかないということでしょうか。これも出題の趣旨が出るまで議論が定まらないところなのでしょう。気を揉むことがまたひとつ増えた感じです(^-^; テーマ:ロースクール（法科大学院） - ジャンル:学校・教育 |
解説を解説する2008-07-03 Thu 16:25
首都圏から遠く離れたこの地にも、今回の試験問題を解説した受験新報8月号がやって参りました。2chでは既に情報が流れていたのですが、現物をさきほど手に入れることができ、ぱらぱらとめくってみました。
そこで、僭越ながら「解説の解説」をしたいと思います。 【総論】 まずこの手の記事の場合、次のような解説はうさんくさいと考えています。 �］辰�あちこちに飛んでまとまりがない：書いている本人が焦点を定め切れていない可能性大 �△海療世砲弔い討録爾�触れない系のコメント：実際に紙幅がない場合もあるが、かなりの確率で本人が深く触れられる能力を有していない �Ｉ眄のイ譴靴針［Ч柔�：実務家が現実的にとる構成でなければ評価されない面があるので 以上のような観点から、解説の解説をします。 【各論】 公法系第1問（憲法）：大石和彦 ・指定とフィルタリング解除ソフトの禁止を区別せよ、という論理自体は評価に値するし、そこを厳密に詰めれば相当の点数が入るだろう ・しかし、実務的にはやはりAの表現の自由侵害構成でいくのではないか。無論、第三者（情報受領者）の知る権利から構成することを否定するものではないが、その場合、解説のように第三者の違憲主張適格（スタンディング）について大々的な説明を要することになる。この点については判例の立場は、ほぼ第三者所有物没収事件のように実質上他人の権利を侵害することを招来する場合と、表現の自由を同様に侵害されるような法文である場合の萎縮効果を主張する場合に限定されている。ここで情報受領者の知る権利をAが援用するのは、明らかに実務的には筋が悪い。途方もなくはねる答案が解説者には書けるのかもしれないが、受験生にはかかるレベルのスタンディングについての知識はないと言わざるを得ない。たとえそれが正道であっても、茨の道であることは否定できない。 ・最後の方のインターネットについての議論は、解説者本人がよくわかっていないようである。 ・明らかに委任立法の形式についての議論が欠落している。人権と統治機構のバランス論については、去年の一種のメイン論点でもあったのだが、それを全く無視してよいものであろうか… 総合評価：C 公法系第2問（行政法）：下井康史 ・設問1（訴訟選択）については、申し分のない解説。文献引用も的確。私は採らなかったが、解説者によると公表の差止めを求める実質的当事者訴訟ないし争点訴訟＋仮処分という筋もよいようである。 ・設問2（総論）についても詳細な解説がある。私は試験会場では条例についてほとんど考慮する時間がなかったが、行政指導については行政手続条例の適用があること指摘のとおりである。また、処分たる勧告は根拠法が法律である以上行手法の適用がある。この二者を明確に区別して書ければ高得点だったのだろう。 総合評価：A（ちなみに解説者は、近時極めて勢いのある行政法学者のひとりである） 民事系第1問（民法）：赤松秀岳 ・設問1(1)は、そつない解説という感じである。 ・設問1(2)前半については、私見と近い処理であって、こうであればよいなあ、という感じ。後半（反論��）については、要件事実による主張自体失当処理ではない道が開かれている。ここは議論が最後まで定まらないところだろう。 ・設問1(3)については、具体的事実の摘示数は多くなく、いかにも解説といった感じである。 ・設問2については、標準的な解説なのだろう。というかあまり相続の問題の解説など見たことがないので、標準的とはいかなるものかわからないが。 総合評価：B（例年九大関係者であるが、コネでもあるのだろうか） 民事系第2問前半（商法）：菊地雄介 ・設問1前半（利益相反・多額の借財）については、そつのない解説である。銀行担当者の態様があのように微妙に設定されていたのは、まさに悪意ではないが過失はあるという、双方の機械的処理の正確性を測っていたものだと言わざるを得ない。 ・設問1後半（株式交換）については、対価不公正については株式買取請求権の存在を根拠とした無効事由該当性否定説に立っている（たしか百選解説も同様の見解）が、これは必ずしも多数説ではない。ここはいずれに立ってもよいのだろう。債権者異議手続については、保証契約が無効であれば債権者でなく瑕疵がない、という明快な解説がなされている。そこまで見通せて答案を書けた人間がどの程度いるだろうか。 ・設問2（債権回収）については、回収原資の標的から考察を試みており、ABについては忠実義務違反に基づく対第三者責任、Dについては監視監督義務違反の余地、またBについて債権者代位権構成、さらに法人格濫用、株式交換無効の訴えを設問1で提起したならば、不当利得の余地があると指摘するなど、網羅的である。私も一部で指摘されている利益供与構成には無理がありすぎると考えるので、この解説にほぼ全面的に賛成である。ただし、忠実義務違反と構成するのは異質説（判例に反対）に立つ論者の評価であるから、ここはさして悩むところではないだろう。 総合評価：A 民事系第2問後半（民訴法）：畑宏樹 ・設問3については、固有必要的共同訴訟の瑕疵補正の学説と、当該判例が訴訟遅延の危険甚だしかったことを強調する解説である。一方で、逐一の批判については「水掛け論」と冷たいが、プロの学者としての本音という感じがする。要点は指摘のとおりなのだろう。冒頭の軸を考えると、「固有」性を故意に落とした私見は戦略として失敗だったということになる。 ・設問4については、自説の押しつけになるとして説の長短は述べず、(2)では要証事実そのものが擬制されるという学説・裁判例上の見解を摘示する。これは知らないとどうしようもない観がある。(3)についても、弁論の全趣旨としての斟酌という学説の見解を紹介しており、受験生の出来は悪いだろうが極めて高難度の問題であったことを示している。 総合評価：B+ 刑事系第1問（刑法）：亀井源太郎 ・甲については、予備罪については触れもせず、窃盗と強盗については包括一罪とするのが一般的とする。B骨折結果については、機会説からは致傷結果を帰責できること、解説者自身は拡張的適用に反対であることが述べられている。なお、乙のB致死行為については、「乙が戻ってきたことは事前の意思連絡によるものではないし、甲は乙が戻って来ていることを認識していないため現場での意思連絡も存しない。このため、甲は、この点につき何らの罪責を負わない。」と断言している。 ・乙については、事後強盗の成否につき裁判例・学説を挙げ、これを肯定し、結論として強盗致死を認めている。なお、共犯関係については、事実認定の上で共同正犯性を肯定している。事後強盗性を認めなかった私見が悔やまれる。 ・最後に、罪名の異なる共同正犯関係について、判例と解説者の行為共同説を説明している。 総合評価：A 刑事系第2問（刑事訴訟法）：亀井 ・設問1については、平成17年最判を引いた上で、あくまでも証明すべきは営利の目的を有していることであり、立証趣旨�，賄訴后↓△郎禿訴后↓�は伝聞とする。この見解は少なくともぱらぱらとネットを見た限りでは初見である。十分に練られた見解であり、なかなかぞっとさせられる。証拠方法については、326条同意、323条該当性をあっさりと切り、321条1項3号、322条再伝聞をいずれも認める。やはり自分の答案は相当低評価になるだろうと覚悟している。 ・設問2については、ガラスを割ったこと、令状の事後呈示、ポーチの開披の3点を問題視し、それぞれ適法としている。 総合評価：A（ちなみに解説者は、有望な若手刑事法学者のひとりである） 【総括】 行政法・商法・刑法・刑訴法については、解説は的を射ている印象を受けた。民法・民訴法については、他の見解と合わせて一本といったところだろうか。憲法は十分に練られていないと言わざるを得ない。 ただ、多くのロースクールや予備校ではそうだろうが、公法系における実体面と訴訟面のバランスの悪いカリキュラムが多いのではないか。憲法では人権総論・各論は熱心にやっても、憲法訴訟面についてはフォローが十分でなく、予備校は違憲審査基準をやたらに強調する。また、行政法についても、入口の訴訟要件には目がくらむが、その後の本体の訴訟で戦う場合の主張に意を払う側面が薄い気がする。民事・刑事については事実上融合はしないのであるから、公法については特に意識した教育ないし学習が必要のように感じられる。 テーマ:ロースクール（法科大学院） - ジャンル:学校・教育 |