のどから手が出るほど欲しい平均点

第3回新司法試験に滑り込んだ現法学部助教の記録(現在進行形)

明日の前準備

今日は連日論文や添削で疲れがたまっていたので、自宅で片付く作業を複数やっていました。明日少人数向けレクチャーの最終回として選択科目労働法を1時間半で解説するお約束になっていますので、その準備と、以前その参加者の方にお約束していた、憲法百選の重要度リストの作成等をやりました。

某上位合格者の方のブログにリンクを残しておいた関係で、どびゃっとアクセス数が増えています。その方が匿名性について若干の疑問ないし不満をお持ちだったので、一応お張りしておいただけですが、そちらからお越し頂いた方に、私の心情をお話しておきます。

私は、大学の学部に現役で通って2年半ほど、端からみれば傲岸不遜な態度を取っていたと自覚しています。しかし、3年の秋に精神を病んでから、その過信はもろくも崩れ去りました。自分がいかに高慢であったか、認識して恥じる日々が続きました。また、精神病というのは脳の病気でもあるので、一般人からみれば常軌を逸したような行動や考えをもった時期も長く続きました。学部時代の貴重な友人を何人も失いましたし、ロースクールでも少なからぬ人を傷つけました。
今、ようやく少量の薬を飲むだけで日常生活を送れる水準まで回復して改めて思うのは、権力への懐疑の根本性です。むろん、試験は競争社会の典型なので、受からなければ価値が薄いことは事実だと思いますが、その反面、合格した者は不合格だった方からねたみ・そねみ・場合によれば恨みを買うことは政治学的構造上当然の前提なのです。私は以前そのような態度をとっていた自分を内省した結果、どんなに丁寧に接しても接しすぎることはない、という感覚をもって、不合格だった方やこれから受験される方と接するようにしています。
そのためには、やはり敗者側に1度立ってみないとわからないことも多々あるというのが率直な感想です。無知ほど罪深いことはないのです。彼(女)らがそのまま実務法曹に立って、構造的なバイアスを抜き取ることなくクライアントと接するようになったとき、彼(女)らが受ける損害は微々たるものですが、クライアントが受ける精神的肉体的・財産的ダメージは相当のものがあると思います。私は結局修習に行かない身なので、刑事弁護などの修習内容は知りませんが、根底からの発想転換ができない限り、彼(女)らに対して向けられるねたみそねみは、構造的なものでもあり、またおおかた裏付けられる根拠のあるものでもあるでしょう。
合格者であってもかく思うのに、不合格だった方や受験生の方がどう思われるか、到底想像だにしないであろう彼(女)らの「勝者の論理」は、どうしたら上手に除去できるのか、私にはかかる政治学的、心理学的、教育学的素養がないのでわかりませんが、ものを教える側としては常に謙虚でありたいと思って、あのようなコメントを残した次第です。

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ティーブレイク

最近アクセス数が漸減傾向だから、という訳ではありませんが、小ネタを投稿します。

今日は中間論文について問題意識を鮮明にするための下準備をしています。そのうちネタを公開できる日もあると思いますが、中間論文提出前に同じネタを他の速筆の方に書かれてはたまりませんので、まだ公開できません(じゃないときっと後悔します)。

急ぎで頼まれた添削の仕事を並行してやっているのですが、予想以上に判例の事案の正確な理解に欠ける答案や、見る人が見ればあきらかに引っかけなのに、そのトラップにもろに引っかかってしまって、それ以降の論述は一切加点してあげられない答案が結構あります。作問者と独立して私が採点基準を書いているので、そこに認識の齟齬がある可能性は否定できませんが、作問者の解題は読んで基準に反映させているつもりですので、その齟齬はあっても些少なものだと認識しています。なので、当該トラップは明らかにトラップなのですが、それを見抜けない人が多いのは意外でした。まだ5分の1くらいしか見ていませんが、その3分の1くらいは引っかかっています。

事案は新司法試験本体ほどではないものの、長文事例に分類されうる問題なので、仮にこのような事実の法的評価ミスのトラップに引っかかる回数があまりにも多いとしたら、それはかなり危険な気がします。「見る人が見ればトラップだと明らかなだけで、普通の人にも明らかとは限らない」という反論は想定されますが、来年は合格率20%台になるであろう第4回新司法試験においては、このトラップにかかるのはかなりのビハインドになることが明白なのです。

私は基本的に予備校産業とはあまり深いおつきあいをしたことがないので、そこでの暗黙のルールに乗れていない可能性があることは否定できません。しかし、それなりの順位で合格したと評価されている者の愚見ですが、私から見ても墓穴を掘っているものは採点委員からすると大穴を掘っている可能性があります。答練では採点基準上あまり極端な点をつけられないのが実際ですが、実際にはもっと極端な低評価を受ける可能性がある答案が散見されます。辛いことですが、そのような答案には「論点は拾えているように見えるが本試験ではこのような評価ですむとは限らない」と注意書きしています。

もとより、平板な理解のみをすればよいのだ、ということを積極的に推奨するものではありません。ただ、着実な理解と論理構成を維持できれば、合格点がつく蓋然性が高いということを、採点していて再認識した次第です。現役生の方は恒常的な時間不足に悩まされる日々だと思いますが、浪人の方も前に進めている方と後ろに進んでいるように見える方とがいます。むしろ、周りでチェックしてくれる仲間兼ライバルが常にいるという現状をバネに頑張って頂きたいと思います。また、浪人の方は、時間があるのに任せてあぐらをかいている訳にはいかない、ということも、蛇足ですが付言させて頂きます。

ちなみに、ティーブレイクとはいっても「茶花」ですが(苦笑)。

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民事系第2問(会社法・民訴法)レクチャーと必須科目の総括

今日は3時間弱をかけて、民事系第2問のレクチャーをさせて頂きました。刑事系科目以外の必須科目全部について、かなりトリッキーな議論に最後までおつきあい頂きまして、ありがとうございました。労働法選択の方は、また来週お目にかかります。

会社法は、制度定着とともに日々新しい解釈問題が提起され、判例上も重要な進展がみられます。実際のところ商事法で現在最も多いのは保険法に関する判例で、将来的に手形法・小切手法が試験科目からはずれ、電子記録債権法と保険法(新法、2年以内に施行)が加わる可能性は十分にあります。今年は制度を縦横無尽に使いこなす能力を問われる問題が出題され、かなり受験生の答案(私も含む)と出題の趣旨の要求水準に格差が見られたと思われます。
しかし、大きな声で言うことはできませんが、古い頭の実務法曹の中には、現在の会社法についていけていない方が少なくないことも事実です。これから弁護士間の競争も激しさを増す中で、企業法務に長けた人材は大きなアドバンテージを得ることになります。もちろんこの問題のようなレベルではなく、企業再編と税制の関連や、買収防衛策の設計など実務ははるか先にあります。今回のような出題は、会社法を必須科目としたままでよいのか、むしろ企業法務に積極的に関与するタイプの法曹の卵に選択科目として課すことが適当でないか、という疑念も抱かせる内容ですが、ともあれ、しばらくは必須科目の中に含まれますから、日進月歩の会社法制に遅れをとらないよう頑張って頂きたいと思います。
民訴法については、以前記事でコメントしたことに尽きていると考えますので、それ以上のコメントは特にありませんが、手続の正確な把握と条文から遊離することのない解釈に軸足をおいて、あらゆる多様な問題に対応する訓練を積んで頂きたいと思います。

最後に、私のレクチャーが受講して頂いた方の血となり肉となるか否かは、その方々が私の理解を消化できるかどうかにかかっています。私の担当した科目についても、試験委員の目から見ればfar from satisfactoryな状態であることは疑いありません。ただ、試験においてベストパフォーマンスを出すことと、優秀な法曹となることは別次元のことです(異次元説)。私は頭でっかちな学者の卵に過ぎず、おそらく法曹実務家として独り立ちする能力は有していません。ただ、それにも一分の理があること、試験委員はそのような能力もそれとして評価すること、この2点は十分ご理解頂けたかと思います。

労働法選択者の方にはもう一迷惑おかけしますが、ご了承ください。それ以外の選択科目の方は、私のトリッキーな議論とはしばらく(願わくば永久に)お別れです。私のように3振りもすることなく、スムーズに合格されることを願ってやみません。また、専攻関係の鑑定意見のご依頼はもっと優秀な同業者の方にお願いして下さい(笑)。私は中途半端でトリッキーな器用貧乏ですので。敗訴を覚悟であればお受けしますが。

皆様のご健闘をお祈りいたします。

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少人数向けレクチャー(続)

先日の公法系に引き続いて、来週民事系も担当させて頂くことになりました。今回は専攻も含まれているので、この間のようにトリッキーな議論はしない予定です(笑)。
以前民訴法については記事として取り上げましたが、当該科目の解説はなかなか悩ましいものがあると感じています。まず今後類似問題が出題されることはないと思いますし、実際のところどのような点で点差が開いたのか、一応の私見はもっていますがそれが正しいという確固たる保証があるわけではありません。
いずれにせよ、最善を尽くしたいと思っております。その後には、選択科目労働法についても担当させて頂くことになっておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

また、今日は少々嬉しいこともありました。先日私法学会で名刺交換させて頂いた先生の一部に直近の判批の抜刷をお送りしたのですが、シンポジウム報告をされた若手有望株の准教授の先生から、非常にポジティブな評価を頂くことができました。今回の判批は3回目の新試験が終わってから締め切りまで約2ヶ月程度で書き上げたものだったので、出来に一抹の不安があったのも確かですが、周囲からは上々の評価を頂いていたので、勇気を出してお送りしたところ、嬉しいメールを頂くことができました。
学者の世界の就職というのはかなり特殊な構造をしていて、基本的に空いたポストに入るか、稀に新設されるポストに滑り込む程度しか方法がありません。私の指導教授は社交性に長けた人なので、リクルートエージェントのつもりで就職先については一任しているのですが、このような形で私的に評価をしていただくこと自体はいいことだと思っていますので、今後も出来る限り完成度の高い論文を仕上げたいと思っております。

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私法学会に初参加して

無事に名大で開催された日本私法学会に出席して参りました。

率直な感想としては、学会ないし学界をリードしているのは、やはり重鎮と呼ばれる大物学者や、先端的な研究に意欲的に取り組んでいる中堅・若手であることを再認識した学会だったということでした。

一見試験とは直結しない内容のようにも見えるので「研究生活」のカテゴリを新設してその中の記事としましたが、実は先端的な学説や判例・裁判例をある程度知っておくことは、試験勉強としても大きなアドバンテージとなるともいえるのです。例えば、今年の旧試験論文式の商法では、楽天vsTBS事件東京地判を素材にした問題が出題されました。今後は実務家主体の出題が続くと思われる新司法試験においても、少なくとも法曹の入口として、最新の判例・裁判例を押さえておくことは当然の前提条件であると思われますし、実はその筋の専門家の卵である私からすると、最新の学説を知っておくことがアドバンテージとなる設問も、実は今年の新試験論文式で出題されています。そして、私の当該科目の総合点と出来とを比較すると、どうもそのような最新の論点にかなりの配点があるように思われるのです。

むろん、そのような論点を知らずとも、受験生の平均レベルを一歩抜きん出た答案を提出できれば、十分に合格することができるのは事実です。しかしながら、東大のように事実上受験指導をしていない大学においては、実はそのような実務上の先端的な内容を取り入れた講義を通じて、本当に修習を終えればすぐに実務で活躍できるような法曹養成を行っています。そのような先を見据えた講義やゼミというものを主導するためには、やはり古典的な論点の機械的な処理では割り切れない、真理の飽くなき探求というものが必要のように思います。

そして、私は浅学非才の身ではありますが、なんとかその第一線に食らいつくべく、研鑽を積んでいきたいと思っています。それは新司法試験合格というものとダイレクトに連結されるものではありませんが、どちらもうまく調整していきたいと思っています。

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