のどから手が出るほど欲しい平均点

第3回新司法試験に滑り込んだ現法学部助教の記録(現在進行形)

近時の法改正・判例

そろそろ出願も終わりの時期ですよね。ロースクールの入試も、結果が出そろい始めた頃だと思います。他大学ロースクールの教員などと話をしていると、やはり文科省の締め付けは厳しいようで……。うちとて例外ではありませんが。74校中減員を表明しなかったのは私立6校だけとの報道なので、東大も減らすつもりなんですね。ロー制度は草創期なのであって、既に葬送期なのではないことを願うばかりです。

私は、学位中間論文の執筆の前準備として、大学に出てきているときは比較法関係の文献を収集、具体的には関係しそうな論文を検索してはコピーをとる、の繰り返しをしています。私は第2外国語がドイツ語だったので、ドイツ法はおそらく勉強すればどうにかなるとは思うのですが、今最もテーマに絡むのがフランス法なので、非常に手こずっています。自分で訳すると間違いが多くなるので、とりあえず邦語文献収集の毎日です。

さて、試験関係のお話も少ししましょうか。第3回の時点ではなかった新判例や、新たに施行された法改正・新法のフォローもしなければなりません。今はジュリの重判解も4月刊行なので、判例は直前期にひととおりの整理ができると思いますが、法改正は個人でフォローしなければいけません。現役の方はローで講義があると思いますが、再チャレンジの方はそうとも限らないので、自分で施行日のチェックが必要になります。
最近は専攻のことしかやっていませんので、他の法領域の判例はほとんどフォローしていないのですが、今年の一番の判例といえば、青写真判決の判例変更ではないでしょうか。行政法学界はこぞって青写真判決を批判しつつ、判例理論の整合的理解も試みてきましたが、2004年の行訴法改正以来、特に原告適格や処分性については急激な拡大が起こっています。小田急の事件もそうですし、今回の判例変更もそうです。
民事系では、預金の帰属に関してかなり射程の広い平成8年判例の追認判決が10/10に出ています。事例もユニークですので、金判11/1号などでフォローされるとよいと思いますが、結局最高裁は平成8年の民事判決と15年の刑事判決を整合的に理解できることを明確にしたともいえます。一部の有力な学者は一方の判例変更を示唆していましたが、結局は保護法益や被害に遭う客体が異なるなどの理解で、これからは整合的に読まざるを得ないでしょう。

法改正では、試験に関係ないところでは保険法が100年ぶりくらいに改正されて単行法になりました。皆さんには早々に受かって頂きたいと思いますが、将来的には保険法も商法分野で試験範囲に入る可能性はありますし、実務につけば重要な法律なので、試験後にでも条文を一読されることをお勧めします。試験に関係するところでは、まず来年は労働契約法が適用できる問題が出ると思います(今年の私は勇み足でしたが;)。うっかり「労基法18条の2」などと書かないように、ただし問題文を注意して読んで、施行日後の事件か確認してから適用してください。また、刑訴法関係では、被害者参加制度が12/1から施行されました。量刑に関して独自の意見を述べることができる「被害者参加人」制度です。刑訴法は近時処罰感情の高まりとともに「忘れられた人」であった被害者の手続参加への方向を歩みつつあり、この点は要注意でしょう。刑訴316条の33以下を一読されるか、新法解説を一読されるかはした方がよいと思います。なお、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)の大部分は、平成21年5月21日施行ですが、一部については既に施行されていますので、この点もチェックが必要です。

近時の判例を集めたものとしては、現在では重判解のほか、日本評論社がTKCと組んで出している速報判例解説があります。これは基本的にはTKCの同名記事を整理して文章にしたものなので、修了生サポートシステムをお使いの方はそちらをご覧になってもいいと思います。ほかには、基本三法については法学教室の付録につく「判例セレクト」がありますし、民事法系に特化したものとしては、年2回刊行される私法判例リマークスがあります。もっと勉強を進めたい方は、基本的には最判解(法曹時報)を読まれるか、その軽いバージョンとしてジュリストに掲載される「時の判例」をフォローするのがよいかと思います。皆さんの多くは実務家になられると思うので、くれぐれも「判例」と「裁判例」の区別は厳密になさってください。

さて、私も現実に戻ります。皆さんも風邪をひかないように暖かくして(受験期は多少脂肪がついても仕方ないと思います)、勉強頑張ってください♪

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PDF配布終了/宣伝(2)

PDFファイルの配布は、ひとまず終了させて頂きました。結局、30名近い方からのご希望を頂きました。ファイルの内容をみて失望された方が少なからずいらっしゃったとすれば、お詫び致します。昨日23:59までにご希望された方にはURLを配布完了しております。









←楽天ブックスさん


もうひとつは、例によって宣伝です(すみません、本代不足で苦しんでおります)。上記受験新報1月号に、Fの仮名で合格体験記を掲載致しました。内容は本ブログとあまり変わりませんが、真法会さんの答練を採点した所感なども織り交ぜておりますので、興味がおありの方は立ち読みかご購入頂ければ、と思います。まだ原稿料は頂いておりませんが(;_;)

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あまり大声では言えない話

皆さん息が詰まるような生活をしておられるかと思って、今日は雑談です。

私は学部を卒業してからロースクールが設立されるまで2年間のブランクがありますので、かれこれ10年ほど法律の勉強をしていることになりますが、未だに人に法律を教えるほどのアビリティを有しているという自信がありません。専攻の科目について、例えば教科書を持ってこられて、ここを教えてください、と言われた場合には、ひととおりの答えができるようにはなっているのですが、実際に講義を担当するということになると、おそらく自分の中でどこを厚く、どこを薄く話すか、そのメリハリの付け方に数年間は悩むことになると思います。
皆さんもうすうすお感じになっていることかもしれませんが、自分のロースクールの先生が当該科目の本試験問題を時間内で合格点程度書けるか疑わしい先生は、たしかにいます。私は現在の専攻に関する研究歴は、皆さんと同じように新司法試験の勉強をしていた時間が相当長いので、極めて浅いと言わざるを得ませんが、同じ専攻の学者や院生が集まる研究会などに行くと、学問レベルの格差が歴然としています。東大院修了の若手の方や、慶応院単位取得の若手の方などは、やはりあらゆるものに対応できる能力をもっていますが、私はその次くらいのレベルにいることがほぼ明らかです。実質的な研究歴は2年か、多く見積もって3年なのにです。これではまずいなあ、というのが私の本音です。

もちろん、私は民事系のある法律を専攻しているので、F答案をご覧頂ければわかるように、少なくとも学者として要求される水準に達していないことは自覚しています。しかし、あれ以上にひどい答案を書く学者も少なくないのです。

一方で、私は現在の所属大学ではじめて研究者コースに進学したロー修了生なので、後進の方の今後も心配しています。私はある程度英語ができる(といってもTOEIC855くらいですが)ので、英語論文は少しアドバイスを頂いた後は自力で読んできましたが、語学が弱い方にはなかなか厳しい道です。また、経済学についても学部でかじっていたので、法と経済学的アプローチにもさほどの違和感をもたずに取り組めるのですが、後進の同じ専攻の方は、必ずしも経済学と親しんでいる訳でもないようです。

現在私が取り組んでいるのは2つの法領域にまたがるテーマで、このようなものを積極的に扱えるのはロースクール修了生の強みだと思っているのですが、その分基礎研究の能力が劣っていることは自覚せざるを得ません。皆さんが試験勉強をするのと同様に、私も日々自己研鑽、生涯学習の毎日です。
三ケ月章先生が『一法学徒の歩み』という本を公表されています。まさにその通りだと思います。三ケ月先生は新訴訟物理論のパイオニア的存在で、法律学全集の『民事訴訟法』は伝説的な希少本です。ロースクール制度は実務との結合を強く要求するので、事実上新訴訟物理論は駆逐された形になっていますが、私は三ケ月先生や平井宜雄先生のような、しなやかで斬新な法学的見解に極めて魅力を感じます。私は到底先生方の足下にも及ばないちっぽけな存在ですが、心の中では先哲の英知を受け継いで、一法学徒として一生歩んでいくつもりです。

好き勝手なことを書いて申し訳ありません。「生涯一受験生」などというのを売り文句にするどこぞの予備校教師がいるようなので、その向こうを張ってみただけです(^-^;

PDFファイルの配布は、今日の23:59で一応終了致しますので、まだの方でご所望の方は、お気軽にご連絡ください。

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PDFファイル配布時期について

12月に入り、受験生の皆様は追い込みの時期、1月5日が論文〆切の私はおしりに火がつく時期になりました(^-^;

当初の予告ですと、11/18にPDFファイルの配布をスタートしていますので、一応12/2(明日)に配布を終了する予定です。今回ファイルを預けてあるストレージサイトは強制消去型ではないようなので、期間終了後もファイルは残っているようです。私としては赤っ恥をさらすような内容のファイルですので、一応2日23:59を区切りにしたいと思っていますが、それ以降新しくいらっしゃった方でファイルをご所望の方に配布することは必ずしも制限しないつもりでいます。

一応ファイルの配布という形で情報提供するつもりのデータはほかには存在しませんし、また私も本業は研究ですので、新たに受験生の方に有益なデータを作成して配布することまでは検討しておりません。その代わり、ご質問にはできるだけ丁寧にお答えしたいと思っていますので、コメントは常時歓迎しています。ただ、論文の追い込み時期に入っていますので、お返事が遅延する可能性が多分にあることだけはご了承下さい。

それでは、おやすみなさい☆

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公法系/労働法回顧

PDFはぼちぼちURL希望のメールが届き続けている状態です。現在25名前後の方にURLをお伝えしました。結構需要があるものですね。常連さんも相当数いらっしゃるようで、感謝の限りです。

PDF配布のお礼メールで、特に公法系と労働法の私の再現答案について、かなり意外性があるとのリアクションを得ましたので、簡単に補足しておきます。
まず労働法ですが、F答案コメントにありますように、私は「管理監督者」不該当の認定をすっかり忘れていて、慌てて1行挿入したのですが、それでも高得点だったのはなぜだと考えているか?というメールを頂きました。
端的に申しますと、割増賃金の割増率を問われているのに「管理監督者なので割増率は0」という答えにはならないのが措定されていたのではないか、というのが私の考えです。作問者自身が、管理監督者ではないことを前提に(広い意味で誘導といえるかもしれません)問題を作っている以上、実は「管理監督者」性認定に字数を使う必要が薄かったということです。もちろん、ひとつの重要な論点である以上、一定の行数(例えば3行)使うことはいいことだと思いますが、4枚の解答用紙ではその程度が限界だったと思います。むしろ「趣旨」にあるように、職務手当が割増賃金に相当しないかを検討した方が点数は伸びたのだと思っています。
関連して、4枚という字数制限は重く受け止める必要があると思います。請求する側の弁護士としては、極端にリスキーな訴訟戦略を立てる訳にはいきません。労働者の人生がかかっています。そうである以上、判例があれば判例を前提とした立論をするのが基本だと思います。使用者が判例を駆使してくる場合は、その判例の射程が及ばないとか、同様に盲点をつくとかいった戦略を立てるべきではないでしょうか。学説の大展開の余裕はない字数だと思います。

もう1通は、(うわさの)公法系についてのお問い合わせでした。憲法については何度か詳論したつもりですので、今日は行政法について特化してご説明申し上げます。
法学書院さんの再現の字幅だと3枚ちょっとという極端に短い答案になっていますが、私は字が大きい方なので、現実には5枚目ぐらいまではいっています。メールを下さった方の仮定に基づきますと、仮に憲法が100点でも、行政法は標準偏差調整後63点はあったことになるが、その理由は何かというご質問でした。
おそらくポイントは2点あります。ひとつは、差止訴訟+仮の差止めの切り方、もうひとつは、処分性のみの検討に絞った点です。
まず前者ですが、A理事長はあくまでも「公表」を止めたいという意向だった訳ですが、例えば業務停止などを食らうと公表に比して遙かに重い制裁措置を食らうことになります。この点はA理事長の近視眼的な状態を「法律家」として視力矯正してあげる必要があります。そのため、後行処分の広汎性を指摘して、差止訴訟ではまずいと断言した訳です。この点が一定の評価を得たものだと思います。
次に後者ですが、仮に管轄や出訴期間、あるいは訴えの利益について検討に字数を割いたとすれば、それは時間のロスだと思ったので、明らかに問題となる要件である処分性「のみ」を検討したということです。設問2の実体違法主張に関しては、どこぞの方が言うところの「書き写し」が一定程度必要なのは明らかでしたので、そこには問題文を写すという時間のかかる作業が待っています。そのため、訴訟要件の検討にかかる時間を圧縮したのです。
なお、私の憲法の答案はたしかにかなりの高評価を受けている可能性がありますが、法令違憲と適用違憲を被告人弁護人として截然と整理できていない点は減点されていますし、検閲の処理にも問題がありますので、おそらく90点はないと思います。そうだと仮定すると、行政法には70点以上の点数がついていることになります。あれで70点だとすれば、結構皆さんが食いつける可能性はあると思います。

 一応これくらいでお答えとしたいと思います。
 もうひとつ余談ですが、私の文章を「読みやすい」と評される方が数名いらっしゃいます。私自身は、自分は極めて読みにくい文章を書く方だと思っていますが、皆様からみてそう見えるのであれば、おそらくポイントは次のような点にあります。1つは、主語と述語の1対1対応、いわゆるねじれ文の解消です。主語と整合的でない述語が書いてあると、非常に読みにくい文章になります。これは意識すれば改善できると思いますので、実行してみて下さい。もうひとつは、文を短く区切ることです。1文が2行を超えた場合、文意の把握が困難になるのは必定です。その2点だけ気をつければ、すぐに私くらいの文章は書けるようになります。
 実際には、私も学術論文を書いているときは頻繁にねじれ文を書いてしまいますが、それは相手も容易に読めることを前提としているからです。採点者の限られた時間の中で皆様の答案の価値を判断してもらうためには、ねじれ文の解消は重要なトピックだと思ってください。

結構長文になりましたね。この記事はこれくらいにしておきます。メールを下さった方にお礼申し上げます(←これは主語のない文ですが、主語は「私」であること明らかなので問題ありません)。

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