司法試験が出すシグナル2009-05-25 Mon 13:20
すみません、更新するネタがありませんで。試しに「2」のサンプルを、と思って、エントリを起こしてみました。
法律学は、社会科学の中でも極めてローカルな学問です。「法的」三段論法も、一定の価値観を前提として成立する以上は純粋な三段論法とは全く別個のものですし、「法」理論も、諸国の経済・社会・政治状況などを反映したものになりがちで、一定普遍なものがあるとは限りません。ノーベル法律学賞がないのも、このような理由によります。 他方で、司法試験や法曹実務・法(律実)務もまた、純粋な「法学」とは異なります。法学は多少なりとも理論的一貫性を重視しますが(いわゆるスジ)、法務はどこかで結論の妥当性を見据えてものごとを考えます(スワリ)。自分にとって整合的にものが見えないとしても、結論が妥当である以上は(判例変更という判断・理解を示さない限り)整合的な理解を示すのが常道です。 ともすれば、その作業は現状肯定的・保守的な方向に傾きがちです。例えば今回の試験問題を、従来とは一線を画していることは明らかであるが、なお「良問」であると理解するのは、司法試験委員会・新司法試験委員会議とその下部機関である個別の科目出題委員のやることなすこと全てが正しい、ということへの盲信と紙一重である可能性を排除できません。 しかし、試験は言うに及ばず、実際にそのハードルを越えた後に待つ法務の世界では、このようなことは日常茶飯事です。なお現実を批判的に眺めつつも、目の前にいるクライアントを法的に救済するに当たっては、既存の判例法理を整合的に解釈した上でおそらくその根底にある準則を見出し(これは帰納的アプローチといえるでしょう)、それを現実の事案に適用して(=あてはめて)一定の答えを出さないといけません(これは演繹的アプローチ)。ごく当たり前のことのようにも思えますが、なかなか自分が当事者になると、このような視点は備わらないものだと思います。 これを煎じ詰めれば、「勝てば官軍」という思考も否定はできません。私も飛び抜けた総合成績でもなく、あげく3回目という追い込まれた状態であったにもかかわらず、なんとか首の皮一枚のところで試験をパスしたからこそ、このような独りよがりな文章にも「公定力」的なものが生じ、言っていることがまっとうであるような感覚(錯覚?)を人に与えるのだと思います。仮に3回目もNGであったとすれば、私のこのブログに一定基準以上の発言力・影響力が備わっていたとは到底思えません。 前述の通り、法律学は純粋な論理学的方法で純化することもできず、法務のように現実を直視して理論構成を二の次とするように割り切ることも出来ずに、間をうろうろとさまよう「流浪の民」です。それ故、論理学・法律学・法務の三者をオールマイティにやれるタイプの天才でもない限り、どこかで向き不向きが出てくることが多いように思います。高校までは大天才扱いだったのに、法律学も法務も全く不向きだったというような不幸が、文系における法学部の特権的待遇と相まって、日本の文系社会に大きな影を落としているようにも思います。 私はその構造の中で、法律学と法務をいったりきたりの生活をしているので、理論的純化というものはどちらかといえば不得手です。おそらく学問的に見れば、天才でも何でもありません。法務でも辛うじて入口に入ってよいと判断された程度です。法律学についてはもちろんひよっこです。 ただ、これは単に学問・法律学・法務の3つの選択肢を挙げただけであることにも注意がいると思います。この3者を取り除いたらほとんど私はでくの坊のようなものですが、通常人はこの3つを取り去っても何かが残っている筈です。自分が試験をパスできなかったからといって、全否定する必要など何もない訳です。ただ、業として法務をなすことについては、不向きかもしれない。それは覚悟の上で前進しなければならない、それが、司法試験が出しているシグナルなのかもしれません。 私の上にも、法律学者としては上の人間が遙か先まで星の数ほどいます。法律学者には幸い三振制度はありませんが、その代わり、自分がいやになるまで打席は回ってきます。ずっと空振りやゴロやライナーを繰り返しつつ、法律学者としての私は歩いて行きます。 ……うーん、「2」のサンプルとしては「一応の水準」に達していないかもしれないw テーマ:ロースクール(法科大学院) - ジャンル:学校・教育 |
さて、試験後のこのブログの帰趨如何2009-05-20 Wed 13:51
試験日以降、アクセスが急増しておりまして……すみません、私は「昨年の」受験生ですorz
ということで、本ブログの事後処理を考えております。 あまり研究ネタを書くと個人が特定されます。ちなみに、研究者というのは狭量なもので、受験指導に関わった人間ははぶられ気味で、次の就職先を探している私としては、特定は避けたいところです。 一方で、受験界からもかなり離れておりますので、現在は専攻関係以外の分野について判例をフォローしている訳でもなく、今年のような「地頭」系の問題の解説も(専攻分野以外は)難しい状況です。憲法もぱっと見かなり難しそうな問題で、解説させて頂くとしても内容の正確性が担保しかねます。 他方で、ここをご覧頂いた方や、つながりができた方の合否や成績は伺いたいというのも本音です。そこで、可能性としてあり得るのは、以下のような路線かな、と思っております。 1. 更新を停止し、質問には適宜お答えする。コメント欄は随時確認する。合否や成績報告等にご利用頂くのは差し支えない。 2. 更新内容は皆さんが試験勉強時に頭をもたげるような理念やもやもやとした感覚について、あらかじめ「代わりに考えた」内容を書くなど、人畜無害な内容にする。質問・コメント等の処理は1に同じ。 3. 理論系・実務系(これからの本試験で重要になりそう)の本の紹介サイト的な運用にする。質問・コメント等は1に同じ。 4. 個人的な連絡の便宜のためにメールフォームのみを残し、他の内容は消去する。 5. 1-4に加えて、Googleのロボット検索(クロール)対象から除外する。 5は、今年の本試験ネタがあるのではないか、ということで覗かれる方がいらっしゃると推察されるためです。 しばらく、皆様のご意見を拝聴したいと思います。 テーマ:ロースクール(法科大学院) - ジャンル:学校・教育 |
お疲れ様でした2009-05-17 Sun 18:36
試験お疲れ様でした。今年はなかなか厳しい問題が出たものと、伝え聞いております(又聞き程度ですが)。
修習にも行かなかった者が偉そうに能書きをたれることはできないと思いますので、とりあえず確実にいえる最低限のことのみを申し上げます。 1. 来年以降も受験の可能性がある方や、とりあえずお金を回収したい方は、再現答案を作成されることは有意義です。特に前者の方は、自分の感触と点数に開きがあった場合、その修正をかける必要がありますし、「出題趣旨」(「採点実感」)「ヒアリング」との乖離をチェックする必要があります。模試を受験されている方は再現の依頼率が高いそうですので、とりあえず高い模試代を回収するという実利的目的からも、作成をお勧めします。答案化が苦痛だという方は、構成を字に起こす程度でもよいと思います。 2. 短答の結果次第ですが、そこでまた来年ということになった方は、9月まで未確定な状態が続く方よりも再スタートの時期が早まったことをアドバンテージと捉えて、すぐ勉強を始められるとよいと思います。 3. 修習に行くことを前提とされる方は、実務科目的な学習を始められるか、あるいは実体法の復習をするかが考えられます。前者は修習を楽にします。後者は二回試験の時点でほとんど雲散霧消しかけている実体法の定着をいくばくかあげることができます。どちらを採られるか(あるいは両取りか)は個人の任意だと思います。 4. 関連して、「試験に合格する」ことはむろん相対順位で決定することなので、合格された暁には、就職面を除いて今回の試験の出来不出来はさしたる問題ではありません。しかし、修習に行かれた場合には、そのレベルに甘んじることは許されないと思って下さい。本来要求されるべき水準未満であると認識された方は、実体法の学習に再度取り組まれることも、十分有意義だと思います。 まずは、疲れを癒されて下さい。(場所的に)近い方は、一緒に飲みにでも行きましょう。 テーマ:ロースクール(法科大学院) - ジャンル:学校・教育 |
母の日/最後のアドバイス2009-05-10 Sun 16:06
受験生の皆様にとっては、ついにこの週がやってきたか、というイメージの方が当然強いと思いますが、来年のこの日は、「母の日」としてお母様をいたわってあげて下さい。艱難辛苦を皆様と同様に、あるいはそれ以上に分かち合ってこられたと思いますから。
さて、私は何度も申し上げたとおり、試験ないし指導の一線から離れており、かなりその類の勘を忘れています。そのため、最小限度、そして間違いのないアドバイスを、この場でしておきたいと思います。 1. 判例には「公定力」がある もちろんこれは比喩的な表現です。ただ、新試験は前期修習を組み込んで、より実務に近い説を前提とせざるを得なかったり(要件事実+旧訴訟物理論)、あるいは時間との関係で細かい学説に触れる余裕も必要もない問題設計になっていることは、周知の通りです。 そのため、細かい見解の対立は直前期にはとりあえず措いて、判例の正確な結論と理由付けのチェックに努められて下さい。また、試験に際しても、判例を「理由抜き」で引用して「判例だからこれでいい」というのではなく、最低限の理由付け(これは判例と同じでも、別の理由でもよいと思います)ができる程度の水準は維持して下さい。択一と論文の成績の乖離を避けるためには、この「理由付け」が頭に浮かんでくるかどうかがひとつの分水嶺になると思います。 2. 法解釈の必要性を再認識する これもごく当たり前のことですが、通常条文の文言に欠缺や不明確性があるため、あるいは当該条文の字義通りの解釈では不都合性が出るため、当該条文の趣旨に遡及して本来の条文の解釈のベクトルを意識し、そこから基準(規範)の定立・修正を行うというのが常道です。定義同様、訳もわからず趣旨を述べても点数がくるわけではないと思って下さい。いらない趣旨の論及は、字数と時間を圧迫します。 3. 必要以上に自分のたてる規範に縛られない 特に違憲審査基準の硬直的適用と当該事案の特殊性の捨象について、試験委員は厳しい注文をつけています。彼(女)らからすれば、自らたてた違憲審査基準に「自縄自縛」しているように皆様の答案が見えるようです。これも科目に限らない話で、あくまでも当該事案を解決するために基準(規範)を定立するのですから、適切なレベルで柔軟さは当然要求されていると考えて下さい。 4. 「効果」から「手段」選択をしてみる 去年の行政法の訴訟形式選択の際のように、「処分性」一本槍で考えても、A理事長を適切に救うことができないといった変化球も、どのような科目でも予想されます(例えば債権回収法としての有効性など)。どれでいっても同じように見えるのであれば、効果が各手段で異ならないかを、頭か答案構成用紙に書いてみて下さい。歴然たる差が現れることがあります。 あまり私の「基準」を押しつけてもいけないので、これくらいを踏まえて頂きたいと思います。 試験期間中の更新は、皆様がネットにかける時間を最小限度に圧縮するために(私のサイト巡回回数を減らすために)、質問に対するお答え以外は停止しておきます。ということで、基本的にはこれが私が皆様に送るyellです。 4ヶ月後、可能な限り多数の喜びの声が届くことを、切に願っております。 テーマ:ロースクール(法科大学院) - ジャンル:学校・教育 |
あと1週間2009-05-06 Wed 11:44
演習の受講生を連れてゼミコンに行ってから、本格的にGW体制のhiroleenです。いや、結構補助してあげたので懐は寒いのですがorz
皆様はあと1週間になりましたね。今やるべきことは、 1. 体調管理(初日から最終日までコンスタントに力を出す) 2. 弱点の緊急補強(できるところは書けるができないところが出たときに泣きをみる) 3. 行ったことがない方は受験場の下調べ(コンビニ・自販機・喫煙所など) 等ですかね。 へんな話ですが、最近眠りが浅く、なぜか不合格の夢をよく見ますw皆様の不合格を私が吸い取っているのかもしれません。これで近しい方の合格率が上がるといいなあ、と夢のような話を考えています。 あとは出たとこ勝負の要素が強いので、兎に角読み間違いには注意して下さい。素人さんの法律相談については、合理的な範囲で修正をかけてあげると予想外にいい点数がつくこともありますよ。気になる方は、私の行政法の再現をみて頂けるとわかるかと思います。 残り1週間、私にできるのはここでの旗振りくらいです。皆様は生活サイクルの安定化と、確実な知識の定着を優先させて、自分の手で合格を勝ち取って下さいね。 テーマ:ロースクール(法科大学院) - ジャンル:学校・教育 |