きょうの社説 2009年9月29日

◎「やはり」の円急騰 「円高容認」は北陸経済に重荷
 1ドル=90円を突破した円の急騰は、藤井裕久財務相の「円高容認」と受け取れる一 連の発言がきっかけになった。1日で1円以上動く値動きの荒さは、投機筋の介入を裏付けるものであり、藤井発言を背景に、投機筋は今後も介入を仕掛けて来る可能性がある。北陸の輸出産業は想定レートを1ドル=95円前後に置いている。90円を割り込む円高は大変な重荷であり、北陸経済全体への影響は避けられないだろう。

 短期の投機筋が一番恐れるのは、日銀による市場介入である。だからこそ通貨当局がい つ「伝家の宝刀」を抜くのか、そのタイミングに目を凝らし、要人の発言に耳を澄ませている。そんななかで、キーパーソンの一人である財務相が「市場介入はしない」と言い切ってしまえば、足元を見透かされるのは当たり前である。

 市場介入という「伝家の宝刀」は抜かぬままが一番いい。ただ、投機筋が仕掛けてきそ うな局面には、「抜く」と見せかけて動きを止める必要があり、それを自ら「竹光」のごとく言ってしまうのは愚の骨頂である。

 藤井財務相の言う通り、円高によって潤う産業もあり、輸入品の価格下落で個人消費に はむしろプラスになるという主張は、分からぬでもない。しかし、いくら輸入品の価格が下がって、国民の購買力が高まっても、企業業績の悪化に伴って家計の収入が減ってしまえば、プラスよりマイナス面の方が大きいのではないか。

 28日の東証で、日経平均株価が一時1万円の大台を割ったのは、急激な円高が景気の 足を引っ張るとみた投資家が売りを急いだからだろう。北陸のように輸出主体の製造業が多い地域では、特に設備投資や求人倍率のさらなる低下を招きかねない。

 藤井財務相は28日、「為替相場は安定的なのが望ましい。最近の動きは少し偏ってい る」と述べ、ようやく円の急騰をけん制する発言をし出した。これまでの発言を修正をする気になったのであれば、好ましい変化である。こうした「口先介入」も時には必要であり、市場に誤ったメッセージを送らぬよう注意してほしい。

◎谷垣自民党総裁 土台からの再生が使命
 自民党総裁に選ばれた谷垣禎一氏に求められるのは、対処療法的な党改革ではなく、土 台からの党再生である。自民党がもし「野党暮らし」に耐えられずに衰退の道をたどるとすれば、日本の政党政治にとって不幸なことである。もう一度、政権を託するに足ると評される公党に生まれ変わることは、この国の政党政治を前進させ、一段高い次元に引き上げるために不可欠なのだという使命感を持って、党の再建に取り組んでもらいたい。

 谷垣氏は、来年夏の参院選に向けて、民主党との対決姿勢を鮮明にし、同党の政権公約 の問題点などを追及していく構えをみせている。温厚なイメージの谷垣氏にとって、政権奪回をめざして闘う強いリーダー像を打ち出すことは、党の結束を図る上でも重要なことであるが、民主党と対峙するに当たっては、自民党としてどのような政治、いかなる国をめざすのかを示してもらいたい。

 政党のかなめである党綱領を再確認し、自民党の存在意義を国民にあらためて明示する ことは、寄り合い所帯ゆえにまだ党の綱領を持たない民主党との違いを出すのにも有効であろう。

 自民党は細川連立政権誕生(1993年)で一時下野したが、野党としての党運営を本 格的に経験していない。政権という求心力がなくなれば、党組織や支持団体のタガがゆるみ、離反の動きが出る恐れもあろう。まさに政党の地力が試されるわけであり、土台からの立て直しに迫られる。

 谷垣氏は各派閥の領袖クラスからベテラン、若手議員まで幅広い支持を得て新総裁に選 ばれたが、党の変革へ強力な指導力を発揮し、かねてよりの課題である派閥主導型の党運営から今度こそ脱却しなければなるまい。

 自民党が国民の信頼を取り戻す上で大事な点は、当面まず「立派な野党」になることで あろう。戦前の二大政党政治は、権力を取るため互いになりふり構わず足を引っ張り合い、スキャンダルを暴き合うという浅ましさで国民の信頼を損ね、失敗した。その教訓を肝に銘じてほしい。