きょうのコラム「時鐘」 2009年9月29日

 地区優勝を決める大事な試合で、殊勲打を放つ。ヤンキースの松井秀喜選手は、ここ一番の見せ場で何度も活躍する

ひざに「爆弾」を抱えて守備の機会は与えられず、欠場や代打の試合もあった。それでも期待に応える千両役者である

写真家の土門拳さんが古九谷の美に引かれ、北陸を訪れた折の逸話を聞いたことがある。脳出血の後遺症を抱える土門さんは、カメラを三脚で固定する撮影しかできなかった。カメラを据え、古九谷の絵皿にひたすら向き合う。優れた作品は必ず「ほほ笑む」ときがある。その瞬間を待って、レンズにとらえる。だから、一度もシャッターを押さない日が、いくらもあったという

ひざの痛みや不自由な手という弱点を抱えながら、大一番に臨む。その分、集中力が高まり、心が研ぎ澄まされて大きな仕事を成し遂げる不思議な力がわいてくるのだろう

限界説も出ていた横綱の朝青龍が、24度目の優勝を果たした。勝因を聞かれて、「けがが良かった」。ハンディに腐らず、逆に心を鍛える糧にしたということか。行儀の悪さは相変わらずだが、たまには良いことを言う。