鳩山内閣が「官僚主導の打破」を掲げて船出した。ただ組閣をめぐる駆け引きは民主党内にしこりを残し、結束して公約実現に取り組めるかは未知数だ。期待と不安が交錯した政権発足の舞台裏を探った。(敬称略)
15日夜、首相鳩山由紀夫を迎える官邸の内閣総務官室から、全府省に通達が出された。「閣僚内定者に会うことはもちろん、電話もしてはならない。官邸に新閣僚が呼び込まれる16日午後4時までは一切の接触を控えること」。民主党の指示で発せられた“接触禁止令”だった。通達は、4時以降の接触を各府省の「大臣秘書官」に限定。閣僚公用車については「午後6時から官邸で待機する」ことも求めていた。
鳩山は、前後して閣僚候補に電話で次々と起用ポストを伝えた。この段階で官僚による“説明攻勢”を許せば、各閣僚が就任会見で「役所の論理」に引きずられかねない。「初めが肝心」(党幹部)というわけだ。
▽官僚と「緊張関係」
党政務調査会は会見用に作成していた独自資料をただちに各閣僚へ配布。官邸での閣僚の就任会見は、資料に目を通す時間を確保するため、慣例にこだわらず皇居での認証式後に設定した。鳩山が自民党政権下で長く続いた組閣風景を一変させることで「脱官僚」の演出を狙ったのは間違いない。
16日午前には、総務省幹部が通達を知りながら、分厚い資料を携えて総務相原口一博の議員会館の部屋を訪れ、数分間で辞去を余儀なくされる場面もあった。各府省では幹部から「あいさつぐらい、なぜ許されないのか」との不満も聞かれた。新政権と霞が関の「緊張関係」はのっけから高まりつつある。
組閣人事は必ずしも順調に進んだわけでない。15日夜には、厚生労働相と行政刷新担当相にそれぞれ起用する方針だった仙谷由人と長妻昭のポストが入れ替えられる急転劇があった。
「とにかく年金問題をやりたいんです」。鳩山から電話で行政刷新担当相を打診された長妻は、厚労相ポストに強いこだわりを見せた。2007年に「消えた年金」問題を暴露して政府、与党を窮地に追い込んだ自負は「税金の無駄遣い削減での手腕の発揮」を求める鳩山の言葉を寄せ付けなかった。
鳩山は既に厚労相ポストを告げていた仙谷との入れ替えを決断した。周辺からは、国家戦略担当相菅直人が権限ののりを超えて各府省に号令を出すような“暴走”を抑止するには「菅にも臆せず意見を言える仙谷の行政刷新担当相起用が得策」との声も届いていた。
鳩山に急きょ党本部に呼ばれた仙谷は「それなら消費者行政担当相も兼務させてほしい」と粘った。しかしこのポストは社民党党首福島瑞穂に伝達済みだった。「もう福島さんにあげちゃってます」。仙谷は応じるしかなかった。
党内では、衆院当選4回ながら重要閣僚に就いた“ミスター年金”に対して「長妻が精通しているのは年金問題だけじゃないか。医療、雇用など厚労行政全般の知識や実務能力は仙谷の方が上で、明らかにミスキャストだ」「ごね得なんてありなのか」との恨み節も漏れた。看板閣僚同士が緊密に連携できるかは見通せない。
「国土交通相をお願いします。外部には話さないでください」。国交相前原誠司は15日、鳩山からの要請を快諾した上で「人事の全体像はどうなってますか」と尋ねた。
前原の気掛かりは、5月の代表選で鳩山と争った外相岡田克也を支援した議員の処遇だった。鳩山が幹事長小沢一郎と相談しながら進めた人事で、旧態依然の「論功行賞」が鮮明になれば、失望を招くのは必至だ。
▽長期政権の布石か
結果的に、小沢と距離を置く前原、仙谷らは入閣したが、岡田支持の急先鋒だった元国対委員長野田佳彦の起用は見送られた。党内では「ポスト鳩山」と目される岡田を支持する勢力の弱体化を狙ったとの見方もある。
岡田は鳩山、小沢、菅、参院議員会長輿石東、国対委員長山岡賢次がメンバーとなる民主党首脳会議からも外される。外相起用が内定した今月初めには、周囲に「外遊が多くて鳩山のそばにいられなくなる」と、政権中枢から遠ざかることへの警戒感を隠さなかった。中堅議員は「鳩山―小沢コンビは、権力基盤を強め長期政権をもくろんでいる」と指摘した。
菅の立ち位置も微妙になってきた。政策決定の内閣一元化を目指す観点から、菅は党政調会長を兼務する方向だった。だが小沢に近い輿石は15日の党幹部会で「政調会長は議員立法の調整が仕事であって、政府の一員になるべきではない」と唐突に異議を唱え、党内に波紋を広げた。
15日夜、菅を中心とした議員グループの会合では「国家戦略担当相の権限がどんどん狭められ、菅は体よく祭り上げられるのではないか」との声が上がった。
衆院選を経て自らの支持議員グループを“膨張”させた小沢は16日午後、党本部に新人議員を招集し「選挙の次は選挙なんだ」と次期衆院選に向けての地盤強化を指示。特に比例復活組には「要は君たちは落選した。復活当選というのは党のおかげなんだ。だから、しっかり頑張らないといけない」とねじを巻いた。
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