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Dr.中川のがんから死生をみつめる:/23 民主党政権への期待

 この5年間、政府は毎年2200億円の社会保障費を削減してきました。その結果、現在の医療費の対国内総生産(GDP)比は、経済協力開発機構(OECD)諸国の中で22位、1人あたりの医療費は17位、人口10万人当たりの医師数は26位(OECD平均310人に対して206人)--という状況です。

 これらの数字は、先進7カ国ではすべて最下位です。ところが、公共事業への支出は逆にトップです。これまでの日本の政治は「命より道路を優先してきた」といえるかもしれません。医療崩壊が指摘されていますが、世界一高齢化した日本が、医療にお金をかけてこなかったのですから、当然の結果ともいえます。

 民主党は、マニフェスト(政権公約)の中で、医療に力を入れています。1・2兆円の予算を投入し、長期的には医療費をGDPの8・9%程度(現在は8・1%)に引き上げ、OECD諸国の平均を目指すとしています。また、大学医学部の定員を1・5倍にするほか、大学病院への資金援助を行うなど、医師不足の問題を解決しようとしており、大いに評価できます。

 第20回の本欄でも紹介しましたが、がん対策についても、これまで遅れていたがんの予防に力点をおくなど、優れた施策が並びます。乳がんや子宮頸(けい)がんをはじめ、有効性の高いがん検診の受診率を大幅に向上させる体制整備、子宮頸がんの原因となる「ヒトパピローマウイルス」の感染を予防するワクチン接種の推進、禁煙対策の徹底など、がんの予防対策をいっそう充実させるとしています。また、がん患者への最新情報の提供や相談支援体制などの整備を図り、がん登録の法制化も検討する、と明記しています。さらに、化学療法、放射線治療、病理などの専門医の養成を行うとしており、これに、緩和ケアの充実を加えれば、鬼に金棒です。

 16日、民主党の鳩山由紀夫代表が首相指名を受け、第93代の内閣総理大臣となります。このマニフェストを着実に実行し、「世界一のがん大国」でありながら遅れた面も多かった日本のがん対策を、よい方向にかじ取りしていただきたいと思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

毎日新聞 2009年9月15日 東京朝刊

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