きょうの社説 2009年9月28日

◎増える新規就農者 定着支援も一層強めたい
 石川県内の今年の新規就農者は、過去10年間の平均の倍以上となる68人が見込まれ るという。県は今年、従来の組織を大幅に改組した農業人材機構を設立する一方、就農希望者のために本格的な研修を行う「いしかわ耕稼塾」を開設したところである。新規就農者の増加は県の取り組みの成果ともいえ、歓迎すべきことであるが、最も重要なことは、意欲を持って農業に就いた人たちの自立と定着である。地域農業の担い手としてしっかり根をおろすよう、就農後もきめ細かい支援を行ってもらいたい。

 県は後継者不足がとりわけ深刻な能登地区での就農者を確保するため、地元の農業法人 などで作業を体験してもらう「農業インターンシップ事業」を2007年度から行っており、2年間の参加者14人のうち5人が定住を決めたという。いずれも県外出身者であり、能登の農業の支え役として成長することが期待される。

 ただ、定着には苦労もあり、農林水産省の調査では、認定就農者の就農5年以内の離農 率は、農家出身者で約6%、非農家出身者は約12%という状況である。認定就農者とは、事前に就農計画を策定し知事の認定を受けた積極的な人たちである。離農の大きな理由として▽農業以外の仕事をすることになった▽十分な収入を得られなかった―が挙げられる。

 新規就農者の定着をサポートするため県は今年度、技術職の県職員OBら約40人をチ ューター(個人相談員)に委嘱し、新規就農者の技術指導や悩み事相談に応じる制度をスタートさせた。

 また、輪島市は今年度6月補正予算で、市外から移住した新規就農世帯に対して、事業 開始助成金50万円に加え、月2万円の経営安定助成金を1年間支給する制度を設けた。県外の例では、山形県は認定就農者に5年間、営農費用の一部(年間36万円以内)を助成する事業を行っている。

 雇用情勢の悪化もあって農業志向が全国的に高まっているが、一過性の現象に終わるこ とがないよう、各自治体は新規就農者の定着を後押しする施策にさらに工夫を凝らしてもらいたい。

◎アフガニスタン和平会議 麻薬撲滅へ結束強化を
 アフガニスタンの和平に日本が主導的な役割を果たすことをめざし、政府は関係各国の 高級事務レベル協議を11月に東京で開催する方針である。治安対策や経済・人道復興支援の具体策を協議する予定であるが、アフガン安定化の鍵の一つは、反政府武装勢力タリバンの資金源である麻薬を撲滅するため、国際社会の結束を強化することである。

 国連薬物犯罪事務所によると、アフガンはアヘンの原料であるケシの最大産地で、世界 の生産量の9割を占める。反政府武装勢力が昨年、アヘンなどの取引で得た資金は約5億ドルに上る。アフガン当局と米軍の摘発でケシ栽培面積とアヘン生産は減少傾向を見せ始めたが、価格の高いヘロインの密造が急増しているという。

 アフガンから広がる麻薬汚染は世界中に深刻な影響を及ぼしている。ブッシュ前米政権 の単独行動主義を批判してきた上海協力機構が、オバマ政権のアフガン安定化策に協力姿勢をとるようになったのは、アフガンからの麻薬流入が中国、ロシアの重大な脅威になっているからでもある。

 また、米国と対立するイランの中心勢力イスラム教シーア派も元来、タリバンと敵対し ており、麻薬の密輸を防ぐため国境警備を強めている。アフガンを取り巻く関係各国は、麻薬阻止で利害が一致するのであり、その点での協力強化に異論はないはずだ。

 日本もそうした国際的包囲網づくりに協力し、水際対策を強める必要がある。実際、今 年に入り、ヘロインの精製に必要な無水酢酸という化学物質がアフガン向けの貨物から見つかり、押収される事件が名古屋港であった。アフガンには無水酢酸の製造施設がないため、調達先として日本が狙われているのである。

 鳩山政権が打ち切りの方針を出したインド洋での給油活動は、麻薬の密貿易防止も目的 の一つであることを認識したい。ケシ栽培がアフガンの農民の生活を支える現実も無視できず、代替作物の普及など農村経済の振興支援をさらに拡充することも欠かせない。日本の役割はそこにもある。