鳩山首相の外交初陣でしたが如何だったでしょうか。
本稿は前項に続き、報道の問題と鳩山内閣の安全保障について論じます。
―為政者としての立場―
民主党は先の総選挙の時あえて人権擁護法案や外国人地方参政権法案といった、国民生活にとって非常にデリケートな政策をマニュフェストからはずすと同時に、安全保障にかかわる重要な事案への対応もあいまいにしたまま、国民は民主党という選択をしました。
私達は民主党がこれまでの自民党政権が行ってきた安全保障に関する政策を民主党が基本的に継続することを確認していません。その中で浮上したのがこのインド洋に展開する多国籍軍への海上自衛隊の支援行動の継続案件です。
前回の法案の延長では民主党の反対で一旦インド洋から引き上げることになりました。現場では大変な失望と混乱がありました。小沢民主党が野党として、解散を迫る戦略を使用した国内の政局が、国際社会の協調体制にひびを入れたことは否めません。しかし今度は為政者としてこの問題にたいする答えをださなければならないのです。
―日米首脳会談―
国連総会の出席が鳩山政権の外交デビューとなりましたが、さてその成果は如何だったでしょうか。日米の首脳、外相がそれぞれ会談しましたが、安全保障についての言及はありませんでした。唯一核不拡散での共同歩調という発表はありましたが、デリケートな問題にはアメリカ側がむしろ踏み込まなかったという印象です。
前出のモレル報道官の発表は、海上自衛隊の補給継続を半ば「当たり前だ、同盟関係と政権交代とは関係ない」と言っています。そのメッセージをふまえて、オバマ大統領にすれば支援継続前提で、先の核不拡散の共同歩調を宣言しているともいえます。
―国内の報道は―
読売の報道は9日の記者会見も含めた内容ですが、米国のメッセージを受取り様によってはまったく逆に報道しているように思えます。
―報道されないアフガニスタン情勢―
アフガニスタン・パキスタン北方の国境付近は事実上無法地帯になっています。タリバンはこの地域を利用して武器、弾薬、食料を補給しています。またパキスタン北方のスワット渓谷はタリバンの隠れ家といわれ、戦士の育成、休息、補給を行なっているといわれています。北方地域への作戦にはNATOも部隊を派遣しており、スワット渓谷へは5月からパキスタン軍が制圧作戦を実施しています。
北方へ部隊を集中すれば、南方の治安が悪化するといった、いたちごっこが続いています。タリバンの犯行かどうか確認は出来ませんが、南方のハイウエイでは中国人技術者三人が誘拐され殺されるという事件も起きています。ですから増派論が出てくるわけです。
アフガニスタンへの増派をめぐってはアメリカ世論、議会とも大統領を必ずしも支持しているとはいえません。特に議会は増派に野党共和党が賛成し、おそらく与党民主党が反対にまわると予想され―下院では増派支持が13%しかないという調査結果もある―まことにいびつな現象を引き起こしています。
パキスタン国民も同じムスリムのタリバンには同情的で、パキスタン政府は今回のスワット渓谷への制圧作戦もアメリカから要請されてしぶしぶ同意したといいます。ましてやNATOにとっては911の延長線上にあるアフガン戦争に直接の利害はなく、むしろ核不拡散という安全保障上の一般民衆からは見えにくい観点からの部隊派遣ですから、EU各国の世論も当然に派遣反対なのです。
―アメリカの姿勢は一貫している―
ではオバマ大統領がなぜここまでアフガニスタンにこだわるのでしょうか?それはアフガニスタンの治安悪化が隣国パキスタン政府の弱体化につながり、そのパキスタンはイスラム国家唯一の核保有国だからです。もしこの核がタリバンもしくはアルカイダらイスラムテロ組織に渡ることは、アメリカの安全保障上許されることではなく、そのアメリカの同盟諸国にとっても同様だというのがアメリカ政府の一貫した姿勢なのです。
よってアメリカ政府もNATOもパキスタン政府も世論の支持を受けていないにもかかわらず、この戦争を継続し勝利なければならないと、オバマ大統領は増派を議会に要求し、NATO軍、パキスタン軍はその義務を果たし、我国にも支援の継続を依頼しているのではないでしょうか。
―それでも我国の事情だけで引き上げるのでしょうか―
八ツ場ダムの建設中止をめぐっての前原国土交通大臣の対応は非常にまずいと思います。特に「マニュフェストに書いてあるから」という理由で、最初に中止ありきで交渉にあたろうとした事は拙稚な手法だといわざるを得ません。
それでも国内問題であれば治権内でありますから、手立てのしようがありますが、外国が相手のしかも経済のような課題ではなく、安全保障上の問題で同様な手法を用いたら大変な問題に発展したでしょうが、鳩山首相も岡田外相も明言をさける―アメリカの配慮で―ということで乗り切りました。―パキスタンの外相は正式に支援継続を要請している―
今後、マニフェストや国内の世論などを理由に支援を打ち切るような事態になれば、同様に世論の不支持と戦いながら、それでも核不拡散に必要だと判断して戦っているアメリカとその同盟諸国は我国をどう評価するでしょうか。
―正確な報道が求められます―
政治問題、特に安全保障の問題は我国国民の関心ごとではありませんので、報道の量自体が少ないのは致し方ないにしても、その内容が不正確では問題があります。
先出のモレル報道官の発表に対する読売の報道を見ますと、あたかもアメリカ側が日本側に配慮しているかの印象を受けますが、16日の発表の英文をみる限り、そのようなことは一言も言っておりません。むしろ「同盟国として当然の責務」程度の印象を受けます。
国民はもし日本政府が給油支援を打ち切りにしても、報道を聞く限り当然と思うかもしれませんが、しかし実際は米国との関係に亀裂が入る可能性は否定できません。
なぜなら先にも述べた通り、アメリカのメッセージは「核不拡散のためにアフガン作戦を実行してきたし、今後も継続するので、今までの日本の貢献に感謝すると同時に、今後も貢献することを日本は承知している」ということです。そしてオバマ大統領と「核不拡散」で協力合意したのですから、給油については鳩山首相は了解済みと考えるのは当たり前でしょう。
外交交渉に政策的姿勢を持たず、その場しのぎで対処しますと、思わぬ齟齬をきたすことは歴史的に証明されている事実です。
本稿は前項に続き、報道の問題と鳩山内閣の安全保障について論じます。
9/15 MR. MORRELL: Well, listen. I -- let's take this separate and aside from the change of government that's under way in Japan for a moment, and just tell you that we, as a member of a coalition that's operating in Afghanistan; we, as an old ally of Japan's, believe that their contribution to the war on terror, to the world's efforts in Afghanistan is vitally important, and we would like to see them continue it.
It is a real benefit to our warfighters and thus it's of real benefit to the people of Afghanistan. I wouldn't read too much politically into this statement. I think I'm stating something that's rather obvious. They have made an enormous contribution, and we'd like to see them continue that contribution.
「よく聞いてもらいたいが、この私の発言は昨今、日本で発生した政権交替とはまったく別個のものとして考えてもらいたい。我々、米国はアフガニスタンにおける国際協力派遣部隊の一員として、また日本の古くからの同盟国として、テロとの戦いに協力している日本の貢献が、世界各国のアフガニスタンにおける平和努力にとって極めて重要であり、この日本の協力がこれからも継続するものと考えている。日本の貢献はアフガニスタンにおける戦闘員のためのみならず、アフガニスタン人民にとって真の利益になるものであり、私は敢えてこの発言に政治的な意味合いを持たせないが、どちらかと言うと極めて明白な事を述べていると思う。日本は今までに多大な貢献をしており、これからもこれが継続するものと期待している。」
(訳 岩間直彦)
―為政者としての立場―
民主党は先の総選挙の時あえて人権擁護法案や外国人地方参政権法案といった、国民生活にとって非常にデリケートな政策をマニュフェストからはずすと同時に、安全保障にかかわる重要な事案への対応もあいまいにしたまま、国民は民主党という選択をしました。
私達は民主党がこれまでの自民党政権が行ってきた安全保障に関する政策を民主党が基本的に継続することを確認していません。その中で浮上したのがこのインド洋に展開する多国籍軍への海上自衛隊の支援行動の継続案件です。
前回の法案の延長では民主党の反対で一旦インド洋から引き上げることになりました。現場では大変な失望と混乱がありました。小沢民主党が野党として、解散を迫る戦略を使用した国内の政局が、国際社会の協調体制にひびを入れたことは否めません。しかし今度は為政者としてこの問題にたいする答えをださなければならないのです。
―日米首脳会談―
国連総会の出席が鳩山政権の外交デビューとなりましたが、さてその成果は如何だったでしょうか。日米の首脳、外相がそれぞれ会談しましたが、安全保障についての言及はありませんでした。唯一核不拡散での共同歩調という発表はありましたが、デリケートな問題にはアメリカ側がむしろ踏み込まなかったという印象です。
前出のモレル報道官の発表は、海上自衛隊の補給継続を半ば「当たり前だ、同盟関係と政権交代とは関係ない」と言っています。そのメッセージをふまえて、オバマ大統領にすれば支援継続前提で、先の核不拡散の共同歩調を宣言しているともいえます。
―国内の報道は―
読売報道
【ワシントン=小川聡】米国防総省のモレル報道官は15日午後(日本時間16日未明)の記者会見で、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を来年1月以降は継続しないとする民主党の方針について、「古くからの日本の同盟国として、日本が給油活動を継続するのを見たい」としたうえで、「私は(日本に)要求はしていない。ゲーツ国防長官が『日本に給油活動の継続を要求してくれ』と言ったとは、聞いていない」と述べた。
報道官は9日の記者会見で、給油活動の継続について、「強く促したい」との表現で「要請」していた。しかし、日本側から「日本が主体的に判断していく」(藤崎一郎駐米大使)などと反発されたことを受け、修正した格好だ。報道官はまた、「日本政府にとって、内政面で考慮すべき問題があるのは当然で、日本政府はそれらに対処しなければならない」と述べ、日本の判断を尊重する考えも示した。
読売の報道は9日の記者会見も含めた内容ですが、米国のメッセージを受取り様によってはまったく逆に報道しているように思えます。
―報道されないアフガニスタン情勢―
アフガニスタン・パキスタン北方の国境付近は事実上無法地帯になっています。タリバンはこの地域を利用して武器、弾薬、食料を補給しています。またパキスタン北方のスワット渓谷はタリバンの隠れ家といわれ、戦士の育成、休息、補給を行なっているといわれています。北方地域への作戦にはNATOも部隊を派遣しており、スワット渓谷へは5月からパキスタン軍が制圧作戦を実施しています。
北方へ部隊を集中すれば、南方の治安が悪化するといった、いたちごっこが続いています。タリバンの犯行かどうか確認は出来ませんが、南方のハイウエイでは中国人技術者三人が誘拐され殺されるという事件も起きています。ですから増派論が出てくるわけです。
アフガニスタンへの増派をめぐってはアメリカ世論、議会とも大統領を必ずしも支持しているとはいえません。特に議会は増派に野党共和党が賛成し、おそらく与党民主党が反対にまわると予想され―下院では増派支持が13%しかないという調査結果もある―まことにいびつな現象を引き起こしています。
パキスタン国民も同じムスリムのタリバンには同情的で、パキスタン政府は今回のスワット渓谷への制圧作戦もアメリカから要請されてしぶしぶ同意したといいます。ましてやNATOにとっては911の延長線上にあるアフガン戦争に直接の利害はなく、むしろ核不拡散という安全保障上の一般民衆からは見えにくい観点からの部隊派遣ですから、EU各国の世論も当然に派遣反対なのです。
―アメリカの姿勢は一貫している―
ではオバマ大統領がなぜここまでアフガニスタンにこだわるのでしょうか?それはアフガニスタンの治安悪化が隣国パキスタン政府の弱体化につながり、そのパキスタンはイスラム国家唯一の核保有国だからです。もしこの核がタリバンもしくはアルカイダらイスラムテロ組織に渡ることは、アメリカの安全保障上許されることではなく、そのアメリカの同盟諸国にとっても同様だというのがアメリカ政府の一貫した姿勢なのです。
よってアメリカ政府もNATOもパキスタン政府も世論の支持を受けていないにもかかわらず、この戦争を継続し勝利なければならないと、オバマ大統領は増派を議会に要求し、NATO軍、パキスタン軍はその義務を果たし、我国にも支援の継続を依頼しているのではないでしょうか。
―それでも我国の事情だけで引き上げるのでしょうか―
八ツ場ダムの建設中止をめぐっての前原国土交通大臣の対応は非常にまずいと思います。特に「マニュフェストに書いてあるから」という理由で、最初に中止ありきで交渉にあたろうとした事は拙稚な手法だといわざるを得ません。
それでも国内問題であれば治権内でありますから、手立てのしようがありますが、外国が相手のしかも経済のような課題ではなく、安全保障上の問題で同様な手法を用いたら大変な問題に発展したでしょうが、鳩山首相も岡田外相も明言をさける―アメリカの配慮で―ということで乗り切りました。―パキスタンの外相は正式に支援継続を要請している―
今後、マニフェストや国内の世論などを理由に支援を打ち切るような事態になれば、同様に世論の不支持と戦いながら、それでも核不拡散に必要だと判断して戦っているアメリカとその同盟諸国は我国をどう評価するでしょうか。
―正確な報道が求められます―
政治問題、特に安全保障の問題は我国国民の関心ごとではありませんので、報道の量自体が少ないのは致し方ないにしても、その内容が不正確では問題があります。
先出のモレル報道官の発表に対する読売の報道を見ますと、あたかもアメリカ側が日本側に配慮しているかの印象を受けますが、16日の発表の英文をみる限り、そのようなことは一言も言っておりません。むしろ「同盟国として当然の責務」程度の印象を受けます。
国民はもし日本政府が給油支援を打ち切りにしても、報道を聞く限り当然と思うかもしれませんが、しかし実際は米国との関係に亀裂が入る可能性は否定できません。
なぜなら先にも述べた通り、アメリカのメッセージは「核不拡散のためにアフガン作戦を実行してきたし、今後も継続するので、今までの日本の貢献に感謝すると同時に、今後も貢献することを日本は承知している」ということです。そしてオバマ大統領と「核不拡散」で協力合意したのですから、給油については鳩山首相は了解済みと考えるのは当たり前でしょう。
外交交渉に政策的姿勢を持たず、その場しのぎで対処しますと、思わぬ齟齬をきたすことは歴史的に証明されている事実です。
>八ツ場ダムの建設中止をめぐっての前原国土交通大臣の対応は非常にまずいと思います。
民主党政権の大規模土木公共工事の見直しは2005年の「コンクリートから人へ」と「マニュフェスト」に書かれた時からこうなることは、予め十分分かっていたことだ。
民主党が政権を獲った後に政界・経済界・地方・マスコミが突然騒ぎ始めるのはチセツだと言わざるを得ない。
前原誠司氏や岡田克也氏のような政治的な原理主義者が、自身の今後の政治的なキャリア形成を考えた時に"難しい課題"に敢然と挑んで行くのは見ていて、清清しい思い、すらある。
2005年の郵政選挙で総選挙が小選挙区制で投票数が数%スイングすることで議席数が100単位で変化し、政府を構成する政党が変化することを私たちは理解することができた。
2007年参議院選挙において地方の1人区での民主党圧勝により、参議院では与野党が逆転した。
戦争以外で平時において考えうる最大の変化である政権交代を経た今、私たち日本人は、もしかすれば明治維新・太平洋戦争の敗戦の1868年・1945年にいると言えるだろう。
"八ツ場ダムの建設中止"は今後、私たちに訪れる大変化の前触れに過ぎないに違いない。