(cache) シロバイ

シロバイ
Symplocos lancifolia
葉だけでも同定できるようになろう

満開のシロバイ（中央）。これでも花の付きは良い方である。
奈良県　2009年９月上旬

　ハイノキ科ハイノキ属の常緑小高木～高木。樹高10ｍに達する。低地から山地にかけての二次林、天然林などに自生する。分布：本州（近畿地方以西）、四国、九州、沖縄。
　　奈良県下の生育地では、やや湿度の高い谷沿いの樹林内で、より多くの個体が認められる。

・葉について
常緑の葉は互生し、有毛の短い柄がある。薄い革質で卵形～長楕円形を成し、葉先は尾状になりやすい。小型の葉を除き、葉の側縁は大きく波打つことが多く、およそ全周に低い鋸歯をそなえる。表裏ともに光沢があり、葉表は濃緑色を呈すことが多いが、日当たりの良い乾燥地等に生育するものでは黄緑色を呈すことも少なくない。
　子葉は線形でほぼ無毛。稚樹の本葉には鋭い鋸歯がある。また、表裏主脈上から葉の側縁まで各部に短毛をそなえており、特に主脈上と葉の側縁部にて密。
　若木や成木では、表側主脈上に微細な短毛があり、裏側主脈上には伏毛が疎にある。ただし、徒長枝の葉では、その他の部位にも肉眼的な短毛が現れることがある（奈良県下での観察）。

　光沢のあるクロバイ葉表。主脈上に微細な毛がある。黄砂が主脈周辺に付着し汚れている。
　　　

葉裏にも光沢がある。葉中央付近から基部にかけての主脈上に微細な毛がある。

葉の変異と鋸歯先端部（右）．

左．日向・乾燥地の葉の様子。　右．日陰の葉の様子。

左．野生のシロバイ稚樹　　　右．シロバイ稚樹の葉表。表裏主脈上から葉側縁まで各部に短毛をそなえ、鋸歯は粗い。なお、極初期のクロバイ稚樹（大阪府産）には、本葉の側縁や葉柄に微細な毛が僅かに認められるが、主脈上には認められない。　画像は左右ともに奈良県　2009年３月中旬

発芽後２年を経過している野生の稚樹。主脈が隆起すること、短毛が表裏主脈上や葉の側縁付近にて密であることから、クロバイの稚樹とは容易に区別できる。

成木（樹高約７ｍ）の葉表主脈上に生える毛の様子。

シロバイとクロバイの葉の比較

シロバイとクロバイの葉を比較すると
　・シロバイの葉裏には艶がある。
　・シロバイの葉側縁は波打ちやすい（波打たないこともある）。
　・シロバイ表裏主脈上および葉柄部は有毛。クロバイは無毛。ただし、クロバイ稚樹のごく初期の葉には短毛が疎ら（まばら）にある。
　・シロバイの表側主脈は普通隆起する。
　・主脈から分岐する側脈の角度が異なる。
　・シロバイの葉柄は短い。クロバイは長い。
　・シロバイは薄い革質。クロバイはやや厚い革質。
などの差異がある。

・樹皮について
　樹皮は淡黄褐色～淡褐色、ときに灰白色。若枝では褐色の伏毛・短毛をそなえる。淡黄白色の皮目が散在し、生育するにつれて縦列して不明瞭な模様となる。また、大径木では表面の所々に一文字形の凹部が生じることがある。
　稀に樹皮が矩形（くけい）に裂けることがあり、一方で瘡蓋（かさぶた）状の樹皮剥落も認められる。剥落痕が窪みとなって残るのは、クロバイに似る。

左．若枝（直径1.9㎜付近）に短毛が多く、さらに伏毛もみられる。葉柄や隆起した主脈上にも短毛がある。　　右．徒長枝（直径３㎜付近）に現れた、より肉眼的な伏毛。

左．直径８mm付近の樹皮の様子。　中．周囲長23㎝付近の様子。クロバイに似た剥離痕が散在する。　右．周囲長45㎝付近の幹の様子。シロバイらしい色調である。　

左．周囲長49㎝付近の樹皮の様子。大径になるにつれて一文字形の凹部を生じる個体が多くなる。無論、人為によるものではない（観察地・奈良県）。黄白色の皮目が縦列して皺のようになる。　
右．樹皮が灰白色を呈す個体。周囲長27㎝付近の様子

・花、花序について
　花は白色で直径５㎜内外、総状花序に複数咲く。雄しべ28本前後。花期での観察では、花序の長さは25㎜前後までであったが、花期以降も伸長するようである。また、淡褐色の短毛が密生する。

　左右共にシロバイの花　奈良県　２００９年９月上旬

左．花と若い果実が同時期にみられる個体もある（画像は花蕾の時期のもの）。奈良県北部２００９年８月中旬　
右．３月中旬には、肥大途中の若い果実から既に熟したものまで幅広くみられた。奈良県　２００９年３月中旬

・果実・種子について
果実は3.7～7.5mmの球形～やや扁平な卵形。若い果実の表面は黄緑色だが、紫色を経てやがて黒色になる（花序は１～４㎝前後）。種子は2.8～4.5mm。表面は固く褐色～黒褐色を呈しており、浅く不明瞭な条溝がある。

↑右．果実　　左．種子　（スケール１mm）

左．スギ、モミ、イヌシデ、アサダなどの大木が茂る林分の低・中層にみられるシロバイ群集。
右．葉の側縁が波打ち、独特の陰影を付けることが多い。左右共に奈良県　2009年３月中旬

　

・大阪府では・・・
　大阪府野生生物目録（大阪府 2000）では、本種の記載項目自体設けられていない。しかし、隣県の奈良県では、いくつかの社叢とその周辺で生育が認められており、府下にも産する可能性が皆無とはいえない。
　ただ、近年、庭木としての流通が盛んなことから、生育状況によっては植栽株から逸出した可能性も疑われることになろう。

余談のだん・・・以前に紹介したクロバイの特徴をしっかりつかんでいれば、たとえシロバイという樹木を知らなくても　シロバイを前にして　
「　この木はクロバイではない　」
と断言できるようになります。それほど両種の形質には違いがあります。カンザブロウノキやクロキも同じことですので、必要以上に難しく考える必要はありません。
　さて、今回は大阪でシロバイの野生の姿を写真におさめることができませんでした。シロバイの生育していそうな環境には、大抵ヒサカキやアオキが茂っていて、シロバイの入り込む余地が残されていないようにみえてしまいます。私の目の届く範囲に生えていれば、必ず気付いているはずですが、府下で野生のものを一度も目にした記憶がないのです。
　ただそれでも、植物園や公園に名札をぶら下げて植えられているものを撮影するなんて嫌でしたから、奈良県下の生育地まで足を運ぶことにしました。昔、散々シロバイを観察した場所でしたので、取材自体は楽で助かりました。

参考文献
大阪府環境農林水産部緑の環境整備室 2000．大阪府野生生物目録：261．

２００９．９．１１　記　conservation7area

関連文－クロバイ

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